——みんな、最高が欲しいんでしょ?
館内に響き渡る少女の問い掛けに、数瞬前まで騒めいていた観衆は静まり返る。それが、彼女達のスタートの合図だと知っていたから。
「Yes! BanG_Dream!」
紅い星型のギターを身に纏った少女の言葉に館内は一気に湧き上がる。彼女の言う“最高”を欲していると言わんばかりに。
問うた少女はと言えば、その歓声に答えるかのように愛器をかき鳴らし、仲間たちと共に
「さあ、飛び出そう! 明日のドア ノックして 解き放つ 無敵で最強のうた!」
そこまでほぼ一息で歌いきったボーカルの少女は、大きく息継ぎをしながら弦を弾いていた右手をギターから離し、指を銃の形にして会場の遥か後方目掛けるような形で構える。
「——In the name of BanG_Dream!」
『BanG_Dream!』
フレーズに合わせて構えていた指鉄砲を撃ち放ってみせると、他のメンバーや会場全体が復唱するように歌い、彼らの見据える“夢”を撃ち抜いて見せた。
「Yes! BanG_Dream!」
『BanG_Dream!』
会場内を駆ける声と熱。誰も彼もが彼女達に夢中である証拠だ。そして彼女たちもまた、会場の熱気に晒され昂り始めていた——
彼女たち『Poppin'Party』が結成してから半月ほどが経った頃。夢の蔵に集っていた5人の少女たちは今日も今日とて練習に励んでいた。
バンドとして初の曲『Yes! BanG_Dream!』の音合わせをしてみたり、ボーカルを務める少女、戸山香澄の作った記念すべき2曲目『STAR BEAT! 〜ホシノコドウ〜』の仕上げにかかったりと大忙しの様子だ。
やれそっちが早いだの、こっちは遅いだの、それじゃ音が小さいなんてことを互いに笑い合いながら、けれども真剣に意見を交わし高め合っていた。
そうした幾分か経った頃、キーボード担当、且つこの蔵の主人でもある市ヶ谷有咲が一堂に向けて声をかける。
「そろそろ休憩にしましょう」
「同意だ。腹が減っては戦はできぬ故」
有咲の言葉に頷いたベースを担いだ少女、牛込りみはお腹に手を当て空腹であるようなそぶりを見せる。その直後、腹の虫の鳴き声が辺りに響く。
「あはは。じゃあおやつタイムかな。パン持ってきたよー」
「ホントっすか! 自分、沙綾センパイの家で作ってるパン大好きっす!」
柔らかな笑いを浮かべたドラム担当の山吹沙綾に対して、青の愛器を置いたギター担当、花園たえが目を輝かせながら反応する。それに続いて他のメンバーもやったー、沙綾ちゃんの家のパン! などと喜びの声を上げていく。
「じゃあこれ、全員分あるから好きなの取って」
「はーい」
「御意!」
「わかったっす」
「ありがとう」
感謝を述べて各々好きなパンを手に取るといただきます、とみんなで手を合わせてパンを頬張る。途端一同の顔が一斉に綻んだ。
「美味しい〜!」
「美味しいっす! ここのパンを食べちゃうと他のところのパンが食べられなくなるっす!」
「ふふっ、ありがとう」
感想をもらった沙綾が少し照れたように笑う。そうして暫しの間ワイワイしながらパンを頬張る5人。その最中徐に香澄がある提案した。
「ねえ、そろそろ次のライブの予定決めない?」
「賛成っす!」
「そうね。次の目標を決めておいた方が練習もしやすいでしょうし」
たえ、有咲の順に肯定の意を示すと、沙綾も同じように首を縦に振り同意する。
「それなら文化祭が良いだろう。夏休み明けにやるウチの文化祭には特設ステージが設けられると聞いている」
「さすがりみ。情報収集が早いわね。そうと決まれば文化祭に向けて練習するわよ!」
おー、と5人の声が響きあう。画して一同は次なる舞台である文化祭目指して練習を重ねて行った。そこからさらに数日程たった頃、持ち曲の粗方を詰め終えたところで香澄が一同に向けて告げた。
「ねぇみんな、次の文化祭でのライブ、新曲やらない?」
「新曲?」
一同を代表するかのように首を傾げたのは有咲。ゆらゆらと柔く結ったツインテールを揺らす彼女に、香澄が返答する。
「うん。折角だから、新しい曲をやりたいなと思って。歌詞はもう作ってあるんだ……」
「すごいじゃないかすみん! その歌詞見せてよ!」
「自分もみたいっす!」
「うちも見たい!」
「私も見たいかなー」
有咲、たえ、りみ、沙綾の順に香澄へとせがんだ。ここまでみんなが食いついてくるとは露程も思っていなかった香澄は、僅かに驚愕しながらも歌詞を綴ったノートを鞄から取り出し一同の前に差し出した。
「これの、1番最後の方に書いたやつなんだけど」
「どれどれ。表題は——」
どこか照れ臭そうな香澄の手前、ノートを覗いた他のメンバーたちは新曲の歌詞に釘付けになった。香澄の記した、新たな
「——指をつなぎ 始まったすべて いま歌って いま奏でて 昨日までの日々にサヨナラする」
5人が集まった直後から懸命に練習を続けてきた曲、『STAR BEAT! 〜ホシノコドウ〜』のラストフレーズが管内に響き渡った後、それは大きな拍手の渦へと変化した。その拍手に紛れるようにして、彼女たちを讃える声もあった。
そんな心地の良い嵐を前に荒い呼吸を整えつつ、頬を伝う汗を拭った香澄はメンバーに目配せをしてから再度客席へと向き直る。
「次が最後の曲です。この文化祭でライブをするために作った新曲です。聴いてください——走り始めたばかりのキミに」
客席から上がる歓声と入れ替わるように香澄の詩が三度、会場内を駆け抜ける。声を取り戻したカナリアの決意の歌声が。
——果てしなく続くこの道に ひとつだけ 決めたことがある
香澄から始まった歌は、有咲、たえと歩んだ後に香澄の元へと戻り5人の歌声になる。
——めくるめく季節ぬけだして 泣きじゃくるキミを見つめてた
——今はまだ届かなくたって 終わらない
サビのラストフレーズを香澄の歌声が彩る。そして今度はりみ、沙綾の順に進み再び5人の歌声になる。この5人だからこそ奏でられる楽曲に、観客たちは先程までとは違った形で魅了されていた。ある者は星のカリスマの熱い歌に、ある者は火を吹くようにベースを弾くニンジャに、ある者はふんわりと踊るように音を奏でるクラガールに、ある者は
そうして少女たちの魅力に観客たちが吸い込まれているといつの間にやら曲は佳境に差し掛かっていた。
——追いかける 信じ続けてる 誓ってる 信じ続けてる
——終わらない 信じ続けている 止まらない
それぞれの胸に誓った思いを載せた歌声が会場内を満たした時、観客たちのボルテージもまた限界を突破していた。彼女たちの奏でるキズナのその先を見せてほしい、と。
「走り始めたばかりのキミに——」
最後のフレーズを香澄が歌い終え演奏が止まる。その余韻にメンバーが浸っている中、今日1番の歓声が会場を包んだ。ありがとうポピパ! 最高だった! なんて声も聞こえてくる中、楽器を置いた一同はステージのいちばん手前まで来ると手を繋ぎ合い、一斉にお辞儀した。
『ありがとうございました!』
そしてまた、会場内が拍手の嵐に包まれる。お辞儀し終え顔を上げたポピパの5人も嬉しそうに手を振り、観客たちの感性に応える。こうして、彼女たちの文化祭ライブは最高のうちに幕を閉じた——