内戦状態にあるアスヴァール王国へとジスタート王のヴィクトールからの命により、アスヴァール王国第一王子ジャーメインへの密使として向かう事になったティグル。
彼はエレンの親友である戦姫のサーシャの協力を得て、リプナの港町からサーシャと親しい関係にある水夫マトヴェイの商船である『誇り高き白イルカ号』に乗って航海し、アスヴァール王国にある港町の一つ、マリアヨに到着した。
その中で船に乗る前に出会い、ティグルが自分に与えられた部屋での同室者とした戦姫の一人だろうオルガがいて、本来はアスヴァール王国内でもティグルに協力するよう頼んでくれたマトヴェイと二人でアスヴァールの王都へ向かうつもりであったが、オルガも同行したいと申し出た。
船の中で一緒に身体が鈍らない程度の鍛錬もしている事と戦姫の証明でもある竜具を持っているのもあって彼女の実力をある程度、ティグルは察している。ありがたい申し出だが、一応の建前としてオルガの旅の目的を聞いた。
国を回って町や村で話しを聞きたいと彼女は言ったが、ティグルは彼女が自分やエレンにリュドミラよりも年下である事から、戦姫としてどう自分の公国を統治するかなど考えていて、旅は自分探しのようなものだと推測した。
ともかく、そうしてマリアヨにてマトヴェイの紹介による酒場で方針を話し合ったり、三人でこのまま旅をするのが決まったので景気づけに飲み交わすなどして交流をした。
その後、ティグル達はマリアヨの町で馬を三頭、調達すると荷物を倉に括りつけながら先頭はマトヴェイ、次がティグル、後ろがオルガという列で町を出た。
「へえ、やるじゃないか」
「ティグルこそ……狩りが得意というのは本当のようですね」
森で野営をする事になり、そうして食事のために狩りに向かったのだが、半刻程でオルガは野兎を二頭、狩って持ってきた。ティグルも野鳥を二羽仕留めたので野営による夕食としては豪華な物となった。
そうして交代による見張りを行いながらの就寝をして朝になると霧が出た。晴れるどころか次第に濃くなったのでマトヴェイが麻縄を用意して霧の中ではぐれないようにするため、自分も含めて三人の腕に結ぶ。
「むやみに動くのは危険です。晴れるまでじっとしていましょう」
「これが『霧と森の国』と呼ばれる所以か……」
「ええ。ところでこんな怪談をご存じですか? こうやって仲間と話している時に急に霧の中から知らない者の声が割って入ってくるという」
そう言いながら、マトヴェイはオルガにちょっかいを出したようで「驚かさないでください、マトヴェイさん」とオルガは抗議した。
その抗議に対し、「いえ、今のは私ではありません」とティグルからすれば揶揄っていると分かる態度のまま、真面目な声で言う。
瞬間、オルガは立ち上がりティグルとマトヴェイを同時に引っ張ってみせた。
「マトヴェイさん、幾らなんでも悪趣味だぞ。こういうのに弱いやつは弱いんだから……大丈夫、大丈夫だ。俺は気配に敏感でな、何かあれば守ってやるし、知らせてやるよ」
「お、お願いします」
マトヴェイにティグルは肩を軽く叩くとオルガを優しく抱擁しながら、頭を撫でて落ち着かせた。そして、マトヴェイはオルガに謝ったが少しの間、オルガはマトヴェイに対して対応がきつめだったのは言うまでもない。
そして、霧も晴れたので移動していると一つの村に到着した。
「食事と一晩の宿を求めたい、馬にもだ」
アスヴァール語が話せるマトヴェイが対応し、懐から数枚の銀貨を渡す。
「俺の故郷にもこういう村はあった、うろついて貴方達の邪魔をするつもりはない」
マトヴェイを通じて対応に出た男にティグルは伝えた。男は安堵した様子を見せると自分の家に案内した。彼が村長だったようで彼の家は唯一の二階建ての建物でそばには家畜小屋に穀物倉もあった。
ティグル達は家の二階の空き部屋を提供された。そして、厚手の毛布を一人につき、三枚、一刻後の食事にはパンとスープ鶏も一羽潰してくれるとの事、そして湯を桶に三杯分用意してくれるとマトヴェイから伝えられる。
「少し、体を休めようか」
運ばれてきた毛布を床に敷いてティグル達は旅の疲れを癒すために横になった。
「起きろ、荒事のようだ」
「悲鳴が聞こえましたね」
ティグルとオルガは身体を起こし、マトヴェイも身体を起こす。
ティグルは手元に置いていた黒弓を掴み、矢の入った矢筒を手繰り寄せて窓際へと歩み寄り、慎重に外の様子を伺ったのであった……。