不敗の魔術師と夜天の主   作:サーフ

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夢…見果てたりぬ

   6月4日。

 この日、はやては20歳の誕生日を迎えた。

 

 そんなはやては本日、ヤンの自宅でささやかながら誕生日パーティーを開いた。

 

「はやて。誕生日おめでとう。20歳になったんだな」

 

「無事成人を迎えられたんやなぁ……なんか感慨深いわぁ……これでようやくおじさんと一緒にお酒が飲めるんやな」

 

 はやてはそう言うとテーブルの上にブランデーの瓶を置く。

 

「ブランデーやろ? おじさんが普段飲んでいるのは。さてさて……どんな味がするんやろか?」

 

 はやてはウキウキ気分でグラスを用意する。

 

「はやて……言っておくがブランデーは結構強めの酒だ。お前さんが思っているような味ではないと思うが……まぁこの銘柄は甘口だし飲みやすいだろうが」

 

「でも美味しいんやろ? それに甘口なら大丈夫やろ」

 

「まぁ……私は美味しいと思うが……」

 

「それなら大丈夫やろ」

 

「最初はカクテルとかの方が良いと思うわ」

 

「いえ、最初に飲むお酒はおじさんと同じブランデーと決めているので」

 

「そ、そう」

 

 ヤンとフレデリカは少し不安そうにはやてを見守る。

 

 対するはやては意に関せずグラスにブランデーを半分ほど注ぐ。

 

「さて、こんなもんやな」

 

 はやてはグラスを手に取ると光にかざし眺める。

 

「綺麗な色やな……さて香りの方は……」

 

 グラスを鼻に近づけ目一杯香りを嗅ぐ。

 

「うん。結構いい香りやね……フルーティ? って言うんかな?」

 

 しばらく香りを楽しんだ後再びグラスを掲げる。

 

「さて……それじゃあ……飲むで……」

 

「はやて。初めてなんだから少しにした方が……」

 

「大丈夫やって……それじゃ」

 

 はやてはそう言うとグラスを掲げると中身を一気に煽った。

 

「あっ……」

 

「ちょっと……」

 

 ヤンとフレデリカはブランデーを一気に煽った。はやてを唖然とした表情で眺めた。

 

「……グッ……ゲホッ」

 

 ブランデーを飲み込んだはやては少し咳き込むと、無言で俯く。

 

「は、はやて?」

 

「なんやこれ……スッゴイ苦いと言うか……辛いと言うか……甘口って言ったやん……」

 

 はやては苦虫を噛み潰したような表情でヤンを睨みつける。

 

「だから少しにしときなさいって言ったんだ」

 

 ヤンはそう言うとグラスにブランデーを注ぎ飲み干す。

 

「うん。美味いじゃないか」

 

「ウゲェー」

 

「まぁ……まずはカクテルとか甘めの酒か私のように紅茶に入れてみるのも良いんじゃないかな」

 

「うーん……それなら紅茶に入れてみよかな?」

 

「そうすると良い。さてそれじゃあ私の分も入れてきてくれるかい?」

 

「はーい」

 

 はやては頷くと紅茶を淹れにキッチンへと向かった。

 

 しばらくすると紅茶を淹れ終えてヤンとフレデリカの元に戻る。

 

 そして、ヤンとフレデリカの前に紅茶の入ったティーカップを置き、自分の分もテーブルに置いた。

 

「さて……それじゃあ……」

 

 はやてはそう言いながらティースプーン1杯分ほどのブランデーを紅茶に入れた。

 

「こんなもんかな?」

 

「まぁ……最初ならね」

 

 対するヤンは多量のブランデーを紅茶に入れた。

 

「そんなに入れたら味変わるんやない?」

 

「それが良いのさ」

 

 ヤンはそう言いながら紅茶を口に含んだ。

 

「……」

 

 紅茶をしばらく見据えた後、はやては恐る恐る一口口に含んだ。

 

「んっ! 美味しい」

 

「だろ?」

 

 ヤンとフレデリカは小さく笑いながらはやての様子を見ている。

 

「そうだ……はやて」

 

「ん? どしたん? おじさん」

 

「帝国が公式に時空管理局の存在を認め、世間に明らかにされたが、連日大変じゃないか?」

 

「まぁねぇ~メディアの取材から、帝国の貴族? の人達に呼ばれたりと……マナーを覚えるのも一苦労で……まぁ大変よ」

 

「しばらくは続くだろうね……それに……貴族界は魔窟だと聞く。気を付けるんだよ」

 

「カイザーとカイザリンも気を使ってくれてるのか護衛の人を何人か付けてくれたりしとるよ」

 

「それは良かったね。時空管理局本部はどんな対応を?」

 

「まぁ……本来なら上層部のお偉いさんが来て話を進めてくれたらええんやけど……帝国の国力っていうか……勢力を危ぶんでいるのか私に丸投げなんよ……まぁ……カイザーも私以外の窓口は嫌や言うとるけどな」

 

「ハハッ。気に入られたんだね」

 

「敏腕外交官にでもなった気分やわぁ……まぁ、帝国が友好的ならええよ」

 

 はやては微笑むと紅茶を飲み込んだ。

 

 

 

  イゼルローン民主共和自治区の樹立と時空管理局の公表が行われてから約1年ほど過ぎた。

 

 その間は戦闘等はないが、時空管理局と言う新たな存在が現れた事により時勢は大きく揺れていた。

 

 具体的には時空管理局を通じて少数単位では有るが、双方で観光を行うことが許可されたが、それを利用し秘密裏にミッドチルダの裏社会の人間とフェザーンの一部商人が裏取引を行う事件が起こったが、スケープゴートとして数人のフェザーン商人とミッドチルダの人間が帝国の治安維持部隊に逮捕され、それに対して時空管理局が抗議し一時期バランスが不安定になったが、はやてがヤンの助言を受けながら緩衝材となり、双方で協議を行い、犯人は帝国に多額の賠償金を支払い、ミッドチルダに強制送還すると言う結果に落ち着いたという。

 しかし、そのフェザーン商人の背後には獄中のアドリアン・ルビンスキーの影があったと言う……

 その実、ルビンスキーは獄中においても、自身が築き上げたコネクションと資金を使い、獄中から人を動かし多くの人間と取引を行っているという。顧客は帝国貴族にとどまらず、ミッドチルダの裏社会の住人、そして時空管理局員に至っており、秘密裏に自身の病気を魔法で治療させる対価に、貴族とのパイプ役を買って出ているという話もあるが、それはまた別の話である。

 

 そんな中、本日の公務を一段落させたはやてがイゼルローン要塞の隣に作られたミッドチルダの時空管理局とこの時空を繋ぐ時空跳躍機構を備えた貿易港の執務室で椅子に深く腰掛ける透明な窓の向こうに広がある広大な宇宙の星々を眺めていた。

 

「星を見ておいでですか?」

 

 そんなはやてのもとにリインフォースが紅茶を差し入れる。

 

「ありがとな。星は良いもんやな……ずっと同じ場所で輝いて私達を照らしてくれている……思えばえらい遠くまで来たものや……おじさんと出会う前は宇宙に行くなんて思いもよらなかったで……おじさんと会う前の自分に言うてやりたいわ〜成人後も生きとるし、宇宙にも居るってな……まだ信じはせんやろうけど」

 

 はやての呟きにリインフォースは頷き応える。

 

「そうですね。思えば不思議な巡り合わせです……本日の午後はオーベルシュタイン氏とオンライン会議の予定が入っております」

 

「ゲェ……あの人かぁ……シャマルと仲ええのは知っとるけど個人的には見透かされている様で苦手や」

 

「そうも言ってられませんよ。仕事なのですから。給料分くらいは働いてください」

 

「はぁ~しゃーないな」

 

「怠け癖まで似なくても良いのに……」

 

「なんか言うたか?」

 

「いいえ何も。それでは失礼します」

 

 リインフォースが退出後はやては大きなため息を吐いた。

 

 そんな時、コンソールからホログラム映像と音声が流れる。

 

「もしもし? はやてちゃん?」

 

 ホログラムには時空管理局の制服に身を包んだなのはとフェイトが映し出される。

 

「やぁ、久しぶりやね2人共」

 

「1年以上ぶりだよね」

 

「そっちの生活はどう?」

 

「うーん……正直すっごい疲れるで〜1年以上経つのに未だに取材やら貴族とのお食事会やらなんやらがいっぱいや」

 

「アハハ〜大変だね。こっちには戻ってこないの?」

 

「帰ろうと思ったら帰れるで〜まぁ一時帰宅やけどな」

 

「そうじゃなくてさ……そっちの時空で暮らすんじゃなくて、こっちに戻って生活しないのかってことだよ」

 

 なのはがそう言うとはやては苦笑いを浮かべる。

 

「ミッドチルダに帰りたいかと言われると微妙やな。正直今の生活は気に入ってるんよね。おじさんは居るしヴォルケンリッター全員も居るしなぁ」

 

「不便はあまりない感じ?」

 

「せやで。おじさんは最近カイザーの趣味探しに付き合わされて美術品見て回ったり、演劇見に行ったりしとるらしいよ。おじさんは面倒やって言ってるけどカイザーが戦争以外の趣味を見付けてくれるなら……とも言うとるわ」

 

 はやてはそう言いながらテーブルの引き出しから小瓶のブランデーを取り出す。

 

「はやてちゃん……それってお酒じゃない?」

 

「ブランデーやで~紅茶にちょこっとだけ入れると風味が出て良いんよ」

 

 はやてはそう言いながらティースプーン1杯分ほどのブランデーを紅茶に入れると一口飲み込んだ。

 

「うん。いい感じや」

 

「今って仕事中じゃないの?」

 

「大丈夫やで。おじさんだって昔はブランデーを嗜みながら仕事してたって言うし。もしもの時は魔法で酔を醒ますで……あっ……この後はあのねちっこいオーベルシュタインさんとの会議やん……」

 

「そんな人との会議の前にお酒はまずいんじゃ……」

 

「まぁ……ちょこっとだけやし……大丈夫やろ……多分。オンラインやし」

 

「アハハ……平和そうだね」

 

 なのはとフェイトが微笑み、はやても笑みで答えた。

 

「せやでぇ~戦いの無い平和な日々よ。このまま続いてほしいわぁ」

 

「でもはやてちゃんほどの実力者が一つの時空で貿易の窓口役に添えるのは時空管理局の損失だと思うよ」

 

 なのはは真剣な表情で語る。

 

「窓口と言うよりは外交官かや? まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいんやけどね。カイザーが私以外の人を時空管理局の窓口にしたく無い言うとるし、月1位でやるカイザーの治療も私かシャマル以外には任せたくない言うとってな」

 

「そうなんだ。他の時空管理局員は信用されてない感じ?」

 

「カイザーも立場的に用心しとるんやろ。それに今の生活だとこの貿易港の仕事で時空管理局からも給料は入るし、月に1回くらいのペースやけどカイザーの治療で1ヶ月に4万帝国マルクもくれるんよ……」

 

「4万帝国マルクって言われても……為替がわからない……月一くらいだし4万円くらい?」

 

 フェイトは首を傾げ質問する。

 

「せやなぁ~だいたい今の為替で1マルクが日本円で言うとだいたい100円前後位やから……時空管理局の収入が霞むくらいの月収をポンッとくれるから……」

 

 はやては何処か遠い目をしている。

 

「ウェ……そんなに!?」

 

「せやで……実際はカイザーの覇気を調整し終わったら、カイザーはおじさんと一緒に趣味を見つける為の画廊巡りや、詩の朗読会に行ったり……最近はストレージデバイスで魔法を使った射撃とかに興味を持ったとかおじさんが言ってたなぁ……私はその間、皇妃とカイザーのお姉さん……アンネローゼ様を相手にお茶会したり……まぁ胃に穴が空きそうなプレッシャーの中仕事やけど……こんなに貰えない言うてもカイザーの個人年金の一部……つまりポケットマネーから出とるらしいから国費じゃないから受け取ってくれって……ヒルダさん……皇妃にもそう言われて……」

 

 はやては大きくため息を吐いた。

 

「以前そのお茶会にヴィータを連れて行ったんや……そしたらアンネローゼ様のお菓子をえらく気に入ったみたいでなぁ……結構な頻度で同伴してもらっとるんやが、アンネローゼ様の事を『アンネ姉さん』って呼んだりして……懐いたようでかなりフランクなんよ……その時はヒヤヒヤしたわ……でもアンネローゼ様もヴィータの事を気に入っとるようでな、どうやらヴィータの言動は幼い頃のカイザーを思い出すらしいし、赤髪を見ていると昔を思い出すと言うとったわ~」

 

「そうなんだね。腕がなまったりしちゃいそうだね」

 

「なのはちゃんの言う通り、最近は実戦とは程遠いからなぁ……運動不足は否めない……少し運動せなあかんかも……」

 

 はやては笑いながら腹部を擦る。

 

「ホワイトな職場で高収入……良いなぁ……転職しようかな……ねぇカイザーのボディガードとか募集ない?」

 

「フェイトちゃん!?」

 

「カイザーのボディガードはないけど貿易港の警備なら空きがあるで〜。今のところ時空管理局側からの警備は全部シグナムに任せっきりで……一応シェーンコップさんがローゼンリッターを派遣して警備は万全やけどそれでも警備主任のシグナムが結構大変そうやったわ~ってな感じやから、副主任辺りで補佐する人材は大歓迎や」

 

「良いね。待遇は?」

 

「せやね〜」

 

「はいはい、その話は後で」

 

 なのはが半ば強引に話を中断させる。

 

「分かった……」

 

 フェイトはそう呟きながら溜息を吐いた。

 

「まぁ……そんな感じで今の生活には満足しとるんよ。長期休暇にはそっちに帰る予定やからまた会おうや」

 

「良いね。楽しみだよ」

 

 ホログラム上でなのはとフェイトが微笑む。

 

「せや。そういえば聖王のゆりかごやったか? 時空間攻撃出来るっていうあの事件。確か大規模な戦闘になるって予想した時空管理局がカイザーに応援要請出したはずや。カイザーも折角だからって獅子の泉(ルーヴェン・ブルン)の八元帥からロイエンタール提督とミッターマイヤー提督の双璧とその艦隊を派遣したはずやで? まぁ今回の遠征は後進を育てるのが目的らしいからその2人は引率って言うてたがな」

 

 はやてが言うとなのはとフェイトの二人は苦笑いする。

 

「あーうん。無事に終わったんだけど……」

 

「この前のはねぇ……」

 

「? どうしたん?」

 

 はやては首を傾げる。

 

「いや……ね。あれは艦隊と言うか……大艦隊すぎない? 過剰戦力だよ」

 

「せやろか?」

 

「うん……2個艦隊って報告書には書いてあったからせいぜい30〜60隻くらいかと思ったよ……」

 

「でも実際来たのは1万隻以上だった訳だし」

 

 二人は苦い顔をする。

 

「あーそっか……せやった。こっちに居すぎて感覚がおかしくなってもうた」

 

 はやては苦笑いしながら頭を掻く。

 

「そんな大艦隊が来たからさ……いくら聖王のゆりかごって言っても行動を起こす前に降伏したよ……と言うか半分はまだワープアウトの途中だったよ」

 

「と言うか。宇宙が狭いって初めて感じたよ。時空管理局もあまりの艦隊に征服に来たのかと思っていたよ。上層部が蜂の巣を突いたようだったよ……まぁでも代表者の二人の提督が上層部と話をして敵意は無いって言ってくれたおかげで現場の一安心だったよ」

 

「アハハ〜」

 

 はやては頭を掻いた。

 

「まぁ……そんな訳で事件は無事に終わっちゃったよ」

 

「そうやったんやね〜」

 

「うん。最初さ、はやてちゃんの報告書を読んでも時空管理局は疑問を抱いていたんだよ」

 

「疑問?」

 

 はやては首を傾げる。

 

「そう。だって魔法技術ではなく科学技術だけで人工惑星にあの規模の……万を超える艦数の大艦隊を消し去る威力の要塞主砲……それに光速レベルの速度が出せる戦艦の艦隊とか……絵空事かと思ったけどさぁ……あれを見せられたら……うん」

 

「時空管理局も考えを改めたみたいだよ」

 

「私は何度も報告書に書いたんよ……まぁ今回の艦隊派遣でようやく信じてもらえたんやね。そういえばカイザーが今度、ミッドチルダに親善としてイゼルローンと同じ規模の宇宙要塞を建設しようかって言うとったが……侵略と思われるから止めてくれっておじさんが説得しとったわ」

 

 はやては笑いながら言うが、それを聞いた二人は唖然としていた。

 

「まぁ……カイザーが時空管理局側に拠点を作りたくなる気持ちも分からんではないがな」

 

「え?」

 

「どうして? まさか……侵略が目的?」

 

 なのはとフェイト、2人の表情が曇る。

 そんな2人を見てはやては小さく笑いながら答えた。

 

「ちゃうちゃう。今のところカイザーは侵略等は考えとらんよ」

 

「じゃあ、一体?」

 

「私が思うに理由は2つや。1つ目は時空管理局に対して、余計な手出しさせない為の軍事力の誇示……まぁ釘を差したいんや」

 

「もう1つは?」

 

「それは、こちらの時空の情勢が安定してしまったというのが原因やと思う」

 

「安定してしまったって……」

 

「それじゃあ、安定してる情勢が悪いみたいな言い方じゃない」

 

 なのはとフェイトの2人は険しい表情ではやてに詰め寄る。

 

「安定しているに越したことはないんやが、悪くいえば変化がないんよ。現在の帝国……新帝国は確かに情勢も安定していて平和的や。しかし新帝国はまだ出来てから日が浅い上に幹部の大半が軍人や。そんな軍国主義とも言える帝国が平和的やと若い世代が武功を上げたり実戦経験と言った人員育成が難しい……そこでカイザーは時空管理局を利用しようという訳や」

 

「えっと……」

 

「イマイチ良くわからないんだけど、なんで軍国主義の帝国が時空管理局を利用するの?」

 

 首を傾げる2人にはやては説明を始める。

 

「まぁ……時空管理局はその特性上、強力な時空犯罪者や災害が起きる地域と言うか管理時空が多い。つまり戦闘や事後処理の機会が多い。カイザーはそんな時に帝国軍を派遣しようと考えて居るんや。帝国は派兵による実戦経験等で人材育成が出来て、しかも時空管理局から対価として魔法技術や物資が手に入る。対する時空管理局も万年の人手不足を解決出来る訳やしお互いにとってもWin-Winの関係やと思うんよ。その為の橋頭堡やね」

 

「でも、帝国の人達って魔法は使えないんだよね?」

 

「魔法が使えないからと批判するのは管理局の悪い癖や。まぁ、確かに魔法は使えんが、それを補って余りある軍事力と科学力があるんよ。それにその科学力は今後の時空管理局にも技術供与されるはずや。いずれは科学技術が上を行き『魔法を使えない』から『魔法しか使えない』になるやも知れん……時代は常に変化する物や」

 

「そう考えると……共生できて良いのかも?」

 

「帝国は共生を考えとるが……時空管理局は実際のところどう考えているのやら……」

 

「と言うと?」

 

 二人が疑問に首を傾げる。

 

「はっきり言って時空管理局も一枚岩やない……陸と空がいがみ合っとるしそれ以外の勢力も有る。そんな中に、人材も資金も、そして優秀なトップを携えた帝国が平和的な顔しながら横っ面を殴り込んできたんや。きっと上層部が蜂の巣を突いた……いやぶっ叩いたくらい賑やかや……」

 

 はやては乾いた笑みを浮かべながら紅茶を飲む。

 

「まぁ……私としては時空管理局がどうなろうと知ったことがない。今は管理局が給料を払ってくれとるから従っているが、給料分以上の仕事をするつもりはないで。なんなら辞めて年金を貰いながらイゼルローンの一角で夢だった喫茶店でも開いてゆっくりしたいところやけど……カイザーがそれを許してはくれへんやろなぁ……誠意は金やが。金は誠意であると同時に縛り付ける鎖やなあ~」

 

 苦笑いするはやてとは対象的になのはが真面目な顔で続ける。

 

「はやてちゃん、結構変わったね。もっと自分の所属している組織に誠意を持ったほうが良いよ。このままじゃいずれ時空管理局が無くなちゃうかも知れないんだよ」

 

 なのはが苦言を呈すが、それを受け流す。

 

「恒星にだって寿命があるんや。時空管理局だけが永遠で有るはずがないんや。それに…かかっているのはたかだか組織の存亡や。個人の自由と権利にくらべれば、たいした価値のあるものやない」

 

「はやてちゃんには正義感とかないの?」

 

「正義感かぁ……正義の反対にはそれを同じだけの出力を持つ別の正義があるのよ。せやから時空管理局が完全な正義とは言えんよ。それに……私が言うのもなんやが、時空管理局が未成年を登用しているというのは正直嫌やったんよ」

 

「でもそれは、才能があるから、若いうちから……」

 

「だとしてもや……本来子供と言うのは大人の庇護下にあるべき存在なんや……私達は子供の頃から実戦を経験してきたから感覚が麻痺しとるようやけど、これは異常な事や。聞いた話じゃなのはちゃん達の部下にも未成年者……しかも10代にも満たない子供がおるって聞いたんやが?」

 

 はやてはため息を吐きながら深刻な表情で呟いた。

 

「確かにいるけどそれは才能があるからであって、その長所を伸ばすために若いうちから訓練や実践経験を──」

 

「それが異常やって言うているんや。訓練ならまだ百歩譲って分からんでもないが、実戦は異様や」

 

「それってどういう事? 私達が異常だって言いたいの?」

 

 なのはが鋭い視線ではやてを睨む。

 

「ちょ、なのは……別にはやてはそんなつもりじゃ」

 

 フェイトが仲裁するように宥める。

 

 対するはやては毅然とした態度で答える。

 

「私等もそうや……時空管理局で幼い頃から戦場に立たされていたと言いたいんや。言うならば被害者や……異常なのは時空管理局や」

 

「時空管理局を批判するの? 時空管理局員なのに?」

 

「身内だからこそ見える腐敗というのは有るものや。時空管理局は階級社会でありながら、魔力によって地位が決まる個人主義でありながら、世襲制に似た──」

 

「はいはいそこまで! は、話は変わるけど。この前ヴィータに新人の子達の訓練を見てもらったんだけどさ~」

 

 険悪な空気を感じ取ったフェイトが話題を差し替えた。

 

「ん? ヴィータがどうしたん?」

 

 はやてが首を傾げる。

 

「最近口が悪いというか……新人の子達全員が男の子だったってのもあったのか訓練途中に応援してたけど白熱したようで『走れ走れ! 勝利の女神はおまえたちに下着をちらつかせているんだぞ!』とか……陰口を言っている子に対しては注意するんじゃなくて『人を褒めるときは大きな声で、悪口を言うときにはより大きな声で言え』って……下品すぎるよ」

 

 なのはが苦言を呈すとはやてが顔を顰める。

 

「あーそれは多分ビッテンフェルト提督の悪影響やね……最近良くつるんでいたし……最近じゃワルキューレやったか? あれに乗れるようになったって言っとったなぁ」

 

 はやては脳裏で帝国軍服を着て艦橋で腰に手を当て大笑いしているビッテンフェルトの隣で同じく帝国軍服に身を纏ったヴィータが腰に手を当て同様に大笑いしている姿を思い浮かべて苦笑いをする。

 

「部隊の子達にも悪影響だよ」

 

「あー分かった……今度注意しとくわ」

 

「そうそう。そういえばザフィーラなんだけどさ」

 

 再びフェイトが口を開いた。

 

「え? ザフィーラが? 今度はなんや……」

 

「大丈夫。悪い話じゃないよ。この前アルフがザフィーラに真顔で相談されたって言っててさ」

 

「え? 相談?」

 

「そうそう。なんでも子犬になる方法はないかって……理由は教えてくれなかったらしいけど……」

 

「あ──ー」

 

 はやては心当たりがあるのか数回頷いた。

 

「心当たりあるの?」

 

「この前の出来事なんやけどな、カイザーの子供……アレク殿下に狼の姿で近づいたら怖がられてギャン泣きされた言うてすごい落ち込んどったからなぁ……まぁまだ1〜2歳位の赤ちゃんやから狼の姿が怖かったんかな?」

 

「あー……それで」

 

「せやで……本人はアレク殿下のボディーガードって言うとるが……あれはペットも兼ねとるんかな……でもこの前はアレク殿下の機嫌が良かったようで背中に乗せて中庭を駆け回っとったわ」

 

「アハハ……」

 

 3人は乾いた笑みを浮かべた。

 

「シグナムもシグナムで最近はシェーンコップさんと良くつるんどる様や。良く訓練場で模擬戦をしてるところを見るわ。魔法無しのようやけど、ようやっとるわあの人」

 

「あのシグナムに対等でやりあえる人間が居るなんて……」

 

「仮にもローゼンリッターの隊長さんや。おじさん曰く女好きの不良中年やけど……シグナムとは戦友といった感じやね。それにシャマルはシャマルで帝国領で事務手続きをお手伝いしとるわ。まぁあのオーベルシュタインさんのご指名やし、当人も乗り気な様やしな」

 

「え? なに? シャマルってそうなの?」

 

 なのはとフェイトのテンションが少し上がる。

 

「詳しくは知らんけど、仲はええみたいやなぁ……私にはどこがええんかさっぱりや。正直あの人は苦手やなぁ」

 

「そういうはやてはどうなの?」

 

「どうって……なにがや?」

 

「良い人は居ないのかってことだよ!」

 

「そうだよ。あの人は? ほら、ヤンさんの義理の息子の……」

 

「ユリアンさんか?」

 

「「そうそう!」」

 

 なのはとフェイトは同時に頷く。

 

「あの人はどちらかというと、兄の様で弟みたいな感じ? きっと兄妹が居たらあんな感じなんやろなぁ? それにユリアンさんはどうやらシェーンコップさんの娘とええ感じらしいで」

 

「そうなの!?」

 

「せやでぇ~……ん? でももしその場合おじさんとシェーンコップさんは親戚に……ややこしいわ」

 

 はやては笑顔で数回頷いた。

 

「まぁ、そんな訳で色々あるけどこっちは上手いことやっとるよ」

 

「そうなんだ。まぁそれならよかったよ」

 

 なのはとフェイトは微笑みを向ける。

 

「さて……まだ余裕はあるけど、そろそろ午後の公務の準備をせなあかんからなこれで切るで」

 

「うん。またねはやてちゃん」

 

「うん。今度の長期休暇には帰るで〜」

 

 はやてはホログラムに手を振りながら通話を終了させる。

 

「ふぅ~」

 

 はやては夜天の書を取り出すと何かを書き込む。

 

「よし」

 

 夜天の書をテーブルに置き一息入れるはやては宇宙に散らばる星に手を伸ばす。例えそれが手に入れる事ができないと分かって居ながら星を掴もうとする。

 

 その時、部屋の扉がノックされる。

 

「はやて、居るかい? ちょっと紅茶を淹れてほしいんだが」

 

「あっ、はーい。今行くでー。私のも冷めちゃったから淹れ直そうかな」

 

「あぁ、一緒にな。それと私のにはブランデーをたっぷりで頼むよ」

 

「はいはい」

 

 はやてはゆっくりと立ち上がると部屋を後にした。

 

 部屋に残された夜天の書にはこう記されていた。

 

『この広大に広がる時空の中に……広大に広がる宇宙において人類は、平和と言う手に届き得ぬものを求め続けるだろう。そして今、平穏は始まったばかりだが、いずれその平穏も終わりを告げるだろう……永遠の平和など有りはしないのだから。しかし今ここに数世紀にも渡る長き戦乱が終結したのも事実。戦乱という伝説が終わり、平和という歴史が始まる。それならば私は……一人の時空管理局員として、別の時空からの使者としてその平和を見届けよう……』

 

 そして最後にこう続けた。

 

『銀河の英雄達の伝説が終わり……銀河の歴史がまた1ページ』

 

 

                             ーEndeー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年経ったある日の出来事。

 

「殿下! 殿下! アレク殿下どこです!?」

 

 執事服に身を包んだザフィーラが声を荒らげながら皇宮を走り回っていた。

 

「殿下! 殿下ぁ~!」

 

「うっさいぞザフィーラ。どうしたんだ? 大声出して」

 

 耳を両手で塞ぎながらヴィータとシャマルが歩み寄る。

 

「おぉ、ヴィータにシャマルか。お前達殿下達を見てないか?」

 

「いいえ、見てないけど」

 

「まーた逃げ出したんか、あの悪ガギ共は?」

 

 ヴィータは呆れたように首を横に振り、その隣でシャマルは小さく笑う。

 

「笑い事ではないぞ。もう勉学の時間なのだが……見つからないのだ……このままじゃ教育係のアイツにどんな嫌味を言われるか……」

 

「嫌味がどうした? ザフィーラ殿」

 

 ザフィーラの背後に立ったオーベルシュタインが冷たい目線でザフィーラを睨みつける。

 

「ふぅ……まぁ良い。また殿下達は逃げ出したのか」

 

「すまぬ……どうやら隙をついて逃げられたようで……探してはいるのだが」

 

「まぁ良い。卿は外を探してきてくれ、私はもう少し皇宮内を探してみよう」

 

 オーベルシュタインはそう言うと去ろうとする。

 

「あっ、そうだ」

 

 シャマルはそう言うとオーベルシュタインに駆け寄る。

 

「パウルさん。今夜の食事。楽しみにしていますわ」

 

「そうだな。私もだ。職務が終わる頃に迎えを寄越そう」

 

 オーベルシュタインは一礼するとその場を後にした。

 シャマルはオーベルシュタインの背中が見えなくなるまで小さく手を振っていた。

 

「……なぁ……シャマル」

 

「何? ヴィータちゃん」

 

 ヴィータとザフィーラは苦笑いでシャマルを見据える。

 

「いや……他人の趣味に兎や角言うつもりはないが……」

 

「あの男は……いい趣味とは言えないな。定期的に食事に行っているんだろ?」

 

「あら、確かに喋り方や性格は少しキツイかもしれないけど、話してみると案外楽しい人よ。それに愛犬家に悪い人は居ないわ。最近は先代の犬が拾ってきた子犬のダルメシアンがやんちゃで大変なのだとか。夜に散歩をねだられて睡眠不足だそうよ」

 

 シャマルは微笑むと二人は溜息を吐いた。

 

「まぁ良い……さて……それじゃあ殿下達を探してくるか」

 

 ザフィーラはそう言うと駆け出した。

 

 

 皇宮の中庭の生垣が小さく揺れると二人の子供が顔を出す。

 

「アレク殿下……部屋に戻らないとまずいんじゃ……」

 

「大丈夫だ。まったくフェリックスは心配性だな。それにオーベルシュタインの授業はつまらないからな。外でお前と遊んでいる方がずっと良い」

 

「でも後で怒られるんじゃ……」

 

 フェリックスは心配そうな表情をする。

 

「大丈夫だ! それにお前が侍女達と話をして逃げる隙を作ってくれたのではないか」

 

「それは!……殿下がそうしろって……絶対後で怒られる……」

 

「その時は庇ってやる! さて行くぞ!」

 

 二人は生垣を飛び出すと走り出した。

 

 アレクが曲がり角を曲がろうと開いたその瞬間、人にぶつかり尻餅をつく。

 

「あっ、殿下!」

 

「イテテ……」

 

 フェリックスが尻もちをついたアレクに駆け寄り、2人でぶつかった人物を見上げる。

 

「おや、殿下ではありませぬか! それにフェリックスも。急に飛び出しては危ないですぞ!」

 

 アレクがぶつかった人物、ビッテンフェルトが笑顔でアレクの手を取り立ち上がらせる。

 

「殿下、お怪我はないですな?」

 

 ビッテンフェルトはアレクの服に付いた汚れを手で軽く払い除ける。

 

「あぁ、無事だ。ビッテンフェルト」

 

「それは良かった。しかしこの時間は……」

 

「勉学の時間のはず……だ」

 

 フェリックスの背後から答え発せられる。

 

「あっ……ファータ……いえ、父上」

 

 アレクとフェリックスが振り返ると、そこにはミッターマイヤーが立っていた。

 

 ミッターマイヤーは首を横に振りながらフェリックスの頭を軽く叩く

 

「あいた!」

 

 頭を叩かれたフェリックスは頭を擦る。

 

「まったく……フェリックス。殿下の世話係であるお前がこともあろうに殿下と一緒に逃げ出してどうするのだ」

 

「だって……」

 

「だってでは無い! 殿下の間違いを正すのもお前の役目だぞ……」

 

 ミッターマイヤーは呆れたように溜息を吐き首を左右に振る。

 

「すまないウォルフ。あまりフェリックスを怒らないでやってくれ」

 

「殿下も殿下です。まったく……」

 

「まぁまぁ……そう怒るなミッターマイヤーよ。子供の勉学は窮屈だろうさ」

 

 萎縮するフェリックスとアレクを見かねてビッテンフェルトが助け舟を出す。

 

「ビッテンフェルト……そうは言うがな、後々オーベルシュタインから小言を言われるのは俺なのだぞ」

 

 ミッターマイヤーは頭を横に振る。

 

「おっと……噂をすれば影だ」

 

 ビッテンフェルトが指を差した先からオーベルシュタインが近寄ってきた。

 

「殿下。こちらにいらっしゃいましたか。既に勉学の時間ですぞ」

 

「そ、それはぁ……」

 

「まぁ良いでしょう。気分転換……と考えましょう。既に予定の時間を30分ほど超過してますからなぁ……1時間は追加でやりましょう」

 

「そ、そんなぁ」

 

 アレクは分かりやすく肩を落とした。

 

「さて……部屋に戻りますぞ」

 

「うぅー」

 

 アレクは嫌そうに首を振る。

 

「そういえば先程アンネローゼ様がいらっしゃいましてな」

 

「伯母上がか!」

 

 アレクが一瞬にして笑顔になる。

 

「えぇ。なんでも手土産にケーキを焼いておいでだとか」

 

「それは本当か!」

 

「えぇ。勉学が終わったらいただきましょうか」

 

「こうしては居れん! 急ぎ戻るり、手早くと片付けるぞ!」

 

 アレクはそう言うと踵を返す。

 

「ではお手伝いいたしましょう!」

 

 ビッテンフェルトはそう言うとアレクを肩車する。

 

「走りますぞ殿下! 振り落とされないでください!」

 

「走れ! ビッテンフェルト!」

 

 ビッテンフェルトはそう言うと駆け出した。

 

「待ってくださいよ! 殿下!」

 

「ちょっと止まれ! ビッテンフェルト!」

 

 フェリックスの声を聞き、ビッテンフェルトは急ブレーキをかける。

 

「ハハハ! 早く来いフェリックス! 父上もよく言っているが、伯母上のケーキは絶品なのだ! お前も一緒に食べるぞ!」

 

「フハハ! 良いですな殿下! 俺もご相伴に預かりましょう!」

 

 ビッテンフェルトは大きな声で答える。

 

「良いぞビッテンフェルト! あっ……だが全部食べてはダメだ。最低でも1切れは残しておかなければ後で父上に怒られてしまう」

 

「陛下の逆鱗に触れるのは御免被りたいですな……そういえば以前ヴィータの奴連れられて一緒にアンネローゼ様のケーキをいただく機会があったのですが、陛下は会議が長引いて、帰るのが遅くなってしまい、ついうっかり陛下の分を残すのを忘れて大目玉を食らったことがあります。いやぁ~あの時は肝を冷やしました……アンネローゼ様が陛下を宥め(なだ)て新たにケーキを焼いていただかなかったら今頃我々は……あの時の陛下の怒りようと言ったら……散っていった戦友達がヴァルハラで手招きしている姿が見えました……」

 

「それは恐ろしいな……」

 

 ビッテンフェルトとアレク少し顔を引き攣らせた。

 

「ですから此度は陛下の分も残しておかねばなりすまいな」

 

「うむ」

 

 アレクとビッテンフェルトは大笑いした後、アレクが進行方向を指差す。

 

「作戦は固まった! それでは再度進撃せよ! 目標地点は自室だ! さっさと課題を片付けるぞ!」

 

「了解であります!」

 

 ビッテンフェルトは再び走り出した。

 

「ま、待ってくださいよ~殿下!」

 

 フェリックスは息を切らせながらビッテンフェルト達の後を追いかける。

 

「ビッテンフェルト提督。まだ話は終わっては居ないのだが」

 

 オーベルシュタインが睨みつけるがビッテンフェルトはそんな事気にしない。

 

「そう言った細かいことはミッターマイヤーにでも言うてくれ! 俺は殿下を送り届けるのに忙しいからなぁ!」

 

 ビッテンフェルトはそう言うと速度を上げて行った。

 

「……全く……ミッターマイヤー提督」

 

「な、どうした」

 

 ビッテンフェルトを見送ったオーベルシュタインはミッターマイヤーに顔を向ける。

 

「まぁ……卿に何かを言った所で……」

 

 ミッターマイヤーとオーベルシュタインは首を横に振った。

 

「しかし卿は殿下の教育係もこなすとは……大変な立場だな。いっその事、軍務は後任でも用立てて教育係に専念したらどうだ?」

 

「あの策謀渦巻く貴族連中や旧同盟軍を相手にしていた乱世に比べれば殿下の教育係程度苦でもない。それに……後任を選ぶほど私はまだ老いてはいない。しかし殿下には陛下以上に覇道を歩んでもらわねばならぬのだ。教育係は理想の次期皇帝を厳しく教育できる恰好の立場だ。専念するのも悪くはないな」

 

「いや、今のは冗談で……」

 

「私も今のは冗談だ」

 

「……」

 

「フッ……私も口数が多くなったものだ」

 

「あのオーベルシュタインが面白いかは置いておいて冗談を……コレも魔女殿の影響か……一体どんな魔法を……」

 

 ミッターマイヤーは小声でつぶやいた。

 

「何か言ったか? ミッターマイヤー提督」

 

「いや、なんでもない。それはそうと殿下に良く逃げられているようだな。少し甘いのではないか?」

 

「フッ……知れたこと。世話係である卿等の息子が手を貸しているからだろう。流石は双璧の後継者賢しい(さかしい)子供だ」

 

「それは……褒めているのか?」

 

「どう捉えようと卿の勝手だ。それに教育には鞭だけでは意味が無い、たまには飴をくれてやらねばな」

 

 オーベルシュタインはそう言うと小さく笑う。

 

 ミッターマイヤーはオーベルシュタインの笑顔を見て少し驚く。

 

「にしては飴の割合が多く思えるが……」

 

「時代が変わるのだ。新しい酒は新しい革袋にな」

 

「確かにそのようだな。卿も少し変わったようだな」

 

「何が言いたい? ミッターマイヤー提督……」

 

「いや……なんでもないさ」

 

 ミッターマイヤーは人の移り変わりに感服しつつ微笑んだ。




2話分くらいの長さだったので分割しようかと思いましたが、前回残り1ページとしたのでまとめました。

ルビンスキーがいる事で、この物語はまだ少しの不穏要素が残り、完全な平和はまだ遠いことを…

おまけのアレク達は小学校高学年位をイメージしました。

以上をもちまして、本作『不敗の魔術師と夜天の主』は終わりとなります。

私の物語が皆様の暇潰しの一助にでもなれたなら幸いです。
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