あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン! 作:おふざけちゃん
「第七章 この友の敵に鉄槌を!」
めぐみんとの交際を発表してから約一月、アーネスからの動きは何一つとして見られなかった。
二人でギルドに居る時、冒険に出た時、街を歩いている時、俺達を見る目は至って好奇な目線でしかなく、本当に仮説は合っているのだろうかと不安に襲われてしまう。
だが初めてしまったものは仕方が無い。
お互いに当初の様な気恥ずかしさなど無くなり、本当に恋人にしか見えない様振る舞いを心掛けそして...また、二人でギルドの扉を叩いた。
何時もと何変わらなぬ風景、一月も経てば俺達を冷やかす連中も珍しく風景の一部として溶け込んでいた。
と、繋いでいためぐみんの手に力が籠る。
今日、この瞬間、計画は最終段階へと移るのだ。
傍へと潜んでいる金に色を付けて雇った協力者、基バックダンサーへと合図を送る。
直ぐ様察知するとギルド内は暗転、先程までザワザワしていた場所は急な暗闇に戸惑いと静けさを醸し出す。
用意していたブツを懐から取り出すと俺の指パッチンと共に視界は良好、めぐみんの前で跪くとソレを差し出す。
楽器を取り出し演奏する者、それに合わせ歌う者、踊る者、そんな人達に囲まれ...周りの連中は歓喜の声を上げ始める。
そんな皆の反応を見渡しながら、態とらしく口元を覆い隠し涙目で俺を見下ろすめぐみん...素晴らしい演技だ。
「俺と...結婚して下さい。」
その一言に再び静まり返るギルド内、めぐみんの言葉待ちと言った状況。
音楽隊もダンサーも皆動きを止め行く末を見守る中...めぐみんはゆっくりと口を開き___
「___...ッ!!はいッ!!」
皆を魅了するその涙目混じりの笑顔で、俺の指輪を受け取った。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」」」
拍手喝采歓喜の声に包まれた俺の求婚は、無事成功に終わった...がそれは重要な事では無い。
これはあくまで振り、めぐみんにも事前に打ち合わせているが為これは出来レースなのだ。
ここからなのだ、全てはゆんゆんの為...復讐の為。
気分は上々すっかり浮かれ気分のギルドの連中に、俺は高らかに宣言する。
「良ーしお前ら!!今日は俺の奢りだぁぁッ!!」
「ヒューッ!!流石ダスティネス様ッ!!」
「おいおい良い弟持ったなぁララティーナさんよぉ?」
と、遂姉ちゃんの方へと目が向いてしまう。
俺のせいでダスティネスだと晴れた結果、そのまま芋づる式でダクネスでは無くララティーナ、カトレアでは無くクレアと...何の為の偽名だったのか。
そんな姉ちゃんは俺を何処か寂しい目で、しかし嬉しそうな目で俺を見つめながら絡む冒険者を軽くあしらっている。
...悩む必要は無い、俺が助けたいからめぐみんを助けているのだ。
此処で俺が姉ちゃんに出来る事は、笑顔で照れ臭そうに手を振るだけなのだ。
そんな俺を意外そうな目で見つつも手を叩き祝福するクレア、アイツには悪いが今回して貰う事は無さそうだ。
そんなこんなで俺とめぐみんの作戦スタート改め、結婚祝いの宴が始まった。
色々な冒険者の乾杯の合図と共に、姉ちゃん達もグイッと勢い良くジョッキを飲み干す。
「む、クレア...そんなに飲んではまたあの日の様になってしまうぞ?」
「フッ...私は元より酒は強いのだ、あの日はそう...ただ少し貴族と言うしがらみから開放された緩みが出てしまっただけだ。それを言うなら、弟を失ってヤケ酒しているララティーナの方が大丈夫なのか?」
「や、ヤケ酒なのでは無いッ!!これはただ...心からカズマを祝福してやっているだけだ...。」
少し顔を赤くさせ二人でそんな会話を繰り広げているのを尻目に、今日の主役である俺とめぐみんは数々の祝いの言葉を言いに来る連中の相手をしていた。
この一ヶ月で仲良くなった奴、良く知らない奴、良く行く店の店主、実に様々な連中の相手を。
それと同時にアーネス探しも欠かさない、少しでも怪しい動きをしている奴は見逃さない様に常に警戒...してはいるのだが...。
「...どうやら、宴作戦は失敗の様ですね。」
酒の入った連中は動きはフラフラとしていて、常に全ての人間が怪しく見えてしまう。
元よりこれも怪しい動きを観測出来たら良いなと思っていた程度であった為、期待はしていなかったが...これは失敗だな。
と、見覚えのある金髪巨乳のお姉さんが此方に歩いてくる。
「あっ!あん時の職員さん!!」
「...貴方には恨み言を吐いた方が良いのか、感謝した方が良いのか...。」
「どちらでも構いません、此処ではただ祝いの言葉を述べに来ただけですから。」
そう言ってめぐみんに微笑み掛ける職員、そうか...彼女のお陰でもあり彼女のせいでもあるのか。
俺は立ち上がり職員へと手を差し出すと、その手を握り返す。
「俺は感謝していますよ、貴方のお陰ですから。」
その俺の言葉に何処か嬉しそうに微笑むと、めぐみんにも握手を交わし職員側へと戻って行く。
「...良い人じゃねぇか。」
「えぇ、良い人ですよ...強いモンスターの居る所を片っ端から教えてくれ、と一人で急に言っても手伝ってくれる人ですから。」
ソレがあの赤い点の描かれた地図、か。
「それに何となく勘付いてるのでしょうね...私の事情、ゆんゆんの事も。」
「頭があがんねぇな。」
等と話していると、姉ちゃんとクレアも挨拶へとやってくる。
唐突な発表、しかもギルド内でだと言うのに...こうして順応してくれている二人にも感謝しか無い。
姉ちゃんへと真っ先に立ち上がり手を差し出すめぐみん、二人の関係はあまり良く無い印象であったが...昨日の事もあり、こうして二人とも笑顔で構えられている。
「...めぐみん殿には色々と言いたい事はあるが、一先ずは幸せになってくれ、そう言わせて頂こう。」
「有り難う御座います。」
「しかし本当に姉離れ出来るのか?お前が?」
相変わらず俺を下に見ているクレアの余計な一言、まぁ彼女なりの祝いだと思っておこう...うん。
「色々とごめん姉ちゃん。」
「まぁ良くは無いが、お前は貴族の男にしては大人し過ぎたからな...こうしてはっちゃけていた方が性に合っているさ...なぁクレア?」
「あぁそうだ、これでもお前はマシな方なんだぞ?」
流石貴族間の男の悪口で得た絆、二人の馴れ初めを聞いた時は笑ってしまったが...二人の目がこうして笑ってないのを見るに、当時は相当困っていたのだろう。
いや、今もか。
「まぁ兎も角、おめでとう二人とも...式には呼んでくれ。お父様には私から話しを付けておこう。」
「あぁ...どうかな、イグニスさん怒るかな?」
「いや、寧ろ喜んでくれるさ...何せ一番上の姉がいつまで経っても跡取りを作らないからな。」
そうして四人で笑い合うと、俺はこの偽婚に少し心を痛めてしまう。
もしアーネスを見つけ、倒したその時...この事情を説明して果たして俺は無事で居られるだろうか?
今更しても遅い後悔ではあるが...本当に駄目だったその時は、大人しくめぐみんに土下座して本当に結婚して貰おう。
「しかし十四にして婚約か...後二年めぐみん殿は待てるのか?」
「え?」
「...ん?」
後、二年...?
「確かにそれもそうだな、まぁ付き合う期間もまた結婚とは違った楽しさがあると聞く...そう急がずゆっくりと楽しんでくれ、二人共。」
「...俺って十四歳だっけ。」
「?あぁそうだ。と言ってももう少しで十五になるのか、早いな時が経つと言う事は。」
そう言って二人で笑い合うクレアと姉ちゃん、二人には悪いが今それ所では無いのだ。
ギギギと首をゆっくり此方に向けるめぐみんの顔は、何処か青冷めた様に、俺を見つめていた。
「カズマ...?」
「...そうか、そうだな。俺まだ十四だったな、わりぃ。」
「ど、どどどどうするんですかッ!?今更計画の変更は出来ませんよッ!?」
耳元へと近付き、小さい声だと言うのにデカい声と言う矛盾した声の大きさで俺に耳打ちするめぐみん。
いやはやこの瞬間まで俺自身も忘れてしまっていた、まさかまだ十四年しか生きていなかった何て...。
取り敢えず俺は話すばかりで手付かずだったシュワシュワを掴むと、グイッと喉に流し込む。
「良しッ!!取り敢えず今日は飲もうッ!!」
「...。」
何処か蔑んだ目で見ている気もするが、考えた所で歳は取らない...今後の事を考えるのはまた明日の俺に任せよう。
今日は一旦、飲んで忘れる事にした。
___頭痛が酷い。
あの後どれだけ飲んだだろうか...最後の視界には、呆れながら俺を止めるめぐみんと俺を煽てる冒険者達の姿であったのを覚えている。
開こうとも中々動いてくれない重い瞼にゲンナリとしつつも、物音一つしない空間に何処か恐怖を覚えてしまう。
ギルド内である、と仮定した場合あれだけドンちゃん騒ぎだったのだから当然だろう...身体中が硬い床に寝転んでいる弊害で悲鳴を上げているが、どうにか起きあがる。
やがて多少は治った頭痛を気にしつつも、俺はゆっくりと開けた視界に何処か違和感を覚えてしまう。
「...やけに静かだったのは、そう言う事か。」
真っ暗なギルド内部は、皆机に突っ伏、床に転がる、果ては立ったまま死んだ様に眠る連中。
酒に溺れるとはこの事だろう...明日の職員達が可哀想だと思う反面、この不気味な状況に身震いを起こしてしまう。
と、俺の腕にめぐみんが抱き付いている事に気付く。
姉ちゃんも、クレアも、皆眠りこけている。
ゆっくりとめぐみんを腕から剥がすと、足場の無い床をゆっくりと進みながら唯一灯りが付いている場所を見つける。
其処には...酒を飲んでいなかったのか、真面目な顔をしながら書類に目を通す金髪の職員が視界には映っていた。
めぐみんと会うきっかけになったのも、こうした真夜中にお姉さんを訪ねた事がキッカケだった...そんなデジャブを感じつつ無い道を歩き辿り着くと、お姉さんも此方に気付いた。
「あら、起きましたか。」
「えぇ...どうやら、多大なる迷惑を掛けそうなので先に謝っておこうかと。」
そう言って後ろの眠りこける冒険者達を見渡しながら言うと、苦笑しつつも何処か嬉しそうに俺を見つめるお姉さん。
「...まぁ、こうして皆で祝い事をするのは良い事ですから...迷惑等ではありませんよ?」
「そう言って頂けると助かります。」
やはり良い人だ、これで貰い手が居ないとの噂だったが...この街の冒険者は不能なのだろうか?
やけに性犯罪が少ないのを見るに、もしかしたら何か通だけが知るエッチな店でもあるのだろうか...などと邪推していると、お姉さんが此方を見ている事に気付く。
「どうかしましたか?」
「いえ、これと言った用件では無いのですが...めぐみんさんの事で感謝させて貰おうかと思いまして。」
何処まで出来た人間なのだろうか...!!
「此方としても一人で危ない依頼を受ける、と言うのはあまり推奨していなく...何か彼女の拠り所を作れれば、と思い貴方に託しましたが...まさかこうも上手くいくとは思いませんでしたから。」
そう言って俺に申し訳なさそうな表情で告げるお姉さん、彼女的にはギルドの事情で俺を利用した罪悪感で一杯なのだろう。
まぁ事実俺は利用されて訳だが...どれも自分で望んだ事に過ぎない。
あの時も言った通り、感謝しているのは此方側だ。
「...それに、めぐみんさんには何やら深い事情がありそうでしたから...。」
めぐみんの言う通り、やはり勘付いていた様だ。
「まぁ其方も任せて下さい、俺が何とか解決して見せますよ。」
「随分と頼りになります...私達では彼女を救う事は出来ませんから。」
「...そうですね。」
机に置いてあったを拾うと、俺は今後の予定を建てる為ペンを走らせる。
そんな俺を不思議そうに見るお姉さんであったが、やがてその深い事情関連の事だろうと思ったのか視線を外し手元の資料に戻る。
「カズマさんは、めぐみんさんの深い事情を詳しく知っているのですか?」
「まぁ正直な所あんまし理解して無いんだ、友達...と言う言葉が関連しているのは分かってるんだがな。」
「友達...やはり、その子の身に何か起こったのでしょうか。」
職員と会話を繰り広げつつ、俺は更にペンを走らせる。
「かも知れないですね、めぐみんを何か強大な力から守るために身体を張った戦士...あまり考えたくは無いが、元恋人とか。」
「フフッ、その可能性もありますね...ですがめぐみんさんがその様な不誠実な事をするでしょうか?」
「...しない、だろうな。」
トントンッと資料を縦に置き片付けながら、職員は俺との会話に付き合う。
こうして静かなギルドと言うのも物珍しいのだろう、何処かテンションの上がった職員は今日は良く口が回る。
「それに友達、と言う言葉に反応していると言うなら...恋人はあり得ないんじゃ無いですか?」
「...此処だけの話、実は一度だけめぐみんの後を着いて行った事があるんだ。」
「それは...あまり関心しませんね。」
少しジト目で俺を見つめる職員、まぁそう言いたい気持ちも分かる。
「まぁ良いから聞いて下さい、そして着いて行った先はめぐみんが泊まってる宿だったんですが...居たんですよ、その友達とやらが。」
ゴクリと生唾を飲み込み、俺は真剣な表情で会話を続ける。
「其処にはベッドに横たわる者の姿が見えました...その子にめぐみんは何かを必死に伝えてたんです。」
「ベッドに横たわる...やはり、それだけ重傷を負っているのでしょうか。」
「そうですね、皮膚も何か炎で爛れていた姿も見えましたし。」
その言葉に嫌な想像をしたのか、何処か気分が悪そうな職員。
「何か炎の魔法からめぐみんさんを守ったのかも知れませんね...。」
「でもまぁ幸いな事なのかどうかは分かりませんが、美しい顔立ちと髪の毛は懸命ではありましたよ。」
と、ホッと胸を撫で下ろす職員。
「そうですか...顔、特に髪は乙女の命よりも大事な物ですからね。」
「えぇ...そうですね。」
俺は今後の予定を書き終えた紙をめぐみんの胸へとそっと置くと、椅子に座り話しを聞いていた職員へと近付く。
そんな俺の行動に何処か不思議そうに顔を傾げる白々しい様子を見て、俺は確信を持って言えるだろう。
コイツは、職員じゃないと。
「...因みに、何故横たわると聞いただけで重傷を負ったと思ったんですか?」
「......その前に話していた、剣士が身を守った云々に引っ張られましたね。」
「では、炎で爛れていたのを魔法だと断定したのもそうですか?火事などから救出した、と考えても良いと思いますが。」
胸のドキドキが止まらない、俺の考えすぎであってくれ...そう願いながら俺は目の前のナニカに話し掛ける。
「.........えぇ、そうです。」
「___では、何故女性だと分かったんですか?」
「...。」
俺は一度たりとも、その友達の性別に言及等していない。
美しい顔立ちも、髪も、どちらも男であっても有り得るだろう。
男に美しいと使うのが間違いだと言われても、先程の横たわる、や重傷、等でどうにも怪しく見えてしまう。
探偵気取りはやめろ、そう初めて会っためぐみんに伝えられたのを今思い出す。
それは個人的な不快感から来る拒否反応か、誰も得しないが故の俯瞰的意見なのか、はたまた___
「___なんだ、気付いていたのか。」
___何か起こってしまわない様にと、不安的な意見なのか。
ガンガンと痛みの引かない頭を抑えながら、私は重い身体を起こし...違和感に気付く。
やけに静か過ぎる真っ暗なギルド内に、一人青冷めた表情で佇むめぐみん殿を視界に捉える。
直感で私は気付いた、これは何か起こっていると。
隣で眠りこけるクレアにデコピンを一発、何かを持ち俯いているめぐみん殿へと近づく。
アレだけ常に警戒を解かない人物だと思っていたが、後ろに立たれても尚微動だにしないのを見るに相当な事が起こったのだろう。
...カズマが言っていたのはこれか。
「___めぐみん殿。」
「ッ!!...おねえ...さん...?」
「説明は良い、その手に持っている物を見してくれ。」
まるで合わせる顔が無いと計りに必要に目を合わせようとせず、私に何やら紙を差し出してくる。
クシャクシャになったソレを受け取り...あぁ、この執筆はアイツのだろう。
急いで書いた様に見えるその内容は至って単純...『アーネスを見つけた、正体は金髪の職員、時間を稼ぐ』箇条書きの様に書かれたその内容は、知らぬ名前と共に不穏な言葉で締め括られていた。
「...急ごう、アテはあるか?」
「いえ...何処に居るかさっぱりです...。」
「なら簡潔に私にも話しを聞かせてくれ、今すぐに。」
そんな落ち着いた私に何処か不安が拭い切れないのだろう、嫌な汗を掻きながらポツリポツリと、それでいて非常に簡潔にこれまでの事を教えてくれた。
「...あの、本当に申し訳」
「今はそんな事を聞いていない、クレアッ!!起きてるんだろう、話しは聞いていたな?」
「ゆんゆんとやらの所だろう、話しを聞くに相当根深く恨まれているだろうな。」
のそりと起き上がるクレアは頭を抑えながらそう答える...やはり親友なだけあり、同じ考えだ。
腐っても貴族、人が攫われただの復讐だ等人間臭い行いは嫌と言うほどこの目で、この身で経験したきた。
だからこそ私はクレアを救出しに行った時と同じくらい頭は落ち着いているのだろう、クレアも同じ気持ちな筈だ。
壁に立て掛けられていた剣をクレアに投げ渡すと、私の言葉にハッとしたのか、はたまたやっと己の置かれた場所に気付いたのか...覚悟を決めためぐみん殿がギルドの扉を開けていた。
移動するその間私達の間に言葉は無い、必要が無いのだ。
カズマとゆんゆんを救出する、その為にはどんな事も厭わない...今更話し合いを必要としないのだ。
その代わりに必然と歩くスピードは早くなる。
アークウィザードであるめぐみん殿には体力的な面でキツいかとも思ったが、思いの外私とクレアについて来られている。
思っていたよりも早くゆんゆんとやらが眠る宿を見つけると、慣れた様に部屋を目指すめぐみん殿の後を続き...もぬけの殻である部屋を目の当たりにする。
「...少し遅かったか。」
「?どうしためぐみん殿。」
少しばかり怒気の籠った声色で悔しがるクレアを尻目に、何やらしゃがみ込み何かを拾い上げるめぐみん殿。
その手にはまたもやカズマの執筆であろう文字が書かれた白い紙、我ながら良く出来た弟だと褒めてやりたくなってしまう。
「『赤い点を結べ』...そう書かれています。」
「赤い点とは何だ?」
「多分...これの事、だとは思いますが...。」
懐から取り出された紙には無数の赤い点が記された地図の様な物、其れ等をどう結ぶと言うのだろうか。
各々頭の中であれこれ考えては見るが...どうにも結ぶと言う行為の範囲自体が多過ぎる。
アレじゃないこれじゃないと沈黙を保っていると、めぐみん殿が懐からペンを取り出し線を引いていく。
それは赤い点と点同士に線を引き、重なる所を示す至って初歩的なものであった。
それによって導き出されるのは至って平凡な平原、周りには何も無く隠すや攫うといった行為には向かないと勝手に頭の中から除外していた。
...が、これは当人同士だからこそ分かる物なのだろう。
「...此処は、私とアーネスの最後に行われた戦いの場所です。」
そうと分かれば話は早かった。
私を先頭にクレア、めぐみんと続き頭の中に叩き込まれた地図を頼りに結ばれた場所へと走り出す。
アレを書き隠しとうし私達に見つけさせたカズマが凄いのか、はたまたアーネスが気付いていて見逃したのか...どちらにしろ救いに行く、と言う選択肢以外私達には存在しない。
「___思ったより早かったわね?魔法の使えない小娘。」
「隠居生活はどうでしたか?貴方の様な下級ゴブリンでも過ごしやすい良い街でしょう此処は。」
本当に何も無い所にアーネスと呼ばれた女は佇んでいた。
...眠ったカズマとゆんゆんらしき女性と共に。
思わず握っていた剣に力を入れ過ぎてしまう、ただでさえ私は剣を当てれないのだ...少しでも落ち着かなければ。
「...小汚い言い争いは好きじゃないの、交換条件だ。この二人とウォルバク様...どうだ?」
「断ります、ちょむすけもカズマも...ゆんゆんも全て私のものです。」
「『インフェルノ』ッ!!!」
開幕早々最高炎魔法を飛ばすアーネスを座った目で見据え、一言呟く。
「...『ファイアボール』。」
物凄い業火は、めぐみん殿のたった一言の中級魔法でものともせず相殺される。
そんな光景に汗を流したのは...アーネスであった。
「そう...嘘じゃなかったって訳...ッ!!」
「...。」
「ホーストッ!!」
何時救出に向かおうか隙を窺っていた時、そう名を叫んだアーネスの言葉に応じるかの様に...大きな翼を広げ私とクレアの前に降り立つ悪魔であろう魔物。
黒い角に特徴的なキバを生やし、首をぽりぽりと掻きながら私とクレアを見下ろす。
「あー...悪いな嬢ちゃん達、大人しく交換してくれるなら悪い様にはしないぜ?悪魔は約束を守るからな。」
「「断る。」」
「...ま、だよなぁ。」
剣を構え、クレアに合図を送る。
めぐみんはアーネスを、私とクレアはホーストと呼ばれた悪魔と対峙しつつ...隙を見て救出に。
「『フリーズガスト』ッ!!!」
「『ブレード•オブ•ウインド』」
方や魔法の飛ばし会い、方や私達は...互いに見合っていた。
何せ相手がどの様な力を持っておるのか定かではない...そして此方は二人とも近接攻撃、迂闊に近付けば思いの壺だろう。
...こう言う時、カズマならどう動くだろうか。
私の身体を持ったカズマなら、まずどうする。
石を投げる?いや、幾ら遠距離攻撃と言っても程度が知れているだろう...相手は見た所悪魔、それも上位に属する。
小石一つ何も気にする必要は無い。
かと言って近距離に持ち込むのどうだろうか?自分の筋肉に絶対的自信が無い訳では無いが、一番有効打である事には違い無いのだ...結局の所どうにかして近付かなければいけない。
...カズマなら、こうするだろう。
流し目でクレアに合図を送ると同時にクレアは悪魔に向かって走り出す。
何か構えを取り私達の攻撃に備える悪魔に向かって...私は結局の所振りかぶるしか無いのだ。
たった一投だけの、全心全力を込めた投げ。
当たらないのならば使わなければ良い。
「...!?お、おいおい嬢ちゃん何考えてんだ!?」
「.......ッ!!!フンッ!!!」
そして私も同時に走り出す。
剣を当てる事が重要なのでは無い、一瞬の隙を作る事が大事なのだ。
構え悪魔に走り出したクレアはすぐ様軌道をズレアーネスの方へと、其方に目が向く...向いてしまう。
所詮悪魔も大して人間と変わりはしないのだ。
「ハッ!?ア、アーネ...ぐっ!?」
「お前の相手はこの私だッ!!」
悪魔の顔に掴み掛かりデカい口を無理矢理閉じ込める。
暴れる四肢から攻撃を喰らうが、笑ってしまう程に私は頑丈なのだ...これではクルセイダーの端くれにすらなれないだろうが。
「私はブラコンなのだ...カズマの事が関わっているとなると、泥臭くなっても良い。」
「もがっ!!ぬ、ぬぁにをいぅって!?」
チラリとクレアへと目を向けると、めぐみんの魔法に気を取られどうやら救出されている事に気付いていない様であった。
めぐみんも此方に目を向けつつ、間髪入れず小まめに、そして色々な箇所に、どれも致命的な魔法を打ち込んでいる...アクセルの天才魔法少女とは伊達じゃないな。
「では、そろそろ終わらせましょうアーネス...短い戦いで、拍子抜けでしたが。」
「チッ!!おいホーストは何をして...ッ!?」
「『ライトニング』ッ!!」
私に押さえつけられたホーストに目を奪われ、尚且つ今まで目の前に飛んできていた魔法が上から落ちてくると言う変化球に反応出来ず...呆気なくアーネスは膝を付く。
悪魔らしく無い、復讐を選んだ道がこの末路...悪魔ながらに同情してしまう。
もしカズマとゆんゆんをさっさと殺してしまっておけば、結末は大きく変わったのだろう。
...だが、復讐と言う道を選んだ時点でアーネスは悪魔として落魄れていた。
それを見抜いていたからこそ、こうして囮紛いにめぐみんの為の舞台を整える為カズマも動いたのだろう。
「はぁ...ッ!!はぁ....ッ!!わ、私はまだ...!!」
「『...黒より黒く、闇より暗き漆黒に...我が深紅の混淆を望みたもう...。』」
ゆっくりゆっくりと、詠唱を始める。
やがて魔法をモロに食いマトモに動けずにはいよじるアーネスの身体の下に、とても大きな魔法陣が浮かび上がる。
涙目でその場から必死に離れようともがき、ウォルバク様と何度も何度も呟くその光景。
二人をおぶって疲れたのだろう、疲労した顔で私の元に歩いて来たクレアと共にその行く末を見守る。
「『これが人類最大の威力の攻撃手段、 これこそが究極の攻撃魔法...もう一度、その身に喰らうが良い』ッ!!」
真っ暗闇であった空には眩しい位に紅色に染められた魔法陣によって視界は取り戻していた。
「いきます...ッ!!『エクスプロォォォォォジョン』ッ!!!」
「ウォルバク様...!!ウォルバク様ぁぁぁぁぁッ!!!」
やがて大きな悲鳴を掻き消したかの様に沈黙が訪れ...凄まじい風圧と共に爆音が耳に響く。
こんな間近で爆裂魔法と言うのは、と言うより爆裂魔法そのものを初めて見たが...これ程とは思わなかった。
キーンと耳鳴りのやまない最中、ふとクレアが此方に拳を差し出しているのに気付く。
抑えている悪魔は抵抗を止めその光景に見入っているのを確認すると、押さえつけるのを止め私は拳を合わせる。
コツンと骨と骨がぶつかる小さな音は、爆裂魔法によって晴らされた雲一つない素晴らしい光景に溶け込む。
上を見上げ何かスッキリした顔付きのめぐみん殿の隠された片目を、私は初めてこの目で見る事となった。