pixivより転載
それは図っていたのではないかというほど、ぴったりのタイミングだった。パーシヴァルはのちにそう振り返る。
彼がバーソロミューの部屋の前を通り過ぎたとき、いきなり扉が開いた。驚いたのはそのことの唐突さと、――バーソロミューから漂う酒気だ。
「やぁ! いい夜だね!」
「……酒を飲んでいるのかい? ひとりで飲んでいるのは珍しいね」
バーソロミューが酒を飲んでいるときは大抵海賊組と一緒だ。飲んだくれて脱いだり吐いたり殺し合いになったり、物騒なことこの上ない。
しかしバーソロミューの頭越しに見ても、部屋には誰もいないようだった。バーソロミューは常に輪をかけて陽気だった。耳まで赤いので恐らく酔っ払っているのだろうとパーシヴァルは推察した。
「いやぁ、折角集めた酒だから独り占めしようと思ったんだけど、思ったより量が多くてねぇ。パーシヴァル、一緒に飲もう」
「え、私は――」
「いいからいいから」
言われながら引きずり込まれる。酔っ払いの腕力はさして強くなかったが、パーシヴァルは彼に弱みがあったのでなすがままだ。
その弱みとは、彼への恋心だった。
「……確かにたくさんありますね」
床に転がる酒瓶たち。しかし中身が入っている瓶もまた多い。
「どうしたんですか、これらは」
「ふふふ、特異点やら異聞帯やらでこっそりくすねて来た結果だね!」
「バーソロミュー……」
「こちとら混沌・悪なんだよ。手癖なんて悪くて当然さ。船に隠していたのをこっそり部屋に持ち込んでいたのさ。さぁ騎士殿も一献! 仲間入りさ。実のところ賞味期限がヤバイから消費してくれるのを助かる」
「それでは、私も頂こうか」
最後の台詞が本音だろうか。そう思いながら、パーシヴァルは苦笑しつつ床に座った。
――酒盛りをはじめて1時間ほど経った頃だろうか。パーシヴァルも出来上がってきて、頬が赤らんできていた。
それでも酒を飲む彼に、バーソロミューは立ち上がって言う。
「そろそろ目先を変えてみようか」
「目先を?」
「カクテルなんかいいんじゃないかな。――はいできた」
そう言ってバーソロミューが取り出したのは、オレンジ色の飲み物だった。
それを受け取る。オレンジの風味が口当たりが良い。一所懸命に飲み干す彼を微笑まし気に見ていたバーソロミュー。そんな彼に、パーシヴァルは問う。
「これはなんというカクテルなんだい?」
「――スクリュードライバーだよ」
答えるまでに奇妙な間があった。
結局酒の全ては飲み切れず、また飲もうと言う約束を交わしたことでパーシヴァルは部屋を出た。
もう少し彼の顔を見ていたかったなと思いながら。
パーシヴァルの転機は、翌日「蜘蛛の巣」を尋ねたことによる。
パーシヴァルはカクテルにこめられた意味などに疎かったので、バーテンダーのまねごとをしているモリアーティに尋ねに来た。
そのまま状況を正直に尋ねて。
――すると、朝からバーに入り浸っていた客も、モリアーティですらうんざりした顔をした。溜息を吐く。
「……君のことだから本当に訳がわかっていないんだろうね」
「あぁ、だから是非ご教示いただきたい」
「……バーソロミューには私が教えたとは言わないで欲しいな」
言いながら、モリアーティは耳打ちした。
パーシヴァルは蜘蛛の巣を飛び出した。
その中で道満が袖で口元を覆いながらモリアーティに歩み寄って来た。
「ンンン、教授も意地が悪い」
「意地も何も、真実をそのまま告げただけだよ」
グラスを拭きながら、モリアーティは答えた。
「『スクリュードライバーのカクテル言葉は“あなたに心を奪われた”。そのことを告げただけだよ」
その後事態をいち早く察知したバーソロミューが逃げ出すのと、重戦車の如く廊下を走って来る2人が追いかけっこをはじめるのを、早々に賭けの対象にした海賊組のバイタリティーはさすがというべきだった。
その後パーシヴァルに出されたカクテルに、バーソロミューは「ばかじゃないのか君は」と弱々しく呻くことになる。
バーソロミューが器用に剥いたレモンの皮をらせん状に入れられた出したカクテルは、、「ホーセズネック」。
意味は、「運命」。
End.