死の支配者と天の覇王   作:アキ山

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聖王国編の劇場公開が終わって少し寂しい

円盤が出たら買おうっと




第7話

 ローブル聖王国攻略の為に亜人達が起こした乾坤一擲の戦、それが亜人達の敗走に終わった夜のことだ。

 

 翼亜人の若き族長であるガルガは、部隊の撤退を確認すると一人要塞線の前に戻ってきていた。 

 

 理由は殿を受け持ってくれた師匠くるっくーの安否を確かめる為である。

 

「師匠、大丈夫だよな」

 

 日が沈んで夜空を覆う満天の星の中、他の物よりもひと際蒼く光る連なった七つの星を見上げてガルガは問う。

 

 ガルガは一族の中で天才と称される程の才覚を持った男だった。

 

 喧嘩なら同族はもちろんアベリオン丘陵の亜人でも負けた事は無いし頭だって切れる。

 

 武神と言われた3亜人へ弟子入りを推薦されたのも、その高い能力が故だ。

 

 そんなガルガにして、師匠のくるっくーを始めとする3亜人は隔絶した存在と認めざるを得なかった。

 

 その一撃は固い大地を切り裂き、手刀の余波は真空の刃となって弓矢が届くかどうかという距離に置かれた鎧を紙のように切り裂く。

 

 長年練り上げられた動きは神速にして玄妙。

 

 伝説に謳われた十三英雄ですら、捉えるのはおろか追い縋るのも難しいだろう。

 

 現に翔天拳の修行を始めて十数年が経つが、ガルガは師匠に今の今まで組手で一撃を入れたことすらない。

 

 そんな師匠に加えて、同等の力を持つ友が2人も揃っているのだ。

 

 後れを取るなどありえない

 

 そう思ってはいるのだが、撤退時に師匠と交わした言葉を考えると不安がぬぐえない。

 

 そうして苛立ちを隠せずに待つ事しばし、ガルガの前に要塞線の方向から二つの影が現れた。

 

 一つはパベル・バラハ。

 

 要塞線の守護神の一人として、アべリオン丘陵に住む亜人の中でも有名な男だ。 

 

 そして精悍な黒い巨馬に乗ったもう一人は師達が拳王と呼んでいた偉丈夫。

 

 拳王の姿を見た瞬間、ガルガは怒髪天を衝いた。

 

「きぃさまぁッ! 師匠達をどうしたぁぁぁっ!!」 

 

 あの男が現れたという事は、くるっくー達の敗死を意味する。

 

 それを悟ったガルガは宙を舞い、拳王へと襲いかかる。

 

 しかし、襲われた側も大人しくガルガの拳に掛かるほど甘くはない。

 

「ぬんっ!」

 

 巨馬の背から飛び立つと空を疾るガルガを迎え撃った。

 

「うおおおおおおおっ! ───なっ!?」

 

 空中戦なら翔天拳を使う自分に分がある。

 

 そう思っていたガルガは我が目を疑った。

 

 何故なら拳王の動きは自分と同じ……否!

 

 矢のような速度で飛び、間合いに入った瞬間に三つの残像を生み出しながら高速で襲いかかる様は南斗翔天拳の使い手として己を超えていたからだ。

 

「う…うそだっ!?」

 

 うめくように言葉を漏らすガルガに拳王は容赦なく襲いかかる。

 

 左上、右上、そして正面の三方から斬りかかる拳王の技はガルガには見覚えがないものだ。

 

『し…師匠……!』

 

 しかしガルガはその動きの中に己の師くるっくーの姿を見た。 

 

 静寂を称えた夜闇の中に響くのは硬質なモノを断つような甲高い音。

 

 それに続くように戦場では聞き飽きた肉切り音と血飛沫が上がる音が後を追う。

 

 空中で繰り広げられた刹那の交差、それは無傷の拳王と大きく身体を切り裂かれたガルガという結果に終わった。

 

「ば…馬鹿な……!? 今の動きは…南斗翔天拳!」

 

 仰向けに倒れた身体を起こそうと足掻きながら驚愕の声を上げるガルガ。

 

 その言葉を受けた拳王はゆっくりと振り返る。

 

「北斗神拳奥義・水影心。我が拳は戦った相手の技を己が分身にできる」

 

 ゼクトールはガルガの前に立つと、ズボンのポケットからある物を取り出した。

 

 ガルガの眼前に差し出されたそれは血に濡れた羽と肉がこびり付いた鋼片、そして一本の猛獣の爪だった。

 

「あの三人の亡骸だ。葬ってやるがいい」

 

 拳王の言葉にガルガの頭に再び血が上る。

 

 ふざけるなという言葉が口を衝きそうになったが、それを押しとどめるモノがあった。

 

 それは差し出された手の上に滴る鮮血だった。

 

 視線を上げれば、拳王の両肩と胸を覆うように巻かれた包帯が赤く染まっていた。

 

 この血はそこから落ちてきたモノだった。

 

「その傷は師匠達から受けた物か?」

 

「そうだ」

 

「ならば、なぜ塞がん!? その程度なら中位の治癒魔法で跡形も無く消せるはずだ!」

 

 ガルガにとって拳王が負傷を放置している事が不思議でならなかった。

 

 仮に人間どもの治癒魔法士が全滅していても、この世界にはポーション等の便利な回復道具がある。

 

 品質や使用者の力量によって効果は左右されるが、それらはモノによっては致命に至る傷や四肢の欠損すら回復させることが可能だ。

 

 師を討った事を考えれば拳王は聖王国最強の戦士に違いない。

 

 奴が望めばそれらの治療は、いくらでも受けることが出来る筈なのだ。

 

「それはできぬ」 

 

 そんなガルガの声に拳王は首を横に振る。

 

「この傷は奴等が身命と誇りを賭して俺に与えたモノ。それを消すなど俺と命を賭して戦った者達への冒涜である!」

 

「お前は……」

 

 敵を敬うような言葉にガルガが絶句する中、拳王はさらに続ける。

 

「お前の師と俺は立場の違いによって相対し、武術家として拳力を競い合った。ならば、互いの生死は結果にすぎぬ」

 

 拳法家たる者、常在戦場を心掛ける以上は常に己の死を覚悟している。

 

 それ故に他流との戦いで力及ばずに果てたとしても天命であり本望。

 

 そこに恨みを残すのは恥でしかない。

 

 だからこそ、くるっくー達は笑って逝ったのだ。

 

「彼等の魂は傷と共にこの身に刻もう。そして技は血肉として我が拳に宿す」

 

 まっすぐにガルガを見る拳王の目には僅かな揺らぎも無かった。

 

 それは彼の行いが拳士として当然であり、そこに罪過など無いという証明でもあった。

 

『ガルガよ。もし儂が他流との戦いで敗れて命を落としても、その者を恨むでないぞ』

 

 拳王の眼を見ていたガルガの脳裏に、在りし日に交わした師との会話が蘇る。

 

 当時のガルガは師の言葉に何故かと問うた。

 

 大切な者を奪われたのなら、怒り恨み報復するのが当然と考えていたからだ。

 

 しかし師はそんなガルガの言葉を可笑しそうに笑った。

 

『拳士は布団の上で大往生を迎えるよりも、戦いの中に死すことを望むモノよ。相手が己が強敵と認めた相手であれば猶更な』

 

 唖然とするガルガに師は不敵な笑みと共にこう言った。

 

『よいか、ガルガよ。戦いの末に儂が死んだら笑え。偏屈なジジイが己の本懐を遂げたとな。そして骸に酒でも振りかけてくれれば、弔いとしては十分じゃ。間違っても仇討など考えてはいかんぞ』

 

 今にして思えば、晩年を迎えた師は武人としての死に場所を求めていたのかもしれない。

 

 寂しさと悲しみに溢れそうになる涙をこらえて、ガルガは拳王の手から師達の亡骸を受け取る。

 

 拳王は為すべき事は為したと言わんばかりに背を向けると、巨馬へとまたがった。

 

「ガルガよ。先ほどうぬを打ち倒したのは南斗翔天拳の奥義、夢翔烈破。くるっくーが最後に放った技だ」

 

「あ…あれが奥義……」

 

 拳王の言葉にガルガは息を呑む。

 

 同時に師が死力を尽くして戦い、散った事も悟った。

 

「貴様に伝承者の資格があるならば、その傷と痛みが奥義へと導こう。精進するがいい」

 

「何故だ! 何故、そこまでする!?」

 

 馬を反転させて去り行く拳王の背中に叫ぶガルガ。 

 

 師と奴が敵同士だったのだ。

 

 襲撃される危険を冒してまで亡骸を返すことも、ガルガに奥義を見せる必要もなかった筈だ。

 

 そんなガルガの叫びにゼクトールは馬の足を止めて振り返る。

 

「我が拳の前に散って逝った強敵への義ゆえに」

 

 その言葉にガルガは師の亡骸を握りしめて立ち上がる。

 

「拳王と言ったな! 俺は南斗翔天拳の伝承者になる! そして貴様を倒す!!」

 

 それは気が付けたガルガの口を衝いていた言葉だった。

 

「師の敵討ちならば止めておけ。憎しみの拳では北斗神拳を超えることはできぬ」 

 

「怨恨ではない! 俺は南斗翔天拳が最強であることを示す為に挑むのだ!!」

 

 そう叫ぶガルガの目には、先ほどまであった憎しみによる曇りは無い。

 

「よかろう。この命、奪いたくば何時でも来るがよい」

 

 その宣言を受けた拳王は小さく口元に笑みを浮かべると、巨馬の蹄が立てる地響きと共にガルガのもとを去った。

 

 その後、アべリオン丘陵にある翼亜人の集落に戻ったガルガは、首長を表す位である翼王の名を返上した。

 

「兄者、何故だ!? 兄者以外に翼王に相応しい者などいない! 俺では無理だ!!」

 

「すまんな、弟よ。俺は一人の拳士として南斗翔天拳を極めると決めたのだ」

 

 最後まで渋る弟を説得して族長の座を譲ると、彼はケジメとして一族から己の名を消した。

 

 そして簡単に旅装を纏めると、拳を磨くための武者修行の旅に出た。

 

「さて、まずは評議国へ行ってみるか」

 

 その後、ガルガは様々な出会いと別れを繰り返して奥義へ至る事となるが、それは別の話だ

 

 

 

「悟君や、ハイソなパーティに出席経験とかある?」 

 

「あるわけないだろ。お前こそ無いのかよ? 北斗の拳の成功記念とかで」

 

「あんなん上層部だけでやって、声優なんか呼ばれんかったわい」

 

 来客用の控室として与えられたカリンシャ庁舎の一室、そこで俺は悟と苦虫を噛み潰したような顔で話し合っていた。

 

 その原因は間もなく始まる亜人撃退を祝したパーティ。

 

 聖王国の政府高官や貴族たちが集まるそれに俺達も出る羽目になってしまったからだ。

 

 というか、戦勝記念の宴会なら3日前に要塞線でやってるっつーの。

 

 あの時は勝利の立役者とかいって悟と一緒に兵士の皆にしこたま飲まされたなぁ。

 

 ゼクトールボディじゃなかったら泥酔間違いなしなところだ。

 

 あそこで酔い潰れていたら、くるっくーさんに申し訳が立たんところだったし。

 

 くるっくーさんの弟子に水影心で翔天拳の奥義を見せたのは、ある種のケジメだ。

 

 彼があの翼亜人にどこまで仕込んでいたのかは知らんが、奥義を伝えずに死んだのなら心残りになるだろうからな。

 

 同郷のよしみとして、お節介を焼くくらいはしてもいいだろう。

 

 一緒に来てもらったパベルさんも俺の行動には感じる所があったらしく『……お前さんはいい奴だな』と、妙に感心されてしまった。

 

 亜人と内通していないってアリバイの為にと娘さんとの団らんの時を邪魔したのに、本当にいい人だ。

 

 そして祝勝会の翌日には要塞線の警備を常駐組のパベルさん達に任せて、俺達は聖騎士団とカリンシャへ戻る事になった。

 

 悟がゲートの魔法を使えば一瞬で着くのだが、手の内はあまり晒したくないという事で却下。

 

 馬で移動する聖騎士達の後ろを俺が召喚した黒王号に2ケツで付いていく事になった。

 

 黒王号は北斗の拳イベント優勝者に与えらえる専用の召喚ユニットだ。

 

 身も心も馬なので言葉は話せないが、視線やしぐさで意思疎通は可能。

 

 レベルも100なので、ステータス的には階層守護者と正面からやり合える程の強さを持つ。

 

 そのスペック故に全開で走れば普通の馬など容易に置き去りにしてしまうので、道中は他の馬が走るのをデカい黒王がジョギング的な感じでついていく妙な絵面になってしまった。 

 

 ちなみに休憩時間で転龍呼吸法の事を説明したら『なにそのチート!?』と悟がブチキレたのはご愛敬である。

 

 そうしてカリンシャに辿り着いた俺達はカルカさん達の出迎えを受けた。

 

 要塞線での戦いの報告やら何やら細かい事は聖騎士団がやるだろうし、適当に謝礼を受ければ俺達はお役御免……そう思っていた時期がありました。

 

 俺達の予定を大きく狂わせたのは、唐突に飛んできた国の上層部が集まる祝勝会の誘いだった。

 

 最初は礼儀を知らない無作法者だからと断ろうとしたのだが、妙に圧が強いカルカさんとケラルトさんによってそれは阻まれてしまった。

 

 カスポンド殿下もオフレコで『お願いだから参加してくれ。でないと八つ当たりで私が殺される』と青い顔で言っていたし。

 

 流石に一国のトップ達から熱烈に誘われてNoを突きつけられる程、俺達の肝は図太くない。

 

 そんな訳で参加を余儀なくされてしまったのだ。

 

 理由はどうあれ、参加するとなれば相応の格好をしなくてはならないのだが……

 

「モモンガ最強装備はないわー」

 

「そう言うお前は拳王様コスじゃねーか」

 

 俺達は礼服など持っていない。

 

 それ以前にこの世界の正装を見た事ないから、どんな格好で行けばいいのかさっぱり分からん。

 

「お客人、そろそろ開宴ですよ」 

 

「「アッハイ」」

 

 結局、俺達は例のビジネススーツで行く事にした。

 

 要塞線で一着ダメにしたが、あのイベントで何着か色や柄違いの同じ装備が配布されていたので問題ないのだ。

 

 ガチの礼服型があれば一番良かったんだが、まあ妙な格好をするよりも無難だろう。

 

 メイドさんに案内されて足を踏み入れた宴の会場は思った以上に煌びやかだった。

 

「こりゃあ凄いな」

 

「ああ、会社の100周年記念式典でもここまでじゃなかったぞ」

 

 お上りさんよろしく辺りを見回しまくってしまったが、その辺は小市民のサガという奴だろう。

 

「モモンガさん! ゼクトールさん! こっちです!!」

 

 貴族と思われる連中からアウェイな視線をバンバン食らっている中、俺達へ駆け寄ってきたのはケラルトさんだった。

 

「えっと……今更ですけど、俺達参加してよかったんですかね?」

 

「周りの連中なら気にしないでください。国の一大事に自分の屋敷で震えるか他国に高飛びする算段をしていた方々ですし。お二人は要塞線防衛の立役者なんですからもっと胸を張りましょう!」

 

 基本的に空気が読める人な悟が遠慮しがちに声をかけるが、ケラルトさんはそんな奴の言葉を笑い飛ばした。

 

 というか、他の貴族たちに結構聞こえている筈なんだけどスゲエ胆力だ。

 

 そんなケラルトさんに連れられて貴賓席のような場所へ行くと、そこにはレメディオス団長とカルカさん、そしてカスポンド殿下がいた。

 

「すみません、ゼクトール様、モモンガ様。不慣れな場所へ呼び出してしまって」 

 

「いや、こっちこそ無骨者で申し訳ない」

 

 申し訳なさそうなカルカさんに俺は慌てて会釈をする。

 

 彼女は女王なんだから、諸侯の前で頭を下げさせるのは拙い。

 

「カルカ達を助けてくれたこともそうだが、今回の防衛戦で君達が活躍したのも聞いている。特にバラハ兵士長はゼクトール殿がいなければ、要塞線中央の守りは突破されていたと文に記していたくらいだからね」

 

「はぁ」

 

 パベルさんはくるっくーさん達の襲来について言ってるんだろうけど、あれは因果が逆なんだよなぁ。

 

 あの時のガルガの言葉からすると今まで彼等は聖王国の戦争には手を出していなかったみたいだし、むしろ俺達がいたからこそ戦場に顔を出したと考えるべきだ。

 

「俺はモモンガよりも役にたってませんけどね。コイツは左翼の敵を一人で殆ど吹っ飛ばしたし」

 

「適材適所って奴ですよ。コイツは対強敵、魔法詠唱者の私は集団に対処という事で」

 

 俺がそう返すと悟もそれに後追いする。

 

「それで今回の宴でお二人の事を貴族達に伝えたいと思うのです」 

 

「え……私達はただの旅人ですよ」 

 

「成り行きで手を貸した助っ人に大げさなのでは?」

 

「信賞必罰はどんな組織でも必要不可欠なものだ。あれだけの功を上げた君達に恩賞を与えなければ要塞線で戦った兵士たちは納得しないし、私達上層部の面子が立たない。申し訳ないが付き合ってくれないか」

 

 こう言われてはこちらとしても断るのは大人気ない。

 

 承諾した俺達は宴の開始には少し時間があるという事で、名前を呼ばれた際の礼節を聖騎士団のグスターボ副長から即興でレクチャーしてもらった。

 

 最初はレメディオス団長に聞こうとしたんだが、ケラルトさんが慌てたように止めたのは何故だろうか?

 

「このところ頻発していた亜人による大侵攻は聖騎士団と要塞線の兵士、そして多くの人達の尽力によって我々が勝利を収めることが出来ました!」  

 

 そうこうしている内に開宴の時間となり、その挨拶としてカルカさんが上座に設置された玉座の前で演説を始める。

 

 本来なら聖騎士や貴族たちは彼女の前で臣下の礼を取るんだろうけど、今回は戦勝を祝う無礼講の場。

 

 立食パーティという宴の形式もあって、彼等は会場に散らばったままカルカさんの話を聞いている。

 

「これもひとえに家族を、街を、我等が聖王国を愛する民達の心が勝ち取った結果だと私は思っています。最前線で血を流して戦った騎士や兵士、戦いに必要な物資を供給してくれた貴族、汗を流してそれを現場へ届けてくれた人々! 私は国を代表する立場としてその全ての方に心からの感謝と、国防の為に身を挺して散って逝った英霊達へ哀悼の意を表します」

 

「アレを見たら改めて実感するわ。カルカさんって女王だったんだな」

 

「ああ」

 

 貴賓席から少し離れた場所、聖騎士団が待機している端で演説を聞いていた俺は悟のささやきに同意する。

 

 俺達が生きていた現実世界では企業の力が増して、国家がほぼ形骸化している。

 

 なのでこの手の演説を生で聞くのは初めての経験だ。

 

 あれだけ若いのに国家元首として、多くの人と前で堂々とふるまえる彼女は凄い。

 

 素直に尊敬する。

 

 カルカさんの演説が終わるとカスポンド殿下が司会となって戦勲授与へと移った。

 

 対象はレメディオス団長を先頭に聖騎士達や今は要塞線にいるパベル兵士長に要塞司令の将軍と移っていく。

 

「最後は聖王国の危機を二度も救った恩人、モモンガ殿とゼクトール殿だ」

 

 そして何故かトリに回された俺達の番がやってきた。

 

『行きたくねぇ……』

 

『お金貰って終了と、何故ならなかった!?』

 

 メッセージで互いに愚痴を吐きながら俺達は副長に教えられた通り、カルカさんの前に跪く…ひざま……あれ?

 

 何故か俺の身体はこちらの意思に反して膝を付かなければ、頭も下げません。

 

 どうなってんの、これ!?

 

『おい、賢二!』

 

『……ヤバい、身体が平伏を拒んでる。もしかして【拳王は決して膝など地につかぬ!!】ってアレか!?』

 

 悟のメッセージに内心で冷や汗ダラダラの俺!

 

「構いません。彼等は聖王国の民ではありませんし、何より私達の恩人です。モモンガ様も顔をお上げください。私は貴方方とは対等でいたいのです」

 

 来賓の貴族が騒めく中、俺達の心を読んだようにカルカさんがナイスなフォローをしてくれた。

 

「ゴホンッ! モモンガ殿は英雄の領域を超えた第七位階魔法を使い、要塞線での戦いでは左翼の敵を瞬く間に殲滅したという」  

 

 そして何事もなかったように話を進めるカスポンド殿下。

 

 マジでありがとうございます!

 

「そしてゼクトール殿は彼のアべリオン丘陵三武神を撃破したと報告がきている!」

 

「アべリオン丘陵三武神を倒しただと!?」

 

「先王の時代、亜人殲滅せんと侵攻を掛けた聖騎士団の精鋭5000をたった三人で滅ぼした最強の亜人達をか!」

 

 三武神とやらはくるっくーさん達の事だろう。

 

 あの人達もあの人達で色々やらかしてるんだなぁ。

 

「モモンガ様、ゼクトール様。貴方方がいなければ要塞線は突破され、我が国は滅びを迎えていたでしょう。私たちはお二人から受けた恩を返したいと思います。なにか望むことはありませんか?」

 

 カルカさんの言葉を受けて俺と悟は視線を交わす。 

 

「私達はこの大陸に来たばかりですので、活動の拠点として聖王国に滞在する許可をいただければ」

 

「それだけでいいんですか?」

 

「ええ」

 

「では、ゼクトール様の方は何か望みはありますか?」

 

「聖王女陛下はスレイン法国という国にいる神皇についてご存じでしょうか?」

 

「ええ。何度か外交の場で顔を合わせた事がありますが、シメオン・ナギット陛下がどうかしたのですか?」

 

 天斗の男でシメオン・ナギットね。

 

 こりゃあ可能性大かな。

 

「要塞線で戦った例の三武神が口にしていたので気になりまして。それで神皇の権能は光を拳に宿すか拳から光を放って相手を焼き払う。そして人を癒し、一方で人間を醜い怪物へ変化させるものではないですか?」

 

 俺の言葉にカルカさんとカスポンド殿下の顔色が変わる。

 

「最後の力は知らないが、他の物は神皇が振るっているのを見た事がある。それは位階魔法とは全く別の力で、スレイン法国の者は『奇跡の拳』と言っていたな」

 

 やはりか。

 

 神皇は天斗聖陰拳の使い手と見て間違いないな。

 

 弟子の可能性も無くはないが、くるっくーさんが口にした以上相手はプレイヤーだろう。

 

 という事はあの人か。

 

『なあ、賢二。もしかして神皇ってエレクト・ぶるんぶるんさんか?』

 

『その可能性は大だ。なつかしいな、最後のワールドエネミー討伐イベントで協力して以来か』

 

『けど名前違うよな? シメオンだったっけ?』

 

『シメオン・ナギットな。原作で天斗聖陰拳の伝承者だったキャラの名前だ。多分、神様やる時に改名したんだろ』

 

『……さすがにエレクト・ぶるんぶるんじゃあ神様できないか』

 

『ウチの連中も言えた義理じゃないけど、ハンドルネームはノリで付けるもんじゃないな』

 

 メッセージで悟とやり取りをしながら、俺は小さく息をつく。

 

 ともかく次の目的地は決まった。

 

 明日には法国へ向けて出発する事にしよう。

 

 そう考えているとカルカさんが口を開いた。

 

「ゼクトール様、どうして神皇陛下の事を聞かれたのでしょう?」

 

「実は彼は私達の知り合いのようでして、顔を出しに行こうかと」

 

「それなら神皇陛下との顔合わせの機会がありますよ」

 

「え?」

 

 驚く俺にニコリと笑顔を浮かべるカルカさん。

 

 その前に一瞬だけ顔が引きつったように見えたのは気のせいか?

 

「実は近隣にあるリ・エスティーゼ王国という国の第一王子に不幸がありまして、葬儀の招待状が届いているんです」

 

「スレイン法国は宗教国家なうえに大国です。エスティーゼ王国も国交や面子の問題から王族の葬儀に呼ばないという事は無いでしょう」

 

「私やケラルトも葬儀には出席するので、同行していただければ会えると思うのです」

 

 なるほど、それならスレイン法国に行かなくてもエレクトさんに会えるな。

 

『これはチャンスかもしれないぞ。法国に行ってもいきなり王様に会わせてくれないだろうし』

 

『そうだな。カルカさん達に甘えてみるか』

 

「では君達には葬儀へ出席するカルカの護衛についてもらおう。要塞線での活躍を思えば適任だろう」

 

 トントン拍子で話が決まってしまったが、次のプレイヤーと顔を合わせる機会が出来たのはいい事だ。

 

 ちなみに祝勝会本体については語る事は無い。

 

 庶民の俺と悟は壁の華ならぬステルス・モブとして目立たぬように飯を食ってただけだし。

 

 貴族連中だって少し手柄を立てた流れ者なんか気にもしないからな。

 

 ただ、カルカさんとケラルトさんがコッチにべったりだったのが少し気に掛かったが。

 

 二人共、貴族に挨拶とかしなくていいの?

 

 

 

 

 ところ変わって、ここはリ・エステリーゼ王国の郊外。

 

 夜闇の中に吹く風が揺らすのは群生する麻のような植物だ。

 

 白い小さな花をつけるこの草は一見すれば可憐にも見えるだろう。

 

 しかし、これがリ・エスティーゼ王国を始めバハルス帝国やローブル聖王国など、多くの国々を根腐れさせる麻薬『ライラの粉末』の原料となるのだ。

 

 身に宿した害悪を誤魔化すように甘い匂いを放つ悪草の畑、そこから少し離れた場所に背の高い植物に紛れる5つの人影があった。

 

 その影はいずれも女性。

 

 屈強な女戦士と白い鎧に身を包んだ金髪の美少女、軽装を身に纏った瓜二つな双子にフードと仮面をつけた小柄な少女。

 

 それはこの国に2組しかいないアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』の面々だった。

 

「この匂い、間違いない。あれは黒粉の原材料になる草」

 

「組織にいた時に嗅いだ麻薬の匂いによく似ている」

 

「お姫さんの情報は大当たりって訳か」

 

 双子の忍者ティアとティナの言葉に獰猛な笑みを浮かべるのは彼女達の中でも随一の巨躯を持つ戦士ガガーランだ。

 

「迂闊に突撃なんて掛けるなよ。ここが黒粉の生産工場なら監視の目が必ずある」

 

「襲撃を八本指の本部に知られたら厄介な事になるわ。万が一見つかったらここにいる奴等の手下を皆殺しにしないといけなくなる。たとえ悪人でも無駄な犠牲は出したくない」

 

 そんなガガーランに釘を刺すのは仮面の魔法詠唱者イビルアイと蒼の薔薇リーダーであるラキュースだ。

 

 彼女達は王国の未来を憂う第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフから、八本指の収入源の一つであり国を腐らせている麻薬撲滅を依頼されて動いている。

 

 故に彼女等が行うべきは畑に火を放って原材料を焼き尽くす事なのだが、相手は国を裏から牛耳っている犯罪組織。

 

 迂闊に手を出せば手痛いしっぺ返しが待っているだろう。

 

 そうして彼等が息を潜めて機会をうかがっていた時だ。

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 暗闇に突然赤い光が伸びると、次の瞬間には麻薬の原料が生い茂っていた畑が紅蓮の炎に包まれたではないか。

 

「いったい何が起きたの!?」

 

 驚きのあまり隠れていた茂みから顔を上げるラキュース。

 

 そんな彼女の目が捉えたのは、炎の照り返しで闇の中に浮かび上がる一つの影だった。

 

「汚物は消毒だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 それは筋骨隆々の上半身とサイドを反り上げた頭の上に起つモヒカンを隠すことなく見せつけ、わきに抱えた妙な機械から炎を吹き出す怪人だった。

 

 目元を漆黒の眼鏡で隠した男は炎を辺り一面にまき散らしながら次々と畑を焼いていく。

 

「て…テメエ! 何やってんだぁ!!」

 

 その騒ぎに畑の近くに建てられた小屋から八本指の構成員が飛び出して来る。

 

 しかし彼等を待っていたのは炎を湛えた火炎放射器の銃口だった。

 

「テメエも消毒されてぇかぁぁぁぁ!!」

 

「ぎゃああああああっ!?」

 

 火炎放射器が放った紅蓮に燃える赤い舌に舐め取られ、先頭の男があっと言う間に火だるまになる。

 

 そして男の断末魔を合図にして爆音と共に謎の一団が夜闇の中から飛び出して来る。 

 

「ヒャッハー! 獲物がいたぜぇぇぇ!!」

 

「コイツはくせぇ! 奴等、ゲロ以下の匂いがプンプンすらぁ!!」

 

「奴等は悪党だ! 遠慮することはねえ!! 奪え! 殺せぇ!! 根こそぎ掻っ攫えぇぇぇぇぇっ!!」

 

 謎の鉄騎馬に乗っているのはいずれも2mを超える筋骨隆々の男達。

 

 彼等は己や鉄製の棍棒などハンドルを握る逆の手に凶器を持ち、頭上に隆々と聳えるモヒカンを揺らしながら八本指の構成員へ襲いかかる。

 

「オラァ!」

 

「へべっ!?」

 

「よっしゃあああああっ!?」

 

「めっちゃああっ!!」

 

「俺は天空に舞う羽!!」

 

「ごがぁっっ!?」

 

 如何に犯罪組織たる八本指に所属していようと所詮は人間。

 

 常人とは一線どころか2線も3線も画すモヒカン共の襲撃にはひとたまりもない。

 

 棍棒で頬骨を砕かれ、斧で頭蓋を割られ、そしてボウガンで胸を撃ち抜かれるなど、畑の守り人は瞬く間に己が生み出した血の海へと沈んだ。

 

「あれは間違いない」 

 

「知っているの、ティナ?」

 

 火の海となった畑を背に行われた殺戮劇を見ていたティナが緊張の面持ちで呟いた言葉にラキュースが反応する。 

 

「王国や帝国の辺境を巡って盗賊や危険な魔物を狩ったり、商人たちの護衛を無料で行う自警旅団。その名もザコの軍」

 

「ザコの軍!? あれが噂の!」

 

「間違いない。筋骨隆々の悪人面に鶏のトサカみたいな髪型、目撃情報と一致している」

 

 慄くラキュースに頷くティア。

 

「そのと~り」

 

 しかし、そこには彼女達5人以外の影も忍び寄っていた。

 

「……誰だ!?」

 

 イビルアイの警戒心に溢れた声、それに反応したのは彼女達の近くに生えていた木にヤモリのように張り付いた男だった。

 

「クックックッ! 俺はザコの軍偵察隊のシーカー! お前達こそ、ここで何をしているミャ」

 

 シーカーと名乗った男もまた、その姿は異様だった。 

 

 他のザコの軍の人間と同じく2m近い屈強な身体に頭には鉄兜を被り、舌は爬虫類のように長いうえに目にはまるでナメクジやカタツムリのように大きく前に突き出したゴーグルをグルグルと各方向へ動かしている。

 

 その容姿はまさに怪人と言っていいだろう。

 

 そんなシーカーだが、蒼の薔薇の面々を舐めるように見ているとある人物の所で奴の視線は止まった。

 

 そして木から飛び降りると件の人物、イビルアイの前に立つ。

 

「な……なんだ!」

 

「ムムムムムム……」

 

 自分の倍ほどの身長を誇る怪しい男が眼前に立った事で一瞬怯むイビルアイだが、そんな彼女の事などお構いなしにシーカーはゴーグルの奥で眉間にしわを寄せた。

 

「おい、お前等!」 

 

 そして視線をイビルアイから外すと、武器を抜き放って警戒を露わにしているラキュース達へ声をかける。

 

「なんだよ。ウチのおチビに文句があるってのか?」

 

 一行を代表してシーカーの視線を受けるガガーラン。

 

 しかし返ってきたのは思いもよらない言葉だった。

 

「今何時だと思ってやがる! こんな小さな子を夜遅くまで連れまわすなんて常識がねえのか!!」

 

「……は?」

 

 予想外すぎる言葉を浴びせられて唖然とする蒼の薔薇の面々。

 

 こんな変人がまともなセリフを吐くなど、誰一人予測していなかったのだ。

 

 その間にもシーカーの怒りは止まらない。

 

「睡眠は子供の成長に大きな影響を与えるんだ! それが少なかったら下手をしたら発育不良になるんだぞ!! この子がこのまま大人になってもいいってのか! 保護者として恥を知れ!!」

 

 先ほどまでの作ったキャラ付もどこへやら。

 

 本気でイビルアイを心配して怒り狂うシーカー。

 

 途中でシーカーの言わんとする事に気が付いたティアとティナは笑いをこらえ、ガガーランとラキュースは見た目と言動のギャップに唖然。

 

 そして子ども扱いされたイビルアイは屈辱で体を震わせていた。

 

「誰が子供か、若造! 私はこれでも200年は生きている!! お前なんかよりよっぽど大人だ!!」

 

 我慢できなくなって怒りに任せて叫ぶイビルアイ。

 

 彼女は真祖の吸血鬼で本来なら我が身が人類の敵たるアンデッドな事を隠さねばならないのだが、今はそれも頭から吹っ飛んでいる。

 

 悪意で揶揄されるなら『馬鹿が何か言っている』とスルー出来ただろう。

 

 しかし眼前の怪人は善意からイビルアイの事を心配していた。

 

 それは転じて彼女を本気で子供扱いしているという事だ。

 

 悠久の時を生きる大魔法詠唱者として、何よりレディとして、それだけはイビルアイは看過できなかったのだ。 

 

「……ほんとうに?」

 

「ああ! 特殊な方法で老化を止めているが、お前等より何倍も経験を積んだ大先輩なんだぞ!」

 

 ゴーグルを目から上げてマジマジと見てくるシーカーにフンスと胸を張るイビルアイ。

 

 視線でラキュース達に問えば、彼等もコクリと頷いて見せる。

 

 シーカーは信じられないモノを見る目でイビルアイを見ると、次の瞬間には麻薬畑殲滅を行っていた仲間へ向けて声を張り上げる。 

 

「ジード! みんなぁっ! 来てくれぇぇっ!!」

 

「どうしたぁ?」

 

 ズンズンとシーカーのもとへやってきたのは、身長が3mはあろうかというモヒカンの巨漢ジードを筆頭にしたザコの軍の面々だ。 

 

「本物だ! 本物のロリババァがいるぞォォォ!!」

 

「なにぃっ!?」

 

 その言葉に駆け出すザコの軍の面々。

 

 彼等はシーカーのもとへたどり着くと、イビルアイを囲ってジロジロと観察し始める。

 

「おい、本当にこの娘さんはロリババァなのか?」

 

「仲間も認めてるから間違いねえよ! すげえなぁ、ファンタジーだなぁ。本当にロリババァが存在するなんて」

 

「おお……これが夢にまで見たリアルロリババァ……」

 

「今まで何度ネカマやナンチャッテ女に騙されたことか」

 

「ありがたや…ありがたや……」

 

 感涙する者、拝みだす者、奇行は様々だが筋肉ムキムキな悪人ヅラのモヒカンに囲まれたイビルアイにとっては堪ったものではない。

 

「ひぅっ!? 近い! 近づくな! 涙が…涙が掛かる!!」

 

 何時もの尊大な態度はどこへやら、割と本気でビビっていたりする。

 

「なんにせよ、いいモノが見られたぜ! テメエ等! 紳士としての嗜みと珍しいモンを見せてもらった礼だ! ロリババァと仲間たちを街まで送っていくぞ!」

 

「応!」

 

「ロリババァ! ロリババァ!!」

 

「ロリババァ! ロリババァ!!」

 

 そしてジードの指事に応じて何故か始まるロリババァコール。

 

 蒼の薔薇の面々が困惑する中、これにブチキレたのは被害者であるイビルアイだった。

 

「お前等いい加減にしろ! 結晶散弾(シャード・バックショット)!!」

 

「あべしっ!?」

 

「ひでぶっ!?」

 

「いってれぼっ!?」

 

「いってぇっ!?」

 

 怒りと共に放たれた結晶散弾だが、何故かモヒカン達は直撃してもかかすり傷程度で済んでいた。

 

 その後、蒼の薔薇の面々は半ば強引に彼等の鉄騎馬に乗せられ、蛮族丸だしな奇声と共に夜の平原を駆け抜ける事になるのだった。    

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