腹減り少女はSEED世界で爆発少女にレベルアップする 作:サボテンダーイオウ
炎上するビルの合間、激しい地鳴りに追われながら逃げ惑う避難民たちの悲鳴が響き渡る 。高層ビルの上層部が一部崩落し、粉塵が激しく舞い上がったが、奇跡的に市民たちの頭上への直撃は免れていた。
「キャー――ッ!」
「うわーん! ママー!」
「大丈夫よ、大丈夫……!」
超大型モビルスーツ・デストロイガンダムの巨躯は、スノウの血の滲むような操縦によって、人口の密集する中央市街地から完全にそれて、白銀の雪原へと向かって進路を変えていた。
建物への多少の半壊などの被害は出たものの、致命的な直撃は回避され、奇跡的に怪我人程度で済んでいるはずだった。
だが、この不自然なほど被害の少ない進撃を、決して良く思わない者がいた
画面の向こう、特別観戦室のデスクに拳を叩きつけたロード・ジブリールである。ベルリン中央市街地の壊滅を今か今かと待ち構えていた特別観戦室の空気が、突如として一変した。ジブリールは手にしていたワイングラスを叩きつけるようにデスクへ置き、狂気混じりの怒声を響かせた。
「ええい、一体何をやっているんだスノウは!目の前にコーディネイターの防衛部隊も、焼き払うべき街もあるというのに!なぜ雪原などへ向かう!」
その傍らに座るロゴスの幹部たちも、モニターが映し出す未曾有の火力と、デストロイの不可解な動きに、驚愕と冷酷な満足感を交えた表情を浮かべていた。
「おいおい、なんだアレは!」
「加減しているのではないか?」
スノウが意図的に破壊の範囲を絞り、必死に慣性と戦いながら郊外へ機体を向けようとしている不自然な挙動。それはロゴスの最高幹部たちの目にも、明確な「サボタージュ」として映っていた。
ジブリールは苛立ちを露わにし、デスクの通信コンソールを力任せに叩きつけた。現場のモビルスーツへ直接命令を繋ぐ権限は前線の指揮所にしかなく、この部屋の端末から繋がるのは、ボナパルトをはじめとする基地拠点のオペレーター席だけだった。現地との直接回線が繋がらぬもどかしさに、ジブリールのプライドは激しく逆撫でされていた。
「くそ!使えぬ男めっ!基地拠点へ繋げ!カオス、アビスは何をしているっ!早く現地に伝えて街を焼き払わせろっ!」
ジブリールが受話器を握りしめ、通信の向こうの基地要員へと狂ったように怒号を飛ばす。しかし、彼が命令を届けようとしているそのカオスとアビス、そしてスノウのウィンダムは、すでにデストロイの背後でロゴスを出し抜き、アークエンジェルが待つ空へと戦線離脱するためのチャンスを今か今かと狙っていた。
◇◇◇
デストロイはザフト相手には容赦なく苛烈な攻撃を繰り出す。民間人のいない遮るもののない雪原での戦いでは、機体のスペックをフル活動で動かすことができるが、それでもできるだけ街から遠くへ離れなければならない。スノウは自分の命がどうなろうとも、無関係な民間人に怪我が及ぶのだけは避けたかった。
そのとき、デストロイの広域熱源センサーが、上空から超高速で接近する二つの強力な反応を捉えた。
『……来たな』
画面に映し出されたのは、純白の魔物スノーホワイトと、自由の翼フリーダム。
「あ、あいつらは!? 前の……!」
「ッチ!」
「くそ! お邪魔虫め!」
ロゴスからの脱走を謀る三人は、予期せぬ最強の介入者にコックピットの中で一気に表情を強張らせた。
◇◇◇
上空から雪原を見下ろすアマキはメインモニターに表示されるデストロイの不自然な移動軌跡に、怪訝そうに眉根を寄せた。
「……なんで市街地から逸れてるんだ?これじゃあハチの巣にしてくださいといっているようなもんじゃ……」
破壊の化け物でありながら、あえて不利な広野へと自ら向かっていくその挙動に、アマキは戦術的な違和感を抱かざるを得なかった。しかし、その巨躯から放たれる圧倒的なエネルギー波は本物だ。
『なんて大きさだ!アマキ!気を付けてっ!』
キラからの通信と同時に、デストロイを護衛するウィンダムが急速に反転し、フリーダムの進路を遮るようにビームライフルを連射する。
『くッ!スノウはステラがまもる!』
『ッ!』
キラはフリーダムのシールドでビームを正確に弾きながらも、ステラの捨て身の猛攻に防戦を強いられる。
『ステラ!下がるんだっ!』
スノウはデストロイのコックピットで声を張り上げた。自分を救おうと必死に戦う少女をこれ以上危険に晒すわけにはいかない。
『くッ!スティング!アウル!』
スノウの意図を瞬時に汲み取り、アビスとカオスが雪原の雪を爆発させながらフリーダムとスノーホワイトの間へと割り込んだ。
『わかってるって!よっ!』
『殺さなきゃいいんだろっ!めんどくせー!』
アビスのビーム三叉戟が夜空を狂暴に切り裂く。
メインモニターの端に、必死に自分のデストロイを守ろうとウィンダムを荒々しく駆るステラの姿が映り込む。
もっと早めに逃がしてやればよかったと自責の念に駆られる。だがここまで来たのだ。後はやれることをやるだけ。もしもの時は奥の手もある。何より、ここは猪娘との直接対決の場だ。
『仕方あるまい!死なぬ程度に痛めつけてやろう、アマキ!』
スノウは操縦桿を激しく押し込み、機体のメインセンサーの照準をリセットした。無差別な都市破壊を拒み、あえて不毛な雪原へと針路を逸らしていたデストロイガンダムの巨躯が、明確な戦意を宿して標的を一機に絞り込む。
背負った巨大な円盤型砲塔が凄まじい駆動音を立てて旋回し、無数の砲口がアマキの乗る純白の機体へと一斉に向く。
次の瞬間、空間を割るような大出力のビームが、幾条もの光の束となってスノーホワイトへと襲いかかった。
「こいつ!」
直撃コースのビームの雨に対し、アマキは鋭い反射神経でスノーホワイトのスラスターを最大出力で噴射させた。白銀の雪原をかすめるように超高速の変則機動でビームの網を紙一重で掻い潜る。しかし、かすめただけでも大気を激しく爆発させるデストロイの圧倒的な火線に、コックピット内のアラートがけたたましく鳴り響いた。
「私を狙ってる?まさか知り合いでもあるまいしっ!しつこい奴め」
まさかのアマキも本当に知り合いが乗っているとは思いもしなかった、
◇◇◇
アークエンジェルがベルリン上空へと急行し、メインモニターが白銀の雪原を捉えたその瞬間、凄まじい閃光がブリッジの乗組員たちの視界を真っ白に染め上げた。
地表から天空を貫くように放たれた幾条もの大出力ビーム。それがスノーホワイトを執拗に追い詰めているデストロイ。
「ぁぁ……」
カガリはモニターに映し出された未知の超巨大なシルエットと、広野の雪を一瞬で蒸発させるほどの圧倒的な熱量に、息を呑んでただ立ち尽くした。
「これは……」
マリューはコンソールを掴み、その不条理なまでの戦闘力に愕然と声を震わせる。
「モビルスーツ!?」
操縦桿を握るノイマンが、信じられないといった様子で叫んだ。モニターの拡大画面に映し出されたのは、従来のモビルスーツの常識を遙かに超越した、モビルアーマーとも言うべき巨躯。
デストロイの巨躯が雪煙を爆発させながら地天を揺るがす。シュトゥルムファウストが凄まじい駆動音を立てて旋回し、放たれた高エネルギービームの束が、白銀の広野を十条もの赤い火線でズタズタに切り裂いていく。
『ハァア!!』
スノウは強烈なGに耐えながら両手で操縦桿をねじ伏せ、機体の追従システムを極限まで引き上げた。予測不能な連射が、超高速で回避運動を取るスノーホワイトの進路を完全に網羅する。
「ぐっ……!」
空間を埋め尽くす光の網を躱しきれず、スノーホワイトの左肩装甲をビームの熱波が掠めた。凄まじい爆発の衝撃波に機体が激しく横転し、コックピット内のアマキはシートに体を叩きつけられて息を詰まらせる。メインモニターにLEFT ARMORED DAMAGEDの警告が赤く明滅した。
『!』
『あぁ!』
『あ!』
『ぁ!』
急降下するアークエンジェルのブリッジ、そして並走するフリーダムのモニターに、純白の魔物が衝撃で体勢を崩す瞬間が同時に映し出された。全員が息を呑み、悲鳴に近い声をあげる。
『アマキ!くそっ!』
まさかの恋人の危機に、キラの瞳が激しい怒りで鋭く見開かれた。フリーダムは背部のウイングを一瞬で全開にし、スラスターを最大出力で噴射させて、落下するスノーホワイトを援護すべく超高速で急降下を開始する。
しかし、その直線的な突撃ルートへ、ジェットブラックの背面にウィンダムが猛烈なロール回転を加えながら割って入った。
『やぁああああ!!』
ウィンダムは強引な推力偏向でフリーダムの懐へと滑り込み、高出力ビームサーベルを狂暴に振り下ろす。
『くッ!』
キラは刹那の判断でフリーダムのシールドを突き出し、強烈なビームの刃を激しい火花とともに弾き返す。だが、間髪入れずにアビスガンダムが雪原の斜面を滑走しながら、背部の多目的連装管から無数の実弾誘導弾をばら撒いて追撃してきた。
『ステラっ! 突っ込みすぎるな!』
スティングのカオスガンダムが上空で可動式兵装ポッドを射出し、フリーダムの退路を断つようにオールレンジのビームを浴びせる。
『うらぁぁあああ!!』
アウルのアビスガンダムが、ビーム三叉戟を両手で激しく回転させながら、フリーダムのシールドの隙間を突いて容赦なく突き出す。彼らは互いの機体を交差させ、緻密な連携で網の目を張るようにして、最強の二機を相手に雪原で死に物狂いの乱戦を繰り広げる。
スノウがスノーホワイトの自由を奪い、3人がかりでフリーダムを完全に押し止める。
そこへ、アークエンジェルの艦底から強烈な電磁火花を散らし、遅れて戦場へと弾走してきた二機のムラサメが、滑り込むようにやってくる。
『これは……なんとも悪趣味だな』
ムラサメのコックピットの中で、ラウは冷徹な笑みを浮かべた。かつての自分を見ているかのようなその歪んだ舞台を冷笑しながらも、ラウの指先は手慣れた手つきでビームライフルを連射した。
『んなこと言ってる場合か!行くぞっ!』
隣を並走するもう一機のムラサメのムウがラウの軽口を即座に遮るように前で滑り出た。
二機のムラサメは息の合った高速一撃離脱戦法を展開し、デストロイガンダムの火器管制を次々とピンポイントで破壊していく。さらにムウの突撃が、スティングたちの護衛ラインを強引に引き裂いた。
だがその瞬間、雪原の夜闇を裂いて、無数のビームと実弾がムラサメの装甲をかすめた。
『地球軍の化け物め! これ以上我が同胞を殺させはせん!』
『新型機がもう二機!? 囲んで叩き落とせ!』
ベルリン防衛のために駆けつけたザフト軍のバビやディンの大部隊が、アークエンジェル側の介入などお構いなしに、一斉に牙を剥いて襲いかかってきた。乱戦の火線は一気に膨れ上がり、四方八方から容赦のない弾幕が押し寄せる。
『チッ、おいおい! 話を聞く耳は持ってねえってか!』
ムウはムラサメをモビルアーマー形態へと瞬時に変形させ、ザフトのディンが放つミサイル群を急上昇で鮮やかに回避する。すれ違いざまに大口径バルカンを主翼から掃射し、敵機の戦闘能力だけを的確に奪って雪原へと墜落させた。
『フッ、話など最初から通じるわけがないさ。彼らにとって、目の前にある力こそがすべての憎悪の対象なのだからね!』
ラウは冷徹に言い放ち、ムラサメの機動性を限界まで引き出す。ザフトのバビ二機が放つビームの光跡を紙一重でロール回避し、カウンターのビームサーベルで敵機の両腕を一瞬にして切り落とした。不殺を貫きながらも、襲い来る他のザフト軍の猛攻を完全に圧倒し、戦線を引き裂いていく二人のベテランパイロット。
スノーホワイトが体勢を崩し、フリーダムが3機のエクステンデッドの猛攻に押し留められる最悪の戦況をマリューは艦長席から冷徹に見据えていた。これ以上の猶予はない。彼女はコンソールを力強く叩きつけ、凜とした大声をブリッジに響かせた。
「援護して!ゴットフリート照準!」
「!」
操縦桿を握るノイマンの指先が、艦長の意図を察して一瞬で緊張に跳ね上がる。ゴットフリートの巨大な砲身が、油圧の重低音を立てて急降下する船体の両翼からせり出し、乱戦を繰り出しながらスノーホワイトを追い詰めるデストロイへと一斉にロックオンされた。
「てぇ!」
マリューが腕を振り下ろすと同時にノイマンがトリガーを引き絞った。
次の瞬間、アークエンジェルの艦首から二条の巨大な緑色の光条が凄まじい大気の震えを伴って雪原へと向かって放たれた。
直撃のコース。だがデストロイガンダムの周囲に不気味な光の障壁――陽電子リフレクターが展開されアークエンジェルの大火力を無情にも霧散させていく。
『チィ!』
強烈な衝撃波をコックピット内で受け止めながら、スノウが鋭く毒づく。
「え?」
「弾かれた?」
「私も出る!これではあいつが!」
主砲さえ通用しない未知の化け物を前に、カガリは恐怖を撥ね退けるように声を張り上げ、ブリッジを飛び出そうとした。
「カガリ様!我等も出撃を!」
そこへ、トダカ一佐らが名乗りを上げた。
「トダカ一佐!」
「我らに出撃をお命じください。この戦い、オーブのためのものではありませんが、これをただ見ていることなどできません!」
「ああ!」
たとえ自国の利害が直接絡まぬユーラシアの地であっても、無差別に命を奪う悪魔の兵器を前に、オーブの軍人として誇りと理念を捨てるわけにはいかない。皆の熱い覚悟を宿した瞳に、カガリは力強く頷いた。
◇◇◇
ベルリン郊外での死闘が幕を閉じたとも知らぬまま、プラント最高評議会の議場は、地球軍の未曾有の大侵攻による未曾有の混乱と怒りの渦に包まれていた。
メインスクリーンには、ザフト軍事ステーションから刻一刻と送られてくる不気味な戦況データが赤く点滅している。
「対象は現在ベルリン外れを進攻中!」
「ジブラルタルが再度対応への指示をと!」
次々と響くオペレーターたちの悲鳴のような報告。ユーラシア西側の要衝が踏みつぶされようとしている事実に、議員たちの間で激しい動揺が広がる。
「どういうことです! 何の勧告もないままこのような!」
「無差別に襲うとは! 正気かやつらは!」
怒号と困惑のノイズが議場を満たす。誰もが地球軍の理不尽な暴挙にただ狼狽し、互いを責め立てる言葉を口にする。その喧騒を、議長席に座るデュランダルは、組んだ両手の向こうから冷徹なまでに見据えていた。そして彼は静かに立ち上がると、騒ぎ立てる議員たちを一喝するような低い声を響かせた。
「だが、下がってどうするね。下がれば解決するのかね?」
「うッ……」
議長の静かな、しかし確信を突いた一言に、詰め寄ろうとしていたタカオは息を詰まらせて一歩後退りした。戦わなければ生き残れない。綺麗事など通用しない。
「ミネルバは! 今どこにいる?」
「艦隊司令部の命を受け、現在ベルリンに向かっておりますが……」
タカオは喉を鳴らし、手元の端末のデータを慌てて確認しながら答えた。
「しかし現状、あの艦も戦力に乏しく、行ったところで……」
「かもしれんが、だがやらねばならんのだ!」
いつもより一段と力強く議長の叱咤が議場を圧する。
「「「ぉぉ……しかし……」」」
「誰かが止めねば奴等はますます頭に乗って都市を焼き続けるだろう! そんなことは決して許されることではない!」
デュランダルは毅然と胸を張り、正義のために立ち上がるリーダーの姿を完璧に演じてみせた。その熱弁に、先ほどまで弱腰だった議員たちからも賛同のどよめきが沸き起こる。
だが、その胸の内にあるのは、軍律を破るほど暴走するシンを、むしろ「正義の味方」として民衆に印象づけるための冷徹な計算だった。戦力不足のミネルバをあえて死地へ送り込み、それを覆して勝利させることで、自らの描くシナリオはより強固なものとなる。議長の瞳は、激化する戦火のその先にある、絶対的な世界の変革を冷たく見据えているのだった。
◇◇◇
「APU起動、カタパルト接続。ストライカーパックはエールを装備します。エールストライカースタンバイ。システムオールグリーン。ストライク・ルージュ、発進、どうぞ!」
アークエンジェルからはミリアリアの誘導により、キラ達の加勢としてカガリ達が出撃する。
「カガリ・ユラ・アスハ、ストライク・ルージュ、行くぞ!うッ!」
強烈な加速のGを背に受け、ルージュは白銀の夜空へと爆発的な速度で放たれた。キラやアマキたちが死闘を繰り広げる雪原へと急降下していく。
その機影を見送りながら、ミリアリアは即座に次の発進シーケンスへと移行した。
「ムラサメ、イケヤ機、発進、どうぞ!」
カガリの背中を追うように、イケヤのムラサメが獰猛な爆音を響かせてレールへと滑り込みカガリの後を追うべく続いていく。
その頃、圧倒的な連携プレーを見せつける三機を相手にキラは防戦を強いられていた。
『くぅぅ……』
『ええい!』
ステラはウィンダムの推力偏向を限界まで絞り出し、鋭いビームサーベルの連撃をフリーダムの死角から何度も叩きつける。
『ぐぅ……』
『そらぁッ!』
カオスが上空から高速で回り込み、激しいロール回転を加えながらフリーダムのシールドの隙間を狙ってビームライフルを掠め取っていく。
『あ!』
『ステラ、加減しやがれ!』
本来なら不殺を貫き、大乱戦のどさくさに紛れて撤退したいスティングは、あまりに全力で突っ込みすぎるステラの危うさに焦り、ヘッドセットの位置を直しながら怒号を飛ばした。
『それそれ!』
アビスの全砲門が火を吹き、白銀の雪原を激しく爆破してフリーダムの視界と足場を奪う。
『アウル! 倒すんじゃねーぞ!』
『分かってるってっ! 全力で負かせばいいんだろー!』
アウルは操縦桿のレバーを引き絞り、不敵な笑みを浮かべながらビーム三叉戟を激しく回転させて威嚇を続ける。
『くっそー!』
防戦一方のなか、フリーダムのウイングの装甲をカオスのビームが容赦なく掠め、コックピット内に警告アラートが鳴り響く。
『くッ!』
だが、その決定打を与えようとした瞬間、大空の夜霧を切り裂いて、アークエンジェルから射出されたオーブ軍のムラサメ隊が猛烈な弾幕と共に割って入った。
『キラ様!』
『!』
『ここは我等が!』
『え!』
『大丈夫だ、キラ!任せろ!』
メインモニターに映し出されたのは真紅のストライク・ルージュ。カガリの覚悟に満ちた声が通信スクリーンに響き渡る。
『分かった。頼む』
キラはフリーダムのスラスターを逆噴射させて間合いを取り、激しく息を荒げながら頷いた。
『ああん?』
予期せぬオーブ軍の可変機部隊の乱入にスティングは苛立ちを露わにする。
『行くぞ! ゴウ!ニシザワ!』
『『おー!』』
イケヤの号令とともに、3機のムラサメが一斉に戦闘航空形態へと変形。風圧で雪原の雪を爆発的に吹き飛ばしながら、スティングたちのカオスやアビスへ向かって猛烈な一斉射撃を浴びせ、その退路を完全に断ち切っていく。
『くっそー!めんどくせぇ!』
フリーダムを抑えるだけではなく友軍機まで突入してきて事態がややこしいことになってきたことにスティングはいら立たずにはいられなかった。
◇◇◇
コンソールの前で、バートが刻一刻と縮まる距離を鋭い声で告げる。
「目標まであと40」
「光学映像入ります」
メインモニターに映し出されたのは、燃え盛るベルリン郊外の雪原の光景だった。幾条ものビームが夜空を交錯し、激しい爆炎が白銀の広野を赤く染め上げている。
「あぁ……」
その地獄絵図のような凄惨さに、アーサーが思わず息を呑んで声を詰まらせた。
「前線司令部応答ありません」
「熱紋による状況確認。これは……フリーダムとスノホワイト!」
「ええ!?」
バートの絶叫に、タリアとアーサーが同時に弾かれたように身を乗り出す。しかし、バートがコンソールを叩きながら読み上げるデータは、さらに驚くべき敵味方入り乱れた大混戦を示していた。
「およびカオス、アビス、ウィンダム、オーブ軍ムラサメ、ストライク・ルージュ……そしてアークエンジェルです」
「……はぁ……」
タリアは椅子の背もたれに深く身体を沈めると、信じられないといった様子で重いため息をついた。
「そんな……何であの艦が?」
「流石正義の味方の大天使ね。助けを求める声あらばってことかしら」
自嘲気味に、しかしどこか冷徹に言い放つタリア。ザフトの防衛部隊が蹂躙され、地球軍が暴虐の限りを尽くす戦場に、国際社会のルールを無視して真っ先に飛び込んでくる不条理なまでの行動力。あの白い艦の理念が、今まさに目の前の地獄へと介入しているのだ。
「艦長……」
「コンディションレッド発令。対モビルスーツ戦闘用意!」
「は、はい!」
アーサーが慌てて姿勢を正し、オペレーター席へと鋭い指示を飛ばす。メイリンが即座に全館放送のスイッチを入れ、ブリッジに、そして格納庫にけたたましい警告アラームを響かせた。
『コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機してください』
コンディションレッドの赤い警告灯が明滅する中、パイロット待機室の大型モニターを通じて、タリアの鋭い眼差しが全員に向けられていた。パイロットスーツを着用し、ヘルメットを小脇に抱えたパイロットたちが一列に並ぶ。
『いいかしら』
「艦長!」
アスランは一歩前に踏み出し、迫る戦場の不穏な気配に切迫した声を上げる。
『情勢は思ったより混乱してるわ。敵軍とは今、フリーダム、スノーホワイト、アークエンジェルが戦っているわ』
「「「ええ!?」」」
一斉に驚愕の声が上がる。
『キラ……くそっ!』
またあいつらは自分たちで、独自の正義を掲げて割り込んできたのか。アスランは拳をきつく握りしめる。
『そんな!何で奴等が!』
シンは憤愕に顔を歪めた。どこまでも邪魔をしてくる存在。
『思惑は分からないけど、敵を間違えないで』
「…………」
「……」
ハイネは深く沈黙し、シンは歪んだ全能感をその身にまとったまま、鋭い眼差しで床の一点を見つめていた。
『本艦は何としてもあれを止めなければなりません。司令部は貴方たちに期待しているわ。お願いね』
タリアの冷徹な、しかし確信に満ちた号令が待機室に響く。
「「「ハッ!」」」
「……」
「……」
「ふん」
シンはこれみよがしに鼻で笑うと、アスランに一瞬だけ、あからさまに格下を蔑むような冷たい視線を投げかけた。
軍律に縛られて「何もできない」と落ち込んでいたふがいない先輩、アスラン。それに引き換え、自分は司令部から全面的にその行為を認められ、期待のすべてを背負って戦場へと赴く。その絶対の優越感が、少年の唇を傲慢に吊り上げていた。シンはそのまま、アスランの横をすり抜けてハッチへと歩き出す。
「シン!」
その危うすぎる全能感と蔑むような態度に、アスランは焦燥の声を張り上げる。だが、シンは振り返ることなく待機室を飛び出していった。
◇◇◇
雪原の乱戦が激化するなか、ステラは、完全に限界を超えた機動でフリーダムガンダムを執拗に追い詰めていた。彼女は獣のような咆哮をあげる。
『うえぇぇい!!』
『くッ!』
予測不能な軌道で肉薄するビームサーベルの連撃。キラはフリーダムのシールドでかろうじてそれを受け流すがウィンダムは強引なスラスター噴射の力任せに、その盾を力尽くで押し戻した。
『はああぁぁぁぁ!!』
スノウを、自分たちの未来を死なせない。その一心に突き動かされたステラの純粋すぎる狂気が、最高峰のエースであるキラを完全に圧倒しにかかっていた。ビームの熱波がコックピットを焼き、凄まじい衝撃波がフリーダムのフレームをきしませる。
(このままじゃ……みんなが!!)
――パキン。
脳裏に、弾けるような音の残響が響いた。
感情に流されるのではなく、極限まで澄み渡った空間認識能力が、迫り来るステラの太刀筋を、完璧に先読みしていく。フリーダムの背部のウイングが鋭く展開し、反撃のためのハイマットモードへと移行した。
一方その頃、雪原のもう一角では、巨大なデストロイガンダムと、それを阻止せんとするアマキのスノーホワイトが激しく刃を交えていた。
『フッ!しぶといのは相変わらずだな、アマキ!』
手加減を含ませたビームの網を掻い潜り、驚異的な執念で再び自分の間合いへと肉薄してくる純白の魔物を見据え、スノウは不敵に細めた目をさらに細めた。
『こいつ、なんか腹立つ……!』
アマキは操縦桿を激しく叩きつけ、苛立ちを隠そうともせずに声を荒げた。
民間人を避けて郊外へ向かうような理性的で不自然な挙動を見せておきながら、いざ戦闘になればこちらの動きを完全に読み切ったような、どこか余裕のある口調で語りかけてくる仮面の指揮官。その掴みどころのない飄々とした態度が、アマキの戦士としてのプライドを激しく逆撫でしていた。
メインモニターに映し出された絶望的な大乱戦を前に、マリューは身を乗り出してマイクを握りしめた。
『キラ君!アマキさん!』
艦長の悲痛な叫びが、乱戦の最中にある二機のコックピットへと届く。その直後、アークエンジェルの巨体が激しく振動し、デストロイの全方位レーザー砲が放った凄まじい光条が、船体の目と鼻の先を鋭くかすめていった。
『とんでもない化け物だな、これは……!』
操縦桿を力任せにねじ伏せ、対空回避を繰り出しながらノイマンが戦慄の声をあげる。これまでのモビルスーツの常識を遙かに凌駕した圧倒的な質量と火力は、アークエンジェルさえも一瞬で塵に還しかねない脅威だった。
大気を引き裂くビームの雨のなか、ウィンダムはデストロイの巨躯の前に何度も割って入り、執拗に盾になり続けていた。
『スノウは、守る!』
その必死な絶叫とともに、ウィンダムは驚異的なロール機動を見せ、襲いかかるザフトの防衛部隊の火線を強引に弾き飛ばしていく。
『あのウィンダム、なんであのでっかいのを庇うの……!?』
アマキは戦術的な不条理さに驚愕し、思わず声を荒らげた。破壊の限りを尽くす地球軍の化け物と、それを必死に守ろうとする最新鋭機。その歪な関係性に強い違和感を抱いたその瞬間、カオスガンダムを駆るスティングが上空から牙を剥いた。
『ええい!』
カオスの機動兵装ポッドが一斉に射出され、オールレンジの鋭い光条がスノーホワイトとフリーダムの進路を遮るように雪原を爆破する。
『く……うぁああああああ!!』
完全にリミッターを外したウィンダムが、猛烈なスラスターの咆哮を上げながら、再びキラのフリーダムへと突撃を敢行する。
ミネルバのパイロット待機室を飛び出し、それぞれのコックピットへと滑り込んだザフトのパイロットたち。
リニアカタパルトの固定アームが外され、けたたましい電子音が戦火のベルリンの空へと響き渡る。
『シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!』
アスランを完全に格下と見下し、己の絶対的な「正しさ」を確信したシンの咆哮とともに、コアスプレンダーが凄まじい電磁火花を散らして射出された。瞬時にチェストフライヤー、レッグフライヤーと空中換装を遂げ、フォースインパルスガンダムが夜闇のなかにその姿を現す。
『アスラン・ザラ、セイバー発進する』
苦悩を抱えながらも、シンの危うい全能感を止めるべく、アスランのセイバーガンダムが赤い推進光を吹き出しながらそれに続いた。
『ハイネ・ヴェステンフルス、グフイグナイテッド、出るぜ!』
オレンジ色のグフイグナイテッドがフライトユニットを激しく咆哮させ、3機のモビルスーツは最高速度で雪原の戦場へと急行した。
◇◇◇
一方、フリーダムやスノーホワイトと死闘を繰り広げていた雪原の戦場。デストロイのコックピットのスノウ、そしてカオスのスティングの広域センサーが、同時に上空から超高速で接近する複数の熱源を捉えた。
その直後、アークエンジェルのブリッジでも、ミリアリアのコンソールが激しい警告音を鳴り響かせた。
「接近する熱源、4!これは……インパルスです!」
『はああぁぁぁ!!』
戦場へ文字通り「乱入」してきたインパルスガンダムが、ビームライフルを連射しながらフリーダムとデストロイの間へと強引に割り込んでくる。
「更に後方からセイバー、グフイグナイテッド、ミネルバ!」
「くっ……」
マリューはコンソールを掴む手に力を込め、表情を厳しく引き締めた。
地球軍、ロゴスの脱走を謀る3機、アークエンジェルとオーブ軍、そして今またザフトの最新鋭艦がこの雪原へと一集結したのだ。
ミネルバが白銀の戦場を視界に捉えたその瞬間、メインモニターに映し出されたのは、地球軍、アークエンジェル、そしてロゴス脱走兵たちが互いの火線を交錯させる、言葉を失うほどの混沌だった。艦長席のタリアは、拳を握り締めながら苦渋に満ちた声を漏らした。
「共闘出来ればとも思うけど、難しいわね、今となっては」
かつて同じアークエンジェルとして世界と戦った大天使、そしてザフトの防衛部隊。本来であれば共にデストロイを討つべき存在のはずだった。しかし、それぞれの思惑と行き違った理念が複雑に絡み合った今、その境界線はあまりにも曖昧で、あまりにも冷酷に引き裂かれていた。敵味方の判別すらつかぬまま、ミネルバのパイロットたちはその地獄へと飛び込んでいく。
『でえいッ!』
歪んだ全能感をその身にまとったまま、インパルスが戦場の中心へと強引に割り込み、高エネルギービームライフルを乱射した。その獰猛なビームの光跡が、フリーダムとデストロイの戦線を強引に引き裂く。
『これは!?』
アスランはコックピットの中で驚愕に目を見開いた。全方位から飛び交うドラグーンの光、アマキのスノーホワイトの猛攻、そして必死にデストロイを庇うように盾となるウィンダム。何が正しく、誰が敵なのかすら分からないその光景に、アスランは操縦桿を握りしめて息を呑む。
『おいおい、乱戦って感じじゃんかっ!』
ハイネがフライトユニットを激しく明滅させながら戦士としての闘志を孕んだ声を上げた。
完璧に修復されたアビスやカオスが火を吹き、カガリのルージュやムラサメ隊の弾幕が雪原を激しく爆破する。
ザフトのミネルバ隊が雪原に乱入し、戦場は敵味方の判別すらつかぬ完全な混迷に陥っていた。インパルスの姿をモニターに捉えたステラの瞳が、かつての恐怖の記憶とともに激しく見開かれる。
『アイツ……!』
かつて戦場で圧倒的な恐怖として立ち塞がった、あのザフトのパイロット。ステラはスラスターを限界まで噴射させインパルスへ向けて突撃を敢行する。
『『はあぁぁぁッ!!』』
お互いの譲れない想いが激突する。シンはインパルスのビームライフルを突き出した。
『てえぇぇッ!』
『あ!うぅ……』
インパルスの放った鋭いビームが、突っ込んできたウィンダムのシールドを激しく抉る。凄まじい衝撃にステラはコックピットの中で息を詰まらせ、機体の体勢が大きく崩れた。
『ステラ!』
デストロイからそれを見たスノウが叫ぶ。その僅かな隙を、純白の魔物が見逃すはずはなかった。アマキのスノーホワイトが雪原の斜面を滑走しながら、デストロイの懐へと一気に肉薄する。
「はぁあああああ!!」
一方、戦場のもう一角では、乱入してきたセイバーガンダムが急降下し、フリーダムガンダムの前へと立ち塞がっていた。
『キラ!』
『アスラン……今、君に構っている暇はないんだっ!』
キラは種割れした澄み切った瞳のまま、冷徹に言い放ち、セイバーの攻撃をシールドで最低限に捌きながらデストロイの火線へと視線を戻した。
インパルスを駆るシンだったが、目の前にそびえ立つデストロイガンダムの常軌を逸した質量と圧倒的な破壊の権能を前に、コックピットの中で驚愕に顔を歪めた。
『何なんだよ、この化け物は!』
シンはインパルスのスラスターを激しく吹かし、デストロイから放たれる全方位レーザーの猛攻を必死の機動で掻い潜る。そのとき、デストロイのメインモニターにインパルスの姿を捉えたスノウが、仮面の奥の瞳を鋭く光らせた。
『来たか、少年!』
『どうしてこんなことを……何でそんなに殺したいんだ!』
家族を失ったあの日の地獄を再現するかのような悪魔の兵器。そのパイロットに向けて、シンは操縦桿を力任せに押し込み、インパルスの高エネルギービームライフルを突き出した。
『でえぇいッ!』
インパルスが放った鋭いビームの光跡。それがデストロイの装甲を捉えようとしたその刹那、上空から猛烈な速度で割り込んできた紫のウィンダムが、盾を構えてその光線を強引に弾き飛ばした。
『やめてぇぇえ!!』
せっかくの狙撃を邪魔され、シンは苛立ちとともに通信スクリーンを叩きつける。だが、そこから響いてきたのは、聞き覚えのある、自分がすべてを賭けて救ったはずの少女の悲痛な叫び声だった。
『スノウ!スノウが!!』
『!!ステラ!?す、のう?なんで。君が、その機体はスノウのじゃ……まさかっ!!』
シンの脳裏に、凄まじい衝撃が走った。
ステラは自分があの日、スノウの腕へと手渡した「紫のウィンダム」に乗っている。ということは、目の前で世界を蹂躙しているあの巨大な化け物のなかに乗っているのは――。
『ステラをちゃんと戦争とは遠い優しい世界に返すって、あの人は約束してくれたんだ!』
レクルームでアスランに言い放った自分の言葉が、あまりの不条理な現実となってシンの胸に突き刺さる。あの仮面の指揮官は、ステラをあんな化け物に乗せないために、自ら泥をかぶってあのコクピットに引き籠もったのだ。
『スノウ!』
紫のウィンダムを必死に操り、デストロイを庇うように盾になろうとするステラ。だが、その決死の行動を見たスノウは、デストロイの機内から拡声通信を通じて悲痛な叫びをあげた。
『来るんじゃない、下がれ!!』
ロゴスの目を欺き、あの子たちをこの戦火から逃がすためのデストロイに搭乗した。だがステラ達がここに残っていては、自分のすべての足掻きが無に帰してしまう。
『スノウ!!』
それでも、自分を置いていこうとする大切な人を死なせまいと、ステラは涙を流しながら操縦桿を固く握りしめ、紫の機体で地獄の火線のなかへと身を投じ続ける。
シンはこれ以上攻撃を出すことはできなくなってしまった。あの人は自分との約束を果たすためにデストロイに乗っている。その約束を自分から壊してしまうことはできない。
シンはミネルバのパイロットであり、目の前の敵は倒さなければならない。ザフトの兵士としての責務が操縦桿を握らせようとする。けれど、彼の剥き出しの感情が、ステラの大切な人を「壊すな」と心の中で激しく叫んでいた。その矛盾に引き裂かれ、少年の精神は限界を迎え、インパルスは完全にその動きを止めて呆けるしかできなかった。
デストロイガンダムの円盤型砲塔が凄まじい駆動音を立て、動けないインパルスへと狙いを定める。空間を割るような大出力のビームが幾条もの光の束となって押し寄せたその瞬間、純白の魔物――スノーホワイトが猛烈なスラスターの咆哮を上げて割り込んだ。高出力のシールドが激しい火花とともにデストロイの火線を強引に弾き飛ばす。
『ぁ……』
絶体絶命の危機から、スノーホワイトに守られたという事実に、シンは驚愕して息を呑んだ。そんな呆然とするインパルスの胸元をアマキのスノーホワイトが強引に押し退け、通信回線を無理やり割り込ませて怒号を叩きつける。
「何やってんだ!? 死にたいのかお前は!」
戦場で完全に思考を停止させた少年の不甲斐なさに、アマキは操縦桿を握りしめてマジギレの声を張り上げた。アマキの叱咤が、インパルスのコックピットの中で呆然と震えるシンの胸へと激しく突き刺さる。
『……あ……』
『シン!』
あれだけ威勢の良かったシンがデストロイを目の前にして棒立ち状態で戦意喪失している姿にアスランはアスランが激しい焦りとともに叫んだ。
『敵は目の前だって!』
ハイネが、迫り来るデストロイの全方位レーザーの網を掻い潜りながら、苛立ち混じりに通信越しに怒号を叩きつけた。
ステラ、そしてシンの心情など知る由もないスノーホワイトは、デストロイガンダムの駆動系を寸分違わず撃ち抜く。
『なにッ!?ぐわぁぁ!』
その猛攻撃は装甲の内側から響く不気味な破砕音とともに、デストロイの巨躯を大きく傾かせる。その黒煙をあげる悪魔の姿を目にした瞬間、ステラは正気を失ったような絶叫をあげた。
『スノウ!?ぁぁ……スノウ!!嫌……駄目……いやぁぁぁ!!!ああぁぁぁあぁあぁ!!』
大切な人が傷つき、奪われる恐怖。ステラの限界を超えた精神の咆哮が通信回線を激しく歪ませる。
シンはステラの悲痛な叫び声に我を取り戻し、スノーホワイトを遠ざけようとする。
『やめろっ!』
完全に戦場を混乱させるインパルスの軌道を強引に押し退け、アマキはデストロイのコックピットハッチを狙ってスノーホワイトを突撃させる。
「なんでっ!?」
なぜ敵である地球軍の化け物をそこまでして庇うのか。アマキの当然の叫びに対し、シンはヘルメットのシールド越しに顔を涙でぐしゃぐしゃに歪め、血を吐くような絶叫を返した。
『何も知らないくせに……あれは……あれは!!』
ステラを優しい世界へ返すという約束。そのために、あえて泥をかぶってあの化け物に乗ったスノウの真実を、誰も知らない。
『まもるっ!!』
ステラはスノウのために盾になろうとウィンダムを地獄の火線のなかへと強引に割り込ませた。しかし、その必死な少女の姿を見たスノウは、声を枯らして叫んだ。
『ステラ!!』
スノウは絶叫し、デストロイガンダムの巨大なマニピュレーターを強引に突き出した。迫り来るザフトの防衛部隊の火線から庇うように、ステラの駆る紫のウィンダムを荒々しく押し出し、雪原へと弾き飛ばす。
「きゃーー!!」
紫の機体は白銀の雪原を激しくバウンドしながら転がっていった。多少荒くともステラを守れるのなら。
『やめろー!もう!!』
これ以上の無意味な戦いと破壊を止めるため、フリーダムガンダムが背部のウイングを最大出力で広げ、大空から光の矢となって急降下した。ハイマットフルバーストの圧倒的な一斉射撃が、デストロイの陽電子リフレクターを強引にねじ伏せ、その巨躯の各部を正確に撃ち抜いていく。
『うわあぁぁぁ!!』
ビームの直撃による大爆発の衝撃がコックピットを襲い、スノウは猛烈なGと火花の中で悲鳴をあげた。
『やめろぉおお―――!!』
そしてシンもまた絶叫していた。
奴は敵で、倒さなければならない相手だ。だがそれ以上に自分との約束を果たそうとしてくれている人だ。その相手がスノーホワイトに追い打ちを掛けられている。だから守ろうとしたのだ、スノウを。だがその一手が遅かった。
「でやぁぁああああ———!!」
スノーホワイトの高出力兵装がデストロイの装甲を貫き、内部機関を容赦なく破壊する。
『グァアアアア―——!!』
凄まじい大爆発が雪原を赤黒く染め上げ、デストロイガンダムの巨躯は激しい地鳴りを立てて白銀の地へと崩れ落ち、ついにその機能を完全に停止させた。
◇◇◇
激しい大乱戦の末、ついに沈黙したデストロイガンダム。爆煙が吹き荒れるなか、強制排除されたコックピットハッチから這い出してきたスノウは、全身に致命傷を負い、その場に崩れ落ちていた。
そこへ駆けつけた、シンのインパルス。その眼前に着地したジェットブラックのウィンダムから、ステラが悲鳴をあげてコックピットを飛び出し、地上へと駆け寄る。
「スノウ! いや、スノウしなないでっ!」
「どうしてこんな……、あんたなんで……?」
インパルスのコックピットから地上へと降りてきたシンは、ヘルメットをその場に落としパイロットスーツ姿のまま膝を突く。
ただ目の前で血を流す地球軍の指揮官を愕然と見つめた。なぜデストロイを市街地から遠ざけ、自らを盾にするような戦い方をしたのか。
その疑問の答えを告げるように、スノウは素顔で血の混じった息を吐きながら微かに微笑んだ。
「……やくそ、くは、はたしたぞ」
「!」
シンはハッと息を呑んだ。やっぱりこの男は自分との約束を忘れずに果たそうとして自分を犠牲にしたんだ。ステラが涙を零しながらスノウに抱き着く。
「スノウ! スノウ!!」
「…ステラを、たの、む……」
最期の言葉を遺し、スノウの瞳がゆっくりと閉じられようとした、その瞬間だった。
「おい! 馬鹿っ! 死ぬ奴があるかっ! まだ死ぬなよ! アウル! アレ!」
「おう!」
それぞれカオスとアビスから飛び降りてきたスティングとアウルが、怒号と共に割り込んできた。アウルが懐から素早く取り出したのは、怪しいラベルの貼られた「けがなおるんちゃんマークII」の瓶だった。
アウルは瀕死のスノウの顎を強引にこじ開けると、その緑色の謎の液体を、遠慮なしに喉の奥へと一気に突っ込んだ。
「ぐっ!?」
あまりの苦痛と衝撃に、スノウは青白い顔をしてバタバタと暴れようとする。しかし、ステラが「しんじゃやだ!」とばかりに正面からぎゅうぎゅうと抱き着いているため、びくとも動けない。さらに、足元はスティングが全体重で押さえ込み、頭はアウルがガッチリと固定しているため、完全にロックされて飲み終わるまで逃げられなかった。
「え!?」
直前までの悲壮なシリアス展開を完全に破壊する謎の救命劇に、シンはパイロットスーツに身を包んだまま、あまりの光景に唖然として一歩も動けない。
「…………」
しばらくじたばたとのたうち回っていたが、やがてスノウは白目を剥き、青白い顔のままピタリと動かなくなった。
スティングが手早くスノウの首筋の脈を調べ、胸の傷口が急速に塞がっていくのを確認する。これなら大丈夫だと判断すると、ロゴスの追手が来る前にさっさとこの場を離脱しようと動き出した。
「アウル、担ぐぞ!」
「おう!」
アウルが気絶したスノウを無造作に背負い上げ、カオスのコックピットへ向かって走り出す。
「スノウ!」
ステラはスノウの容体が良くなったことに歓喜し、涙を拭ってそのままスティングたちの後ろをパタパタとついていこうとする。しかし、その背中に、我に返ったシンがつい声を張り上げた。
「ステラ!」
ついその走りゆく背中にシンはたまらずに声を掛けた。もう二度と会えないかもしれない。その焦燥に駆られたシンの呼びかけに、ステラはピタリと立ち止まり、くるりと方向転換してシンの所まで戻ってきた。
そして、茫然と立ち尽くすシンの胸元を引っ張ると、彼の頬にちゅっと音を立ててキスをした。
「シン……すき! またね」
「へ?」
間抜けな声をあげて完全に思考が停止する。
自分の頬を押さえ、真っ赤になってしまう。幼子のようにつたない喋り方をするステラから、向けられた初めての好意をそのまま表現してくれたのだ。シンは戦場の中にいることすら忘れて茫然とステラ達を見送った。
ステラはひらりとウィンダムのコックピットへと素早く乗り込んでいった。
万全の状態でスタンバイしていたウィンダム、アビス、カオスは凄まじいスラスター音を響かせ、夜空の彼方へと一気に撤退していった。
戦火の止んだベルリン郊外。大罪を犯してすべてを失いかけたはずの少年は、厚いパイロットスーツ越しでも確かに感じた頬の温もりと、あまりにも嵐のように去っていった子供たちの余韻のなかで、ただ一人、呆然と夜空を見上げ続けるのだった。
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