時間は、サンラクが闘技場にて綺麗な謝罪をするよりも少しだけ前のこと。
この後やってくるサンラクの処遇を話し合うために、周りからさりげなく距離を取ったペンシルゴンとオイカッツォの二人。
とはいえ、ある程度の打ち合わせは前日に済ませているので、本当に軽く流れを確認するだけ――のはずだったのだが。
どうにも雰囲気がおかしいと、どこか嫌な予感を感じながらも、オイカッツォは恐る恐る自分の中にある予感をペンシルゴンにぶつけてみた。
「……ねぇ、なんかアクマリーすんごいキレてない?」
「いやー、ちょっと前提の食い違いというか、そもそもの条件が変わっちゃったというか」
「……あ、あー!そういえば俺、ちょっとお手洗いに「逃げれると思う?」デスヨネー」
どことなく歯切れの悪い言葉、
地獄への道連れはひとりでも多くしてやる、そう言わんばかりに力の入った両手に、思わずHPが減っていないか心配になりながら、両手を上げたオイカッツォはその片道切符を仕方なく受け取った。
「サンラクくんのやらかしの被害額が想像より2桁くらい多かった」
「ㇵ?」
「だからアンちゃん以外のクランメンバー全員ブチギレ。正直、今日がなかったら多分何人か黒狼と組んでカチコミに来てる」
「……えーっと、ちょっと待って。元がどれくらいだっけ?」
「おおよそ1000万って計算だったね」
「それに?丸がふたつ足りないって?」
「アンちゃんに聞いたら確実な額が分かるよ。代わりにもっと桁が増えるんだろうけど」
冗談はやめてくれ、そう言いたいのをグッと飲み込んで。代わりに大きな、それはもう大きな溜息を二人で吐き出した。
元々の計算から跳ね上がった被害額は、たとえ払ったとしても今の旅狼にとっては大損害なんてレベルではない。
いや、この場合、もし当初の予定通りに
むしろ逆効果になるだけだろうし、そもそも、その被害額を気軽に許せるような相手に渡しても、正直意味はないだろう。
となれば金銭ではなく、しかし、相手クラン――少なくとも、今この場に来ている
幸か不幸か、この二人には彼女が確実に喰いついてくるであろう餌がひとつあった。
「まずサンラクくんがノーネームっていうのをアクマリーにバラします」
「異議なし」
「で、そのままサンラクくんをアクマリーの
「最低10発――いや、衆目に晒しながら正座させてよう。アイツにはそっちの方が効く」
「そうだね、彼も羞恥心はあるし――うん。そっちでいこうか」
少しの良心か、それともゲーマーとしての無意識のルール順守だったのか。
ギリッギリで身バレには繋がらないだけの身内情報を、一切の躊躇なく売りとばすことにした。
「――と、そんな訳なんだけど。なにか弁明は」
「いやもうホントすいませんでした」
聞いていた話と違う。
怒髪天を超えていそうなほどにキレているアクマリーに謝り倒し、被害者本人から仲裁されてようやくの解決を見た後。
そう呟いたサンラクは、ぐるん、と下手なホラーゲームよりも恐怖しそうな速度で首だけこっちに向いたペンシルゴンに、これまでの
実際、サンラクがノーネームだという情報を流すという事は、それはそのまま
ネット上では有名になってしまってはいるが、実態は平均的高校生にすぎないサンラクと違い、体裁を気にするべき顔を持つ二人にとって最も警戒すべき情報を流したというのは、つまりそういうことなのだろう。
「……なんか悪いな」
「え、急に気持ち悪。なんか悪いものでも食ったのかお前」
「ちょっとちょっと、私の知り合いに医者なんて居ないんだけど」
「人が己の行いを反省してるだけでこの言われようは酷くないか」
とはいえ、今のやり取りだけで何か分かる程度には、この二人とも長い付き合いなわけで。
「うっし!ちょっと燃料補給してくる」
改めてこれからの決戦に向けて気合を入れ直そうと、サンラクは台所へと向かうのであった。
ちなみにカッツォがアクマリーが近所の同僚だと気づいてなかったので、サンラクの情報だけ漏らすつもりが芋づる式に3人ともバレた模様。
あくまでカッツォだけがバレただけで、サンラクとペンシルゴンはまだセーフ。