両面宿儺(偽) vs AFO vs ダークライ   作:甲乙兵長

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声帯も個性も強者すぎる闇の帝王


全一与奪の魔王

 

 その生命は、産まれたときから不遜だった。

 

 

 自分の身の回りにあるものは全て例外なく己の所有物と信じて憚らない。

 他人のモノも、他人の所有物も、他人の命すら自分のモノ。何をどう扱おうが勝手だと。

 いくらか成長し、世の社会性をおのずと学ぶなかで、その思考は歪に偏重した類いだと理解はしたが、納得はしなかった。

 

 徴収されたくなければ自分から差し出せ。 

 それすらできぬなら邪魔するな。抵抗するな。

 

 言外で平然とのたまう傲岸さ。改める余地などない身勝手さ。

 揺藍の魔王には、その性根を現実にできる根拠、覇道を為せる力が備わっていた。

 

 『異能』を奪い、与える『異能』

 

 超常が拡大の一途を辿る世界ではまさに破格と評するに相応しい埒外の力であった。

 

 生きることは奪うこと。奪うことは殺すこと。

 

 彼にとって奪う行為は毎日ご飯を食べるのと同じ生理現象に等しい。

 必要な(チカラ)だから奪う(殺す)

 誰に教わることもなかった赤子の頃から習慣づいている日常の一工程。

 だからこそ、その日も普段の延長に過ぎないものだと思っていた―――

 

「解」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 手傷を負ったのはいつぶりだったか。自分の血の色を見たのはいつぶりだったか……そんな的はずれな、あるいは呑気とも呼べる現実逃避が刹那脳裏をよぎるほどの緊急事態。

 始まりは、異能者と粛清部隊の衝突、暴動によって廃墟と化したビルの立ち並ぶとある区画で、ひとり無用心に歩く背中を見つけたこと。

 四つ目と四本腕を備えた異形の身体の少年。年嵩はそう変わりない。どこかから強奪したとおぼしきサイズの微妙に合っていないズボンをゆったり履き、諸肌の上から袖無しジャケットをじかに羽織った出で立ち。

 一目で何かしらの異能を持っているのがわかったので、即座に奪おう(殺そう)と突貫。

 腕に捻れた角のようなものを無数生やして空から高速で急襲した彼は、けれど見えない太刀筋に見事迎撃されてしまった。

 

「浅かったか。いや、反射で制動をかけ身を引いたな。真っ二つにしてやるつもりだったのだが……」

 

 肩から脇腹まで袈裟懸けに走る裂傷。咄嗟の対応が功を奏してそれほど深手ではなかったものの、押さえた手のひらに付着する赤い血糊を見つめしばし唖然とした。

 しかし、心臓が脈打つごとに痛みがジンジンと実感として増していき、遅れてやってきた灼熱の激情も昇り調子となっていった。

 

「どうした? 一太刀浴びたくらいで戦意喪失か情けない。見てくれ通り性根の脆いモヤシ小僧め―――」

 

 不意に、少年の立つ路面一帯がボタンでも押し込んだようにボコンッと四角く凹み、足場を失い落下したところで左右からコンクリートが滑車で引かれたようにスライド。ブロックゲームのごとく不逞の輩はあえなく岩盤に挟まれて圧死した。

 

「おまえのは()()()()。煎餅みたいに潰れてろ」

 

 死体の確認は不要。踵を返しながら『粘糸』の異能で傷口を塞ごうと試みる。直接癒す類いの異能を見つけられていないのが口惜しい。

 

 

 

 ゾクッ―――――……!!

 

 

 

「ッ!?」

 

 悪寒……それは異能による予見ではない。生命の危機に際した生物的本能のなせる業だった。

 『反発』の力場を足裏に生じさせ『跳躍』も併用しながらなりふり構わず飛び上がる。

 次瞬、真下から路面を縦に二分する大鎌鼬が天に向かって衝き上がる。もぬけの殻となった道路脇のビル壁面に『吸盤』で張り付きながら、その余波を間近で感じ思わず息を呑んだ。

 わずかでも初動が遅れていたら股下から脳天までを割られていた。コンマ数秒の英断が生死を分けた。

 命を脅かされた事実が冷や汗となって流れ落ち、ともすればそれは転じて耐え難い屈辱感となり彼の神経を蝕む。

 

「しぶとい……っ!」

 

 こめかみに血管を浮かべ不快感をあらわに死に損ないのいる裂溝へと異能を叩き込もうと―――

 

「どこを見ている?」

「なにッ……!?」

 

 すぐ近くから聞こえた声に首を巡らせた。

 ビル内部から斬撃。掴まっている壁が菱形に切り取られ瓦礫ごと落下の浮遊感に引かれていく。

 『潜行』で瓦礫を潜り反対側(うえ)に顔を出すとちょうど異形の少年が飛び乗ってきたところだった。

 衣服がボロボロに擦りきれ各所出血もしてはいるが五体(七体?)満足。ダメージもそれほどあるように思えずピンピンしていた。

 

「捌きかたは? 希望があれば聞いてやる」

「戯れ言を!」

「なら俺の好みで」

 

 ―――『解・賽の目』。

 

 少年が足下に手をつくと瓦礫が無数の箱型へ分割された。

 間一髪抜け出し、風乗り(エアライド)で滞空しながらバラ蒔かれた手のひらサイズのサイコロ石を、『リモート制御(コントロール)で範囲内を支配下に置き全方位から体当たりさせる。が、近付いただけで全て細切れだった。

 

「くっ」

 

熱線(ビーム)』『鋲突』『槍骨』『アイスピラー』『ライトスタック』『渦巻』『牙頭(キメラバイト)』『爆導鎖』―――奪った種々様々な異能の乱れ撃ち。

 

 だがどれも相手は涼しい顔でいなし軽い所作で迎撃する。解、解、解、と。結果として現れるのは、放った技がことごとく不可視の斬撃に切り分けられ無に還る。冗談のような光景だった。

 

「ふん。掠め取った異能(モノ)を無作為に乱射する(投げ捨てる)だけか。

 つまらん」

「なァめるなぁぁああッ!!」

 

 

『振動波』+『アンプリファイア』+『金叫(ハウリング)

 

 

 憤怒が燃える。頭の血管がいくつも千切れかねないような白熱した思考回路が、これまでにない土壇場の発想力を生み出した。

 単一を併用、または都度切り替え扱っていた異能を同時に発動して合成。

 新たな形で放つ。

 

「         !!!!!!!」

「うっさ」

 

 空虚な夜闇に響き渡る甲高い怪物の叫び。辺りのビルのガラスが軒並み破砕していく。音響弾のように間近で受ければ鼓膜が破け失神しかねない明確な”破壊力”を持った音の爆発にしかし、少年はわずか顔をしかめただけ。

 直接的なダメージ量は問わなかった。砕けたガラス片を『リモート制御』で掌握し『原子剥離』フィルターへ通して現在可能な最小単位までバラバラに分解。

 即席のダイヤモンドダストへと変換する。

 

「ほう?」

 

 触れれば裂けるガラスの砂塵。流動するそれが少年を襲う。

 

 当然のごとく斬撃が飛ぶが、細かな粒子状にまで散ったガラス片に大雑把な切り口は無意味だった。散り散りになっても、再び集まり、攻撃を繰り返すことで少年の肌を傷つけていく。

 

「少しは捻ったか。だが、それで命に届かせるのは千里の道のりだな。

 それとも、呼吸を封じて間接的に殺すか?」

 

 煌めく破片は辺りの空気に撒き散らされ吸い込む者の気道や肺を傷つける。使い手の彼は異能の工夫でどうとでもなるだろうが四つ目の少年は息を止めるぐらいしか現状目ぼしい対処法がなかった。

 

「そんな遠回りはしない――――」

 

 平時(いつも)なら弱らせるか不意打ちで触れて異能を直接奪うのだが、正確な間合いも軌道も読めない攻撃を持つ相手に不用心に接近して正面から切り伏せられた苦い経験を忘れはしない。

 異能を不要と断じた以上、距離を保ったまま殺すのがベター。

 先ほどのダイヤモンドダストはいわば実験と検証。斬撃で対処できるのはある程度の大きさを持つ固形物と推察できる。ならば切り裂くことなど不可能な無形のモノを使えばいい。

 

 

『電磁波』+『振動波』+『熱系異能×4』+『ヒートシンク』+『拡散』+『超過稼動(オーバードライブ)――――

 

 

「臓物飛び散らせて無惨に死ね」

 

 分子運動を活発にし熱エネルギーに変える類いの異能を複合。さらにそれを広げてカタログスペック以上の性能を強制的に引き出させる。

 結果、出力されたのは遠赤外線を用いた超加熱……電子レンジと同じ現象。より広範囲に、より高威力に発揮されたそれに、あらゆる物質は沸騰し溶解し炸裂する。

 輻射熱で力を放つ自分の腕が膨れ弾け、かつてない掛け合わせの高負荷に脳が沸騰していく感覚。

 自壊する苦痛を噛みしめながらも、幼き魔王は確殺の手応えに裂けるような、会心の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 路肩の放置車両のタイヤが爆竹を鳴らしたかのように連鎖的に破裂し、並ぶ街頭の金属が熱した餅みたく膨らんではグズグズに溶け崩れ、地中を這う水道管の水が沸騰しアスファルトが地雷原のごとく爆ぜていく。

 水分の塊である人間の身体など、五秒と保たずに血袋(タマゴ)と化すのは必至。それは、特異な器を備えた宿灘であろうと同じ末路。密度の違いで幾分か延命可能なだけ。

 強烈な死の照射に晒され、しかし宿儺は悠然と微笑をこぼしたまま。

 

「これは解では斬れんな。……及第か」

 

 そう言って、緩く構えを取る。

 

 石棺に幽閉されたとき、脱出の手段として用いた呪詞詠唱付きの『解』。

 元来、呪力も呪術も存在しない世界では縛りや掌印、呪詞といった儀式的行為は意味がない。

 だが、呪術と同じく異能もまた肉体の物理限界を度外視すれば使い手の精神状態が要となる力なのは周知の事実。身体に馴染んだ行為をルーティンとして行いコンセントレーションを高めることで、発揮できる『御廚子』のパフォーマンス性が確実に向上することを知っていた。

 

”龍鱗”

折伏(しゃくふく)

 降魔(ごうま)(つづみ)

 

 ”下の両腕”で閻魔天印を結び、

 ”上の両腕”で標的を絞る。

 皮膚のところどころから気泡が膨らみ、ボイルされつつある脳のダメージで鼻血を垂れ流しながらも、破裂寸前の眼はしかと冷静に。

 

 

 

「――――(ハチ)――――」

 

 

 

 ――呪術的には、強度と帯びる呪力量に応じて適宜卸すための威力を変える、『解』に並ぶ両面宿灘のもうひとつの刃。

 

 「ヒロアカ(この世界)」においてはそこに『個性(異能)』という新たな概念・要素を練り合わせ、新たな特性を付与し成立させた。

 すなわち。

 

「ば、かなッ……!?」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 魔狩りの一太刀に。

 

 

 

 

 

 

 幼き魔王は目の前の現実が理解できなかった。

 

 無形の電磁波照射を、ただの斬撃で対処できるはずはない。

 なのに、なぜ電磁波が、かざしていた手のひらが斬られている……。

 

 なぜ『異能因子』にまでダメージが及んでいる……?!

 

 彼は生まれながら『奪い・与える異能』を持っていたがゆえに、異能を扱う者には常人と異なる特殊な”因子”が深く関与していることを知っていた。彼の異能はその因子の実存を相手に触れて感じとり、吸い上げることでこれまで『異能』を奪ってきたのだ。

 だからこそ分かった。

 先の一撃、電磁波を両断し傷をつけた一太刀が、今まで受けてきた攻撃とは違うのを。

 己が保有(ストック)する『異能』の一部が傷つけられた。因子を”ガラス玉”としたなら表面にヒビを入れられた程度のささやかな瑕疵。やや不具合や機能障害がありえるかもといった損傷。

 幸い本質の『奪う異能』ではない流れ作業的に接収しただけの外付け木っ端因子に過ぎなかったが、因子に直接作用する攻撃を持つなど異端である彼をして常識外な能力であるのは間違いなかった。

 

 驚天動地。

 

 身体まで両断されなかったのは、まだ上手く扱えないのか、電磁波攻撃を相殺して余力が削られたのか……なんにせよ、あの『ハチ』という斬撃は、当たるだけで『異能』や『因子』そのものを破壊できる可能性を秘めている。

 もし、あれが己の中核をなす『奪う異能』を真芯に捉えたならどうなるか――――

 

「おい。寝惚けるな。

”龍鱗”

 まだ終わりではないだろう?

”反発”

 しっかり避けろよ。

(つが)いの流星”」」

 

 不遜な物言いに重なる不穏な言霊(呪詞)

 まるでカウントダウンのように聞こえるそれが途切れ、先ほどと同じ構えで少年がこちらを捉える。

 

「っ…………!!」

 

 

『偏向』『重量変移(ウェイトシフト)』『加速』『引き寄せ』『アトモスフィールド』『バリアジャケット』―――――

 

 

「解」

 

 大気を割る烈風。

 ハッキリ目に見えるほどの密度で放たれた巨大な鎌鼬が、右腕を斬り飛ばす。

 

 遮二無二『異能』を駆使して身体の軸をずらし緊急回避させたからこそ片腕で済んだ。悪あがきで張った防御の『異能』さえなんの障害にもならなかった。

 ”因子”が斬られた手応えはない。

 『ハチ』と違い『カイ』には因子を破壊する能力がないのだろう。しかし、それがいかほどの慰めになろうか。

 

「……出が遅い。鋭さも足りん。嘆かわしい。餓鬼(このナリ)ではこんなものか。

 ()()()()()にはまだまだ遠いな」

 

 ビルの壁面に重力を無視して立ちながら、動揺する魔王は負傷の痛みも忘れ地上の鬼神(怪物)を見た。

 

 四つの目、四本の腕、

 そして腹にガパリと開いた大きな”口腔”。

 さらに際立った異形態。

 

 満足には程遠いとのたまうその態度。この場ではないどこか別のところを視野に捉えているその有り様。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()姿が苛立たしく、神経に障り、

 

 ()()()()

 

「どうした? 来るなら早く来い」

「……ッ!!」

 

 

『筋力増強系×3』『瞬発力』『跳躍』『発条化』『反発』『重量変移』『晄輪』『アトモスフィールド』『揚力推進』――――

 

 

 各種異能をフル活用。全力で外壁を蹴り()()()()()()()飛び上がる。

 

 撤退。逃走―――敗走。

 

 もはや戦う意義はなかった。底の知れない敵。異能を奪うことは至難。しかも手持ちの異能を破壊できるときた。長引くほどリスキーにしかならないと判断した。

 

 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 力を減らすわけにはいかない。

 

 生き残るためなら、たとえ憤怒と屈辱感に内臓が捩れ返りそうになっていても、砕けそうなほど奥歯を噛みしめ、堪え忍ぶ。

 反省だ。本能のままに奪って(生きて)きた。ただそれだけだった。積み上げてこなかった。通過儀礼となるべき教訓。

 感情に流されない。冷静でクレバーな立ち振舞いを考えなければ。

 あんな怪物と渡り合うためにも。

 

 けれど、必ず。

 必ず。必ず。必ず。必ず……ッ!!

 

 

 

 ――――――次こそはッッ!!!

 

 

 

 産まれ落ちて七年目。

 彼が味わった初めての挫折。

 大局を見据え、敗北の苦味に血涙を流しながら、幼き魔王は夜空()へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「……魔王とはいえ、今は凡夫。身の程は弁えているというわけか」

 

 飛び去る彼を追う素振りもなく、独り言ちる未完の鬼神。語調は嘲るでも侮るでもない。ただ発覚した事実を淡々と噛みしめている響きだった。

 

「しかし、捌の精度もこれだけガタ落ちとはな。いや、個性斬りという技として見れば、そうでもないのか。クク、足りぬ不自由さ。不便さのゆえの愉しみ。果たしていつぶりかな。

 ……興が乗って少し派手にやってしまった。野次馬に囲われるのも面倒くさい」

 

 敵を失った少年もまた、その場をあとにする。

 しばらくして、騒ぎを聞き付けた異能排斥派のシンパたちが大規模な戦闘の痕跡に戦慄するのだが、この場にいない二人にはなんの関係もない話であった。

 

 

 

 

 




とりあえず当初書きたいことはできたので終わり。
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