未来のエッジランナーの脳内に銀腕の男が住み着いたお話。

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シルバーハンドin エッジランナー

 ナイトシティはたぶん世界で一番、五月蝿い街だ。

 仕事に追われるコーポの怒声。ギャングにカツアゲされてるやつの悲鳴。とち狂ったサイバーサイコの放った銃声…etc。

 

 この世に存在するありとあらゆる騒音が、日夜問わずに鳴り響く街がこのクソッタレなナイトシティなわけだが、そんな騒音選手権の中でも優勝候補だと思われる男が、俺の中でずっと喚き続けている。

 

『おいデイビット。その金でギター買おう。 そっちのがあんなクソコーポ牧場に金を落とすよりもよっぽど有意義だと思うぜ?』

 

 銀腕の男は厭らしい笑みを浮かべながらベンチで寝そべっていた。

 

「うるせぇよ、ジョニー。 制服くらいはまともに買わないと流石に母さんにドヤされる。 ただでさえデバイス代をこっそりケチってんのに」

 

『はぁ…あのな、デイビット。 てめぇの母ちゃんはなんもわかっちゃいねぇ。どんだけ金注ぎ込んで頭を良くしてアラサカ製クソコーポになろうが、てめぇの息子はハッピーにはならねぇ。

ゴミ箱の中の頂点になんの価値があるってんだ? ゴミはゴミだよ』

 

 ジョニーはどこからか取り出したタバコを吸いながら、知った様な口を効いた。汚いものが極力排除されているシティセンターで、一見するとホームレスとも思える格好の男が古臭い紙タバコ片手に喚き散らかしているというのに、周りの上品な社会の歯車たちは見向きもしない。

 

「そもそも制服をダメにしたのはお前の提案に乗ったせいだ、ジョニー。 おかげでパンクロッカーの提案なんてクソ喰らえってようやく学べたよ」

 

『ケッ。 俺から言わせてもらえば、クソコーポの坊ちゃんに唾吐きかけるくらいなら殴りかかればよかったんだ。

俺の提案は『クソコーポの顔に泥を塗ってやれ』だ。 あいつのお高いおべべに唾を吐きかけろなんて平和的な交渉じゃなかっただろ。ぶん殴って鼻をへし折ってやれって言ったんだよ、俺は。

そうすれば制服なんて必要なくなってたんだ』

 

「それで路頭に迷いロッカーボーイにでもなれと? 稀代のテロリスト、ジョニー・シルヴァー・ハンドみたいに?」

 

『そういう事さ』

 

 俺は無視し、ジョニーを視界から追い出してアラサカアカデミーへと向かう。 が、視界を移した先で当たり前のようにジョニーが立っていた。

 

『俺の目を信じろ、デイビット。

てめぇには素質がある。 その金をギターに使えば、一年後にはアラサカの使いっ走りなんかよりもよっぽどイカしたクソッタレになってること間違いなしだぜ?』

 

「はいはい」

 

 伝説のロッカーボーイを適当に相手しながら、メモリアルパークを歩いていると、ふと上の橋にもたれかかっている白髪の女の子が目に入った。

 

 たまに、見かける子だ。

 どこかの大企業で働いている子なのだろうか? その割に、格好はコーポらしくない、どこかサイバーパンクがするような装いをしている。

 

『なんだ、デイビット。

あの女が気になるのか?』

 

「……なんのことだよ」

 

『惚けるんじゃねぇ。 前にも言ったが、てめぇが今見てるもんは俺の今見てるもんでもあるんだよ。あの女をジロジロ見てるのなんて丸分かりだ』

 

「最悪の同居人だよ、オマエ…」

 

『大昔に付き合ってた女にも同じこと言われて追い出されたぜ。 名前は忘れちまったが』

 

 おどけるジョニーを睨みつけ、視線を白い女の子に戻すとそこにはもう姿はなかった。

 ……最悪だ。

 

『今度見かけたときは声掛けちまえよ。 それか、俺が代わりにやってやろうか? 俺に運転を任せてみろよ。目が覚めた時には、お前の隣には幸せそうなあの子の寝顔だ』

 

「このチップにそんな乗っ取り機能はねえってドクが言ってたよ」

 

 俺がコメカミのあたりを人差し指で叩くと、目の前のジョニーに少しノイズが走った。

 

『あんなヤブリパーのこと信じるのは馬鹿だけだ。 そもそも、あの野郎がやったのはクソアラサカの死体から拝借した『お猿さんでもわかるRelic1.8の使い方』みてーな幼稚な表題のマニュアルを適当に読み上げただけだろ。

こういう胡散臭いモンには、隠し機能が実装されてるに決まってる。 クソコーポのやりそうなことだ』

 

「あんたが人の身体を使って無茶苦茶やりてぇってのだけはわかったよ」

 

『俺をなんだと思ってやがる。 流石の俺でも他人の身体ではもう少し思慮深い行動をするさ』

 

「嘘つけよ。 それに俺が本当になりたいのはコーポでも、パンクロッカーじゃなくて…」

 

『その道はオススメしねぇな』

 

 俺が言い終わる前に、ジョニーがさえぎった。

 

「……まだ何も言ってねぇよ」

 

『最後まで言わなくてもわかる。 俺はお前の出来の悪い脳みそに居候してんだぜ? ハッキリ言ってやるが、お前にドンパチは向いてねぇ。 大人しくギターを買え』

 

 お上品な制服でも、ガラクタのピストルでもなく、な。

 

 ジョニーはそう言い残すと、ノイズともに俺の視界から消えた。 なんだか、その時のジョニーの表情はいつもよりもちゃんとした大人のようだった。

 

「……どいつもこいつも好き勝手いいやがって」

 

 あれをやれこれをやれ、と指図されればされるほどに、それに抗いたくなってしまう。

 

「……ハハッ。 こんなこと口に出しちまえばまたギターギターうるさくなるな」

 

 まるで人でなしのロッカーボーイが返事をするかのように、視界を青いノイズが走った。

 

*

 

 

 ジョニーと同居することになったきっかけは今から半年前まで遡る。

 当時の俺は今日と同じようにサントドミンゴからコーポプラザまで重い足をどうにか動かしながら向かっていた。

 

 あの日も昨日暴れてたジェイムズ何とかって軍人と同じようにサイバーサイコが暴れて、道端に沢山の血溜まりを作っていた。

 

 アラサカアカデミーに真面目くさって定刻通り登校するより、サイバーサイコが暴れた痕跡を見物したいと考えた俺は、サイバーサイコが最初に目撃された路地裏へと足を向けていた。

 

 あの時の俺が期待してたのは、精々壁にこびりついた脳漿くらいだった。

 が、なんと驚くことにアラサカ社員の死体、というか残骸をゴミ袋の山の中に見つけてしまった。

 

 後処理に駆り出されたNCPDが見落としたのだろうか。 それともアラサカ社員の死体処理という特大の面倒事を恐れて放置したのだろうか。

 

 そんな厄ネタたる彼(或いは彼女)だったまのは、まるで己の赤子を抱くかのように、妙に大きなスーツケースのようなものを抱え込んでいた。

 

 何を考えたか、俺はそれをひっぺがし、馴染みのリパーのとこにまで運んで行ってしまった。

 

 今思えば、あの時ばかりは真面目な優等生であるべきだった。

 あの時の愚行のせいで、俺は頭の中にテロリストを飼う羽目になったのだから。

 

 


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