「あなたこそ我が主」
いやいや評価してくれたの嬉しいけど、俺もうガルーダを宿してるから。
「……」
「……」
「……」
何この気まずい空気。俺悪いの? ねえ! 宿星重複を防ぐための脳波計測システムとかないの?
「そんなオーパーツ、この時代にあるわけないでしょう。108もいるんですよ。よその魔星の動向なんて把握しきれませんよ」
俺、三巨頭なんだけど。幹部なんだけど。
「あいにく、私は本来は天猛星(ワイバーン)部門なので。平社員なので、他部門の事は全然知りません」
報連相が機能してねーな。だから聖戦負け続けなんじゃねーのか。
「ぐっ……。だ、大丈夫です! 向こうもトップ(黄金聖闘士)同士ロクに顔合わせしないコミュ障集団ですから! いわば同格! それに負け続けといっても本丸のエリシオンまでは陥落してない、いわば判定負けですから!」
威張って言える事かよそれ……。どうして神話の時代から気が遠くなるほど抗争し続けてるのに決着がつかないのか、その片鱗を感じるぜ。敵味方共にグダグダしてんなあ……。
「魔星が導くままに、冥闘士は選ばれるのです。誇りなさい。全人類50億から108つしかない魔星を2つも身に宿す幸運を」
幸運と言えるかどうかは、複数の魔星を宿す効能を聞いてからだな。具体的にどうなるんだ? 2つ宿す分、パワー2倍とか? それとも逆に、お互い潰し合ってパワー半減とか? 後者なら全然幸運じゃねえぞ。
「どちらでもありません。先に宿った魔星はガルーダですから、普段はそちらが出ています。で、ガルーダが瀕死になった時に、初めて私が表に出てくるわけで」
へえ。という事は要するに1回だけなら死んでもOK状態か。なんだ、悪くないじゃん。
「どうでしょうね。貴方の体力をガルーダと私で折半する事になりますので」
ちょっと待て! それって本来のガルーダの体力半減って事か? 実質戦力ダウンじゃないか! いらねーよ魔星2つも! 50億も人間いるんだろ! 俺一人で独り占めするのよくない!
「あいにく、契約を結んだ時点で次の聖戦まで解約は無効でして」
ふざけんなよ次の聖戦があるにしても200ン10年は先の話だろーが! それまで生きてねーよ!
「双子神に頼み込めば何とかしてくれるかもしれません」
やだよ絶対ロクな事になりそうにないもん。長寿の見返りに外見もの凄い事になる術かけられそうだし。心臓の動きも遅くなって全然動けなくなりそうだし。心身共に正常でありたいの!
「貴方もなかなか文句の多い人ですね」
誰のせいだと思ってる!
**
バジリスクと問答しても埒が明かないと判断した俺は、ジュデッカにてハーデス様に事の次第を報告することにした。
「ハーデス様。冥界三巨頭が一、ガルーダ、参上しました」
「うむ。ガルーダよ。何やらたっての願いがあるそうだが」
「は。既にハーデス様もご存じかもしれませぬが、どういうわけか私はガルーダとバジリスク、2つの魔星を宿す事になってしまいました」
ハーデス様は重々しくうなずく。
「……うむ。はるかなる神話の時代より、冥闘士は余と共にあったが、そのような例、過分にして知らぬ。初めて聞いた時は余も驚いた」
「バジリスクに聞いた(吐かせた)ところ、この身に宿る2つの魔星は、主の体力を折半し合うとか。いずれ聖戦が始まるであろう状況において三巨頭の体力が半減など、由々しき事態であります」
「うむ……。せめて表がバジリスク、裏がガルーダであればな。普通にフィールドに出現する雑魚モンスターと思わせておいて、反則的な強さで画面の外のガキにトラウマを植え付ける初見殺し的な展開になるのだが……。なにせ聖闘士どもは、小細工に弱い」
「全くです。折半し合わずとも2つの星を余裕で宿せそうな牡牛座の黄金聖闘士など、情けないくらい搦め手に弱くて……あの、ハーデス様? 私が言いたいのはそういう事ではなく」
「わかっておる。その解決策を、そなたは余に請いに来たのであろう」
「おお、ご理解いただけましたか!」
「うむ。余とて冥府を統べる神。そなたに宿った2つの魔星を1つにすることはできぬが、別の星にすることならできる。それで体力が半減する問題は解決するであろう」
「なんと……。バジリスクと交換で体力が半減しなくなる魔星、そんなものがございますか?」
「フツ、あるとも」
バサァッ! ハーデス様はカッコ良くマントをひるがえす。
「そなたにはバジリスクの代わりにベヌウの魔星を授けよう」
「え?」
「ベヌウはまたの名を不死鳥、フェニックス。体力が半減したせいで死んでもびくともせぬ。むしろ、何度でも復活できるぞ」
「いや、それはちょっと……」
「何を言う。これで三巨頭の面目も保たれる。むしろ最強ではないか」
確かにアドバンテージではあるけれど。乙女座の野郎が数珠なんか作ったせいで、ハーデス様の力を以てしても冥闘士が復活することはかなわなくなったし。
「でも、毎回燃え尽きて灰になるんですよね? 復活する時に後遺症とかないですか?」
「後遺症などたかが知れておる。余も毎回聖戦で倒されて復活する度に宇宙になってるが、平気だ」
「いや、それ比較にならないでしょ……」
「では決まりだな。儀式を始めよう」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
しかし、ハーデス様は聞く耳持たない。必死の抵抗もむなしく、儀式は滞りなく行われてしまった。
「おめでとうガルーダ。そなたは今や、ベヌウ(フェニックス)のガルーダだ」
ハーデス様の宣言と共に、俺の体は突如炎に包まれた。
「熱っ! 熱いっ!」
慌てて転げ回る俺を見て、ハーデス様は平然と言った。
「心配するな。それが新しい力だ。……まあ、慣れるまで少し大変かもしれんが」
「少しどころじゃありません!」
炎に包まれながら叫ぶ俺。そして、あっという間に灰になった。
数秒後、灰の中から俺は再び姿を現した。全裸で。
「ふむ、慣れないせいか冥衣が復活するまでいささかタイムラグがあるようだな」
ハーデス様の言葉に、俺は慌てて手で要所を隠した。
「ハーデス様ぁ!」
その時、ワイバーンが部屋に入ってきた。
「ハーデス様、緊急の報告が……」
彼は驚いて立ち止まった。
「ガルーダ……。お前なぜ全裸で……?」
「いや、これはその……」
言い訳をしようとした瞬間、また炎に包まれる。
「うわぁぁぁ!」
灰になり、そしてまた全裸で復活。ワイバーンは呆然と立ち尽くしていた。
「……俺は何も見なかったことにする」
そう言って彼は部屋を出て行った。
俺は天を仰いだ。
「ハーデス様! これでは仕事になりません!」
全裸の俺が叫ぶ中、ハーデス様は思案顔。
「そうだな……。よし、こうしよう。力を制御できるようになるまで、お前には常に灰をまとった姿でいてもらおう」
「えぇ!? それって、つまり」
ハーデス様の力によって、そこら辺に漂ってた灰が体にこびりつく。特にアソコに。
「そうだ。お前は灰かぶりのガルーダとして生きるのだ!」
そして翌日。「灰かぶりガルーダ」の一件は早くも全冥界に知れ渡る事になり、
「おい変態。灰が飛び散るから近づくな」
「風呂場を汚さないでもらえます?」
などと意地悪な姉(ワイバーン&グリフォン)からクレームの嵐を浴びせられ、ヒラ冥闘士の間では「冥界のシンデレラ」なる二つ名まで付いたとか付かないとか。
来世は女神陣営に転生したいと思った俺だった。