ZZZ × 555   作:びぎなぁ

375 / 375
セシリア

 

 

 

 

 

次の日の早朝。

 

珍しくアキラとリンより先に起きたタクミは、一足先に『404』へと向かった。

 

今日は妄想エンジェルのリハの日だが、この時間は誰も来ていないだろう。

 

 

 

しかし入り口の階段を降りていき、カウンターまで行くと、見慣れた姿が目に入った。

 

 

 

「……あれ、タクミくん? おはよう……なんか今日、随分早いね?」

 

「……まあ、アレだ。今日は……なんか、早くに目が覚めたから」

 

「……もしかして、心配してたの? 私と、セシリア先生の事……」

 

「……」

 

「ふふっ……タクミくんって、やっぱり分かりやすいよね。ちなつちゃん以上かも」

 

「それはさすがに嘘だよな?」

 

「嘘じゃないよ?」

 

「……えっ」

 

 

大分前に、アンビーから『貴方はビリーより分かりやすい』と言われたことがある。

 

まさかタクミの知るあらゆる人物よりも、タクミ自身が一番分かりやすいと言うのだろうか。

 

 

「……」

 

 

 

とは言え、(悔しいことに)アリアの言った事は正しい。

 

何せ先ほどみた彼女は、非常に緊張した様子だったのだ。

 

 

昨日リバーブ・アリーナで、セシリアと話し合いをすると言っていたアリア。

 

セルシーの事について、色々と聞くつもりでいるらしい。

 

もちろんその話し合いに、タクミは介入しない。

 

 

 

アリアは内心、話し合いが無事に終わるか不安なのだ。

 

 

(……大丈夫。喧嘩とかするわけじゃないから)

 

 

彼女とセシリア、両者とも悪意はない。

 

故に話し合いは滞りなく進むはずだが……それでも、『何も心配は要らない』訳ではない。

 

 

「だってセシリア先生にも、訳があったはず……だもんね。私を信用してない訳じゃ、なかったもんね」

 

「…………」

 

「……うん、大丈夫。きっと全部上手くいくはず……!」

 

「? アリア、何をしているの?」

 

「!!」

 

 

噂をすればなんとやら。

 

奥の部屋から、セシリアが姿を現した。

 

 

「せ、セシリア先生……おはよう……!」

 

「おはよう、アリア。タクミくんもおはよう」

 

「おはよう、ございます」

 

「……っ」

 

「……? どうしたの、アリア」

 

 

いきなり彼女が来た事で、軽くパニックになるアリア。

 

不思議に思うセシリアを他所に、深く深呼吸をする。

 

 

「……セシリア、先生。えっとね。ちょっと、聞きたいことがあるの」

 

「どうしたの? ヴェスポさんの事なら……彼女はまだ来ていないわよ」

 

「ううん。違うの……聞きたいのは、先生の事」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア先生が、セルシー様だって……本当?」

 

「……え?」

 

 

あまりにも単刀直入かつシンプルな質問に、セシリアは却ってそれを理解するのに時間がかかった。

 

アリアの言葉を理解したセシリアの瞳が揺れる。

 

 

「……どこで、それを? ……まさか」

 

 

セシリアはアリアの後ろにいるタクミを見る。

 

慌ててアリアが弁明する。

 

 

「あ、違うの先生! タクミくんから聞いたわけじゃなくて……昨日、偶然聞いちゃったの。イェン姉から……前に先生が、私に連絡してた事」

 

「……そう、だったのね」

 

「その……怒ってるわけじゃないの! 確かに、びっくりはしたけど……でも、のっぴきならない理由があったんでしょ?」

 

「…………」

 

 

アリアはあくまで『気にしていない』と言った感じで振る舞う。

 

だがセシリアには、想像できた事だろう。

 

 

信じていた人間が、今に至るまで隠し事を続けていた事を知った時……アリアが何を思ったのか。

 

 

「……私を許す必要はないわ、アリア」

 

「え?」

 

「もっと早く、この事を私の口から打ち明けられていたら……いいえ、それでも許してもらおうなんて、烏滸がましいわ。私は我が身可愛さに、ずっと逃げ続けてきた」

 

 

歌う事を恐れ、話す事を恐れた。

 

そうして臆し続けた結果、アリアの心を傷つけてしまった。

 

 

「アリア。貴女は優しいから、私を許そうとするでしょう。……けど、そうする必要なんてない。臆病な私には、相応しい罰だと思うわ」

 

「……セシリア先生……ううん、セルシー様は、どうして引退したの?」

 

「……旧都陥落の光景を目にしてから、私は……歌えなくなってしまったの」

 

 

世界を癒す歌声を届けようとしても、その声は震え。

 

暖かい想いを込めたはずの歌詞も、彼女にとっては上っ面だけのものだと思えて仕方がなかった。

 

 

「……そんな時、私のマネージャーが貴女の動画を見せたの。私そっくりの声で歌う、貴女の姿を」

 

 

アリアをスカウトした後は、彼女の声を『セルシーの歌声』として、いくつかの公演を代わりに録音した。

 

だが、彼女の才能と歌を自身の影に隠し続ける事を拒否したセルシーは、それ以上活動を続ける事はなかった。

 

 

「旧都陥落から引退までの数年間、貴女が私の代わりに届けてくれたあの歌声には、確かに『想い』が宿っていた。そしてそれは、私を立ち直らせてくれた」

 

「……先生」

 

「貴女に打ち明けられなかったのは……怖かったの。貴女が憧れた『セルシー』が、本当はトラウマで歌えなくなっていたなんて……それを話した時、失望されてしまうのが」

 

 

セルシーは涙も流さず、俯いたまま話し続ける。

 

泣く資格すらないのだと、自身をそう戒めていた。

 

 

「……貴女の声を私の声だと偽った私に、再び歌う資格なんてない。セルシーは……もういないの。貴女の目の前にいるのは、ただの臆病者のセシリアだから」

 

「…………」

 

 

アリアはセシリアの言葉を聞いた後、何も言わずに一歩前に出る。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の両手を、ぎゅっと握った。

 

 

「……アリア?」

 

「……そんな事、言わないでください」

 

 

顔を上げると、ホログラムを解き、知能構造体の姿に変わったアリアの顔が視界に映る。

 

 

「アリアが『あの時』目覚めたのは……セルシー様の歌声があったからです。多数を構成する『一単位』に個性を、感情をくれたのは……他でもない、セルシー様です。それは、今でも変わりません」

 

「……でも、そのセルシーはもう……」

 

「……確かに、セシリア先生がそう言うのなら……『セルシー様』は、もういないのかもしれません。けどそれとは別に、アリアにはもう一人、感謝すべき人がいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それは、貴女です。『セシリア先生』」

 

「!」

 

 

セシリアの眼が、大きく見開かれる。

 

 

「さっき……『怖いから打ち明けられなかった』って、言いましたよね。けどそれって、『怖くてもアリア達を支え続けた』って言い方も、できますよね?」

 

「……!」

 

 

タクミはアリアの言葉を聞き、納得した。

 

確かにアリアの言う通り、打ち明けたくないのなら、そもそもアリアと再会しなければ良かったのだ。

 

それでも再びアリアと会い、『妄想エンジェル』のマネージャーとして彼女たちといる事を選んだ理由。

 

 

 

それは自身を癒してくれた『アリア』の歌声を、新エリー都へ響かせたかったから。

 

 

「……アリアの歌声がセシリア先生を癒したって聞いて、凄く嬉しかったです。けど、アリアはそんな貴女からそれ以上のものを、いっぱい、いっぱい貰いました……!」

 

「……あり、あ……」

 

「だから、言わせてください。伝えさせてください。今も昔も、『貴女』はアリアにとって……沢山の『ありがとう』を届けたい人だって事を」

 

「……っ!」

 

 

セシリアは震えたまま、アリアにゆっくりと抱き着く。

 

そしてとうとう堪えきれず、静かに嗚咽を漏らし始めた。

 

 

「ごめん……なさい……! ほんとうに、ごめんなさい……アリア……!」

 

 

それに対しアリアは何も言わずに、そっとセシリアを抱きしめ返す。

 

 

「あなたを信じていながら……! あなたに信じられていながら……! わたしは……っ」

 

 

まだ人気のない早朝のライブハウス。

 

その空間で一つの泣き声が、静かに響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五分ほど経った後。

 

セシリアは泣き止み、その眼は赤く腫れていた。

 

 

「……ごめんなさい、みっともない所を見せて」

 

 

セシリアは二人を見守っていたタクミを見る。

 

 

「……タクミくん。貴方にも、迷惑をかけてしまったわね。私が早く打ち明けられなかったせいで、要らない気を遣わせてしまって……」

 

「気にしないでください。二人のわだかまりってやつが、ようやく消えて何よりっす」

 

「……私がいない間、アリアの相談相手になってくれたのね。本当にありがとう」

 

 

再び、アリアの方を向く。

 

 

「……アリア。もし貴女が、私を許してくれるのなら……一つ、約束させてほしいの」

 

「!」

 

「もう二度と、貴女の心を傷つけるような事はしないって。隠し事も、絶対にしないって。約束するわ」

 

 

セシリアの言葉に、アリアは笑顔を見せる。

 

 

「……ぜ、絶対じゃなくてもいいんですよっ? その、些細な事くらいは別に……でも、分かりました。約束、ですね」

 

 

白い小さな小指と、細長い綺麗な小指が結ばれる。

 

小さなライブハウスで、大きな絆がより強まった瞬間だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

Blue Archive vol.AGITΩ(作者:mukugawa)(原作:ブルーアーカイブ)

▼ ────少年はAGITΩである。▼ ▼ 


総合評価:656/評価:8.43/連載:33話/更新日時:2026年08月16日(日) 00:00 小説情報

夢の力で青春を手助け(作者:ライダー志望)(原作:ブルーアーカイブ)

何故かゼッツ由来の夢の力を持ってキヴォトスで生活する青年の日記。


総合評価:1246/評価:8.61/連載:64話/更新日時:2026年11月04日(水) 10:43 小説情報

能力だけのコミュ障なんです(ガチ)(作者:枕オバケ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

転生してアニメのキャラの能力を使えたため強かったけど、メンタルは貧弱でコミュ障な主人公が勘違いされたりする話。▼「本当にコミュ障なだけなのに……能力が強いだけなのに……絶大な期待をされてる…」▼「はぁ……辛い。嫌われてたらどうしよう……あぁ、辛い」▼↑こんな感じです▼


総合評価:954/評価:7.35/連載:10話/更新日時:2026年10月31日(土) 00:44 小説情報

ダークディケイドの力持ってゼンゼロの世界に転生出来たけどカメンライドできる種類が酷すぎる。(作者:そらまめまめま)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼どこにでもいる特撮オタクの高校生が車で轢かれた▼転生出来て、ダークディケイドの力を持ってた事に気付いた時はそこそこ喜んだけどカメンライドできるライダーがデメリットライダーしか無かった。▼主人公のプロフィールを見た上で、デメリットフォームならこれも入るんじゃない?ってやつがあったらコメントで教えてくれると助かります。


総合評価:306/評価:8.33/連載:20話/更新日時:2026年11月05日(木) 19:56 小説情報

ヴィクトリア家政の女装メイド(作者:ゆうぐれ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

ひょんなことからヴィクトリア家政の『業務現場』を見てしまった主人公(♂)。▼口止め兼人材発掘と称して(半端強制的に)スカウトされてしまう羽目に。▼しかも提示された職務内容は執事ではなくメイド。▼果たして彼は女装メイドとして任務を上手くこなすことは出来るのだろうか。▼この話はオリキャラがヴィクトリア家政で頑張る話です。ゼンゼロの家政チームがお気に入りだったので…


総合評価:8189/評価:8.92/連載:58話/更新日時:2026年11月01日(日) 00:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>