正史の続きIFです。

個人的には良エンドですが、人によってはビターエンドかもしれないです。ご注意ください。

※pixiv様でも掲載しています。

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最後の執着―忘れないよ―

 ああ、何度目だろう。

 あの日、結城君がいなくなってから彼のいない夢を見ることはない。

 

 ――――――

 約束を思い出した私たちは、約束を果たすべく式の途中なんて一切気にせずに屋上へ走った。

 

 それまでだって彼のことを忘れた日はない。

 

 彼は転校してきて数か月で私の一番大切な人になっていたのだから。

 それでもずっと何かを忘れているような気がしていて、でも彼はそんな様子を一切見せなくて……。

 

 だから、思い出したとき彼への想いが溢れだした。

 普段の私ならあんなに目立つこと絶対にしない。

 屋上があんなに遠く感じたのは初めてだった。

 

 ようやくたどり着いて、アイギスの膝で横になる君を見て、少し妬いちゃったのは秘密。

 

 みんな笑ってて、普段表情の乏しい君も穏やかな表情をしてて、何故かアイギスだけが少し悲しげな表情をしてた。

 

「結城君、寝てるの?」

 

 彼の顔を見ながら私はアイギスに聞いた。

 でもアイギスは何も言わなくて、寂しそうな表情をするだけ。

 そんなアイギスを見て、いやな予感が私を走り抜けた。

 

「ちょっと?理君?」

 

 焦りから、みんなの前なのに彼の名前を呼んでいることにさえ気が付かなくて。

 美鶴先輩の提案でとりあえず彼を寮の部屋に運んだところまでははっきりと覚えている。

 そこからはいろいろな人が彼の部屋に入って……。

 

 ――――――

 

 美鶴先輩に呼ばれて集まると、知らない白衣を着たお医者さんがいた。

 もう、考えたくなかった。聞きたくなかった。

 

 それでも現実はどこまでも残酷で。世界を救った彼に一切の奇跡はなくて。

 

「お別れを言ってあげてください」

 

 桐条グループのお医者さんなんだろうか?

 彼のことを知っていたのかそんなことを言ってきた。

 

 一人ずつ彼の部屋に入っては出てくる。その様子を見つめる私の足は一向に動きそうになかった。

 

「ゆかりちゃん、その……大丈夫?」

 

 風花が控えめに聞いてくる。すごく気を使ってくれていることは分かった。

 でも、大丈夫なわけがなかった。

 

 どうして私の大切な人はすぐに私を置いて行っちゃうの?

 

 風花の言葉にまともな返事はできず、それでももうあとは私だけだと、動こうとしない足に鞭を打って彼の部屋に入った。

 

 もうこの部屋に入るのは何度目だろうか。

 

 みんなには絶対に言えないようなことがたくさんあったこの部屋が、今日はなんだかすごく寒い気がした。

 

「ねえ、理君。ねえ、お願い。……理、お願いだから返事してよ」

 

 二人で満たしていた空間に、私の想いだけが零れていく。

 君は全然私を下の名前で呼んでくれなかった。

 

「岳羽」

 

「……」

 

「岳羽さん?」

 

「…………」

 

「はあ、わかったよ。ゆかり」

 

「分かってるなら最初からそう呼んでよ」

 

「……」

 

 こんなやり取りが何度もあった。

 

 ちょっと前の私が見たら卒倒物だろう。

 人に、しかも男の人に、自分がこんな風に甘えるなんて。

 

 私は彼が好きだった。

 めんどくさそうな顔をして、でも実は内心で照れていた。そんなあなたが大好きだった。

 

「こんなのあんまりだよ」

 

 お母さんと一緒に会ってくれるって約束したじゃん。

 

 バレンタインのお返しは三倍返しだよって。

 

 春休みは二人だけでディスティニーランドに行くって。

 

 今から待ちきれなくて場内マップとか見て、デートコース想像して。

 夜は二人で外泊して、大切な思い出を作るんだって。

 

「ねえ、どうして。どうしてこうならなきゃいけなかったの?」

 

「いい加減にしてよ、バカ理。勝手にさよならなんて許さないんだから」

 

 私を一人にしないでよ。

 

 そのあとは少しの温かみすらなくなった彼の胸に顔をうずめてずっと泣いていた。

 

 あまりにも私が出て来ないからと様子を見に来た美鶴先輩と同じくらい泣いていた風花になだめられてようやく私は部屋を出ることができた。

 

 今思い出すと美鶴先輩も風花も泣いていたのに迷惑をかけちゃったなと申し訳なく思う。

 

 ――――――

 

 その日の夢は何度でも見たいと思えるくらい優しくて甘い夢だった。

 

 聞こえるだけで私の胸を締め付けるあなたの声。

 

 その声が何度も名前を呼んでくれて、いつもの帰り道を歩いて、シャガールで二人だけで過ごして、眠れない夜はお互いの部屋を行き来して。

 

 だからこそ、目覚めは悲痛なもので。

 

 それでも数日経つと、夢だけを楽しみに生活ができるようにはなった。

 

 お母さんにも会って、あなたのことを話したよ。

 好きな人を失うってこんなにつらいんだね。

 

 でも、私はお母さんみたいにはならない。

 

 だって毎日夢で会えるから。

 

 ――――――

 

 今日も目覚めの悪い朝を何とか振り払って部屋を出る。

 風花は起きていて、私を見るとすぐに駆け寄って来た。

 

「ゆかりちゃん。これ、届いたよ」

 

 風花が渡してきたそれは有名なお菓子屋さんの箱だった。

 それも、相当に大きいサイズ。

 

「風花、これどうしたの?」

 

「わからないけど、ゆかりちゃん宛だって。覚えはない?」

 

 ここのお菓子は有名な分、高級で大事な人への贈り物でもないと高校生の自分が買おうとは思わない物だった。

 

 ……大事な人。そう考えてふとカレンダーを見る。

 

 3月14日。

 

 ……まさか!?

 

 逸る気持ちを何とか抑えて私は箱を開ける。

 

「え、ゆかりちゃん?身に覚えのないものを開けるのは危ないんじゃ……」

 

 風花の制止も耳に入らず箱の中を見る。

 中には6袋のクッキーの詰め合わせと細めの黒い箱1つ。そして大きめの箱がひとつと添えられた2枚のメッセージカードが入っていた。

 

「これって、もしかして……」

 

 風花が口に手を当てて、目を見開く。

 

 私の目からは雫が溢れていた。

 

 私は涙がメッセージカードにつかないように気を付けながら、それを手に取る。

 懐かしい彼の字がそこにはあった。

 

 一枚目にはみんなへの感謝とホワイトデーということで女性陣へのお返しも兼ねてという内容だった。

 クッキーはコロマルが食べられるようにちゃんと犬用のものも用意されていて、真面目な彼を思い起こさせた。

 

「風花、これみんなに渡しておいてくれる?」

 

 1枚目のメッセージカードとクッキーの袋を風花に渡す。

 

 そんなことを言いつつも私の頭の中は2枚目のカードへの期待でいっぱいいっぱいだった。

 そんな様子を感じ取ってか、風花はすぐに他のみんなの方へ走っていった。

 その様子を見届けることなく、涙をぬぐい2枚目のカードへ目を通す。

 

 岳羽ゆかりさんへ

 

 正直、この手紙を君が読んでいないことを願っているけど、どうだろう。難しいかな。

 

 手紙なんて柄じゃないって思うかもだけど……直接伝えるのは難しそうだから。

 

 ニュクスを倒した後、僕は悟ってしまったんだ。

 

 もう長くないんだろうって。

 

 でも、君の、ゆかりの泣いた顔を見るのは苦しくて、どうしても言えなかった。

 

 約束、果たせなくてごめん。

 

 お母さんにはちゃんと会えた?

 

 ディスティニーランド行きたかったな。

 

 だからせめて、ホワイトデーだけはと思って……三倍返し。

 

 この手紙と細い箱はマカロン、大きい方はバウムクーヘン。

 

 もし、一緒に食べれたらとか期待して、大きいバウムクーヘンにしたんだ。

 

 もう余白が少ないね。

 

 最後にどうしても伝えたいことを端的に。

 

 愛してる。ゆかり、ずっと。

                          

 結城理

 

 

 普段は無口な彼の、慣れない長い文章に少しよそよそしさを感じる。

 

 それでも、この手紙から溢れてくる想いが私の胸を強く打つ。

 ああ、ようやく君のいない生活に慣れてきたと思ったのに。

 

「私も愛してるよ。理」

 

 そう呟いて周りを見ると、目に涙をためた風花がみんなを連れて戻ってきていた。

 

 ふと、カードの裏を見る。

 

 きれいな桜の意匠があしらわれていた。

 

 大丈夫だよ。今日も夢で会えるから。


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