そんな秋だからこそ、“小さい秋”を見つけてみよう。
「へっくちゅ」
変なくしゃみが出てきた。
朝、パジャマから着替えようとした時のこと。
確かに昨日の夜は寒かったような、そうでもないような。
スマホの画面は20℃と示している。
過ごしやすい陽気のはず……つい昨日までは28℃超えだったことを除けば。この寒暖差を前に、脱ぎ捨てたパジャマは少し心許なかったようだ。
窓を開けてみると、肌寒い風が吹き込んで──────来ない。
見える空は雲に覆われ、隙間から青空がちらりと見え隠れする。
「中途半端な季節だなぁ」
年を経る度に、秋という季節がこの世から消滅してきている気がする。
暑くもなく、寒くもなく。
だけど昨日は暑かったから、少し薄着のほうがいいかも?
まあ今日は平日のため、着るのは学校指定の制服だ。
しかし、休日だと服選びに時間をかけすぎてしまうため、実はちょっと秋が苦手だったりする。
…………ふと、思った。
この10月から11月。暦上は確かに秋だろうが。
──────果たして、今の気候を“秋”と呼んでいいのだろうか?
◇◆◇◆◇
そんな狭間な季節だからこそ、つぐみはちょっとした楽しみを見出した。
幸い、今日は生徒会の仕事はないため幼馴染みんなと一緒に登校することに。
さて、この中途半端な気候。
果たしてどんな姿で来るのだろうか。
制服とは言え、着こなし方は人それぞれ。
羽丘の制服はブレザーで、既に冬服の期間に入ってしまっている。故に上着を着ていくのが校則的に正しい着方であった。
無論、つぐみはブレザーを羽織っている。
生徒会長として生徒の模範にならないといけないのだから仕方がない。
……一個上の先輩が少しばかり奔放だった故にこそ、自分はきっちりとしなければならない責任感があった。
「おーっす、つぐ。やっぱりつぐが一番かー」
一番手、巴。
ブラウスのみ。上着は鞄と同じく肩にかけるように持っていた。
「おはよう巴ちゃん。うん、予想どおり」
「ん、何か言ったか……?」
「あっ、た、大したことじゃないの。実は……」
かくかくしかじか。
隠すことでもないため、巴に事情を説明すると面白そうと乗り気になった。
我ながらしょうもないかもしれないが、こんなことでも全力で乗っかってくれる彼女は、つぐみにとっても本当にありがたい存在だ。
「蘭は……まあ絶対キッチリ着てくるよな」
「うん、蘭ちゃんなら間違いないね」
「何。何の話してるの?」
背後から一声。
朝のためか、気分が若干落ち気味だが、間違いなく我らがボーカルである。
「おっ、噂をすれば! さてさて、蘭は……あー、予想どおりかよ!」
「意味分かんないんだけど。巴、風邪でも引いたの?」
ジト目の蘭は上着を羽織り、当然ボタンを締めている。
暑い場合は脱ぐことはあれど、本日の陽気は少しだけ肌寒い朝。上着を脱ぐ理由なぞ、どこにあろうか。
赤メッシュ以外はちゃんと真面目な優等生なのが彼女の良いところである。
「え、えっと実はね……」
「ああそういうこと。確かにここ最近はっきりしない季節だよね」
かくかくしかじか。
つぐみが説明すると静かに同意した蘭。
きっと、これを巴かモカが説明すると「バカじゃないの」と一蹴していることだろう。
つぐ神様の前にはあの美竹蘭でも逆らえないのである。
「で、この流れなら次はひまりが来る頃かな」
「何だよ、蘭も乗るのか?」
「うるさい……ひまりはまあ、わかるけどね」
「ああ、絶対わかる」
「あはは……」
三者とも同じ反応を返す。
巴と蘭は半ば呆れ気味に苦笑い。
悲しいことに、つぐみも反論する余地がなかった。
「おはよ〜〜」
ここで予想だにしない登場人物のエントリー。
いつも集合時間ギリギリに来るはずのモカが来てしまった。
ぎょっ、とする三人は小声で作戦会議を始める。
「ど、どうする?」
「どうするも何もないでしょ……えーっと、着ているでしょ。少し寒いし」
「いや、面倒くさがって着ていないな」
「え……なら、私も着ていない、かな。多分、昨日学校に忘れてきているとか?」
「ん〜?」
いっせーのーせ。
言葉にしないでも、息のあったようにつぐみ、巴、蘭が一斉に振り向く。
「上着は……着ているね」
「ああ……でも、モカ、ネクタイはどうしたんだ?」
「ふっふっふ〜。先に登校しているよ〜」
「忘れてきたんだね……」
正当者誰も居らず。
蘭とつぐみは良い線であったが、さすがにこれは予想できまい。
「昨日暑かったもんね〜。で、何の話〜?」
「えっとね……」
かくかくしかじか。
このやり取りも三回目だ。つぐみの説明も端的かつわかりやすく洗練されたものだ。
「なるほどね〜。で、今誰がトップ〜?」
「え、別に。数えていない」
「まあ、つぐの思いつきから始まっただけだしな」
「え、えへへ……」
所詮は待ち時間の暇潰しだ。
もしモカが初めからここに居たら罰ゲームなどを提案したかもしれないが、それはもう後の祭り。
「で、あとはひーちゃんか〜。まあ、予想するまでもないか〜」
「うん」
「な」
「あ、あはは……」
最後の一人は出来レースであるから。
勝負にならないのだ。
さすがにこれにはつぐみも苦笑いを浮かべるばかり。
「お、おはよ……」
いつもの天真爛漫さが欠けた元気のない声。
間違いなく上原ひまりの声である。
この時点で付き合いの長い四人は既に察してしまった。
「いくぞ。せーのっ」
「着てない」
「着てないね〜」
「着てないな」
「着てないっ」
「うえぇ! 皆急にどうしたの!?」
びくりと跳ねるひまり。
その豊満に実った胸……よりも視線はその下に注目された。
「〜〜〜〜っ!」
視線を感じたひまりは腕で覆う。
さて、なぜ彼女が上着を着ていないのかもうわかるだろう。
正確には、
「太ったな」
「と、巴〜!!」
言い難いことをズバリと巴が切り出した。
涙目で訴えるひまり。図星である。
彼女たちも3年生。受験生にとっても大事な季節だ。
そして、無慈悲に重なる
気候は不安定でも美味しいものはそこにある。
受験勉強の合間、糖分補給という大義名分を得た上原ひまりの末路がこの姿。
なんと最後の年で制服のサイズが合わなくなってしまったことの何と哀れなことか。
「よし、行くか〜」
「待ってよトモち〜ん」
「早く行くよ。ひまり」
「う、うえーーーーん!! つぐーーーー!! 皆がいじめるーーー!!」
「あ、あはは……」
泣きついてくる幼馴染に胸を貸すつぐみ。
さすがに発端となった彼女からかける言葉は見当たらず。
ただただ頭を撫でることしかできない彼女は心中で謝っておいた。
二億年ぶりくらいにバンドリ作品投稿したので初投稿です。