今回も地味回。
済まぬ。
そんな訳で初投稿です。
「あの、本当に僕達は行かなくて良いのでしょうか?」
ヘスティア・ファミリアの
ディアンケヒト・ファミリアでの治療を終え、自分達の拠点に戻ってきたベル達。
深層での死闘と冒険、試練を乗り越えてきた彼等の器は短期間でありながら次の位階へ昇華できる程の経験値が積み重なっていた。
今の自分達なら先輩達の足手まといにはならない。今頃、自分達の知らない戦いが行われているのだと察したベルは、同じ気持ちであるヴェルフや春姫の気持ち代弁するように主神であるヘスティアに訪ねた。
「ベル君、ヴェルフ君、春姫君。君達は先日深層から生還したばかり、死地から無事に帰ってこられただけでも奇跡だったんだ。今は無理をせず、身体を休ませる事に専念するんだ」
「でも……」
特にヴェルフと春姫は下位の中でも下から数えれば早い部類で、春姫に至ってはLv.1。事前に魔導書による新たな魔法を発現していなければ、当時のメンバーは全員死んでいただろう。
生きて帰って来ただけでも奇跡。それだけの冒険をしておきながら、それでも同じ派閥の先輩達が戦っていると聞いてジッとしていられない眷族達にヘスティアは苦笑う。
優しい子達だ。だからこそヘスティアは口にするのだ。
「信じるんだ。君達の先輩達は、どんな苦境だろうと平然と乗り越える最強の集団なんだって」
ザルドもアルフィアも、歴戦の強者で一騎当千の冒険者。三大
ベートもリリルカも第一級冒険者の中でも上澄みの実力者。ヘスティアはそんな彼等が誰一人欠ける事なく、この家に帰ってくるのだと確信していた。
そして、そんな彼女の最初の眷族であるベジットに至っては黒き終末の厄災である黒竜をたった一人で打ち倒した自覚なき功労者。
エニュオなる黒幕の正体も割れ、残す所は決着のみ。
「…………あっ」
「神様?」
そこで一つ、ヘスティアは大事な事に気付いた。
自神の眷族であるベジットは、割とノリと勢いに任せて結構なやらかしをしでかす事を。何なら黒竜もその場の勢いに任せて倒してしまっている事から、その不安要素はヘスティアの心に僅かな痼となる。
「あー、うん。一応避難する準備だけはしておこうか。ベジット君、はっちゃけてオラリオごと吹き飛ばすかもしれないし」
「はい!?」
流石にそれはない。それはないと言いたいが……悲しいことに、ベジットという人間は割とそういう事を時にはやる。
「ど、どういう事ですか神様!? 団長が、オラリオをふ、吹き飛ばすって……!?」
そういってベルの脳裏にアポロン・ファミリアとの
自分とは比較にもならない巨大な蒼き閃光。ベルもかめはめ波を習得したからこそ分かるあの時放ったベジットの規格外なまでのエネルギー量。
一つの砦を半壊させて尚全力には程遠いと語るベジットを思うと、オラリオを吹き飛ばしかねないというヘスティアの冗談がベルには冗談に思えなかった。
「ど、どどどどどうしましょう神様!? このままじゃあ団長がオラリオを破壊する大罪人に!」
「お、落ち着きなよベル君。大丈夫だよ、ベジット君も流石に其処までバカじゃない。如何にオラリオの危機だろうと、僕達を巻き込んでまるごと吹き飛ばしはしないよ……」
だが、ベジットには物理法則を度外視した瞬間移動なるこれまた規格外のスキルがあったりする。最悪の場合、自分達を含めたオラリオの住人を避難させ、その上でオラリオを吹き飛ばすとなったら……多分やる。
「………一応、必要最低限の荷物は纏めておこうか。貴重品とか」
「神様ァッ!?」
今頃地下深くで行われているだろう一大決戦。その一方で、ヘスティア・ファミリアはコントみたいなやり取りをしながら、静かに避難準備を進めるのだった。
「一応、孤児院の子達も呼んでおこっか。一応ね」
「神様、言葉が震えてますよ!?」
◇
第二次
エニュオの目論見を破る為、今度こそ勝利することを目的とする冒険者達。
何れも強者揃いである彼等を最初に出迎えたのは、魔力路で編まれた回廊だった。
緑肉に呑まれ、変容した人造迷宮。広大な九階層全域に隙間なく敷かれた魔力の回路、其処から左右前後、或いは正面死角問わず波状的に放たれる魔法の弾幕に、ロキ・ファミリアを筆頭に参戦している冒険者達は、ただ翻弄されようと───。
「鬱陶しいな」
断絶。
放たれる間際だった魔法による砲撃。防ぐだけで手一杯かと思われた部隊の一つから、人造迷宮を揺さぶる程の斬撃が迷宮の外壁を抉り切る。
「ほぉ、上手い具合に削ったじゃないか。その調子で頼むぞ」
「言っている場合か。お前も手が空いているなら働け」
美神の最強眷族である【
その様子を見て、これは楽だと笑う【暴食】のザルド。オッタルはそんなザルドをジト目で睨むも、言っても聞かない相手であることは承知している為、溜め息一つ吐いて先へ進む。
「おい、ロキ・ファミリア」
「っ! な、何よ」
「まだこの回廊の機能は完全には停止していない。直ぐにまた砲撃が来るぞ………急げ」
言外に呆けるなと叱咤するオッタルにロキ・ファミリアの【
「分かってるわ! バカにしないで頂戴! 総員、道は開けたわ! 今の内に前進!」
「「「オオッ!」」」
獣人であるアナキティを筆頭に、通路の奥へ急ぐ一団。そんな彼等を見送る最中、ザルドはあるエルフの少女を見た。
レフィーヤ・ウィリディス。その瞳に憎悪にも似た昏い光を携えた彼女、使命感や正義感とは正反対な感情を抱えているエルフの少女にザルドはあららと愚痴を溢す。
「……相変わらず、やらかす事が多いなぁウチの団長は。俺、知らねぇぞぉ〜?」
今後、明らかに面倒くさい事になりそうな未来を予見しつつ、ザルドは先行く後輩たちの跡をのんびりと辿っていく。
◇
今回の作戦の前提条件として、分かたれる部隊の数は六つ。《精霊の六円環》に対抗する為、部隊も六つに分けられた。
ザルドのいる部隊とは別の部隊、その部隊は既に地獄のような空気で充満していた。
「…………」
「…………」
原因となっているのは、主に二人。【
先のメレン港にてそれはもうド派手に暴れたとされる二人、殴り合いの喧嘩ではなくガチ目な殺し合い一歩手前までいったこの二人を同じ部隊に入れる事は当初ベジットは反対していた。
しかし、対精霊としてアルフィアはヘスティア・ファミリアに於いてヴェルフ・クロッゾに
「…………」
「…………」
まぁ地獄。互いに関わりたくない&不機嫌オーラが全開の為、場の空気は最悪な程に死んでいた。
お蔭で部隊の士気は最低辺。部隊の一人として参加している
回廊からの砲撃? 既にアルフィアの魔法【
「リヴェリア様、何時までも其処の
そんな部隊の士気に流石に不味いと思ったのか、オッタル同様フレイヤ・ファミリアから助っ人として参加した【
リヴェリアとは異なる派閥でありながら、王族である彼女に敬意を抱くヘディンからの忠言とも言える叱責。これでは駄目だと溜め息を吐き出すと共に意識を切り替えるリヴェリアは、部隊の面々へと振り返り軽く頭を下げる。
「………そうだな、お前の言う通りだ。皆も済まなかったな」
自分の意地で部隊に影響を出すわけにはいかない。そういって気持ちを切り替えるリヴェリアに他の面々の表情が安堵に緩む。
「やれやれ、取り巻きに苦言を言われねばマトモに機能しないとは、いよいよ以てボケたかババア。ならば調度良い、そのまま地上に戻り大人しく介護を受けてろ」
瞬間、再び空気が死んだ。
リヴェリアの表情を直視出来ない部隊の面々は口元をキュッと閉じて目線を剃らし、ヘディンももう駄目だと頭を抑えて匙を投げた。
刹那、リヴェリアの周囲から温度が死んでいった………次の瞬間。
回廊は凍結した。芯から凍てつき、リヴェリアを中心に最奥の《
(無詠唱!? いや、これはあくまで余波! リヴェリア様は既にその域まで到達したと!?)
ヘディン・セルランドも驚嘆している者の一人だった。先のメレンでのアルフィアとの一戦にて、擬似的な精霊化まで至った彼女は、魔法の真髄を理解した。
呼吸一つ、手足の挙動一つで魔法を行使する事が可能となったリヴェリアは、人の形を成した魔法そのもの。
同じ魔導師として一つの高みへ至ったリヴェリアにヘディンが心底感服した瞬間である。
「アトミック・ブラスト」
しかし、そんな余韻を破壊する光の一矢がアルフィアから放たれる。瞬間、遠くから聞こえてくる爆砕音と穢れた精霊らしき者の悲鳴、まだここより遥か先なのにそれでも届いてくる爆風に部隊の面々から悲鳴が上がる。
それはリヴェリアも知らないアルフィアの気功術。恐らくベジット直々に教わったであろう気の放出技にリヴェリアはギリッと奥歯を噛み締める。
「……フッ」
「ッ!?」
そんなリヴェリアを興味なさそうな眼で一瞥し、鼻で笑う。自身の気持ちを見透かされたリヴェリアは、周囲の凍てついた空気とは対照的に顔を赤く染め上げる。
空気が変わる。けれどそれは良くなる意味合いではなく、寧ろその逆。更なる殺伐とした空気になる前に、部隊に同行していたアイズは意を決して挙手した。
「あの、すみません。質問良いですか?」
「………なんだ?」
「今回の作戦、ベジットは一緒ではないんですか?」
アイズのその質問にアルフィアとリヴェリアから殺意が消える。ファインプレーな【剣姫】にヘディンだけでなく【
「……奴なら、本命を討ちにいった」
それだけ言って通路の奥へと進むアルフィア。
彼女の言う本命、その意味を未だ分からないアイズは、自分の出番が来るまでに一先ず皆と行動を共にするのだった。
◇
───もうじき始まる。
全ての物語が終わり、新たな狂乱の時代が始まる。
誰もいない、己しかいないその場所で都市の破壊を目論む道化は仮面の下でほくそ笑む。
冒険者達が必死に戦っている。無意味と知らず、無駄だと分からず、全てが徒労に消えるのだと理解出来ぬまま、今日消えていく。
笑いを堪えろ。喝采を挙げるのは、世界に産声を挙げさせるのはまだもう少し先だ。
この日の為に全てを用意した。嘲笑うような嘘と本音を入り交じりながら、必死に今日まで準備を進めてきた。
結実の時までもう少し。その時が来るまで、自分は大人しく待つとしよう。
懸念があるとすれば、自分を最も近くで監視し、疑惑の眼を向けていたあの女神だけ。
けれど、奴が来た所で意味はない。であれば、やはりこの戦い───既に、自分の勝利であると。
「ロキ様なら来ねェよ」
「ッ!?」
その声に心音が一段高くなる。そんなバカなと振り返る
「よぉ、テメェがエニュオか。こうして顔を合わせるのは初めてだな」
「………何故、お前が此処に」
ベジット。女神ヘスティアの最初の眷族であり、エニュオにとって最も忌々しく思っていた冒険者。
そんな彼が不敵な笑みを浮かべてエニュオを指差す。
「さて、まだ決着まで時間があるからな。先ずは答え合わせから始めようか。なぁ、
「ディオニュソスさんよ」
仮面が崩れる。素顔が顕になる。
「ベジットぉ……!」
顕になる男神の顔は、この上なく憤怒に歪んでいた。
Q.今回の作戦の部隊分けは?
A.ザルド&オッタルはアナキティとレフィーヤ達の部隊。
アルフィアはリヴェリアとアイズの部隊。
リリルカはガレスと椿、四兄弟の部隊。
ベートはフィンとアレンの部隊。
他二つの部隊にはアストレア・ファミリアやガネーシャ・ファミリアが人員と戦力をブチ込んで、そこにヒリュテ姉妹が混じってる感じ。
次回、名探偵ベジット。
「真実を一つに丸っと解決してやるぜ。じっちゃんの名に懸けて」
「一つに絞り込めんか貴様ァ!」