※本作は拙作【俺と邪神のクラシック五冠道】の続きみたいなものです。
35年生きた馬生。ま~いろんなことがあったもんだ。楽しいことも辛いことも思い出したくないことも沢山あったな……あってほしくないものもあるけど。
元々来世ミジンコになるのが嫌だったから頑張って目標を達成したところはある。だから報われたっていいはずだ。
「というわけで俺の来世はミジンコを回避したわけだ。人間で頼むぜクソ神よ」
神に対する態度かって?大体俺の目の前にいるクソ神のせいで大変な目に遭ったんだ。それにコイツとは気心が知れた仲だし、今更気にするもんでもない。
神様はというと、気まずい表情。てか俺から目を逸らした。おい、何だその反応は。
「あ~、そのこと、なんだけどね」
「待て。まさかミジンコとか言わねぇよな?そうなったら俺の努力が無になるんだけど?ぶん殴っても許されるよな?」
「それは違うから安心して。てか殴らないでくれると嬉しいかな」
それはお前の答え次第だクソ神。
「え~っと、だね。本当はね、僕も人間として転生させるつもりだったよ?」
「その前置きの時点でもう人間じゃねぇだろうが!え、なにに転生させられるの俺?」
「でも色々と手違いがあっちゃってさ~……ウマ娘として転生することになっちゃった」
舌を出してるクソ神。止めろその顔腹立つな……てか、ウマ娘だと!?
「ふっざけんなテメェ!俺を牝馬に転生させといて、その上来世も女として生活しろだと!?」
「ぼ、僕だって人間の男に転生させるつもりだったよ!でも手違いが起きたんだ!僕は悪くない!」
知るかそんなこと!なんでまた女なんだよ、もう嫌だよ普通に!またあんな思いしろってのか!?俺の記憶の奥底に封印している忌まわしき記録のようなことを……!や、ヤバい、鳥肌立ってきたっ。
「テメェクソ神ぶっ殺してやらぁ!」
「止めてよ!僕達親友だろう!?」
「親友だがそれはそれとして許せねぇんだよ!」
暴れ回る俺だが、気づけば身体が光の粒子となって消えて……おい、これ見たことあるぞ。転生する時のヤツだろ。前回もそうだったし。
「と、とにかく頑張ってね!きっと運命の出会いもあるよ!」
「うるせぇどうせ男だろ!んなもん欲しくねーわ!ふざけんなぁぁぁぁぁ……」
意識がどんどん消えていく。クソ、また鋼の理性で耐えてやる!そして次会ったらぶん殴ってやるからなクソ神ぃぃぃ……
◇
と、まぁ。転生する時にこんなやり取りがあったのだが。なんやかんやでウマ娘ライフを満喫している。今日はトレセン学園に入学する日だ。
「姫、お前は私達の宝だ。体調に気をつけて、絶対に無理をするんじゃないぞ?」
「お母さんはいつでも見守っているわ。辛いことがあったら遠慮なく相談するのよ?」
父ちゃんと母ちゃんが涙を流してる。もらい泣きしちゃいそうになるけど、何とか堪えて我慢だ。
「──ありがとうございます、お父様、お母様。このカミノライザン、一族の当主に恥じぬ活躍をすることを誓いましょう」
……なんだその口調はって?うるせぇこっちにも色々とあるんだよ。娘が男口調で話したら父ちゃんと母ちゃんが驚くだろうが。キャラ作ってんだよ。あ、ちなみに今世の名前はカミノライザン。前世と同じである。耳飾りの位置?左だよ言わせんな。
そんなこんなでトレセン学園へ。色々とあったが選抜レースの日がやってきた。勿論俺も出走する。結果?
《さ~カミノライザン抜け出した。カミノライザン強い強い、まさに圧倒!これが神の一族が誇る当主の姿だ。逃げウマ娘を最後にポンと追い抜いて今1着でゴールイン!カミノライザンが芝1400mの選抜レースを制しました!》
逃げウマ娘を見る形の好位追走、最後にポンと抜け出す省エネスタイルで勝ちましたよっと。俺は基本的に着差をつけて勝つってのを好まないのだ。勝てばそれで良くね?スタイルである。
そしてこの走り。現・生徒会長にして俺の親族でもあるシンザンさんと同じ戦法な訳だ。元々名家の一族の当主であることに加え、生徒会長の親族にして弟子、しかも同じスタイルと来た。注目度は段違いである。
「やはり凄い逸材だな、カミノライザン。およそデビュー前とは思えない完成度だ」
「見たかしら?今のレース。まるでレースのことを全て分かってるかのように走ってたわよ」
「これが一族当主の強さ、か。素晴らしい」
「それにしても見惚れるようなバ体だ」
はっはっは、もっと褒めるがよい。気分良くなるから。表には出さないけど。ちなみに俺のスタイルはボン!キュ!ボン!である。身長もヒシアケボノに次ぐぐらいには大きい。
レースを見て、俺をスカウトに来たであろうトレーナー達を手で制する。生憎だがお障り厳禁なんでね。冗談だけど。
「トレーナーの皆様。私のレースは御覧にいただけましたでしょうか?」
そう告げると、至るところから俺を称賛する声が上がる。さっきよりもずっとだ。
「あぁ、とても素晴らしいレースだった!流石はあの一族のご息女!」
「シンザンの弟子というのは間違いないみたいだな。俺と一緒にトゥインクル・シリーズを駆け抜けよう!」
「あのレーススタイル、シンザンそっくりね。私と一緒に、シンザンと同じ領域まで至りましょう?」
ぬはは、気持ちが良いぞ~。スカウトの声がたくさん上がっておるわ。ま、
「ありがとうございます。では、ここで私の目標について1つ、拝聴していただきたく。私は、私の目標を肯定してくれるトレーナーと共に、トゥインクル・シリーズを駆け抜ける覚悟です」
どこかで固唾を飲む音が聞こえた。うん、そりゃ緊張するよな。俺も緊張して腹が痛くなりつつある。ま、それはいいとして、だ。
俺の目標、それは。
「クラシック五大レースの完全制覇。この目標に賛同していただける方は、私の前に。まずは仮契約と結びましょう」
桜花賞・皐月賞・オークス・日本ダービー・菊花賞。クラシック5つのレースを全て勝つことである……バカ言ってんじゃねぇって?俺もバカ言ってる自覚はあるよ。でも仕方ねぇんだ。俺のウマソウルが囁くんだよ。クラシック全て勝て、ってな。
トレーナー陣はというと……ま、そりゃ固まるよな。アホみたいな目標だし、バカみたいな理想だ。だからこそ、挑む価値があるし達成した時の景色が格別だ。
さっきから無言。ま、いないってことでいいか。
「どうやら、いらっしゃらないようですね。では、私はこれ「ま、待ってくれカミノライザン!」なんでしょうか?生憎と、時間を無駄にするほどの暇は私にはありませんが」
お、息を切らして誰か来たな。歳は40半ばくらいの中堅、ってところか。そいつは俺へと手を差し出してくる。
「君の条件を、飲む!俺と一緒に、トゥインクル・シリーズを駆け抜けよう!」
……嘘くせー。なんかもう目がダメだ。秘策があるのか俺を説き伏せる自信があるのか知らんが、全然心に響かない。周りは出遅れた、とか先を越された、とか不安がってるけど。大丈夫だよ、多分。
でも、せっかく名乗り出てくれたんだ。
「分かりました。では、仮契約という形でお願いします」
「ッ!あ、あぁ!よろしくカミノライザン!」
気まぐれに受けてやろう。さて、どんな言葉を投げてくれるのかな?
◇
色々と時間が過ぎましたよっと。さ~て。
「お、お願いだカミノライザン!どうか聞き届けてくれ!」
目の前にいるトレーナーをどうしてやろうか?いや、暴力に訴えるとかはしないよ?そんな気はさらさらない。強いて言うなら失望しただけだ。多分俺は耳を絞っているだろう。
「聞き届ける?随分と世迷言を……それはこちらの台詞ですが」
「君の目標は無理だ!どれだけの道か、君は分かっているだろう!?」
存分に分かっておりますとも。でも、それはそれこれはこれなんだわ。当主として、上に立つものとしてやらなきゃいけないことなんだわ。
「だから諦めろと?挑戦することなく選択肢を狭めろ、というのですか」
「そ、そういうわけじゃ」
「まぁ、これはどうでもよいことです。揺るがぬ事実は一つだけ。貴方は私と契約するために、私の目標に賛同するフリをした。初めから挑む気など、さらさらなかった」
鋭く睨む。目の前にいるトレーナーは、ヒッとかいう情けない悲鳴を上げた。
「貴様はこの私を騙したのだ。【神の一族】の当主であるこの私、カミノライザンを。その事実を、貴様は理解しているのか?」
「ひっ、あ」
「消えろ。二度とその面を私に見せるな」
「ひ、ヒィィィィ!?」
うん、ごめんね?でもさ、俺も立場上舐められちゃいかんわけよ。だからこう対応するしかないわけで……本当にゴメン。俺のアホみたいな目標のせいで。
あ~あ。これでもう何人目だよ、トレーナーとの契約がなかったことになるの。理由が俺にあるのは分かるけどさ、よ~やるよな。相手にしてんの、一応名家のウマ娘よ?それを結果的に騙した、なんて知れたら今後どうなるかなんて分かるだろうに。ま、吹聴する気はないけど。
これからどうしたものか。また誰か来るのだろうかなんて思ってた俺の下に、1人のウマ娘がやってくる。
「おやおや、またこっぴどく振ったのかい?ライザンちゃん」
「シンザン生徒会長ですか」
シンザン──トゥインクル・シリーズ二代目の三冠ウマ娘であり、俺の親族。いやはや、まさか会えるだなんて!前世では俺の父だったからワンチャンあるかな~なんて思ってたけど、まさかここまで近い間柄だったとは。発覚した時は涙を流して喜んだわ。
「元より私の目標に形だけ賛同していた俗物。未来などあろうはずがありません」
「全くだ。可愛い可愛いライザンちゃんを騙すような真似なんてねぇ……祟ってやるとしよう」
止めてください。非はこっちにあるんで。ちなみにシンザンさんは俺の目標に否定派である。当然だね。
「ライザンちゃん。譲る気はないのかい?クラシック五大レースの完全制覇は」
心配するような目で俺を見るシンザンさん。ヤバい、罪悪感が湧く。でも俺にも譲れないものはある。
「無論です。完全制覇は私の目標であり、なにより実現可能だからこそ打ち立てたもの。なにより、衝動が私を動かすのです……5つの頂を、手中に収めろと」
後ウマソウルが囁くのさ。
「そうかい……あたしは反対なんだけどねぇ」
分かってた、と言わんばかりに悲しい表情をするシンザンさん。すいません本当に。
でも、最後には笑みを浮かべていた。
「ライザンちゃんの道を、あたしは応援するよ。それがあたしにできる贖罪だ」
「別に気にする必要はないのですが……ありがとうございます。当主としての務めを果たしましょう」
「……ごめんね、ライザンちゃん」
どうしようかね本当に。このままトレーナーが見つからないのは大変な問題なんだがなぁ。どこかにいないかな~運命の相手。
(……運命の相手と言えば)
あのクソ神が言ってたな。俺にも運命の出会いもある、と。多分だけど、俺と相性が良いトレーナーがいるとかそんなんだろう。
これが女だったらまだいい。しかし男だったらかなりの地獄だ。今はウマ娘、前世は牝馬とはいえ、メンタルは前々世の男のままだ。つまりまぁ、色々とあるわけで。
(メス堕ちだけは絶対にゴメンだ!)
俺は断固としてメス堕ちはしないぞ!男なんて恋愛対象外だ恋愛!対!象!外!
もっとも、俺はメス堕ちしない自信がある。なんてったって前世も乗り切ったんだぜ?今世だってできるに決まってらぁ!
「……でも一応当主なんだよな、俺って」
その時が来たら、うん。その時で考えよう。
とにかくメス堕ちしない!そう決意を固めてトレーナーと契約するぞ!
◇
「カミノライザン!俺と一緒に、トゥインクル・シリーズを駆け抜けないか!」
あ、しゅきぃ♡
(ヤバい、バチクソ好みなんだが?前世の騎手のそっくりさんが現れたんだが?超ファンの騎手が目の前にいるんだが?)
ヤバい、超ヤバい。脳がスパークしてる。めっちゃビリビリしてる。雷に打たれた、っていうの?もう何も考えられん。目の前にいる男トレーナーのことが気になって仕方ない。ガチの運命の出会いじゃん。
ちょっと頼りなさそうな顔。うんうん、いかにも新人っぽくて可愛いね。そういうところも好感持てるよ。これから自信つけていこうな?安心しとけって、俺がレースで勝ちまくって自信つけさせてや……ハッ!?
(待て待て待て!?俺は、なにを考えてた!?)
今明らかにおかしいことを考えてたぞ!どうなってんだマジで!冷静になれ、冷静になるんだカミノライザン。お前は鋼のメンタルで乗り切ってきた。だから今回も
「勿論君の目標も飲む。クラシック五大レースの完全制覇──君ならできるって俺は信じてる!」
え、本当?嬉しいな~。これはもう契約するしかないよね?うんうん、俺とお前なら凱旋門賞も勝て……ちげーだろバカ!冷静になれバカ!
(な、なんだ……!マジで思考がヤバいぞ俺!?乗っ取られてんの!?)
前世だってこんなことにはならなかったぞ!あのクソ神、まさかなにか仕込みやがったのか!
「俺はもう君から目を離せない!」
(や、止めろ!本当に止めろ!)
「ずっと君のことが気になって仕方ないんだ!視界に入ったその時から、ずっと!」
(すんませんマジで止めてください!おかしくなる!)
「もう理屈とかじゃない、運命なんだ!」
(うおおおぉぉぉ!止めろぉぉぉ!)
必死に堪える。なんとか耐える。死ぬ気で耐える。まぁ。
「もう俺の目には君しか映らない!君に──俺の全てを捧げるよ!」
耐えられないんですけどね。俺に全てを捧げる、って言葉を聞いた瞬間、俺は──弾けた。
(もう、コイツと契約すること以外は考えられない。コイツ以外のトレーナーは、眼中にない)
「……本当に奇遇ですね。私も、この出会いは運命だと思っております」
「っ、え?」
「これからも、どうか末永くよろしくお願いしますね?富永トレーナー」
ま、まぁ?まだ負けてないし?俺はメス堕ちしてないし?これはアレだよ。前世の相棒だからってだけだし。そこに他意はないし。別に気になってるとかじゃないし。
こうして俺は前世の相棒のそっくりさんと担当契約を交わすことになる。俺のトゥインクル・シリーズは、色々とありそうだ。
カミノライザン
誕生日:3月21日
身長:178cm
体重:恐れ多すぎて聞けない
スリーサイズ(B/W/H):99/65/95
一言メモ
青みがかった黒い髪を腰まで伸ばしたストレートロングのウマ娘。流星はない。可愛い系よりは綺麗系の顔立ち。厳格な雰囲気を漂わせており、表情が表に出にくい。そのため、彼女と相対すると自然と畏まってしまうらしい。
意識が前々世の男のまま転生した悲しき存在。運命と出会っちまったせいで彼(彼女)のメンタルはボロボロ。
続き?そんなもの、ウチにはないよ。