女の子に腹パンをするのはやめましょう。子宮が揺れるそうなので   作:あああああああ

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女の子に腹パンをするのはやめましょう。子宮が揺れるそうです。

昔から真似をするのが得意だった。完全な模倣と言える猿真似。

 

初めに違和感に気が付いたのは習い事でやっていたバスケとプール。プロのコーチが行った動作を一回で真似した。周囲はひどく驚いていた。コーチには負けたが、自分よりも年上の子には余裕で勝つことができた。3回目でプロの選手の動画を見た俺はコーチに土を付けた。フィジカルの問題がなければ勝てていただろう。決定打は、ピアノ教室。プロのピアニストの技能を真似した。心を打つと言われた芸術家の業をビデオテープのように再現する。痛いほど沈黙が支配し、通っていた子が止めていった。

 

素晴らしい技能なのは当たり前だ。プロの技を模倣しているのだから。それは当たり前である。プロの技法を真似ればあとはそれらしく見える。

 

俺にとってそれは当たり前だった。

 

だけど、俺を怪物のように見る大人が自分が特殊な人間なのだと悟らせた。

 

それでも俺は気にしなかった。誰かの真似をすれば称賛されて、誰かに褒められる。親が褒めてくれる、認めてくれる、それだけで満たされていた。

 

だけど………ピアノのコンクールで本物を見た。演奏技術では負けていない。しかし、完成度では負けていた。その少年周防政近にはあるが、俺には不足しているものがあった。それは中身だ。

 

俺の演奏には技術がある。しかし、そこに中身はなく賞賛される対象は俺ではなく、模倣した誰かの虚像だ。こんなに虚しいことはないだろう。それに気が付いてしまった。

 

空っぽ。伽藍洞。

 

しかし、どうしようもなくそこに『俺』がない。

 

『素晴らしい。お前を生んでよかった』

 

親からの承認。耳にタコできるほど聞いた呪い。呪いだと気が付いたのは、最近になってからだが。言われるがままに生きてきたんだ。求められたことを求められたようにこなすだけで進む。そのために模倣した。

 

その結果………最終的に残ったのは空っぽなだけの自分。

 

特別になりたかった。だけど、何もかも中途半端で、結局自分すら表現できずにひたすら自己嫌悪を抱える毎日。大嫌いな自分を俺が一番許せなくて、結局俺がやってるのは、特別な誰かの模倣。みんなが褒め称えるのは、俺ではなく模倣した誰かの技能。

 

俺自身はどこにもいなくて誰の目にも映ってない。

 

だから、それを指摘された時沸点を飛び越えてしまった。

 

『かさねっちは、空っぽだね』

 

中学3年生の夏。同級生の女子生徒、宮前乃々亜に言われた言葉だ。当時は色々と重なって不安定だったのもあるが、それでも一番は俺のトラウマを抉りに来たこのサイコパスが悪い。

 

問答は躱したはずだが覚えていない。

 

気が付けば、本気の腹パンを繰り出していた。中学生とはいえ、俺と乃々亜では比べるまでもなく俺の方が力が強い。その場に蹲った彼女に慌てて謝罪しようとして膝を折ると、恍惚とした声が聞こえた。

 

「やばぁ、子宮震えちゃった」

 

ドン引きだった。俺は聞かなかったことにして保健室に乃々亜を連れて行き、逃げようとしたのが殴ったことを盾に俺に残るように告げた。

 

「………グラスに水を入れて、音を出すやつあるじゃん?」

 

「グラスハープか?」

 

「そうそれ。あれさぁ、同じ形のグラスに、同じ量の水を入れておくと共鳴するんだよね~」

 

「……何の話だ?」

 

流石に話が飛び過ぎていて意図が読めず、首を傾げる。そんな俺を見るでもなく、乃々亜は淡々と続けた。

 

「アタシのグラスはさ。とんでもなく分厚くて、すっごくいびつな形をしてるんだよ」

 

「………」

 

そこでようやく乃々亜の言いたいことが分かり、俺は目を細めた。

 

「想像力も共感力もない人外だって自己紹介?」

 

「うわぁ、そこまで言うんだ」

 

「事実だろ。教室でDキスしてた変態がまさか生粋のサイコパスとは。忠告して損したな」

 

過去、男をとっかえひっかえし、教室内でDキスをしていた女子生徒がおり自暴自棄になってもあまり好転しないと忠告したのだが、無だったようだ。

 

「いいね、やっぱり………周りのグラスがどれだけ震えようが、アタシのグラスはビクともしない。これでもいろいろ試したんだけどね?でもダメだったんだぁ……どんだけグラスに衝撃を加えても……すぐ目の前で他のグラスが砕け散ったって、アタシの水面が波打つことはなかった。でも、かさねっちに殴られて揺れたんだ!」

 

「ええ………」

 

「すごいよ!さやっち以外ではいなかったアタシを揺らせる人間なんだ」

 

直後、右腕にするりと腕が巻き付き、ぎょっとして振り返る。すると、息が掛かりそうな距離に愉しそうな表情をした乃々亜の顔があって、再度ぎょっとした。反射的にのけ反るも、腕をガッチリ抱かれているせいであまり意味はない。目の前には、芸能界でもなかなか見ないレベルの美少女の顔。右腕はしっかりとその美少女に搦めとられており、二の腕辺りには胸の感触までしっかりと伝わってくる。だというのに………俺の心臓を跳ね上げたのは青少年の健全な衝動ではなく、生物としての純粋な危機感だった。

 

「ッ!」

 

とびっきりの美少女に腕を抱かれているというのに、気分はさながら猛獣に組み付かれた小市民だった。体が熱くなるどころか、スーッと冷たくなっていく。そのくせ背中の汗がすごい。

 

「いい……うん、いいね」

 

慄く獲物を前に、乃々亜は瞳を爛々と輝かせ、チロリと舌で唇をなぞった。

 

「私と付き合ってよ」

 

「嫌だが?」

 

「大丈夫、痛くしないから」

 

「何する気なんだよ!」

 

俺は脱兎のごとく保健室を後にした。

 

 

 

 

音楽室から聴こえるピアノの生音。一人の少年が、置かれているピアノを弾いているのだ。観客は一人の少女。静かな音が始まり、軽やかに音と音が衝突し、やがて完成された音が溢れ出し、鼓膜を叩いてくる。

 

100人が100人素晴らしいと言う技量。もはやプロ並みだ。しかし熱も色も意思すらない無機質な演奏だ。曲が終わり遠山化札(かさね)が指を置いていた鍵盤を撫でる。昨日見たピアニストが行っていた癖だ。

 

「―――流石だねー、あたし聞き惚れちゃったよ」

 

化札は、基本的にピアノを弾かない。意味のない作業と位置付けるから。だが、目の前の少女は誰の真似をしても化札が弾いたとわかってくれるから、だから化札はピアノを弾く。

 

「依礼奈先輩、折り入ってご相談があるのですが」

 

彼が依礼奈を呼び出してピアノを弾くのは、要望された時と相談をする時だけだ。だから、依礼奈もそれはわかっていた。

 

「何かな?迷える後輩よ」

 

「やばい女に目を付けられてるので、しばらくの間彼女役をしてくれませんか」

 

「——————————え?」

 

「副会長である先輩にこんなこと言うのもあれですけど、マジでやばいんです。こんなこと頼めるの先輩しかいないんです!」

 

「え?え?はい?」

 

「依礼奈先輩!お願いします!俺には先輩しかいないんです!依礼奈先輩!依礼奈先輩!」

 

頬を赤く染めて半分パニック気味に目を回している先輩に、化札は追い打ちを掛けた。

 

「もちろん!お礼はしますし、俺は恋愛感情抜きであれば先輩のことを誰よりも慕っている自信があります!副会長である先輩の格を落とさない相応しい人間であると証明します。だからお願いします」

 

「あ、え?ッ!?」

 

先輩の手を取って懇願する。先輩から脳を痺れさせ、蕩けさせるほどに甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐってくるが本能と理性を恐怖がねじ伏せた。

 

俺と付き合ってください(あのクソ金髪女から助けてください)!」

 

依礼奈は後にこう語る。人生最初の告白がこれって本当に追い詰められてたんだねと。化札は懺悔する。せめて本音と建て前を逆にすべきでしたと。

 

 

 

 

 

 

 

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