音の四人衆最強の男   作:北山 真

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 お待たせして大変申し訳ありませんでした。
 サスケとイタチの戦いを原作との展開から変えつつ、原作より強くなったサスケと敵対するイタチの格を下げないように書くのが難しくて筆の進みが大分遅くなりました。

 また、直接小説には関係ありませんが作者の名前を変更しました。前の名前だとAI使ってそうな名前だったのが理由です。
 一概にAI使うのが悪いとは思いませんが、私は使ってないので誤解を招くような名前から変更しました。



サスケとイタチ その弐

 

 サスケとイタチが睨み合う。

 

 威勢よく啖呵をきったサスケとイタチの距離は十数メートルほど。

 その距離は今のサスケならば一回の踏み込みで刀が届く距離であり、それを見抜いたイタチはサスケの動きを注意深く観察している。

 イタチはサスケの一挙手一投足を見抜くようにサスケの動き全体を見ながらも細部の動きも見逃さないように観察する。サスケが忍術を使うのか、右手に持った刀を使うのか、それとも別の何かを行うのか。

 

 そんな視線に晒されていたサスケは引き抜いた刀を地面と水平にまで持ち上げ──そのままスッと手を離した。

 

 人は武器を持った人間を相手にした時、無意識に武器により多くの注意を払ってしまう。サスケはその人間の習性を利用してわざと刀に注視させてから手を離すことでイタチの注意を逸らそうとしたのだ。

 

 イタチは才能豊かな熟練の忍であり、写輪眼の洞察力を考えればその程度の視線誘導には引っかからない。

 

「チィッ……」

 

 サスケの口が短い舌打ちと鋭い呼気が入り混じったような音を鳴らし、外套で器用に隠しながら両手首に巻きつけた巻物から『口寄せ・雷光剣化』により四枚刃の手裏剣を召喚してイタチに対して投げつけた。

 投げられた手裏剣は合計十枚。真っ直ぐにイタチに向かう軌道のものが六枚で、残りの四枚はイタチが左右に回避すると当たるような軌道で投げられていた。

 

 それを見たイタチもまた瞬時に暁の装束の内側から同数の手裏剣を取り出し、サスケが投げた手裏剣を撃ち落とすために投げ放った。

 

 イタチの投げた手裏剣がサスケの手裏剣に当たる直前、サスケは両手にチャクラを集めて性質を雷へと変化させた。

 雷遁チャクラはサスケの両手から手裏剣へと伸びていた目に見えないほど細いワイヤーを伝って手裏剣へと到達し、雷遁チャクラが纏われたことで切れ味が良くなった手裏剣はイタチの手裏剣を一方的に切り裂き、勢いを衰えさせることなくイタチへと迫っていく。

 

(やるなサスケ……これでは上に逃げるしかない……)

 

 この時点でイタチはサスケの狙いをほぼ完璧に見破った。

 イタチに迫る手裏剣とそれに繋がっているワイヤーは雷遁チャクラを纏っており、イタチがそれに触れたならば肉体は痺れて硬直して大きな隙を晒すことは確実。その隙を見逃すサスケではないので、その時点で勝負の決着がついてもおかしくない。

 

 そんな雷遁チャクラを纏った手裏剣の速度は恐ろしく速い。今からイタチが迎撃しようにも術を発動するための印を結ぶ僅かな時間すら無い速さでイタチに迫って来ている。

 雷遁チャクラに触れれば痺れてしまうため安易に防御することもできない。

 

 迎撃も防御もできないとなるとイタチに残された選択肢は回避のみ。それも前後左右の回避は手裏剣とワイヤーに潰されているため残る回避先は上下のみだが、下は分厚い床を砕いている時間がない。よって上に逃げる選択肢しか残されていなかった。

 注意しなければいけないのは手裏剣を避けるためだけに空中に留まるような中途半端なジャンプをしてしまえば、素早い動きが出来ない空中にいる間に追撃を受けて敗北してしまうということ。

 

 ゆえにイタチは仕方なく大きく飛び上がり、空中で身を捻って足から天井へと着地する。それ以外の選択肢をほぼ潰されていたので、その選択を取らざるを得なかった。

 

(そして当然……天井に着地したオレに対しての追撃は用意されていると……)

 

 天井へと着地したイタチの眼前にはサスケが放った巨大な火球が迫っていた。

 イタチの行動を制限して上に逃げるように仕向けたサスケは、イタチが天井へと着地すると同時に着弾するように『火遁・豪火球の術』を放っていた。

 

 完璧なタイミングで放たれた火球を避けることはイタチでもできない。

 だが、先ほどの雷遁チャクラを纏った手裏剣とは違い、防御しても体が痺れて隙を作るということはないので防御はできる。

 

 イタチは頭部を守るように両腕を顔の前で交差させるように構え、さらには武器にチャクラを流す要領で身を包む暁の装束にチャクラを流して防御を固めた。

 

 その直後、火球はイタチを飲み込んだ状態で天井に激突して弾け、暗い部屋を一瞬だけ照らしてからもうもうと爆煙を撒き散らした。

 

 目論み通りに『火遁・豪火球の術』を当てることに成功したサスケだったが、火球が当たる直前にイタチが防御を固めたのを見逃しておらず、さらなる追撃を放つために足元に落ちている刀を足で蹴り上げて拾い上げた。

 

 右手で刀を逆手に握ったサスケが注意深くイタチの動きを見定めていると、天井付近に滞留している煙を突き抜けて煤だらけのイタチが落ちてくる。

 

「違う……分身か……!」

 

 煤だらけで落ちてくるイタチを『写輪眼』で見たサスケは即座に分身であることを看破した。火球を防御するイタチを見ていたサスケからすれば、分身程度はすぐに見破れて当然のことである。

 

(流石にこれぐらいはすぐ見破るか……だが……)

 

 未だ爆煙の中にいるイタチは分身が即座に看破されたことに気がついた。

 

 サスケの刀を使った視線誘導への意趣返しとして、イタチは分身を使った視線誘導を行っていたのだ。

 サスケにはすぐ看破されたものの、イタチとしてはほんのコンマ数秒さえサスケの動きを鈍くすることが出来れば良かった。その一瞬でイタチは術を発動することができたのだから。

 

「火遁・鳳仙火爪紅」

 

 イタチが煙の中で『火遁・鳳仙火爪紅』を発動すると、炎を纏った多数の手裏剣は煙を切り裂くように飛び出した。

 

「チッ──!」

 

 イタチの分身に目を取られた隙に術を発動されたことにサスケは舌打ちを一つした。

 

 イタチの卓越した手裏剣術により投げられた炎を纏った手裏剣たちは、サスケの逃げ場を無くすように四方八方からサスケに迫り来る。

 サスケは迫り来る手裏剣の軌道を『写輪眼』にて瞬時に見抜き、クルリと一回転しながら刀を振るうことで手裏剣を打ち払おうとする。

 

 キンキンッと刀が手裏剣を弾く金属音が連続して響き渡り、このまま全ての手裏剣を弾き飛ばせると考えていたサスケだったが、七つ目の炎を纏った手裏剣を弾いた瞬間、その手裏剣の影から炎を纏わない別の手裏剣が現れたことで目を見開いた。

 

(影手裏剣──!)

 

 イタチは『火遁・鳳仙火爪紅』で投げた手裏剣の影に『影手裏剣の術』により別の手裏剣を隠すように投げていたのだ。

 イタチほど手裏剣術に長けた忍の『影手裏剣の術』はただでさえ見抜くのが困難なのに、先に飛んで来る『火遁・鳳仙火爪紅』が炎を纏っていて目を引くせいで『影手裏剣の術』を見抜くのが余計に困難になっていた。

 

 『影手裏剣の術』で投げられた手裏剣はサスケの足元目掛けて迫って来るが、まだ弾けていない炎を纏った手裏剣への対処も同時に行わなければならない。

 虚を突かれた形になったサスケだったが、その心中に焦りが浮かぶことはない。

 

「フッ──!」

 

 サスケは軽く息を吐いて回転の勢いを殺さぬまま軽やかにジャンプして足元に来た手裏剣を躱し、そのまま空中で炎を纏った手裏剣を刀で打ち払った。

 サスケに打ち払われた手裏剣がカランカランと軽い音を立てて地面に落ちるとほぼ同時に『火遁・豪火球の術』でできた煙が晴れる。

 『火遁・豪火球の術』によりイタチの着ていた暁の装束は燃え落ちていたが、その下に着ていた半袖の服とイタチの肉体は全くの無傷であった。

 

 サスケが天井に張り付いたままのイタチを見上げる形で二人の視線が再び交差する。

 両者は先ほどまでの一連の流れで互いの力量をある程度推し量っていた。

 

(本当に強くなったなサスケ……忍術や体術だけでなく戦闘の駆け引きも格段に向上している所を見るに、日頃から相当な強者と手合わせしていたようだな)

 

 イタチはサスケの成長を確かに感じていた。それこそ、忍術や体術は病に侵された自身よりも上かもしれないという認識に至っていた。

 そして、サスケがいくら天才だとしても一人で修行するだけでは戦闘の駆け引きは上達しないことをよく理解しているイタチは、サスケを通して右近左近の技量までをも見透かしていた。

 

 イタチがサスケのことを強敵だと認めた一方で、サスケはイタチとの間にまだ力量差があることを痛感していた。

 

(あの程度の小細工じゃダメか……駆け引きの経験値は向こうの方が上だと今は認めるしかないな)

 

 イタチとサスケとの間には埋め難い戦闘経験の差が存在している。その事をサスケは短い戦闘の中で理解させられた。

 単純に考えるとイタチの方が年上であり、なおかつ戦争に参加した経験もあるのでサスケとの間に戦闘経験の差があって当然なのだが、サスケが右近左近とばかり修行したせいで戦闘経験に偏りができていたのも理由の一つだった。

 

 しかし、戦闘経験だけが勝敗を左右するわけではない。

 

(駆け引きで上回られるならば純粋な速さで掻き乱して隙を作るべきか──)

 

 イタチとの経験値の差を痛感したサスケは、自らが確実に優っているであろう速さで勝負を仕掛けるべく『千鳥纏い』を発動した。

 

(雷遁チャクラを身に纏った……おそらくはカカシさんの『雷切』の発展系……噂に聞く雷影の忍体術と似たようなものだとすれば相当な速さになるか……)

 

 カカシに教えられた『千鳥』の攻撃性能を無くし、代わりに雷遁チャクラによる肉体活性効果をチャクラ消費量を抑えて発動することを可能にしたのがサスケの『千鳥纏い』である。

 この状態のサスケの速さは忍界でも屈指のものとなる。それこそ、『飛雷神の術』のような時空間忍術の使い手を除いた純粋な速さでサスケを上回る忍は雷影ぐらいしかいないだろう。

 

 その事を瞬時に見破ったイタチの観察眼は相当なものである。

 

 薄く電光を纏ったサスケの姿を一瞬たりとも見逃さないとイタチは睨みつけていた。しかし生理現象によりイタチが瞬きをした瞬間──青白い雷光の軌跡だけを残してサスケの姿がイタチの視界から消え失せた。

 

(速っ──!まずい──!?)

 

 イタチが心中でサスケの速さに驚きを感じた次の瞬間にはサスケを見失ったことで現状がどれほど危険なのかを悟り、視界内にサスケがいないことから視覚外──つまりは背後にいると察して咄嗟に背後を振り向いた。

 

 イタチが振り向くと背後に回り込もうとしていたサスケの姿を視界の端に捉えたが、イタチが振り向く動作をするのを確認したサスケが再びイタチの視界から消えるように動いた。

 サスケの姿が青白い雷の軌跡だけを残してイタチの視界から再び消え去ったことにより、イタチは再び背後に回られていると考えて天井を力強く蹴って空中へと身を投げ出した。

 

 その次の瞬間、バチリッと電撃特有の空気が爆ぜる音とともにイタチが元いた場所を青い剣閃が凪いだ。

 イタチが地面へと落下しながら天井を見上げると、そこには刀を振り切った体勢のサスケの姿があった。咄嗟の判断で空中へと逃れてなければ確実にイタチは切られていただろう。それだけギリギリの回避行動だった。

 

 空中にて天地が逆さになって天井を見下ろす形となったイタチと、天井に張り付きながら天地が逆さになって地面を見上げる形となったサスケ。両者の視線が交差する。

 

「逃すかッ──」

 

 イタチがサスケの刀を間一髪で躱したのも束の間、空中にて身動きの取れないイタチへ向けてサスケが追撃を加えんとする。

 サスケは刀を空中にいるイタチの方へと向け直し、その身に纏っていた雷遁チャクラの量を増大させ、刀身を延長させるように青白い雷の刀身を伸ばしていく。

 

 イタチの機動力を削ぐことで確実に捕縛しようというサスケの思惑通り、雷の刃はイタチの足へと突き刺さる。

 

「ぐあっ──!?」

 

 空中で満足に身動きが取れなかったイタチは雷の刃を躱し切れなかった。

 雷の刃はその鋭い切れ味を持ってイタチの足をやすやすと貫きながら傷口を焼き焦がす。そして、雷の刃に貫かれたことでそこから全身に流れた雷に感電したイタチは受け身も取れずに地面に激突する。

 

「うぐっ──!」

「トドメだ」

 

 サスケはイタチが地面に激突した直後、伸ばしていた雷の刃を消し去ると同時に天井を蹴ってイタチに追撃を加えようと迫る。

 しかし、地面でうずくまるイタチに向けて急速に落下するサスケの心中に違和感が浮かび上がる。

 

(こんな簡単に勝てるのか?本当に──?)

 

 イタチは紛れもなく強者。それはサスケも認めることである。にも関わらずこれほど簡単に追い詰めてしまえるのかとサスケが疑問に思うのも当然のことだ。

 そして、違和感を覚えたサスケはすぐにその正体に気がつき、すぐさま自らのチャクラを乱した。

 

「チッ──やはり幻術か!」

 

 サスケが気づいた違和感の正体。それはイタチの幻術がかけられていたことだった。

 イタチは雷の刃に貫かれる直前にサスケと視線を交差した瞬間に幻術をかけていた。それによりサスケがイタチの位置を誤認したことで雷の刃は空を切っており、イタチは無傷で地面へと降り立つことができたのだ。

 

 サスケがチャクラを乱して幻術を解くと、イタチは無傷の状態で地面に立っているうえにすでに印を結び終わって忍術を発動させる直前だった。

 イタチが空中へと飛び出したことで逃げ場を無くしたサスケに対して容赦のない攻撃を仕掛ける。

 

「火遁・豪龍火の術!」

 

 龍の頭部を象った火がイタチの口から吐き出された。

 急激に発生した高熱に空気が焼き焦がされたことでゴウッとまるで本当に竜が吠えたかのような音が鳴り、サスケを飲み込もうと炎の龍が天へと昇っていく。

 

「くそっ!」

 

 サスケはまんまと幻術に騙された自らの失態を罵倒しながらも、迫り来る炎の龍頭を見たサスケは一瞬にしてこの状況における最適解を選択する。

 

(この術の威力なら防御は危険か──!)

 

 『火遁・豪龍火の術』はサスケも使える術であるので、その威力はよく知っている。ゆえに、咄嗟の反応で出せるような薄い防御では大火傷を負ってしまうとサスケは判断した。

 

「ハアッ──」

 

 サスケは外套を脱ぎ去ると同時に大きく開けた着物から腕を抜いて上半身裸になり、その状態で一気に大量のチャクラを呪印に注ぎ込んだ。サスケの首筋にある呪印模様が一瞬にして全身に周ってサスケの白肌を褐色へと染め、呪印状態2となるとともに背中から一対の大きな翼を生やした。

 

 人の手に水かきが生えたような異形の翼を羽ばたかせてサスケが空を飛ぶ。

 サスケはひらりと身を躱しながら火の龍のすぐ横を通り過ぎたことでチリチリと肌が焼ける感覚を味わうが、その身には火傷一つない。

 そしてサスケは火の龍を回避すると同時に翼で落下の勢いを加速させて頭上からイタチに攻撃を仕掛ける。

 

「オォォ──!」

 

 気迫のこもった叫び声をあげながらサスケが刀を振り下ろす。

 呪印状態2になったことでサスケの雷遁チャクラの色が青白から黒紫へと変化しており、黒紫の雷電はバチバチと音を鳴らしてサスケの持つ刀に纏われている。

 

 ドゴッとサスケの背後で火の龍が天井にぶつかり、そのまま天井を突き抜けていったのを無視してサスケは刀を振り抜いた。

 

 ザンッ──と空気を切り裂いた音が鳴り響く。しかし、そこに肉を切り裂いた音や血の滴る音は聞こえない。

 サスケの刀の軌道から離れるようにイタチがバックステップで距離を取っていたからだ。

 

 イタチが一足で離れられた距離は六メートルほど。この距離ならばサスケが先ほど使った雷の刀を伸ばす術──『千鳥鋭槍』がギリギリ届かないことをイタチはすでに見抜いていた。

 

 さらにイタチはバックステップでサスケの斬撃を回避すると同時に当然のように印を結び終わり術を発動させようとしていた。

 

「火遁・豪火球の術!」

「フッ……」

 

 目前に迫る巨大な火の玉を笑うサスケ。その直後にサスケの褐色肌を彩るように黒紫の雷が全身を薄く覆った。

 呪印状態2による『千鳥纏い』。その速度はイタチの反応が遅れるほどの速度を叩き出した通常時の『千鳥纏い』のさらに上をいく。

 

 サスケが黒紫の電光を軌跡として残しながら高速移動によりイタチの後方へと回り込む。

 

 イタチはサスケの動きに反応できなかったのだろう。ただでさえサスケの動きは忍界でもトップを争うほどに速いのに、イタチは自らの視界を『火遁・豪火球の術』で狭めてしまったのだからサスケの動きを目で追えていなくて当然だった。

 

 サスケがあと二歩踏み込めば刀が届く距離に入るというのにイタチは背後を振り向くことすらできていない。

 

(今度こそ取った──!)

 

 今度は幻術にかかっていないという確信を持っているサスケが刀を振りかぶり狙いを定める。

 その狙いはイタチの足。イタチから真実を聞き出すためにあえて致命傷を与えにくい場所という点と、機動力の要である足に傷を負わせることでただでさえサスケとイタチの間にある機動力の差をさらに広げることが狙いだった。

 

 サスケが右足でもう一歩踏み込み、次の左足の踏み込みと同時に刀を振り抜こうとする。

 

 しかし──

 

「ぐっ……!」

 

 苦悶の声をあげたのはイタチではなくサスケであった。

 サスケが踏み込めたのは刀の届く距離の一歩手前まで。そこに踏み込んだ瞬間にサスケの右足の足裏には鋭い痛みが走り、その痛みにより強制的に動きを止められてしまった。

 

 そして、その大きすぎる隙を見逃すイタチではない。

 

「火遁・豪火球の術!」

「チィッ──!」

 

 イタチは背後で足を止めたサスケに対して振り向きざまに再び『火遁・豪火球の術』を撃ち放った。

 サスケは痛みの走る右足を無視して左足に力を込めて横に全力で飛び、辛うじて火の玉に当たるのを避けた。

 

 サスケとイタチとの間に少しの距離ができた後、イタチの放った二つの『火遁・豪火球の術』が壁に当たって爆炎を撒き散らす。

 

 室内が少し照らされるのと同時に、横っ飛びの勢いで地面に倒れたサスケは右足の裏に刺さっていた小さくて鋭い物を引き抜いてその正体を知った。

 

「撒菱か……!」

 

 サスケは足裏を襲った痛みの正体はポピュラーな忍具の一つ、撒菱であった。

 ただし、薄暗い室内で最大限に見えにくくするために黒色に塗装されており、さらには光の反射で場所が分からないように表面をヤスリで擦ることで光沢をなくした品であった。

 当然、そこまで徹底的に暗い室内用に特化させてあるのはサスケの『写輪眼』対策である。写輪眼はチャクラを見抜く非常に強力な瞳術だが、チャクラを纏っていない黒い撒菱を暗闇で見抜くのは難しい。

 

 しかし、イタチとしても特注で作った撒菱がこれほどまでに有効活用できるとは思っていなかった。

 元を正せばイタチの肉体が病で弱っているせいで接近戦が難しくなったことを考慮し、サスケを接近させないようにするための牽制として作った物が黒撒菱である。

 それが『千鳥纏い』状態のサスケの速さに対応するために使われた。

 黒撒菱をサスケが踏まずとも、警戒させて接近戦を拒めたら良いと考えてイタチは撒いていた。サスケに撒菱を踏ませて機動力を削ぐことまではイタチも狙っていなかったので、そこはサスケが勇み足を踏んでしまったと言えるだろう。

 

「正解だ……気づくのが少し遅れたな……」

「地面に放ったのは豪火球の術を放った瞬間だな。わざと自分の視界を狭めてオレを背後に回るように誘導したのか……」

「それも、正解だ……」

「クッ……油断した……!」

 

 サスケの推理をイタチが余裕を持って採点していくが、その余裕たっぷりな姿がサスケには腹立たしかった。

 

「これでお前の自慢の機動力は失われたな……」

「どうかな……左足一本でも十分かもしれないぜ?」

 

 イタチの煽りとも取れる言葉を受けたサスケが笑みを浮かべながらブラフとも取れる発言で応えた。

 サスケの感触では右足の痛みは無視できる程度であった。ただし痛みのせいで動きの速度と精度が落ちることも確信しており、これまで以上にイタチに上手く対処されてしまうだろうことは想像に難くない。

 

「フッ……それに……」

 

 サスケは薄く笑って言葉を続ける。

 

「俺の力は高速移動だけが能じゃない──!」

「……!」

 

 サスケが『千鳥纏い』を維持したまま猛然と印を結び始めたのを見てイタチは目を見開いた。

 

 『千鳥纏い』状態の速度で印を結ぶ──それは言うが易しの究極系とも言える絶技である。

 

 通常、術を発動する際には印を結ぶと同時にチャクラを練り込む必要がある。『千鳥纏い』状態での高速印結びでもその原則は変わらない。

 必然、今のサスケは『千鳥纏い』を維持したまま超高速で印を結ぶと同時に、術の発動に間に合うようにチャクラを練り上げる必要がある。

 

 そのうえで、いくら雷遁チャクラにより神経伝達速度が上昇しているとは言え、尋常ではない速度で印を結ぶせいでそれを処理する脳にとてつもない負荷がかかる。

 例えるならば普通のコンピューターにスーパーコンピューター並の処理速度を要求するようなものであり、現状のサスケは足を止めて全神経を印を結ぶことだけに集中してようやく可能な絶技である。

 それはつまり『千鳥纏い』の強みである移動速度と反応速度を捨てることに他ならず、足裏に撒菱が刺さって機動力が削がれるというアクシデントが無ければ使ってはいなかっただろう。

 

 だが、それらのデメリットを考慮してもなお有用な技術だと言える。

 イタチが集中して見てもサスケの印を結ぶ速度が速すぎて残像が幾重にも重なるように見えていた。

 そこから辛うじて読み取れたのはサスケが火遁を使おうとしていることと、高速で印を結んでもなお一瞬で発動できていないことから大規模な術を使おうとしていることのみ。

 

(間に合うか──!)

 

 サスケが高速で印を結び始めてから一秒の半分も経っていない状況で、イタチは焦りを感じながらも今できる最善手を打とうとしていた。

 

 サスケの大規模な火遁の術は今まさに放たれようとしている。それに対抗するためには即座に出せる速さと大規模な術を相殺できるだけの力が必要となる。

 一般的に印の数と術の強さとは比例関係にあり、印の数が多ければ多いほど強い術になるのだが、今のイタチはそんな一般的な術のちょうど正反対のものを要求されていた。

 

 普通ならばそんな都合の良い術は持っていない。

 だが、イタチはふつうの範疇に収まるような男ではない。

 

「火遁・豪火滅却!」

 

 サスケが印を結び終わると同時に、その口から途方もない量と鉄をも融解させる熱を持った豪火が噴き出される。

 『火遁・豪火滅却』は今のサスケが使える最強の火遁。修行相手である右近と左近が使う大質量の木遁に対抗するために修練したとっておきの火遁だった。

 

 今いるアジト内部を火の海にするどころか、アジト周辺の森まで燃やし尽くしてしまえる豪火を前にして、イタチは一度瞼を閉じてから勢いよく見開く。

 

 イタチの両眼からは写輪眼特有の三つ巴紋が消え失せ、代わりにイタチ固有の万華鏡写輪眼の紋様である三枚刃の手裏剣が現れていた。

 

 そして──万華鏡写輪眼の右目から血涙が流れ落ちる。

 

「天照!」

 

 イタチの万華鏡写輪眼──その右目の瞳術であり、イタチの持つ術の中で最強の攻撃力を持つ『天照』が解き放たれた。

 

 イタチが睨みつける先、目前にまで迫っていた火の海に黒い炎が点火される。

 黒炎はあらゆるものを燃やし尽くす最強の炎。その力は普通はあり得ない火を燃やすということすらも可能にする超常の炎である。

 

 イタチの目前まで迫っていた火の海は黒炎に燃やされてそれ以上は進めず、それどころか押し返されていく。

 

「チッ……これ以上は無理か……」

 

 サスケは冷静に豪火を吹き出すのを止めた。確かに『火遁・豪火滅却』はサスケの持つ火遁の中で最強の術である。それが一方的に破られたということに敗北感を感じている。

 しかし、そんなことに拘って戦いに負けては意味がない。

 

 サスケが術の維持を止めたことで豪火は途切れ、イタチが生み出した黒炎のみがその場に残り、豪火という燃やす対象を失った黒炎は次にアジトを全焼させようと徐々に拡散していく。

 

「……」

 

 その様子をイタチは黙認する。

 黒炎が広がればイタチも危険に晒されるが、それよりも黒炎がアジト内に広がることでサスケの動ける範囲を限定させることを優先した形だ。

 

 そんなイタチの狙いをサスケはすぐさま看破する。

 

「なるほどな……天照でオレの足場を奪おうって算段か。なら……」

 

 サスケは『千鳥纏い』状態を維持したまま素早く移動を開始し、円形の部屋の外周をなぞるように半周してイタチの背後を取ろうとする。

 

 その動きをイタチは体の向きを変えながら目で追う。

 撒菱にて足に怪我を負ったサスケの動きは先ほどよりもやや遅い。

 それでも並の忍よりも十分に速いが、万華鏡写輪眼を開眼したイタチの視界から消えるほどではない。

 

「やはり動きが鈍っているぞサスケ……」

 

 イタチは冷静に右目でサスケの動きを追いながら『天照』を放つ準備する。

 サスケはイタチの視線から外れようと外周をもう半周走るが、イタチの視線を振り切れない。

 

 だが、あともう少しでサスケの右足に焦点が合うというところで、サスケが急に動きを変える。外周をなぞるような動きから壁を走りだし一直線に天井を目指していく。

 

「なるほどな……」

 

 サスケの動きを見たイタチは納得したように呟いた。

 サスケの狙いはイタチの背後を取ることなどではなかった。外周を駆けていたのは十分な加速を得るためであり、その速度を活かして先ほどイタチが放った『火遁・豪龍火』のおかげで作られた天井の大穴から外へと脱出しようとしていたのだ。

 

 アジトの外は木々が生い茂る森。サスケは黒炎により動ける範囲が制限された屋内よりも木々という遮蔽物が多い外の方が戦いやすいと考えていた。

 

「そう簡単には行かせない……天照!」

 

 サスケの狙いを見切ったイタチが天井の大穴に向けて『天照』を発動し、天井の大穴の周囲が黒炎に包まれる。サスケがそこを通ろうとしたならば、即座に全身が黒炎に包まれるようになった。

 

「シィッ──!」

 

 大穴という脱出口を塞がれたサスケは即座に刀を抜き放ちながら紫電を纏わせ、帯電した刀を三度振るって天井に別の穴を開けてアジトの外へと脱出を果たした。

 

「やるな……」

 

 イタチはサスケの機転を褒めながらサスケの後を追うようにサスケの開けた天井の穴へと向かう。

 さらに、イタチは天井の穴へと向かう途中で『影分身の術』を使って分身を一体生み出し、分身に先に穴を通らせた。

 

 イタチはサスケの狙いを森に身を隠すことだと想定しているし、『千鳥纏い』状態のサスケの速度ならばイタチが屋上に出る頃にはすでに森に入っているだろう。

 だが、その裏をかいてサスケが屋上に留まり、イタチが屋上へと上がった瞬間に奇襲を仕掛けてくる可能性もあった。

 

 ゆえにイタチは『影分身』を先行させて様子を見ることにしたのだ。

 

 しかし、分身がその身を屋上へと現して辺りを見渡してもサスケの姿は見当たらない。イタチの想定通りにサスケは森に姿を隠した後だった。

 

(まあいい……それならそれで『影分身』には別の役割がある)

 

 イタチは『影分身』が襲われなかったことを確認してから屋上へと上がる。

 結果的に囮としての役割を果たせなかった『影分身』だったが、イタチは周囲を警戒させるという役割を与える。

 

 アジトの屋上は緩いカーブを描いたドーム状になっており、そこから長細い長方形の建造物が三つ伸びている。その長方形の中でも一番高く大きいものの上にイタチと『影分身』は背中合わせの状態になるように立った。

 

「さあ……どうするサスケ……」

 

 本体と分身で前後を警戒するイタチ。仁王立ちしてどっしりと構えたその姿からは動くつもりがないのが見て取れる。

 森の中は当然ながら木々が生い茂っているせいで視界が悪く、『天照』を十全に使用できない。イタチはそんなサスケ有利な場所には立ち入らず、視界の開けている屋上からサスケが動きだすのを待つつもりであった。

 

 そんなイタチの姿を木の影から観察するサスケは如何にしてイタチの警戒を掻い潜り攻撃を仕掛けるか思案を巡らせる。

 

(流石に森の中に入って来てはくれないか。分身は一体だけだが死角は無いと考えた方がいい……隙を作るには陽動が必要だな……)

 

 サスケは懐から出した兵糧丸を噛み砕いてチャクラを回復させながら観察を続ける。『火遁・豪火滅却』の発動に加えて、呪印状態2を維持するのにチャクラが必要なので、回復できる隙に回復しておこうという算段だ。

 

 一方で、イタチもサスケの動きを待ちながら兵糧丸を食べてチャクラを回復させながら次の動きを考えていた。こちらもまた度重なる火遁の使用と『天照』の使用に使ったチャクラを少しでも回復しようとしていた。

 

(サスケは見えないか……動かずに森の中に潜んでチャクラを回復させていると考えるのが妥当だな。オレもチャクラを回復させたいところだが──やはりこの体では長期戦は厳しいか……)

「はぁ……」

 

 イタチは乱れかけた息を整える。病に蝕まれた肉体はこれまでの戦闘で疲労を訴えていた。兵糧丸の効果でチャクラと一緒に疲労も回復しているが、病により体力の落ちた肉体には焼け石に水である。長期戦になってちまちまと体力の削り合いになれば、より若く健康な肉体を有するサスケに軍配が上がるだろう。

 

(なら……誘い出すしかない……!)

「天照!」

 

 イタチは無理矢理にでも短期決戦に持ち込むべく森に黒炎を放つ。

 

(無理矢理にでも隠れる場所を無くそうとしてやがる。かなり強引な方法だな……何か焦ってるのか……?)

 

 どうやってイタチに仕掛けようと考えていた矢先の出来事にサスケは驚きながらも冷静に状況を分析していく。

 サスケにとって幸いなことにイタチが放った『天照』はサスケが隠れている場所とは見当違いな場所に放たれていた。

 しかし、そんな事は関係ないとばかりにイタチはアジトの屋上から睥睨するように森を見渡し、視線の先から次々と黒炎が立ち上っていく。

 

(『天照』を出しているのは一人だけなところを見ると分身は使えないのか……っと、分析してる暇は無いか)

 

 黒煙が森を燃やしていくせいでどんどん隠れ場所が無くなっていくサスケは動かざるをえなくなる。

 ただし、イタチの分身は健在であり、闇雲に森から飛び出しては『天照』に狙い撃ちにされてしまう。

 

(火遁・豪火球の術!)

 

 サスケは木の影から飛び出し、アジトの一番高いところに陣取るイタチに向けて『火遁・豪火球の術』を放った。火球を盾にしてイタチの視線を切りながら近づこうという考えである。

 

「火遁・豪火球の術」

 

 サスケの『火遁・豪火球の術』に対してイタチの本体は動かず、分身のイタチが同じ術で返した。

 ほぼ同等の威力と規模で放たれた『火遁・豪火球の術』は空中でぶつかり合い、まるで花火のような大きな爆炎となって派手に散った。

 

(今……!)

 

 爆炎により僅かにイタチの目が眩んだ瞬間にサスケはアジトの屋上へと到達する。そしてその直後、サスケは『千鳥纏い』を発動してイタチへ向けて一直線に駆け出す。

 

(何か考えがあるようだなサスケ……)

 

 『天照』を持つイタチを相手にして真正面から挑むというのは自殺行為に他ならない。それぐらいは当然サスケも承知している。にも関わらず、サスケは正面から真っ直ぐイタチに迫っていた。

 その事からサスケには何か策があるのだとイタチは判断した。

 

「ならやってみせろサスケ……」

 

 イタチは自身の立つ長方形の建造物へ向けて駆けて来るサスケを見下ろしながら『天照』を発動しようと右目の万華鏡写輪眼へとチャクラを込めていく。

 

「……」

 

 そんなイタチの様子を見たサスケは無言のまま腰に差し直していた刀を引き抜き、そのまま刀へと雷遁チャクラを纏わせる。

 

 呪印状態2特有の黒い雷を迸らせながらサスケが高速で移動する。ドーム状の屋上を駆け抜け、そのままの勢いでイタチの立つ長方形の建造物を駆け登ろうとするサスケ。

 だが、チャクラを使えば壁を駆け登れるといっても垂直の壁に足をかける瞬間はどうしても速度が落ちる。平坦な道でさえ走っている最中に直角に方向転換する時は速度が落ちるのだ。そり立つ壁に足を踏み出す時はそれ以上に速度が落ちるのは明白だった。

 

 その瞬間を狙ってイタチが動く。

 

「天照!」

 

 壁に足を踏み出した時に少しだけ速度が落ちたサスケを狙ってイタチが『天照』を発動する。

 イタチの視線の先は今まさに踏み込んだサスケの右足。そこを起点にして黒炎が発火する────その直前にサスケは動いていた。

 

(イタチの視線──チャクラの動き──散々見せられたんだ。いい加減──)

「見切った!」

 

 サスケは鋭い掛け声とともにイタチの視線の先へと黒い雷遁チャクラを纏った刀を割り込ませた。

 

(刀を盾に……!)

 

 その光景にイタチは瞠目するしかない。

 

 サスケはこれまでの戦闘からイタチの視線から『天照』の発火点を、イタチの右目に集中していたチャクラの動きから発火タイミングを見極めていた。

 ゆえに、サスケは『天照』が自らの右足に発生する直前に雷遁チャクラを纏わせた刀をイタチの視線の先へと置くことで『天照』の発火点を右足から刀へと移すことで防いだのだ。

 

「フッ──!」

 

 さらにサスケが軽く息を吐きながら刀を一閃させると同時に纏わせていた雷遁チャクラを『天照』ごと吹き飛ばし、それ以上に黒炎が燃え移るのを防ぐ。

 

 これこそがサスケが考えていた『天照』対策の一つ。視線の先に発火させられるという性質を逆手に取った策だった。

 

 『天照』を防いだサスケは勢いよく壁を駆け登る。頂上に立つイタチまでの残りの距離は二十メートルもない。あと一度か二度『天照』を防げたらサスケはイタチに届く。

 

 だが、この策も完璧な防御方法ではない。この程度で突破できるほどイタチの万華鏡写輪眼は甘くない。

 

(そう来たか……なら……!)

 

 イタチが動揺していたのは一瞬だけだった。イタチはすぐさま次の動きに移り、今度は両眼の万華鏡写輪眼へとチャクラを込めた。

 

(やはりそう来たか!)

 

 サスケはイタチのチャクラの動きを写輪眼で読み取り、イタチの目から視線を逸らした。

 

 イタチの持つ万華鏡写輪眼の瞳術は『天照』ともう一つ──『月読』がある。

 『月読』は通常の写輪眼同様に視線を合わせた存在に幻術をかける能力である。

 ただし、『月読』の幻術は通常の幻術とは一線を画す強力無比なものだ。

 通常の幻術よりも抵抗するのも解術するのも難しいのは当然として、『月読』の幻術空間内では相手の五感だけでなく時間感覚すらもイタチは自由自在に操作できる。

 イタチが『月読』をカカシにかけた時は七十二時間連続で刀を刺され続ける幻術を見せられてカカシは敗北したが、カカシの体感時間で七十二時間刺され続けたにも関わらず、現実には『月読』にかけられた瞬間にカカシは倒れていた。

 

 そんな強力な幻術効果を持つ『月読』を防ぐ方法は単純明快で、イタチと視線を合わせなければいい。イタチと対峙したガイは写輪眼対策として相手の目を見ずに相手の足元を見て戦う方法をあげていた。

 

 だが、それをすれば『天照』の発火点は読めなくなる。

 サスケの『天照』への対策はイタチの右目の視線とチャクラの動きを自身の写輪眼で観察することで成立している。当然だが『月読』を防ぐために視線を逸らせばイタチの右目を観察できなくなり、『天照』を防ぐことが出来なくなる。

 

 『天照』を防ぎたければ『月読』が防げず。『月読』を防ぎたければ『天照』が防げない。

 

 これこそがイタチの万華鏡写輪眼の強み。イタチは『どんな術にも弱点はある』という考えを持っているが、『天照』と『月読』は互いの弱点を補い合う非常に強力な瞳術の組み合わせである。

 

 その事をサスケは十分に理解していた。

 

 サスケはこの戦いに挑むにあたり、大蛇丸の所にいた時からイタチの力を研究し続けていた。

 大蛇丸はイタチの肉体を狙っていただけあってイタチの力を十分に把握できており、『天照』と『月読』というイタチの切り札も分析できていた。

 

 ゆえに、『天照』と『月読』の組み合わせへの対策はしっかりと用意してきていた。

 

「ハアァァ──ッ!」

 

 サスケが雄叫びをあげて走りながら呪印状態2になったことで得たチャクラを全て『千鳥纏い』へと込め、その身に纏う黒い雷が激しさを増して迸る。

 

「ぐっ──」

 

 その強烈な雷光にイタチは目を細めるが完全には閉ざさない。とはいえ、全身に纏った雷遁チャクラによりサスケの体に直接『天照』を点火することはできなくなった。

 

「だがサスケ……自慢の速度は見る影もないようだな……」

 

 イタチの指摘通り、激しい雷光により『天照』から身を守っている代わりに、サスケの移動速度は大幅に落ちてしまっていた。

 これはサスケが『千鳥纏い』で肉体を活性化させていたチャクラまで体表からの放電という形で消費していたからだ。

 直接『天照』が肉体に発火するのを防ぐだけならば体表近くに薄く雷遁チャクラを纏うだけで済む。

 しかし、『天照』はチャクラすらも燃やす黒炎。直接肉体に発火せずとも薄く雷遁チャクラを纏った程度の防御ならば一瞬のうちに突破して肉体を燃やし始める。それほどの燃焼速度があることをサスケは刀で防いだ時に理解していた。

 イタチの視線から『天照』の発火点を読めていたならば、発火する直前に刀で防いだり、発火する瞬間だけ放電を強めることができたかもしれないが、『月読』のせいで視線が読めない以上はそれもできない。

 

 ゆえに、サスケは常に強烈な雷遁チャクラを全身に纏うことで『天照』を防ぎ、『月読』からは目を逸らすことで両方の瞳術から身を守っていた。

 

「……」

 

 サスケはイタチの煽りを無視してイタチに近づいていく。

 両者の距離はすでに十メートルを切っていた。あと二歩もあればサスケの刀の届く距離だ。

 

「「火遁・鳳仙火爪紅!」」

 

 本体のイタチと分身のイタチが同時に同じ術を発動した。二人の懐から取り出された手裏剣に火が付いてサスケを狙い襲いかかる。その数は全部で二十。

 もちろん、イタチはこれだけの術を出しながら『天照』と『月読』を発動できる状態で維持したままである。

 

 サスケは『天照』と『月読』の対処に力を使わざるを得ず、同時に四方八方から襲いかかる火の付いた手裏剣にも対処しなければいけない。

 

「ウオォォォ!」

 

 危機的状況の中、サスケが選んだのは背中から生えた翼を体の前面へと盾のように押し出しての突貫であった。

 グサリグサリと手裏剣が翼に突き刺さる痛みを無視して、サスケは前へ前へと走り続ける。

 しかし、イタチの手裏剣は多方向からサスケへと襲いかかっていた。盾となった翼を避けるような軌道で飛んでいた手裏剣もあり、その内の何本かがサスケの足を傷つけていく。

 

「ぐっ……オオォ!」

 

 それでもサスケの足は止まらない。耐えて、駆けて──ついに両者の距離がなくなる。

 

 壁を登り切り、遂にイタチの下へとたどり着いたサスケが盾のように構えていた翼を背中へと戻してイタチの姿をハッキリと視界へと入れる。

 

(分身だけ……!翼を盾にした時だな……!)

 

 サスケの視界に入ったのは一人分のイタチの姿。それを見たサスケは一瞬で『影分身』のイタチだと見抜き、翼を盾にして視界を制限した時に本体と分身が入れ替わったのを見逃したのだと察した。

 分身のイタチはサスケに組みつこうと肉弾戦を仕掛けるが、今更その程度でサスケが苦戦するはずもない。

 

「ぐっ……」

(本体は近くにいるはず……!いや、分身が……!)

 

 サスケが分身のイタチの腹部を刀で刺し貫く。

 苦しげにうめく分身を無視して近くにいるはずの本体のイタチを探そうとするが、分身のチャクラが不自然に膨らんだような感覚に危機感を抱いたサスケは刺したままの刀を咄嗟に手放して建築物から飛び降りる。

 

 その直後に刀が腹部に刺さったままの分身が爆発する。

 

「くっ……!」

 

 イタチの『分身大爆破』の衝撃を空中で受けたことでサスケの肉体は吹き飛ばされて空中に投げ出された。

 

 爆煙から飛び出してくるサスケの肉体は無防備そのもの。そんな大きな隙を本体のイタチは見逃さない。

 分身を目眩しに建造物から飛び降り、少し離れたところに着地していたイタチが追撃に移る。

 

「天照!」

 

 空中にいたサスケを容赦なくイタチの『天照』が襲う。爆発を受けたことでサスケの集中が切れ、身に纏っていた雷遁チャクラが弱まっていたのをイタチは見逃していなかった。

 

 サスケの右側の翼から黒炎が発火し、サスケが苦悶の声をあげる間もなくあっという間に全身へと燃え広がっていく。

 黒炎に包まれては飛ぶこともできず、サスケは真っ逆さまに落ちていく。

 

 そのままドサリッ──と音を立ててサスケの肉体が屋上へと落下した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 イタチは『天照』の連続使用の負荷によりズキズキと痛む右目を手で押さえながら荒くなった息を整えていた。

 イタチの眼は万華鏡写輪眼の瞳術を多用したことでさらに視力が低下している。その靄がかかったような視界で黒炎に燃やされていくサスケを見つめているイタチの眼には僅かな苛立ちがこもっていた。

 

(どうした大蛇丸……早くサスケの肉体から離れろ……!)

 

 大蛇丸がイタチに執着して研究していたように、イタチもまた大蛇丸を警戒して調べていた。

 イタチは大蛇丸が最愛の弟であるサスケの肉体に潜り込んでいることも知っており、イタチが弱った姿を見せればサスケの肉体から離れて自身の肉体を奪いに来るはずだとイタチは予想していた。

 

 それこそがこの戦いのイタチの狙いの一つだ。大蛇丸をサスケの肉体から引き剥がし、今後サスケに手出しできないように殺すか封印する。そういう想定をしていた。

 

 しかし、サスケの肉体が燃え尽きようとしているにも関わらず、大蛇丸はサスケの肉体から離れる様子がない。この様子にイタチは訝しむ。

 

(まさかこのままサスケの肉体ごと燃え尽きるつもりか……?いや、あの大蛇丸がそんな潔く死ぬはずがない。だが、サスケの肉体を人質に取るにしてはそういう趣旨の発言もしてこない……何を考えている……?)

 

 イタチは大蛇丸の動きを予想し切れず戸惑うが、これ以上サスケの肉体を『天照』で燃やしてしまうと取り返しがつかなくなると思い、イタチは痛む右目から手をどけて『天照』を解除しようとする。

 

 だが、燃え尽きようとしているサスケの肉体を両眼で見たイタチが違和感を覚える。

 

「あれは分身か……!」

 

 『天照』で燃やされていたのはサスケの分身だったことにイタチは気がついた。

 サスケが使ったのは大蛇丸がよく使う蛇の脱皮のような変わり身と分身を併用した忍術である。極めて高度なこの分身を『天照』の連続使用で視界が霞んでいたイタチではすぐには見極められなかった。

 

(なら本体は……!?)

 

 分身に騙されていたことを悟ったイタチはすぐさまサスケが潜伏しているだろう場所を考察し始めるが、場所を特定する前にバチバチと雷が空気を焦がす音が聞こえたことで咄嗟にそちらの方向に振り向こうとする────が、もはや手遅れだ。

 

「遅い!」

「ぐぁっ……!?」

 

 イタチの裏を完全に取ったサスケの刀状に伸ばした雷遁チャクラがイタチの両足を薙ぐように振り切られた。

 足を起点にしてイタチの肉体に強烈な電流が走り、イタチは苦しげな吐息を漏らしながらその場に倒れ伏す。

 

 サスケは雷遁チャクラで作られた刀身に切断力を与えていなかったので、イタチの両足は切られてはいない。だが、肉体に流れた電気がイタチの肉体を麻痺させている。特に直接電気に晒された足は酷く痺れていた。

 痺れが治れば立つことぐらいはできるかもしれないが、うつ伏せに倒れ伏すイタチを見下ろすサスケがそんな時間を与えるはずがない。

 

 サスケはうつ伏せで屋上に倒れ伏すイタチの背を足で踏みつけながら自らの勝利を宣言する。

 

「詰みだ……イタチ……」

「ぐっ……分身と入れ替わったのは爆破の直後か……」

「ああ、そうだ……」

 

 サスケに踏みつけられて苦しげな声を出しながらもイタチがサスケに確認すると、サスケはあっさりとそれを認めた。

 

 あの時、サスケは分身が爆発した直後に大蛇丸に教わった変わり身の術を使用していた。

 爆煙に包まれている間に脱皮するように本体と分身に分かれたサスケは分身を蹴り飛ばして爆煙の外に追いやり、その反動で爆煙に包まれている長方形の建造物の頂点に着地した。空中という身動きの取りづらい場所だと『天照』で狙い撃ちにされることが分かりきっていたからだ。

 

 そして、ただでさえ万華鏡写輪眼のせいで視界が霞んでいたイタチは高度な分身を見抜くことができず、サスケに『天照』を当てたと思って油断した隙をサスケに突かれた。

 

 その結果が今の状況だ。

 イタチは足を深く傷付けられ動くこともままならず、うつ伏せで押さえつけられているせいで万華鏡写輪眼の瞳術も使えない。

 逆にサスケは脱皮したことで肉体の細かい傷を癒せていた。先ほどの手裏剣を受けた翼も、撒菱で傷ついた足裏も治っていた。

 

 現状は明らかにサスケが優勢。勝敗はついたも同然の状況である。

 

「さあ……これで俺の勝ちだ……」

「本当に……強くなったなサスケ……」

 

 サスケの二度目の勝利宣言。それを聞かされたイタチはサスケに聞こえないぐらい小さな声で噛み締めるようにサスケを褒めた。

 

 だが、まだ終わりではない。イタチにはまだ戦う力が残されている。

 

「いいだろうサスケ……お前には万華鏡写輪眼の真の力を見せてやる……」

「まだ何かやる気か……!だったら……」

 

 イタチがまだ闘志を見せ、そのチャクラが大きく唸り荒ぶる。

 それを見たサスケがイタチが何かを行う前に追撃を加えて勝負を付けようとする。

 

「千鳥!」

 

 サスケはイタチの背中に向けて左手で『千鳥』を放つ。致命傷になるような部位は外すつもりだが、腕の一本でも失えば印を結べなくなり、完全に戦えない体になるだろうという考えで手加減抜きの『千鳥』がイタチの左肩に向けて突き出された。

 

 だが、呪印状態2での渾身の『千鳥』はイタチの体から湧き出るチャクラにあっさりと防ぎ止められてしまう。

 

「何ッ!?」

 

 サスケが動揺するのも無理はない。渾身の『千鳥』が通用しなかったのもそうだが、『千鳥』越しに感じる手応えはまるで鋼鉄のように硬かったことにも驚いていた。

 サスケがそれほどの硬さが何をすればチャクラだけで生み出されるのか疑問に思う間もなく、さらにイタチの全身からチャクラが吹き出していく。

 

「やばい──!?」

 

 サスケはイタチのただならぬ様子にこの戦闘中一番の危機感を覚えて、マウントポジションという有利を手放してまでイタチから離れることを選択した。

 

 サスケが距離を取った後にもイタチのチャクラの噴出は止まらず、より膨大に、より高密度になっていく。

 イタチの身を守るようにチャクラでできた骸骨の巨人が形成され、さらに骨を中心としてチャクラの筋繊維が密集していく。

 

 万華鏡写輪眼を使いこなす者のみが扱える能力──高密度のチャクラの巨人『須佐能乎』を出現させたイタチ。

 イタチは足の痛みを堪えながらもゆっくりと立ち上がりサスケに振り返る。

 

「さあ……ここからだ……」

 

 まだ、戦いは終わらない。

 

 

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