未だ無名のリンゼ   作:七海香波

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 今回のお話を投稿するにあたって改めて本作の内容を鑑みたところ、『アンチ・ヘイト』タグが必要かなと思って追加しました。
 つまり今回のお話はその色が濃いお話となりますので、ご注意ください。


魔法都市オイサースト/■■■■■■症

 

 勇者ヒンメルの死から29年後。

 北側諸国、魔法都市オイサースト。

 

 

 

 

 

「暇だ……」

 

 シュタルクは暇を持て余していた。

 というのも、旅の仲間であるフリーレンとフェルンが共に一級魔法使い試験に参加しているからである。

 グローブ盆地まで出かけた二人は明日まで戻らず、残された戦士の彼は特にやることもない。

 あてもなく街の中をふらつきながら、彼は再三口にする。「どうすっかなー……」と。

 

「暇だ……」

 

 こういう時は大体、街の困っている人間を助けたりしていれば自然と時間が過ぎていくもの。

 しかしこういう時に限って、困っている人間に出くわさないのが不思議な世の摂理であった。

 純粋に、ただ純粋に。

 時間の潰し方が、シュタルクの頭を悩ませる。

 そして、そうして空回りした思考が時に変な方向へ向かうこともある。

 それもまた、人の性質(さが)の常であるのかもしれない……。

 

「暇だ……そうだ」

 

 通りすがった商店の前で、これ見よがしに陳列されていたジュース瓶に彼の目が留まる。

 普段は――本人の前で口に出すことは到底憚られることだが――口うるさいフェルンがいない今。

 少しくらい、そう、羽目を外してみるというのも、たまにいいのではないか?

 例えば、夜更かしをしてみるだとか。

 夜寝る前に、ジュースをガブ飲みしてみたりだとか……なんて、悪魔的な発想が彼に囁きかける。

 

「……ごくり」

 

 もちろん、バレれば後が恐ろしい。

 怒った時のフェルンの恐ろしさ(面倒臭さ)は長い旅の中で身に染みている。主にフリーレンという犠牲を以て。

 しかし、それを分かっていてなお「やってみたい」という少年ならではの蛮勇さが、今のシュタルク自身の背中を後押しした。

 恐る恐る、彼の足が店の中へ禁断の一歩を進めようとする。

 

 ……そんなタイミングで、事件は起こった。

 

「――この、泥棒!」

 

 シュタルクが求めていた、彼の必要とされる事件の到来。

 甘く香しいジュースの誘惑をすかさず振り切り、彼は声のした方角へと駆けだす。

 

 ――それより疾く、彼の真横に一陣の赤い(・・)風が吹く。

 

「――ぎゃあっ!?」

「駄目よ? さ、盗ったものを返しなさい」

 

 押し倒された男の醜い悲鳴と、その上から背骨を膝で押さえた女性(・・)の声。

 彼女は追い付いてきた被害者に荷物を返し、取り押さえた男をやってきた兵士に引き渡して、なんてこともないかのように彼らと別れた。

 その鮮やかな捕り物の手前は称賛されるべきものであり、また尊敬すべきものだ。

 だが、それら畏敬の念よりも先に、一連の流れを目にしていたシュタルクの胸中には驚愕こそが溢れていた。

 

 女性の外観――腰まで伸びた、長く、燃える炭のように赤い髪。

 振り返った彼女の顔立ちは、オルデン領フォーリヒで彼が見た領主一族に似ていた。

 シュタルクは、そんな彼女を知っていた。

 そして彼女もまた、シュタルクを知っていた。

 すなわち互いの目と目があった時、彼らが自然と相手の正体を零すのは必然であった。

 

「……姉ちゃん?」

「……シュタルク?」

 

 シュタルクはこの時初めて、フェルンから聞いていた幻影鬼(アインザーム)の恐怖を痛感した。

 

 何故なら彼女、アンネローゼこそは……。

 ――とうの昔に死んだはずの、彼の実姉であるのだから。

 

 

 

 

 

 衝撃の再会から少し。

 シュタルクはアンネローゼの誘いで、ここオイサーストでもそれなりに有名な喫茶店へと足を運んでいた。

 出てきたお茶は美味しいし、ケーキだってそれに見合う美味しさだった。

 そのはずなのに何故か、彼の舌は全ての味の分析を拒否していた。

 

「……」

 

 シュタルクは正面に座った姉の顔を見やる。

 むろん血が通っているし、呼吸も安定している。

 信じられないが、戦士の目で見たアンネローゼは間違いなくこの地に足をつけて生きている。

 だが、それと同時にシュタルクは思う。

 

「(……姉ちゃんは、死んだはずなんだ)」

 

 ある日突然、彼の姉は家に帰ってこなかった。

 代わりにいつもより遅く帰ってきた父親は泥や汗に塗れて疲労困憊の様相を呈しており、その口から彼の家族にはこう伝えられたのだ――「アンネローゼは死んだ」、と。

 曰く、「魔族の強襲に遭い、アンネローゼは相打ちになる形で、死体も残さず戦士として立派に死んだのだ」と。

 だが今、その彼女はシュタルクの目の前で生きている。

 何が正しいのか、彼にはさっぱりだった。

 

「ケーキ。美味しいかしら?」

「ああ……。うん」

 

 嘘だった。

 味なんて分かるわけがない。

 そんな弟の内心を見透かすかのように、アンネローゼは申し訳なさそうな顔で口を開いた。

 

「そのケーキね、私が作ったの」

「姉ちゃんが?」

「今はオイサースト(ここ)でお菓子屋さんをやっているの。ちょっとした縁で、この喫茶店にも卸させてもらっているわ。……でも、そうね。私も今は自分の味がよく分からないわ。シュタルク」

 

 口をつけていたティーカップを置いて、彼女は語り掛ける。

 よく見れば、その手は小刻みに震えていた。

 

「もう大分前になるわ。クレ地方の戦士の村が魔族に滅ぼされたって聞いて、家族も皆死んだものだと思っていたから」

「……!」

「でも、貴方が生きていてくれた。それが本当に嬉しい。……他の皆は?」

「……」

 

 シュタルクは小さく首を横に振った。

 

「そう。でも貴方だけでも、本当に良かったわ」

「俺は……その、戦えなくて。兄貴に逃がして貰って」

「シュトルツが? そう、あの子が……」

 

 彼女の見せた、僅かな小さな唇の震え。

 シュタルクはそこに万感の思いが乗せられていることを、弟心に理解した。

 彼からしてみれば立派な兄であったシュトルツも、アンネローゼからしてみれば可愛い弟だったのだ。

 長女アンネローゼと長男シュトルツ、そして二男のシュタルクが彼ら姉弟の構成であった。

 

「……ごめん」

「どうしたの?」

「やっぱり兄貴の方が良かったかな、と思って。生き残るのが俺なんかじゃなくて」

「なんですって?」

 

 それは一瞬の出来事だった。

 シュタルクの口の中には、気づけば姉が手元に残していたチョコレートケーキが丸ごと突っ込まれていた。

 甘い。苦い。

 それ以上に、息が出来ない。

 

「もがもが……!」

「馬鹿なことを言わないでちょうだい。貴方たちの内どちらかが生き残っていてくれた方が良かっただなんて。そんなこと、思うはずがないでしょう……!」

 

 シュタルクは、急な反応を見せたアンネローゼの目元が濡れているのを見た。

 それは他ならぬ、彼の足らない思慮こそが今度こそ彼女の感情の臨界点を突破させたことを示していた。

 

「ごくん。……ごめん姉ちゃん、馬鹿なことを言って」

「そうよ。そんな、あんな……馬鹿親父みたいなことを言うのは止めて。もう二度と、ね。……皆さん、ごめんなさい。お騒がせして」

 

 なんだなんだと彼らに目を向ける周囲に軽く頭を下げて、座り直すアンネローゼ。

 その中に紛れていた単語に、そう言えばとシュタルクは当初の彼の方の驚愕を思い出した。

 すなわち。

 

「そうだ。それで、姉ちゃんの方こそなんで生きているんだ? 親父は姉ちゃんが魔族に殺されたって言ってたし、戻ってきたのは使ってた鉄槌(ハンマー)だけだったって……」

「……あの人はそう説明したのね」

 

 アンネローゼのその呟きは冷たかった。

 シュトルツへ向けていたような郷愁とは一転して、氷のような切れ味だけを孕んでいた。

 急に冷え込んだ場の雰囲気に気づいてか気づかずか、当時を思い出しながらシュタルクは続ける。

 

「最初は信じられなかった。あの姉ちゃんが、()()()()()()()()()()()()強かった姉ちゃんが殺されたなんて」

「……」

 

 シュタルクは姉の手を見る。

 そこには彼の手と同じ、戦士の手に出来るタコはない。今の彼女が村出身の戦士ではなく、先ほど言った通りの菓子職人としての途を歩んでいることが窺える。

 村最強の戦士に与えられる白外套(マント)を持っていた故シュトルツ。それより更に強く、彼らの父が『村の歴史を塗り替える才媛』とさえ称していたのがアンネローゼだ。

 その才能を腐らせてまで菓子職人となった彼女の、当時の真実とはいったいなんだったのか。

 

 説明を目で求める弟シュタルクに、アンネローゼは一つ重い息を吐いた。

 

「そうね。今度は私のことも話しましょう。あの日に本当は何があったのか。でもその前に、まずは何が始まりなのかを話すべきなのでしょう。……長くなるし、先にお代わりを頼んでおきましょうか。シュタルクは同じお茶で良かったわね?」

 

 

 

 

 

『――お父さん。私、お菓子を作る人(コンディトァ)になりたいの』

『馬鹿を言え』

 

 父の振るう力強い斧の一撃が、齢六のアンネローゼの小さな身体を吹き飛ばした。

 すかさず空中で体勢を立て直し、彼女は両の脚で離れた場所に着地する。

 ただし、その斧を握る手はまるで雷に打たれたかのように小さく震えていた。

 

『お前には才能がある。この村の誰よりも優れた戦士になる才能が。見ろ』

 

 隻眼となって二倍増しになった父の厳しい視線が、修練場の隅に向けられる。

 そこには既に散々に打ち据えられたシュトルツ及び村の他の子供たちが、泥と汗と自身の血に塗れながら荒い息を吐いて横になっていた。

 一方のアンネローゼは父の強撃を受けたせいか腕こそ震えているものの、息切れはなく、また汗もかいてはいない。少しばかり頬が上気しているものの、若く肌の色素が薄いせいなのか運動によるものなのか分からない程度だ。

 ただ間違いないのは、その表情が父の望む方向に対して不服を示していることだけだ。

 

『怯えるな。自ら攻めろ。冷徹に敵を斬り殺せ』

『戦いは好きじゃないわ。こんなこと、私は嫌』

『やれ。やらなければ死ぬ。そしてそれはお前ではなく、他の誰かだ。才能を持つのにそれを振るわないのは、誇りある戦士の血を引く者としての怠慢だ』

 

 再び距離を詰めて斬りかかってくる父に対し、アンネローゼは防戦の体で以て抵抗する。

 自ら攻撃するのではなく、父の刃に鉄槌(ハンマー)の柄を合わせて受け止める。

 数回の打ち合いの後、娘の遅滞を狙いとしたふるまいに業を煮やした父は再び彼女の身体を吹き飛ばした。

 今度の勢いは先の一撃よりも強く、修練場を囲う木々をぶち抜いてなおアンネローゼの身体は止まらず、やがて森の向こうへと見えなくなってしまう。

 

『今日の訓練は終わりだ。まったく……我が娘ながら嘆かわしい。お前たちもいつまで寝ている。さっさと立て。女に体力で負けるなど恥と思え』

 

 

 

 

 

『追いかけてこないところを見ると、今日の分も終わったみたいね』

 

 アンネローゼは自らを受け止めてくれた丈夫な木の幹に、そのまま少し身体を預ける。

 ――父親はなんとしてでも彼女を立派な戦士に育てたいらしい。

 なにしろ、と彼女は自らの首から下を見下ろす。

 見た目は別に筋肉マシマシという訳ではない。村の他の女の子たちと大して変わりない柔肌がそこにはある。

 だが、それに反してアンネローゼの身体は人一倍、いや人三倍は丈夫だった。大の大人に本物の武器で打ち据えられても問題なく、たとえ切り立つ崖から落とされても、ちょっとかすり傷が付くくらいで骨が折れることもない。

 それは、戦士の村に生まれたからにはたとえ女であろうと戦士として育てたくなるのも無理はない『才能』だった。

 それくらいは幼いアンネローゼの頭でも分かっている。

 それでも……。

 

『やあ、アンネローゼちゃん。今日も一日お疲れさま。いつ見ても君たちの父親は教育熱心だね』

『お姉さん……!』

 

 悩めるアンネローゼの下へ、梢の向こうからふらりと一人の女性が姿を現す。

 女性の抱える籠から漂う甘い匂いに、休んでいたアンネローゼはすぐさま立ち上がった。

 

『さあ、今回はカレム・ブリレェ(クレーム・ブリュレ)なるものを作ってみたよ。疲れた身体には甘いものが一番なのは皆同じだ。お食べ』

『わぁ……いつもありがとうございます』

『いやなに、良いってことだよ』

 

 それから女性は何処からともなく杖を取りだして、更にはそれを一振りし、その場に敷くシートやら清潔なタオル、湯気漂う熱々の紅茶などを出現させる。そうして瞬く間に、彼女はその場にティータイムの空間を作り出してしまった。

 初めはアンネローゼもその魔法のような光景を見るだけで――実際、魔法なのだが――随分と驚いたものだが、今の彼女はもうすっかりそれを見慣れてしまっており、なによりも初めて目にしたお菓子があるとなれば、そちらの方にすっかり気を取られてしまっていた。

 鉄槌(ハンマー)の感触が残る手を綺麗にして、アンネローゼはさっそく差し出された今日のお菓子を添えられた小さなスプーンで口に運ぶ。

 間もなく、その顔が満開の花のように綻んだ。

 

『……う~ん、美味しい!』

『それは重畳。私も気合を入れて新しいレシピを仕入れてきた甲斐があったと言うものだ。安心しておくれ、きちんとお代わりも用意してあるからね』

『はい!』

 

 森の中のティータイム。

 それがここ暫くの間に培われた、訓練後に行われるアンネローゼと魔法使いの女性との秘密の時間だった。

 アンネローゼの知るところによると、女性はこの戦士の村の近くの森の中にひっそりと小屋を建てて暮らしている。なんでも「世の煩わしさから離れて静かに研究を整理するのも、たまにはね」らしい。それは彼女も同じだった。

 口を開けばやれこうしろああしろと言ってくる父親から離れられるこの時間が、今の彼女にはたまらなく愛おしいものであった。

 美味しいお菓子。

 美味しいお茶。

 空気は落ち着いているし、優しい魔法使いのお姉さんが食べ終わった自分の口を柔らかく拭いてくれる。

 どこにいてもピリピリとしている戦士の村よりも、ずっと心地よい。

 そして。

 

『お姉さん、今日もよろしくお願いします』

『もちろんだとも。さあ、おいで。新鮮なミルクも卵もたーんと準備してある。君の大事な弟たちにも持って帰ってやりなさい。代わりに失敗作はいつも通り私のおやつだがね』

『むぅ。いつまでもそんなことを言っていられると思ったら大間違いですからね?』

 

 ――お姉さんは、(アンネローゼ)に好きなお菓子作りを教えてくれる。

 後片付けを済ませた女性の細くたおやかな手に引かれて、アンネローゼは今日も森の奥深くにある彼女の住まいへと案内されるのだった。

 重くて邪魔な鉄槌(ハンマー)も女性の収納魔法に任せて、軽やかな足取りになったアンネローゼ。

 その顔には、年相応の無邪気な笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「……時々持ってきてくれてたお菓子って、そういうことだったのかよ」

「ええ。お姉さんが練習させてくれた帰りに、いつも成功したものだけ包んで持たせてくれていたの。あの人には不評だったけれど」

「そういや、いつも親父が「いらない」って言うから俺と母さんで分けてたっけ……」

 

 そんな懐かしいかつての記憶を振り返っていると、ふとシュタルクの肩がびくっと震える。

 なにやら嫌な思い出も一緒に甦ったらしい。

 

「どうしたの?」

「ああいや……一時期、兄貴も「いらない」って言ってたことを思い出して」

「そんなこともあったわね。確か、馬鹿親父の真似をしたくなったんだったかしら?」

「それで姉ちゃんが、その……無理矢理兄貴の口にロールケーキを捻じ込んでいた記憶が……」

「そんなこともあったかしら? うーん、覚えていないのだけれど……」

 

 シュタルクは先ほど窒息しかけたことを思い出し、内心頷く。

 ――やっぱり姉ちゃんは本物の姉ちゃんだ。あの頃と変わってねぇ……と。

 

 そんな話もしながら、アンネローゼの語りはその先へと続く。

 

 

 

 

 

 アンネローゼは幼心に、いつまでもお姉さんとの逢瀬が続くと思っていた。

 そんな、ある日。

 

『――これ以上娘を誑かすのは止めていただきたい』

『誑かすとは、はて。いきなり訪れてきて随分な言い草じゃないかな?』

『事実でしょう。村に迷惑をかけないから、と森に居付くことを認めてきましたが……』

 

 魔法使いの女性の小屋に突然現れたアンネローゼの父は、女性とその後ろに姿を隠した自らの娘の前で苦々し気に吐き捨てた。

 彼は小屋のキッチンに備え付けられた子供相応のサイズの調理器具と壁のエプロンを一瞥し、鷹のような左目を更に吊り上げる。

 ――その足元には先日アンネローゼが持って帰った彼女の父のためのクッキーが無造作に散らばり、また戦靴によって踏み躙られていた。

 

『近頃、気が抜けているな。目も浮ついている。終わった後のことばかりを考えているな?』

『……!』

『趣味程度ならば見逃しても良い。しかし、菓子職人になりたいなどと戯言を口にするのなら話は別』

 

 メキ……と、彼女の父の足元から小屋の床に歪みが走る。

 

『お前には才能がある。一流の戦士に、ではない。かの戦士アイゼンにすら至れるほどの、偉大なる戦士としての才能が眠っている』

『……』

『それをむざむざ捨てるなど許されると思うな。戦士の村から出た者が、かつ才のある者が戦士以外の途を進むなど誰も認めん。それを望んでも得られない者たちがどれほどいるか、お前は考えたことがあるのか?』

『……!』

『戻れ。そして一人前の戦士となるまで、この小屋を訪れることを許さん。貴女の方からも娘への接触は控えていただきたい』

 

 それは最後通牒だった。

 その言葉すら聞けないようでは、実力行使すらやむを得ない……そんな怒気を滲ませる父の立ち姿にアンネローゼは涙ぐみながら、お姉さんの服のすそを掴み、そして見上げた。

 彼女は一流の戦士の覇気に晒されながらも、いつも通りの涼しげな顔でアンネローゼのことを見下ろしている。

 その口が、きっと父から助けてくれると少女は願っていた。

 嫌な父による強制から、女性はいつも通りアンネローゼを優しく逃がしてくれると信じていた。

 しかし、

 

『……まあ、そろそろ潮時かな』

 

 女性の口から放たれたのは、残酷な一言だった。

 思わず息を詰まらせるアンネローゼに、されど女性はその頭を撫でさすった。

 彼女はいつもと変わらない口調で、少女に囁く。

 

『アンネローゼちゃん。ここが君の分水嶺だ』

『何を……』

『親に従って戦士になる途を選ぶか。それとも、私に付いてきてここを離れて、本格的に菓子職人(コンディトァ)の修行を始めるか』

『お姉さん……!?』

『決めるのは君自身だ。さあ、どうする?』

 

 それは未だ世間の“せ”の字も知らない少女に行わせるには、あまりに無慈悲な選択だった。

 彼女の父もまた、女性の提案に口を挟む。

 

『馬鹿なことを。誰がこれまでその娘に飯を与えた? 誰がその服を買ってやった? 金も稼げない子供のくせに、親の言うことに逆らうな。貴女も変なことを言うのは……』

『そうして娘の認知を歪ませるのは卑怯だと私は思うよ。今言ったことはただ、生んだ親としての責任を果たしているってことだけだろう。言うことを聞かないなら育てない、というのは私の辞書によれば人間の親のやることと少し違うんじゃないのかい? じゃあこうしよう。――アンネローゼちゃん』

『……』

『今君の親が口にした、幼い君が生きるために必要なこと。菓子職人を目指すとして、それは全部私が保証してあげよう』

『……!』

『もっとも、それは成人するまでの間だけどね。流石にそれから先は自分で稼ぎ口を見つけてもらわなくちゃ困るが、それまでを保たせる余裕くらいは十分にあるさ。調べによれば、それが善い大人の定義の一つらしいからね?』

『黙れ! 良いからこちらへ戻れ、アンネローゼ!』

 

 厳しく叱責して、子供に無理矢理でも言うことを聞かせてこようとするアンネローゼの父。

 対して、女性の方もこれまでのように優しさだけで語ってくれているわけではなかった。

 成人してもなおその行為に甘えるようなら、容赦なく見捨てる――これまでのように甘えてばかりではいられないのだぞ、とあえて突き放すような物言いを女性は取っている。

 

 それはアンネローゼにとって、今まで感じたことのない恐ろしさだった。

 これまではなんやかんや言っても、家に帰れば必ず温かいご飯とベッドがあった。父親とは気が合わなくても、母や幼い弟たちがいれば気分は和らいだ。

 だが、もし女性と行く途を選んだとしたら、その保証はいずれ失われる。家族と会うことすら、きっと気軽には出来なくなるに違いない。

 

 幼さ故に、将来を予測することが余りにも難しい――女性の出した『成人まで』という条件の先にある未来は、アンネローゼの瞳には踏み出すなんて到底出来っこない闇そのものに映った。

 一方の父に任せておけば、ほぼ将来は確約されているに等しい。やりたくはないが、村の名誉ある戦士として一生を安定して過ごすことが出来るだろう。

 

 ――それで、結局どちらを選べば良いの?

 

 アンネローゼには分からなかった。

 自らの将来に対する正しい答えなんて、分からない。

 分からないままに、彼女は沈黙しながら、自然と意識を自分の心の奥へと埋没させていく……。

 

 

『アンネローゼ!』

『……』

 

 遠く、自分を呼ぶ声が聞こえる。

 父の声だ。

 ……それを聞く度に、いつだって幼いアンネローゼの胸はきゅっと苦しくなる。

 怖いのだ。

 自分の知らない経験(もの)をたくさん知っていて、「それが正解だ」とばかりに押し付けてくる。

 「幼いお前には言っても分かるまい」と、アンネローゼにはそれが正しいのか間違っているのかまったく分からないことを父はいつも彼女にやらせるのだ。ちょっと口答えしただけで、その何十倍もの正論らしい言葉と態度で圧をかけてくる。それの正誤が分からなくて、彼女はいつも勢いに負けて「ごめんなさい」と言ってしまう。

 

 ――それと、自分の将来が見えないことと、いったいどちらが()()のだろう?

 

 アンネローゼはふと、そんな疑問を考えた。

 分からないことを人に言われるがままに受け入れさせられること。

 たとえ分からなくても、それでも一歩先に踏み出すこと。

 それらを比較した先に何かがあると直感が言ってきて、彼女はうんうんと考えてみた。

 

 ――その時に過ぎった、他ならぬお姉さんの一言。

 『代わりに失敗作はいつも通り私のおやつだがね』――そうだ。

 

『……』

 

 アンネローゼは、固く握りしめていた女性の服の裾から手を放した。

 そうして、隠れていた女性の陰から前に出て、父親の方に踏み出す。

 

『まったく……』

 

 彼女の父はようやくか、と気を静める素振りを見せる――しかし。

 

『お姉さん。鉄槌(ハンマー)、返してもらってもいいでしょうか?』

『どうぞ』

 

 虚空に開いた異空間の隙間から、出てきた鉄槌(ハンマー)の柄をアンネローゼは握る――そして。

 

『……それは何の真似だ?』

 

 彼女はそれを腰に吊るすのではなく、他ならぬ父親へと向けた――その握り締められた腕は、訓練の時から変わらず震えている。

 

『もう嫌なんです、お父さん。いえ、今はもうこう言いましょう……馬鹿親父』

『アンネローゼ……! なんだ、その口の利き――』

 

 

『いい加減にして!!』

 

 

 あまりの音量に、小屋全体が揺らいだ。

 

 

『だって、昔からずっとお父さんは私の言う事なんて聞いてくれなかったでしょう! ずっとなんでもかんでも無理矢理やらせて、出来なければご飯無しだとか外に出すとか森の中に置いてくるとか……家の中でも剥き出しの剣を突き付けてきて気に入らなければ殴ってきて、そんなにも私たちに言うことを聞かせたいの!? ええ、そのくせ自分は間違ったことを言われてもなんにも直さないのに! 約束を忘れてたらごめんなさいも言わないでそっぽを向くだけ、お風呂を洗い忘れてたら注意した私たちに「言い出したお前たちがやれ」と言ってやらせて! どう考えても頭がおかしいのでは? ということを平気で押し付けてきて、それでいて他の家の人に相談してみた時は「身内の恥を晒すな」と言ってよりにもよって真っ赤になった火かき棒で殴ってきたりして――あーもう、思い出したらますます腹が立ってきたわ――もう言うこと為すこと何もかもが無茶苦茶で、それでいつも自分が正しいんだという態度が本当にもう嫌なのよ! そんな口で何が立派な戦士よ、戦士の名誉よ! この際はっきり言わせてもらいます、お父さんの口から出てくるってだけでそんなの昔からろくでもないしなりたくもないなんて思ってた! だって明らかに間違ってることだって暴力とか親の権力とかで無理矢理ゴリ押しして言うこと聞かせて、それで村の戦士長!? 本当に立派な戦士なのよね、ええ、お父さんは! そう、それが立派な戦士の有様ってものなんでしょう!? まったく意味が分からないし分かりたくもないわそんなもの! ぶっちゃけ格好悪いしそんなの死んだってなりたくないわ! 頑張ってるシュトルツやシュタルクに努力が足らんとか出来損ないだとか平気で言って、だったらお父さんは同じくらいの時にそれを出来たのかしら!? 隣のおじさんもあそこの八百屋のお爺さんも、聞いたら鼻で笑ってたわよ、ええ、目の前で口にしたらまた殴ってくるから絶対に言わなかったけれど――とにかく! そんな人間の言う『戦士』なんてよく考えたら――いえ、よく考えなくても――とにかく、マトモじゃない! だってそうでしょう!? 子供に殴るわ蹴るわ崖から落とすわ、出来損ないの役立たずに努力不足って言うのが戦士なんでしょ! そんなのになんてなりたくもない――そう、だから私はなりたくなかったのよ! だから私は菓子職人になりたい! お姉さんといた時みたいに美味しいお菓子を誰かに出して、それで喜んで貰って安心できるような仕事の方が何百倍も良いし、マシに決まってるもの! そうね、こっちの途だって難しいかもしれないけれど、お姉さんはアンタみたいに筋の通らないことは言わなかったし分からないことがあったらきちんと教えてくれたわ! 殴って黙らせようなんてしないでね、お父さんとは違って! だから私は絶対に戦士になんて、考えるだけで吐きそうになるくらい気持ち悪いと思うしなんなら今実際に吐きそうになってきたし、そんなのになんかならないし菓子職人になるの! 分かったらさっさと出ていって、私はお姉さんと一緒にこんなところなんかから出ていくわ! そっちの方が全然怖くない! 出ていくのも怖いけれど……失敗したってなんとかなるはず! それならこの村に残ってお父さんの言いなりになり続ける方がずっと怖いし、嫌だもの!!!』

 

 アンネローゼは「はーっ、はーっ……」と荒く息を吐き出す。

 抱え込んでいた心の膿を吐き捨てきって、すっきりした面持ちになった彼女は覚悟を決めて鉄槌(ハンマー)を父親に向ける。

 

 ――分からない未来に飛び込むのは怖いこと。

 だけれども、それで失敗したってたぶんなんとかなる。

 お姉さんだって、笑って失敗作を食べてくれたし……きっと、そういうことなのだと思う。

 自分の考える失敗なんて、大人からしてみればそう大したことでもないのだ。

 

 だから、それよりも。

 父の言うことに従って生きる未来のことの方が遥かに怖くて悍ましいのだと、アンネローゼは己なりの答えを見出した。

 

『……もう良い』

 

 娘の訴えを聞いて、父親はぼそりと呟いた。

 表情がごそっと抜け落ちた今の彼の顔からは、その心中を察することは出来ない。

 ただ間違いなく、これだけは分かる。

 これまでにアンネローゼが受けてきた通りの、「もはや暴力しかない」という彼女の父親なりの正しい選択がこれから下されるということだけは。

 

お前たち(・・・・)、準備をしろ。アンネローゼは連れて帰る。小屋は壊す。魔法使いは……死なない程度に痛めつけろ』

 

 その言葉と共に、小屋の周囲を取り囲んでいた村の戦士たちが一斉に気配を強める。

 

『こうなるか……うん、なるほどね』

『お姉さん』

『見せてもらったよアンネローゼちゃん。それが君の答えなんだね。……だけど、ざっと25人か。これだけの大人の戦士を相手にしては、いくら才能あるとはいえ君一人じゃとても――』

『少し待っていてください、すぐに片付けますから』

『――へ?』

 

 なんだかすっとんきょうな声を上げた女性を背に、アンネローゼは鉄槌(ハンマー)を片手に持って、一歩前へ足を出す。

 

『今回は手加減なしだ。本気で行く、血の繋がった娘だろうと骨の一つや二つ――』

『【地崩撃・五連】』

 

 続く二歩目にて、彼女は父親の言葉を待たず前方へ倒れ込むようにして距離を詰める。

 通常五歩はかかる彼我の間を、たった一歩で埋めたアンネローゼ。

 これまで彼女が見せたことのなかった攻撃(・・)のための技に驚いた父親が咄嗟に武器を構えるより先に、彼女は――先手の一打。

 更に反動を利用して身体を回転させ、相手が反撃の姿勢を整えるより先に勢いを増して二打目。

 同様に三打、四打、五打。

 ――顎。右肘。左肩。右膝。とどめに鳩尾。

 人間の弱点に寸分違わず打撃を叩き込み、そのままの勢いで、彼女の鉄槌(ハンマー)は自らの父親を小屋の外まで勢いよく吹っ飛ばした。

 

『――師!?』

 

 いきなり小屋の中から吹っ飛んできたアンネローゼの父に、戦士たちは「すわ魔法使いの抵抗か?」と思った。

 しかし、続いて小屋の中から姿を現した幼女の顔に、彼らは勘違いを悟る。

 

『皆さん、退いてください。……とは言っても、子供の戯言なのかもしれませんね』

『……そうだ。戦いに背を向ける戦士はいない』

『でしょうね。では仕方ありません。少しばかり痛い目を見てもらいます。ただ、私も今回初めて本気を出しますから――痕が残ったら、ごめんなさい』

 

 付け加えられた可愛らしい謝罪とは真逆に、アンネローゼの鉄槌(ハンマー)が大気を割る。

 襲い来る村の戦士たちを前にしても淀みなく振るわれる鋼鉄の閃撃が、落雷のような轟音を響かせながら次から次へと彼らを薙ぎ倒していく。

 しかもそれは恐ろしいことに徐々に勢いを増していき、途中からは歴戦の戦士たちが構えた防御の姿勢をその上から叩き潰し始めるのだ。

 彼女の三倍、四倍以上も背丈のある戦士たちが、蟻のように吹き飛んで行っては近場の木々に叩きつけられていく。

 それこそが、彼女の持つ戦士としての才能の証明。

 

『いやはや、まさかこれほどまでとはね……』

 

 お姉さんと呼ばれる女性もまた、()()使()()()()()()()()その才能を見抜いていた。

 『魔力性異格積層症(シグクーリヤ)』。

 別名、『英雄形成症(シグフルーザ)』。

 体内に見えない魔力製の筋肉及び骨格が勝手に形成されていき、年齢を重ねるにつれそれらが積層していくことで、対象は自らが望む望まないに関わらず常人を超えた膂力を発揮することが出来るようになる。

 歴史に名を遺す多くの英雄たちが患っていたことが後に発覚し、命名された病症の一つ。

 それがアンネローゼの身に降りかかった、望まぬ『才能』の正体である。

 

『……これで、終わりね』

 

 時間にして僅か五分。

 それが、たった六歳のアンネローゼ一人が村の成人した戦士たち二十五人を打ち倒すのにかかった記録だった。

 

『ば、馬鹿な……』

 

 武器を粉砕され、それを握っていた腕すら真逆にひん曲がった最後の戦士が地に伏す。

 それを哀しげな眼で見届けたアンネローゼは、僅かに息を乱すばかりだった。

 

『お疲れさま』

『お姉さん……』

『よくやったね。さぞ辛かっただろう』

 

 女性はアンネローゼの側に寄り、彼女の鉄槌(ハンマー)を握る手に自らの手を重ねる。

 それから一本ずつ、緊張と悲しみに固まってしまった少女の指を武器の柄から外してやった。

 仁王の如き力で握りしめられた鉄槌(ハンマー)の腕には、驚くべきことにアンネローゼの手形がほぼそのまま残っていた。

 それを少しばかり観察して、女性は適当に近くに放り捨てた。

 もう、少女がそれを握ることはないのだから。

 

『戦士はすぐに復活してくる。今の騒ぎを村の人たちも聞きつけただろう。ここを離れるなら今だ』

『……』

『とはいえ我慢することはない。移動は私に任せて、君は……泣きたいなら泣きなさい。我慢することはない。子どもってのはね、大人に遠慮なんてしちゃいけないらしいからね』

『……!』

 

 アンネローゼは勢いよく、女性の胸の中に顔を押し付けた。

 その中で漏れ出る嗚咽と涙、苦悶と涎……ありとあらゆる少女の感情の発露を受け止めながら、女性は飛行魔法を使って、静かにクレ地方の空を羽搏いたのだった。

 

 ――それが、アンネローゼの真実。

 

 

 

 

 

「……そんなことがあったのかよ」

「そう、これが事実。お父さんと他の人たちを倒して、私はお姉さんと一緒に村を飛び出したの」

 

 アンネローゼの話の内容は確かに、シュタルクの中にある彼の厳しい父親の像と一致していた。

 才能が見られなかったシュタルクとは違い、才能が有りながらもなおそれを捨てた彼の姉。

 あの父親なら姉に対してそれくらいやるかもしれないという納得が、彼にはあった。

 

「それから色々あって、お姉さんに紹介してもらった人に弟子入りしたりして。一昨年にようやく独立して、小さいけれど自分の店が持てるようになったの。これでも評判は悪くないのよ? 協会の強そうな人も時々立ち寄っていってくれたりするし。一回そこの凄い偉い人にあって、すっごい舌打ちされたこともあったけどね……」

 

 そう語るアンネローゼの顔は、誰が見ても分かるほど生き生きとしていた。

 だが、と――シュタルクはつい邪推した。

 もし、今語られた通りの力が戦士として十全に発揮されていたならば。

 村が滅ぼされた時に戦士として完成した姉がいれば。

 村は助かったのかもしれないのでは……? と。

 

「(……違う)」

 

 だが、そんな考えを彼はすぐに打ち消した。

 姉は戦士でないことを選んで、今の生活を精いっぱい頑張っているのだから。 

 なら、たらればの話を語るよりも、シュタルクはそちらの方を素直に応援したかった。きっと彼の兄も、ここにいたならばシュタルクと同じ感想を抱いただろう――つまり。

 

「……良かったな」

 

 シュタルクは今の姉の顔を見ているうちに、自然とそんな言葉を漏らした。

 それを聞いて、アンネローゼは一瞬きょとんとして。

 それから同じように、成長した弟の顔を見て微笑んだ。

 

「貴方もね。見れば分かるわ。ここに来るまで、すごく頑張ってきたんでしょう? せっかくだもの。こんなつまらない話なんて忘れて、そっちの話も聞かせてちょうだい?」

 

 

 

 

 

「……そんな訳で、ここまでフリーレンたちと旅してきたんだ。だけどこの先の北部高原に出るのに一級魔法使いの資格がいるからって、今は二人とも試験を受けてる最中なんだ」

「へぇ、奇遇ね。さっきの話のお姉さんも、ちょうどこの間私の所に顔を出してきて同じ試験を受けるって言っていたわ」

「そういうこともあるんだな。じゃあ、試験の中で知り合っているかもな。なんて言うんだ?」

「お姉さんの名前? それはね――」

 

 

 

 

 

「――リンゼ、っていうの」

 

 




「もし、何者かになれる才能があったとして。それにならない自分を選ぶのは悪いこと? それとも、本人がそれを嫌がったとして。周囲が「そうあれかし」と強いるのは善いことなのかな? ……アンネローゼちゃんの答えは得たけれど、それと同じくらい君の答えも重要なものだと私は思うんだ。だから教えて欲しいんだけれど……おおっと、そんな強い目で見たってこれはあげないよ。だって、これはもう私のものだからね」

 少女の顔をしたモノは、包帯を幾重にも巻かれた男性の枕元に立つ。
 彼の隻眼に射殺さんばかりに睨まれながら、彼女は小屋の入り口で拾い集めてきたクッキーの破片を土の味と共に愛おしそうに呑み込んだ。
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