貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、旋乾転坤の探索者稼業②

「あーあですわぁ……お泊りデート*1もして指輪も渡してくれた*2幼馴染の皇子様が、他の女に寝取られちゃいましたわぁ……こんなになっちゃったからには……もう、ネ……」

「誠に無念……まさに、(ポーション)、飲まずには?」

「いられない!」

 

 いえーい、宴にござるー、どうにでもなれー、と姦しい三人の乾杯が響く。酒豪(エイル)酒豪(イオリ)酒豪(アナスタシア)が揃いも揃って悪い酒の酔い方をすると、手の付けようがなくなるらしい。中でも飛び切りの酒豪は【聖人(アナスタシア)】で、ちゃんぽんでほわほわになっている二人の酒の残りを片っ端からがっぱがっぱと開けていた。

 これが当代の英傑四人の姿である。場末の酒場で管を巻いている連中と大差ない。

 三人の仲間の賢者(キルケ)は、流石に苦言を呈した。

 

「でもまあ、いい加減納得しろよ……。十年以上ずっとそばにいた付き人なんだろ……あの人だったら納得じゃねーか」

「とか言ってーもーう、賢者(キルケ)も本音は違いますわよね?」

「…………まあな」

 

 言葉を濁した賢者(キルケ)は、薬草を込めた煙管(キセル)に火をつけて、ふーっと長い煙を吐いた。

 薬草の煙には魔力を回復する効能がある。これは、整理がつかない感情を落ち着けるための、彼女のいつもの所作であった。

 

「初恋相手があんな圧倒的な皇子様だったら、そりゃ多少はな……」

「でも皇子様はもう、よそ様でお勃起してますのよ」

「よそ様でお勃起言うな」

 

 あーあ……と心底憂鬱そうな溜息。奇しくも四人とも、溜息がちょうど一致した。こうやってふざけ合っているが、四人とも初恋だったのは間違いがなかったのだ。あまりにも鮮烈な恋。こんな男性に出会うなど、この先どう考えてもないだろう。その事実が余計に四人を苛んでいた。

 嫉妬で頭が壊れそうという言い回しがあるが、四人にも嫉妬心がないわけではなかった。

 

「……否、まだ希望はござろう、皆の衆」

 

 そんな中、剣聖のイオリが意を決したように声を出した。深く酔っているとは思えない真剣な声音だった。

 

「まさか、寝取るんですの? 流石にそれは……」

「そうではござらん、ごく普通の方法にござる。拙者らが受け入れられるか次第にござるが」

「…………?」

 

 剣聖のイオリの提案は、英雄(エイル)聖人(アナスタシア)には遠回りでうまく伝わっていなかったが、察しのいい賢者(キルケ)にだけはそれとなく伝わっていた。

 実際、すでにその話は出ていた。あとは気持ちの問題である。

 

「……第二夫人とか第三夫人になるって話だろ」

「!」

 

 新婚気分の親友であるルーク皇子に水を差すような話である。だが、四人の気持ちに折り合いをつけるための答えでもある。

 

「まあ、もともと男女比率が極端に偏ってるんだから、男が複数の妻と子供を設けるのは当然っちゃ当然なんだが……ましてや貴族なわけだし……」

 

 言葉を続けた賢者(キルケ)の声は、小さい。

 それもそのはずで、四人の顔はどころなく不安が見え隠れしていた。二番目でも三番目でもいいからと言いよって、それでも駄目だと断られたら最後、それこそ()()()()()()()()なのだ。

 もし終わったら、明日からどうすればよいのか。

 

「……(ポーション)、飲まずにはいられませんわね」

 

 四人の不安は、消えない。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「本当に何もしてない、本当、少しばかり魔石の浄化に興が乗っただけなんだって」

「ほーう、興が乗ったら典侍医の世話になるようなことを()()()()()、じゃと?」

 

 珍しいことに、その日はルーク皇子とその臣下のワヤが言い争いをしていた。

 普段なら、あらゆる裁可を適切に下し、業務においては有無をも言わさないルーク皇子だが、今日はどうにも旗色が悪いらしい。

 

 言い争いの隣では、ロナが、治癒用薬酒(ポーション)をゆっくりと飲んでいた。ラネールとカマソッソが側に控えていて、手厚い介抱を受けている。参考までに、ロナが飲んでいるものは中程度の強度で、例えば開腹手術の痛み止め等に服用するような代物だった。

 

「言うとくがな、ロナはな、本気で泣いとったんじゃぞ。身体が産む準備してる、止まらない、壊れちゃう、助けて、とか言うておったんじゃ」

「嘘!?」

 

 素っ頓狂な声を上げたのはルーク皇子だけではなかった。ロナもほぼ同時に、みゃあ、だか、ぎゃあ、だか何かよくわからない高い声を出していた。確かに今の発言は恥ずかしい内容だったかもしれない。聞かされたルーク皇子のほうが狼狽えている。

 皇子は弱ったように釈明した。

 

「いや、本当に、普通にしただけなんだって……」

「分かっとる、(ボン)の優しさは誰もがよう分かっとる、じゃが現にな、仲間内で一番心の強いものが、心折れて泣かされとるんじゃ……」

「股間を見ながら言うな、違うって、誤解だ」

 

 城内では酷いうわさが流れていた。殿下の殿下は人の命を刈り取る形をしているとか、殿下との逢瀬では人間性を捧げさせられるとか、生身で竜と交尾するぐらい危険とか、本当に好き放題尾ひれが付いている。流石にほとんどは嘘だと思いたいが、火のない所に煙は立たぬとはよく言ったもので、もしかしたらほんの少しは本当なのではないか、という疑念がどうしても今の時点ではぬぐい切れていない。

 

「ち、違います! 殿下は、や、優しかったです! わ、私が、僅かに、使命に殉じる覚悟が足りておらず……」

「頼むロナ、殉じるとか言わないでくれ」

 

 皇子を庇うロナの発言が、全然庇う発言になっていない。隠そうとして隠しきれていない情報が、壮絶さをむしろ物語っていた。

 ロナ曰く、本当に死にはしないらしい。例えば胃袋に水をぱんぱんに詰めた後に胃の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜて吐き戻させる拷問があるとして、これを繰り返しても人は死なない、吐いても吐いてもずっととめどなく水を飲み込まされ続けるような感覚が近い、と。

 そんなことを、極力遠回しに、そして皇子はずっと優しく丁寧だったと強調しながら説明していた。

 さも愛の営みを語るように。照れながら。

 控えめに言っても狂気の沙汰だった。

 

 確かに愛の営みかもしれない。ロナはあえて、水と胃袋で例えたが、実態を知る人はあの快楽を分かっている。下腹部に魔力をぱんぱんに詰めてぐちゃぐちゃにかき混ぜるそれは、ちょっと並の覚悟では足りない。

 

 ここにいる人たちの心胆を寒からしめている最大の理由は、ロナが受けている魔石浄化の強度にある。罪人が泣いて詫びる程度を優に数十倍も勝る強度。それを毎日のように耐えているロナが、とうとう心が折れそうになったのが殿下との情交である。つまり本当に命を刈り取る可能性がある。

 

「でも⋯⋯まだ婚約したばかりなんだ。関係を持つのはしばらく一人がいい。複数人を愛するなんて、一人ひとりへの向き合い方が軽くなりそうで、それはよくない」

「一人に向ける愛を軽くせんと死人が出よるって話なんじゃが」

「何で死人が⋯⋯いや皆も何で暗黙の了解みたいになってるんだ!?」

 

 いまや忠実な臣下であるラネール、カマソッソが頷いていたことに、ルーク皇子は衝撃を受けたらしい。味方を失った顔をしていた。

 

「いや、殺すような出力は出したことない、誓ってもいい」

「殺すような出力も出せるってように聞こえよるぞ⋯⋯」

 

 医者騒ぎになって治癒魔術のお世話になっている人がいる中で、その情報は本当にそら恐ろしい。新人の侍女は涙目になっている者もいた。

 

「言うとくが(ボン)、おどれは貴族じゃ、子孫を残さないといけない血筋じゃ。複数の子を成さんとならん」

「確かにそうだが」

「今更そんな尻込みする話でもなかろ?」

 

 ルーク皇子の表情は冴えない。皇子の価値観は独特である。男のくせに性的な発言には大らかなところがあり、他人の貞操も気にしない。春画や性的な本なども検閲は行わないし、服も平気で着替える。男なのに貞操観念が緩いのではないか、と疑ってしまうほどである。

 その一方で、男女比が極端に偏っているこの世界において複数人と結婚しないのは奇妙な話である。人口動態の関係上、どこの村でも都会でも、男は複数の妻と共有されるのが普通である。

 ましてや貴族ともなれば、血筋を残すのが第一の務め。皇子の価値観は、普段貞淑でもなんでもないくせに急に厳格な説法を唱える宗教僧みたいな相反する二律性を持っている。

 

 化け物みたいな交尾をする疑惑が上がっている人とは思えない。

 

「じゃけんワシが言うとるのはな、女教皇様との縁談は政治的にも悪くないから、うまく折り合い付けろってことじゃ」

「⋯⋯⋯⋯まあ、な」

 

 その言葉に、皇子の表情はますます冴えないものになった。

 背後のロナも、表情は明るくない。今まで、川を作ったり領地を空に飛ばしたりと破竹の勢いで課題を解決して進んできたが、どうやらこの二人にとっては、この直面する課題のほうが難解らしかった*3

 

 

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