本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:bookworm

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時系列が多少前後します。家族会議にはまだ早いかなと思ったんですが、もう課題が山積みでした。


番外編 マルフォイ家の家族会議⑤

 

 磨き上げられた銀器。香り高い紅茶。焼きたてのパン。季節の果物。美しく折られたナプキン。

 どこを見ても、由緒正しい純血の名家にふさわしい朝だった。

 問題は、手紙だった。

 最近のマルフォイ家では、朝食の席に並ぶものが増えている。

 パン。

 紅茶。

 果物。

 胃痛の原因。

 その日も、食卓の端にはホグワーツからの封筒が置かれていた。差出人はセブルス・スネイプ。

 ルシウス・マルフォイは、その封筒を見た。

 見なかったことにした。

 紅茶を飲んだ。

 もう一度見た。

 まだあった。

 不愉快なことに、手紙というものは、無視しても消えない。

 

「ルシウス」

 

 ナルシッサが、静かに夫の名を呼んだ。

 

「開けないの?」

「……開ける」

 

 ルシウスは、まるで毒薬の瓶でも扱うように封を切った。

 セブルスからの手紙はありがたい。

 娘の寮監として、健康状態や問題行動を報告してくれる。信頼できる友人であり、頼もしい教師である。

 ただし最近は、セブルスの手紙が届くたびに、ルシウスの胃が先に内容を察するようになっていた。

 羊皮紙を開く。

 読む。

 ルシウスは、静かに目を閉じた。

 

「ルシウス?」

「シシー」

「ええ」

「我々の娘が、時間を増やすそうだ」

 

 ナルシッサの手が止まった。

 

「……何を増やすの?」

「時間だ」

「時間?」

「全科目を履修するために、タイムターナーを使うらしい」

 

 紅茶の湯気だけが、何も知らない顔で優雅に立ち上っている。

 ナルシッサは、ゆっくり瞬きをした。

 

「それは……安全なの?」

「安全なら、セブルスはこのような筆圧で手紙を書いてこない」

 

 ルシウスは手紙をもう一度見た。

 内容は簡潔だった。

 ローゼマインが全科目履修を希望した。

 教師陣で協議した。

 特例としてタイムターナーの使用が認められる見込みである。

 監督は厳格に行う。

 無理はさせない。

 そして最後に、セブルスらしい一文があった。

 

『なお、君の娘が増やした時間で何を読むつもりなのかについては、私は考えないことにした。考えると授業に支障が出る』

 

 ルシウスは羊皮紙を畳んだ。

 畳んだ。

 もう一度開いた。

 やはり内容は変わっていなかった。

 

「嫌な予感しかしない」

「まあ、でも、先生方が判断したのでしょう?」

「教師陣は、あの子の知的好奇心を甘く見ている」

 

 ルシウスはこめかみを押さえた。

 

「普通の生徒は、時間を増やしたら勉強する。ローゼマインは、時間を増やしたら本を増やす」

「勉強も本ではなくて?」

「違う。あれは勉強という名の発掘作業だ」

 

 しかも、娘は虚弱である。

 ただの虚弱ではない。

 魔力が多すぎて体が追いつかない、非常に繊細で、非常に危険で、非常に本に対してだけは頑丈な虚弱である。

 ルシウスは深く息を吐いた。

 

「トライウィザード・トーナメントだけでも頭が痛いというのに」

「ええ」

「三校対抗試合。各国の要人。魔法省。新聞。ダンブルドア。本」

「本は課題ではないわ」

「課題以上に課題になることがある」

 

 ルシウスは重々しく言った。

 

「私は願っていたのだ。どうか今年は、問題がこちらに降ってこないようにと。幸い、年齢制限がある。ローゼマインが代表選手に選ばれなければ、まだ何とかなる。あの子が観客席にいてくれれば、少なくとも競技場の中心ではない」

 

 そこまで言って、ルシウスは別の手紙を思い出した。

 昨日届いた、ドラコからの手紙。

 その直後に届いた、フェルディナンド・ブラックからの手紙。

 どちらも内容は同じだった。

 ローゼマインが魔法書研究会で、危険な闇の魔術の本をおすすめし始めた。

 ルシウスは、もう一度目を閉じた。

 最近、目を閉じる回数が増えた。

 現実から逃げるためである。

 なお、効果はない。

 

「今度は何?」

「我々の娘は、トーナメントが本格的に始まる前から、すでにやらかしている」

 

 ナルシッサの表情が固まった。

 

「何を?」

「マインが危険な闇の魔術の本を、人におすすめした。『深い闇の秘術』という本らしい」

「……どこで?」

「魔法書研究会だ」

「誰の前で?」

「ドラコ、ハリー・ポッター、ハーマイオニー・グレンジャー、その他複数名」

 

 ナルシッサは、そっと紅茶を置いた。

 貴族の夫人らしい優雅な所作だった。

 ただし顔は、完全に母親のそれだった。

 

「題名がよくないわ」

「内容以前に題名が有罪だ」

 

 ルシウスはきっぱり言った。

 

「せめて『やさしい生命維持魔法入門』などであればよかったものを」

「それはそれで怪しいわ」

「だが『深い闇の秘術』よりはましだ」

 

 しかも、ドラコだけならまだよかった。

 兄が妹を心配して、多少大げさに書いた可能性がある。

 しかしフェルディナンド・ブラックからも同じ報告が来た。

 彼は感情で騒がない。余計なことは書かない。必要なことだけを、胃に刺さる精度で書く。

 

『彼女は本を本として紹介している。だが周囲は題名だけで十分に誤解する』

 

 まったくその通りだった。

 題名だけで十分に誤解する。

 むしろ題名だけで、だいたい終わっている。

 ルシウスは即座にセブルスへ手紙を書いた。

 返事は短かった。

 

『説教する』

 

 頼もしい。

 非常に頼もしい。

 だが、ローゼマインに対する説教の効果について、ルシウスは過度な期待をしていなかった。

 あの子は反省する。

 ちゃんと反省する。

 ただし、反省の横で「でも本の内容は興味深かった」と考える。

 そこが問題だった。

 その時、食堂の空気がすっと冷えた。

 窓は開いていない。

 暖炉の炎も消えていない。

 だが、屋敷そのものが「重要人物が来ました」と言わんばかりに背筋を伸ばした。

 ルシウスは反射的に立ち上がる。

 ナルシッサも静かに姿勢を正した。

 扉が開いた。

 黒衣の客人が入ってきた。

 ヴォルデモート卿である。

 ただし、ここでは「黒衣の客人」ということになっている。

 特にローゼマインの前ではそういうことになっている。

 黒衣の客人は、食卓を見た。手紙を見た。ルシウスの顔を見た。

 

「何の話だ」

 

 ルシウスは一瞬だけ迷った。

 しかし、隠してもどうせろくなことにならない。

 

「娘の件でございます」

「またか」

 

 闇の帝王が、マルフォイ家の食堂で、ローゼマインについて「またか」と言った。

しかも、声には怒気がなかった。

 むしろ、妙に機嫌がいい。

 ルシウスは、その事実を深く考えないことにした。

 考えると、胃ではなく精神の方に来る。

 そもそも、この方は最近、マルフォイ家に長く滞在している。

 客人として。

 あくまで客人として。

 そういうことになっている。

 恐ろしいことに、闇の帝王はマルフォイ邸をかなり気に入っているようだった。食事は静かで、蔵書は多く、家の者は余計な詮索をしない。ナルシッサは完璧な女主人として振る舞い、ドラコは状況を把握しながらも必要以上に近づかず、ローゼマインはときどき致命的に近づきすぎるが、基本的には本を読んでいる。

 平穏。

 おそらく、黒衣の客人はこの家をそう評価している。

 ルシウスからすれば、平穏とは何だったのかという話である。

 だが、比較対象が悪すぎた。

 クィディッチ・ワールドカップの夜、かつての死喰い人たちの一部が、調子に乗ってマグル相手に暴れた。

 ちょっとぐらい羽目を外しても問題ないと思ったのだろう。彼らは闇の帝王が復活したとは知らなかった。

 結果から言えば、彼らは歓迎されなかった。

 闇の帝王は、その場にいた死喰い人たちを皆殺しにした。

 それも、怒鳴るでもなく、見せしめを楽しむでもなく、ただ邪魔な埃を払うように処理した。

 その一件があったからなのか、彼は昔の仲間をすぐに呼び戻すことをやめた。

 

『忠誠と惰性は違う』

 

 そう言った。

 

『膝をつく者すべてを、配下とは呼ばん』

 

 それから、ルシウスを見る目が少し変わった。

 ルシウス・マルフォイは、少なくとも不用意に騒がない。

 家を整え、情報を選び、危険を危険として扱う。

 そして何より、娘の問題で胃を痛めながらも、家を崩さない。

 それが評価されたのかどうかは分からない。

 分からないが、闇の帝王は、今のところマルフォイ家を安全地帯のように扱っている。

 ありがたい。

 ありがたいが、非常に重い。

 闇の帝王に気に入られた家というのは、名誉ではなく爆発物保管庫である。

 ルシウスは、その事実を深く考えないことにした。

 考えると、歴史が変な方向に進んでいる気がしてくる。

 

「ホグワーツで、娘が闇の魔術に関する危険な本を紹介したと報告がありまして」

「闇の魔術に関する本」

 

 黒衣の客人の視線が、わずかに動いた。

 ルシウスは丁寧に言った。

 

「なんでも、『深い闇の秘術』という本らしいです。一体どこで見つけてきたのやら」

 

 とても長い沈黙だった。

 ナルシッサが静かに夫を見た。

 ルシウスはその視線で思い出した。マインはこの客人から何か本を借りていなかったかと。

 ……この人だ。

 貸したのはこの人だ。

 よりによって、この人だ。

 帝王は何も言わなかった。

 何も言わないということは、だいたい肯定である。

 ルシウスは、貴族としての礼儀を総動員した。

 

「差し支えなければ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

「何をだ」

「なぜ、あの本を娘にお貸しになったのですか」

 

 声は完璧に丁寧だった。

 内心は違った。 

 

 なぜ貸した。

 なぜその題名の本を。

 なぜローゼマインに。

 なぜ「人前で紹介不可」と表紙に貼っておかなかった。

 闇の帝王は、ルシウスを見た。

 

「娘の命を救いたくはないのか」

 

 ルシウスは黙った。

 あまりにも卑怯である。

 父親にそれを言うのは、ほとんど禁じ手だった。

 ナルシッサの顔色が変わる。

 

「あの本に、方法があるのですか?」

「直接ではない」

 

 黒衣の客人は答えた。

 

「だが、魂、魔力、器、生命の保存、損傷と修復。周辺知識はある」

 

 ルシウスは頭を抱えたくなった。

 周辺知識。

 その言い方は危険だった。

 ローゼマインにとって「周辺知識」は、周辺で止まらない。

 興味を持ったら中心まで掘る。

 中心に何もなければ、地下室まで掘る。

 地下室に何かいれば、餌をやる。

 前例がある。

 

「読み手を選ぶ本だ」

 

 黒衣の客人は淡々と言った。

 ルシウスは心の中で叫んだ。

 選んではいけない読み手を選んでいる。

 その時、ぱん、と空気が鳴った。

 ドビーが現れた。

 

「旦那様! ドラコ様からお手紙でございます!」

 

 ドビーは深々と礼をした。

 そして、手紙を差し出した。

 ルシウスは受け取った。

 最近のマルフォイ家では、ドビーが手紙を運んでくるたびに、空気が葬式前の控室になる。

 封を切る。

 読む。

 ルシウスは、今度こそ椅子に座り直した。

 

「ルシウス?」

「トライウィザード・トーナメントの代表が決まった」

 

 ナルシッサの表情が強張った。

 

「まさか」

「マインではない」

 

 ナルシッサは、目に見えて安堵した。

 ルシウスも安堵した。

 そもそも年齢制限に引っかかる自分の娘が選ばれるはずもないのだが、心の底から安堵した。

 娘ではない。

 バジリスクだろうが、アニメーガスだろうが、闇の帝王だろうが、とにかく娘が競技場の真ん中に立たない。

 それだけで、今日は勝ちである。

 勝ちであるはずだった。

 

「四人目の代表が選ばれた」

「四人目?」

「ハリー・ポッターだそうだ」

 

 食堂が静まり返った。

 黒衣の客人は表情を変えなかった。

 変えなかったことが、逆に嫌だった。

 ルシウスの胃がきりきりと痛み始める。

 ハリー・ポッターが、なぜか四人目の代表に選ばれた。

 本人は入れていない。

 年齢線も越えられない。

 

 つまり、誰かが何かをした。

 そして今、マルフォイ家には「誰かが何かをする」能力が高すぎる客人がいる。

 ルシウスは客人を見た。

 客人は何も言わない。

 

 ルシウスは問いただしたかった。

 問いただせるはずがなかった。

 

「そちらに関しては、優秀な者たちに任せている」

 

 闇の帝王が言った。

 その発言は、どの立場からのものなのか。

 加害者側か。

 観察者側か。

 恐らく前者だろうが、分からない方がよい気もした。

 ぱん、とまた空気が鳴った。

 ドビーが現れた。

 

「旦那様! スネイプ先生から至急のお手紙でございます!」

 

 ドビーは必死の顔だった。

 ルシウスは無言で受け取った。

 今朝だけで、何度目の手紙だろうか。

 封を切る。

 読む。

 セブルスの手紙は短かった。

 

『ローゼマインが例の本を借りたという、君の家の客人とは誰だ』

 

 ルシウスは羊皮紙を畳んだ。

 食卓の上に置き、無言で客人に差し出した。

 闇の帝王は、少しだけ考えた。

 そして、あまりにも自然に言った。

 

「まあ、セブルスなら、言ってもいい。あいつが本当に忠誠を誓う相手が誰なのか私も知りたい」

 

 ルシウスは表情を保った。

 保った。

 保ったが、内心では家の庭を三周していた。

 言ってもいい。

 簡単に言う。

 その一言で、こちらがどれだけの根回しと覚悟と胃薬を必要とするか、この方は分かっているのだろうか。

 分かっていない。

 いや、分かっていても気にしない。

 ナルシッサが夫を見た。

 

「呼ぶの?」

「呼ぶしかあるまい」

 

 ルシウスは答えた。

 

「セブルスに中途半端な情報を与える方が危険だ。あの男は疑い始めると、薬草の根より深く掘る」

 

 ルシウスはドビーを見た。

 

「ドビー」

「はい、旦那様!」

「セブルス・スネイプに、至急マルフォイ邸へ来るよう伝えろ。可能な限り人目につかぬ方法でだ」

「かしこまりました、旦那様! ドビーはスネイプ先生をお呼びします!」

 

 ドビーが消えた。

 

 数秒後、また、ぱん、と音がした。

 ドビーが戻ってきた。

 ルシウスは目を細めた。

 

「早すぎる」

「旦那様! スネイプ先生は『行く』とのことです!」

「もう返事を?」

「ドビー、急ぎました!」

「急ぎすぎだ」

 

 ルシウスは疲れた声で言った。

 食堂には、再び沈黙が落ちた。

 ただし、もはや優雅な食卓の沈黙ではない。

 タイムターナー。

 深い闇の秘術。

 四人目の代表、ハリー・ポッター。

 客人の正体を知りたがるセブルス。

 そしてホグワーツには、全科目履修を始めようとしているローゼマイン。

 ルシウスは、冷めた紅茶を見た。

 飲む気になれなかった。

 ぱん、と音がした。

 またドビーだった。

 ルシウスは、今度は何も言わなかった。

 言ったら負けだと思った。

 

「旦那様! フェルディナンド・ブラック様より、お手紙でございます!」

 

 ドビーは、両手で丁寧に封筒を差し出した。

 ルシウスは受け取った。

 フェルディナンド・ブラックからの手紙。

 それは、ドラコからの手紙とは別の意味で胃に悪い。

 ドラコは兄として混乱しながら書く。

 フェルディナンドは、事実を整理して書く。

 つまり、逃げ場がない。

 ルシウスは封を切った。

 読んだ。

 そして、表情を消した。

 ナルシッサが不安そうに身を乗り出す。

 

「ルシウス?」

 

 ルシウスは無言で、もう一度読んだ。

 内容は簡潔だった。

 ローゼマインが図書室で倒れたこと。恐らくタイムターナーの使用が原因であること。

 現在はセブルス・スネイプの処置を受け、命に別状はないこと。

 そして最後に、フェルディナンドらしい、冷静すぎる一文が添えられていた。

 

『彼女は、増えた時間を休息ではなく読書に充てた。予想の範囲内だが、想定より早かった』

 

 ルシウスは羊皮紙を畳んだ。

 とても丁寧に畳んだ。

 それから、静かに言った。

 

「知っていた」

 

 ナルシッサが瞬きをした。

 

「何を?」

「こうなることを」

 

 ルシウスは、もう一度手紙を見た。

 

「タイムターナーを使うと聞いた時点で、私は知っていた。あの子は時間を増やしたら休まない。本を読む。授業を増やし、宿題を増やし、読書を増やし、体力だけを増やさない」

 

 ナルシッサは手紙を受け取り、青ざめた。

 

「倒れたの?」

「命に別状はないと書いてある」

「それは、別状がないと書かなければならない状態だったということではなくて?」

「その通りだ」

 

 ルシウスは即答した。

 ドビーが震えた。

 

「お嬢様が倒れたのでございますか!? ドビーは、ドビーは、お嬢様のお布団を十枚用意いたします!」

「十枚もいらん」

「では十二枚!」

「増やすな」

 

 黒衣の客人は、無言で手紙を見ていた。

 やがて、ぽつりと言った。

 

「……タイムターナーか」

 

 ルシウスは客人を見た。

 客人は何やら考え事をしているようだった。声はかけないでおこう。

 ナルシッサが小さく息を吐く。

 

「マインらしいと言えば、マインらしいけれど……」

「らしさで倒れられては困る」

 

 ルシウスは言った。

 

「しかも、フェルディナンドが『予想の範囲内』と書いている」

 

 彼は羊皮紙を指で叩いた。

 

「予想の範囲内なら、なぜ先に止めない」

 

 黒衣の客人が淡々と言った。

 

「止めても読むだろう」

 

 ルシウスは言葉を失った。

 正しい。

 非常に腹立たしいことに、正しい。

 止めれば読む。

 隠せば探す。

 禁止すれば理由を調べる。

 鍵をかければ、鍵開けの本を読む。

 ローゼマイン・マルフォイとは、そういう娘である。

 ぱん、と音がした。

 またドビーだった。

 

「旦那様! 胃薬をお持ちしました!」

 

 ドビーは銀の盆に、瓶を一本載せていた。

 ルシウスはそれを見た。

 

「一本?」

「はい、旦那様!」

「足りると思うか?」

 

 ドビーははっとした顔をした。

 

「ドビー、一箱お持ちします!」

「箱で済むと思うか?」

 

 ドビーはさらに青ざめた。

 

「ドビー、薬棚ごとお持ちします!」

「それもどうかと思うが、今日に限っては否定しきれん」

 

 その時、食堂の外から、低く不機嫌な声が響いた。

 

「騒々しいな、ルシウス」

 

 扉が開いた。

 セブルス・スネイプが、黒いローブを引きずるようにして入ってきた。

 顔色は悪い。

 機嫌も悪い。

 そして、目の下に疲労がある。

 ルシウスは、フェルディナンドの手紙を掲げた。

 

「セブルス」

「何だ」

「娘が倒れたそうだな」

 

 セブルスは一瞬、目を細めた。

 それから、非常に嫌そうに言った。

 

「倒れた」

「読書で」

「読書でだ」

 

 ルシウスは深くうなずいた。

 

「知っていた」

 

 セブルスは、吐き捨てるように言った。

 

「私もだ」

 

 ナルシッサが青ざめ、ドビーが薬棚を取りに消え、黒衣の客人が無言で立っている。

 

 ルシウスは、妙な連帯感を覚えた。

 娘が時間を増やした。

 娘は本を読んだ。

 娘は倒れた。

 誰一人として、驚いていない。

 これはもはや事件ではなかった。

 

「それで」

 

 セブルスは、冷えきった目でルシウスを見た。

 

「私を呼んだ理由は、君の娘が予想通り倒れたという報告を、わざわざ再確認するためか?」

「それもある」

「帰る」

「待て」

 

 ルシウスは慌てて止めた。

 

「本題は別だ」

「これ以上の本題があるのか」

「ある」

 

 セブルスの顔が、さらに嫌そうになった。

 今日のセブルスは、嫌そうな顔に段階がある。今はかなり深い段階だった。

 ルシウスは食卓の上に置かれた、もう一通の手紙を指で示した。

 

「君が尋ねた件だ」

「君の家の客人のことか」

「ああ」

 

 セブルスの視線が、食堂の奥へ向いた。

 そこに、黒衣の客人がいた。

 今まで、何も言わずに手紙を眺めていた人物。

 マルフォイ家では、あくまで客人ということになっている人物。

 セブルスは動かなかった。

 ほんの一瞬だけ、食堂の空気が止まった。

 それまで積み上げられていた胃痛も、手紙も、ドビーの薬瓶も、すべてが遠ざかったように感じられた。

 闇の帝王が、ゆっくりと顔を上げる。

 そして、セブルスに向かって口を開いた。

 

「久しいな、セブルス」

 

 





マルフォイ家の家族会議はシリーズが進むごとに新しい出席者が加わります。

秘密の部屋編:セブルス・スネイプ

ブラック家の当主編:トム・リドル

炎のゴブレット編:ヴォルデモート卿 ← NEW!
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