本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:bookworm

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56話 恋の脚注は踊る前から忙しい

 

 ユールボールというものは、踊る相手を決める行事らしい。つまり、舞踏会だ。

 わたしは最初、その説明を聞いたとき、少し安心した。

 踊る相手を決める。

 つまり、読む本を決める行事ではない。

 それなら、わたしにはあまり関係がない。

 そう思っていた。

 思っていたのに、図書室のいつもの机には、なぜか大きな羊皮紙が広げられていた。しかもその羊皮紙には、参加者の名前と矢印と、丸と三角と、妙にかわいいハートが書き込まれている。

 中央には、大きくこう書かれていた。

 

《恋の脚注・ユールボール特別号》

 

「……何これ」

「見て分かんない? ユールボールのダンスパートナー相関図。これ、今いちばん大事なやつだから」

 

 ロメルダが、当然みたいな顔で言った。ロメルダは、女子人気という名の実績をひっさげて、「ほら、あたし必要じゃん?」という顔で本入部を勝ち取ったばかりだった。

 その隣で、パドマがもう一本の羽根ペンを構えている。アーニーはやけに真剣な顔で、相関図を事件現場の見取り図みたいに見つめていた。

 ハリーの席は空いていた。

 

「ハリーは?」

 

 わたしが聞くと、ロンが肩をすくめた。

 

「マクゴナガル先生に呼ばれてる。代表選手はユールボールで最初に踊るから、その説明だってさ」

「最初に踊る?」

「そう。代表選手はパートナー連れて、みんなの前で踊るんだと」

 

 ロンは、心底気の毒そうな顔をした。

 

「たぶん今ごろ、ドラゴンの方がましだったって顔してる」

「ハリポ、かわいそうだけどおいしいね」

 

 ロメルダが羽根ペンを構えた。

 

「おいしくないだろ」

「違う違う、紙面的に」

「もっと悪い」

 

 ハーマイオニーが赤インクの瓶を机に置いた。

 

「本人がいないところで、ハリーの相手を勝手に決めないこと」

「決めないって。予想するだけ」

「それを勝手に決めると言うのよ」

 

 ロメルダは不満そうに口を尖らせた。

 

「でもハリポの欄、空欄だと落ち着かなくない?」

「落ち着きなさい」

 

 ハーマイオニーが言った。

 パドマは、相関図の端に小さく書き込んだ。

 

《ハリポ→本人不在・要確認》

 

「これならいいでしょう。本人確認が取れるまで、紙面では扱わないようにしましょ」

「パド姉、冷静」

「編集長だから」

 

 ロメルダはしぶしぶ頷いたけれど、ハリーの空欄の横に小さく「勇者ハリーは誰を射止める?」と書き足した。

 ハーマイオニーが即座に赤インクで「誰の手を取る?」と書き直す。

 

「射止める、はだめです。相手を賞品みたいに書かない」

「ハーみょん、厳しー」

「厳しくて結構です」

「みんなはユールボールのダンスパートナー決まってるの? 魔法書研究会が誰と行くのかってのも紙面的にも需要あると思うんだよね」

 

 ロメルダが何気なく言った。

 ルーナが静かに手を挙げた。

 

「あたしはユールボールには行かない」 

 

 全員がルーナを見た。

 

「行かないの?」

 

 ハーマイオニーが少し驚いた声を出した。

 

「うん。実家に帰るんだ。お父さんから手紙が来たの。今年のクリスマスの前後に、しわしわ角スノーカックが見られるかもしれないって」

「しわしわ……何?」

 

 ロンが聞いた。

 

「しわしわ角スノーカック」

 

 ルーナは当然のように言った。

 

「ユールボールは来年もあるかもしれないけれど、しわしわ角スノーカックは今年しか見られないかもしれない」

「ルナぴ、優先順位が独自すぎる」

 

 ロメルダが感心したように言った。

 ルーナはにこっと笑った。

 

「踊るより、魔法生物を見たい時もあるものだよ」

 

 パドマが羽根ペンを止めた。

 

「それ、記事になるわね」

「なるの?」

「なるわ。全員が舞踏会に出たいわけではない、という視点は必要よ」

 

 ロメルダも頷いた。

 

「恋の脚注的にも大事かも。恋やダンスより、しわしわスノーカックを選ぶ自由」

 

 パドマは相関図の下に別枠を作った。

《ルナぴ→不参加・しわしわスノーカック観察のため実家へ》

 

「ユールボールに行かないことをテーマに記事を書いてくれる?」

 

 パドマが聞くと、ルーナはふわっと微笑んだ。

 

「ええ。題は『踊らない夜に見る足跡』でいい?」

「詩的すぎるけど、あり」

 

 ロンが言った。

 ロメルダは満足そうに頷く。

 

「よし。ルナぴは実家。ハリポは本人不在。じゃあ残りいこ」

 

 まず代表選手ね、とロメルダが羊皮紙の中央を指した。

 

「トム様はフラ様。絵面つよすぎ。はい優勝」

 

 ロメルダはさらさらと書き込んだ。

《トム様→フラ様 美形優勝》

 パドマが冷静に言った。

 

「記事としては分かりやすいわ。読者に説明がいらない組み合わせ」

「それ、恋じゃなくて紙面都合じゃない?」

 

 ロンが言った。

 

「紙面都合は大事よ」

 

 パドマはきっぱり言った。

 

「パド姉、さすが。恋の脚注にも紙面感あるの、めっちゃ助かる」

「その企画に全面協力しているつもりはないわ」

「でも羽根ペン持ってるじゃん」

 

 パドマは何も言わなかった。

 わたしは少し考えた。

 トムとフラー。

 たしかに、二人が並ぶと、とても舞踏会らしい。絵本の挿絵みたいに整っている。整いすぎていて、少し怖いくらいだ。

 

「で、フェル先は?」

「ダフネお姉様です」

 

 アストリアが静かに言った。

 ロメルダが次の欄に書き込んだ。

《フェル先→グリグラ姉》

 

「その心は?」

 

 フェルディナンド先輩は図書室には来ていなかった。代わりにアストリアが答える。

 

「お姉さまは、フェルディナンド先輩からとても丁寧に誘われたと言っていました。社交上の意味をきちんと説明された、と」

「出た。恋の脚注に全然向いてない回答」

 

 ロメルダが羽根ペンの先で羊皮紙をつついた。

 

「もっとこう、聞いてないの? 月明かりで目が合ったとか、ダンスホールで君を見つけたかったとか、そーいうやつ」

「ないと思います」

「フェル先すぎる」

 

 ロメルダは小さく肩をすくめた。

 

「でも、フェル先の場合はそこが逆に怖いんだよね。恋じゃなくて社交。ていうか、政治っていうのかな?」

 

 ロメルダは余白に「政治?」と記載した。

 わたしはロメルダが社交や政治を理解していることに感心する。

 

「で、フォイ君は誰誘うの?」

 

 ドラコは露骨に嫌そうな顔をしたが、魔法書研究会のメンバーの顔を見回し、一人の女子の前で目を止めた。

 

「アストリア、いいか?」

 

 ドラコは今決めたと言わんばかりに、アストリアにたずねた。

 アストリアがぱちりと瞬きをして、すぐに微笑む。

 

「ええ、喜んで」

「さすがお坊ちゃん。フォイ君はグリグラちゃんっと」

「グリグラちゃん?」

 

 アストリアが首を傾げる。

 

「グリーングラスだから。グリグラちゃん。かわいくない?」

「かわいいなら……まあ、いいです」

「いいのか」

 

 ドラコが低く言った。

 ロメルダは満足そうに書き込んだ。

《フォイ君→グリグラちゃん》

 

「僕がアストリアを誘ったのは、ダフネとフェルディナンド先輩が組むなら、グリーングラス家とのつながりとして不自然ではないからだ。家同士の付き合いもある。妙な意味はない」

「出た。スリザリン式“妙な意味はない”。それ、逆に脚注つくやつね」

 

 ロメルダがすかさず小さく書き添える。

《妙な意味はない=要観察》

 

「書くな」

「無理。今のは書くしかない」

 

 アストリアは、少しだけ笑っていた。

 それはとても小さなかわいらしい笑みだったけれど、ドラコは一瞬だけ目をそらした。わたしは首を傾げる。

 本当に社交上だけなのかな? 

 本なら、注釈が多すぎるところほど、本文に大事なことが隠れている。

 

 ロメルダの羽根ペンがさらに動きかけ、ハーマイオニーの赤インクがその上をぴたりと押さえた。

 

「本人が嫌がることは書かない」

「はいはい」

「はいは一回」

「はい」

 

 ロメルダは素直に頷いたけれど、目は完全に「要観察」と言っていた。

 そこで、図書室の入り口の方から、控えめな咳払いが聞こえた。

 背が高い。

 ヴィクトール・クラムだった。

 図書室の空気が、急に静かになる。クラムは本棚の間をゆっくり歩いてきて、ハーマイオニーの前で止まった。

 

「ハーマイオニー・グレンジャー」

 

 発音は少し違った。でも、ちゃんとハーマイオニーを呼んでいた。

 ハーマイオニーは、びくっとした。

 

「は、はい」

「ユールボールに、一緒に来てほしい」

 

 静かだった。

 あまりに静かだったので、ロンが持っていた本を落とした音が、とても大きく響いた。

 

「えっ」

 

 ハーマイオニーが真っ赤になって固まる。

 

「嫌なら、断っていい」

「い、いえ。嫌では、ないです。お願い、します」

 

 ロメルダの羽根ペンが、すごい勢いで走った。

 

《ヴィク様→ハーみょん 図書室で申込。強い。これは強い》

 

「ロメルダ、載せないで」

「でも今の、普通に歴史的瞬間じゃん。図書室で代表選手に誘われるとか、ハーみょん主人公すぎ」

 

 クラムは、少し困った顔をした。

 

「これは、新聞に載るのか」

「載せません!」

 

 ハーマイオニーが叫んだ。

 パドマが静かに手を上げる。

 

「本人確認なしの記事化はしません。『羽ペン通信』は、リータ・スキーターとは違います」

 

 クラムはそれを聞くと、少しだけうなずいた。

 

「なら、よかった」

「えー、匂わせるのもだめ?」

 

 ロメルダは納得がいかないようだ。

 ロンはまだ落とした本を拾っていなかった。

 

「クラムが……ハーマイオニーを……」

「ロンロン、顔やば」

 

 ロメルダが楽しそうに言った。

 ロンは本を拾いながら、耳まで赤くしていた。

 

「別に、僕には関係ないだろ」

「そう? ロンロンの欄は未定だよね?」

 

 ロメルダは大きく書いた。

 

《ロンロン→未定・顔面白い》

 

「僕の欄だけ悪意ないか!?」

「未定は事実じゃん」

「顔が面白いは余計だろ!」

「いや、そこ大事。恋の脚注、表情も拾ってくから」

 

 ハーマイオニーは、羊皮紙を見るふりをしてロンを見ないようにしていた。ロンも、ハーマイオニーの方を見ないようにしている。

 これはたぶん、面倒なやつだ。

 恋愛小説なら、ここで三章くらい使う。下手したら十巻ぐらい長引かせて友達以上恋人未満の関係をずっとやるやつだ。

 

「じゃあさ」

 

 ロメルダが羽根ペンをくるっと回した。

 

「あたしと踊る?」

「は?」

 

 ロンが固まった。

 

「あたし、まだ決まってないし。ロンロンも未定でしょ。ちょうどよくない?」

「ちょうどいいって何だよ!」

「未定同士。空欄埋まるし」

「荷物みたいにまとめるな!」

「えー、嫌なの?」

 

 ロメルダは全然傷ついた顔をしなかった。むしろ楽しそうだった。

 

「別に恋愛とかじゃなくて、舞踏会って相手いないと面倒じゃん? あたしも現場見たいし」

「現場!?」

「恋の脚注、現場班。ロンロン背高いから見晴らしいいし」

「僕を見張り台にするな!」

 

 ロンは叫んだが、完全に断る空気ではなかった。

 ロメルダはそれを見逃さなかった。

 

「じゃ、決まりね」

「まだ決めてない!」

「でも断ってないじゃん」

「それは……そうだけど」

 

 ロンが言葉に詰まる。

 ロメルダは勝ち誇ったように、羊皮紙に書き込んだ。

 

《ロンロン→ロメルダ 現場班》

 

「現場班って何だよ!」

「踊りながら周囲を観察する係。めっちゃ大事」

「……僕足踏むかも」

「大丈夫。踏まれたらそれも脚注にする」

「全然大丈夫じゃない!」

 

 ハーマイオニーが、少しだけ口元を押さえた。

 笑っていた。

 ロンはそれに気づいて、さらに赤くなった。

 

「笑うなよ、ハーマイオニー!」

「笑ってないわ」

「笑ってた!」

「少しだけよ」

 

 ロメルダは満足そうにうなずいた。

 

「よし。ロンロンの顔、ちょっと戻った」

「お前、もしかして慰めたつもりなのか?」

 

 ドラコが少し気の毒そうに小声で言った。

 

「え、違うけど?」

「なんだ」

「でも元気出たっぽいし、結果オーライじゃん」

 

 たしかに、ロンの声にはさっきより元気があった。

 ロメルダは、案外こういうところが鋭いのかもしれない。

 いや、鋭いというより、勢いで人の面倒な感情を踏み越えていくのが上手い。

 それはそれで、才能だと思う。

 すると、その流れを見ていたアーニーが、急に背筋を伸ばした。

 

「では、僕も」

 

 全員の視線がアーニーに向く。

 アーニーは、なぜか裁判所で証言する人みたいな顔をしていた。

 

「パドマ・パチル」

 

 呼び方も裁判所で罪状を読み上げる言い方だった。

 

「はい?」

 

 パドマが羽根ペンを止める。

 アーニーは一歩前に出た。

 

「もし君がまだ相手を決めていないなら、僕と舞踏会に行ってくれないだろうか」

 

 図書室が、また静かになった。

 ロメルダが目を輝かせる。

 

「え、待って。急にちゃんとしてる。やるじゃん」

 

 アーニーは真剣だった。ものすごく真剣だった。

 

「君は記事を見る目がある。資料の扱いも丁寧だ。何より、リータ・スキーターの記事に対して、感情だけでなく根拠をもって反論しようとしている。いつも一生懸命に真相を導こうとするその姿勢を、僕はとても尊敬している」

 

 誘い文句はあまりにアーニーだった。

 

「……舞踏会の誘いよね?」

 

 パドマが確認した。

 

「そうだ」

「マクミ君、かしこまりすぎ。舞踏会の申込で議会開いてる?」

 

 ロメルダが小声で言った。

 パドマは少しだけ考えた。

 それから、静かに微笑んだ。

 

「いいわ。アーニー。一緒に行きましょう」

 

 アーニーの顔が、ぱっと明るくなった。

 

「ありがとう。光栄だ」

「ただし、舞踏会当日は、取材メモを持つわ」

「もちろんだ。僕も推理メモを持つ」

「舞踏会を事件前提で見るのやめな?」

 

 ロメルダは笑いながら、羊皮紙に書き込んだ。

 

《マクミ君→パド姉 演説つき》

 

「せめて『敬意ある申込』に」

「長い。却下」

「脚注なのに?」

「脚注にもテンポってあるんだよ」

 

 パドマが小さく笑った。

 

「いいわ。演説つきで」

「パドマまで」

「事実だもの」

 

 アーニーは少しだけ肩を落としたけれど、嬉しそうでもあった。

 こうして、羊皮紙の空欄はまた減った。

 わたしは埋まっていく相関図を眺めた。

 

《トム様→フラ様 美形優勝》

《ヴィク様→ハーみょん 図書室で申込。強い。これは強い》

《フェル先→グリグラ姉 政治?》

《フォイ君→グリグラちゃん スリ式妙な意味はない=要観察》

《ロンロン→ロメルダ 現場班》

《マクミ君→パド姉 演説つき》

《ルナぴ→不参加・しわしわスノーカック観察のため実家へ》

《ハリポ→本人不在・要確認》

 

 みんな、踊る相手が決まっていく。

 なるほど。

 舞踏会とは、相関図を育てる行事だったらしい。

 

「で」

 

 ロメルダが、きらりと目を光らせた。

 

「ブクマちゃんは?」

「わたし?」

「そ。ブクマちゃんの相手。ここ空欄なの、普通に気になるんだけど」

「本かな」

「本は踊らん」

 

 ドラコが冷静に口を挟む。

 

「浮かせたら踊るかも」

「それは踊ってるんじゃなくて浮いてるだけ」

 

 ロメルダは、わたしの名前の横に大きく空欄を作っていた。

《ブクマちゃん→???》 

 

「ここ、空欄なの気持ち悪いんだけど」

「空欄は大事だよ。あとで書き込めるから」

「それ、読書ノートの話じゃん。今は舞踏会」

 

 ドラコがじろりとわたしを見た。

 

「お前は、舞踏会でも本棚に向かって歩いていきそうだからな」

「本棚があれば」

「ない」

「ないの?」

「ない。舞踏会だ」

「じゃあ、持ち込めば」

「持ち込むな」

「わたしは本読みたいから部屋でゆっくりしてるよ。踊る時間があったら本を読みたい」

 

 ドラコは頭痛をこらえるように目を閉じた。

 

「……仕方ない。お前の相手は、こちらで用意する」

 

 ロメルダが身を乗り出した。

 

「フォイ君がブクマちゃんのダンスパートナー用意すんの? 何それ、過保護イベントじゃん」

「手配だ」

「もっとスリザリンっぽくなった!」

 

 数日後、ドラコは本当に手配してきた。

 相手は、ドラコの同級生のセオドール・ノットだ。

 セオドールは静かな男子生徒だった。無口で、目立たなくて、でも何も考えていないわけではなさそうな顔をしている。

 彼はわたしを見て、次にドラコを見た。

 

「ドラコに頼まれた。君を、妙な相手から遠ざけろと」

「妙な相手って誰?」

 

 セオドールは少し考えた。

 

「候補が多すぎる」

 

 ドラコが否定しなかった。

 

「ノットなら、余計なことは喋らない。家格も問題ない。踊りも最低限はできる」

「紹介が雑だな」

 

 セオドールが苦笑する。

 

「事実だ」

「褒めているのか」

「最大級にな」

 

 ロメルダは、図書室の机の端でまたしても羽根ペンを構えていた。

 

「つまり、フォイ君がブクマちゃんを守るために、無口系スリザリン生を配置した……と。はい、完全に脚注案件」

 

 ロメルダは新たに書き加えた。

《ブクマちゃん→ノット君(フォイ君手配)》

 

「書くな」

「あるある。だって“手配されたダンスパートナー”って見出し強いもん」

「手配ではない」

「じゃあ、慎重に選定されたダンスパートナー?」

「余計悪い」

 

 わたしはセオドールを見上げた。

 

「よろしくお願いします」

「特に相手はいなかったからちょうどいい」

「踊っている間に本の話をしてもいい?」

「どんな本だ?」

「うーん、時間魔法の本とか」

 

 セオドールの目が、ほんの少しだけ動いた。

 

「……なぜ、それに興味がある」

「本を読む時間が増えたら便利だから」

「危険な理由だな」

 

 セオドールはそう言ったのに、少しだけ考え込む顔をした。

 

「ただ、分からなくはない」

「分かるの?」

「時間を増やしたいと思ったことはある」

 

 ドラコが、ものすごく嫌そうな顔をした。

 

「……ノット。変な方向に興味を持つな」

「マルフォイの妹を相手に選んだ時点で、手遅れだろう」

「選んだのは兄である僕だ」

 

 ロメルダは満足そうに羊皮紙を眺めた。

 

「いい感じ! だいたい埋まってきた」

「魔法書研究会なのに、魔法書の話が一切ないわ」

 

 ハーマイオニーが今更なことを言った。

 

「あるよ」

 

 わたしは言った。

 

「セオドールとは時間魔法の本の話をする予定」

「それは舞踏会の会話として間違っているわ」

「でも、踊りながらなら本を読む手がふさがるから、本について話すしかないし」

「そこから間違っているのよ」

 

 ドラコが深いため息をついた。 

 

「……ノットに頼んだのは失敗だったかもしれない」

「フォイ君、人選ミスったね」

 

 ロメルダがにやにやしながら言った。

 

 

 舞踏会というものは、踊る相手を決めるだけの行事ではないらしい。

 

 でも、セオドール・ノットは本の話を少しだけ聞いてくれそうだった。

 それなら、一曲くらいは踊ってもいいかもしれない。

 ロメルダが、わたしの顔を見てにやっと笑った。

 

「ブクマちゃん、今ちょっと楽しみになったっしょ」

「本の話ができそうだから」

「それ、舞踏会の楽しみ方として合ってる?」

「合ってない」

 

 ドラコが即答した。

 ハーマイオニーもほぼ同時に言った。

 

「合ってないわ」

 

 ロメルダは羊皮紙をくるくる巻きながら、満足そうに笑った。

 

「恋の脚注、相関図完成! いやー、舞踏会って始まる前から濃いわ。パド姉、今日中に記事出すから確認して」

「確認が取れていないところは書いてはだめよ。相関図は載せないから、文章で書いて」

「はーい」

 

 舞踏会というものは、踊る前から人を巻き込むらしい。

 誰を誘うか。誰に誘われたか。誰がまだ空欄なのか。

 本なら目次を見れば中身の順番が分かるのに、人間関係の相関図は、書いたそばから動いていく。

 

 舞踏会は、まだ始まってもいない。

 なのにもう、かなり疲れた。

 





恋愛回はロメルダが強すぎてマインの印象が若干かすみかけてます……仕方ない、マインは恋より本派なので。

次回、勇者ハリーは誰を取る?
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