ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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大丈夫

 

 

 

 

 

ちなっちゃんソロ。

 

それを聞いた千夏は拒絶反応を起こすが如く、首をブンブンと横に振った。

 

 

「うちが、一人でっ!? 三人でならともかく、一人で!? む、むむむ無理やそんなん!」

 

「無理じゃねーよ、千夏! お前なら出来る! オレ様が保証するぜ!」

 

「で、でも……!」

 

「大丈夫だよ、ちなつちゃん!」

 

 

アリアが千夏の両手を優しく握る。

 

 

「私はむしろ、一人の方が簡単だと思うな。私や羽ちゃんがいないから、タイミングを考える必要もないでしょ? 複雑なダンスだってないし、歌だけに集中すればいいの!」

 

「アリアちゃん……」

 

「ちなつちゃんの魅力がストレートに伝わる、いい機会だよ! 今後のライブにも、きっと活かせると思う!」

 

「……っ」

 

 

アリアの言う事は理にかなっている。

 

それが分かっているだけに、千夏は葛藤する。

 

 

「う……うち……」

 

「ステージの台はこれでいいか?」

 

「おお! 良いんじゃねえか?」

 

「なんでもう準備しとんねん!」

 

 

いつの間にかいなくなったと思ったら、横長の小さいステージを用意していたタクミ。

 

迷っていた千夏だが、ようやく覚悟を決める。

 

 

「……あーもう! そこまで言うんなら、や……やったるわ!」

 

「お~! 千夏ちゃんの勇気に乾杯っ!」

 

「それじゃあ早速スタンバイね、ちなっちゃん!」

 

 

心の準備を、という訳にもいかず。

 

緊張をほぐす怒涛の全身マッサージ。

 

 

そしてメガホンマイクを手に持ち、流れるようにステージの上に立った千夏。

 

 

「ハローみんな、注目~! 妄想エンジェル作曲家サマの、ゲリラライブだよ~!」

 

(羽~! ハードル上げんな~っ!)

 

 

千夏は心の中で叫ぶが、届く訳もなく。

 

羽の呼びかけにより、リバーブ・アリーナにいた人全員の視線が千夏へと集まった。

 

 

「……っ!」

 

 

体温が上昇していくのを自分で感じながらも……千夏は勇気を出し、声を出した。

 

 

 

『──僕に、歌を書かせて』

 

 

 

小さな歌声が、リバーブ・アリーナ中に響き渡る。

 

 

『思い出のメロディー、気付いて』

 

『譜面に隠した、トキメキ』

 

 

それは、セルシーやアストラが歌うようなものではないのかもしれない。

 

 

『ふたりきり熱くなる、気になって溢れ出す』

 

『ほら、愛の歌』

 

 

 

 

「……!!」

 

 

だがそれでも、彼女が目を瞑りながらも歌うその歌は、聴く者の心を掴んだ事だろう。

 

 

 

 

「……お、おおきに」

 

 

千夏がそう言った直後、歓声が沸き上がった。

 

こうして、突拍子に行われた一分にも満たない小規模のライブ(リハ)は、無事成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千夏~! 最高だったよ!」

 

「全くだ! だから言っただろ? お前なら出来るって!」

 

「うう……」

 

 

歌のお披露目が終わった後も、千夏からは緊張が抜けきっていなかった。

 

 

「これは黄金の日も、俄然楽しみになって来たかも! ねえねえ羽ちゃん、チケットってまだ売り切れてない?」

 

「おっ、二人も買ってくれるの?」

 

「おう、もちろん! 三人ならきっと最高のライブにできるぜ。楽しみにしてっからな!」

 

 

無事にチケットが二枚、シーザーとバーニスへ行き渡った。

 

 

「これで二人も、モーソー族の仲間入りかな?」

 

「うん? モーソー族ってなんだ?」

 

「妄想エンジェルのファンの総称だな」

 

「ファン……か。タクミ、お前もそうなのか?」

 

「ああ。まだ日は浅いけどな」

 

「……へ、へえ~……い、意外だな。お前ってそういうのも、興味あんだな。へえ~」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後はシーザーとバーニスの力も借り、リバーブ・アリーナでのチケット販売は想定以上の枚数を売る事が出来た。

 

 

アリアとタクミが担当していた分のチケットは、無事完売。

 

 

「リバーブ・アリーナにいた人のほとんどが、チケットを買ってくれてるみたいだな」

 

「うん……! ちなつちゃんのゲリラライブが功を奏したんだね! 当日は、きっと最高のライブになるよ!」

 

 

ルミナスクエアにいた時と比べると、アリアの調子はマシになってきたようだ。

 

黄金の日は目前。

 

 

「……ねえ、タクミくん。セシリア先生……セルシー様の事なんだけど。もしかして、タクミくんは……知ってた?」

 

「……ああ」

 

「そっか……セシリア先生は、何て言ってたの?」

 

「……自分から打ち明けたいから、言わないで欲しいって」

 

「……」

 

 

セシリアはアリアを信用していない訳ではない。

 

それは彼女自身も分かっている。

 

 

「……私ね。ここに来るまでに、ずっと考えてたの。まだ、論理コアのもやもやが抜けないんだ……黄金の日も近いのに」

 

 

いっそ『仲間』の事も、『セシリア先生』の事も、黄金の日だけは何も気にしないようにすればいい。

 

そうすれば、千夏や羽に余計な気を遣わせることもないと。

 

その考えも、頭に浮かんだ。

 

 

「でもやっぱり、盤岳さんの言う通り、それをそのままにしてたら……きっとちなつちゃんと羽ちゃんに迷惑をかけちゃう。ううん、二人だけじゃない、ライブを観に来てくれる皆にも、迷惑をかける」

 

「…………」

 

「……ホントは二人の為に、いっそライブには出ない方がいいんじゃないかって思ったけど……それだとタクミくんは」

 

「絶対嫌だ」

 

「そ、そんな食い気味に否定しなくても……」

 

 

いちモーソー族として、三人揃っていない妄想エンジェルを、妄想エンジェルとは認めたくはない。

 

それはきっと千夏も羽も同じ事だろう。

 

 

「大丈夫だよ、ライブは辞退なんかしない。だからね、私──明日、セシリア先生と話してみる。黄金の日までに、わだかまりを全部なくしたい」

 

「アリア……」

 

「だって私、アイドルだもん。皆にモーソーを届けるなら、最高のコンディションじゃなくっちゃ! ちなつちゃんと羽ちゃんにとっては、迷惑かもしれないけど……」

 

「迷惑~? ちょっとアリアちゃん、変な捏造しないでくれる?」

 

「羽の言う通りや! 誰が迷惑やなんて思うねん!」

 

「! 羽ちゃん、ちなつちゃん……」

 

 

チケットを売り終えた羽と千夏、そしてリンが、いつの間にか近くにいた。

 

 

「確かに、お客さんに迷惑はかけらんないよね。だからこそ、ボクたちがいるんじゃん?」

 

「うちらになら、バンバン迷惑かけてもろてもええから! あ……でも、ダンスの振り付けを考える時は、ちょっと容赦してな……」

 

「ちなっちゃん?」

 

「し、仕方ないやろ! 羽だって、昔アリアちゃんが考えてた振り付けで息切らしとったやん!」

 

「踊れるだけマシだよ? ちなっちゃんなんて全然踊れなくて泣いてたよね~あの時?」

 

「泣いてへんわ!」

 

「お、落ち着いて二人とも……! あの時はごめんね、泣かせちゃって……」

 

「泣いてへんわ!!」

 

 

千夏の恥ずかしい過去が暴露されたところで、羽はアリアににこりと笑いかける。

 

 

「ま、要するに……ボクたちに対しては、雑に頼って、それで迷惑をかけちゃってもいいって事。それにほら、今はそんな『迷惑をかけていい人』が三人も増えたんだからさ!」

 

「そうそう! 羽や千夏だけじゃなくて、私たちにもじゃんじゃん迷惑をかけていいんだから!」

 

「わだかまりをなくしたいなら、俺達もできる限りで手助けをする。だから黄金の日は三人で、最高のパフォーマンスを見せて欲しい」

 

「店長さん……タクミくん……」

 

 

アリアは知能構造体。

 

泣く事こそ出来ないが……それでも暖かいものが心に満ち、涙のように溢れるような感覚がした。

 

 

「みんな、ありがとう……」

 

 

アリアは涙の代わりに、とびきりの暖かい笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……くっだらないなあ』

 

 

タブレットの奥。

 

『目』は、彼女たちの顛末を嘲笑うかのように見ていた。

 

 

 

 

そして、見据える。

 

『計画』の、その行く末を。

 

 

 

『全く……お前の愚かさには呆れるよ、アリア』

 

 

黄金の日は、目前に迫っている。

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