桂木桂馬はギャルゲー攻略の天才である。彼の手に掛かれば落とせないヒロインは存在しない。どんな世界でも、どんな設定でも、バグまみれで攻略できない状況だとしても必ずエンディングにたどり着ける。そんな彼の元にあるメールが届く。

「落とし神様へ。どんなゲームでも攻略するとお聞きしたので是非やってほしいゲームがあります。とてつもなく難易度が高いゲームなので、エンディングにたどり着く覚悟がないならこのメールは削除してください」

僕を誰だと思っているんだ?
僕は落とし神だぞ?
神は逃げない

彼はそのメールを返信したら突然知らない世界に飛ばされてしまった。


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ここまでのクソゲーは生まれて初めてだよ

「お待ちしてました」

 

メールの返信をしたら突然世界が変わった。

 

いつの間にか電車の中にいるようで、目の前には少女が座っていた。

水色と桃色の長髪、瞳も青く、顔立ちはとても整っている。

 

もし少女がゲームのヒロインなら最終章に出てくるヒロインか、特定の条件を満たさないと登場すらしない隠しヒロインに当てはまるのではないだろうか。

 

立ち上がって外を見る。外は空のような、海のような、宇宙のような、よくわからない景色が一面に広まっており、ときおり踏切と駅が見える。

 

「落とし神様」

「僕をここに連れてきたのはお前か」

「…とても落ち着いていますね」

「僕を誰だと思っている? こんな状況、ゲームじゃよくある話だ。それよりもお前血だらけだけど大丈夫なのか?」

「大丈夫ではないですね」

「病院行った方がいいぞ」

「そんなことよりあなたと話がしたいです」

 

少女の傷は決して浅いものではなく、急いで適切な処置をしないと命に関わるものだ。しかし彼女は痛がる様子を見せず、桂馬の瞳をじっと見つめる

 

「単刀直入に言います。ある世界を救ってほしいのです」

「断る。じゃあな」

 

桂馬は電車の扉を開けようとしたが、とてつもない力で閉まっており開けることができない。

 

「無理に出ようとしない方がいいですよ? じゃないと首…飛びますよ?」

「首?」

 

桂馬は自分の首に手を当てると、いつの間にか水色と桃色が混ざった首輪が付けられていた。

 

「な、なんだこれ!?」

「首輪です。私もありますよ? ほら」

 

彼女は襟元を緩めると、首に桂馬と同じ首輪をしていた。

 

「落とし神様は私と契約したのですから同じ首輪をしています。素敵でしょう?」

「素敵じゃねーよ! さっさとこれを外せ!」

「いやです」

 

桂馬が無理やり首輪を取ろうとすると、首が徐々に絞められていく。

「ぐっ! がぁ!」

「無理に外そうとするとそうなります。首輪から手を離せば緩みますよ」

 

首輪から手を放すとゆっくりとだが絞められる力が弱くなった。

膝をつきながら咳き込む桂馬だが

 

「これを外せよ」

「…じゃあ私と心中しましょうか」

「は?」

 

にっこりと微笑む少女。ある人から見れば趣味を楽しんでいる少女とも見れるし、やるべきことを終えて楽になった少女とも見える。そんな笑顔だった。

 

「ふざけたこと言ってじゃんねーよ!」

「契約は対等。どちらかが死ねばもう片方も死ぬ仕組みになってます。でも大丈夫です! 落とし神様なら世界を救えます!」

「大体世界を救うってなんだよ!」

 

桂馬は話に乗ってしまったことを後悔した。ギャルゲーではこのような状況で自分から質問した場合、高確率で相手の話に乗ってしまうケースがほとんど。いや必然と言ってもいい。

 

「落とし神様にはキヴォトスの女生徒たちを全員堕としてほしいのです」

「堕とす?」

「恋愛的な意味です」

「…もしかして僕にリアル女を口説けと言うのか?」

「落とし神様なら余裕でしょう? あなたの活躍はずっと、ずうっと、ずぅぅっと見ていましたから」

「待て待て待て! リアル女なら話は別だ!」

「?」

 

桂馬は確信した。ここで否定できなければ否が応でも少女の世界に引きずり込まれてしまう。自分では仕事を完遂出来ない旨を伝えてここから立ち去るべきだ。無理に出来ない仕事を出来ると言った結果の末路は大抵不幸になるのだ。

 

「僕はリアル女と一度も手を繋いだことはない!」

 

口をポカーンと空ける少女。桂馬はニヤリとした笑みを浮かべながら

 

「そしてリアル女も僕と手を繋ぐことを求めていない。これまで一度もな」

「…」

 

これで流れは自分が掴んだ。後は会話の主導権を渡さないようにすれば…と考えていたところ

 

「知ってますよ?」

「は?」

「さっきも言ったじゃないですか? ずぅぅっと見ていましたよって。だから手を繋いだことがないというのも問題ないです。それに私は…」

 

少女は勢いよく立ち上がり桂馬の手をがっしりと掴んだ

 

「ひ!?」

「私はあなたと手を繋ぎたいと思った。だから手を繋いだ。だからリアル女云々の話は問題ないですよ? 他にもリアル女でしていないことがあれば私でしましょうか? なんでもしますよ? なんでも」

 

鼻と鼻がくっつくくらいに近づく少女。

 

桂馬は抵抗することを諦めた。少女の瞳には覚えがある。

これは何が何でも成し遂げようとする人間の目だ。

自分も同時に複数のゲームをプレイできないかと模索していたときの目とそっくりだった。この状態の人に反論するのは火に油を注ぐのと同じことだ。

 

「…」

「話を聞いてくれるようで安心しました。落とし神様には女生徒を全員堕としてもらいます。これは文字通り全員です。確かあるゲームでは80人以上と同時にお付き合いをされていましたよね?」

「そうだ…まてまて。リアルで80人以上と付き合えというのか? さっきも言ったが」

「私は堕とし神様の1番目のヒロインですね! だから2番目以降が増えようが問題ないです!」

「お前は良いのか? 複数の女と付き合う男とか」

「はい! だって私が1番で、他は同列でしょう? なら問題ないです。それに…」

 

少女はうっとりした表情で自身の首元をいとおしそうに撫でる。そして桂馬の首輪も撫でながら笑っていた。

 

「ね? 大丈夫でしょう?」

「クリア条件は80人以上のヒロイン攻略…了解。じゃあ僕をさっさとキヴォトスに案内しろ」

「はい! 分かりました!」

 

電車が速度を落としある駅で止まる。駅名は「キヴォトス」と表記されていた。

扉がゆっくりと開いて駅のホームに降りるが少女は降りてこない。

 

「おい」

「忘れないでください。どんなことが起きても、どのような状況であっても、私と落とし神様は一蓮托生です。ですので安心して女生徒たちを口説いてきてください」

 

発車ベルが鳴り響く。扉はゆっくりと閉まり始めた。

 

「最後に1つ聞きたい! お前の名前は?」

 

扉が少女の姿を隠し始めた。桂馬は少女の名を訪ねる。

少女は首を傾げニヤッとした笑みをしながら

 

「迎えに来てくれる時に教えますよ。行ってらっしゃい、桂馬君」

 

扉は閉ざされ電車が走り去ってしまった。

 

「…」

 

知らない世界、リアル女、電車、血まみれ、80人以上と交際

 

ゲームとしてはよくある展開だがそれをリアルでやることになるとは…

 

「とりあえずクソゲーなのは間違いないな。リアル体験クソゲーは生まれて初めてだけどな」

 

溜息をつきながら改札口に向かった。

 

 

 

 


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