ともかく、この場においてエルフィンドに伝わる神話伝承、あるいはオーク王の出生や降る前の世界の話などはさして重要でもなく、そういうのは後々にディネルースへ任せるとして。
「ともかく、私としてはこの……。うん、とりあえず半自動小銃と呼んで良いかな?これが気になるのだが、どうして作ったかは分かったが、どうやって作った?」
この場における本題とは私とカルラが持ち込んだこれらの、オーク王の言う半自動小銃である。
「ふむ、不思議な問いかけだなオーク王。どうやって?ティリオン王立造兵廠の設備を間借りしてだ。しかし、聞きたいのは手段ではないようだな」
「そうだな、私の聞き方が悪かった。……私が生きていた世界では、半自動小銃や
また、まただ。今度は機関銃ときた。機関砲とは違うのだろうが、いったいどんなものなのやら。
しかし、まあ。
「なるほど、なるほど。オーク王が気になったのは、私達が如何にして技術的な障壁を乗り越えたのか。それも半星紀もの大きな障壁を。だな?」
「そうだ」
これは、難問かもしれんな。
こればかりは、銃に関しては私よりも先達である者に頼るべきだろう。
「だ、そうだが。ハーマセン先生、どう思う?私達はいったいどんな障壁を乗り越えてしまったのだ?」
「閣下、先生は止して下さい。……いえ、しかし。あまりに多くの試作を積み重ねて軍から割り当てられた予算や氏族の財を逼迫させた事は、それは違いますよね」
何しろ私たちは、いわゆる半自動小銃を開発するにあたり技術的な障壁というものに遭遇していないのだ。
精々が幾つかの部品で耐久性にやや不満があったのを、重量の増加と引き換えに解決させたために少しばかり重くなってしまった程度だろうか?
事態を察したらしいオーク王が驚愕に顔を染めるが、まあそうだろう。
どうしてかエルフィンドは、実際には私の氏族の一部だけとはいえ兵器開発において、知らずして半星紀もの高さの技術的な障壁を飛び越えていたのだから。
「オーク王、質問を質問で返すのは大変に失礼なのを承知で聞かせて欲しい。オーク王の世界で半自動小銃はどんな技術的障壁により半星紀もの遅れをとったのだ?」
「それは、いや待ってくれ。本当に、君たちは本当に何も技術的な障壁にぶつからずに半自動小銃を作ったのか?」
「ああ、そうだ」
しかし一体、どんな障壁があったのだろうか?
「……火薬だ。今の火薬では燃えた後に不純物が残り、これが銃の内部に蓄積すると銃を汚して動きを阻害してしまう。これは不純物を減らした火薬が実用化されるまでどうにもならないはずなんだ」
しかし明かされてみれば、それはもっと前に別の問題を解決する為に乗り越えていた障壁だった。
「なんだ、つまるところ煤や燃え滓の事か。それならカルラの銃を作った時に解決している。もっとも理由は硝煙で照準が出来なくなったり息が苦しくなる問題を解決するためだったんだが、刻印式魔術で銃身の後から前へと風を起こせるようにしたんだ」
そういえば確かに、カルラの銃からずっと私たちが作った銃は銃身に風系刻印式魔術を施していて、部品数の多さや複雑さに加えて魔術刻印の繊細さから整備が面倒ではあったが、そうではない普通の火打石銃やマルティニ小銃にあるような煤や燃え滓がこびり付いたりといった問題とは無縁だったな。
なるほどあのような汚れが機関部にこびり付けば半自動小銃も動かなくなるだろうと納得しつつ、風系刻印式魔術の実演をと私が作った銃、私個人としては自己装填式小銃と呼んでいるそれを手に取り、銃身を撫でるように魔力を注ぎ込んだ。
「ほら、こんなふうにだ」
そして銃口をまたもや窓に向け、槓杆を引いて薬室を開放してやれば、銃口から噴出する風が窓に当たって傍のカーテンをはためかせた。
「これのおかげでカルラの銃は、装填を数秒で終わらせたのに硝煙が晴れるまで更に十秒以上も待たなければならないなんて事にならずに済んだのさ」
とはいえ、これで出来るのは銃口の近くに漂う発砲煙を前へ吹き飛ばして薄めるだけで、その周りで自然の風が全く吹いていないなら結局のところ何発か撃てば視界が遮られてしまうのだが。
「……そういう事か。銃身に彫り込まれていた彫金は装飾が目的ではなく刻印式魔術だったのか」
「これもこれで、銃の価格まで押し上げているなどとラエリンドの奴には嫌われていたがな。しかしなるほど。つまりオーク王、将来的にはこの世界でも不純物を減らして煤や燃え滓の無い火薬が発明されるんだな?」
「ああ、そうなるはずだ。そしてこれはもちろん機密なんだが、察しているだろう?オルクセンがその
「それはもう。なるほど無煙火薬か、それが神話伝承の秘薬などではなく作れると知っているなら作らない訳がない。ああなるほど、半星紀もすれば出来るんだな?」
その暁には刻印式魔術は風系ではなく冷却系にしても良いな。
「いいや、そればかりは分からない。半星紀よりも短いかもしれないし、あるいはもっと長いかもしれない。私は国王になってから数々の改革と呼ばれるような、実際には前の世界で知っていた物事の真似事を行ってきたが、そのどれもこれもが似たようなものだったよ」
「ふむ……。なるほど、世が違えば技術の発展する速さも違う訳か」
「それこそ、私の前の世界に魔術などという理は存在せず、ただ物理学や化学といった学術によって文明は発展していたから、魔術という存在が火薬の発展にどれだけ寄与するのか、あるいは阻害するのかも分からない」
「なんと魔術の無い世界とは、それはまるで人間族国家の社会のようだな」
いやまあ、魔術とて個々の能力に強く依存するものの学術として成り立つのだが、しかしこれは降ってくる前までに培った認識によるものだろうか。
つまりオーク王、となると降ってくる前は人間族と言っていいのか、つまりはこの世界の人間族に類する性質の、そして似た外見の種族だったな?
いやまあ、そんな部分まで詮索しては本当にディネルースに刺されてしまいそうだからやらんが、なんだお似合いじゃないか。
「しかし、そうか。刻印式魔術があれば無煙火薬が無くても半自動小銃は作れるのか……。よし、フルーベル。これはあくまで提案、オルクセンには職業選択の自由がある上で提案なのだが、オルクセンの軍の為に銃を作ってはくれないか?例えばそう、完全な自動小銃や機関銃、あるいは他のあらゆる銃や砲をだ」
ああ、ああ!なんて事だ!
このオーク王、なんという提案を亡命したばかりの敵対種族にするのだ!
「正気か、オーク王?」
「正気さ。もちろん断ってくれても良い。君ならオルクセンでも法学者として働くのも、ディネルースが求めたように軍で教官職を勤める事も出来るだろう。あるいは他の仕事がやりたいとしても可能な限り斡旋するよ」
そして自由意思というものを尊重するにも限度がある。それも私が疑念を呈したのはそこでは無いのに!
そこまで言われては、ああまったく困ったな。
シュヴェーリンに会えたらならそれで殺してもらってお終いの旅路だと思っていたのに。
「わかった、わかったよ。その代わりに条件がある」
「フルーベル。どんな成果を挙げたとしてもシュヴェーリンの手を君の血で汚させはしないからな」
まったく、そこまで強情じゃなくても良いだろうに。
それでいて諦めろとは言わないのは優しさのつもりか?
こうまでなれば両手を挙げて降参するしかあるまい。
「はーーー。それはそれで譲れない条件だったんだが、まあひとまずだ。私と共にエルフィンドから出てきた私の氏族の者達、このハーマセンみたいな奴があと五〇人ばかりが今はキャメロットに居るんだが、そいつらもオルクセンで受け入れてくれないか?先程も言ったように何人かはこの半自動小銃に関わっているんだが、どうだ?」
しかしまあ、ハーマセンもそうだが、どうしてあの馬鹿共は私なんかに付いて来てしまったのだろうか。
「五〇人か……。いや、君と共に国を出た者達であれば問題無いだろう。受け入れるよ」
それさえ聞ければもう満足さ。
もはや今すぐにだってシュヴェーリンに殺されたって思い残す事は無い。
「感謝する。ならば私は応えよう、何だってやってやるさ。―――我が王」
だから、どうか私の願いを叶えてくれないものだろうか。
ほんのたった一つ、目の前の白エルフを殺めるようシュヴェーリンに命じるだけで良いのだから。