心の折れた魔法少女と、幼馴染の俺が誰もいない街で二人きり   作:イーナ

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5 気付かないといけないこと、気付いてはいけないこと

 結局、次の日も痛みからは開放されず。

 二日も、ベッドの上で悶えることになってしまった。

 ユマがわざわざカレーを作ったのは、それを見越してのことだったのか。

 それとも、冷蔵庫の食材を使い切りたかったのか。

 まぁ、どっちにせよ次の日にユマが無理をして食事を作る必要はなくなったから。

 悪いことではないのだろうけど。

 

 とにかく、俺達は二日も何もせず足踏みをしてしまった。

 ユマのメンタルがそれで落ち着くのなら、悪いことではないかも知れないが。

 あいにくと、痛みに耐える俺を見て少しユマはつらそうだった。

 これじゃあ、むしろ足踏みというよりも後退だ。

 

 内心、少し焦りが募っている。

 街の端まで行ったのは失敗だったか?

 そんなことよりも、ユマを心配させないように一緒にいてやるべきだったんじゃないか?

 あの日、俺のことを待っていたのだろう体育座りのユマの姿を思い出してしまう。

 俺の選択で、良くも悪くも状況が動いてしまったのだということを感じずにはいられなかった。

 

 そもそも、筋肉痛って二日も引きずるものか?

 おっさんになればまた違うかも知れないけど――

 ――――いや、いいや。

 そこは、やめておこう。

 考えない、ようにしておくんだ。

 

 とにかく目下の問題は、冷蔵庫に食材が何も無いことだった。

 

「……ごめんなさい」

「いや、別にユマが悪いわけじゃ。そもそも、二日も寝込むとは思わなかったし。街の端まで行ってる分を含めれば、三日か。三日も無駄にしたのは、俺のせいだよ」

 

 ユマと二人で、空っぽになった冷蔵庫を眺める。

 本当に、綺麗さっぱりなくなっていた。

 若干残っていた食パンやその他食材も、今日の朝食で使い切ってしまった。

 お菓子はまだ少し残っているけれど、それでも今日の昼の分しかないだろう。

 

「だって、私……」

「……」

「このまま、ご飯も食べずに、何もせずに、二人で消えていけたらいいなって、本気で考えてる」

 

 なんとなく、一昨日カレーで食材を使い切ろうとしたときから、解ってはいたけど。

 ユマは、本当にこのまま何もしたくないみたいだ。

 

「もうね、いいんじゃないかなって思うんだ。私は、ここで消えてしまいたいの」

「俺も、一緒にか?」

「……ごめんなさい。でも、消えるならミキトくんと一緒がいい。私ってわがままで、どうしようもなくバカで、悪い子だから」

 

 何もなくなった冷蔵庫を、二人でゆっくりと閉じた。

 ユマの声だけが、リビングに響く。

 

 

「ミキトくんに、一緒に死んでほしいの」

 

 

 そして、わ(・)か(・)り(・)き(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)をユマが口にした。

 

「……知ってるよ、そんなこと」

「だよね」

「ユマのことなら、知らないことの方がすくないはずなんだ」

 

 わからないのは、俺がユマと一緒にいる理由。

 ユマが俺にここまで甘える理由。

 それが、わからない。

 でも、それ以外なら……正直、解ってしまう。

 

「じゃあ……一緒に、死んでくれる?」

「……いや、というわけじゃない」

 

 ユマにとって俺がすべてであるというのなら。

 俺だって、ユマという存在が欠けてしまったら、生きる意味なんてないと思う。

 だってそうだろ? 俺の人生の半分はユマで出来てるんだ。

 家族よりも、他の誰よりも、ユマといっしょにいるんだぞ。

 ユマが大切じゃないわけない。

 ユマが嫌いなわけない。

 ただ、その根底にあるものが、俺にもわからなくなってしまっているだけで。

 

 好きなのか、義務感なのか、それとも――

 

「……でも、食材は調達に行く。まだ少し体は痛むけど。もう動けるようになったから」

「…………だよ、ね」

「ごめん。でも、消えるのは最後の最後にさせてくれ」

 

 もう、それ以外に選択肢がなくなって。

 俺もユマも、消えるしかなくなってしまったら。

 その時は、きっと消えるべきだから。

 

 だって、それが――

 

「…………私も」

「……え?」

 

 ユマが、俺を見ていた。

 俺を見上げて、ためらいがちに。

 覚悟を決めた様子で。

 呼吸を少しだけ、荒くしながら。

 それを抑えるように胸に手を当てて。

 

「私も、行く」

 

 そう、口にした。

 

「行くって」

「……食材、私も一緒に取りに行く」

「……どうしたんだ、急に」

 

 その言葉に、ユマは視線を揺らした。

 少しだけ困惑したようにしながら、迷った様子で言葉を返してくる。

 

「今のミキトくん、ちょっとやだ」

「やだ、って……」

「死んでほしいのは、ほんと。このまま二人で、何もせずに部屋にいたいのも、ほんと。でも……今は、やだ」

 

 だからこそ、ユマは冷蔵庫の食材を使い切ってしまったのだろうけど。

 その結果、どうしてか俺が嫌な感じになってしまった、と。

 でも、それはどうしてなんだ?

 俺は、あまり普段と違いはないと思うんだけど。

 

「わかんない、でも、今は一緒にいたい。外に出るの、すっごく、すっごくやだけど。でも、今のミキトくんは、一人にしたくない」

「……そういう、ことなら」

 

 ユマが、無理をしてでも外に出たいと言うなら、それはきっと必要なことだと思うから。

 でも、どうしてユマがそんなにも今の俺をダメだとおもうのか。

 それは、正直さっぱりわからない。

 

 ただ、少なくとも今は、ユマと二人で外に出るのは正解なんだと、直感的に思った。

 

 

 ♪

 

 

 外、人気のない町並み。

 朝の早い時間だからか、少し肌寒い。

 普段は寝間着姿で、髪もそのままにしているユマだが。

 今は、引っ張り出した大きめのコートを着て、髪も少しだけ整えている。

 可愛らしい、と思う。

 ただそれでも、普段のユマよりはずっと、手入れも適当で。

 投げやりだった。

 

「……寒い、ね」

「少しだけな。……暑いよりは、ずっといい」

「……うん。寝間着の上にコートで誤魔化す、とかもできないし」

 

 話をしながら、近くのスーパーにたどり着く。

 人のいない店内を進み、必要な食料を取っていく。

 

「……誰もいなくて、半月以上経ってるけど。野菜もお魚も、新鮮だ」

「そんなもんなのか?」

「うん、みてみて、このキノコ、シャッキシャキ。傷んでたら、袋の中が水でいっぱいになってキノコもしなしなになってるよ」

 

 いいながら、冷蔵されてないぶなしめじを手にとって見せる。

 ユマは、料理ができるのもそうだが、それ以外にも知識が豊富だ。

 野菜の鮮度の見分け方とか、俺にはさっぱりわからん。

 いや、ユマが言ってる状態にまでなったら、傷んでるのはひと目で分かるけどさ。

 

「――本当に、時が止まってるんだね」

「みたいだな」

 

 二人で、スーパーの中を一通り歩き回って。

 現状を確認する。

 

「私は……好き。昔の私は、外を歩き回るのは好きだけど、人混みは嫌いだったから」

「そうか? いつも楽しそうにしてたけど」

「ミキトくんがいれば、別。ミキトくんだけを見ていればいいんだもん」

「……そ、っか」

 

 少し、照れてしまう。

 昔は、もう少しだけ好意を隠そうとしていたと思うけど。

 今のユマは、そういうのを隠そうとはしない。

 ハッキリと、もしくは遠回しに。

 その時々に、俺が好きだと告げてくる。

 

「ミキトくん、照れてる。好き、かわいい」

「……何気なく普通に言ったな。でも、かわいいってのは少し余計だ」

「照れちゃうから?」

「男に可愛いっていってもな」

 

 食材を集め終わって。

 お菓子も色々とつめこんで。

 最後に、レジにお金を投入する。

 セルフレジ、あってよかった。

 

「……やっぱり、こうしているのは嫌いじゃない」

「こうして?」

「……ユマと二人で、外に出ること」

「…………うん」

「俺も大概インドアな気質だけど、ユマと二人なら会話にも困らないし」

 

 少なくとも、ここまで。

 お互いに今の状況を意識しないようにしていた、というのもあるだろうけれど。

 話は弾んでいた。

 いつものように、これまでと変わらず。

 すくなくとも、外に出たユマは今まで通りのように見えた。

 

「……私も、自分でびっくりするくらい、いつも通り」

「だったら……」

「でも、ダメ。意識しちゃうと、すぐに苦しくなる」

「……わるい」

 

 一緒に、外を歩けたら。

 そう、考えてしまうけど。

 結局ユマは、今だって辛いままなんだ。

 苦しんで、苦しんで。

 そして疲れてしまった、今のユマ。

 意識をしないようにしていれば、かつてのように振る舞えるけど。

 

「……そうすることが、私にとっての一番の逃げなんじゃないかって、思っちゃう」

「そう、だな」

 

 俺の考えを、ユマが一言一句違わず口にして。

 二人で黙る。

 

「怖いって、思うの。今を」

「……」

「どうにかしなきゃって、思うの。この状況を」

「ユマ……」

「でも、考える度に、どうにかしなきゃって焦る度に、汗がどんどんでてきちゃって、前が見えなくなっちゃう」

 

 いいながら、ユマの体が少しふらつく。

 それを支えて、ユマが落ち着くのを待った。

 

「こうやって、ミキトくんに甘えてるのが、一番楽で一番安易。わかってる、それくらい」

「……」

「外に出たのだって、結局はミキトくんに甘えたかったから。今を変えたいなんて、これっぽっちも私は思ってない」

 

 いやだと、ユマはいった。

 今の俺は、いやだと。

 それは嘘だとは思わない、でも、それがどうして嫌なのかユマにすらわからないんだ。

 だから、ユマにわかる感情は、俺に甘えて逃げたいという感情だけ。

 

「ずっとこのままでいたい。私とミキトくんの終わりまで、ただ一緒にいるだけでいい」

「それは……」

「ど(・)う(・)し(・)て(・)な(・)ん(・)だ(・)ろ(・)う(・)ね(・)? 私でも、わかんない。私はミキトくんが好き、大好き。一生、ずっと、ミキトくんだけが好き」

 

 体を支える俺にすがりつくようにしながら。

 ただ、好きだとユマは口にする。

 

「でも、好きって感情が私のすべて。私の中で、ミキトくんが大きくなりすぎて。他を押しつぶしちゃうくらい」

 

 それは。

 きっと。

 

「……俺だって、そうだよ」

「……」

「ユマの言う通り、俺がユマをこうして支えているのが、義務感なのかそれ以外の感情なのか。俺には、正直わからない」

 

 同じなんだ。

 俺も、ユマも。

 迷って、戸惑っている。

 そして、今も――

 

「だから、俺は――」

 

 その時、だった。

 

 

 俺の視界に、人影のようなものが映った。

 

 

「……え?」

 

 誰かは、わからない。

 小さな影だ。

 少年か、少女か。

 影だけでは、そこまで判別がつかない。

 でも、たしかにいた。

 視界の端に、少し映って。

 それを追いかければ、遠くへ消えていこうとしている。

 

「……ユマ、ごめん!」

「え、ミキトくん、……え!?」

 

 追いかけないと行けない。

 どうしてか、そう思う。

 いや、どうしてなんて考えるまでもない。

 この半月、何も起きなかったこの街で、初めて起きた変化。

 痛む体を無視して、追いかける。

 ユマが、後ろから追いかけてくるのがわかる。

 それでも、今は、その影だけをおいかけたくて、しかたがなかった。




そういえば、本作は途中でEND分岐があります。
何回あるかは秘密です。
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