あいあむちょび髭、画家を目指す 作:ジャーマンポテトin納豆
1935年。
避けられるならば避けるべき、将来の大戦争を前に我が第二の祖国はあらゆるリソースを戦争準備に割いていた。
軍備計画、経済復興計画、インフラ計画、工業計画などなど。
その中の計画の一つに、食料自給率の大幅な向上があった。
「食料自給率は高くても90%が良いところ、か」
「フランスが我々側に付いていれば、小麦に始まりあらゆる食料を輸入することも出来たのですが、なんせフランスですからね。信用出来ない」
「奴らに期待するのは無駄だ。寧ろ我々がソ連とやり合っている背後で準備運動をしかねん愚か者達だ」
ドイツの食料自給率はだいたい80〜90%と言ったところであり、将来的な事を考えると高いとは言えない。
特に同盟を結びたいと考えている国々の食料自給率も考えると、これは絶対に向上させなければならない。
特に北欧諸国なんかは寒冷地帯が多く、そもそも耕作適地が少ない。開戦となった場合、彼らを飢えさせる訳にもいかないから輸出したりする訳だ。そうなった場合、味方を食わせる為に我が国が餓える、なんて事になったら本末転倒だ。
そうならない為にも食料自給率の大幅向上は必須課題なのだ。
豊かな穀倉地帯が広がるフランスは現在でも仮想敵国であり、現状輸出に関する交渉は進めているが未だ纏まっていない。と言うよりかなり足元を見てきているのか、かなり吹っ掛けられている。
ヨーロッパで他に穀倉地帯と言えば代表的なのはウクライナだろう。しかしこちらはソ連領で小麦の輸入は望めない。しかも現在ウクライナ国内はホロドモールにより飢餓状態。正しくは輸入出来なくは無いが今後を考えると占領統治やソ連にプロパガンダに利用される恐れがある為輸入が出来ない、である。
肥沃な三日月地帯の方も生産量の関係や輸出先が既にあるとかで現状は期待出来ない。
オーストリア、ハンガリー、ポーランドあたりからの輸入なども見込めるが、開戦となったらどこの国も前線国家になる。
となれば人手不足や畑の戦場化などで生産量低下は必須となるだろう。
だからこそ自国内でも十分に賄いつつ、前線に送り込めるだけの生産量を今から確保しておかねばならないのである。
「食糧省、残り五年でどれほどの向上が見込めるか?」
「資料の13ページ目をご覧ください。現在可能な限りの耕作地開拓を行っておりますが、農業従事者の人手不足など様々な要因から中々上手く進んでおりません」
「我が国の耕作適地はざっと国土の50%程度を見込めますが、現状全てを活用出来る訳ではありません」
「理由は?」
「マンパワーが足りないのです。我が国の農業は機械化が進んでいる最中ですが、全く足りません。これに工業の方に人手が流れている事もあり、余計に拍車が掛かっているものと思われます」
「マンパワーか……」
人的資源は無限のように見えて、有限だ。
工業に人手が流れ、本来であれば農業従事者となる人間までもが次々に都市部や工業地帯に移ってきてしまっている。
自由民主主義である以上、独裁国家や共産主義のように国があっちへ行けとか、土地に縛り付けるとかが出来ない。悩ましいことだ。
我が国の農業適地はだいたい四つに分けられる。
・北部
寒冷とまでは行かないまでも、夏でも冷涼な気候であり、土壌も砂地や痩せていたりする。
主な作物はそう言った悪条件に強いライ麦、ジャガイモとなる。
これに加えて牧草地が広がる為、これを利用した酪農が盛んに行われている。
・中部
国内では最も豊かで肥沃。
小麦やテンサイなどの栽培に向いている。豚や肉牛と言った家畜の飼育も行われている。
・南部
アルプス山脈があり、標高が高く斜面や山岳地帯が多い地形。
基本的に農作より牧草や飼料の栽培に適しており、これを利用した酪農、肉用牛の生産が主。
・東部
他地域に比べて平坦で広大な地形が広がる。
北部から東部に掛けての北ドイツ平野が広がり、特にその広大さを利用した大規模農業や大規模畜産に適している。
だいたいこのようになる。
農業に関しては各地で開拓を進めながら生産量と自給率向上を目指している。
ライ麦、小麦などの穀物に加え、これにジャガイモが炭水化物として加わる。ジャガイモの栽培は痩せた土地や寒い地域でもある程度の収穫量が見込めるので場合によっては戦時中になればこちらが主力となり得る。
野菜類は現状は普通に栽培しているが、今後の食料不足に備えて気候などに左右されず、年中収穫が可能なように温室栽培への移行が試みられている。温室栽培と言うのは、いわゆるビニールハウス栽培が既に試験的に始まっており、早ければ来年か再来年ぐらいから全国的に本格導入が進められる。
牧畜、酪農などに関しては、肉牛、乳牛、豚肉が主であったが最近は生育速度が早い養鶏に力を入れており、生産された鶏肉や卵は小学校や中学校、高校で給食として出されたりと活躍している。
羊に関しては食用と言うよりかは羊毛採取を主目的にしており、高齢などで用廃となった羊は牛などと同じように食用に加工される。
「そこで提案したいのが、開拓を行うに際して軍を一部動員して頂きたいのです。これならば纏まった人数を計画的に集中させることが可能です」
「そしてもう一つ。農業の機械化をより推進する為にアメリカなどから農業用機械の輸入を行って頂きたい。軍の動員を解除すればまた人手が足りなくなります。それを補う為に機械化を進める必要があります」
「認められなかった場合どうなる?」
「食料自給率向上は達成されず、仮に一つ目の要望を受け入れて頂けたとしても、二つ目が受け入れられなければせっかく開拓した農地を活用出来ないままになります」
「食糧省の要求を呑む場合はセットでなければならない訳だな」
「そう言うことです」
「宜しい、軍は訓練を完了している部隊を選出し、近隣の開拓地を二週間交代で開拓させよ。必要であれば戦車で耕すとか、工兵部隊を駆り出すとか、工兵車両を出すとかしても構わない。体力錬成と穴掘りの良い訓練になるだろう」
「はっ」
「農業用機械に関しては輸入しつつ、自国内でも開発を進めるように」
最終的に農業用機械は手っ取り早く軍用車両を改造する形で用意することになり、無駄に頑丈なものが出来上がった。
この農業用機械達は戦後数十年経っても現役のままで働き続け、生産した会社が部品の採算が取れないから新しいものを導入してくれと懇願してもこっちのが頑丈だし使い勝手が良いし慣れているから、と頷かない農家達の戦いが行われるのはまた別の話である。
1940年。
10年掛かりで進めた農業改革の結果、穀類の自給率は150%を超えた。
かなり無理をしたものだったが、食糧備蓄量も上がってきており少なくとも食糧体制という面では戦争が出来る状態になった。
広大な畑に、増設された食糧倉庫には山ほど穀物が備蓄され、その周りに出るネズミを獲る為、猫が沢山住み着いている。
犬もネズミ獲りに参加し、毎日数十〜一〇〇匹のネズミが彼らの手によって血祭りにあげられている。
農家達も可愛がっているようで、特に飼われている訳では無い猫達も懐っこくなっているとか。
食糧供給が安定すれば、色々と余裕が出てくる。これで国民が飢えることは無い筈だ。
レーションの研究も終わり、缶詰タイプ、パックタイプの二種類が開発された。
パックタイプはそのままでも食べられるが缶詰とは違い、ボイルで温められるが、キッチンカーが必要だ。これを現地で兵士個人がそれぞれで温められるような方法を開発中である。
ここでちょっとばかり歴史の話をしなければならない。
元々ドイツ、と言うかその前身であるプロイセンという国は複数の国やらなんやらが統一されて出来た国だ。
この流れはドイツ帝国、そして今も受け継がれており、これはそれぞれの地域によって言語や食事にかなりの特色があることを意味する。
ヴァイマール時代の10万軍隊では、後の各軍管区に一個師団の兵力しか置かれなかった事と、そもそも外地に出る事が無かった、出来なかった為にこの地域性というものは大した問題にはなっていなかった。
これが問題となったのは私が総統(周りが勝手に呼んでいる)に就任しあらゆる改革を進め始めた時である。
まず最初に基本的な食事制度として朝昼晩の一日三食の統一された給食制度を設けたが、これは全ての地域が同じものを食うことになり不満が出た。
そこで基本的なメニューは統一しつつ、これに各陸軍駐屯地の食堂で予算内であれば手を加えてよい、とした。
しかし意味が無く、最終的に軍が買い付ける食材を規定し、そこからメニューをそれぞれ決め、調理配食することになった。これが現在である。
食材はざっと三〇〇種類になり、これには飲料・酒類・嗜好品も含まれ、こちらは駐屯地や基地内の売店で売られている。
この三〇〇種類の中には地域色がかなり強いものも含まれており、郷土料理を拵えることも可能なように配慮した為である。
とは言えドイツ国内の駐屯地や基地ならばまだしも、流石にこれを最前線で常に、とは行かない。
そこで平時と戦時で調達する食材を分け、戦時では一七〇種類に減らし、まぁ地域色が感じられるかな、という程度にまでラインを下げたのである。
しかしこれは前線後方に十分な兵站を構築出来る場合であって、長距離の行軍や野戦、空挺作戦などではこうは行かない。
そこで必要になるのがレーションである。
開発段階で士気を保つ為、要求された性能は味、量、地域色である。
味は勿論美味しくなければならないし、量が無ければ腹が満たされない。そして大事なのが各地域出身者が楽しめるように地域色のあるメニューも用意する必要があることだ。
こうして開発された訳である。
基本的には缶詰であれば三つで一食分、一日九缶が標準となる。
パックタイプであれば二つで一食、六つで一日分。
兵士は最低でも三日分のレーションを携行することが定められ、行軍や作戦日数によっては増える。
これに加え各部隊の輜重部隊はレーションを大量に積載し、三日に一度レーションが纏めて配給される事になっている。
四〇種類のメニューがあり、地域色を出したメニューが二十六種類、基本メニューが十四種類。
種類が多いと感じるかもしれないが、最初は地域色のあるメニューが三十九種類に通常メニュー二十一種類の六〇種類になる予定であったのだからこれでもなんとか減らした方である。
これらは全ての部隊に配られ、全ての兵士が食べる事になる。こんなものもあるんだなぁ、と言った具合にだ。
これに砂糖、塩のスティックが入れられている。飴玉やガムの場合もある。
開発の過程でこの料理は向いている、向いていないから始まり、栄養価やカロリーの計算が必要になり、大変だった。
私も兵士と同じものを食べた事が無い奴が軍の一番上に居てなるものかまて試食をしていたが、味は美味しい。
実際、味は兵士達からも好評で実地試験を元に改良も重ねられている。
主食であるパンは基本的には乾パンで、陣地に籠っている時などは前線後方から輜重兵が黒パンや白パンをわざわざ運ぶ事になっている。流石に乾パンを毎食というのもなぁ、という話で頷かざるを得ない。この為に製パン中隊を設ける訳である。
今は普通のパンを缶詰にする為にレーション開発チームがあちこちのパン屋や技術者、科学者の協力も仰いでアレコレ試行錯誤をしているところだ。この前は缶詰にしたパンが膨張しすぎたか何かで缶詰が破裂したと言っていた。
確か私が知る限り缶詰パンは1996年に阪神淡路大震災をきっかけに日本で開発されたものだ。
まぁ、五十年以上早い時代だが彼らは優秀だしやってくれるだろう。
これら通常食に加えて文化として午後にティータイムを設ける習慣があり、メニューとは別に六種類の焼き菓子やチョコレートが加わる。
飲料はコーヒー、ハーブティー、紅茶の三種類で全てインスタントになる。携帯式の固形燃料が同封されているからそれを使って飯盒で湯を沸かし、飲むのである。
固形燃料は一食分に付き一つが入れられており、薪を拾ってきて着火剤にすることも出来るし、そのまま使うことも可能だ。
成分としてはアルコールに酢酸カルシウムまたは脂肪酸ナトリウムなどを添加し、製材などの際に出た木屑などを混ぜ合わせたものになる。
他にも石炭の細かいものを押し固めたものや、木屑を押し固めたものなど、幾つが種類があるが安定して着火させる事が可能で、長持ちすることから一番最初のものが主にレーションの中に同封される。
製パン中隊やフィールドキッチンなどで用いられるのは石炭や木屑を押し固めたペレット状ものが主になり、これに着火剤としてレーションに同封されているものと同じものを使う。
夜に温かく甘い飲み物を飲む文化もあるが、流石にこちらの提供は我慢してもらうしかない。前線後方地域なら提供出来るが、最前線や行軍中には無理である。
まぁ、なんにしてもこの時代の軍隊にしては随分と豪華なレーションなのではなかろうか。
正直、味が普通に良いから全く抵抗無く食べる事が出来るし、流石に常食とするのはカロリー過多とか問題があるから出来ないが、今出されても全く問題にならない。
こうして国や軍の食糧体制が整えられたのである。
同盟国も着々と増えつつあり、少なくともドイツより北と東側に位置する国々は殆どが同盟関係にある。
軍備に関しては、旧式装備を同盟国に売り払いつつ、自国軍を最新装備に置き換えつつある。
Stg34やMG34を始めとした歩兵装備は基本的にドイツ軍への配備が最優先だ。簡単な話、これから編成される部隊の分を考えると輸出している余裕が無いというのが正しい。
火砲や戦車、航空機のような重装備などは砲弾規格統一の為に輸出しているが小火器は予備も含めて大量に必要になる為、輸出優先度が低い。
輸出される武器は、Stg34に装備改変した為に大量にダブついて倉庫送り、木箱の中で埃を被っていたkar98kなどのライフルだ。
ただし、そのままだと文句を付けられるので、装弾数を一〇発に増やしたモデルとして輸出している。
他にも擲弾発射器や狙撃用照準器などをセットで。
これなら大した改良とならず、元々あるオプションを付けているだけだから時間も手間も資材も掛からなくて済む。
弾薬は7.92mmで全軍共用だ。機関銃なんかもこの弾薬が用いられるから補給で困る事も無い。装薬量に違いはあるが撃てないこともない。
どこの国の軍隊の補給が、どの軍隊に届いたとしても使える訳だからな。
前線国家の要塞化だけでなく、万が一に備えてドイツ国内にも十分な備えをしておかなければならない。
例えばベルリン東側正面になるゼーロウ高地の要塞化、オーデル川、ナイセ川、フランクフルト、要塞都市キュストリンの最要塞化である。
これらの地域は首都ベルリンを東側から見た場合に正面に位置する場所で、キュストリン、ゼーロウ、ミュンヒベルクと直線上に続く先にベルリンがある。
オーデル川、バルタ川の合流地点にあるのがキュストリンである。
遡れば一〇世紀にまでなり、ポーランドとの国境の街として位置する関係上、全線が突破され、ポーランドが陥落した場合に備えなければならない。
ただ、火砲の性能が向上するにつれて旧式要塞としては価値が下がっている。戦間期には一部が撤去されたぐらいである。
しかしながらその立地は未だ戦略上要地である事には変わりなく、しかもベルリンの玄関先と言って差し支えないほどに近い場所にある。距離にして約一〇〇kmしかない。
ドイツ=ポーランド国境は特に、ソ連軍が最前線を突破した場合の最後の防衛線になる。
防げなければ避難民諸共、赤の波に呑まれることになってしまう。そうならないように最前線にリソースを割きつつ、ここにも十分な防衛線を構築しなければならない。
ソ連軍の性質上、首都ベルリンを素通りするなんて事は出来ない筈で、フランクフルト、キュストリン、ゼーロウ、ミュンヒベルク、最後にベルリンと攻略を試みてくるには違いない。
それを利用し時間を稼ぎながらより後方に防衛線を引き直し、立て直しを図れる。避難民や逃げてきた同盟国軍を再編して祖国奪還を餌に編成に組み込む事も出来る。
主要工業地帯がベルリンより西側に集中しているのはこれも理由の一つだ。
ここはドイツだけでなく、同盟国全ての重火器の供給を担う重要な場所だ。特にドルムントを中心としたデュッセルドルフ、ケルン、ボン、ミュンスターを結びドイツ=オランダ国境辺りまで広がるルール工業地帯は特に最大規模と言える。
ここは特に重火器の生産拠点が集中しており、我が軍火力の根幹を担う場所である。
オランダ、ベルギー、フランスと近く、陸軍からは三個師団、空軍からは六個戦闘航空団が守りを固めている。
何が怖いかって、フランスには現状欧州最大規模の共産主義政党がある事だ。私の知る歴史では確か1946年に最盛期を迎え、第一党になるぐらいにまで勢力を伸ばしていた筈だ。
そんな連中を抱えるフランスが背中にあるんだから、ソ連と開戦となった場合、冗談抜きで背後からの一突きが有り得る。
なんなら未だにフランスはドイツを敵視しているし、ドイツの戦局不利になったら、と考えると気を抜いていられる相手では全くない。
こうして考えると、地理的、地政学的に日本と言う国が如何に恵まれているかが良く分かる。
前世でもだが、今世の日本は特にアジアでは一強状態で、最近はドイツやイギリスなどからの技術供与、国内産業への大規模投資によりより力を付けてきている。
中国は地獄の国共内戦を続けているし、他のアジア諸地域は殆どが欧州列強の植民地支配下にあるから発展もクソもない。
対してドイツは東には共産主義の腐った納屋(ソ連)、西はクソエスカルゴ(フランス)、南には貧乏ナンパ野郎(イタリア)、北西には諸悪の根源ブリカス(イギリス)と、カスのオンパレードに囲まれている。
一応、現状イギリスは準同盟関係だが、ぶっちゃけ信用ならない。イタリアは何もしませんよとは言っているが分かったもんじゃないし、ソ連は言わずもがな。
フランスなんぞ、現状欧州最大規模の共産主義政党があるから、冗談抜きで背後の一突きが起きかねない。
確か記憶ではフランス共産党は1946年に最盛期を迎え、第一党にまでなっていたはず。そんな奴らを背中に共産主義の親玉ソ連と戦争とか、奴らに対して備えるなという方が無理である。
こう言った理由から対ソ国境にだけ防衛線や要塞を築いておけばいいと言う訳には行かないのである。
まぁ、資材、金、人手の都合から対イタリアはアルプス山脈を自然の要害としてちまちま要塞とは言えないが、防衛設備を建てるに留まる。
対フランスは、こちらも長い国境全てをカバー出来ない為、師団や部隊を一定数張り付けて、それら諸部隊がそれぞれで構築出来る程度の陣地やトーチカ、戦略的要地に小規模な要塞を設けるのが精々である。
対イギリスは海を挟んでいるから後回しだ。
二度目になるが日本と言う国が如何に、地理的、地政学的に恵まれているかを痛感する。
前世でもだが、日本は海に囲まれている。だから今は大陸領土というものはあれど本土自体が直接軍事侵攻に晒される可能性が低い。
空海軍戦力を叩き潰し、日本本土に上陸作戦を仕掛けられるのは冗談抜きで本気モードになったアメリカぐらいなものだ。そのアメリカでさえ史実の末期日本相手であると言うのに数十万、一〇〇万単位の犠牲を覚悟しなければならないのだから、陸軍国家の我がドイツが島国を攻めるなんてやりたく無い。
更には言えば日本はアジア諸地域に於いて一強状態。
中国は地獄の国共内戦中で、何千万の命を擦り潰しながらもいつ終わるやら分かったものでは無いし、というか終わりそうな気配が全く無い。しかも中国が内戦やってくれていれば楽だからと、日本は旧式装備を国民党、あちこちの軍閥に売り捌き、更にはソ連が中国共産党を支援している。
なんなら国民党の支援はアメリカやイギリスもやっているとかで、誰が誰を支援しているのやら、ぐちゃぐちゃである。
国共内戦は中国国民党と中国共産党だけの内戦と思われがちだが、ここには大小様々な軍閥が加わっているから余計に訳が分からん状態だ。
他のアジア諸地域はだいたい植民地にされていて発展もクソも無い。
警戒すべき外敵が共産主義と太平洋を挟んだアメリカぐらい。なんと羨ましい。
今のアメリカなんぞ日本は全く相手にしていないと言うか、放っているからな。なんせ必要な資源や物資はアメリカ以外から十分な量が適正価格で流通している。今更アメリカと仲良く、譲歩したりする必要が無い。
因みに我が国では共産主義は違法、テロリストである。見つけ次第駆除せねばならない。奴らは害である。
キール、ハンブルク、ブレーメン、フレンスブルク、ブレーマーハーフェンなどは主に海軍系の工廠や工場が集中し、更に陸軍、空軍のものが周りを囲むと言った形だ。
河川に面する都市や市、町、村には河川を用いた物流を利用出来ることから必ずと言っていいぐらいに工場が設けられている。
「対ソ国境防衛線構築は順調です。完了した地区の工兵隊から順次ドイツ、同盟国内の対空陣地、防衛設備、要塞等の建設に回しています。ただ、全ての建設が完了するには最低二年は掛かるかと」
「既に国内、国外の建設会社、労働者すらも動員している。これ以上はどうにもならん。多少予定が遅れたとしても最前線は持ち堪えてくれよう」
嫌な期待をせねばならん。
敵が幾ら死のうが構わないが、我が国民が死ぬのは耐え難い苦痛だ。だが、だからと言ってソ連による支配を受け入れればより地獄だ。
話し合いが通じる相手ではない。結局戦わなければ生き残れないのである。