NPCだけではなく、プレイヤーにもフレーバーテキストが設定できるなら。その設定が転移時に反映されるなら。
『なりきり』プレイをしていたプレイヤーが、なりたいキャラクターになってしまったなら。

エンリちゃんを助けるのが、騎士王でもいいじゃないか。


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騎士王

 

 

 

「──問おう。あなたが私のマスターか」

 

 月光の差し込む、森の只中に壮麗な麗人が立っていた。

 黄金の剣を握る銀の籠手。

 白銀の鎧に身を包み、サーコートを靡かせる様は物語でだけ聞くような『騎士』そのものを体現している。

 

 ──エンリは、命を救われた事も忘れて、思わず見惚れてしまった。

 

 抜き身の剣のように美しい人が、静かな瞳で見据えてくる。

 ありえないと断言してもいい事実を前に、呆然と眺めるだけに留まれたのは現実感がなかったからだろう。

 

 返答はない。

 その結果を受けてか、静かに騎士様はエンリに傅いた。

 

「急な事で混乱されているかと思います。ですが、あえて今は厳しいことを言いましょう。──私の力が、必要なのではありませんか?」

 

 その瞬間にエンリの脳裏に駆け巡るのは、いまこの場に『逃げてきた』という事実。

 村が、急な襲撃に晒されて、村の人たちが危険な目に遭って、お父さんとお母さんはエンリとその妹を命懸けで逃してくれたという事実。

 さらに思い返すのは、いま目の前にまで迫っていたエンリの命を刈る白刃を、この騎士様が払って助けてくれたという事実。

 

 エンリの瞳に力が篭った。

 根拠はない。理由も定かではない。流されているだけかもしれない。

 だけれど続いて紡がれたそれは確かに、少女の決意とも言うべき一言だった。

 

「力を、貸してくれますか?」

 

 微笑を浮かべる騎士様が頷いた。

 

「私の全てを。改めて問いましょう。──あなたが、私のマスターか」

 

 差し伸ばされた騎士様の手に、エンリは僅かな躊躇を滲ませながらも自分の手を重ねた。

 言葉の意味はわからない。でも、これは必要不可欠な儀式だと漠然と悟っていた。

 

「はい」

 

「ありがとう。これより、私はあなただけの騎士となりましょう」

 

 立ち上がる騎士様は、惚れ惚れとするほど美しい笑みを浮かべた。

 

 

 ──話は、数日前にまで遡る。

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 玉座の間、と名付けられた豪華絢爛な一室でため息を吐く少女が居た。

 いや、正確には少女ではない。『外装だけ少女の中身おっさん』と表すのが最適だろう。

 

「しばらくログインしてなかったせいで、根こそぎ持ってかれてるな……。この『玉座の間』だけ残ってるのもある意味で皮肉が効いてる」

 

 何せその声帯ではない場所から紡がれた声は、見た目からは想像できないほどに大人の男性の声だったのだから。

 仮想世界のデータだけで構成された肉体ではなく、実物の肉声である故のこと。

 

 ここは現実ではなく『ユグドラシル』と題されたゲームの中だった。

 

「確かにギルド維持費削減のためには機能をカットするのが無難だが、資産が丸々と残ってるのがなんともな」

 

 ブツブツと呟いているのは『外装だけ少女』──プレイヤー名『アルトリア・ペンドラゴン』だった。呟いている内容は所属するギルドに関してだ。

 ギルドを維持するためにはゲーム内通貨が必要になる。

 機能を最小限にすれば、そのいわゆる維持費は最低額を算出できる。

 

 なので維持のために機能を真っ先に削るのは理にかなっている。

 だが、ギルドの今まで積み重ねた軌跡をぶち壊しでもしないとギルドを維持できなかった、という訳ではないから文句が止まらない。

 

 一定期間のログインができない。

 そんなことは事前にわかっていた。

 だから、そのための資産を溜め込んでおき、計算して問題ないことを確認した上で、サービス末期に実装された課金アイテムである『ギルド自動維持システム』を起動させた。

 

 その結果、何故か資産はあるのにギルド機能が真っ先に削られ、いまのギルドは『玉座の間』を残して、それ以外は綺麗さっぱり消え失せていた。となれば文句の一つでも言いたくなるものだ。

 

 ひとしきりの文句を言い終えて、アルトリアがメニュー画面を開けばキャラクターのパーソナルデータが表示される。

 その一部の、詳細タブを開けば大判の単行本並みの壮大な痛々しい文章の羅列が、まさしく『黒歴史』が脈々と綴られていた。

 それを、アルトリアは眩しいものでも見る様に──外装はピクリとも動かないが──眺めた。

 

 

「懐かしいな。金稼ぎしかしてなかったから、こうして『黒歴史』を見るのも久々だ」

 

 思わず、玉座に腰掛けたままクツクツと笑った。

 誰しもが通る道。いわゆる厨二病を患っていた──今でも完全に脱したとは口が裂けても言えないが──時期に嬉々として書き殴った文章がアルトリアの懐古の篭った眼差しを受け止めていた。

 

 拠点NPCには『フレーバーテキスト』を設定できた。

 

 基本的にはNPCに付与するための設定で、遊び心の一環ではあったが、それを一部のユーザーが『なりきり』という目的のためにプレイヤー自身にも設定できるよう熱望を出し、運営はガチャの課金アイテムとしてそれを実装した。

 有料という事実を前に凄まじい怨嗟の声が噴出しつつも、『なりきり』のために必須であるそのアイテムを、望んでいたプレイヤーたちはこぞって買い集めて、プレイヤー自身に書き込めるフレーバーテキスト、というものが生まれた。

 

 もちろん、ゲーム内では何の効果もない。

『その一振りは天地を割った』とか書いても別に割れるようになったりしない。遊び心でしかない実装だった。

 

 ──それを、喜び勇んで買って設定したんだよな。

 

 消えていった通帳の中身を思い出して少し身震いしつつ、苦笑しながら流し読みをしていく。

 

「この時は旧時代の『Fate』って作品にハマってたんだよな」

 

 読み進めている内容は神話とでも呼べる様な話だった。

 Fate/Zeroで召喚されるはずのアルトリアがゲーム内に召喚されたら──。そんな妄想から生まれた壮大な物語。

 

 全盛期のユグドラシルは凄かった。

 広大な世界、膨大な職業、いくらでも弄れそうな外装。

 まさしく日本人のクリエイト魂にニトロをぶち込んだような弄りがい、といわれるゲームプランに爆発的な人気を誇ったのだ。

 

 そんな超大型MMORPGを、現実では重ゲーマーで『Fate』にハマっていたアルトリアが見逃すはずもなかった。

 

 画面のスクロールを続ける。

 動かない筈の表情が引き攣りそうになりながらも、スクロールさせる指が止まらないのは昔懐かしむ気持ちの方が大きいからだった。

 

 ツラツラと続いている文章を流し見しているが、その内容は一言に集約できる。

 つまり、『騎士道』である。

 

『Fate』作品。

 それは旧世界では誰もが知っている大型タイトルだった。

 聖杯とか、人理とか色々と深い設定はあるが、何よりもアルトリアが心惹かれたのは『過去の英霊が登場する』ことだった。

 

 ──アルトリア・ペンドラゴン。

 言わずと知れたブリテンの騎士王。

 

 その逸話は多岐に渡るが、臣民のために全てを投げ打った王として評価の高い英霊だった。

 Fateではそんな騎士の中の騎士。男の中の男が、女の子になっていた。

 

 説明する度に何を言っているのかと首を傾げられるが、女の子になっていたのだ。

 過去に偉大だとされた騎士王が、実は健気な女の子だった。

 

 それがアルトリアにはブッ刺さった。

 あれよあれよと沼に引き摺り込まれて、健気に騎士道を貫く姿に胸を打たれて思ったのだ。

 

 ──アルトリア・ペンドラゴンになりたい、と。

 

 いま思えば、何でそんな変な方向に思い切りがいいんだ、と顔を覆いたくなるが実際は楽しかった。

 具現化できる手段が『ユグドラシル』として目の前に降ってきたのもあって、アルトリアはその当時の生き甲斐の全てを、ユグドラシルに注ぎ込んだという訳だ。

 

「それも今や過去……。侘しいもんだ」

 

 画面に向ける眼差しには哀愁すら漂っている。

 外装には全力で金と時間を懸けた。アホ毛の一本から瞳の微細な虹彩に至るまで血眼で調整した気持ちの入りようだった。

 武装にも気持ちをぶっ放した。俺のアルトリアが弱いわけがねえ! とプレイヤースキルも磨きまくった。その結果として、上位勢に名を連ねたのはもはやギャグだった。

 

 ──なんで攻撃読めるんだよ!? ──私には直感がありますから! (裏声)

 変な方向で才能を開花させたりもしたが、愛とはかくも偉大である。

 

 チクタクと時計の針は進む。

 寂しさを抱えながら抒情詩の英雄譚を読み終えて、締めくくりには一言。

 ──彼女こそが騎士の中の騎士であった、と。

 

「騎士道、ね。アルトリアほどの力があれば、理想を突き進めるのかもしれないな」

 

 いや、それは彼女に対する侮辱だろう。

 力がなくとも得てしまった資格に並び立てる様に努力を続けた小さな少女。

 それがアルトリア・ペンドラゴンなのだから。

 

 ふと向けた視線が捉える時計はもう刻限が迫っていた。

 

「……さようなら、アルトリア」

 

 ──時計の針は00:00を差し示した。

 

 

「……ん?」

 

 強制排出されない。何故。

 疑問が駆け巡り、困惑を滲ませながら勝手に閉じてしまったメニューを開こうと身振りでシステムにアクセスするが反応がない。

 

 何かのバグか。

 最終日にまでバグ祭りとはむしろユグドラシルらしいかもしれない。

 ──だが、感情は別だった。

 

「最期という締めくくりに、相応しくな──」

 

 怒りを滲ませた言葉は、途中で泡沫に帰した。

 触れるのは喉。いま、言葉を発した喉だった。

 

 思い返すのは先ほど読んでいた文章。

 ──騎士王の声音は鳥の声のように美しかった。

 

「バカ、な」

 

 まさしくそう聞こえる、少女の美しい声がした。

 今までの自分の声とは異なる、甲高くそして澄んだ、尚且つ威厳すら感じられそうな『少女の』声音。

 

「どうなってる!?」

 

 湧き上がる恐怖心に誘われて叫んだ声は玉座の間に溶けて消えた。

 そしてすぐさま冷静な思考が戻ってくる。──まるで、幾千もの修羅場を経験した者であるかのように。

 

「……冷静に考えれば、仮想が現実になっている。フレーバーテキストすら意味あるものになっている、と考えるべきか?」

 

『ユグドラシル』でネカマプレイはできない。

 当然ながら性別は男性で登録していた。少女だったのはあくまで外装に過ぎない。

 

「──仮想が、現実に? なんだその小説のような展開は」

 

 吐露した不安の滲む声音は、すぐさま引き締められる。

 一つ息を吐けば、そこにいるのは歴戦の猛者だった。

 

「まず確認を。行動方針を決めるのは、それからでも遅くない……いえ、遅くありません」

 

 物資、場所、状況、連絡手段、確認すべき事柄は幾つもある。

 こうなると、拠点NPCが全撤去されてしまっているのが口惜しい。

 もし仮想が現実になっているなら、NPCであった円卓騎士たちと会話することが出来たかもしれない。

 だが、それは考えても仕方がないことだ。

 

「──宝物庫は、残っていますか。念のためギルド設備も確認しましたが、散々なものですね。寝室すらないとは……」

 

 宝物庫、そして玉座の間。

 残っていたギルド設備はたったのこれだけだった。

 

 食料はインベントリに収納している分がごまんとあるので問題ない。

 だが、籠城するという手段は取れない。

 外部からの助けが来るとは、どうしても思えなかった。こんな超常現象を前にして運営が正常に動いていることを期待するのは愚かだろう。

 

「仕方ありませんね。遭難とは訳が違うのですから」

 

 視線を向ける先には、玉座の間の出口があった。

 

 

 

 

 

 振り返ったアルトリアの視線を受け止めるのは山肌に出来た豪華絢爛な扉だった。

 ゆうに見上げるほどもある大きな扉が、山肌にピッタリと隙間なく付いている。

 だが、それも少し離れればモヤが掛かったように霞み、そして周囲の山肌と同化してしまった。

 

 妖精郷の幻惑。

 ギルド拠点を建てたスポット効果がまだ残っているらしい。

 見る者を惑わす幻覚だ。マップがない以上はアルトリアですら見失いかねない。

 

「防衛という点で考えれば、見つからない事が最上。もはや玉座の間しか残っていない以上、防衛力は皆無ですからね……」

 

 幻惑の効果を心強く思いつつ、アルトリアは前を向いた。

 広がるのは鬱蒼とした森。

 鼻腔をくすぐる芳香は退廃した世界しか知らないアルトリアの感動を呼ぶのに十分な威容を誇っていた。

 だが、そんな時でも冷静に観察を続けていた。

 

「……見るからに人の手は入っていない。──虫や小動物の声もしますね、生態系が確立されている筈。……ユグドラシルに近いなら、拠点を置いていた妖精郷エリアかと思いましたが気配がまるで違う。別のエリアに飛ばされた……? いえ、憶測は無用ですね。少し緊張しますが、行きましょう」

 

 ファーストエンカウント。

 この状況下であればモンスターとの遭遇戦になるだろう。

 可能なら戦わず対話で済む人間相手が望ましいが、この鬱蒼とした森では到底望めない。

 

 直感が導くままに従って歩を進めれば、視界に映るのは元の世界では贅沢の極みであろう大自然の風景だった。

 伸び伸びと天を臨む木々たち。乱雑に無秩序に、けれど息づく力強い生命力を感じさせる植物たち。

 癒しの効果を持つと噂の『まいなすいおん』とやらも出ているかもしれない。

 

 そんな興味を惹かれる光景の中にあっても、警戒は微塵も揺るがない。

 元々は一般人でしかない。戦場など経験したことすら、拳を打ち合わせた事すらない筈。

 だというのに、その警戒は戦場を常とする者の機敏さに満ちていた。

 

 そのことにアルトリアは違和感を抱かない。

 警戒を疎かにしないなど、あまりにも『当たり前すぎる』ことだから。

 

「……っ!」

 

 捉えたのはギャイギャイと騒ぐ何者かの声だった。

 注意深く腰を沈めて、ゆっくりと音を立てないように近づいていく。

 そして深い茂みを躱して覗き込んだ場所では、いつか見た覚えのあるモンスターが餌を確保して騒いでいた。

 

 ──ゴブリン。

 そしてオーガの姿だった。

 

 ユグドラシルで知る姿と特徴は一致している。

 

 ゴブリンは小さな背丈のモンスターだ。

 つぶれた顔に平べったい鼻を付け、明るい茶色の肌を持っている。髪色はマチマチだが、今回のゴブリンは黒髪だった。その髪は生まれてから一度も洗っていないのであろうベタ付きを見せている。小賢しい面の通り、小回りの効く戦い方と悪知恵を生かして攻撃してくる。

 

 オーガは隆々とした筋肉を持つモンスターだ。

 背丈は当然ながらゴブリンを倍したよりも大きい。猫背で尚且つ腕が長いために、その両腕が地べたにつきそうなほどだった。

 顎を前に突き出した、愚鈍な顔をしているが、その筋力は見た目からしても相当なものを誇っているだろう。

 知能に振る能力値を筋力に極振りしたかのような性能と見た目である。

 

 ──ゴブリンやオーガといえども、高レベルのモンスターは存在する。

 それだけの情報では油断できない。とはいえ、直感は容易に勝てると告げていた。

 

 ユグドラシルはレベル制が採用されているゲームであった。

 種族や職業を重ねるほどにレベルが上昇する、合算方式であったから、モンスターに関しては見た目で強さが測れると考えてほぼ間違いない。

 

 その感覚でいえば、この二種のモンスターは雑魚である。

 アルトリアの持つ戦場の嗅覚もそれを肯定している。それでも気は抜かなかった。

 

「会話が望めればいいのですが……」

 

 欲しいのは情報。戦闘して勝利することではない。知能が低そうに見えても多少の会話はできるかもしれない。リスクとメリットを天秤に掛けた末に、あえて剣は抜かず腰に拵えたまま、徒手で茂みを掻き分けて前に進み出た。

 

「お食事中のところすみませんが、少しお話を伺えませ──」

 

「ギャギャ! オンナ! オンナ!」

 

「ブッコロセ!」

 

「クタバレ! クタバレ!」

 

 残念ながら難しいようであった。

 目を血走らせて、飢えたように向かってくるゴブリンたちを、腰の剣で切り払おうと思いふと思いとどまる。

 大切な一振りをこのようなモンスター相手に振るって良いのか、という戸惑いであった。

 

「……いえ。命に貴賎はありませんね」

 

 だが、迷いは一瞬。

 どのような相手であれ、戦うのであれば全霊を持って相対するべきだろう。

 手加減など、命懸けで向かってくる相手に対する侮辱とすら思う。

 

 先刻の戸惑いに恥入りながら、アルトリアは腰の剣を抜き放った。

 剣自体が僅かに燐光を発する、美しい一振りだった。刀身には余計な装飾を刻んでいない。僅かに中心に走る溝があるだけの実用性を重視した長剣が、アルトリアの誇る神器級(ゴッズ)と呼ばれる位階の武装だった。

 

 銘は勝利の剣(エクスカリバー)

 固有能力として極大の光を放つ事ができる、何より含有するデータ量が凄まじい信頼に足る武装である。

 切り札とも呼べる、次元断切(ワールドブレイク)にも匹敵する7日に一度しか放てぬその技を、いま使うと決めた。

 

「エクス──」

 

 初手で、全力を。

 慢心を決して許さないと言わんばかりの全身全霊を込めた光撃が、いま解き放たれる。

 もしここに第三者がいれば大慌てで止めただろう。過剰攻撃(オーバーキル)すぎる、と。

 

「カリバァー!!」

 

 視界を染め上げるような極光が地を走る。

 触れたゴブリンがまるで溶けるように光の中に失せて、そのまま斜め上に直進した極大の光線が森を抉り抜いた。

 天を貫くほどに伸びて虚空に消え去った、膨大なエネルギーの籠った一撃。

 

 跡地には文字通りの塵すら残らない。ゴブリンとオーガがいたであろう場所には亀裂が残るだけだった。

 沈黙と静寂が場を満たした。

 ダラダラと背筋を垂れるのは、森の跡地を見ての冷や汗だった。

 

「や、やりすぎてしまいました……?」

 

 斜め上に伸ばしたから、森の被害は最小限にとどまっている。

 それでも5mほどもある、進路上の全てを掻き消す光線を前には眼前の森など抵抗しようがない。まさしく根深い傷跡を刻んでしまっていた。

 

 斜めに抉り取られた木々に恐る恐る触れながら、深く深く自戒と反省を込めて肩を落とした。

 

「や、やりすぎはダメですよね……そうですよね……」

 

 手加減とは、相手には侮辱となってしまっても、環境に配慮するためには必須である。それほどの力を持っているという意識に欠けてしまっていた。此度の一件で学びを得たアルトリアは深く反省して、謝罪の意を込めて木々の肌を撫でるのだった。

 

 

 ──それから数日が経過した。

 食料や水などは拠点である『玉座の間』の控え室に安置してあった箱にあった。とりあえず入れとけ、というスタンスで相当昔に詰め込んでいたために十分な数が確保できている。ゲームなので消費期限がないのがありがたい。衣装に関しても同様だ。住居は『玉座の間』で寝泊まりしている。ふかふかのレッドカーペットをこんな形で活用する事になるとは夢にも思わなかったが。

 

 ブリテンの王様らしく、フィッシュアンドチップスのアイテムを無数に開帳して夜ご飯をバクバクとかっ喰らうアルトリアの直感に、虫の知らせが走った。

 眉を顰めて手を止める。

 

「……助けを、求める声……?」

 

 何がそう感じさせたのか、理屈ではない何かだった。

 根拠はない。理由もない。

 だが、間違いなく誰かが喚んでいる。

 

「ここで退けば、騎士の名折れでしょう。……名も知らぬマスターに応えるのも、騎士の務めですね」

 

 食事は残しておく。

 後ろ髪を惹かれる想いを断ち切り、すぐさま立ち上がって駆け抜けた。

 

 

 そして。

 騎士の風上にもおけない所業を見せる甲冑姿の男の凶手から、少女を救う。

 問いかける言葉は決まっていた。

 

「──問おう。あなたが私のマスターか」

 

 

 







お読みいただき、ありがとうございました。





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