テンプレよろしく実家を追放され冒険者となり、仲間を集め壮大な冒険がーーーーーー終わった。
ラスボスは倒した、家との関係も回復した、莫大な財産を手に入れた。
結果レイトは冒険者を引退した。
これはその後の元最強パーティのアタッカーの、隠居生活(スローライフ)
レイト・アラムシラム。それがこの世界に生まれた時からの俺の名前だった。
いわゆる転生、それも前世でやってたゲームの世界に生まれ直して知識チートができるタイプ。
世界の名前を「Life One FANTASY」略称は「ライワン」ジャンルはMMO。言ってしまえば、ゲームの中で自分だけのファンタジーライフを送りましょうってゲーム。
大半のプレイヤーはメインコンテンツである冒険者として楽しんでいたが、やろうと思えば加治屋や商人、農家だってできる自由度の高さが売りのゲームだった。
ストーリーは世界中で魔物が活性化し始めた事に危機感を感じた「ライトテイル」王国が世界各国(と言う名の各マップ)に冒険者達(プレイヤー)を送り、最終的には強力な魔物だと思われていたドラゴン達の王国へ赴き、竜王に憑いていた人間への憎悪から怨念と化した先代竜王を倒してドラゴン達と和平を結びドラゴンと人は良き友人となった……って感じ。
ネタバレ?
残念ながら違う、
俺がこの世界に転生してから既に20……5年? まあ20年以上経っている。
だからこの話は魔王を倒した後の勇者の話ってのが近い。
残念ながらドラコンと和平を結んだだけで世界に魔物が蔓延っている以上、不要になった勇者が追い詰められるシリアスな話にはなれない。
だからこれは、俺と言う元勇者……正確には魔王(と言って良いのかは微妙だが)を倒した1冒険者のその後の話だ。
馬鹿みたいな財を得た結果、冒険者を引退してその後の
それだけの話だ。
ーーーーーーーーー
「レイト、お前を我がアラムシラム家から追放とする」
長男である兄の18歳誕生日、多くの貴族が集まる誕生パーティで俺ことレイトの運命は唐突に始まりを告げた。
「……は?」
当時から知識チートで色々調べていたが、この日ばかりは純粋に兄を祝福していた俺はいきなり父親が放った言葉に面食らった。
「父上!? いきなり何を言っているのです!」
父親の発言に食って掛かった兄に少しだけ安心。
だって父親はともかく兄は普通に慕ってたから、これで兄もグルだったら心を病んで闇落ちしてたかもしれない。
「言葉通りだライト。レイト・アラムシラム、いや、もうただのレイトか。この者をこの家から追放する」
「なぜです! 理由を教えていただきたい!!」
抗議する兄を見て、真っ白だった頭が戻った。
そうして考えてみれば、割と理由らしい理由も分かる。だから、確認してみた。
「俺、いや私が妾の子供だからですか。父上」
「レイト、それは……」
「貴様っ!!」
俺の一言に周囲の貴族達がざわめき始める、兄は心配そうに見声をかけてくれた、父は怒りの表情を露にして睨み付けてくる。
正直スカッとした。世間様には俺と兄は普通の兄弟だと思われていたから、恐らくは俺が妾の子供だという真実は隠したまま追い出したかったんだろう。
ならこんな場所で追放宣言なんてするなよと言いたいが、恐らくは証人的な意味を持たせたかったのだと予想する。
結果的にそれを上手く利用する形になった。
「そうだ、貴様は我が人生の汚点、過ちだ! 母を失ったと聞き引き取ったが……所詮はライトに何かあったときの保険に過ぎん!! ライトが成人した今日からお前は不要なのだ!! 妾の子など本来なら家に残す理由は無い、貴族としてのお前は存在してはならんのだ!!」
今思えば割と分からなくはない理由だな、とは言え当時は俺も頭に血が上っていた。
自分では冷静だと思って家に残るのは諦めて、いかに父親の立場を落とすしか考えてなかった。
本当に冷静なら家の立場を悪くしたら跡継ぎの兄にも影響が出ると分かるのにね。まあそんなの関係無いくらい兄が優秀だったから許されると思う、思いたい。
「だがそれだけではない。レイト、お前は魔物について調べていたな」
「ええ、それが何か? 魔物の研究は世界を変える為のもの、まさかそれが悪だとでも?」
「黙れ! 貴様は魔物と話し合う術を調べていた! それは魔物と戦うこの国、いや世界への裏切りに他ならない!!」
やはりそこか、と心の中で唸った。
前世の知識で魔物と数えられているドラゴン達がその実は人と同じように考え話ができる事、そしてドラゴンが人間と戦う理由が竜王(に取り付いた先代竜王)にあることを知っていた俺は竜と話す方法を探していた。
当時の常識から外れている以上、良くない目で見られていることは予想がついた。
「違います! 私はドラゴンと話す術を探しているのです! 彼らは私達人間と同じように魔法が使える、ならばそれだけの知性を持っているという事! 話し合えれば余計な血を流さずにすむ!!」
「それが裏切りだと言うのだ! よりによって多くの人々を殺したドラゴンなどと! そのような事はあり得ない! お前の妄想で我が家に、私に王国からの疑いをかけられてたまるか!!」
無事に目的が保身だと宣言した父親に心の中でほそくえむ。
ついでに集まっている貴族達に「ドラゴンはただの魔物じゃありませんよー」と植え付けとく。
これでストーリーが終わった後の世界でウハウハだぜーなんて考えていた。
実際上手く行ったんだが……まあ、金は人の心を醜くするよ。
周囲のざわめきと困惑が強くなるなかで俺達の会話はヒートアップを重ねつつ終わりに向かう。
「そうやって否定しかしないから世界も犠牲も変わらない事がなぜ分からない! 変わらなければ犠牲の数も減りはしない!!」
「黙れ! 貴様のような狂人が我が血を受け継いでいるなどあり得ない! お前は誇り高きアラムシラム家の人間ではないのだ! 今すぐ出て行け!!」
「ええ、そうさせて頂く!!」
そう言って家紋が入った胸飾りを投げ捨てて、出口に向かう前に兄に頭を下げておく。
「兄上……いえ、ライト・アラムシラム様。貴方の誕生パーティでこのように騒がしくしてしまい申し訳ありませんでした。それでは」
「レイト、待ってくれ!!」
兄の声をわざと無視して俺は家から出ていった。
とまあ、始まりはこんな感じだった訳だ。
いや若かった、てか幼かったな俺も。
前世を持つとは言え、やっぱり体に精神は引っ張られるのかな。そうだったら前世含めたら30後半な俺もまだまだ若いって事で……
アアァァァ……
うん? なんだ?
ゴァァァ……
ああ、なんかつらつら考えながら見てんなーとか思ってたけどこれあれだ、夢だ。
ほらその証拠に、朝を伝える我が家の番犬ならぬ番竜の鳴き声が
ゴアアアアアァァァ!!!!!!
いやうるっせえなおい!!
起きるよ!!
ーーーーーーーーー
ゴアアアアア!!
「うるさいよ! 起きるよ! 起きてるよ!!」
叫びながらベットから飛び起きたレイトが窓から外の深い緑色の鱗を持つドラゴン……ゴランと名付けられた相棒竜に文句をつける。
レイトを見たゴランは不機嫌なのを隠しもせずに鼻を鳴らす。その様子を見たレイトの額がピキピキと音を立て始めた。
が、これもこの家ではよくある出来事、レイトはマジックボックス(食料用)の中からゴラン用の肉の塊を取り出す。
もし人が使えば1日の食料になるそれを持って庭に出る。
そこで寝そべっているゴランの前に大皿にと共に肉塊を置けば、ゴランはしばしの間祈りを捧げた後に肉を喰らい始めた。
レイトはその様子を眺め眺めながら自身もマジックボックスから取り出した干し肉を齧る。ゴランの食事は見てて腹が減るとはレイトは周りによく言う。
「お前さぁ……もうちょい声を押さえるとかできないの? 毎朝お前の咆哮で起こされる身にもなれよ、あと近所迷惑。まあ結界のお陰で街まで届かないし、聞こえてもここ町外れの森の中だけどさー。まだ朝って言うにもちょい早いよ」
レイトが言いながら眺めた空は日が昇ってはいるがまだ薄暗い。小鳥のさえずりもまだ始まっていない静かな森の空だ。
『すでにひがのぼってじゅうぶんなときがたった わたしたちドラゴンにはおそいほどだ』
「はぁ、お前といると一生健康的な生活ができそうだよ」
『いいことじゃないか しょうがいげんえきだな』
「既に引退済みだよコノヤロー」
お互いの言葉を理解している一人と一匹の会話は不思議で、彼らしか入れない空間だろう。
その終わり際、ゴランはレイトに対して悲しげな、あるいは憐れむような視線を向けた後に立ち上がる。
そして日に向かった後に両目を閉じて意識を外界から遮断した。
ドラコン達の日課、瞑想だ。ドラゴン達は何もなければ時は基本瞑想をして1日を過ごす。
大地と空を感じ、自然な世界に自身を置くことで死んだ物達、自分が殺した物達とも向き合い世界の理に触れる。これにより竜達は世界からその大いなる力の一部を借りることができるのだ。
以前竜の国で教わった瞑想について思い出しながら、レイトは「ゲームじゃ単なる一時的なバフだったんだけどなー」と心の中で思う。
「(っと、良くないな。また
20年以上経っても、レイトのこの世界に対する認識は曖昧だ。きちんと現実であることを認識するべきだと言う自分と、この世界はライワンを元にしている世界だと言う自分、結局レイトはこの問題に答えは出していない。
「ライワンを元にしたそれっぽい現実」という曖昧な認識のまま、前世の知識を頼りつつも積んだ経験も生かして生きている。
自分でもどうなんだと思いつつ、それを知っていて、かつ「別に良いんじゃないか」と言ってくれた人達がいることがレイトにとっての希望であり安らぎだった。
『なんだ そんなにみつめて めいそうちゅうにそこまでみられると がいかいをしゃだんできん』
「ああ、悪い。ちょっと昔の夢を見たせいだ、気にするなよ」
『きになるからこうしてはなしているのだが』
「別に減るもんじゃないだろ。それにほら、この程度で瞑想できない竜か? お前は」
『そんなことはない わたしのしんこうしんはそのていどではぶれはしない めいそうもだ』
「そうだろ、だったら暫く見てても良いだろ?」
『……はぁ きさまというおとこは まあいいだろう』
会話の後に、静寂が訪れた。
朝焼けの微睡みそうな空気に充てられながら、レイトはゴランの胸元にかかっているペンダントを見ていた。
今朝の夢で投げ捨てた胸飾りと同じ紋様が描かれているそれは、かけているドラゴン、つまりはゴランが「人の友人たるドラゴン」でありその「友人」がアラムシラム家の人間であることを表している。
そしてゴランの「友人」とはレイトの事だ。
そう、レイトはアラムシラムの人間に戻った。
きっかけは兄が父親を失脚させてアラムシラム家の当主になったこと、そしてレイト自身の社会的地位が上がったことだ。
元々兄のライトは妾の子であろうとレイトを弟として可愛がっていた、その上レイト自身もまた「人と竜を繋いだ英雄」として名を馳せた事で妾の子供という事実を合わせても十分貴族に相応しい人間と証明された。
故にゴランの「友人」である証明としてレイトはアラムシラム家の家紋が入ったペンダントをゴランに渡した。
とは言え、レイト自身は家に戻る気もない。名前こそレイト・アラムシラムだが今現在もただのレイトとして生きている。ゴランのペンダントから分かるように利用はしているが。
なんだかあやふやでどっち付かずな現状に苦笑いを浮かべたレイトは、自身もまた日課の訓練をするべく家に戻っていった。
ーーーーーーーーー
ゴランの咆哮に起こされてから約一時間、レイトは家の近所の森(というより家が森の中にあるのだが)でひたすら剣を振るっていた。
「シッ!」
一見乱雑に見えて、全ては計算されている剣技。
レイトの手にある剣はかつての栄光の日々の中、ダンジョンの宝箱から入手した
属性も、派手で強力な魔法攻撃ができるわけでもない。ただ高い切れ味と、決して刃こぼれをしないという魔法をかけられている一本の剣。
派手な装飾もなく、鋼の黒色そのままの無骨とも言えるその剣がレイトは好きだった。
派手な見た目も派手な効果もない、けれども確かにある強さ。それはレイトの「攻撃には魔法もスキルも使わない」という戦闘スタイルに良くあっていた。
「次」
レイトが言葉を紡ぐと共に黒の剣を納め今度は鮮やかに青く光る剣を持つ。
一振目よりは装飾がつけられた持ち手に、魔力の光を灯す青い刀身。
まだ、レイトが駆け出し冒険者をだった頃にダンジョンを何度も周回して手に入れた一品。
魔法剣という、名前の通りに剣でありながら魔法属性の攻撃を可能にする物だ。
とは言え、先程の黒剣と比べればレア度は高くない。初心者がレベルアップの為に挑むダンジョンでのレアドロップだ。
黒剣がSSRならば魔法剣はせいぜいR、というのが
レイトが相棒とし、冒険の最後までに様々な加治屋に頼み込み、そして困らせた結果レイトの魔法剣はSSR武器と比較しても遜色ないほどの武器へと進化を果たした。
その入れ込み具合は仲間達を呆れさせ、魔法使いは「アタシがいるんだから無くても良いのに……」と拗ねてしまう程である。
話を現代に戻そう。
そんな相棒でひたすら型の通りに振るったレイトが動きを止める。
「ーーー、始めるか」
大きく息を吐いたレイトが呟く。
ここまでの全てがレイトにとってのウォーミングアップだ。
今度は右手に黒剣を、左手に魔法剣という二刀流を構えて何もない虚空を見つめる。
ひたすら集中したレイトに見えてきたのは……かつて戦った竜人の戦士。
その腕力により片手で構えられたレイトの身長程ある大剣。それを竜人族特有のとても低い構えで向けた竜人。
それが、動き出す。
「ハッ!!」
レイトも竜人に向けて駆ける。
それを予め予想していた竜人が、大きく跳ねた。
空中で態勢を変え、縦に1回転して遠心力と落下エネルギーを加えた一撃。
きっと真正面から受ければ黒剣でも持たない、更にそんな一撃を体で受ければ待ち受けるのはーーー当然、死のみ。
だからこの一撃は横に避けるのが正解。それはレイトも竜人も理解している。
レイトはそう考えて前に出る。
合わせるように黒剣を振るう。竜人は驚かない、ただこの一撃で相手の武器を破壊するべく大剣を振るう。
そうして二つの剣がぶつかるーーーまさにその瞬間に、レイトは手首の力を抜いた。
ギャリギャリギャリギャリッ!!
金属同士が擦れる音を響かせながら、大剣が黒剣を滑っていく。絶妙に力を抜いたレイトによって、竜人の大剣が受け流されていく。
やがて地面を叩いた大剣、乗せられていた力の衝撃波がレイトを襲うもこのチャンスの逃さないために踏ん張る。
振り下ろした後の隙を付こうとするレイトから離れるべく、竜人がその脚力を生かして後ろに距離を取った。
「ここだ」
だがそれすらもレイトの計算の内、竜人が後ろに跳ぶのと同時に魔力によって一瞬強化した足で前に跳んだレイト。
これにより竜人とレイトの距離は変わらず、だが戦いの場所は空中へと変わった。
ここで大剣を使うのは難しい、地面に付くまでほんの数秒。しかしこの戦いでは致命的な数秒。
レイトが左手の魔法剣を構える。
「
主の声に合わせて魔法剣が氷と冷気を纏う。
竜人にとって寒さとそれを生み出す氷の力は天敵。レイトはこの一撃で終わらせるつもりだ。
「オラァ!!」
気合いと共に振り抜かれた氷の剣は竜人を確かに捕らえ、振り抜かれた。
そして、弱点の一撃をまともにくらった竜人は受け身も取れず地面に倒れーーーイメージの竜人は霧散した。
「フゥーーーっ」
地面に降り立ったレイトは再び意識を集中させる。
そして正面を向けばそこには
『…………』
またかつての強敵。
今度は全身を強固な鎧で覆った大騎士。
身長以上の鎚を構えてレイトを見ている。
そんなイメージの敵を見たレイトの口許に笑みが浮かんだ。
「行けるとこまで、行ってみるか!!」
次なる敵に向けて駆けるレイト。
こうした彼の日課のトレーニングは、日が完全に登りきるまで続く。
なお、このイメージの元となった本人達が見れば「俺を何だと思ってるんだ。そしてこれをどうにかするお前はもはや凄いや怖いを通り越してキモい」と言うが、本人達は知らない話なので関係は余り無い。
ざっくりとしたキャラ解説
レイト・アラムシラム
前世でライワンをソロでやり込んだ転生者。
ゲームでのラスボスを倒した後に莫大な財産を手に入れた結果、燃え尽きた症候群になってしまい隠居生活を始めた。パーティは自分以外女性の4人だったが誰ともくっつかずに相棒竜と暮らしている。
ゴラン
レイトの相棒のグリーンドラゴン。
雌、というか女性。レイトが余りにも「ただの相棒」としか見ていない事実に人型になって襲おうかと思ったが他もメンバーに免じてしていない。
何だかんだ嘗ての仲間で唯一レイトと一緒に暮らしている勝ち組。
竜人
空中で縦に一回転とかできるわけないだろ、大剣と黒剣がぶつかったら勝つのは100%黒剣、SSR舐めんな。
大鎧騎士(イメージ)
黒剣が通じない(という設定)なので魔法剣の炎エンチャントで中身を蒸し焼きにして倒した。グロいて。
大鎧騎士(現実)
昔レイトが戦ったライトテイル王国の騎士の1人。
黒剣が通じない訳がないので普通に切られる。
SSR(略