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「ゆる、さ、ない…許さない」
ベリベリっと包みを剥がし、棒付きキャンディを乱暴に口に咥える。
『お前が出来たから煙草やめてコッチに切り替えたらすっかり甘いモノ好きになっちまった。お陰でちょっとココに肉ついちまった』
そんなふうに笑いながら腹をたたく姿。
休みの日には広い公園でキャッチボールに付き合ってくれた姿。
悪さをした時には真剣に怒って諭してくれた姿。
そんな数多の思い出が脳裏をよぎる。
「あのヤロウ…絶っ対に許さねえ…!!」
ガリッ、ガリッと音を立ててキャンディに歯をたてて齧りつく。
口の中に広がるコーラ味はいつもとは違い、どこか奥底に苦みが混ざっている気がした。
バイトの休憩中、屋上から睨みつける先にあるのは空高く伸びる煙突より立ち昇る煙。
恐らくは火葬場のものだろう。モクモク立ち昇るソレは黒い色をしていてまるで俺の中に現在あるドス黒い感情のようだ。
『コイツは俺の一番のダチなんだよ〜』
そう言って肩をバシバシ叩かれていたあの男。
学生時代からの付き合いで、時々居酒屋へ呑みに行ったり我が家で酒を飲み交わすなど親交が深かったという、“無二の親友”だと俺ら家族の前でそう言われていた。
『そうそう、俺たちずっと親友だもんな。これまでもこれからもな!』
アイツだってそんな事ほざいて、肩を抱いて笑っていた。
それなのに…。心から信頼されているのを知っていた筈なのに。
あの野郎は裏切ったのだ。
ガリッ、ガリッ、ガリンッ!!
少しずつ削れていた飴は遂に砕け、口内に転がった欠片が舌に当たる。外側の滑らかさと違う、凸凹した硬さが刺さる感覚…今の俺にはそれもまた気に障る。
1年ほど前のことだった。
居酒屋へ行った時にこう話を持ちかけられたという。
『オレがここ数年、大した職についてないのに暮らしていけてるのは何でだと思う?投資で儲かってるからなのよ!オレが昔から数字に強いの知ってるだろ?ぜってぇ損はさせねぇよ!怖いってんならそうだな、最初は少額にしてみっか?まぁ、とにかくオレに任せろ!』
確かにソイツは大学では経済学部にいたらしく、それもあって言葉の信憑性は高かったようだ。
そうして父は投資をやり始めた。初めは5万10万、次第に20万程とお金を渡していった。その度にきちんとリターンとしてある程度の利益が加算された状態で戻ってきた為、“順調にいっている、あいつに任せて正解だった”と思うのは当然といえば当然だった。
数回そんなやり取りをした後のある日、あの男がちょっといい居酒屋の個室へ連れて行ったかと思うといつもよりも真剣な眼差しでこんな話を持ち掛けてきた。
『ある情報筋からスゴい儲け話を仕入れた。ココに金を入れれば確実にその倍、いや3倍になって返ってくる。オレもそこに金を突っ込んで大儲けするつもりなんだ。どうだ、一緒にやらないか?チマチマやっててもいいが、ここらで1度ドカンと当ててさ。その後の投資資金にするもよし、カミさんや息子に贅沢させてやるもよし、だ。それにオレたちもそろそろ老後の資金も貯めておきたい頃だろう?お前も男なら覚悟を決めろ。大丈夫、一緒に大儲けしようぜ、親友!!』
そんな事を言っていたというその男は、姿を消してしまった。父から退職金やら貯金から捻り出した約1000万円もの大金を受け取った数日後に。
連絡が取れなくなってその男の自宅を訪ねると【もぬけの殻】になっており、隣人女性から数日前の夜に逃げるように引っ越したと言われたようだった。
顔面蒼白になりながら帰宅した父を待っていたのは郵便受けに入った一通の封筒だった。
遠方の消印が押されたそれの中身を俺自身が見たのは…父の葬儀が終わった翌日だった。
“この手紙を読んでいる時には俺はもういないだろう…なぁんつって(笑)
いやぁ、お前が
めっちゃ感謝してっからさぁ、その礼としてコレだけ入れとくなー!残りは…まあ気が向いたら返してやんよ〜! んじゃあな〜、親友! 永遠の友より”
封筒にも便箋にさえ差出人の名はなかったものの、誰が書いたものかは一目瞭然。そこに入っていたのは便箋1枚と、取り出した時にハラリと落ちた“礼として”の1万円札が1枚だけだった。
憔悴した母に代わり親戚に手伝ってもらい何とか済ませた葬儀の事は一生忘れることはできない。
葬儀費用も大して出せないくらいの貯金しかなく、元々考えていたよりも小さい規模。質素な祭壇にシンプルな棺。
そこに横たわっているのは、ガリガリに痩せこけた父親の顔。
“長年の親友”に騙されて裏切られたショックのあまり食事が喉を通らなくなり一気に痩せこけ、ふらふらと街なかを歩いていた時に歩道へ突っ込んできた居眠り運転のトラックにより最期を迎えてしまった、父。
綺麗に整えられたその顔は苦痛に歪んだ表情ではなかった事だけは救いだ。
火葬場で震えながら遺骨を共に拾い集める母の姿もきっと忘れまい。
目元は泣き通しだったためか腫れており、頬も涙の筋がはっきり見えるほどだった。自分も似たようなものだった筈だ。
連絡しようがなかった為、当然ながらアイツは葬儀に来なかった。
謝罪も、弔いの言葉も、アイツからは何もないまま。
葬儀に来ていた共通の知人だという人物は数人いたが、そこまで仲は良くなかったらしく現在の居場所も何も分からなかった。
その後また日常に戻ったが…俺の中に生まれた黒い感情は消えず燻り続けている。バリバリと口の中にある飴を完全に噛み砕き、残った白い棒を手でギュッと握り潰す。
「なにが親友だ永遠の友だ…ふざけるな。絶対にいつか探し出してやるからな。いつか、必ず…!!」
そして時は流れて数年後、遂に俺は辿り着いたのだった。
「つまりこれを行えるのはアンタしかおらんというわけじゃ」
たまたま近くに居合わせたという太っちょのジイさん、それと現場をうろちょろしていたメガネボウズと他4名の子供らによって見事に暴かれてしまった。
「ハハハ、まいったな…。咄嗟に考えたにしてはなかなかイイ感じだと思ったんだけど…。あーあ、本当…なんか悔しいな」
「なら認めるんだな?自分の犯行だと」
恰幅の良い警部が鋭い口調で尋ねてきたため、1つ頷いてそちらを身体を向ける。
「えぇ、そうです。俺がやりました。アイツを…あの野郎をこの手で」
大きくため息をつくと手のひらを見つめ、あの屋上でやったみたくギュッときつく拳を握る。
「それはやっぱりお父さんの件で?」
何故かメガネの坊主が聞いてきたが、警部の近くにいた為気にせず警部に向かって答える。
「そうですよ。父の死について告げてもアイツ、「ふーん、そう。」って、まるでどーでもいいことのように興味なさげで。父の前では吸ってなかったタバコをスッパスパ吸って挙句の果てにはその煙を俺に吹きかけてきた。それに…」
「そんな事よりさぁ、お前さんは【無知は罪なり】って知ってる?」
「どっかの哲学者の言葉だけどさ、まったくそのとおりだと思わないか?ろくに自分で調べたり知ろうとしないで“友達だから”って理由だけで鵜呑みにして金を預けたりして。だからあんな目に遭うんだよ。フフッ、あんなん騙される方がわりぃんだよ、ハハハッハハハッ!」
思わず怒りで目を見張った俺に気付かないのか、ニタニタしながら実に美味そうに煙草を吹かす。
「お前さんも気をつけなよ?せっかくマヌケでアホ面の父親に似ずにあの美人な母親に似てイイ顔してんだからさ。中身が似たらアイツみたいに馬鹿を見るぜ?あ、ところでその美人な母ちゃん元気か?」
「…母さん一度は立て直したものの、結局ショックによる多大なストレスが原因で身体も心も壊して、去年病死しちまった。母さんも父さんもアイツに殺されたようなものなのに、のうのうとこんなところで暮らしやがって。挙げ句、“騙される方が悪い”だぁ?自業自得なところが父さん自身にあったにせよ、テメーだけにはそんな事ほざく資格はねぇ!騙す方が悪いに決まってんだろ!!」
最後は叫ぶように言葉を発したと同時にポトっとひと粒水滴が足元に落ちる。一瞬分からなかったがどうやら俺の瞳から溢れたモノのようで次々と足元に落ちていく。
「そんな事考えてたらもう止まらなくなって目の前が真っ赤になって…。あとはご存知の通りですよ」
「…あとは署のほうで話を聞こう。高木」
「午後3時16分、殺人の容疑で逮捕する」
がチャリと音を立てて両手に手錠がかけられる。鈍い銀色をしたソレは意外と重く少し冷たい金属の感触が手首にのしかかった。
背中を押され促されるままパトカーへ向かう道すがら、功労者とも言える子供らが目に入った。
「坊主たち、アイツみたいな大人にはなるなよ?“親友”を騙して苦しめても平気で嘲笑うようなサイテーな奴にはな。そんな事してたらいつかオレみたいな立場のやつに成敗されるぞ」
「えぇ、肝に銘じておくわ」
そう答えた茶髪で大人びた感じの嬢ちゃんへ小さく頷き、パトカーへ乗り込んでその場をあとにした。
パトカーが走り出してしばらくして何気なく窓の外を見る。
今日はとても気温が高く、とても夏らしい天気となっていた。灼熱の太陽に晒されてジリジリとアスファルトも焼かれるようだ。
少し先をみているとゆらゆらとアスファルトの上の景色が揺れており、陽炎が出ているのだとわかった。
そしてその陽炎の中に人影が見え、思わず息を呑んだ。
そのままパトカーは走り続け、その人影らしきモノの横を通過した。
「……。父さん…」
小さく呟いたそれはすぐ隣りにいた若い男性刑事にも聞こえたようでコチラを不思議そうに見てきた。
「…本当は俺、首に縄をつけて引っ張ってでも墓前に連れていきたかった。そこで両手両膝ついて土下座して『“親友”のお前にあんな事して済まなかった』と…心から謝罪して、ほしかった…。父さん、母さん、こんな結果になって、本当にゴメンな」
俺の目からは止めどなく涙が溢れてきたのだった。
具体的な犯行シーンはどうもうまいこと書けないため飛ばしてしまいました。
いつか書けるようになりたいです