第十話「問題児」
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呪霊の事件から1日後、五条悟が呪術を行使した事による被害への後処理(ほぼ理不尽)を一通り対処し終わった後に彼の素性を調べていた。酷い話だが、事件から支部へ帰った後固法から耳が痛くなる程の説教を喰らってしまった。五条はというとあの後本当に帰ってしまった為、結果的にその事件の責任は黒子へとのしかかったのだ。
「おっかしいですわ…」
「どう考えてもあの能力の規模はレベル5並だと言うのに…一体どういう事ですの?」
“書庫”には全学園の生徒の情報がぎっしりと詰まっている。彼女達“風紀委員”にとっては犯罪者を負う為には必要なツールともいえる。しかし五条の名で検索した結果以前在籍していた高校や能力の詳細な情報が全て空白であった。
「(いえ、そもそもの話あれは能力うんぬんの問題ではないですのよねぇ…。“領域”だの“呪い”だの、訳のわからない単語ばかり述べてらっしゃっていましたが…)」
「(五条悟周辺の情報、素性にまつわるものは全く持って不明…というか、そもそも名前と年齢以外の情報を全て伏せられているではありませんか。ますます怪しいですわ…)」
「やはり直接聞き出すしかないようですわね…」
五条には昨日の件といい言いたい事が山程ある。その文句と共にいろいろと質問したいのだが、こちらから伺うには情報量のなさには行き詰まる所がある。黒子は考えた末に一つ思い出した。そういえば彼は“上条当麻”という御坂にやたらとりつく男と同行していた。最初に会った時も二人と一緒に行動していたのだから上条の情報から辿っていけば彼の手掛かりを掴めるかもしれない。と、一人で長く考え事をしている黒子を見て偶々支部に訪れていた御坂がヒョイと顔を覗かせながら声をかけた
「何調べてんの?」
「うぎゃあッ!お、お姉様…!?」
驚きを混ぜた金切り声を発する黒子は急いでパソコンに表示されたページをマウスで閉じた。む、とその態度に疑問を抱く御坂は黒子に詰め寄った
「ちょっと、何隠してんのよ。いかがわしいものでも見てたの?」
「い、いえ…別に…!?」
「なんだか、最近気になる人がいるみたいなんですよ…白井さん」
横から入ってきたのは怖い笑みを浮かべる初春はそのような爆弾発言を投げかける
「えぇ!?それ本当ですか!?」
一番反応がでかかったのは完全に遊び場として訪れている佐天でソファーから一気に黒子の元へと早歩きで距離を詰める。
「ちが…ッ!そんな人いる訳…!」
「(ッだぁれがあんな究極的野蛮人に惹かれるか、あり得ませんのにそんな事…!)」
五条は容姿だけ見れば類を見ない程の綺麗な顔立ちで、並の異性の者であれば興味を惹かれるのは無理もない。とはいえ白井黒子はそのような普通の女子生徒ではない為彼に対し恋情が湧くような事は断じてありえない。
「私は誓ってもお姉様一筋、他の人間に移り変わろうなど、私の重厚な想いはそんな浅はかな物ではありませんの!ね♪お姉さ…」
と、あくまで黒子は御坂に忠実である事を示す。そしてその本人の方へと振り返るも、キラキラとした目でいつもとは違う顔つきで黒子の方へ見ていた
「…え、えっえっえっ…!?うそうそ、本当にいるの…!?気になる人って…!」
「お、お姉様ァ…?」
常盤台随一のお嬢とはいえどもその殻を除けばまだ14歳の女の子だ。勝気な性格とはいえど、興味が全くないという訳ではない。
「(なんでどいつもこいつも頭真っピンクなのですのぉ…!?)」
背水の陣とは正しくこの事か。言い逃れも出来ないこの状況でも黒子はあくまで否定的な態度を示す
「だ、だからそのような事ではないと」
「もぉ〜!しらばっくれないでよ〜!遂にあの黒子にもようやく“春”ってやつ来たのね〜!」
「は!?」
「ねぇねぇ、どんな人なの!?」
いつも黒子の危険的ない言動に振り回されている御坂はいつもとは立場が逆転したのか慌てふためく黒子に間髪入れず質問を投げかける。どうにかしてこの訳のわからない状況を対処せねば、“そういう事実”として話を勝手に進ませられる事になるだろう。
「や、やめて下さいまし…私はそういうつもりで調べてた訳では…」
「あ、もしかして五条さんだったりして…?事件でも一緒に行動してましたもんね!」
あ、と名推理の如くドヤ顔で彼の名を出した佐天はギクリと図星をつかれた黒子に「やっぱり!」とテンションが上がる。いつもズボラな彼女はこういう時にだけはやたらと感が冴え渡る。
そんな彼女の発言に「本当ですか!?」と初春が佐天の方へ振り向いた
「そう、実はそうなんですよ。最近までずーっとバンクにある情報を調べ漁ってたんですよ〜?全く、本人に直接会えば良いのに」
「この方ですよ御坂さんっ」
そして瞬く間に彼の写真をパソコンで表示させた初春が御坂に見せようとする。
「へー、どれどれ…何だ結構いい顔してんじゃん!何だ黒子ってこういうのがタイプなの…ってあれ?」
「どうしました?」
「んーと、何かどっかで見た事あるような…」
五条の顔を見た御坂は必死に頭の中で彼と出会った事を思い出そうとする。
「ああ、あの時に会った人ですよ?ゲコ太キーホルダーの時の」
その時一緒にいた佐天の一言で御坂は“あの時の事”を思い出し大きな声を上げた。
「あーっ…!!そうだ、あん時の嫌なアイツじゃない!!」
既に御坂と五条は邂逅していたと判明した黒子は驚きの声を発する。世間は狭いと言うものだが、こうも奇妙な縁があるとは思いもしなかった。
「お姉様!?会ったのですかこの野蛮人と!!?」
「会ったも何も、なんなら一度やり合ったのよ。アイツってば、凄いムカつく奴なのよ?この私を小馬鹿にしたあげく、レベル5としてのプライドを傷つけまくったんだから…あー、思い出したらちょっとイライラしてきたかも」
拳を握りながらもあの時の屈辱を思い出し顔を少し歪ませた。仮にも学園の上から数えて三番目に強い能力者としてもあのような経験は生まれて“二人目”だったからだ。その内の一人目は、不思議な右手を持つ“上条当麻”であり“五条悟”はその二人に当たる。その二人の男に御坂は敗北を喫したのだった
「(あ、あの輩は既にお姉様と関わっていただなんて…!)」
「(ぐぅっ!黒子、かつてない程の失態!このような事あってはならないですのっ…!ですが、このままではお嬢様にもあの“魔の手”が忍びゆる恐れが…)」
“魔の手”というのは五条を指し示す言葉。一見愛想の良い好青年に見える五条だが蓋を開ければ性悪なクソガキである事は御坂と黒子は身を持って知っている。
「んで、そっちこそソイツと何かあったの?事件とか言ってたけど、それ私がいない間の話よね?」
そんな御坂の質問に初春が丁寧に答えた。
「実は、私達“風紀委員”の方にもその方とお会いしまして…」
所々を端折りつつも五条と黒子が協力して“幻霊夜行”事件を解決した話をし始める。
「______という訳で、その怪事件の方での助力をして頂いたんです」
「あ、あいつが!?私のいない間に!?」
「(あの白髪ツンツン男め…私の友達にも手を出そうっての…?ちょっと見ない間にそんな所まで手を突っ込んでいたなんて…でも何で?アイツみたいに人の為に事件に首突っ込むタイプでもなさそうだし…)」
「(何はともあれ、あの男には厳重な注意が必要ね…)」
「ぐぐぐ…」と御坂と黒子は五条の憎たらしい顔(存在しない記憶)を浮かべ苛立ちを浮かべた。
そんな異様な光景に佐天と初春も黒子へのイジリも自然に辞めていた。
「なんか…良くない雰囲気になってきたね。」
「あの人、普段からこうやって敵を作る人なんですかね…」
少しずつだが五条の本性が分かり始めるようになっていった二人であった
「ま…いいわよ。別に」
「はぇ?」
スン、と気持ちを落ち着かせた御坂に変な声を上げる黒子
「確かに嫌な奴だけど…それでも少しの間だけ一緒にいた訳だし、そこで何か惹かれた所があるって訳なんでしょ?」
「……はい??」
「それになんだか安心したわ。アンタにもそういう乙女心が生きてたなんて…私嬉しいよ。
「…………はいぃ????」
「まぁまぁ大丈夫だって!私に出来る事があったら、なんでもするからさ!」
ぽん、と爽やかな笑顔で語りかけていた御坂に、フッと笑顔で返した。が、一呼吸おいてから黒子は声を張り上げて返答した
「……違うって言ってるでしょうがぁぁぁぁ!!」
後にも先にも、このように御坂に向けて怒りの声を上げるのもこれ一回きりだろう。
「…可愛いですね。白井さん」
「…ホントにねっ」
そんな面白い光景を見て佐天と初春は黒子の珍しい一面(いじられ)を見て笑い合う。そんな理不尽なからかいは佐天の急な話題転換で終了する。
「あ、そうだ…。これ見てよ。最近新しい都市伝説のウワサなんだけど」
最近の彼女のバイブルである“都市伝説漁り”に話が変わり、サイトページを上げて他 初春達に見せる。
「どれどれ…どんな能力も効かない能力者?」
初春の言葉に呆れ声で黒子が反応を示した
「また根も葉のない話をしてらっしゃる」
「そう!最近特に噂になっててね、どんな能力にも全然通じない、正に最強の能力使いがいるらしいの」
「はぇー…でも、流石にあり得ないんじゃないですかね。そんな夢みたいな能力者がいるなんて」
ウキウキとした表情で語る佐天に対しそれはいくらなんでも、と初春が珍しく否定的な意見で返した
「えー!つまんないの…、都市伝説ってね?ただの噂やガセ話じゃないの。そこには沢山のロマンと希望が詰まっている夢の宝箱みたいなもんなんだよ?」
「そう思い込んでるだけですって…」
「ええ、初春の言うとおりですわ」
と、科学のまちである学園都市の一般的な思考を持つ黒子が否定派として声を上げる
「し、白井さんまでそう言うんですか…?」
「大体、そんな無茶苦茶な能力者がいたらわたくし達の耳に直ぐ届く筈ですもの…それこそ、レベル5としてその能力者の名が広まってもおかしくないですのよ?」
「そ、それは…あ、そうだ!きっと何らかの理由があって学園のデータから情報を伏せてたり。っていうのは…」
「だとすれば私達の目に留まりますし、分からない筈がないですもの」
「じゃあ…」
「勿論過去にそのような方はおりませんわ。初春もそうでしょう?」
「…そうですね。調べてもそんな能力を持った生徒さんもいませんね」
仕事の早い初春は佐天の話を聞きながらも“バンク”にて生徒の情報をざっと見たが、そのような能力者はいなかった。
「え〜、でも学園都市なんだからそういう人いると思うんだけどなぁー」
「全く、そういう身も蓋もないような御伽噺をそう簡単に鵜呑みにするなとあれ程釘を刺したというのに…」
そう言いながらもため息を黒子は佐天の話よりも時計を気にしていた初春に目を向ける。
「どうしましたの?」
「例の“新人”さん、あともう少しで来ますね」
「…あぁ」
“新人”という言葉で察する黒子に対し御坂が尋ねた
「何よ?“新人”って」
「あ、もしかしてここに新しい人が来るんですか?」と続けて佐天も黒子に質問をする。例の都市伝説話はもう飽きてしまったらしい。
「えぇ。今固法先輩が連れてきているのでいないのはその理由があってでして…あと数分程すれば来る予定ですの」
「へぇ〜、新入りねぇ。ま、ソイツが弱音を上げないといいわね」
あはは、と御坂の台詞に初春がお淑やかに笑う。話によるとその“新人”というのはあと数分後に最初の顔合わせとしてここに訪れるのだが、黒子の厳しい姿勢を普段目にしている御坂はそんな言葉を口にした。
「ご心配する必要はありませんわ。そうならないように徹底的に指導するつもりですから」
とはいいつつも、彼女は生優しい目つきをしていない。時折見せるその厳しさは先輩である御坂ですらも偶に縮こまってしまう時がある。それと同じ程優しさも兼ね備えているのも分かっているのだが本当に数週間程で辞めてしまうのではないかと変な杞憂を浮かべてしまう。
「(黒子が後輩で若干安心したわ…)」
と、変な安心を覚えた御坂だった
「それにしてもどんな人が来るんでしょうか…実を言うと、その人についての詳しい情報とかは私達の方に来てないんですよねぇ」
「へー、そうなんだ」
初春と佐天がそのような会話をしていた矢先に扉が開く音が響く。今さっき話した“新人”がここに来たのだと御坂達はその扉の向こうへと目線を映した
「お待たせ〜、連れてきたわよ」
「あ!先輩!お疲れ様です!」
ビシ、と敬礼をする佐天
「(どれどれ…どんな奴なのか、見てやろうじゃないの)」
「あ」
御坂がそう若干のニヤつきを抑えながらもその御尊顔を確認しようとしたその時。一瞬であったものの悪い意味で印象に残っていた人物がそこに立っていた
「どうもー。今日から配属されました、五条悟でーす」
「は…」
「はぁぁぁあ!?」
素直に驚いたのは佐天と初春の二人だけであって黒子と御坂は因縁の相手が現れた事と新人が彼で会った事も兼ねて絶叫に近い声を荒げた。