オバロ世界に境界の妖怪   作:Crimson Wizard

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第三王女

 

男二人が酒を飲んで盛り上がっている頃、紫はスキマの中からとある存在を覗き見ていた

その人物は調度品一つで軽く屋敷でも建つであろう、煌びやかな部屋の中でベッドに座ってはブツブツと何かを呟いたり、

鏡を見ながら笑顔の練習をしたりと奇っ怪な行動を繰り返していた

 

そしてブツブツと呟いている内容も物騒なことばかりである

自身の計画の邪魔をした貴族であったり、愛するペットへと危害を加えようとする侍女を処理する手段であったりと様々だ

 

「そういえばクライムの陰口ばかり言っているあのクソ娘は先代リットン伯の……確か末のご息女だったかしら」

 

まるでその道の熟練の職人が造り上げた人形の様な美しい顔立ちの女だが、暗い部屋で無表情のまま何かをブツブツと呟く姿は却って不気味である

 

「……六大貴族の中では比較的動かしやすいけれど得られる利もほとんどないし、最近は却って邪魔になってきたわね。

伯爵の小間使いの……あの気色の悪い男爵家の三男坊と一緒にそろそろ退場して貰おうかしら」

 

紫はその存在を見ながら微笑ましそうにして、彼女とのファーストコンタクトの手段を考える。

まだ考えていた計画は殆ど進んでいないが、(骨と鳥)らが功績を挙げて名が売れ始めると恐らくこの子はすぐに存在に勘づくでしょう

冒険者として名が売れてくれば彼らは王都へ行く可能性が高いし、数少ない高位の冒険者となればその内まず間違いなく彼女達と接触するはず

今の内に恩を売ってこちら側についてもらうのもアリかしらね。

 

予め情報を集めていた式を通じて藍に命令を下すと数分後、藍は書類の束を持ってきてくれた。

 

この娘の協力を得られたら早い段階でこの国のトップ達をドッペルゲンガーにすり替えるのもアリかしらね

 

準備を終えた紫は目的の部屋へとスキマを繋いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは王宮……その中でも王族しか立ち入りの出来ないエリアにある第三王女の私室

 

夜も更け、物音一つしない王家の宮殿にまるで空間を引き裂くように現れた一人の女は胡散臭い笑みを浮かべて私を見つめる

 

「こんばんは、いい夜ですわね」

 

「侵入者です!誰か居ませんか!」

 

咄嗟に大声を上げて衛兵を呼んでみるものの、部屋の外からは物音一つ聞こえない

 

「安心なさいな……危害を加えるつもりは御座いませんわ。警備兵は恐らく眠っているのでしょう。夜も遅い事ですし、お疲れなのかもしれませんわね?

……許して差し上げて?ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセル殿下……私は本当に、あなたとお話がしたかっただけなのです」

 

魔法で結界を張っているのか、それとも既に殺しているのかは定かじゃないけど、助けは期待出来なさそうね。

 

……現状私の存在を煩わしく思っていて、私を消そうとするのならやはり一番に出てくるのはバルブロお兄様だけど、

見る限りはあの馬鹿の裏側にはこんな女は居ないはずだし、八本指の警備部門とやらにも転移魔法の使い手なんて居なかったはず。

私は魔法に明るい訳じゃないけど、空間に裂け目を作る魔法なんて聞いたことがない

そして六大貴族の中でも八本指の幹部を顎で使える者は限られているし、殆どの貴族は寧ろ傀儡だ。

その上対価も安くは無いでしょうし、裏で大きな動きがあるという話は入ってきていない。なら特に今夜である意味もない。

 

言っていることをそのまま信じるわけではないけど、危害を加えるつもりが無いのならこの女は何が目的で私に接触してきたの?

 

「色々と考えているところ失礼だけど、答えは出ないと思うわよ?今夜あなたに会いにここへ来たのは、ただの私の気まぐれだから」

 

……そもそも圧倒的に有利な立場にいるのだから特に私に嘘をつく理由もないですね。恐らく本当にこの女の気紛れなのでしょう

 

「ねえ殿下……窮屈じゃないかしら、人間が動物と一緒の檻で暮らすのは」

 

この女、私の本性を知っている?……魔法で覗き見や盗み聞きをしていたのなら私が周囲の肉袋を同族と思っていないのを知っていても違和感はない。

でもこの女は敢えて周囲の人間の事を動物と呼び、この国のことを檻と表現した。どうして勘づかれたのかは兎も角私の本性も

裏で動かしていた者たちが気づかれているにしてもそれだけなら接触する理由にしては少し弱い気がするわね。

……私は王女という立場とはいえ、王国で自由に動くことは出来ない。クライムという大きな弱みもある。

この女が何を目的に私に接触してきたのか皆目検討がつかないわ。

 

「あなたはとても賢いから、周囲の者を同じ生き物だと思えないと思ったのだけど……違ったかしら?」

 

「要件は……なんでしょうか」

 

「あらあら……あなたの方から話しかけてくれるなんて嬉しいわ。

そうね、まあ端的に言うならあなたの望みを叶えてあげる代わりに、私の下で働かないかというお誘いよ」

 

「……貴女はわざわざ私を必要としてはいないのではありませんか?

貴女には自分で考える頭があるのだから、わざわざ私に頼る必要も無いでしょう?ご存知かと思いますが、私に動かせる駒はそう多くありません」

 

そういうと彼女は更に笑みを深くして懐から羊皮紙の束を取り出して私へと手渡してきた

 

パラパラと読み進めると中には王国の機密情報の他、他国と繋がっている貴族の名前や密輸の証拠……

違法に購入したであろう奴隷の所有権の記載された書類、違法娼館の顧客名簿や所有する鉱山から秘密裏に鉱石を帝国へ流している馬鹿貴族の実印。

国庫の資産から横領した貴金属を売り捌いている貴族のリストや実際に提出された物とは明らかに桁の合わない収支報告書、

その他にも数々の……この書類の中のたった一枚でも、使い道によっては王国が混乱に陥ることは間違いない。何故これを私に……?

 

「あなたは少しだけ昔の私に似ていてね?もしかしたらお友達になれるかもと思って……それは私からのちょっとした手土産ですわ」

 

これほどの情報を集めてただの手土産……?

私を力で従わせる事が出来るのにそれをしない。私が其方へ着いたのならば、きちんと褒美は与えるし仕事も評価する。 と

 

書類の束を一瞥して、それをどう使うのもあなたの自由……そう言った後、再び女は口を開いた

 

「これは独り言なのだけれど……お友達のお願い事なら、少しくらい協力してあげたくなるのが友情ってモノよね」

 

つまり彼女は本当にただ……

 

「ッフフフフフ……私、貴女とお友達になりたいわ。今までオトモダチなんて居たことがなかったもの」

 

「酷いわねぇ……確か、あなたには居たでしょう?アダマンタイト級冒険者の可愛らしい女性が」

 

彼女は分かってて言っているのだ。……私が彼女の事など使い勝手の良い駒の一つ程度にしか思っていない事など

 

「分かってて揶揄うだなんて、それこそ酷いですわ!それより、貴女のお名前を教えて下さらない?」

 

「そういえばまだ名乗っていなかったわね。私は八雲紫、これから宜しくお願いしますわね?可愛らしい王女殿下。」

 

「ええ。此方こそ、宜しくお願い致しますわ。私の初めてのオトモダチ♡」

 

私はクライムと二人で過ごせればそれで良かったのだ……だけど、そこにお願い事を叶えてくれる友人が居るのなら文句は無い

ああ……!私はなんて幸せなのかしら。無駄に長いこと練った計画は全て白紙になるけど……

 

ふふ。ただクライムに首輪を着けて満足なんてせず、もう少しだけ先を求めてもいいかもしれないわね。

 

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