KV_another_Archive   作:器具類プロジェクト

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失踪したので初投稿です。


〇二 新生活

 

 

 

春暁。

 

まだ日も登らぬ時間に意識が覚醒する。どうやら朝は苦手ではないらしく、アラームをかけた訳ではないがちゃんと起床出来た。身支度をしに洗面所へと向かう。

水回りは各個室についており、ユニットバスの浴室もあるので部屋を貸してくれた先生には全く頭が上がらない。

顔を洗い、歯を磨く。備え付けのものがあるのは、私のような無一文にとっては有難い限りである。

 

その後も何やかんやと準備を一通り終えて時計を確認すると6時に差し掛かろうというところだった。

足早に部屋を後にすると、メインロビーに向かう。

 

 

 

エレベーターを降りて、少し駆け足で先を急ぐと既に先生は席に座っていた。

 

「すいません。遅れちゃいました。」

▷『大丈夫、時間通りだよ。』

『ううん、待ってないよ。』

 

待っている間に書類に目を通していたのだろう、先生の前には昨日よりは少し低くなった書類の山があった。

▷『昨日は眠れたかな?』

『何か不便な事はない?』

 

「はい、昨日はぐっすり眠れました!お布団もふかふかでちょっと寝すぎちゃいましたし。」

『それは良かった。』

 

こちらを見ながら手元の書類を片付けると、立ち上がり先生は続ける。

 

▷『よかったら朝食がてら少し歩かない?』

『お腹減ったからカフェでも行こうと思うんだけど。』

「カフェ…!」

 

前の私には生憎とそういったお洒落なものと無縁だったのか、先生の提案はとても魅力的に聞こえる。身体も元気に空腹を訴えており、先生からのお誘いに喜んで乗らせて貰う。

 

「もちろん、お願いします。」

『じゃあ行こうか。』

 

 

 

 

朝朗。

 

外に出ると、まだ日は低いが人通りが出てきたようで、にぎやかな様相を呈している。

先生の案内で街を歩いていくが、本当に道路をロボットや動物が歩いているのが見えた。

昨日、説明されて理解はしていたが改めて違う場所に来たのだと認識する。

歩道を歩く人の中には昨日見た連邦生徒会の制服を着ている子たちもいる。

こんなに朝早くから、業務へと向かうのだろうか。

そう考えると本当に大人の仕事の様だが、それによってキヴォトスの平和は保たれているのだろう。

心の中で感謝を述べながら、先生に追随する。

 

 

「先生、お店について既にリサーチ済みなんですね。」

『うん、昨日の内にソラに聞いたんだ。』

「ソラちゃんにですか。成程、納得行きました。」

 

ソラちゃんはシャーレにある【エンジェル24】というコンビニの店員さんだ。

中学生だがお金が必要らしく、コンビニで働いているそうだ。

シャーレが開始する以前から働いているらしく、色々聞くことが出来た。

客足はあまり多くないらしいが、治安が良いとは言えず以前に戦車が店に突っ込んできた事もあったとか。キヴォトスにおける治安のスケールは段違いである。

話を終えた後、ドリンクやインスタントのコーナーを物色して

そのままお弁当を購入させて貰い、晩御飯にあり付くことが出来た。

 

暫く歩いていると少し細い道に入り、ようやくお店の看板が見えた。

黒猫亭と書かれたウェルカムボードには【OPEN】と白いチョークで書き記している。

 

『無事に辿り着けて良かった。』

▷『お腹がペコペコだ…。』

 

歩いたこともあり、先生もお腹が減ったようで直ぐにお店に入りたそうにしている。

かく言う私もお腹がすいており、今すぐにでも朝食にあり付きたい。

 

 

扉を開けると来店を告げる鈴の音が鳴り、店の人が挨拶をする。

 

「いらっしゃいませ、お二人様でしょうか。」

 

渋い声をした店主らしき黒い猫が応対してくれた。

分かっていたが、こうして改めて生活の一部になっているのを見ると驚嘆を禁じ得ない。

店内を見渡してみると、早朝だが既にお客が居るのが見え、盛況なのが感じられる。

 

「ご自由に空いてる席へどうぞ。」

 

席に促されてカウンター席へと二人で座る。

ドリッパーから珈琲が落ちていく音を聞きながら、メニューを眺める。

 

「先生、何にしましょうか?」

 

▷『ソラの話だとサンドウィッチがオススメらしいよ。』

『珈琲も紅茶もどっちも美味しいって。』

こういったお店を利用した事がないので、ここは大人しく先人の知恵にあやかる事にする。

 

「ご注文はお決まりかな?」

 

「私はこのモーニングセットのサンドウィッチとレモンティーで。」

『私も同じものとブレンドコーヒーをお願いします。』

 

「サンドウィッチモーニングセット2つとレモンティーとブレンドコーヒーが1つね。」

「承りました。少々お待ち下さい。」

 

そう言うと店主はパンを取り出して作業を始める。

爪を立てずに肉球のみでどうやって掴んでいるのか。不思議だ。

その光景を見て、今日の予定を話し始める。

 

『今日は買い物に行こうか。』

▷『日用品もだけど、よければ銃も』

 

「銃ですか…?」

『昨日のリンの話、覚えてる?』

「銃を持っていない人は、裸の人よりも少ないってやつですか?」

『そう、ここで生活するのなら例え使わないとしても持っていても損は無いかと思ってね。』

 

このキヴォトスにおいては銃を持たないというのは、下着を穿かずに出歩く事に相当するというのは、未だに慣れない感覚ではあるが、今のところ記憶が戻る目途も帰る目途も立っていないのだから。

どの道、先生の言う通り銃は持っていて損はないだろう。

 

「そうですね。確かに刀もありますけど自衛の為にも持っていたほうが良いですよね。」

『じゃあ、決まりだね。』

そんなこんな話していると、いつの間にか出来上がっているサンドウィッチを皿に盛りつけているところだった。

待ち遠しく思っていると、手際よく盛りつけられたサンドウィッチが目の前へと運ばれる。

 

「お待ち遠さま、ご注文のモーニングセットです。」

 

溢れんばかりの具が詰まったサンドウィッチの隣には、瑞々しいきゅうりやレタス、トマトのサラダが添えてある。カップからは湯気が立ち、薄く輪切りにされた檸檬が浮かんでいた。

空腹が最高潮に達した私達は手を合わせるのもそうそうにサンドウィッチに齧り付く。

「『!!』」

「美味しい…!」

軟らかいパンには、程よい大きさに潰された卵と刻んだ玉ねぎが挟まれている。

食べやすい大きさだが、ボリューム感があり夢中で食べ進める。

一つ目のサンドウィッチを半分程食べ進めた所で、レモンティーに手を伸ばす。

 

『凄く美味しいですね。』

「そう言って貰えると嬉しいですね。毎朝生地から作っているこだわりのサンドウィッチなんですよ。」

 

先生と店主の話を聞いてパンの美味しさに納得していると、レモンティーのいい香りが鼻をくすぐる。

軽く撹拌して、檸檬の輪切りを小皿に潰さないように移す。

まだ熱い紅茶をちょっとずつ飲み進める。フルーティーな香りが鼻の抜けて、思わず息をついてしまう。

全体的にレベルの高い店だ。私の中でのカフェランキング一位に君臨した。

 

「紅茶もすごく美味しくって、いいお店ですね。」

「そうですか、そう言って貰えると幸いです。」

 

そう微笑むと店主はカップを手に取り、拭き始める。

そのまま残りのサンドウィッチも食べ進めて気が付くと皿の上は綺麗になっていた。

横を見ると先生も食べ終わったようで手を合わせる。

 

「『ごちそうさまでした。』!」

 

「とっても美味しかったです…。これなら何個でも食べられそうです!」

「ふふ、ウチはランチも人気なので今度いらっしゃった時は是非。」

 

▷『また来る楽しみが増えたね。』

『近いうちに来ようか。』

「それは…楽しみです。」

ゴミや忘れ物がないように確認し、席を立つ。

 

「またのご来店をお待ちしております。」

 

こちらに会釈をする店主を見送りながら私達は店を後にした。

 

朝方。

 

外に出ると日はやや高くなり、人通りも増えていた。

通勤中であろうスーツを着たロボットや窓を拭いている鳥を横目に見ながら、

先生の案内で駅へと向かう。地下鉄に繋がる通路を通り、チケットを購入して改札をくぐる。

 

「先生、まずは何を買いに行くんですか?」

やっぱり銃だろうか。バズーカを構える自分を想像するが、到底初心者が扱えるものでは無いだろうし、まず重くて持てないだろう。

▷『最初はコーギータウンでこはねの携帯を買いに行こうと思ってるよ。』

『D.U.のシラトリ区ってところかな。』

 

確かに連絡手段は欲しい。今はこうして先生と一緒に行動しているが、本来先生はリンさんが言っていた通り、問題解決などもっと凄い事件などを解決する事が期待されているのだろう。何時までも私のような記憶喪失の生徒にかまけては居られない。先生に限って見捨てるということはしないだろうが、それでも連絡手段はあって損はない。

 

「どういう所なんですか?」

電車に揺られながら行き先についての会話をする。

連邦生徒会の管理地域であるD.U.内である事は昨日の説明から分かるが、

ここに来てまだ2日目の私には、キヴォトスの地理は未だに右も左も分からない。

 

▷『シラトリ区には、港や業務地区。』

『他には、大きな公園もあるみたいだよ。』

「へ~。そうなんですね。」

先生の持つシッテムの箱を覗き込むと中々発展しているらしく、警察の支所もすぐ傍にある為に治安も良く、

行政機関の他にも美術館や食堂街もあり、お昼ご飯も今から期待できそうである。

そのままシラトリ区の観光マップを2人で眺めながら、数十分の間、地下鉄に揺られていると

目的地への到着を告げるアナウンスが聞こえ、下車の準備をする。

 

[次はシラトリ東口、シラトリ東口。お出口は左側です。]

 

出口の付近へと移動し、扉を降りる。人の流れに沿いながら、上へ登る。

少しずつ日の光が近づいてくる感覚に高揚感を覚えながら、階段を登りきった。

 

朝間。

 

外に出ると日はすっかり高くなり、道行く人々で街は活気づいている。

「うわぁ…人が多いですね。」

「ここからどっちへ行きましょうか?」

『ここからコーギータウンは北方向だから、こっちかな』

再び先生の先導で道を進んでいく、シャーレ付近より人通りも多く逸れないように少し距離を詰めて歩いて行く。

先生もそれに気づいたのか、少し歩調を緩めてくれる。

そんなこんなで数分歩くと大きな看板にアニメ調の絵が張り付けられている建物が目立ってきた。

一際大きな電気店のビルが目的地らしく、最安値と書かれた広告が近づいてくる。

自動扉をくぐると、テーマソングや店内放送、店員のセールスが次々に耳に入り込んでくる。

 

「凄く立派ですね……。」

『かなり大規模のお店だね。』

『想像よりも広い……。』

 

一階は家電のフロアらしくお目当ての階層までエレベーターに乗って移動する。

加速による重圧の後、慣性移動で圧力から解放される。最後は減速によって浮遊感を感じると

目的の階についた事を知らせる軽快なチャイムが鳴る。

開いた扉の先にはお得なキャンペーンを謳う色鮮やかなポップや笑顔を浮かべる店員が認められる。

 

『どんな端末が良いとかある?』

▷『こはねの希望を聞かせて欲しいな。』

 

「えーと、すいません……。あまり詳しくないので見て回ってもいいですか?」

『もちろん!』

スマートフォンのコーナーには、一般的な形のものから奇抜なものまで様々ある。

「カイザー、ミレニアムサイエンス、ペアー社……。色々ありますね。」

『機能も見た目も様々なものがあるね。』

▷『……これなんて自爆機能付きだって。』

「何に使うんですかね……?」

 

一体どんな状況で携帯を爆発させる事を想定しているのだろうか。

これの設計者はどんな事を考えているのか、全く思いつかない。

しばらく見て回り、店員のセールスや体験用の端末に触れるなどして近くのベンチに脚を運ぶ。

 

「うーん、どれもピンと来ませんねぇ。」

 

色々見て回ったが、結局これだ!というのは見つからずにこうして体を休めている。

決めかねているのは私自身ではあるが、こうも見つからないとため息が出てしまう。

 

『悩んでるみたいだね。』

▷『好きなだけ考えていいからね。』

 

「……ありがとうございます、でもそんなに時間を割くわけにもいかないですし。」

 

今まで見た中で良かったものから選ぶべきだろうか。

首を傾げながらウーンウーンと顔を顰めていると、不意に先生が指を指す。

 

▷『ねえ、あそこ。』

『あれなんてどうかな。』

 

フロアの隅にポツンと置かれている折り畳み携帯のコーナー。

所謂ガラケー、このキヴォトスにおいては殆ど放逐されたガラパゴス携帯の孤島に先生は視線を向けたのだ。

 

「ガラケーですか…。」

 

ここのコーナーには確かに来ていなかったと吟味する。先生は携帯を眺めながら、懐かしそうに語る。

『昔パカケー出たての頃に、物珍しさに開け閉めしすぎてね。』

『ヒンジが緩くなっちゃってね、最後の方は勝手に開くようになったんだ。』

「……パカケー?」

何やら私の疑問の声に致命的なダメージを受けたらしく、先生は倒れこみブツブツとうわ言の様に呟いている。

「先生、大丈夫ですよ。私知ってます、昔の携帯はアンテナが着いてるんですよね?」

『グハッ……‼』

 

どうやら更にショックを受けてしまったようで、細かい痙攣を繰り返している。

これ以上不要なダメージを与えないように、そっと放置して探索を再開した。

やはり幾らかは割安になっているらしく、その分現物限り、保証対象外とあるものも多い。

あれでもないこれでもないと見ていると一つの携帯に目が留まる。

 

特にこれといって特徴の無い折り畳み式の携帯だが、不思議と惹かれるものを感じる。

黄色い折り畳み電話は他にもあるのだが、何故だろうかと考えていると店員がやってくる。

 

「お客様、お目が高い‼そちらキヴォトス外からのお取り寄せした商品となっております‼」

 

営業スマイルを浮かべた機械の店員は、ニコニコと手を揉みながらアピールを始める。

「従来のテンキーを採用しつつも、Bluetooth機能やキャリア決済といった要点が抑えてあり、モモトークも使用可能です。液晶ディスプレイが苦手な方にもオススメ出来る一品となっておりますが、いかがでしょうか?」

 

私の心は既に決まりかけており、何時の間にか復活していた先生に確認する。

「先生、これお願いしても良いですか?」

『勿論。』

▷『こはねが決めたのなら。』

「すいません、これで会計お願いします。」

「お買い上げありがとうございます!!それでは、こちらへどうぞ‼」

 

そのまま私達はレジへと向かい、そこからはとんとん拍子で話は進んだ。

携帯プランは通信無制限のものを先生が選択してくれたが、月額の請求量を見た先生は天を仰いでいた。

顔がやわらに濡れているの見て私は、シャーレでの業務を頑張ろうと誓った。

 

昼。

 

電気店を後にした私達は、歩きながら次の予定について打ち合わせる。

「次は銃ですかね?」

▷『そうだね。日用品は運ぶのに嵩張るだろうから、先に選びに行きたいね。』

『あ、そうだ。』

ふと思い出いしかのようにシッテムの箱ではない端末を取り出し、画面を出す。

 

▷『私のモモトークだよ。』

『これで何かあっても連絡できるから。』

 

それを聞いた私は先程初期設定を終え、真っ白な画面から連絡先を示すマークへとカーソルを急いで動かす。

ピロンッと軽快な音を響かせながら、連絡先の追加を告げる画面が表示される。

真っ白な会話画面を開いて標準スタンプを送ると、すぐに歓迎のスタンプが送り返されてきた。

 

今は先生だけだが、この連絡先がこれから埋まって行くのだろうかと想像を膨らませながら顔を上げる。

 

「先生!改めまして、これからよろしくお願いします!」

 

▷『こちらこそ。』

『よろしくね、こはね。』

 

 

 




この作品は 橘 八朔様のSong for uに感銘を受けて書かせて頂いたものです。
是非皆様ご一読ください。↓
https://syosetu.org/novel/353771/
前回より短めなので失踪します。
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