オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

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本二次創作で主人公のホルステナ・フルーベルが芝三十郎様の「山賊大将シュヴェーリン」にゲスト出演しました。
凄く凄いのでお勧めです。
https://syosetu.org/novel/367236/


バンドウ事務所⑮

「……ところで、あの騎兵突撃は本気で突っ込んでくるんです?」

 

 そう問い掛けてきたのは擲弾兵中隊中隊長のコレスティン・フーチェル大尉。

 

 あの近衛巨兵連隊も斯くやとばかりの偉丈夫で、産まれた時代が違えばロザリンドで大変に暴れていたであろう一頭である。

 

 その体格もあってこの演習では警護対象である我が王役をやってもらおうかと考えたのだが、しかし中隊長を引き抜く訳にもいかずそれは叶わなかった。

 

「おや、オルクセン軍の騎兵演習ではやらないのかい?」

 

「はい。先王の頃はやっていたようですが、我が王は訓練や演習での事故を大変に嫌いますので」

 

 ああ、なるほど。

 

 そういえばこの大演習場で先に催された師団対抗演習ではコボルト族輜重兵たった一頭が渡河中の事故で遭難した為に中止となったのだったか。

 

 そこまで思い出して、一つ危惧すべき点に気付いた。

 

「……もしや、規則で禁止されてる?」

 

「いいえ、禁止まではされていません。しかし、オルクセン軍の騎兵総監は我が王の最側近であるツィーテン上級大将ですから、ええ、その()()は徹底されています」

 

「なるほどな。まあ、あいつらは我が王の意向など全く知らんだろうが、しかし安心したまえ。演習で死人を出すような下手糞はマルローリエンの演習に呼ばれんよ」

 

 とりあえず、オルクセンに来て早々に一族郎党揃って規則違反にはならずに済みそうだ。

 

 ともあれ、その騎兵突撃はまもなく擲弾兵の持つGew七四が成し得る突撃破砕射撃の射程およそ六〇〇mの辺りに到達するかというタイミングで、動きが変わった。

 

「―――ああ、ほら、障害物の無い平地で騎兵と睨み合うから、()()なった」

 

 騎兵突撃がその速度を速歩から駈歩へと速めると共に、それぞれの進路が花の開くように散開していく。

 

 あるいは最後の突撃準備射撃で陣地線に穿たれた破口に目掛けて突入するのが三騎いるが、そいつらは囮だろう。

 

 残りの殆どは防衛線の南北端を大きく迂回していく。

 

「ああ、しまった!」

 

「―――左右へ迂回した奴には構うな!正面から突っ込んで来る騎馬に向けて撃たせろ!」

 

 こんな単純な戦術に動揺したフェアグリン少尉には後で指導するとして、フーチェル大尉の判断は早く、そして簡潔だった。

 

 囮であろうとも、命中の公算が高い目標を確実に仕留める事を企図したのだろう。

 

 それでも、実際に射撃を実施する擲弾兵が居るのは我々の一五〇〇m先。

 

 オーク族であるフーチェル大尉なら精一杯に声を張り上げれば届くやもしれんが、それは辺りが静かな時に限った話だ。

 

 故に警護班による魔術通信で伝達されるが、それはこの距離であっても即時性に欠けるものでしかなかった。

 

 バンバンバンと銃声が鳴り響く。

 

 魔術通信による指揮の伝達が完了するよりも早くに左右へ迂回した騎兵の何騎かが突撃破砕射撃の射程内を掠めた為に、それに釣られて射撃を始めてしまったのだ。

 

 それでも一応ながら分隊単位での統制はされているようだが、小隊単位での統制射撃ほどは効果が期待できないだろう。

 

 そして鳴り響く銃声はせっかく魔術通信で擲弾兵の小隊長まで伝達された命令を更に口頭で兵の一頭一頭へ伝達するのを大変に阻害する。

 

 もはや中隊としての統制は失われてしまったに等しい。

 

 あるいは、これは擲弾兵の方に演習裁定官として付き添っていたエルミア大尉から後になって聞いたのだが、擲弾兵の半数は照尺の距離がまるで合っていなかったという。

 

 徹夜による過労が齎した視野狭窄はそんなところにまで影響を齎していたのだ。

 

 そして対抗部隊の内の囮として突撃破砕射撃の射程に飛び込んだ者達は擲弾兵との距離が四〇〇mとなった辺りで襲歩まで速度を上げ、あるいは迂回した者達は駈歩のまま、それで擲弾兵による防衛線を超えてしまった。

 

 殆どが輓馬として使われるペルシュロン種などの重種馬とはいえ、しかし騎乗するのがオーク族よりも大変に身軽な白エルフ族ともなればこうして十分な快速を発揮するのだ。

 

 これまでに東から来る対抗部隊で落伍判定を受けて止まったのは僅かに二騎、振り返って西を見れば三騎に落伍判定が下っていた。

 

 合計で五騎。比率にして対抗部隊の僅か五分の一にも満たない。

 

 陣地の配置、指揮の伝達や徹夜の疲労といった問題が無ければあと一〇騎は止められただろうに。

 

 そして、擲弾兵達が背中に回られた対抗部隊へと銃口を向け直そうと振り返って、その向こうにいる私達と目が合った。

 

 魔種族故に夜目遠目が効いて見えてしまうのが裏目に出たな。

 

 警護対象、それも我が王を想定しているそれに対して銃口を向け、あまつさえ引金を引くなど、この国の国民には難しいだろう。

 

「なんてこと、この距離で流れ弾が当たるものか!構わず撃たせて!」

 

 フェアグリン少尉も気付いて、それを魔術通信で伝達させようとするが、もはやこの混乱ではそれも叶うまい。

 

 そもそもとして我が王役を始めとした本隊も道の両脇を掘り下げた陣地に身を殆ど隠しているのだから、これで一五〇〇m先からの流れ弾など本当に当たるものではないのだ。

 

 これにより騎兵の背中を至近距離から捉えられる好機を逃してしまった。

 

 これで東西合わせて二三騎が此方へと迫って来る事となった。

 

 迎え撃つのは警護班では班長のフェアグリン少尉と第二分隊のナルルース軍曹ら残存五名、そして擲弾兵中隊では中隊長フーチェル大尉以下将校が二名と予備として手元に残していた一個擲弾兵小隊。

 

 あとはその場で小銃が撃てるというだけの負傷兵が二個分隊ばかり。

 

 頭数としては警護班と擲弾兵が大きく有利ではあるが、しかし対抗部隊による騎兵突撃はそれぞれが南北に広がってもはや殆ど全周から迫って来る状況だ。

 

 これでは上手く指揮しなければ狙いが方々に分散してしまう訳だが。

 

「照尺距離合わせ、五〇〇!北の奴から狙え!」

 

 しかしフーチェル大尉の指揮はやはり即断にして明瞭だった。

 

「距離八〇〇、七〇〇―――」

 

「騎手の目ぇ狙え!撃てぇ!」

 

 およそ一個増強小隊の小銃による突撃破砕射撃が火を噴く。

 

 この内の今まで予備として残されていた一個擲弾兵小隊は、この演習において警護側で唯一の真っ当な睡眠時間を確保できた戦力でもあり、その所作は実に正確だった。

 

 あれではこの距離でも狙われた奴は死んだとして良いだろうと、対抗部隊の一番北から迫っていた二名に死亡判定を伝えて脚を止めさせる。

 

「装填!」

 

「五〇〇」

 

「撃てぇ!」

 

 この号令で擲弾兵と警護班が撃ったと同時、対抗部隊の方でも白煙が上がった。

 

 オルクセン軍の騎兵銃であるKar七四による騎射であるが、あいつらの練度を鑑みても掘り下げた陣地に半身を隠した相手に命中弾はそうそう期待できないだろう。

 

 他方、対抗部隊には三名に死亡判定。これで残り一八騎。

 

「装填!」

 

「三〇〇」

 

「馬の脚ぃ!撃てぇ!」

 

 またしても、対抗部隊も同時に発砲。

 

 オルクセンに来てから初めて触った小銃で第一擲弾兵師団と同じ発射速度を発揮出来るのだから、自分の部下ながら誇らしいものだ。

 

 あるいは、半自動小銃や自動小銃ならば遥かに高い発射速度を発揮できたのだろうか。

 

 しかし四名に死亡判定。残り一四騎。

 

「照尺距離合わせ、一〇〇!装填出来次第、各個射撃!」

 

 もはやこの距離にもなれば統制射撃よりも個々の技量でもって撃たせた方が良いとしたのだろう。

 

 そして最終的に小銃射撃でもって対抗部隊は八騎まで減らされて、それでも突っ込んできた。

 

「オーク王を見つけ出して始末しろ!」

 

 その喊声と共に騎馬で警護班や擲弾兵の陣地を飛び越えたのを目眩ましとして、それと同時にKar七四を携えたままに飛び降りたのだ。

 

 それはもう、殆どが馬から陣地へと直接に飛び込むような勢いだ。

 

 我が王のあの偉大な魔力の気配を考えるなら、それ以外を相手にせずとも真っ直ぐに目掛けて突入も出来たのだろうが、こればかりはどうやっても再現など不可能だからな。

 

 次からは我が王役に旗でも持たせるか。

 

 あるいは、我が王の側に常に控えている巨狼のアドヴィンも見た目からして大変に目立つし、あるいは戦力としても非常に優秀なのだが、これも再現できなかった。

 

 ともかくとして肉弾戦である。

 

 警護班や擲弾兵の黒上衣と対抗部隊の緑上衣があちらこちらの陣地で取っ組み合いの乱闘を繰り広げ、これが最初の内は飛び込んだ勢いのあった対抗部隊が有利だったものの、しかしそれも最初だけだった。

 

 肌色こそ違えど身体的能力では同等なエルフ族同士の殴り合いならともかく、オーク族は話が別である。

 

 そのオーク族で殆どが構成される擲弾兵小隊がこの場においては数的多数でもあったから、それはもう個々の格闘技能では中々に覆し難いものがあり、忽ちに緑上衣は地に伏せていった。

 

 まあその中で私はといえば、今まで対抗部隊の方に演習裁定官として付き添ってここまで来たディネルースと共に、乱闘でやり過ぎそうな奴を見つけては平等に双方をねじ伏せて回ってしばらくして。

 

 緑上衣で動いている奴は居なくなった。

 

「我が王は無事か!?」

 

「はい!ここに、傷一つ許していません!」

 

 うむ、ただの襲撃を想定した警護であるならばこの時点で目標達成としても良いだろうな。

 

 もっとも、途中から指揮の殆どをフェアグリン少尉を見かねたフーチェル大尉が執るようになっていたのは大変に不味いのだが。

 

 例えフーチェル大尉の方が階級が上だとしても、この場において警護の責任者であるのはフェアグリン少尉なのだぞ。

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