本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:bookworm

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58話 薔薇色の惚れ薬は二度効く

 

 ユールボール当日、わたしは朝から重大な問題と向き合っていた。

 

 本を持っていけない。

 

 それは、かなり大きな問題だった。

 

「一冊だけでもだめ?」

 

「だめだ」

 

 ドラコは、わたしの机の上に置かれた小型本を見て、即答した。

 

「まだ題名も見てないよ」

 

「題名の問題ではない。舞踏会に本を持ち込むな」

 

「でも、待ち時間があるかもしれない」

 

「人と話せ」

 

 難しい。

 

 母が用意してくれたドレスローブは、仕立て屋が何度も採寸に来て作ったものだった。深い青緑から銀へ溶けるような色で、光を受けると水面みたいに揺れる。袖口と裾には、銀糸で蔓草、星、小さな本、羽根ペン、それから蛇の意匠が細かく刺繍されていた。

 

 遠目には、マルフォイ家の娘として恥ずかしくない上品な礼装。

 

 近くで見ると、古い魔法書の装丁のようなドレスローブ。

 

 つまり、かなり良い。かなりわたし好みだ。

 

 かなり良いのに、ポケットがなかった。

 

「なんでポケットがないんだろう」

 

「舞踏会用だからだ」

 

「小型本なら手で持ってもいいんじゃない? 非常用に」

 

「本を読む非常事態とは何だ」

 

「退屈」

 

「退屈を紛らわせないほどのパートナーだったらセオドールに僕から文句を言う」

 

 ドレスローブの箱には、母からの手紙も添えられていた。

 

『ローゼマインへ。

 長く立っていても疲れにくいよう、軽く仕立てさせました。

 刺繍には、あなたの好きなものを少しだけ忍ばせています。

 舞踏会では、本ではなく人を見なさい。

 母より』

 

 先回りされている。

 

 母はすごい。

 すごいけれど、少し厳しい。

 

「お母さままで……」

 

「母上が正しい」

 

「お兄さまはすぐお母さまの味方をするよね」

 

「いつも全面的に正しいからな」

 

 仕方なく、本を机に置いた。

 

 本がないユールボール。

 

 かなり心細い。

 

 けれど、鏡の前に立つと、ドレスローブは本当にきれいだった。青緑の布がふわりと広がり、銀の刺繍が小さな文字のように光る。まるで、わたし自身が一冊の古い魔法書の中に入ってしまったみたいだった。

 

「どう?」

 

 わたしが聞くと、ドラコは少し黙った。

 

「……マルフォイ家の名に傷はつかない」

 

「それ、褒めてる?」

 

「最大級にな」

 

 分かりにくい。

 

 でも、少し嬉しかった。

 

 大広間へ向かう廊下は、いつもとまったく違っていた。

 

 制服ではなく、色とりどりのドレスローブ。いつもは本や鞄を抱えて歩いている生徒たちが、今日は少しぎこちなく、でもどこか楽しそうに歩いている。

 

 舞踏会というものは、始まる前から人を変えるらしい。

 

 扉の前には、もう魔法書研究会の面々が集まっていた。

 

 最初に目に入ったのは、ハーマイオニーだった。

 

 わたしは、一瞬、誰だか分からなかった。

 

 髪はいつものように広がっていない。きれいに整えられていて、顔まわりがすっきりしている。ドレスローブは落ち着いたすみれ色で、派手ではないのに、なぜか目が離せなかった。

 

「ハーマイオニー?」

 

 思わず名前を呼ぶと、ハーマイオニーは少し照れたように笑った。

 

「そんなに驚かなくてもいいでしょう」

 

「すごい。いつものハーマイオニーもかわいいけど、今日のハーマイオニーは物語のヒロインみたい」

 

 隣に立っているクラムは、無口なまま少しだけ頷いた。

 とても誇らしそうだった。

 

 その少し向こうで、ロンが立っていた。

 

 わたしはロンのドレスローブを見て、感嘆を漏らす。

 

 古そうなのに、おしゃれだ。

 

 えんじ色の布はたしかに古めかしい。けれど、重たすぎる飾りはなく、袖口と襟元に細く入れ直されたレースが、妙にきれいに見えた。黒っぽい飾り布で全体が締まっていて、ロンの背の高さと赤毛に意外と合っている。

 

「ロンもいい感じだね」

 

「えっ」

 

 ロンが固まった。

 

「ほら!」

 

 隣のロメルダが、ものすごく自慢げに胸を張った。

 

「言ったじゃん。素材は悪くないって。服が事故ってただけ」

 

「事故ってたって……」

 

 ロンが渋い顔をする。

 

「レース全部取るのはセンスないからね。量と場所を直せば、古いじゃなくてクラシックになるの」

 

「クラシック……?」

 

「ロンロン、まじでかっこいいよ今日」

 

「褒めても何も出ないぞ」

 

 ロンは文句を言っていたけれど、少しだけ嬉しそうだった。

 

 ロメルダは、赤みのあるベリー色のドレスローブを着ていた。甘い色なのに動きやすそうで、袖や裾に入ったレースの使い方が軽い。ロンのローブを直した人だと言われれば、かなり納得する。

 

 パドマとアーニーは、すでに二人並んでいた。

 

 パドマは深い藍色のドレスローブで、金糸の刺繍が光っている。とても華やかなのに、手には小さなメモ用の羊皮紙があった。

 

 アーニーはきっちりした濃紺の礼装で、やっぱり少し服装がかしこまっていた。こちらも手にはメモがある。

 

 二人とも、全くぶれない。

 

「舞踏会当日の観察点は、少なくとも三つある」

 

 アーニーが真剣に言った。

 

「一、代表選手周辺の反応。二、リータ・スキーターが利用しそうな構図。三、校内世論の変化」

 

「四、料理」

 

 ロンが口を挟んだ。

 

「それは確かに必要ね」

 

 パドマがメモした。

 

「メモするんだ」

 

「読者に近い視点は大事よ」

 

 ロンは少し複雑そうな顔をした。

 たぶん、褒められているのか分からない顔だ。

 

 ドラコはアストリアの隣にいた。

 ドラコの礼装は黒に近い深緑で、銀の留め具が光っている。アストリアは淡い銀緑のドレスローブで、雪の結晶みたいな刺繍が入っていた。

 

 二人が並ぶと、かなり自然だった。

 

 自然すぎて、ドラコの「妙な意味はない」という説明の方が不自然に思える。友人以上の何かが起きてもおかしくない気がした。

 

 ハリーは、チョウ・チャンと一緒にいた。

 

 ハリーはとても緊張しているように見えたけれど、チョウは楽しそうに笑っていた。近くにいる友達たちも、いつものようにくすくす笑うだけではなく、パートナーと一緒に少し離れて二人を見守っている。

 

 ハリーが何か言って、チョウが笑う。

 その雰囲気は、かなり親密だった。

 

 ロメルダが小声でわたしに言った。

 

「これは要見守りだね」

 

「要観察じゃないの?」

 

「今日は見守り。ハリポ、頑張ったっぽいし」

 

 ロメルダはたまに、すごくまともなことを言う。

 

 大広間の扉が開くと、中はまるで別の場所だった。

 

 天井には冬の夜空。壁には霜のような光。空中には小さな雪が舞っているけれど、床に落ちる前に消えていく。長テーブルはなく、広い踊り場ができていた。

 

 どこにも本棚はない。

 

 とても残念だった。

 

「本棚はないんだね」

 

「あると思っていたのか」

 

 セオドール・ノットが、いつの間にか隣に来ていた。

 

 彼は暗い灰色のドレスローブを着ていた。目立たないけれど、よく見ると布も刺繍も上質だ。余計な装飾がないせいで、かえって落ち着いて見える。

 

「一応、期待してた」

 

「そのドレスローブ、古い魔法書みたいでいいな」

 

 わたしは一気に機嫌がよくなった。

 

「分かるの?」

 

「装丁に似ている」

 

「それ、最高の褒め言葉だよ」

 

「褒めたつもりではある」

 

 セオドールは淡々と言った。

 やっぱり、この人は少し話が分かる。

 

 代表選手たちの最初のダンスが始まる前、大広間はざわめいていた。

 

 フェルディナンド先輩とダフネは、まるで社交の教本から出てきたみたいだった。

 トムとフラーも見えたけれど、静かにすまして並んでいるだけだった。

 

 わたしは、その前に別の声に呼び止められた。

 

「ローゼマイン・マルフォイ」

 

 振り向くと、ダームストラングの少年が立っていた。

 

 レオニード。

 

 以前、闇の魔術の本について語ったダームストラング生だ。鋭い目をしていて、礼装を着ると、ますます古い決闘記録に出てくる人みたいに見える。

 

「レオニード」

 

「覚えていたか」

 

「本の話をした人は覚えてるよ」

 

 レオニードは少し笑った。

 

「だからこそ、俺は君に問う。禁じられた頁に指をかけた小さき魔女よ。今宵、俺と一曲、夜の円環を閉じる気はないか」

 

 セオドールの手が、わたしの少し前に出た。

 

 強く遮るわけではない。

 でも、はっきりと間に入る動きだった。

 

「彼女は僕の相手だ」

 

 レオニードはセオドールを見た。

 

「影の家系に連なる者が、本の魔女の番人を務めるとは」

 

「闇だの深淵だの円環だのを増やすな。こっちは彼女の兄から監視を任されているんだ」

 

「随分厳重な護衛だな」

 

「否定はしない」

 

 わたしは首をかしげた。

 

「一曲踊るくらいなら別にいいよ?」

 

「だめだ」

 

 少し離れたところから、ドラコの声が飛んできた。

 

 聞こえていたらしい。

 

「マイン、お前は一曲踊ったらすぐに座って休め」

 

 レオニードは少し肩をすくめた。

 

「残念だ。では、また今度。小さき魔女よ」

 

 レオニードはそれ以上踏み込まず、軽く礼をして離れていった。

 

 音楽が始まり、代表選手たちが踊り出した。

 絵になる組み合わせが多い。

 トムとフラーは誰が見ても目を奪われる美男美女の組み合わせだった。

 フェルディナンドとダフネは落ち着いているが、どこか上品で高貴な雰囲気を感じる。

 クラムとハーマイオニーは意外な組み合わせで特にホグワーツ生をざわめかせていた。

 ハリーとチョウはまだ初々しさがあり、見ていて和む。

 

 しばらくして、一般の生徒たちも踊り場へ出始める。

 セオドールが手を差し出した。

 

「一曲踊ってあとは休もう」

 

「うん」

 

 マルフォイ家では踊り方を習ったことがある。だが、実践する機会はほぼ無かった。

 セオドールは歩幅をかなり小さくしてくれていた。

 ドラコに言われたのかもしれない。

 

「ドラコは、君のことをよく話している」

 

 セオドールが踊りながら言った。

 

「お兄さまが?」

 

「うん。よく自慢している。妹は体が弱いが、成績はトップだ、と。僕はグレンジャーに負けた人間だから、羨ましい」

 

 セオドールは静かに笑った。

 

「授業も、ずいぶん多く取っているそうじゃないか」

 

「うん。本は読める時に読まないと、人生が短すぎるから」

 

「授業は本ではないと思うけど」

 

「本につながるから、だいたい本だよ」

 

「なるほど」

 

 セオドールの視線が、わたしの首元に向かった。

 

「それだけ授業を取って、体は持つのか?」

 

「持たないよ」

 

「それでも、時間割は成立しているんだな」

 

「まあね。スネイプ先生が怖い顔するけど」

 

 セオドールは、ほんの少し黙った。

 

「きっと時間の使い方が上手なんだな」

 

「そうかな。わたしはむしろ、時間が足りなくて困ってるよ」

 

「足りない時間は、どうしているんだ?」

 

「どうしている、って?」

 

「時間を削るのか、増やすのか、借りるのか、どういう手段を取るのかと思って」

 

 変な言い方だった。

 睡眠時間を削る、なら分かる。課題の時間を増やす、も分かる。けれど、時間を借りる、という言葉だけが、少しだけ違う場所から出てきたみたいだった。

 

 セオドールは淡々と言った。

 

「父から聞いたことがある。特別に優秀な生徒には、普通では組めない時間割を成立させるための手段が与えられたことがあると」

 

 セオドールの声は、ただの世間話みたいだった。

 けれど、言葉の選び方が妙に丁寧だった。

 そこまで言われて気づかないほど鈍くない。

 セオドールはタイムターナーのことをどこかから聞いたに違いない。そして、わたしが持っている可能性があると考えている。

 わたしは素知らぬ顔で微笑みを浮かべた。

 

「すごいね。授業のためにそこまでするんだ」

 

「君は、そこまでする側に見える」

 

「本のためならするけど、授業のためだと少し考えるかな」

 

「授業も本につながるから、だいたい本なんじゃなかったか?」

 

「それを言われると弱い」

 

 セオドールはほんの少し笑った。

 

「君は因果のループを知っているか?」

 

「因果のループ?」

 

「自分が過去へ戻る。過去で何かをする。その結果が、もともと自分が見ていた現在に含まれている。そういう閉じた輪だ」

 

 わたしは体勢が崩れそうになり、セオドールに少し支えられた。セオドールはわたしを連れて壁際に移動する。

 

「ごめん、続けて」

 

 セオドールは少しだけ息を吐いた。

 

「短時間なら、出来事の範囲が小さい。戻ったことで起きる行動も、元の出来事の一部として収まりやすい」

 

「不可解な出来事の原因は未来の自分ってこと?」

 

 それはまさに、前にハーマイオニーとタイムターナーを使ったときの話だ。

 

「そうだ。でも僕はそれを破る方法がどこかにあると思っている。過去を変えるために」

 

「セオドールは、過去を変えたいと思ったことがあるの?」

 

「ああ。でも、その話は舞踏会で話すには暗すぎる」

 

 セオドールがそう言ったとき、近くで、少し硬い声がした。

 

「あなた、私のことどう思っているの?」

 

 フラー・デラクールの声だった。

 

 わたしは顔を上げた。

 

 大広間の端、氷の彫像の近くで、トム・ジェドゥソールとフラー・デラクールが向かい合っていた。二人は少し前まで一緒に踊っていたはずだ。とてもきれいだった。みんなが見ていた。

 

 でも今は、あまり楽しそうではない。

 

 フラーは腕を組み、トムを見上げている。きれいな顔が、はっきり怒っていた。

 

「君はとても美人だよ、フラー」

 

 トムは静かに答えた。

 

「ええ、ありがとう。私はそんなこと生まれたときから知っているわ。ヴィーラの血を引いているもの。でもね」

 

 フラーは苦々しい顔をしていた。

 

「あなたみたいに、私がいてもなんとも思わない人は初めて」

 

「何の話かな」

 

 トムは静かに聞いた。

 いつもの声だった。穏やかで、整っていて、相手が怒っていても少しも乱れない声。

 でも、その乱れなさが、今は余計に悪かった。

 

「わたし、あなたが好きよ」

 

 フラーははっきり言った。

 近くにいた生徒たちが、見ていないふりをしながら一斉に耳をそばだてる気配がした。

 わたしも耳をそばだてた。

 セオドールは動かなかった。

 

「ずいぶん率直だね」

「ええ。回りくどく言っても、あなたは気づかないふりをするでしょうから」

 

 フラーは一歩、トムに近づいた。

 

「最初は面白かったの。あなたは、わたしを見てもぼんやりしなかった。見惚れて我を失ったり、言葉を忘れたり、勝手に夢を見たりしなかった」

 

 その言葉に、少しだけ周囲の空気が揺れた。

 フラーは綺麗だ。ものすごく綺麗だ。わたしでも分かる。大広間にいる男子生徒の何人かは、フラーが通るだけで本を読みながら歩いて壁にぶつかりそうな顔をする。

 だから、フラーがそれに慣れていることも分かる。

 見られること。

 見惚れられること。

 自分の美しさを通して、勝手に何かを期待されること。

 

「あなたは、わたしの顔を見ていなかった。声を聞いていた。言葉を聞いていた。わたしが何を考えているか、何を言おうとしているか、そこだけを見ているように見えた」

 

 フラーの声は、怒っているのに、少しだけ震えていた。

 

「だから、好きになったの。美しいからではなく、わたしを見る人だと思ったから」 

 

 トムは黙っていた。

 その沈黙は、優しさではなかった。

 答えを探している沈黙でもない。

 たぶん、どう返すのが一番正確かを考えている沈黙だった。

 フラーはそれを見て、かすかに笑った。

 笑ったけれど、少しも嬉しそうではなかった。

 

「でも違った」

 

 フラーの目が、まっすぐトムを射抜いた。

 

「あなたは、最初からわたしに興味がなかっただけ」

 

 大広間の音楽が、少し遠くなった気がした。

 わたしは息を止める。

 トムの顔は変わらない。

 変わらないことが、たぶん答えだった。

 

「そんなふうに見えたなら、謝るよ」

 

 フラーは低く言った。 

 

「わたし、あなたが魅了されないことを特別だと思っていたの」

 

 フラーは続けた。

 

「でも、違うんでしょ。あなたは人の感情を馬鹿にしているのよ。人を愛したことなんてないんだわ」

 

「愛だの恋だのという言葉で、人は簡単に自分の判断を鈍らせる」

 

「判断を鈍らせるものが全部無価値なら、音楽も花も舞踏会も、全部いらないと言うのでしょうね」

 

 フラーはそう言って、金色の髪を揺らして背を向けた。

 

「あなたと踊ったこと、少し後悔しているわ」

 

「まだ舞踏会は終わっていない」

 

「だから、後悔が早く済んでよかったのよ」

 

 フラーはそのまま歩いていった。

 

 周囲の何人かが、見てはいけないものを見た顔で視線をそらす。音楽はまだ流れているのに、その場所だけ少し冷えているみたいだった。

 

「聞かない方がいい話だ」

 

 セオドールが小さく言った。

 

「もう聞こえちゃった」

 

「だろうな」

 

 フラー・デラクールは、怒っていても綺麗だった。

 

 というより、怒っているから余計に綺麗だった。

 

 残されたトムは、氷の彫刻のそばに立ったままだった。

 

 わたしは困った。

 

 こういう時、声をかけるべきなのか、かけないべきなのか。礼儀作法の本には、きっと「他人の揉め事に首を突っ込まない」と書いてある。でも本の通りにできるとは限らない。

 

「……トム」

 

 結局、呼んでしまった。

 

 トムがこちらを見る。

 

 最初にわたしを見た。

 

 次に、隣のセオドールを見た。

 

 その一瞬で、空気が変わった。

 

「マイン」

 

 トムはわたしの名前を呼んだ。声はいつも通りだった。

 

 でも、目はセオドールに向いている。

 

「楽しんでいる?」

 

 トムはわたしに聞いた。

 

「今のところ、踊るより休む時間の方が長いかな」

 

「君らしい」

 

 トムはそう言って、少しだけ口元を緩めた。

 

 その笑みが、セオドールに向いた瞬間、消えた。

 

「君の父親のことはよく知っているよ」

 

 セオドールは驚かなかった。

 

「父上の知り合いか」

 

 トムは一歩近づいた。

 

 わたしとセオドールの間に入るほどではない。でも、セオドールの視線を逃がさない距離だった。

 

「君は父親によく似ている」

 

「僕の何を知ってる」

 

「借りられなかったものを、彼女から盗もうとするなと言っている」

 

 セオドールの表情は、まだ崩れない。

 

 けれど、閉じた本の表紙に、細い傷が入ったような気がした。

 

 トムは淡々と続ける。

 

「本当に優秀な生徒には、ホグワーツは時間すら貸す。そう父親に聞かされて育ったのかな」

 

 セオドールの呼吸が止まった。

 

 ほんの一瞬。

 

 でも、止まった。

 

「……お前は」

 

「僕は、君が思っているより人の心に詳しいんだよ。君の心なんてお見通しだ」

 

 トムの声は冷たかった。

 

「選ばれなかった者ほど、選ばれた者の持ち物をよく見ている。君の目は、マインを見ていない」

 

 セオドールはそこで、初めてわたしを見た。

 

 その目は、さっきまでと同じ静かな色をしていた。けれど、ほんの少しだけ遠くなっている。わたしを見ているのに、わたしの向こう側にある何かを測っているみたいだった。

 

「ローゼマイン」

 

「うん?」

 

「少し飲み物を取ってくる」

 

「え、でも、わたしも——」

 

「すぐ戻る」

 

 セオドールは礼儀正しく言った。

 

 声は落ち着いていた。背筋もまっすぐだった。逃げているようには見えない。

 

 でも、立ち去る判断だけが、速かった。

 

 セオドールは一礼して、人波の方へ歩いていく。途中で一度も振り返らなかった。

 

 わたしはその背中を見送ってから、トムを見上げた。

 

「……今の、なに?」

 

「忠告だよ」

 

 トムはそう言って、ようやくわたしを見た。

 

 その顔は、さっきフラーと話していた時より少し疲れているように見えた。

 

「ドラコはいい兄だと思うけど、妹のパートナー選びは間違えてるな」

 

 わたしはむっとした。

 

「セオドールは悪い人なの? そうは見えなかったよ」

 

「悪い人間なら、もっと分かりやすい」

 

 トムは広間の奥を見る。セオドールの姿はもう人混みに紛れていた。

 

「彼は、まだ何もしていない。だから厄介だ」

 

「何もしてないなら、まだ悪くないんじゃない?」

 

「君は本当に危ない考え方をするね」

 

 トムはため息をついた。

 

 それから、少しだけ低い声で言った。

 

「何もしていない人間が、一番自由に計画を立てられる」

 

 その言い方が、少し怖かった。

 

 わたしはトムの横顔を見る。

 

「ねえ、トム」

 

「何」

 

 音楽が変わる。広間の中央で、誰かが笑った。金色の光が、トムの黒い礼装の肩に落ちている。

 

 まだ何組かが踊っている。ドレスが回り、ローブが揺れ、笑い声が音楽の合間に混じっている。

 

「トムは、フラーのこと好きじゃないの?」

 

 聞いた瞬間、トムは本当に不思議そうな顔をした。

 

 わたしは少し驚いた。

 

 トムは難しい本を読んだときでも、好きな本について説明するときでも、こんな顔はしない。

 

「好き、とは」

 

「えっと、一緒にいたいとか、もっと話したいとか、相手が喜ぶとうれしいとか」

 

「それは利益や所有欲とどう違う?」

 

「……難しいこと聞くね」

 

「君が聞いたんだ」

 

「そうだけど」

 

 トムは少し黙った。

 

 大広間の天井には、魔法で作られた星空が広がっている。冬の星が、ガラスの欠片みたいに光っていた。

 

「愛だ恋だと言われても、僕にはよく分からない」

 

 静かな声だった。

 

 強がっているようにも、苛立っているようにも聞こえなかった。

 

 本当に分からない、という声だった。

 

「人はそれを、とても重要なもののように扱う。だが、説明させると曖昧だ。行動を見れば、しばしば愚かで、矛盾していて、滑稽ですらある」

 

「本にもよく出てくるよ」

 

「だから余計に分からない」

 

 トムはわたしを見た。

 

「本に書かれているなら、理解できるはずだと思っていた」

 

 わたしは少し考えた。

 

 愛とか恋とか。

 

 わたしにもよく分かるわけではない。

 

 でも、分からないことがあるなら、本を読むのが一番だ。

 

「あ」

 

「何か思いついたのかい」

 

「ちょうどトムに読ませたい本がある」

 

「へえ、どんな本?」

 

「うん。『薔薇色の惚れ薬は二度効く』」

 

 トムの眉が、ほんの少しだけ動いた。

 

「題名からして不愉快だね」

 

「でも面白いよ。薬で作った恋は恋じゃないって話」

 

 その瞬間、トムの顔から表情が消えた。

 

 ほんの一瞬だけだった。

 

 でも、消えた。

 

「その本は、どこにある?」

 

「寮」

 

「持ってきて」

 

「今?」

 

「今」

 

「今から読むの?」

 

「そう言った」

 

「でも、舞踏会の最中だよ」

 

「君は舞踏会と本のどちらを優先する?」

 

「本」

 

「なら問題ない」

 

「うん、問題ないね」

 

 問題はある気がした。

 

 でも、本を読みたいと言われて、断る理由はなかった。

 

 わたしは大広間を抜け出して、スリザリン寮まで戻った。

 

 途中でドラコに見つかったらどうしようと思った。見つかったら、絶対に「今度は何を誰に読ませる気だ」と聞かれる。だいたい正しいので困る。

 

 寮に戻って、本を取る。

 ロメルダは「これ、一晩で読めるやつだから。軽そうに見えて、ちゃんと刺さるから」と言っていた。実際、章は短く、文字も大きい。舞踏会の終わりかけに読むには向いていないけれど、読み切れない長さではなかった。

 

 表紙だけを見ると軽い。

 

 けれど、中身はそんなに軽くない。

 

 わたしは本を抱えて、大広間へ戻った。

 

 けれど、トムはもう大広間の中にはいなかった。

 

 少し探すと、扉の外、回廊の壁際にいた。音楽は扉の向こうでまだ鳴っている。こちらには少しだけ遠く聞こえる。

 

「持ってきたよ」

 

 わたしが本を差し出すと、トムは表紙を見た。

 顔には、明らかに「読む前から気に入らない」と書いてあった。

 薔薇色の装丁があまりに女子向けだったからだろう。

 

「趣味が悪い」

 

「中身で判断して」

 

「表紙も中身の一部だ」

 

「それはそう」

 

 わたしたちは、回廊の壁際に並んで座った。

 

 大広間の熱気が少しだけ届く場所だった。扉が開くたびに音楽と笑い声が漏れてくる。外の窓には、雪が静かに降っているのが見えた。

 

 そのとき、薔薇色の表紙の上に、小さな黒い虫が止まった。

 

 わたしは反射的に息をのんだ。

 

「本に虫」

 

 トムがこちらを見る。

 

「どうしたんだい」

 

「本に虫はだめ」

 

 わたしはできるだけ本を傷つけないように、指先でそっと虫を払った。虫は小さく羽を鳴らして、回廊の暗がりへ飛んでいく。

 

「ずいぶん真剣だね」

 

「本を食べる虫かもしれない」

 

「そんな虫には見えないけど?」

 

「可能性が一パーセントでもあるなら排除するべき」

 

「君の警戒基準は、時々とても偏っている」

 

 トムは少しだけ笑った。

 

 それから、彼は本を開いた。

 

 トムは黙って読み始める。

 

 わたしも横から読む。

 

 最初は、軽い恋愛小説みたいだった。

 

 でも、読み進めるほど、話は甘くなくなっていく。

 

 薬で作られた好意は、本人の気持ちではない。

 

 好きにさせた側は、相手の本当の心を得たわけではない。

 

 偽物の好意に縋るほど、自分自身もその嘘に縛られていく。

 

 惚れ薬は、飲まされた人に一度効く。

 

 そして、飲ませた人にも二度目に効く。

 

 トムは途中から、ページをめくる手を遅くした。

 

 わたしは何も言わなかった。

 

 こういうとき、本の途中で話しかけるのはよくない。

 

 扉の向こうで、音楽が一曲終わった。拍手が聞こえた。誰かが笑った。

 

 やがて、トムは最後のページまで読み終えた。

 

 本を閉じる。

 

 しばらく何も言わなかった。

 

「どうだった?」

 

 わたしが聞くと、トムは静かに言った。

 

「今まで読んだ中で一番最低の本だ」

 

 わたしは瞬きをした。

 

「そんなに?」

 

「最低だ」

 

「つまらなかった?」

 

「つまらない本なら、まだよかった」

 

 トムは本の表紙を指でなぞった。

 

 乱暴には扱わなかった。

 

 でも、触れ方がいつもと違った。

 

「これは、愚かで、残酷で、救いがない」

 

「救いがないかな」

 

「ない」

 

 トムの声は冷たかった。

 

「薬で作った感情は、本物ではない。そんなことは当然だ。だが、作った側はそれを本物だと思い込みたがる。飲まされた側は、自分の意思ではないものを背負わされる。そして、薬が切れれば、残るのは嫌悪と侮蔑だけだ」

 

 わたしはトムを見た。

 

 トムは笑っていなかった。

 

「トム?」

 

「僕は、そういう薬の結果だ」

 

 その言い方が、あまりに平坦だったので、意味がすぐには分からなかった。

 

「薬の、結果?」

 

「母は、マグルの男に惚れ薬を使った」

 

 扉の向こうから聞こえる音楽が、急に遠くなった気がした。

 

「彼女はその男を愛していたらしい。だが、その男が彼女を愛したのは、薬のせいだ。薬が切れれば、当然、去る」

 

 トムは本を見下ろした。

 

「そして、僕が残った」

 

 わたしは何を言えばいいのか分からなかった。

 

 分からないときは、本を読む。

 

 でも、今は本が閉じられている。

 

「僕は、最初から望まれなかった」

 

 その言い方が、ひどく静かだった。

 

 静かすぎて、胸の奥が冷たくなる。

 

「この本は正しい」

 

 トムは言った。

 

「だから最低だ」

 

 わたしは本の表紙を見た。

 

 薔薇色の惚れ薬は二度効く。

 

 相手に。

 

 自分に。

 

 それから、生まれてきた子どもにも。

 

 そう思ったけれど、口には出せなかった。

 

「ごめん」

 

 わたしが言うと、トムは少しだけ目を細めた。

 

「君が謝ることではないよ」

 

「でも、読ませた」

 

「僕が読ませろと言った」

 

「でも」

 

「マイン」

 

 トムの声は静かだった。

 

「……君には分からない」

 

 その声は、笑っているのに、笑っていなかった。

 

「それ、どういう意味?」

 

「君を愛する両親や兄がいて、君が危険な本を読めば取り上げようとする人間がいる。倒れれば怒る人間がいる。君が何かを欲しがれば、呆れながらも与えるか、少なくとも止める人間がいる」

 

 トムは淡々と言った。

 

「そういう家に生まれた君には、分からない」

 

 怒鳴ったわけではない。

 

 責めたわけでもない。

 

 ただ、線を引いた。

 

 こちらと、あちら。

 

 分かる者と、分からない者。

 

 選ばれた者と、選ばれなかった者。

 

 わたしは何も言えなかった。

 

 たしかに、分からない。

 

 わたしには父がいる。

 

 母がいる。

 

 ドラコがいる。

 

 わたしが倒れたら怒る人がいる。

 

 本を読みすぎたら叱る人がいる。

 

 危ない本に近づいたら、取り上げようとする人がいる。

 

「……分からない」

 

 わたしは言った。

 

 声が変だった。

 

「分からないよ」

 

 トムは何も言わなかった。

 

「でも」

 

 涙が出た。

 

 自分でもびっくりするくらい、急に出た。

 

「でも、そんなの、嫌だ」

 

 トムの眉が少し動いた。

 

「マイン」

 

「嫌だよ」

 

 わたしは本を抱えるみたいに、トムに抱きついた。

 

 トムの体が固まる。

 

 でも、離れなかった。

 

「分からないけど、嫌だ。トムが最初から望まれてないなんて、言わないで」

 

「……君は」

 

「分からないって言われたら、分からないって言うしかない。でも、嫌だって思うのは、わたしの勝手でしょ」

 

 涙が止まらなかった。

 

 泣くつもりなんてなかった。

 

 トムを困らせるつもりもなかった。

 

 でも、止まらなかった。

 

「トムが捨てられた話を、それが平然みたいに言うの、嫌だよ」

 

 トムはしばらく何も言わなかった。

 

 抱き返してはくれない。

 

 でも、突き放しもしない。

 

 それだけで、今は十分だった。

 

「……君は、本当に理屈が通らない」

 

「うん」

 

「君が泣くのはおかしい」

 

「知ってる」

 

「どうやったら泣き止んでくれる?」

 

「無理」

 

 トムは、小さく息を吐いた。

 

 困っているようだった。

 

 たぶん、ものすごく困っている。

 

 それでも、わたしの肩に置かれた手は、払いのけるためのものではなかった。

 

「君には分からないと言った」

 

「うん」

 

「それは事実だ」

 

「うん」

 

「……でも、泣けとは言っていない」

 

 わたしはもっと泣いた。

 

 トムは今度こそ、本当に困った顔をした。

 

「マイン」

 

「うん」

 

「本が濡れる」

 

 わたしは慌てて顔を上げた。

 

「それはだめ!」

 

「なら、少し離れた方がいい」

 

「やだ」

 

「矛盾している」

 

「本は濡らしたくないけど、離れたくない」

 

「欲張りだね」

 

「うん」

 

 トムは何か言いかけて、やめた。

 

 それから、わたしの肩に置いた手を、ほんの少しだけ動かした。

 

 抱き返すというには弱すぎる。

 

 でも、突き放すには優しすぎる。

 

 わたしはそれだけで、また泣きそうになった。

 

「この本は最低だ」

 

「うん」

 

「だが、間違っていない」

 

「どこが?」

 

「惚れ薬は二度効く、というところだ」

 

 トムの声は、低かった。

 

「飲まされた者に一度。飲ませた者に二度。そして、場合によっては、その後に生まれた者にも残る」

 

 わたしは何も言えなかった。

 

 それは、さっき自分が思ったことと同じだった。

 

 でも、トムの口から聞くと、ずっと重かった。

 

「最低の本だ」

 

 トムは繰り返した。

 

「だから、もう一度読む」

 

「一緒に読む?」

 

「君は泣きながら読めるのかい?」

 

「読める」

 

「本を濡らす」

 

「気をつける」

 

「信用できない」

 

「じゃあ、トムが持って」

 

「最初からそうしている」

 

 わたしたちは、もう一度本を開いた。

 

 薔薇色の表紙。

 

 甘い題名。

 

 最低の本。

 

 でも、トムは読む。

 

 わたしも隣で読む。

 

 大広間の扉の向こうでは、最後の曲が始まっていた。

 

 ユールボールは終わりかけている。

 

 みんなは恋だの舞踏会だのと騒いでいる。

 

 その夜、トムは薔薇色の恋愛小説を、世界で一番嫌そうな顔でもう一度読み始めた。

 

 わたしはまだ少し鼻をすすりながら、トムの持つ本を横から読んでいた。薔薇色の表紙は、さっきより少しだけ冷たく見える。

 

 最低の本。

 

 でも、トムは二度目を読んでいる。

 

 ページをめくる音が、小さく響いた。

 

「マイン」

 

 トムがふと思い出したように口を開いた。

 

「なに?」

 

「時間の巻き戻しすぎには、気をつけなよ」

 

 わたしは顔を上げた。

 

「……今、その話する?」

 

「今だからするんだ」

 

 トムは本から目を離さなかった。

 

「君は、分からないものを本で調べようとする。気に入らない結末があれば、前のページに戻りたがる。時間も同じように扱いかねない」

 

「……待って。なんで、トムがそんなこと知ってるの? タイムターナーの話なんてしたことないのに」

 

 わたしが聞くと、トムは少しだけ目を細めた。

 

「君が僕を過去に連れて戻ったからだ」

 

「え?」

 

「知らなかったのかい」

 

 トムの声は、少しだけ意外そうだった。

 

 わたしは、完全に固まった。

 

「連れて戻ったって……」

 

「君が時間を戻すとき、僕もいつも戻っていた」

 

「トムも?」

 

「そうだ」

 

「え、でも、わたし、そんなつもりじゃ」

 

「だろうね。君はいつも、鞄の中身に対して無頓着だ」

 

「無頓着じゃないよ。本はちゃんと数えてる」

 

「なら、僕も数に入れるべきだった」

 

 トムは淡々と言った。

 

「君が時間を戻したとき、日記も一緒に戻った。僕の魂は日記にある。だから、僕も何度も同じ時間を二度通った」

 

 わたしは息をのんだ。

 

 そんなこと、考えたこともなかった。

 

 タイムターナーで戻るのは、わたしだけだと思っていた。

 

 でも、たしかに。

 

 鞄の中の本も、羊皮紙も、薬も、一緒に戻っていた。

 

 なら、日記も。

 

 トムも? トムの魂が日記にってどういうこと?

 

「なんで今まで言わなかったの?」

 

「一回、とんでもない悪だくみに使ったんだ。君にその話をしたらきっと怒られると思って黙ってた」

 

「何それ」

 

 トムは少しだけ笑った。

 

 でも、その笑いはいつものように軽くなかった。

 

 大広間の中で、最後の曲が終わった。

 

 拍手が聞こえた。

 

 ユールボールが終わる。

 

「次にタイムターナーを使うときは日記を置いていった方がいい?」

 

「僕を置いていった結果、君がろくでもない判断をするなら、連れていった方がましだよ」

 

「心配してくれるの?」

 

「監視だよ」

 

「そっか」

 

 わたしは少しだけ笑った。

 

「じゃあ、いつも持っていくよ」

 

 トムは返事をしなかった。

 

 ただ、少しだけ困ったような顔をして、本の表紙を見た。

 

 扉の向こうで、人が動き始める音がした。

 

 舞踏会が終わり、生徒たちが大広間から出てくる。

 

 わたしたちは、本を閉じてその場を離れた。

 

 恋とか愛とかは、やっぱり難しい。

 

 時間も、たぶん同じくらい難しい。

 

 分からないことばかりだ。

 

 でも、分からないことを一緒に読むことはできる。

 

 それはたぶん、少なくとも、一人で分からないままでいるよりは少しだけましだった。

 

 

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