本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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55話 第一の課題

羽ペン通信

 

 三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)代表選手インタビュー

 

 フェルディナンド・ブラック(ホグワーツ)

 ──炎のゴブレットに名前を入れた理由は? 

「炎のゴブレットの特性を理解するためだ。トライウィザード・トーナメントの研究もついでにできる良い機会だと考えた」

 ──第一の課題を前に考えていることは? 

「課題の条件を満たす、それだけだ」

 ──日刊予言者新聞のことで訂正したいことは? 

「当主の椅子は、トライウィザード・トーナメントの賞品ではない。相応しい者が担うべきものだ、とは言った。だが、競技の勝敗と当主権を直結させるのは不正確だ。私はハリーと対立するつもりはない」

 ──最近恋してる? 

「質問の意図が不明だ」

 ロメルダ注:怖い。撤退。

 ロン注:聞く相手を間違えてる。

 

 ヴィクトール・クラム(ダームストラング)

 ──炎のゴブレットに名前を入れた理由は? 

「強いことを証明するため」

 ──第一の課題を前に考えていることは? 

「勝つ」

 ──日刊予言者新聞のことで訂正したいことは? 

「箒に乗っている時だけが自分ではないという意味が異なった捉え方をされていた」

 ──最近恋してる? 

「……している。賢い人は好きだ」

 ロメルダ注:甘酢っぱい!! え、誰のこと話してるの?! 今こっち見たよね? 要観察! 

 ハーマイオニー注:たまたまです。

 

 

 トム・ジェドゥソール(ボーバトン)

 ──炎のゴブレットに名前を入れた理由は? 

「僕を認めてくれたマダム・マクシームに恩返しがしたいと思ったから」

 ──第一の課題を前に考えていることは? 

「僕を代表に選んだことを後悔させない」

 ──日刊予言者新聞のことで訂正したいことは? 

「特に無し」

 ──最近恋してる? 

「言葉の定義による。少なくとも、僕にとって大切な人はいるよ」

 

 ロメルダ注:出た。大切な人。ただし恋人発言ではない。恋人発言ではないけど、これは要観察。かなり要観察。

 ハーマイオニー注:「かなり」は主観です。

 ロメルダ再注:主観だけど大事。

 

 ハリー・ポッター(第四の学校)

 ──炎のゴブレットに名前を入れた理由は? 

「入れてない。誰かが僕の名前を入れたんだと思う」

 ──第一の課題を前に考えていることは? 

「正直、怖い。でも、逃げられないならやるしかない」

 ──日刊予言者新聞のことで訂正したいことは? 

「僕は、かわいそうな英雄とか、死の舞台に選ばれた少年とか、そういうのじゃない。ただ巻き込まれただけだ。でも、巻き込まれたからって、自分で何もしないわけじゃない。あと、ブラック家を継ぐつもりはないよ」

 ──最近恋してる? 

「えっ」

 ロメルダ注:

 回答拒否ではなく動揺。ということは、誰かいる? 

 編集部注:

 ロメルダの主観が入ってます。

 

 

 

 *

 

 

 第一の課題当日の朝、魔法書研究会編集部は、競技場に向かう前からすでに小さな戦場だった。 

 

「いい? 今日の目標は三つよ」

 

 パドマが羊皮紙を広げながら言った。

 最近必要に迫られて編集長の役目をパドマが引き受けることになった。ハーマイオニーとどっちがやるのか話し合いになり、最終的にジャーナリスト目線という意味ではパドマの方が向いているという結論になった。

 

「競技の様子を押さえること。代表選手の反応を取ること。それから先生方と審査員のコメントを取ること」

「あと恋の気配も押さえること!」 

 

 ロメルダが勢いよく言った。

 

「押さえません」 

 

 ハーマイオニーが即答した。

 

「えー、でも絶対盛り上がるって。感動的な場面だと感情あふれるじゃん?」

「記事として必要な感情だけにして」

 

 ドラコが言った。

 

「羽ペン通信は、泣いた回数を数える媒体じゃない」

「フォイ君、朝から厳しー」

 

 いつものやり取りだった。

 でも、今日は少しだけ違う。

 全員、浮き足立っていた。

 第一の課題。

 トライウィザード・トーナメント、最初の試合。

 ドラゴンと代表選手。

 金の卵。

 そして、記事になる材料が山ほどある。

 わたしも、もちろん行きたかった。

 というより、見たかった。

 ドラゴンは危険だし本を燃やすけれど、観察対象としては非常に興味深い。

 ただし、編集部には現実的な問題があった。

 

「マインは無理しないこと」

 

 ハーマイオニーが朝一番に言った。

 

「今日は競技場、かなり広いのよ。観客席を移動して、選手の出口を押さえて、先生方にもコメントを取って、ってやるだけでも相当歩くんだから」

「分かってるよ」

「分かってない顔をしているわ」

「マインはたぶん、競技が始まったら興奮して倒れやすくなる」

 ドラコが冷たく言った。

「そんな興奮しないよ」

「本で見たトライウィザード・トーナメントだぞ」

「たしかに、資料と同じだったら興奮するかも?」

「ほら見ろ」

 

 ロンが肩をすくめた。

 

「というわけで、ブクマちゃんは重要だけど省エネ任務ね」

 

 ロメルダが言った。

 

「え?」

「校長先生とか審査員とかのコメント担当。動く距離は少なめ、情報価値は高め。めっちゃ向いてるじゃん」

「私もそう思うわ」

 

 パドマがうなずいた。

 

「写真部のコリンに写真を頼んであるし、競技中の現場描写は私たちで拾う。マインは校長先生、先生方、審査員に聞いてきて」

「無理したら記事より先に倒れるからな」

 

 ロンが言った。

 

「それは困る」

 

 わたしは素直にうなずいた。

 倒れると、しばらく本が読めない。

 それは最大の損失だ。

 

「よし、決まり」

 

 パドマが羽ペンを鳴らした。

 

「コリン!」

「うん!」

 

 コリン・クリービーが、ぴょこんと手を挙げた。

 首からカメラを提げている。目がきらきらしていた。

 

「今日は競技の写真をお願い。できれば代表選手それぞれ一枚ずつ、あとドラゴン、観客席、審査員席。躍動感がある写真がほしい」

「任せて! すごいの撮るよ!」

「無理して前に出すぎないでね」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「火傷した写真部部員なんてネタが弱すぎて見出しにならないから」

 

 パドマがぴしゃりと言った。

 

「うん!」

 

 返事はいいけど、絶対ちょっと危ないことする顔だった。

 競技場に着くと、空気がもう違っていた。

 観客席はざわざわしている。

 先生たちも珍しく落ち着かない顔をしている。

 遠くから、鎖の引きずるような音が聞こえた。

 ドラゴンだ。

 

「うわ……」

 

 ロンが青い顔をした。

 

「思ってたより、でかい」

「思ってたより火が出そう」

 

 ロメルダが言った。

 

「いや、ドラゴンだから当然なんだけど」

「本当に火を吐くんだな」

 

 アーニーが真剣に呟く。

 

「第一の課題はドラゴンの炎に耐えられるかどうかが判断される可能性はあると思う?」

「後で書いて」

 

 パドマが即座に言った。

 コリンはもう写真を撮っていた。

 ぱしゃ。

 ぱしゃ。

 カメラの中で、観客席のざわめきまで動いていそうだった。

 

「マイン!」

 

 ハーマイオニーがわたしを見た。

 

「無理しないでね」

「うん。校長先生と審査員ね」

「そう。もし疲れたら、すぐ戻ること」

「大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない時に大丈夫って言うのがマインなのよ」

「ハーみょん、保護者すぎ」

「保護者で結構」

 

 ハーマイオニーが言った。

 わたしは少し笑って、審査員席の近くへ向かった。

 審査員席の近くは、思ったよりも静かだった。

 静かというより、ぴんと張り詰めている。

 ダンブルドア校長、マダム・マクシーム、カルカロフ校長、バグマン、クラウチ。

 それぞれが競技場を見ている。

 第一の課題前だから、今なら短いコメントくらいは取れるかもしれない。

 そう思って近づいた時だった。

 

「おや、ミス・マルフォイ」

 

 先にわたしを見つけたのは、ダンブルドア校長だった。

 

「今日は観客ではなく、記者かのう?」

 

 青い目がきらりと光る。

 

「はい。羽ペン通信です」

「なるほど。話題の校内紙だね」

「噂に注釈、誤報に赤インクです」

「素晴らしい標語じゃ」

 

 ダンブルドア校長は、楽しそうに笑った。

 それから、少しだけ声を落とした。

 

「最近、おかしなことはないかね?」

 

 わたしは瞬きをした。

 

「おかしなこと、ですか?」

「うむ。奇妙なことでもいい。誰かに言うべきことでもいい。君の近況を教えてくれないかのう?」

 

 その言い方は、とてもやわらかかった。

 でも、やわらかい綿の中に針が入っているみたいだった。

 最近おかしなこと。

 たくさんある。

 

 タイムターナーの使い方が思ったより難しいこと。

 羽ペン通信に恋愛コラムが生まれたこと。

 なぜかトライウィザード・トーナメントの代表選手にトムがいること。

 ハリーが四人目の代表選手に選ばれたこと。

 

 たくさんありすぎて、どれを「最近おかしなこと」と呼ぶべきか分からない。

 でも、なんとなく、トムのことをダンブルドア校長に言うと面倒なことになる気がした。日記を取り上げられても困る。

 

「……最近、ロメルダが魔法書研究会に入りました」

 

 わたしは答えた。

 ダンブルドア校長が、少しだけ目を丸くした。

 

「それは、確かに賑やかな変化だね」

「恋愛コラム担当です」

「なるほど」

 

 校長先生は笑った。

 でも、その笑顔の奥で、まだ待っているのが分かった。

 

「他には?」

 

 わたしは少し考えた。

 

「日刊予言者新聞の記事が偏向報道でひどいです」

「それは、いつものことかもしれんのう」

「あと、ドラゴンは本当に本を燃やしそうです」

「それは、おそらくそうじゃろう」

 

 ダンブルドア校長は、そこで少しだけ首をかしげた。

 

「それだけかね?」

 

 探ってる。

 分かりやすいくらいに。

 でも、わたしは校長先生の目を見上げて、首をかしげ返した。

 

「校長先生が探している“おかしなこと”って、どのくらいおかしいんですか?」

 

 ダンブルドア校長は、ほんの少しだけ沈黙した。

 それから、穏やかに言った。

 

「たとえば、最近、誰かから借りた本が、君の考え方を少し変えたとか」

 

 トムは関係なさそうだ。

 わたしは少しホッとして、にこやかに答えた。

 

「あります」

 

 ダンブルドア校長の青い目が、ほんの少しだけ細くなった。

 

「ほう。どんな本かね」

「『薔薇色の惚れ薬は二度効く』です」

 

 少しだけ静かになった。

 ダンブルドアの肩の上に初めて見る変わった鳥が止まり、首を傾げた。

 ダンブルドア校長も、たぶん少しだけ首を傾げた。 

 

「……それは、恋愛小説かね?」

「はい。ロメルダがすすめてくれました。読んでみると、すごく大事なことが書いてありました」

「大事なこと」

「薬で作った恋は、恋ではないということです」

 

 そう言った瞬間、ダンブルドア校長の表情が変わった。

 笑っている。

 でも、目は笑っていなかった。

 

「……なるほど」

「好きになることと、好きにさせられることは違います。あと、相手の気持ちを勝手に作るのは、相手を読んでいないのと同じだと思いました」

「相手を、読んでいない」

「はい。本だって、勝手に結末を書き換えたら別の本です。人の気持ちも、勝手に書き換えたら、その人の気持ちではなくなると思います」

 

 ダンブルドア校長は、しばらく何も言わなかった。

 わたしは少し不安になった。

 

「……校長先生?」

「いや。続けてくれ」

「それで、惚れ薬は一度効くと、飲まされた人の気持ちを変えます。でも二度目に効くのは、飲ませた人の方だとも思うんです」

「飲ませた人の方?」

「はい。薬で誰かを好きにさせると、今度は自分が、その偽物の好意に縛られるからです。だから二度効くんです。相手と、自分に」

 

 ダンブルドア校長は、机の上で指を組んだ。

 

「……たいへん興味深い読み方じゃ」

「面白かったです。トムにもおすすめしようと思いました」

 

 言ってから、わたしは少しだけ固まった。

 トム。

 今、言った。

 でも、校長先生は驚かなかった。

 ただ、静かにわたしを見ていた。

 

「そのトムというのは、代表選手のトム・ジェドゥソールかね? ボーバトン生なのにもう仲良くなったのかね」

「はい、本好きの友達です」

 

 遠くで、ドラゴンの鎖が鳴る。観客席のざわめきが風に乗って届いた。

 

「マイン、君は妹によく似ておる」

 

 唐突だった。

 わたしは瞬きをした。

 

「妹さんがいらっしゃったんですね」

「いた」

 

 校長先生は、静かに言った。

 その一言は、とても短かった。

 でも、本を閉じる音みたいに重かった。

 

「アリアナという名じゃった」

 

 アリアナ。

 知らない名前だった。

 でも、過去形ということはもうこの世にいないのだろうか。

 校長先生の声の中で、その名前だけが古い栞みたいに大切に挟まれているのが分かった。

 

「妹が生きていたら、君のようになっていたかもしれないと、ときおり思うのじゃ」

「わたしのように?」

「あの子も本が好きな子だった。本を抱えて、少し危なっかしく歩いて、周囲の心配をよそに、次のページを読みたがる」

 

 校長先生は、少しだけ笑った。

 けれど、その笑顔は明るくなかった。

 

「それに、内側に抱える力が、体より大きすぎるところも」

 

 わたしは何も言えなかった。

 校長先生の目は、わたしを見ているようで、わたしではない誰かを見ているようだった。

 

「その力は、贈り物にもなる。けれど、災害にもなる。周りの者が恐れれば、なおさらじゃ」

「妹さんも、魔力が強かったんですか?」

「強かった」

 

 校長先生は答えた。

 

「そして、苦しんでおった。わしは、それを十分に分かっていたつもりで、実際には分かっておらんかった」

 

 その言葉は、いつもの校長先生らしくなかった。

 謎かけでも、冗談でもない。

 誰かに聞かせるための立派な言葉でもない。

 後悔の形をした、古い本のページみたいだった。

 

「だから、君を見ると考えてしまうのじゃ。君が何を抱えているのか。誰に頼っているのか。誰かに言うべきことを、言えずにいるのではないか、と」

 

 優しい。

 でも、逃げ道を探している言葉でもあった。

 わたしは、羊皮紙を握った。

 

「校長先生」

「何かな」

「わたしは、できれば死ぬまでにたくさん本を読みたいです」

 

 校長先生が、少しだけ目を丸くした。

 

「それは大事な考えじゃな」

「だから、できるだけ長く生きたいです。倒れるのは困ります。本が読めなくなるから」

 

 自分で言っていて、かなり変な理由だと思った。

 でも本当のことだった。

 

「それに、言うべきことがあるなら、たぶん言います。言った方が本を読める時間が増えるなら」

 

 ダンブルドア校長は、しばらく黙っていた。

 それから、小さく笑った。

 

「君は、少し妹とは違うのう」

「そうですか?」

「アリアナは、もっと内に閉じ込められておった。君は、閉じ込められても本があれば生きていけそうじゃ」

 

 校長先生は、今度は本当に少しだけ笑った。

 そして、競技場の方を見た。

 

「では、羽ペン通信の記者に、校長としてのコメントを渡そうか」

 

 探り合いは、そこで終わったらしい。

 わたしは羽ペンを構えた。

 

「お願いします」

「勇気は称えられるべきだ。だが、勇気は無鉄砲と同じではない。今日、選手たちには力だけでなく、知恵と慎重さも必要になるだろう」

 

 わたしはそれを書き留めた。

 コメントとしては完璧だった。

 でも、羊皮紙の端に小さく、別の名前も残ってしまった。

 アリアナ。

 校長先生の妹。

 生きていたら、わたしのようになっていたかもしれない人。

 その名前は、記事には書かない。

 たぶん、注釈にも赤インクにも向かない。

 誰かの大切な名前は、紙面に載せればいいというものではないから。

 

 その後、わたしは他の審査員にも短いコメントを取って回った。

 バグマンはにこにこしていて、

「観客が息をのむような競技になるよ! スリル満点、間違いなしだ!」

 と、いかにも見出し向きのことを言った。 

 

 クラウチ氏は短く、

「規定通りに行われる。以上だ」

 とだけ答えた。

 

 カルカロフは、クラムに絶対の自信がある顔で、

「真の実力者は、火の前でも冷静だ」

 と低く言った。

 

 マダム・マクシームは扇子を軽く動かしながら、

「勇気だけでなく、美しい判断が見られるとよいですわね」

 と言った。

 

 コメントを取り終えた頃には、少しだけ息が上がっていた。

 やっぱり歩くと消耗する。

 でも、まだ大丈夫。

 まだ本も記事も読める。

 

 第一の課題は、思っていた以上に慌ただしかった。

 競技そのものも大変だったけれど、その後がもっと大変だった。

 代表選手が一人終わるたびに、魔法書研究会編集部は一斉に動いた。

 

「ハーマイオニー、出口!」

「ロン、観客席の反応!」

「アーニー、今の仮説箱メモ!」

「コリン、写真! 今の今!」

「ロメルダ、恋の脚注は後!」 

「えー、でも今のトム様の一礼、絶対意味あるって!」

 

 意味があるかもしれないけど、まずは記事だ。

 コリンは本当にすごかった。

 ドラゴンの炎。

 卵。

 飛び上がる代表選手。

 歓声に立ち上がる観客席。

 ぱしゃ、ぱしゃと音を立てながら、全部押さえていく。 

 

「撮れた! 今のハリーの急降下、すごいよ!」

「あとで見せて!」

「うん!」

 

 クラムは力強くて、速かった。

 でも少し荒っぽくて、ドラゴンを刺激しすぎた。

 フェルディナンド先輩は、正確だった。

 動きに無駄がなくて、余計な破壊もない。

 ハリーは、空へ上がってから別人みたいだった。

 怖かったはずなのに、それでも箒の上でちゃんと戦っていた。

 そしてトムは──

 ずるいくらいに、美しかった。

 見せ方まで分かっている戦い方。

 勝つだけじゃなくて、どう見えるかまで計算されている。

 ロメルダが「トム様、紙面映えの申し子……」と震えていたのも分かる。

 競技が全部終わった後、編集部は完全にばらばらに散った。

 コメント取りだ。

 わたしは、さすがに代表選手本人のところまで走るのは止められたので、近くにいる先生たちの評価を拾うことになった。

 マクゴナガル先生は、

「ポッターはよくやりました。無茶だったけれど、よくやったと思います」

 と、厳しくも誇らしそうに言った。

 スネイプ先生は、

「幸運に助けられた場面が多かった」

 と相変わらず辛口だったけれど、そこまで強くは貶さなかった。

 マダム・マクシームは、トムについて、

「さすがボーバトン生、優雅でしたわね」

 と微笑んだ。

 カルカロフは、クラムの順位には不満そうだった。

「採点は時に主観的すぎる」

 と、かなり不機嫌に言った。

 そしてダンブルドア校長は、総評としてこう言った。

「四人とも、よくやった。今日の順位は結果にすぎない。彼らが炎の前で何を選んだか、その方が大事だ」

 わたしはそれを書き留めた。

 良いコメントだ。

 でもたぶん、ロンあたりは「つまり、どういうこと?」と聞くかもしれない。

 採点発表の時、観客席はまた大きくざわめいた。

 結果は、こうだった。

 

 一位、トム・ジェドゥソール。

 二位、フェルディナンド・ブラック。

 三位、ハリー・ポッター。

 四位、ヴィクトール・クラム。 

 

「えっ、ヴィク様四位なの?」

 

 ロメルダが目を丸くした。

 

 ヴィク様というのは恐らくクラムのことだ。

 

「でも結構荒っぽかったしな。卵半壊してたし」

 

 ロンが言う。

 

「フェル先が二位なのは納得」

「トム様一位も納得だけど、なんか悔しい。悔しいけど納得」

 

 ロメルダは複雑な顔だった。

 

「ハリー、三位だ!」

 

 ハーマイオニーはほっとしたように胸に手を当てた。

 

「よかった……本当によかった……」

「三位って、普通にすごいよな」

 

 ロンが言った。

 

「四人の中で三位でも、十四歳でドラゴン相手だぞ」

 

 その通りだと思う。

 しかもハリーは、自分で望んで入ったわけじゃない。

 それでも卵を取った。

 紙面にするなら、そこはちゃんと書かないといけない。

 競技が終わって、魔法書研究会編集部は図書室に戻った。

 みんな、疲れていた。

 コリンは写真を現像しながら興奮している。

 パドマは記事構成を考えている。

 ロンは観客席の声をまとめている。

 ハーマイオニーは事実確認欄の見出しを書いていた。

 ロメルダはすでに「恋の脚注」の下書きに取りかかっている。

 

「ハリポ人気、爆上がりの予感」

「却下」

「まだ本文書いてないのに!?」

 

 元気だなと思う。

 わたしは椅子に座って、取ってきたコメントの羊皮紙を広げた。

 少し疲れた。

 でも、達成感はある。

 

「マイン、ちゃんと戻ってきたのね」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「倒れなかった」

「えらい」

 

 ドラコが薬瓶を机の上に置いた。

 

「飲め」

「今?」

「今だ」

 

 わたしは素直に飲んだ。苦すぎる。

 悔しいけど、ちょっと楽になる。

 

「で、校長先生のコメントは?」

 

 パドマが聞く。

 

「勇気は称えられるべきだけど、知恵と慎重さも必要、って」

「いいわね。使う」

「あと、最近おかしなことはないか、言うべきことはないかって聞かれた」

 

 全員の手が止まった。

 

「……何て答えたの?」

 

 ハーマイオニーが慎重に聞いた。

 

「ロメルダが魔法書研究会に入りました、って」

 

 一拍置いてから、ロンが吹き出した。

 ロメルダが机を叩いた。

 

「えっ、あたし、校長案件!?」

「変化ではあるわね……」

 

 ハーマイオニーが額を押さえた。

 ドラコは呆れた顔でため息をついた。

 

「お前、本当にそう答えたのか」

「うん、あとは最近何か考えを変えた本はあったかって」

 

 ドラコの表情が固まった。

 

「……お前まさか『深い闇の秘術』をおすすめしてないだろうな?」

「そっちもあったね! でも、スネイプ先生に人におすすめするなって怒られたし、『薔薇色の惚れ薬は二度効く』にしたよ」

 

 ハーマイオニーとドラコが一安心したように息を吐いた。

 

「あたしのおすすめ、ダンブるん校長にも届いちゃったか!」

「ダンブ……ごめん、なんて?」

「今回ばかりは、ベインの本選びに感謝すべきかもしれないな。恋愛小説の方がまだましだ」

 

 図書室に笑いが広がった。

 第一の課題は終わった。

 ドラゴンは怖かったし、火は熱かったし、歩き回ったせいで体は少しだるい。

 でも、記事になる。

 今日見たことは、ちゃんと紙面に残る。

 トムが一位。

 フェルディナンド先輩が二位。

 ハリーが三位。

 クラムが四位。

 順位だけなら、それで終わりだ。 

 

 でも、『羽ペン通信』は順位だけでは終わらせない。

 炎の前に立った時、誰がどう見えたか。

 本人が何を言ったか。

 観客が何を感じたか。

 先生たちがどう見たか。

 そういうものを、ちゃんと書く。

 紙面の英雄じゃない。

 炎の前に立った本人たちを書く。

 それが、たぶん、今のわたしたちの仕事だ。

 





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