汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
「⋯結局のところ、舐められていたんだろうな。」
ゲレタはレナを巡る一件を思い返し、そう総括した。
先王は勇猛果敢であり、決して英明とは言えなかったもののマケドニア国内の掌握には成功していた。
だがしかし、当時のミシェイル王子が王を弑逆したと言うのにマケドニア騎士や貴族、有力者は新王となったミシェイルに従う事を躊躇っていない。
勿論、ある程度取り込みをしたのは間違いない。しかしそれは、あくまでも竜騎士団や地上部隊を纏めるルーメルやリュッケ、マリオネスと言った軍の中枢。それに政務に携わる者は『書簡で殴りつけた』
この場合、数字としてマケドニアの置かれている状況を突きつけただけであり、流石に陛下に対する書簡アタックをした訳では無いが。
一番やりやすく、そして避けねばならなかったのは先王や親アカネイア貴族が白騎士団設立によりやろうとしていた事。
これを衆目に晒す事だった。
弑逆という非情の手段を用いて王位に就いたミシェイル王。
当然ながら、それを問題視する者もいるだろう。
勿論、先王による数々の問題行動があるから同情的に見られはしようが。
しかし、だ。
感情という予測不能な要素を勘定に入れて行なうにはかなり危険な賭け。
故に
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だが、果たして先王の時に話を持ち込まれ同じ様に断っただろうか?
己の分限を弁えず、直訴等と言う手段を取っただろうか?
国王の影響の最も強いマケドニア城で批判しようとしただろうか?
ミシェイル陛下はマケドニア内の分断を望まず、変化についていけぬ者だろうとマケドニアの民として遇するべき。
そう考えておられる。
故に苛烈な沙汰を下す事はない。
だから、甘く見られている。
言い方を変えれば舐められているのだ。
ミネルバ様よりマチスの父親がマチスの首と己の命を以てレナや自家の安全を守ろうとしている。
報せに来たパオラは非常に複雑そうな顔をしていたが、そもそも王族付きの騎士とはそういう事にも向き合わねばならない。
レナは助命しても、処断しても面倒な事になるだろう。
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余り拡がっていないものの、陛下はレナを妻として迎えようとし
そしてレナに断られた。
その辺りを秘しているから、レナの扱いについて奔走した俺がレナを気に入っている。
等と言う話が拡がった訳で、此処で陛下が助けたとなればレナに陛下が情を持っている等と見られかねない。
陛下や俺がどう思っているのか?ではない。
他社から見てどう見えるか?それが重要なのだ。
助命せぬとなれば、命を賭けた請願を無視する事となり要らぬ疑念を持たれかねない。
どちらを選んだとしても、今後のマケドニアの為になるとは思えない。
「⋯疫病神めが。」
思わず、既に死んでいる人物に悪態をつく。
マチスはあれでも嫡男だった。
当主がマチスの助命を必死で願いながらも、刑として死罪に処すれば周りも渋々ながらに納得しただろう。
勿論、かの家は今代限りとする事も布告すれば甘い沙汰とは誰も言えない。家にとって跡継ぎを喪い、家を取り潰される事は最大の罰となる故に。
そうすれば、丸く収まる。
収めてみせる自信はあったし、陛下やマケドニア貴族達にも根回しをするつもりだった。
確かに気は進まなかったが、それがマケドニアの為ならば泥を被る事など何の躊躇いもない。
綺麗事だけで世界が回ると思わないが、救いはなければならないのだから。
別に
無用な混乱など必要であろうか?それだけの事。
それが全て無駄になった。
少なからず、チキにも気を遣わせてまでレナを助けようとしたと言うのに。
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歴史を紐解けば代替わりした結果、その勢威を大きく落とした例は多々ある。
特に日本の戦国時代にその例は非常に多く
天下に最も近づきながら当主と嫡男を失い、結果有力家臣により天下を取られた形となった織田家。
暴君であった父を追放。一族や家中を引き締め大きく躍進しながら志半ばで没した当主の影に振り回される事になり滅亡した甲斐武田家。
その他にも多数あるだろう。
代替わりしたところで、家臣団の陣容は変わらず
家臣は常に先代と当代を比べるものだ。
同じ人間になれる筈もないと言うのに
強硬なやり方でマケドニアを動かしていた先王。
マケドニアに大きな変化を齎しはしたが、先王に従っていた者を罰しようとしない当代。
現国王の腹心は苛烈な所を早々に見せた事により、軽挙妄動を控えさせる効果はあった。
⋯まぁそれすら理解出来ない者もいたらしいが。
優しさは時に甘さとなり
甘さは組織の弛みを生む。
厳罰に処さねばならない時は断行しなければならず、下手に助命したところでそれを恩に感じる者ばかりではない。
他者に施しをすれば、それを忘れず
他社から受けた恩はあっさり忘れる。
それもまた人の持つ二面性。
だから、ゲレタは
元より期待もしていないのだから。
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ゲレタに報告をしたパオラは帰りの途上、物悲しい気持ちだった。
初めて自分達に会った時、向けた無機質で冷たい目
報告を受けた彼はそんな目をしていたのだから。
最近では見なくなったあの目。
妹達もミネルバ様もマリア様も
⋯自分だって、あんな顔を見たくはないのだから。
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揺れるマケドニアであったが、アカネイアからすればそれこそ些細な事と言い捨てられる程に事態は急速に悪化しつつあった。
何せ先の内乱における沙汰は全て終わっておらず、結果王女達を軟禁さねばならなくなったからである。
罪人であり、周囲に担がれただけとは言えど極刑は避けられぬ。
しかし、アカネイア王家の一員である事実は消せず、その取り扱いは非常に面倒なものとなっていたのだから。
一部からは助命嘆願。そうでなくとも、王が未だ定まらぬのであれば窮屈な生活を送らせるべきではない。
そんな意見も聞こえてきた。
これはアカネイア王家の絶対数が少なかった為に王族の粛清などと言う選択肢がそもそも無かった事に起因する。
まして、王国の者は『建国王アドラに連なる血』に対して敬意を持つ様な教育をされており、それを始末すると言うのは考慮の外にあった。
既に将軍や騎士団に発言力は無いに等しく、しかし武力を持つ集団である騎士団の暴発を防ぐ為に文官達はある程度の配慮をせねばならない。
少し前までニーナに近侍していた者は一刻も早くニーナを王位に据えたいと思っているが、その我欲の見え隠れする言動こそがニーナの不興を買っている事にそこまで頓着していないときた。
何せニーナに寄る辺は無く、であれば自分達を取り立てる他に道はないのだから。
そう信じて疑わない。
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ニーナは王位に全く興味も関心もなかった。
自分を王位に就けようとしている者達より、距離を取ろうとしているアドリア伯の方が遥かに頼りになるだろうし、まだ信用出来る。
そう思っている。
それにアドリア伯を味方とすれば領地を持つ封土貴族達の協力も取り付けられるだろう。
国王なんてやりたくは無い。
しかし、やるのであれば今のアカネイアは変えねばならないとも思う。
アドリア伯領に来て彼女は自分の知らない事の多さに目眩すら覚えた。
アドリア伯は領内において、行商人の活動を認めてはいるが食糧の購入については制限をかけている。
「遠征の話が出てくれば食糧を確保し、利を得ようとする行商人が必ずや出てくるでしょう。
店を持つ商人と違い、彼等は根無し草。それこそ成り上がる為には手段を選ばぬ者もおりましょうからな。」
アドリア伯ラングは行商人の問題行動について大凡見当がついている。
何せ、自分であればどの様な手段を用いるのか?と同義なのだから。
遠征が行われようが、行われまいが過度な食糧の買い込みは好ましいものではない。
そもそも食糧の売買自体が今のアカネイアにおいて危険なもの。
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カルタス王以降、確かにアカネイアは大きな戦争はなく本来ならば国力は増加して然るべきところ。
ところが何故かアカネイアの食料事情は未だ解消されておらず、国内においても賊の発生は止む事がない。
確かにアカネイアはこの大陸秩序の要であり、仰ぎ見られるべき国家なのやも知れない。
だが、そのアカネイアの中身は驚く程に空っぽであり、それこそオレルアンから賊が流れて来ているのではないか?とさえ思える程に治安は宜しくない。
そもそもノルダの奴隷市場などと言うものが存在している時点でアカネイアの内情は察せられるところ。
封土貴族ではなく、領地を持たぬ貴族共は必要以上に着飾り見栄を張る。
奴隷を買い込みそれを使い捨てるのだ。
奴隷とは犯罪奴隷ではなく貧しさから売られる事になった者を指す。
犯罪を犯した者を奴隷とするには、その管理が難しい為だ。
盗賊や山賊が更生するのには、余程の心の強さが必要となる。
奪う事に慣れた者がものを育て、作る事に耐えられるか?
ラングはそう思わない。
盗賊は鍵開けの技術を持つ者が多い。
となれば、窮乏すればそれを悪用しないと誰が保証出来ようか?
道を踏み外した者が更生するのにラングも否定はしない。
しかし、道を一度でも踏み外した者は道を正したとしてもその道がある事を知っている。
その方が楽を出来る事も
だからこそ悪事を働く者は道を正したとしても、ふとした切っ掛けで楽に流れようとする。
それを他ならぬラング自身が良く知っているのだから。
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ラングは他の封土貴族と違い、己が悪徳貴族と呼ばれる部類である事を自覚している。
だからこそ、悪党共のやりそうな事も予想出来る。対策も取れる。
「寄る大樹が腐っていてはおちおち小悪党も出来ぬわ。」
故にラングはアドリア伯としての責務を果たす。
悪徳領主をするにせよ、確固たる地盤や領民の支持は必要不可欠。
力で抑えつければ、大権に阿れば良い等と考える者もいよう。
だが、揺らぐ土台の上にある建物は脆い。
⋯まぁ些か以上に面倒な事は否定しないが。
ニーナから話を持って来られているが、正直な話迷惑でしかない。
パレスの連中は嫉妬深く、欲深い。
欲深いのは向上心にも繋がる事ではあるが、奴等のそれに際限は無い。
そうやってアカネイアと言う国家を貪り喰らっていると言うに、それにすら気付かない。
それこそ、
封土貴族は現実と嫌でも向き合わねばならぬ。
パレスで引きこもっている連中にはパレスしか映らない。
己の視界に無いものは意識せねば忘れてしまう。
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教会の反体制派とも言えるボアを中心とする者達。
しかし、彼等も動けなくなっていた。
頼りとすべきニーナ王女。
彼女が次期国王となる可能性が高くなった為である。
これでは権力闘争と見られてしまう可能性があった。
主流派、つまりカダイン誅伐やマケドニア征伐を主張する者達はまず間違いなくそう喧伝する事だろう。
あくまでボア達の目的はカダイン誅伐を阻止する事。
可能ならば、王国を焚き付ける様な事を止めさせたいとは思うものの、そこまですると静観している者達がどう動くか分からない。
国王⋯いや女王となるニーナを支持するとしても面倒事が増えるのは間違いなく、その面倒事に対して適切な対処が出来ると言い切れる程にボア達は政治に明るくない故に。
そんなボア達を尻目にエレミヤは動こうとしていた。
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エレミヤにとって、今の教会は欺瞞に満ちているとしか思えない。
確かに目立った争いはないのだろう。
⋯しかし、ならば何故飢えに苦しむ子供達がいるのか?
親が居らず、周囲から邪険に扱われる子供
働けど、その稼ぎは大人に持っていかれる子供
本来、そう言った子供達に手を差し伸べるべき存在ではないのか?
『衆生を救ける』などと謳っておきながら、総本山の者達はそんな事をするつもりも認めるつもりもないときた。
幾ら各地の教会の神父やシスターが助けようとしても、限界がある。
彼等彼女達では領主に意見出来たところで、国を動かす事は出来ないのだから。
王国に対して意見する事が出来る組織は限られている。
⋯いや、殆ど無いと言っても良い。
その中で教会の総本山はそれが許される。
にも関わらず、教会総本山はそれをしない。
貧しさ故に親が子を売り
子はいつ己が捨てられないのか?日々心穏やかに過ごせないと言うのに。
エレミヤは教会において初めての女性司祭である。
だが、司祭と言えど彼女に出来る事は限られていた。
カダインを
マケドニアを倒す前にやるべき事があるのではないか?
彼女にはそう思えてならなかった。
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「⋯これが代金だ。」
「⋯⋯こりゃ驚いたもんだ。
で?アドリア伯領でひと暴れすりゃあ良いんだな?」
「そうだ。
金は渡した。人を集めるのも難しくはあるまい。」
とある廃屋の中で密談が行われている。
身なりの良いとはお世辞にも言えない人物は渡された金を見て上機嫌。
そして、金を渡された人物は意気揚々とその場を後にした。
「あんな小娘に王位を継がれては困る。
アドリア伯とて、小娘を守れぬと知れば皆離れよう。」
残された人物は険しい表情でそう呟く。
彼等にとって、カダイン誅伐やマケドニア征伐はやらねばならぬ事。
その為に其れ等を取り止めようとした前将軍を始末し、今の将軍を据えたのだ。
今更やらぬで収まる話ではない。
小娘が王位を継ぐのは仕方ないとしても、今進んでいる話を取り止めるのは認められぬ。
「奪わねばどうしょうもないのだ。」
アカネイアは人類の歴史を拓いた国
であるならば、その存続こそ何よりも優先されるべきものなのだから。
代替わりとは混乱を招く大きな要因になる。
ましてや、円滑に権力が移譲されていないとなれば尚更。
アカネイアが成立して1000年以上の時が経つ。
一度滅びはしたが、その鎖は大陸全土を締め付けていた。
明けぬ夜はなく
沈まぬ太陽もまた存在しない
全てが変わる時が訪れようとしていた。
エリスルート完結記念の外伝
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いる
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いらない
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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その他