ブルア界樹の迷宮   作:伝説の超三毛猫

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世界樹の迷宮、もっと先生方に知ってほしいと思う今日この頃。
今回は仲間回を書こうと思って書きました。
設定の都合上、ゲーム開発部+ユウカ以外はそう簡単に登場させられないと思ったんだが、どうしたものか。
3層ボスを倒した後、思い切って後日談的なものを書くべきか?


仲間を想う

 探索が終わって休もうとしたある日の夜のこと。

 ユウカは、アリス達の部屋の明かりの火がまだ点いていることに気が付いた。

 

「…誰か起きているの?」

「ッ!!!? ゆ、ゆゆユウカ!?」

 

 入口から覗いてみると、起きていたのはアリスだった。

 一人、机に向かって何か本のようなものを書いていた様子だったが、ユウカの声を聴くや否や、飛び上がらんばかりに体を跳ね上げ、ページをめくりだした。

 

「アリスったら…もう、静かにしなさいよ。ほかの皆はもう寝てるのよ?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 アリスのリアクションを見てから、周りを見回したが、どうやら誰も起きてはいないようだ。

 

「こんな遅くまで何をやってるのよ?」

「え、えーとですね。これは冒険の書です!これまでの冒険をセーブデータに書き残していました!」

 

 そこまで聞いて、日記のようなものか、と判断するユウカ。

 

「冒険の書、ね」

「はい! ここまでの冒険であったことを、忘れないように書いているんです!」

「忘れないように?」

「はい」

 

 アリスは嬉しそうに頷いた。

 

「どんな魔物と戦ったとか、どんな場所を見つけたとか、誰が何をしたとか。あと、皆がどんなことを言っていたのかも!」

「なるほどね」

 

 ユウカは少しだけ笑った。

 思えば、これまでの探索では色々なことがあった。

 リカタ・ジュタの街並み。

 そこに住まう独特な人々。

 淡碧ノ樹海や極彩色ノ茸林での冒険。

 リノアやブランとの出会い。

 イピリアやロビックスとの戦い。

 モモイとミドリが取り戻した記憶。

 様々な依頼やオセロを通じて、リカタ・ジュタの人々と笑い合ったこと。

 リコという少女の遺した剣。

 そして、砂塵ノ仙閣で出会った数々の魔物と、砂漠に埋もれた謎の遺跡。

 書き残しておきたいことが山ほどあるのは、ユウカにもよく分かった。

 

「……でも、もう遅いわよ。明日も探索なんだから、そろそろ寝なさい」

「はい……」

 

 アリスは素直に頷いた。

 だが、ユウカが部屋を出ようとしたところで、ふと足を止める。

 

「……ねえ、アリス」

「はい?」

「それ、ちょっと見せてくれる?」

「えっ」

 

 アリスの身体が、ぴくりと固まった。

 

「……えーっと……」

「…別に無理に、とは言わないわよ?」

「えっ!? あ、あの……き、今日の分だけなら!」

 

 アリスは少し慌てた様子で、分厚い手帳の過去のページを両手でバサッと隠し、直近のページだけをユウカに向けて差し出した。

 ユウカは少し不思議に思ったが、無理に覗き込むような真似はしなかった。

 見せてくれたページには、今日の冒険のこと……砂塵ノ仙閣での逃げ水のことや、水を恐れる白い大蛇のこと……そして、ユズが見つけたという人影の謎などが、まるでゲームの記録のようにびっしり綴られている。かわいいイラスト付きだ。

 

「(……ん?)」

 

 だが、ユウカはそこでふと違和感を覚えた。

 アリスが差し出したその手帳が、ずいぶんと年季が入っているように見えたからだ。

 小口の黄ばみやページの膨らみから、ただここ数日書き始めただけのものではないような……妙な重みを感じさせたのだ。

 

「……アリス、随分前から色々書いてるみたいだけど、ほかのページは見せてくれないの?」

「はい! これは……元の世界に帰って、ミレニアムのみんなや……先生に会えた時に、一番最初に見せたいんです!」

「…帰った時に?」

「これは、アリス達の大切な記録ですから。『こんな冒険があったんですよ』って、皆と一緒に語りたいんてす!」

 

 えへへ、と無邪気に笑うアリスの真っ直ぐな瞳。

 その「ミレニアムのみんな」という言葉を聞いて、ユウカの胸の奥がきゅっと締め付けられた。

 元の世界。キヴォトスの、ミレニアムサイエンススクール。

 自分たちが突然この迷宮に姿を消してしまってから、向こうの時間はどれくらい経っているのだろうか。

 

「……そうね。きっとみんな、アリスの冒険の書を読むのを楽しみにしてるわ」

 

 ユウカは優しく微笑み、アリスの頭をそっと撫でた。

 

「だから、絶対に生きて帰りましょう。私たちの『セーブデータ』を、みんなに届けるために」

「はい! アリスたちは勇者ですから!」

 

 ランプの優しい灯りの中、二人は元の世界への帰還を固く誓い合う。

 その中でも、ユウカの脳裏では、ミレニアムサイエンススクールの仲間たちが去来していた。

 アリスたちの部屋から出た後、ユウカがひとり廊下に立ち尽くした時、つい言葉が口をついて出てきた。

 

「ノアは……大丈夫かしら」

 

 ユウカにとっての一番の親友の顔が思い浮かぶ。

 ノアのことだ、自分達が失踪してしまった日を、最後に交わしたやり取りを、最後に自分自身が見せた顔を事細かに憶えているはずだ。

 自分やモモイたちを探そうと躍起になって、無理をして身体を壊していないといいけれど。

 ……ちょっとイタズラ好きだが、根は思いやりのある性格だ。そんな彼女を思い出すと、心配が尽きない。

 

 不安なのはノアだけではない。

 

 コユキは……自分がいなくなったからって、また調子に乗ってイタズラをしているだろうか。

 ……最初は水を得た魚のようにはしゃぎ回って……でも、頭の良い子だから、途中でおかしいと気付くに違いない。あまり留守にしてたら、不安にさせてしまうだろう。

 

 リオ会長は……また一人で抱え込んでないかしら、と思う。

 ユウカの考えるリオは、不器用を合理性という名の蓋をして隠しがちな人だった。

 エリドゥしかり、AL-1Sの件しかり、ミレニアムEXPOの件しかり……自分達の失踪を知ったら、手は打ってくれるだろうが、その過程で一人で抱え込まないか心配だ。

 

 他にも、心配の種はまだある。ミレニアムを牽引する生徒達や、トラブルメーカーたちの顔が次々と浮かぶ。

 

(ネル先輩は……きっと大丈夫ね。あの人は強いもの)

 

 ネルは、きっと自分たちを見つけるまで、絶対に諦めないはず。他のC&Cのメンバーも、きっと先輩を支えてくれているだろうと、自分を奮い立たせる。

 

 エンジニア部やヴェリタスは、身体を壊していないだろうか。

 なんの音沙汰もなく消えてしまった自分達を探すために、死に物狂いで情報をかき集めているのかもしれない。特に副部長―――各務チヒロには、ユウカも世話になった。彼女を始め、ヴェリタスの部員は普段から不健康な生活を送っているのだから、すぐに無理が祟るだろう。

 エンジニア部もそうだ。自分達を呼び戻すための道具を作るために徹夜を繰り返していたら、いずれ身体を壊してしまう。

 

 そして、最後に思い浮かんだのは…………いつも自分たちに寄り添ってくれる大人の顔だった。

 

(先生は……)

 

 その名前を思い浮かべた瞬間、ユウカは思わず苦笑した。

 

(……きっと、私たちを呼び戻すためなら、どんな手でも使いそうね)

 

 先生なら、本当にやりかねない。

 ノアやコユキたちと協力して、何か手掛かりを探しているかもしれない。

 もしかすると、自分たちが想像している以上に大騒ぎになっているのかもしれない。

 

「……皆、待ってる」

 

 ユウカは静かに呟いた。

 

「だったら、私たちも帰らないと」

 

 そのためには―――この世界樹を進むしかない。

 どれだけ暑くても、どれだけ強い魔物がいても、どれだけ不可解なことが起きても…………そして、どんな出来事が待ち受けていようとも。

 

「……絶対に、帰るわよ」

 

 誰に言うでもなく、ユウカはそう呟いた。

 その背後、閉じられたアリスたちの部屋では――

 

「…………」

 

 ―――ベッドに入ったアリスが、まだ眠っていなかった。

 暗闇の中、昼間にユウカへ見せた日記帳を、もう一度だけ開く。

 今日のページと………そして、そのさらに前にある大量のページ。アリスはそれらをしばらく眺めた。

 けれど、そこに書かれた文字を、誰かに見せることはなかった。

 

「……帰ったら、見せますから」

 

 誰に向けた言葉なのか…アリス自身にも分からない。

 ただ、その言葉だけを胸にしまって。そっと日記帳を閉じ…………今度こそ、彼女は目を閉じた。

 ――明日も、冒険が待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――翌日。

 

 目覚めた『ミレニアム』の5人は、カイリーの宿の賑わいが普段より盛り上がっている事に気がついた。

 カイルにいち早く事情を聞いたモモイをきっかけに、5人は事態が大きく動いていた事に気付く。

 

「「「「「ミッション!!?」」」」」

 

「あぁ。どうも今朝早く、辺境伯から新しいミッションが発令されてね。」

 

 カイルによると、ミッションの内容は「目撃されてる人影を見つけること」……らしい。らしいというのは、リカタ・ジュタ特有の伝聞からなる噂話だ。

 

「詳しい事は宮殿に行ったほうが良いんじゃないかな」

 

 という言葉を受け、さっそく辺境伯に会いに行った5人。

 そこで、若き辺境伯の少女・フランベリルはまるでずっと待っていたかのようにミレニアムに向けて口を開く。

 

「来たか、ミレニアムの諸君」

「フランベリル!ミッションを受けに来ました!」

「そう来ると思っていた。

 ミッション内容は知っているかな?」

「砂塵ノ仙閣で目撃された人影を見つけること……ですよね?」

「そうだ」

 

 フランベリルは頷く。

 

「多くの冒険者が人や…消える湖を目撃したと言っている。君達は何か掴んでいるか?」

「消える湖については…知っています。砂漠の気候が起こす現象です」

「ほう?」

 

 ユウカ達は、逃げ水――下位蜃気楼について知っていた。

 何故そのような現象が起こるのか、どういう原理なのか、分かりやすく、図に書いて…何より、フランベリルに伝わるように願いながら伝えていく。

 説明をひと通り終えると、フランベリルは得心が行ったかのように頷いてから言った。

 

「成る程な……砂漠の熱気が生み出す幻か…」

「信じられませんか?」

「出鱈目にしては図がしっかりしている。どこか別の場所で、こういうものだと学んだ者の手付きだ」

「!」

 

 フランベリルは、ユウカ達を肯定した。

 その根拠に一瞬だけどきりとしたが、すぐさま「冒険者の素性など基本誰も聞かないから安心せよ」と付け足した。

 

「そうなんだよ、フランベリル様〜!ユウカはうちじゃ物凄い計算能力を持ってたんだから!」

「モモイ!?」

「“冷酷な算術使い”なーんてあだ名もあって……」

「ちょ、止めてよ!そんな事言うのあんただけでしょ!!」

「フフ…独特な二つ名もあるのだな」

「フランベリルさん!!!」

 

 意外にもモモイの冗談に乗っかるフランベリル。

 砂漠の幻のメカニズムを信じたフランベリルは、では人影の目撃情報についてはどうなのかと尋ねると、顔色を真剣なものに変えた。

 

「冒険者の間で噂になっている冒険者以外の人、か。

 宮殿の中でも、その噂で持ちきりだ。……ゆえに、このミッションを出した」

「そうなんですね」

「フランベリルさんは、どうお考えですか?」

「実物を見ていない以上、何とも言えん。これは、そなたたち冒険者に真偽の程を確かめてもらいたいというミッションでもある」

 

 目撃情報が多い謎の人影。

 その正体を明らかにするためのミッションだと説明したフランベリルは、差し当たってはまず更なる深部まで迷宮探索を続けて欲しいと言う。

 

「その正体を掴むには更なる探索しかないと思っている。もし居なければそれでよし、居れば―――その者の正体と意図を確かめて貰いたい」

「…分かりました。ミッションを受領したいと思います」

「差し当たっては君たちには15階を目指して欲しい………のだが」

 

 と、一旦言葉を区切る。

 そして、これまで以上に険しげな目で、こう忠告してきたのだ。

 

「一足先に着いたギルドによれば………そこには、凶悪な魔物がいるのだそうだ」

 

「!!!」

 

「時間をかけるたびに加速していく巨大な鳥のような怪物だったらしい。我らの冒険者ギルド………『エアリータ』も壊滅した」

 

 『エアリータ』―――。

 ギルドの名前に、ユウカの胸がどきりと跳ねた。

 

 姿を見たことはない。だが、酒場や診療所での噂で聞いたことはあった。

 ベテランの冒険者たちで構成され、このリカタ・ジュタでも指折りの実力を持つと目されていたギルドだ。パラディンの双璧を前提に、粘り強い戦い方をすることでも有名だった。

 そんな彼らですら、その魔物に返り討ちに遭い、壊滅したのだという。

 

「……加速していく、巨大な鳥……ですか?」

 

 ユズが恐る恐る尋ねる。

 フランベリルは重々しく首を縦に振った。

 

「そうだ。時間をかけるほどにその速度と威力を増し、手をつける間もなく陣形を崩されたと……命からがら逃げ延びた生存者が語っていた。その怪物は、15階の最奥……次の階層へと続く階段を阻むように鎮座しているという」

 

 執務室の静寂の中に、フランベリルの言葉が重く響き渡る。

 15階の最奥…………そこを突破しなければ、人影の真実に迫ることも、ましてやこの過酷な迷宮を攻略して元の世界へ帰る道を開くこともできない。

 

「……分かりました。その怪物……必ず突破してみせます」

 

 ユウカの力強い言葉に、ミドリも、モモイも、ユズも、そしてアリスも力強く頷いた。

 昨夜、アリスと交わした約束。

 キヴォトスで待っているノアやコユキ、先生……ミレニアムの仲間たちのもとへ、自分たちの「冒険の書」を持ち帰るという誓い。

ここで立ち止まっている暇など、ないのだ。

 

「期待しているぞ、ミレニアムの諸君。……無事の帰還を祈る」

 

 フランベリルからのミッションを受領し、5人は宮殿を後にした。

 

 真っ青な空の下、風が吹き抜けるリカタ・ジュタの街並みを見渡す。

 これから挑むのは、これまでの階層とは一線を画す、真の凶悪な試練。

 時間をかければかけるほど加速する鳥の怪物。そして、砂漠に揺らめく「謎の人影」の真実。

 

「よしっ! 気合入れ直していくよ、みんな!」

 

 モモイが手甲を叩き合わせ、ニッと勢いよく笑ってみせる。

 

「言っておくけど無茶は駄目だよお姉ちゃん。……相手はベテランギルドを壊滅させた相手なんだから」

「分かってるってば! だからこそ、準備は完璧にね!」

「……ユウカ先輩。わたし、診療所で教えてもらった薬と処置道具、多めに持って行きます」

「ええ、頼むわね、ユズ。アリスも、装備の最終チェックを忘れないで」

「はい! 勇者の剣も盾も、準備万全です!」

 

 それぞれの役割を胸に、5人は固い絆と確かな準備を携えて、再び熱砂の迷宮へと踏み出していく。

 

 目指すは、砂塵ノ仙閣―――第15階。

 仲間のもとへ帰るための戦いが、いま始まろうとしていた。

 




Tip!:生塩ノア
リカタ・ジュタに転移してしまったユウカの、親友。
見たものや聞いたことを忘れない抜群の記憶力を持つ。ユウカに対してはよくからかってリアクションを楽しんだりとイタズラ好きな面を持つ。

ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
送る感想は短くても長くても構わない。感想があることで作者のモチベーションが上がり、よりハイペースでリカタ・ジュタの樹海の謎が明らかになるだろう。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも、また踏破した迷宮の思い出を語りに来るのも自由だ。

もっと詳しく書いて欲しい部分とかありますか?

  • 樹海の世界観
  • 様々なクエスト
  • リカタ・ジュタの人々との交流
  • 他の生徒達についてのこと
  • ブラン&リノアとの交流
  • 樹海の魔物のこと
  • 強敵との戦闘
  • その他(さり気なく…)
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