その日、朱鳶は当然出勤日。自身の住むアパートの戸を開けて鍵を閉める。朱鳶は新エリー都の治安を維持する治安局。その都市秩序部捜査課、特務捜査班の班長を務めている。
だが、女の一人暮らしというのは物騒だ。戸締まりが確り出来る部屋にいるに越したことはない……朱鳶は少し多めのロックをけてからアパートから下を覗く……すると、そこには1台の車が停まっていた。
派手なパープル色の改造車にも見えるほど歪な形をした車……その車には、クールでいなせな一人の男が本を読みながら寄りかかっていた。
朱鳶は軽くため息をつくと、アパートから降りて彼の下へと駆け寄る。
「……何してらっしゃるんですか?クーガーさん?」
「おやおや、こんなところでお会いするのは奇遇ですね。どうです?車でお送りしますよ?」
「……奇遇が一ヶ月続くのかははなはな疑問ですが……失礼します。」
そう言って朱鳶は、自信がクーガーとよんだ男の車へと入る。クーガーも、少しテンションが上がった様子で車へと飛び乗った。
クーガーは懐からサングラスを取り出して顔に付けると、ニヤけながら声を上げる。
「GO!!!」
そう言ってクーガーは勢いよくアクセルを踏みしめて走り出した……その最中、朱鳶は隣に座る男、朱鳶と同じくヤヌス区分局都市秩序部、捜査課に所属する、『治安局最速の男』に一つ問いかける。
「何故、貴方は何時も私を迎えに来て下さるんですか?」
「いくら捜査官といえど貴方も女性です。紳士的に送り迎えするのが男の嗜みですから。」
「いえ、そう言うことではなくて……どうして態々私に対してこのような真似を?」
すると、クーガーはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに朱鳶を一瞬横目に見てから答える。
「決まっているでしょう?貴方が好きだからですよ。シュエイさん。」
「朱鳶です!好きというのならば人の名前をいい加減覚えてください!」
「すいませぇん。人の名前、覚えるの苦手でぇ……」
そう言っておちゃらけるクーガー。朱鳶は満更でもないのか少し顔を赤くしてから呟く。
「大体、貴方が捜査課に異動になってからまだ一ヶ月です……それなのに好きだなんて……」
「んー俺はこう思ってるんです、人々の出会いは先手必勝だと。どんな魅力的な女性でも出会いが遅ければほかの男と仲良くなっている可能性もある。なら出会った瞬間に自分が相手に興味があることを即座に伝えたほうがいい。速さは力です興味をもった女性には近付く好きな女性には好きと言う。相手に自分を知ってもらうことから人間関係は成立するのですから。時にそれが寂しい結果を招くこともあるでしょう、しかし次の出会いがいつまた来るかもしれません!」
朱鳶はつらつらと喋るクーガーに対して少し引いた様子でいる……だが、クーガーは喋るのをやめない、それがクーガーの信念が詰まっているからだ。信念の詰められた言霊という弾丸は誰に求めることはできない。
朱鳶ガ呆れていると……少し遠くの方に、明らかに挙動のおかしいトラックが見えた。その動きのおかしさたるや、居眠り運転が行われているのは想像に難くない。
「クーガーさん!あれは――って、居ない!?」
朱鳶が運転席の方を見てみると、すでにブレーキが踏まれた後で、運転席はもぬけの殻だった。遅れて急停止した衝撃が朱鳶を襲う。
かわりに空を舞うのは、一人の男……クーガーの影。その足には虹色の光がまとわりつき、その脚を異形の物へと変えていった。
これは、新エリ―都にて強い意志、エゴをを持つ者がごくごく稀にもつとされている特殊能力……『精神感応性物質変換能力』、『アルター』であ、分子を分解し自身の異能力へと再構築する力である…!!!
「クーガーさん!?」
「ラディカルグッドスピード脚部限定!!」
クーガーはその脚で車体を蹴って加速をつけると、猛スピードで居眠り運転してるトラックへと突っ込む。
その脚を加速を付けて……速さを加えて!!トラックへと叩き込んだ!そして叫ばれる必殺の掛け声!
「衝撃のォッ……ファーストブリットォッ!!!」
その掛け声と共にその脚がトラックへと打ち付けられる。トラックは激しく車体を浮かせてから止まり、中の運転手は目を覚ました様子だ。
「は……速い……!?」
朱鳶は、その電光石火の早業に唖然とするばっかりだ……そして、その一声を耳に入れて、クーガーは声を上げる。
「シュエイさん…………この世の理はすなわち速さだと思いませんか?物事を早く成し遂げればその分時間が有効につかえます!遅いことなら誰でも出来る20年かければ馬鹿でも傑作小説が書ける!有能なのは月刊漫画家より週刊漫画家!週刊よりも日刊です!つまり速さこそ有能なのが文化の基本法則!そして俺の持論でさぁぁーーーァ!!!……事件発生から解決まで12.3秒……!また2秒世界を縮めたァァ……ハァァァハッハッハ!!!」
クーガーはそう言ってトラックを文字通り足蹴にしながら笑い声を上げるのだった……