DLCやってマリカの人となりを知ったすえ、もしも黄金の一族に神人がいたら、そんな思い付きネタの供養。

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小黄金、あるいは太陽の王女と呼ばれた彼女は、
黄金のゴッドウィンの双子の妹として生を受けた。
彼女は栄えある黄金の一族であり、そして狭間の地最初の神人であった。

永遠の女王マリカの後継たるはずだった彼女は、
しかし、忽然と姿を消した。

己が存在が、母にとって最大の障害であることを知ったがゆえに。
最愛の兄が至る運命に背を向けて。


「どうか、お母様の望む王が現れますように」


そうして太陽は没し、もう二度と狭間の地を照らすことはない。


はずだった。
なんだかやたらと強くて行動力のある褪せ人が現れるまでは。

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プロローグ

パチリ、と褪せ人は目を覚ました。

 

自分は……

 

未だぼんやりとした頭で独りごちる。

ふと、視界に横たわる黒装束の女性と、その女性の頭上にぼんやりと浮かび上がっているルーンが映り込む。

 

そう、自分は、死衾の乙女の夢の中に入り……死に蝕まれた古竜との戦いに臨んだのだ

 

なぜそうなったのか、褪せ人にはよくわからなかった。

ただ、死衾の乙女たるフィアが――眼前に横たわる黒装束の女性のことだ――、

故郷を追われてもなお大事を成そうとしていることはわかった。

 

褪せ人はその手助けができれば、とフィアの求めるままに抱かれ、望むがままに死の呪痕を渡した。

 

褪せ人は、これまでずっと、祝福に導かれるがままに自身が為すべきことを成してきた。

だからこそ、祝福に頼らず、自らの手で運命を切り開こうとする者たちを見ると、

つい手を貸したくなってしまうのである。

それは、羨望であり、尊敬であり、あるいは仮託であった。

 

故に魔女ラニの元で、彼女の望む運命を切り開く一助も担った。

そして何の因果か、その果てに報酬として受け取った死の呪痕が、フィアの大望に必要なものであったのだ。

 

そうして、そうして……?

 

やはり、褪せ人にはなぜ自身が死竜と相対すことになったのかわからなかった。

竜を弑することで手にした追憶のルーンを読み解けば、

なんとあの竜は友たるゴッドウィンの内で、

彼の身体を蝕む死と戦い続けていたようだった。

 

なんだか、申し訳ないことをしたな、と褪せ人は茫洋と思った。

このようなことは今までも何度かあったとはいえ、ちくりと褪せ人の褪せた良心が傷んだ。

 

そのとき、ボウ、と冷たい灯りが、そんな褪せ人の祝福なき瞳の注意を奪った。

死王子と同衾したフィアが成した子ともいうべき、死王子の修復ルーンである。

褪せ人はそっとそれに触れ、懐の内に回収した。

 

とまれ、フィアが成し遂げたのであれば、それでいい

 

あっさりと、褪せ人は死竜への罪悪感を捨てた。

元より、褪せ人は感傷的な人間ではない。

戦場に生きる戦士であった褪せ人の処世術である。

 

懐にしまったそれを、自身の運命を成し遂げたときにどうするのか、

その展望は現状の褪せ人にはなかった。

フィアとは交流があり、大望を抱いていたものだから、その成功を祈り、祝う。

その「成果」をその場に放っておくのが忍びなかったが故の行動だった。

 

それに、拾えるものは拾っておいたほうがいい

 

うん、と1つ頷くと、褪せ人は踵を返した。

視界いっぱいに広がる、深き根の底の薄暗い景色。

黄金樹の根の這う地下空間であるそこに、もはや褪せ人は用がなかった――

 

ガララ……

 

――はずだった。

 

黄金のゴッドウィンの、生きたまま死んでいる遺体の安置所、死王子の座。

その眼前の広大な広場の中央が、ガラガラと崩れ落ち始めていた。

 

思わず、褪せ人は後ずさった。

穴がどんどんと広がって、そのまま自分の足元の地面すらなくなってしまってはたまらない、

と危惧したゆえの行動だった。

これまでの狭間の地を巡るこれまでの旅路で、

突然床が落ちて落下死、なんてことを幾度となく経験しているのだ。

 

ところが、それ以上後ろに下がることはできなかった。

すでに褪せ人は死王子の文字通りのお膝元、つまり広場の端っこにいたからだ。

 

また死ぬのか……

 

褪せ人は潔く自身に訪れる死の運命を受け入れ、下手に足搔かず、――足搔けば眠るフィアを踏んでしまいそうでもあった――、来るべき浮遊感に備えて目をぎゅっとつむった。

 

……?

 

が、待てど暮らせど予想した浮遊感が褪せ人に訪れることはない。

そっと目を開けば、崩落はすでに止まっていて、

広場中央に、ツリーガードの騎馬がギリギリつまってしまいそうなくらいの大きさの穴が空いていた。

 

しばし、褪せ人はジッとその穴を見つめていた。

ただでさえ、ここは狭間の地の各地に死が伝播する根源だ。

この穴から、夥しい数の大きな二つ目のトカゲが跳び出てきたっておかしくない。

 

死に生きる者たちに隔意はないが(かといって親愛の情も同情もないが)、あのトカゲだけは別なのだ。

その姿を見るだけで背筋が泡立ち寒気がする、それほどの嫌悪感を褪せ人はその怪物に向けていた。

 

が、再び、待てど暮らせど褪せ人の危惧は現実とならない。

 

となれば、あとは近づいて覗き込んでみるしかあるまい

 

褪せ人は、それまでの警戒が嘘のようにチャキチャキと穴に近づく。

祝福の導きに縛られた褪せ人にとって、このような導きと無関係の未知は垂涎ものなのだ。

自由なき我が身、我が魂に、いっときの自由を感じられるがゆえに。

 

穴の淵にたどり着くと、褪せ人はヒョイと穴の中を覗き込んだ。

 

その穴の中は、夜よりも暗い闇に包まれていた

広場に浅く張られていた水が、サァっとその空いた穴から流れ落ち、その暗闇へ吸い込まれている。

耳も澄ましてみるが、水が底を叩く音すら聞こえてこない。

 

どうやら、相当に深い穴のようであることだけは確かだった。

 

この穴がなぜ生じたのか、どこにつながるのか、すべてが闇に包まれている。

うーん、と唸りながら褪せ人は一度穴から目を離した。

 

大抵、こういった穴は罠だ

 

そも、自然発生した穴を罠と言ってよいのか、よしんばハマってしまう褪せ人がいたとして、

それは勝手に落ちた褪せ人の落ち度であるが、しかし褪せ人はいつもそれを罠と呼ぶ。

人は、失敗を失敗と認めるよりも、他責しているほうが心持が軽いからである。

 

ふと、悩む褪せ人の視界の端に、白い輝きがちらついた。

 

メッセージ、すなわち、並行世界、別の時間軸、他世界、解釈は様々だが、別の自分からの伝言、書置きである。

見れば、ぽつぽつと、穴の淵をぐるりと囲むようにメッセージが散見される。

 

時に嘘を、いや、往々にして嘘をつくそれらであるが、時たま役に立つこともある。

特に、こうしてとんと検討がつかない謎を前のしたメッセージは、誠実であることが多い。

それだけ、多くの別の自分が、同じように悩んだ、ということなのだろう。

 

手近な1つに目を通す。

 

『この先、穴があるぞ』

 

そんなことは知っているのだ、と褪せ人は嘆息した。

なんと無駄なメッセージだろうか、と肩を落としながら、褪せ人はメッセージを評価した。

 

とぼとぼと穴の淵にそって歩みを進め、別のメッセージに目を通す。

 

『穴をご照覧あれ』

 

またも無駄なメッセージだ、と褪せ人はメッセージを評価した。

 

『おそらく、穴』

 

おそらくではなく、確実に穴なのだ、と褪せ人はメッセージを評価した。

 

また歩を進め、ちょうど死王子に向き合うような位置にあるメッセージを褪せ人は読んだ。

 

『この先、恋人があるぞ』

 

ふむ、と褪せ人はそのメッセージの文を何度か左から右に繰り返し読み上げた。

この位置関係では、あるいはフィアについてのメッセージであることも考えられる。

判断を保留にし、褪せ人は再び歩を進め、1つ1つメッセージを確認する。

 

『この先、勇気が必要だ』

『ジャンプの時間だ』

『やはり尻か…』

『俺はやった!』

『この先、嘘つきはないぞ』

 

ことここに至って、褪せ人は確信に至る。

 

つまり、落ちればいいのだ

 

なぜ、落ちる必要があるのか、褪せ人は知らない。

だが、そうすることができるのであれば、するのだ。

 

決めるや否や、褪せ人は躊躇なくフワっ、と穴の中に身を投げた。

すぐに重力に従って褪せ人の身体は穴の深きへ落ち始める。

落ちて、落ちて、さしもの褪せ人すら飽きるほどに深く深く落ちてゆく。

落ちれば落ちるほど穴は暗くなり、

深き根の底のぼんやりとした明るさも届かない。

気づけば、上を見てももはや穴の入口が見えぬほどに落ちている。

 

そうしてヒューっと、気が遠くなるほど、自分がどれだけ落ちているのかもわからないほど落ちた末、

褪せ人は急にストンと着地した。

まるで、ちょっとした段差からジャップしたかのような軽やかさで。

 

 

 日没の閨

 

 

着地してすぐ、褪せ人は辺りを見回した。

しかし、暗闇のせいか、何一つとしてわからない。

広いのか、狭いのか、そもそも、ここはそのような物理的な空間なのか?

耳を澄ましてみても、一切の音が聞こえない。

自然と褪せ人は自分が緊張で呼吸を止めていたことに気がついた。

ハァ、と1つ息を吐き、そして吸う。

自身の呼吸の音だけが耳に届く。

一歩、恐る恐る足を踏み出す。

恐ろしいことに、足音が鳴らない。

褪せ人の耳をくすぐるのは、自身が纏う装備が自身の身体の動きに合わせて揺れる音だけだ。

 

尋常の空間ではないことは確かだった。

もはや、褪せ人は自分が実は目をつぶっているのではないかとすら思えてしまっていた。

何せ、暗すぎて自分の身体すら見えないのだ。

 

深淵――

 

そんな言葉が褪せ人の頭をよぎる。

褪せ人は、そそくさと松明を取り出し、灯りを付けると左手で掲げた。

 

ボゥッ、と柔らかな火の光が辺りを照らす。

が、その松明の灯りを以てしても、浮かび上がったのは褪せ人自身の身体のみで、

周囲の様子は一切が不明瞭だった。

 

一度、引き返すか……、……!?

 

褪せ人は祝福に飛ぼうとして初めて、

この空間において、自身と祝福のつながりが絶たれているに気がついた。

坑道や地下墓でも、祝福に飛ぶことができない、という経験はあったが、

この空間はそれは全く異なる様相だった。

 

そもそも、黄金樹の祝福が届いていない

 

そう、そこは、黄金樹の祝福が、その恩寵が一切感じられない空間だったのだ。

松明の炎が揺らめく音にかぶさるように、自身の心臓が大きく脈打つ音が耳鳴りのように褪せ人の耳を打つ。

 

霧の外の世界では当たり前だったというのに、ひとたびその祝福から切り離されれば、こうも心細く、胸を焦がすものなのか

 

隠しきれぬ動揺の中で、褪せ人は自分の惨状を自嘲するように笑った。

 

なんにせよ、戻れぬとあらば腹を括るしかあるまい

 

褪せ人は、努めて冷静にそう考えた。

そうして、松明を掲げたまま、周囲をぐるりと見渡す。

やはり、松明の灯りが何かを照らし出すことはない。

 

こうなれば、とにかく進むしか道はない

なあに、今までと、そう何も変わらないとも

 

褪せ人はそう心にきめると、適当に決めた方角に一歩踏み出した。

 

そのときだった。

 

 

 

「驚きました……ここに人が来るのは初めてです」

 

 

 

美しい、女性の声が褪せ人の鼓膜を揺らした。

 

咄嗟に、褪せ人は得物を構えようとした。

その女性の声が、驚くほど近くから聞こえたためだ。

しかし、その試みは失敗に終わる。

気づけば、そこに不戦の約定が敷かれ、得物をふるうことができなくなっていた。

 

「それも、褪せ人とは……そう……母様は本当に……」

 

声は、今まさに褪せ人が一歩踏み出そうとした方向から聞こえて来ていた。

しかし、褪せ人が松明をかざしても、ようとしてその姿を見ることができない。

 

「あぁ、そういえば、暗いままでしたね」

 

そんな褪せ人の姿を見てか、声の主がそのようにつぶやくと、

褪せ人の視線の先で、何かが輝く。

その輝きとともに鳴る音で、それが何かしらの魔法の類であることがわかった。

 

すぐさまその輝きが四方にはじかれるように分かれて飛び、中空にとどまると、

あたたかな、まるで陽の光のようにあたりを照らし始める。

 

気づけば、多くのモノが浮かびあがってきていた。

その光は浮かんでいるのではなく、4つの燭台の上に灯っており、

その燭台に四方を囲まれるように、中央に寝台がポツンと置かれていた。

ローデイル最後の王、モーゴットと相対する直前に入った、女王の閨でも見たような、そんな寝台だ。

 

その寝台の上に、横座りの姿勢で美しい女性がたたずんていた。

二房の三つ編みを携えた、長く、豊かな金色の髪が、美しい造形の顔立ちを彩っており、

魅惑的な肢体に、金糸の刺繍が施された白いドレスを纏っている。

 

―まさに、黄金

 

そう形容して差し支えない、完成された玉体がそこに在った。

 

その時点で、褪せ人はその美しさに目を奪われながら、この人物の正体におおよその検討が付いていた。

 

「こんばんは、褪せ人。私は――

 

かつて、女王マリカは最初の王ゴッドフレイとの間に()()()()()()()()()

古竜と友諠を結んだデミゴッド、黄金の、あるいは死王子、ゴッドウィン、そして

 

 

 ――ゴドソレイユ。()()()()()だったものです」

 

小黄金、あるいは、太陽の王女、ゴドソレイユ。

陰謀の夜以前、突如姿を消した謎多きデミゴッド。

永遠の女王、マリカの後継となるはずだった神人。

 

 

「今や、こうして隠遁の身です。……大したおもてなしもできないのですが……」

 

 

陶器のように美しい(かんばせ)を、わずかに微笑ませながら、女は言った。

 

 

 

「これも何かの縁でしょう。是非、あなたと外のお話を聞かせくださいませんか?」

 

 

 

>[聞かせる] 

 [聞かせない]




DLCクリアして湧いてきたネタを書いて、そうして力尽きた文章の供養。

DLCのラスボスでラニ様が負ぶわれにきてくれなかったから、
負ぶわれに来てくれるヒロインが欲しいなって……。

仕事忙しすぎて続き書く時間もないけどいつかは書きたい。

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