ありふれた降霊術師へ世界最凶の魔術師は贈る 作:sahala
ネタとしてはやりたかったけど、どこに入れたら良いか分からなかったので恵里の修行中にこんなやり取りがあったよ、という程度で。
この話はあくまでこの作品の独自設定という事でよろしくお願いします。
並行世界、異世界、はたまた人理定礎などといったFateの設定は全て理解できてるとは思わないので、自分なりに噛み砕いて自作に合わせる様に都合良く解釈したという感じです。
「はい、じゃあ今日はここまで。お疲れさん」
「はぁ……はぁ……」
オルクス迷宮・最下層の隠れ屋敷。
いつもの修行が終わり、恵里は精根も尽きた様にその場に座り込んだ。今日も今日とて深層の魔物達を相手に命掛けの模擬戦をやらされたり、魔力が尽きるまで魔法を撃たされたりなどハードな修行内容だった。それこそ途中で気絶しても頭から水を掛けて起こされたり、ポーションで無理やり魔力を回復させられるなど、王宮でクラスメイト達と一緒にやってる訓練が天国に思えるくらいだ。
「いつか教育虐待で訴えてやる………」
「残念でした。異世界だから地球の法律は適用外だ」
ぐったりとしながらせめての抵抗で呟くものの、キャスターはニヤニヤとあしらっていた。
もっとも、このくらいのスパルタでないと強くなれない。今のままでは光輝をエヒトルジュエから守るなど無理だ。だからこそ、恨み言を述べるものの恵里から修行を投げ出す事はしないのだが。
「なあ、ちょっと気になってる事があるのだけど」
息が整ってきた恵里は修行後の雑談として話し掛けた。
「お前って英霊………昔の英雄の幽霊なんだよな? 信じられないけど」
普段、暇さえあれば女を口説いて回って、気に入った子とは夜のお楽しみに直行……と頭と下半身が直結したナンパ男にしか見えないのだが。
「正確には反英雄だけどな。それがどうかしたか?」
「反英雄? まあいいや。聞きたいのはさ、なんで
気になる単語はあったものの、自分が聞きたい事を優先させた。
いつの年代かは分からないが、キャスターは自分より古い時代に生まれた地球人だろう。それは恵里も時折見る夢の内容で確信していた。
だからこそ、そもそも地球出身のキャスターがなぜ召喚されたのか腑に落ちなかった。エヒトルジュエが地球のとある降霊儀式を真似て召喚したというが、儀式を行った場所がトータスならば現地の霊体が優先される筈だ。“降霊術師”として降霊術の知識が備わってきた恵里にはその点が解せなかった。
「なんだ、そんな事か。まあ、エヒトルジュエが真似たのが地球の聖杯戦争だからというのもあるが………そもそも、
「え?」
サラッと答えてきたキャスターの言葉の意味を一瞬理解出来ず、恵里は聞き間違いではないかと耳を疑った。
「そうだな。まず、恵里は“異世界”とは何だと思う?」
「何って………そりゃあ、このトータスみたいな世界だろ? 剣と魔法のファンタジーで、地球だとありえない様な世界」
戸惑いながらも恵里はそう答えた。「地球にも魔術はある」とキャスターは言っていたが、それでもトータスみたいにライトノベルやゲームみたいな非常識な場所があるなど信じられなかった。そんな恵里を見ながら、キャスターは生徒に教える教師の様に話し始めた。
「う~ん、その認識も全くの間違いとは言わないが………。まず並行世界の説明から始めようか。“もしも、こうならば”。簡単に言うなら、そういう可能性が無数に広がるのが並行世界という概念だ」
SFのパラレルワールドみたいなものか。仮初めとはいえ図書委員としてそれなりに読書を行う恵里はそんな風に理解した。
「ただし、“無数”ではあるが“無限”ではない。何故なら宇宙、あるいは次元にも許容範囲がある。そりゃそうだ、誰も選択しなかった
「………宇宙とか次元とかよく分からないけど、スマホの容量みたいなものがあるという事?」
「ああ、そんな感じ」とキャスターは頷いた。スマホが発明されるより古い時代に生まれたキャスターだが、恵里や雫達から現代の生活の話を聞いて理解していたのだ。もっとも、その時に「たった数十年で科学もここまで来たか………ブレッチリー・パークもあの世でひっくり返ってるだろうよ」とどこか遠い目をしていたのが印象的だったが。
「そんなわけで宇宙や次元という名前のスマホの容量を確保する為に不要となった
もしも恵里がトータスに来る前にこの話を聞いたならば、それこそライトノベルの設定だと思って聞き流していただろう。だが、話しているキャスターの姿はまさに学問に通じた教授の様に真剣そのものであり、恵里も知らず知らずに聞く姿勢に力が入っていた。
「さて、ならば異世界ことトータスとは何なのかという話だが。まず、地球とは全く別の天体というわけではない。人類が生きられる星なんて宇宙でも稀少だからな。あるいは遠い銀河の彼方とかなら人類とは別の知的生命体がいるかもしれんが、それこそ人智の及ぶ話じゃない。しょせん奴は人間から神となった存在。エヒトルジュエが交信できるのは、同じ知的構造をした人類がいる星だけというわけだ」
あるいは
「この世界で神様ごっこに飽きたエヒトルジュエは、この世界とは別の世界へと干渉を始めた。しかし、奴は“宝石翁”ほどに並行世界に詳しくはなかったみたいだな。本人が“異世界”だと思ったそこは、“並行世界の地球”でしかなかったというわけだ」
「じ、じゃあ………ここは地球だったのか? ボク達は全く別のファンタジーな世界に来たんじゃなくて、最初から別の地球に来ていただけ、ってこと?」
「その通り。もっとも、この世界は汎人類史とは大きく外れた事象世界だ。不完全とはいえ、そこへ干渉できたエヒトルジュエは大したものだと言うべきだろうよ」
言葉を失い、恵里は呆然としてしまう。ある意味においてトータスの重大な秘密を聞かされたていた。きっとこれは、トータスを広く旅をしているハジメ達ですら知らない事だろう。
「そしてこの世界は俺が生きた時代より魔力が大気に満ちている………おそらく、神代の時代で俺や恵里のいる地球とは可能性が分岐したのだろうな。謂わば、ここは“神代がそのまま続いた並行世界の地球”といったところか」
そして話は戻るが、とキャスターは切り出す。
「汎人類史から大きくズレた事象とはいえ、ここが並行世界の地球であるなら俺は召喚される。そもそも“英霊の座”に時間軸も並行世界の概念も無いからな。そんなわけで恵里から見れば過去の地球で生きていたキャスターさんは、並行世界の知識もよく分かってない自称・神様のお陰で目出度くトータスに降り立ったというわけだ」
「は、はは………もう笑うしかないくらい途方もない話だというのは分かったよ」
文字通り乾いた笑いを浮べながら恵里は頷いた。いずれにせよ恵里に理解できるのは、一介の少女でしかない自分ではスケールが大き過ぎるという話だった。
だが、同時に―――恵里の心に一抹の不安が過った。
「あのさ」
恵里は静かにキャスターに聞く。それはどこか不安そうな顔だった。
「そんな事まで出来るエヒトルジュエに………ボク達、本当に勝てる?」
目の前にいるキャスターは普段の言動はともかく、自分などより遙かに力も知識もある魔術師の英雄だ。しかし、そのキャスターをもってしてもエヒトルジュエには一度敗北しているのだ。ましてや相手は世界の壁すらも超える、この世界の神。今更ながら、自分が途方もない相手と戦おうとしていると実感していた。
それはまさしく、不可能に挑もうとする“極限の意志”が必要となる難行。
何も知らなければ、恵里は光輝の無事を条件に真っ先に降っていただろう。
「安心しろ。言っただろう、奴は並行世界の事も不完全にしか知らないと。茨の冠を被ったユダヤ人の親父みたいに全知全能の存在じゃない」
しかし、キャスターは笑いながら首を横に振った。
「大体な、奴がサーヴァントを召喚する為に使った儀式の術式も酷いものだったぞ? どこで見つけたか知らんが、願望器の紛い物を触媒としたものだった。それこそ“御三家の聖杯戦争”からすれば、“亜種聖杯戦争”と揶揄される様な」
それはおそらく、
とある日本の都市で密かに行われていた儀式が世界中に拡散され、本来の目的を履き違えたままに再現しようと試みた願望器のなれの果てだろう。
「だからこそ、俺の様に本来の聖杯戦争では召喚されない様なサーヴァントがいるわけだが………ともかく、そんな不完全さに気付かずに神様だと慢心してる奴だ。つけいる隙なんていくらでもあるんだよ」
「それは……そうだろうけど………」
キャスターの言葉を理解しながらも、恵里は不安を拭いきれない表情だった。確かにキャスターの言う通り、相手は自分を神だと見せかけているだけの人間なのだろう。しかし、それでも今の恵里には自分がその相手をどうにか出来るという具体的なイメージが湧かなかった。
「やれやれ、そんなに不安か? それなら―――
「時間切れ? それはどういう………?」
「ああ、それはな――――――」
そして――――――キャスターは恵里に話した。それはエヒトルジュエ自身も気付いていない、とある事実を。
「……………それは、本当なのか?」
「ああ。だからこそ、こっちも悠長に構えていられるんだよ。もしも奴がこの事を理解していれば、
自らをトータスの創造神だと詐称する天上の王。しかし、その実態は普通の人間より少し高い場所に“到達”しただけで、“根源”と呼ばれる場所にもほど遠い。
そんなエヒトルジュエをあざ笑うキャスターを見ながら、恵里は考え込む。
確かに………それはエヒトルジュエにとって身の破滅となるだろう。
「まあ、といってもこれはもう少しだけ時間が掛かる。それまでに恵里はともかく、勇者くんが生き残っているかは微妙だなあ」
残念ながら、それはキャスターの言う通りだろう。元々はエヒトルジュエが暇潰しの為に光輝や自分達は召喚されたのだ。それこそエヒトルジュエが望むのは自分の人形達が滑稽な芸を見せる事で、
「そうなったらそうなったで、元いた地球に逃がしてやるよ。
ある意味において―――これで恵里の安全は確保された。
現代の日本とは違って、トータスでは命の危険などすぐ隣にある。だからこそ、“神の使徒”などと似合わない役目を背負わされたクラスメイト達は必死に元いた場所に帰る為に戦っているのだ。たとえ神の気紛れの遊戯で踊らされてるとしても、それだけは本物の感情だ。
だが、それとは関係なく恵里には脱出の逃げ道が用意されたのだという。
(それにこいつの話しぶりからすると、ボク以外にも何人かは日本に連れて帰れるんだよな? それなら光輝くんと一緒に帰って、それから………!)
それから―――どうするというのだろうか。
生還の道を示され、興奮した恵里の頭の中で突然冷静な声が聞こえた。
確かに光輝と自分だけで日本へ帰る事が出来れば、香織や雫といったお邪魔虫はいない。その事を光輝は悲しむだろうが、自分がその二人の代わりに彼を愛すれば良いだけだ。
そして―――それで本当に光輝は自分だけを見る様になるだろうか。
答えは―――否だ。
忘れもしない、それは光輝と出会う事となった切欠ともなった出来事。“恵里の問題は既に解決した”と思った光輝は、もはや恵里の事など眼中に無くなっていた。ヒーローにとって一話で助けた人間など、ただのモブキャラでしかないのだ。
(それじゃ駄目だ。ボクは日本に帰りたいんじゃない! 光輝くんの唯一無二になりたいんだ!)
ある意味において、恵里はとある少年と真逆の意志を抱いていた。
奈落に落ちても地球へ帰りたいと願った彼に対して、
「まあ………どのみち、その話は今すぐに出来ないんだろ」
頭が少し冷えて、恵里は大きく息を吐いた。
「だったら、いいや。そんな方法よりエヒトルジュエをきっちり倒した方が、光輝くんも守れて一石二鳥だから」
「おや、神様に勝てるか不安だったのに?」
「だから、倒せば問題ないんだろ。考えたらエヒトルジュエが光輝くんを召喚なんてするから、ボクもこんな目にあってるんだ。ちゃんと息の根を止めてお礼してやるよ。ああ、そうだ………いっそ自称・神様が無様に這いつくばる姿が見れたら、
吐き捨てる様に、しかし獰猛な闘志を見せながら恵里はそう言った。そこに不安な少女の顔などない。
そして………この場に鏡が無いから恵里は気付かなかったが。
凶暴な笑みをもって困難に挑もうとする。それはキャスターによく似た表情となっていた。
「分かってるじゃないか」
ニィッ、とキャスターもまた笑う。
自らにどんな障害が降りかかろうと、全て獰猛なに笑って食らい尽くす。
飢えた獣の様に食らいついてく姿こそ、彼が望むものだった。
「だったら強くなるしかないなあ。ある意味においてエヒトルジュエのタイムリミットは、お前のタイムリミットでもあるのだから」
「ふん、やってやるさ」
「まあ、時間切れになったらお前の意思とは関係なしに強制送還だけどな。とりあえず勇者くんと二人で良いか?」
「………いや」
少し考えて恵里は首を横に振った。もしも
「………二人。二人だけでも連れ帰りたい。あとはどうでもいい」
「ふうむ。二人ね。まあ恵里も入れて三人分の転移なら、なんとかなるか………」
頭の中で必要な魔力の量や術式に必要な触媒などを考えているのだろう。キャスターは思案顔になっていた。
「しかし、三人だけというのは助かる。もしも、“トータスの人達も見捨てられない!”とか言われたら困ってた。なにせ――――それこそ、
異世界・トータス
ザザッ……。
A.D.???? 神代存続世界 トータス
人理定礎値:??
というわけで、実はトータスは並行世界の地球でしたという設定。ありふれとFateのクロスをやるに至って、いつかはこのネタはやりたいと思ってました。
まあ、エヒトルジュエは神様だけどそこまで万能じゃないよねというか。それこそ時間旅行とかして原作でハジメに負ける可能性とか排除すれば良いのにやらなかったのは、Fateで言うなら魔法にすら至れてない存在だったというニュアンスです。あとエクステラだったと思いますが、「並行世界でもあまりに汎人類史と基盤が違い過ぎると異世界と呼ばれる」という設定があったので、トータスは単純な意味での異世界でなく「汎人類史とは違い過ぎる歴史を辿った世界」という解釈をしました。
因みにchatGPTに聞いてみたら、「トータスを地球に当てはめたらアフリカ大陸になるんじゃね?」との事。マジか………。
>汎人類史とはいつ訣別した?
キャスターは神代の頃と推測したが、正確には14000年前のヴェルパー襲来から。ヴェルパーについては詳しくはFate/extellaなどを参照すること。
汎人類史では様々な理由で生き残る神霊もいたが、この世界線では神霊は全て全滅した。そうして文明すら破壊し尽くされた地球へ、エヒトルジュエ達こと“到達者”が転移してきた。彼等は支配者の消えた土地を新たに開拓して人類を再び発展させ、“トータスの神”となったのである。そうして“並行世界の地球”ことトータスは、汎人類史とは異なる歴史を歩んでいた。
>エヒトルジュエが元にした聖杯戦争とは?
アポクリファ時空において様々な場所で行われてる亜種聖杯戦争から。詳しくはFate/Apocryphaを参照すること。
実のところ、エヒトルジュエが並行世界へ干渉する術はかなり不安定。特定の世界線を狙ったりは出来ず、また何が自分の世界に引き寄せられるかも召喚されるまで分からない。
そうしてアポクリファ時空から各地で行われた亜種聖杯戦争の一つで使われた聖杯(モドキ)を引き当てたのだが、やはり冬木の聖杯の紛い物でしかない願望器に本来の聖杯戦争を始める力などなかった。そしてエヒトルジュエ自身に第三魔法なども知識もないので、紛い物の聖杯戦争を再現としてサーヴァントの召喚しか出来なかった。
曲がりなりにも神霊である為、亜種聖杯戦争とは異例の七体の召喚には成功したものの、“トータスのキャスター”みたいなイレギュラーが出ている。本来の聖杯戦争ならば、彼はあまりに近代すぎる英霊である。
なお、キャスターは本物の聖杯戦争を識るが故に「自分ならば本物の聖杯を用意できる」とエヒトルジュエに交渉した様だが………。
>“時間切れ”
――――――詳細不明。