【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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わたしたちはそれでいい

 やってられねえぜ。

 

 身体まるごと燃えまくってるくせに、るるるるー、というどこから出してるのかもわからない変な歌声はやまないし、そのくせなんか図体は成長してデカくなるうえにぐねぐね動くし、鞭のようにしなる枝は炎を纏って防御するたびにクソ熱い。

 

 そのくせ背後からは大引さんがわたしに構わずビームをバンバン撃ち込んでくる。

 味方なのか敵なのかはっきりしてほしい。まあ大引さんに常識的な行動を期待するのは無駄なのはわかってますけどね!

 

《バトルドレス30%損傷》

 

 AR表示が知りたくもない残りの耐久値を伝えてくる。

 あのさ、大引さんのビーム普通に被弾してるんだよね~。

 前と後ろから攻撃されてさばき切れるわけないだろ! いい加減にしろ!

 

 熱いのを我慢して試しに樹の表面を鉄パイプでぶん殴ってみるが、逆に自分の手が痺れるだけの結果に終わる。

 そしてスカートの裾に火が燃え移っていることに気づいて、わたしは思わず上下にスカートを振り乱した。

 

「あっちちちち」

「君凄いっスね。1年生っスか?」

「え!? あっハイ」

 

 いつの間にか真横にいた金髪の魔法少女に話しかけられてびっくりしてしまう。

 何の気配もなかったんだけど何かそういう系の能力だったり?

 

「自分タメなんで敬語いらないっス。D組の久保っス。よろしくっス。あっ、ちなみに男子なんで先に断っておくっス。苦手なら申し訳ないっス」

「いえいえこれはまたご丁寧に……っと、わたしはA組の石川。普通に女です。よろしくね~」

 

 ひらひらと手を振ってみせると、短めに髪を刈りそろえた魔法少女は人好きのする笑みを浮かべた。

 炭谷くんもそうだけど魔法少女に変身した男子は変身前との落差がすごいので、こうやって先に言っとかないと後々良くも悪くも驚かれるんだろうなあ。喋り方で何となく男子なのは察せるけど。

 

「あ、パンツは見てないッス」

「えっ?」

「えっ?」

 

 いきなり何言ってんの? お互い訝しげに顔を見合わせる。そして気づく。そういえばわたし、さっき火消すために思いっきりスカート捲り上げてたよね……。

 

 ていうか、こんな状況でパンツ見られて恥ずかしいと思う方がどうかしてるぜ。

 変身後のパンツなんて見せパンみたいなもんだし、テレビで中継してる試合ですら普通にパンツもろ出しで闘ってる魔法少女なんて珍しくなかったりする。

 

「いやまあ今のシチュで見られても別にいいけど……っと!?」

 

 誰かが放ったエネルギー体が飛んできて思わず体を捻りよける。よく見えなかった

けど、なんか矢みたいな形してたか? 

 

 そして遠くから「ごめーん!」なんて言うのは、ついさっき大引さんにビビり散らして帰ろうとしていた先輩らしき魔法少女だった。どうやらレイドバトルのアナウンスで戻ってきたらしい。

 

「先輩危ないッスよ! ただでさえコントロール悪いんですから気をつけてくださいよ! ああ、石川さん、自分ちょっと戻らなきゃいけないんでお互い頑張りましょう!」

 

 そういえばこの2人さっき一緒にいたなあ。

 仲良さそうだけど見た感じ男女ペアだし、それなら少なくともルームメイト同士ではない。サムズアップしながら先輩のもとへ戻る久保くんを見送りながら、ちょっとだけ2人の関係を想像していると、

 

「邪魔!」

「うおおお」

 

 全身に雷を帯びた東雲さんがばちばちと音を立てながら弾丸のように横切っていく。お前わざとだろ。

 

「“雷の爪!”」

 

 魔法少女が技を放つときに技名を叫ぶのは、感情を乗せて技の威力を高めるためのれっきとした戦術のひとつらしい。

 

 両手に宿った紫電の爪が樹皮を切り裂いたが、あまり効いているようには見えない。HPバーも全然減ってない。そしてむず痒くなったようにトレントの胴体がうねり、枝の一本が東雲さんを弾き飛ばした。

 

 そして次々と参戦してくる魔法少女の放つエネルギー体が上空を飛び交っているが、どれも決定的なダメージを与えられていないようだった。

 

 うーん、東雲さんの火力でもこの反応じゃわたしたち1年生レベルの攻撃でペチペチ殴っていたところでどうしようもない気がしてきたぞ。

 

 わたしはぶっ飛ばされた東雲さんにそろーっと浮遊しながら近寄っていく。

 

「ねえ東雲さん、先輩たちが言ってたみたいにやっぱ1年生ひとりで頑張ってもキツくない?」

「うるさいわね! やる気ないなら勝手に1人で諦めてろ! このブス!」

「いやまあ東雲さんに比べりゃ顔はブスかもしれないけどさぁわたしは……」

 

 目線を合わせないまま東雲さんはふらつきながらも立ち上がった。AR表示でバトルドレスの耐久値を確認してみれば、すでに残り50%を切っている。

 

 このまま攻撃を続けていたら数分後にはやられてしまう気がする。

 そうわたしが声を掛けようとした次の瞬間、首元にひどく乱暴な圧迫感があった。

 

 反応をする間もなく東雲さんがわたしの胸ぐらを掴み上げたのだった。

 

「……お前、本当に何なんだよ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() なのに! なのに! そうやって余裕ぶって私をバカにしてるのが気に入らないってことくらいわからないわけ!?」

「別にバカにはしてないって」

「気持ち悪いんだよッ! 私はこんなに頑張ってるのに! こんなに努力してるのに! 何で、何で……お前みたいなやつに……」

 

 最後は絞り出すようなか細い声。掴んでいる手も震えている。肉体的に苦しいのはわたしのほうであるはずなのに、東雲さんの方がわたしよりよっぽど苦しそうな表情をしていた。

 

 わたしは東雲さんの腕を掴んだ。

 

「そう、やって……東雲さんを1番バカにしてるのは、東雲さん自身、じゃないの?」

「……は?」

 

 もっとガキになれ、とシャリンは言う。

 わたしは、深呼吸した。

 

「みんな魔法少女やってるんだから()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてわかってて当たり前だろ! 東雲さんが努力してることくらいクラスのみんなは全員知ってんだよ! あんたが嫌なやつだろうがそれは事実! あんたこそわたしたちをバカにすんな!」

「……ッ! 意味わかんない! お前がそれ言うの!? 特待生でもないのに私に勝ったお前が!? そんなので慰めてるつもり!? どれだけ私のことを……ッ」

 

 バカにすれば気が済むの。と、涙声で言う。

 東雲さんの言葉が止まり、顔をくしゃくしゃに歪めたのが見えた。

 

「あんたがわたしにバカにされてると思うならそれはあんた自身のせいだろ! 勝たなきゃ何も意味がない!? 無駄!? バカじゃないの!? キャリアで一度も負けないやつなんているわけない! 勝率100%の魔法少女なんている!? いないだろ! 大引センパイだって超強いけど負けてんだからさ! 偉そうなくせに一度マグレで負けたくらいで不貞腐れてうじうじしてんじゃないよ! それに性格悪いしいつも嫌なこと言ってくるし! そんなの嫌われるに決まってんじゃん!」

「うるさいうるさいうるさい! こんなに嫌いなのに、嫌なこと言ってんのにベタベタ仲良くしようとしてくるお前の方が気持ち悪いんだよ!」

「意味わかんねーよバカ! 嫌なこと言ってる自覚あるならやめろよ!」

「は!? 嫌いなんだから嫌なこと言うのは当たり前でしょ!? 嫌われてるの自覚しろよこのバカ!」

「だから!」

 

 一際わたしが大声を出すと、東雲さんはびくりと体を震わせた。

 何かを怖がっているように、わずかに視線を彷徨わせる。

 すでに力がなくなっていた東雲さんの手を解くと、わたしはまっすぐに東雲さんを見つめた。

 

「なんで、わたしのことが嫌いなの」

 

 わたしは最初から東雲さんに嫌われている。そのくらいは流石にわかる。

 でもその原因はわからない。

 

 いや、本当は、わかってる。

 

「……そんなの、言ったってあんたみたいなやつにはわからないわよ」

「わたしがお高くとまってて鼻につくから?」

「え?」

「わたしがいつも余裕そうに人を見下してる嫌な奴だから?」

 

 東雲さんは言葉を失っていた。

 きっと、それが答えだった。

 わたしはいい大人で、ガキじゃないという驕り。

 上から目線はやめたつもりだった。でも、つもりなだけだった。

 

「ごめん」

 

 わたしは頭を下げた。

 東雲さんがどんな顔をしているかはわからない。

 

「わたし、多分そういうところがあって、おせっかいで人の神経を逆撫でしてるかもって気づいたのは、最近。でも自分だとあまりそれがわかってなくて。たぶん……今までもそれが嫌だなって思ってる子もいたんだと思うけど、東雲さんみたいに正面からお前が嫌いって言われることもなかったから、実感できなくてさ」

 

 シャリンにひどいことを言われたと思った。

 でも否定できなかった。そんなつもりじゃなかったって。

 それはきっと東雲さんに嫌われていたことが心に引っかかっていたからだ。

 

「……だから、これからは仲良くしてほしいとでも?」

「ううん、別に嫌いだっていいよ。わたしだって東雲さんと仲良くなれる気はしないし。でも悪くない関係にはなれると思わない?」

「何が言いたいの」

 

 きっと今からわたしが言うことは正しくない。

 でもそれでいいと思う、だってわたしたちは子供だから。

 2度目の人生だから正しくなきゃいけない、なんてのはきっとわたしの甘えで、ただ傷つきたくなかっただけなのかもしれない。

 

 それこそ、あまり深く考えなくてよかったのだ。

 

 いつの間にか取り落としていた鉄パイプを拾って、わたしはトントンと肩を叩いた。

 

「わたしたちは魔法少女だよ。別に仲良くなくたって試合で闘うことはできるし」

 

 ルルル、と歌が聞こえた。

 横目でところどころ燃え盛る草原地帯を見る。煙が充満していて、景色はわずかに霞んでいた。

 新たに駆けつけたたくさんの魔法少女たちが順番に攻撃を加えているけれど、それでもまだトレントの動きが鈍る様子はない。攻撃もせず遠巻きに観察しながら暇そうにしている魔法少女すらいる。

 

 たぶん、あれは別にやる気がないとかじゃない。

 

 いくら巨大化していようと、敵一体に対して魔法少女の数が多すぎるのだ。

 お互いに攻撃が当たらないよう立ち回るには限界がある。そうなれば一度に攻撃に転じられる人数は自ずと限られる。

 

 きっと生徒の間でも色々とローカルルールがあるんだろう。

 例えば、魔法少女同士の誤爆が起きるような攻撃はトラブルの元になるからしてはいけない、とかね。

 

 もちろんそれは守るべきである。

 でも、わたしたち1年生はそんなルールを知らない。

 

 知らないなら守りようがない。

 

 これならまだまだチャンスはありそうだ。ねえ、東雲さん?

 

「で?」

「え?」

「し、で言いかけたまま止まってんじゃないわよ」

「ふふっ」

 

 律儀にわたしのセリフの続きを待っていたようでつい笑ってしまう。

 やっぱり東雲さんってそういうとこあるよな。やるべきことを決めたらブレない。それはきっと人が羨む才能のひとつだろう。

 

「何がおかしいの? やっぱりバカにしてる?」

 

 東雲さんはわずかに鼻を啜りながらわたしを睨みつけた。

 

「いや、そういうとこは尊敬してるよ」

「ハァ? 意味わかんない」

 

 今度は呆れ顔だ。でもそれが何か、は教えてあげない。

 だって私たちは仲良しじゃないから。

 

「東雲さん」

「何よ」

「協力してあいつをやっつけよう。わたしたち2人で先輩たちを出し抜いてみない?」

 

 わたしは東雲さんの紫色の瞳を見つめて、できるだけイタズラっぽく笑って見せた。

 

 そう、魔法少女だから、協力し合うことだってできる。

 わたしたちは同じ競技をやっているのだから、そこでなら通じ合える。

 きっとわたしたちは、それでいい。

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