仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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本日は昨日更新できなかったお詫びと、実験的に二話更新します。アトランタの激おこモード、可愛いですよねヾ(*´∀`*)ノ


第122話「提督の推理と、黒幕」

――同時刻、舞台裏 中央指令室

 

Starring:提督

 

 さて、ここから先は俺のお仕事だ。下手をすると、いや下手をしなくても最大の大勝負をしなければならない。

 

「これから、俺がいいと言うまで全員の退出を命ずる」

 

 突然の宣言に、皆顔を見合わせている。俺もいきなりそんなことを言われたら戸惑うと思うが。

 

「大佐、それはどういうことですか?」

 

 陸戦隊の沢田大尉が、早速俺の意図を尋ねて来る。承服できないと言う感情を隠す気はない様子。

 

「やばい交渉をするんだよ。俺に付き合うと出世に響くぞ?」

 

 十分な脅しになるだろうと発した一言だった。それなのに、指令室のスタッフたちは無言でそれぞれの任務に向かい、誰一人従わない。

 

「出世なんてここに来た時点で望めませんよ。軍縮が待ってるから終戦後はどの道クビです。この島ならくいっぱぐれがない。せいぜいあなたや艦娘たちと仲良くしておきますよ」

 

 俺は話にならないと首を振る。

 

「あのな、これから話すのは海軍の大物だ。下手をすると命を狙われるかもしれんのだぞ?」

 

 だが抗弁空しく、下士官たちがそれを一笑に付す。コンソールに張り付いたままで。

 

「ドルオタを舐めんでください。那珂ちゃんのファーストライブを見るまで死ねませんよ」

「居心地良いんですよね。丹賑島(ここ)。内地に戻ったら翔鶴さんのお茶会にお呼ばれできませんし」

「俺は帰るつもりだけど、艦娘を見捨てるかどうかは別問題ですよ」

 

 あー分かった。理解した。基地の職員たちも艦娘たちと打ち解けてきたと思ってたが、永住を考える奴がここまでいたとは。

 

「司令、あんたと艦娘たちの青春劇みたいなやりとりは、ここでみんな聞いてるんですよ。小官たちはもう外野じゃないんです」

 

 沢田大尉の言葉に、全員が頷いた。目を合わせることはなく、それぞれが機材に向かって最善を尽くしている。しかし「青春劇」とはな。そう言う風にみられてたのね、俺たち。

 

「了解だ。余計なおせっかいを謝罪しよう。大淀、呉の艦政本部に繋いでくれ。急用だとな」

「えっ!」

 

 彼女が戸惑うのも無理はない。艦政本部は、置いて兵器の調達や予算を握る、いわば中枢だ。これから俺は、そこに喧嘩を売る。しかし一介の艦娘である大淀では、取り次ぐのは難しいようだ。電話の向こうの秘書官は、会議がどうとか言って、頑として繋ごうとしない。それは当然のことではあるのだが、今回は通じない。押し通させてもらう。

 

「通話を回してくれ」

 

 それだけ言って、俺は受話器を取る。一世一代の大勝負だ。

 

丹賑(ニニギ)島司令の津田大佐だ。いいから本部長の久我大佐を出せ。これ以上渋るなら、今までのことを全部ぶちまけるぞと言ってやれ」

 

 海軍において、電話を取るのは、その場で一番階級の低い者と決まっている。そんな下位の士官が一艦隊の指令から恫喝されたら震えあがることだろう。結局彼は、取り次ぐことにしたようだ。

 

不躾(ぶしつけ)だね』

 

 取り次がれた久我本部長は、不快そうにそれだけ言った。不機嫌さの中に、自分が断じて有利であると言う、あざけりが見て取れた。

 怜悧(れいり)と言う形容詞は陳腐かもしれないが、いかにも隙の無さそうな、覇気と自信にあふれた青年だった。俺より年下だから、彼には出世競争を勝ち抜いた者特有のオーラがある。

 そして俺は、こういうタイプが嫌いだ。

 

 艦政本部は、艦艇の建造費や諸々の資金を握っている。艦娘の存在があり、裏方に回った感があるが、それでも下手な将官を敵に回すよりも厄介だ。

 

「挨拶は良い。今すぐうちの艦隊への攻撃を止めろ」

 

 その場にいた全員が驚愕の表情を浮かべた事だろう。もちろん久我本人も。

 

「聞こえなかったか? あんたなら南洋艦隊の増援を止められるだろ」

 

 誰かが、小さな悲鳴を上げた。

 

「提督! いくら何でも!」

 

 悪いが、大淀の言葉を手で制して遮る。

 

『君は自分が何を言っているのか分かっているのかね?』

「もちろんだとも。聞こえなかったか? 瑞鶴たちを攻撃中の深海棲艦を下げろ」

 

 通信の向こうで、久我は俺を値踏みしているだろう。そしてこいつが、俺の行動を理解する日は、恐らく永遠に来ない。

 

『気でも触れたかね?』

「いいや、いたって冷静だ。軍事衛星へのアクセス権は、あんたも持ってるだろ? 監視だけのつもりが、アオ――深海大使が無防備な状態で出航したのを見て、つい欲が出た。南洋艦隊に情報を流せば、手を汚すことなく停戦交渉をフイにできる」

『それは、君の憶測だろう?』

 

 そう、これは憶測に過ぎない。証拠も全部状況証拠だ。しかし、神威たちの出航は思い付きで行われたことで、泊地の艦娘にすら周知されていない。南洋艦隊に情報をリークできるのは海軍の中枢で、それをやる動機があるのは、停戦交渉を嫌がる鎮守府解体派で、その事実上のまとめ役が、こいつ、久我広路(こうじ)大佐である。

 

「俺はあんたに頼んでるんじゃない。命令しているんだ」

「ほう?」

 

 嘲りが伝わってくる。彼の中では、俺は哀れな負け犬なのだろう。だか窮鼠(きゅうそ)猫を噛むだ。俺は回線をもうひとつ繋げた。繋がったのは、出撃準備が完了したであろう埠頭である。

 

「赤城、やりとりは聞いているな。出航済みの艦隊を率いて、呉に向かわせろ」

『なっ!』

 

 久我大佐の余裕が、初めて崩れた。

 

『提督、やっちゃっていいんですね?』

 

 鬱憤をため込んでいたのだろう。赤城の声色は嬉々としている。足柄とか神通とか、ノリノリなんだろうな。

 

「加賀も、久しぶりの一航戦で暴れてこい」

『ええ、少々大暴れをさせてもらおうかしら』

 

 加賀は画面の向こうで頷く。丹賑島一航戦復活ってわけだ。本当に暴れられたら困るんだがな。

 

「艦娘相撃つってな。ここで騒ぎが大きくしたら、おたくの利敵行為が白日の下にさらされるぞ?」

『そんなことをしてみろ。貴官は反逆罪だぞ!?』

「だろうな。だがあんたに俺と相打ちになる度胸はないはずだ。もう一度言う、南洋艦隊を下げろ。大規模な増援が来るとかなんとか言えば、あいつらは引き返すはずだ」

 

 化物でも見るような久我の目が、妙に痛快だった。

 久我は大きくため息をつき、頭に手をやった。そして、言ってはいけない事を口にした。

 

『〔赤城〕だろうと〔大和〕だろうと、あれ(・・)らはかつての日本人が爪に火を点す思いで建造したものだ。それをお人形扱い(・・・・・)で私物化とは、狂気の沙汰とは思わんか?』

 

 指令室が殺気に包まれた。回線越しの発言でなければ手を上げる者もいたかもしれない。と言うか、俺もぶん殴っていた。

 

「久我大佐、それは本気で言っているのか? あんたも船乗りだろう? フネの気持ちが分からないのか? 彼女たちは――」

『よしてくれ給え。君は道具を使うのではなく、道具に使われている。私はそう思うがね』

 

 認めたくないが、彼が言っている事は一面では正しい。艦娘と言う未知の存在に、安全保障を任せる。そして現場の人間が彼女達に入れ込んでいる。それは危険なことだ。ただし、それは艦娘を知れば霧散する類の誤解だと思っていた。

 

『人間、艦娘、深海棲艦は三者のバランスを取りながら併存すればいい。そうすれば内部からとって代わられることもないし、外部から蹂躙させることもない』

「それでは、戦争が長引くぞ。あんたのような数字遊びで食ってる人間は、好都合かも知れんがな」

 

 久我大佐の眉間がぴくりと動く。どうやら前線に出ていない、というのは彼なりのコンプレックスのようだ。ただ大和と違うのは、仲間の役に立てない事ではなく、虚栄心の問題だろうが。

 

『そもそも、大言壮語の割に、米国に歯が立たなかった存在だ。そんなもの(・・)に国防は任せられない。艦娘の指揮は、人間が執るべきだ』

 

 今、この男は言ってはならないことを言った。彼女たちの尊厳を踏みにじった。俺が怒りをぶつけようとした瞬間。

 

ふざけるな!!(Screw you!!)

 

 怒声は全艦隊と、ついでに久我の耳をふさがせた。

 スクリーンには、鬼の形相ので怒鳴り声をあげる艦娘がいた。それは、怒りをあらわにした戦艦アイオワだった。普段の彼女たちから、想像もできない激情をまとい、アイオワは叫ぶ。

 

『戦場も知らねぇ童貞(バー)野郎に日本海軍(あいつら)の何が分かるんだよ!』

 

 普段感情を露わにしないアトランタが、激高した。スラング交じりの言葉をぶつける。

 久我は驚愕し、ポーカーフェイスを装っているのが俺でも分かった。それは潮気の付いた船乗りと、共に生きるフネの叫びだった。

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