頭の整理ついでに浮かんだ小ネタを文章にしてみました

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帰ってきた問題児

 冒険者とは、冒険してはならない。

 これは、ギルドの金言として職員は担当する冒険者へと口を酸っぱくして何度となく言う事だった。

 矛盾しているようだが、要は自分の分を超えた挑戦は身を滅ぼすという事。危険な目に遭ったのなら、大人しく引き返せ、という事だ。

 ただ、冒険者の中には当然この金言を守らない者が居た。

 大抵の場合は、そのまま死ぬ事が殆ど。

 

 だが、何事にも例外が存在する。

 

 その男は、一人でダンジョンに潜り冒険をして生きて帰って来る。

 何度繰り返しても死なない上に、毎度の如く大冒険。

 

 いつしか彼は、人々にこう呼ばれる。

 

 冒険王(ジユウジン)、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の中心都市“オラリオ”

 中心にバベルと呼ばれる天を衝く塔を置いたこの都市は、地下に大迷宮であるダンジョンが広がっており多くの人々が富と名声、栄光を求めてやってくる。

 

 そして、今日この日もまた一人の男がこの都市へと足を踏み入れた。

 

「わっはっはっは!変わってねぇなァ、ここも!」

 

 前を大胆に開けた空色のシャツに、橙色のズボン、黒のブーツを身に付け袖を通していないフロックコートを肩にかけた黒髪の男は大通りのど真ん中で呵々大笑。

 道行く人々が不審な目を向けてくるが、その中でも数人が気付く。

 

「おい、アレって!」

「マジかよ、帰ってきたのか…!?」

「こりゃ、オラリオも荒れるな」

 

 口々に呟く彼ら。

 だが、唐突にそのざわめきが小さくなった。

 原因は男の前に現れた一人の巨漢。

 

「帰ったか、()()()()。フレイヤ様がお待ちだ」

「おお!オッタル!久しぶりだなァ、オイ!」

 

 上機嫌にロジャー・ゴールドは、大猪の背を叩く。

 その衝撃に、僅かにオッタルは目を開く、がここでは追求しない。

 並び立って歩く二人の行く先は、自然と人垣が割れていた。

 

「にしても、変わってねぇなァこの街は!いや、復興してるのは分かるぜ?でもよォ、何つーか()()()()()()()

「そう、見えるか?」

「あくまでも、オレの視点だがな。外じゃあ、オラリオに追い付け追い越せって発展してる所もあるからな」

「外を見て回ったお前らしい視点だ」

「だろ?」

 

 そう言って笑った己よりも頭半分ほど背の低い人間(ヒューマン)の男を流し目に見やるオッタル。

 凡そ五年、ロジャー・ゴールドは世界を旅していた。

 

 そもそも、彼がオラリオを訪れた事もまた偶然から始まる。

 やって来たのは十五歳のころ。今から約十年前だ。

 元々冒険が好きだった彼は、ついていた商団と一緒にオラリオへとやって来て、そこで恩恵を得るきっかけとなった美の女神と出会った。

 それから五年ほどダンジョンへと潜ったりして一通りの冒険を楽しみ、五年前に世界を見て回るために街を出ていた。

 

「……改宗(コンバーション)をしたのか」

「まあな。ちょいと面倒にかち合ってな、どうにもならねぇから色々と解決する目的もあって改宗した。諸々に関しちゃフレイヤの居る所で話すさ。お前も一緒に聞けばいい」

「フレイヤ様のお許しが出ればな」

 

 他愛のない会話だ。

 バベルに設けられた昇降機を使い、向かうのは最上階。

 

「――――お帰りなさい、ロジャー。自由な旅は、どうだったかしら?」

「ただいま、フレイヤ。面白れぇ旅だったぜ」

 

 出迎えたのは妖艶な微笑みを浮かべた女神。

 フレイヤ。このオラリオ最強の片割れであるフレイヤ・ファミリアの主神。

 彼女の斜め後ろにオッタルが控え、その他の団員たちも陰に隠れている事がロジャーには分かった。

 

「手紙は受け取ったけれど、改めて改宗の経緯を教えて?」

「おう、良いぜ。オレは今、アルテミス・ファミリアの団員って事になってる。つっても、オラリオに帰ってくる辺りでアルテミスには改宗許可は貰ってんだけどな」

「外に、そこまでの相手が居たのね」

「ああ。でっけぇ蠍だったんだが五年前の時オレ、レベル6だったろ?中々に押し負けてな。どうしたもんかと考えてたら、アルテミスがステータスアップを提案してくれてな。んで、改宗してステータスを振り割ったらレベルアップ出来るって事で、そのままレベルアップしてぶっ倒した」

「つまり、今の貴方はレベル7?」

「いや、レベル9」

 

 アッサリと言い切るロジャー。

 だが、この場の衝撃は計り知れない。

 

 現状、このオラリオにおいて最高レベルは7。“猛者(おうじゃ)”の二つ名を持つオッタルがこれに該当する。

 冒険者のレベルは、基本的に上がらない。恩恵を得てもレベル1で一生を終える者も少なくなく、レベル2でも前冒険者の半分もいないのではなかろうか。

 更に、レベルが上がれば上がるほどに、次のレベルへと上がる事が難しくなる。

 

 元々、旅立つ前の時点でレベル7に至れる経験値を得ていたとはいえ、レベルアップがほぼ不可能とされるオラリオの外で更に2つもレベルを上げたロジャーは化物という他ない。

 もっとも、当人は()()()()()()()()()()()

 

「あ、そうそう!面白れぇのがな。オラリオのダンジョン似てるって洞窟があったんだ」

「へぇ……?」

「そこがよ、まあ、深い!ガンガン進んでったんだが、モンスターも無茶苦茶出てくるし、魔石はねぇのに中々強くてな。んで、その一番奥にウダイオスの五倍はあるバケモンが居たんだ。アイツは強かったぜ。毒の息とか吐いてくるんだが、それが耐異常を貫通して来やがるんだ」

 

 アレはヤバかった、と笑うロジャーだが洒落に成らない。

 レベル7が持つ発展アビリティ“耐異常”を貫通するなどダンジョン内でも早々起きるものではない。

 彼の冒険譚は続く。

 

「後は、アレだ。空を飛ぶ鮫!こいつも馬鹿でかくてな。100(メドル)はあるサイズで、オマケに大量のお供を連れてんだから、苦労したぜ。まあ、最終的にゃあ腹掻っ捌いて叩き落してやったんだけどな!」

 

 わっはっはっは!と呵々大笑。

 だが、笑い事ではない。

 100Mもある巨大な魔物が出現し、剰え共回りを引き連れて空を自由に動き回るなど悪夢そのものだ。

 実際、ロジャーが討伐していなければ多くの国が滅んでいたかもしれない。

 

 彼は、オラリオに居た頃から、()()()()()()()。そこに、生粋の冒険家としての性根が合わさる事で彼は偉業を量産していく。

 

「……その魂の輝きは、そう言う事ね。それで、貴方はどうするの?また、私の下へと戻ってくるつもりかしらね」

「そこは、フレイヤの意向に従うぜ。オレとしちゃあ、冒険できりゃあ良いんだが、ステータスの割り振りも大事だってアルテミスに散々言われてな。適当な所にでも入るさ」

 

 ロジャーはあっけらかんとそう言うが、現状の世界最強の冒険者が入団するなどファミリアの内情を壊しかねない。かといって、零細ファミリアなどに入れば彼らの成長を阻害してしまうだろう。

 

「そうね……なら、元の鞘に収まるとしましょう」

 

 フレイヤは、微笑む。

 元より、戻ってきたのなら手放す気は無い。

 その自由な魂を愛する故に、その行動の自由さも許す。

 

 だが、去ることは許さない。

 最初にこの魂に目を付けたのは自分なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロジャー・ゴールド。その名は、一定以上の地位につく者ならば一度は耳にした事がある名前だ。

 同時に、彼自身の交流関係も広かった。

 

「遅くなっちまったな。飯、どうするか……いや、酒だな」

 

 肩に掛けただけのフロックコートを揺らして、ロジャーは腹を擦った。

 飯、酒、宴。彼にとってはどんちゃん騒ぎが出来れば何でもいい。

 その道中でふと思い出したのは顔馴染みが営む酒場だ。

 そうと決まれば、善は急げ。空腹と渇きに背を押される様にして鼻歌を歌いながら上機嫌に記憶にある店の場所へと向かう。

 程なくして辿り着く店の前。

 

「ふっふ~♪お?」

 

 上機嫌に足を進めていたロジャーの足が止まる。

 というのも、勢いよく店を飛び出してきた白髪の少年がそのままロジャーの隣を駆け抜けて行ってしまったからだ。

 気になりはするが、まずは飯と酒。ロジャーは扉を開け放つ。

 

「よお、ミア!久しぶりだなァ!」

「うん?……ロジャー?帰ってきたのかい、アンタ」

「わっはっはっは!まあな!」

 

 豊穣の女主人の店主であるミア・グランドは、眉を上げる。

 席にいた客は彼女の呼んだロジャーの名に驚きの目を向けているのだが、目を向けられた彼は知らぬ存ぜぬ。

 ミアの前の席カウンター席にどっかりと座り込むと、ポケットからたんまりとヴァリスの入った革袋を取り出してカウンターの上に置いた。

 

「これで、食えるだけの飯と酒をたっぷり出してくれ。腹が減って仕方がねぇんだ」

「相変わらずだねぇ、アンタは。ま、構わないさ」

 

 ジョッキに上等な酒を注ぎ、ドンッとロジャーの前に置く。

 

「それにしても、いつ戻ったんだい」

「今日だ。ついでに、フレイヤの所にも復帰したぞ」

「元の鞘って事かい。アタシとしちゃ、新しいファミリアにでも入るかと思ったんだけど」

「いやぁ、オレだってここまで自由にさせてくれるファミリアは他にないって分かってるんだぜ?ガネーシャの所は治安維持に、祭事の運営。面白そうだが、拘束時間が長そうだ。かといって、治療なんざできねぇからディアンケヒトは向かねぇし、鍛冶関連のヘファイストスやゴブニュも合わねぇ。デメテルの所の野菜は旨いが、土いじりばっかじゃ飽きちまう」

「あそこはどうなんだい。アストレア・ファミリアは」

「わっはっはっは!そここそ、オレには向かねぇよ!生憎と正義なんてものを背負っちゃいねぇし、オレ自身正義の味方だなんて胸を張れるほど、御大層な人間じゃない。好きに生きて好きに動いて、適当こいてるのが丁度良い」

「はぁ……これが、オラリオの暗黒期を終わらせた男の言葉かねぇ」

「わっはっはっは!それこそ、買い被りだ!オレァ好きなように動いただけだ。偶々、その先で俺が進みたい方向を邪魔されちまったからぶっ倒しただけだしな!」

 

 上機嫌に樽ジョッキを呷るロジャー。

 

 数年前の事だ。闇派閥と呼称された都市転覆を企むファミリアの連合との内戦状態と陥っていたオラリオ。

 それこそ、外を出歩く事すら難しく。場合によってはファミリアごと皆殺しにされる事すらあった暗黒の時代。

 この時代に終止符を打ったのが、当時レベル6であったロジャー・ゴールド。同時に、彼はこの時の活躍によりレベル7へとランクアップの条件を満たしていたのだが、それらステータスを反映する前にオラリオから旅立ってしまい、結果として女神アルテミスとの接点を得る事になる。

 

 昔話に花を咲かせていれば、横合いから声が飛ぶ。

 

「ほんなら、うちらのとこはどないなんや?」

「ん?……おお!ロキじゃねぇか!」

 

 久しぶりだな!とロジャーは、中身が半分ほどに減った樽ジョッキを赤毛の女神であるロキへと向ける。因みに、ロジャーは基本的に神々は呼び捨てだ。ぶっちゃけ、敬ってない。

 ついでに、今になって彼はこの店に居た顔見知りに気付いたらしい。

 

「んん?……あっ、フィンじゃねぇか!それに、リヴェリアにガレスも居るじゃねぇか!」

 

 ジョッキ片手に席を立つと、ロジャーは金髪の小人(パルゥム)の肩を組んだ。

 

「あ、はは……久しぶりだね、ロジャー。帰ってきたのは知らなかったけど」

「今日帰って来たばっかりだからな!何だよ何だよ、気付いてたなら声かけてくれりゃ良いだろ?」

「君なら、()()で気付ていると思ったんだけど?」

「ああ、覇気な。今は切ってんだ。四六時中張ってると疲れるからな」

 

 そのままフィン・ディムナへとダル絡みを始めるロジャー。そんな彼の後頭部が引っ叩かれる。

 

「おいっ!無視すんなや!」

「おお?あー、ロキ・ファミリアか?……んー、無いな!」

 

 急かしたロキに、キッパリとロジャーは言い切った。

 

「オレは、堅ッ苦しいのは嫌だ。ロキの所がスゲーのは知ってるが、だからってオレの行動一つ一つに苦言が飛んでくるのは御免だな」

 

 自由を愛する男に、規律と規範による縛り付けは窮屈な枷でしかない。そして、自由の味を知ってしまった彼が、その枷の中へと自ら飛び込む事はしない。

 

「僕としても、君を御せるとは思えないよ。鬼札が過ぎるね」

「わっはっはっは!そう言うが、フィン。お前も、大分腕が錆びてるように見えるぞ?」

 

 グイッと、ジョッキを呷ったロジャー。周囲がピリリと張りつめた事に気付いていないらしい。

 

「冒険、出来てねぇんだろ?お偉いさんなのは分かるが、動かなくちゃ鈍る一方だぜ?」

「……耳が痛いね」

 

 ロジャーの指摘に、フィンは苦笑い。

 団長として多くの責任を背負う彼の責務は多い。自然と、机に拘束される時間も多かった。

 如何に上位の冒険者であろうとも実戦を離れすぎれば体も鈍る。

 

「そう言うお前はどうなんだ。オラリオの外は」

 

 問うたのは、緑髪のハイエルフ。

 リヴェリア・リヨス・アールヴは、ロジャー・ゴールドという男が意図せずに相手の柔らかい部分を突いて怒らせてしまう事がある事を知っていた。

 本人に悪気はない。悪意も無い。ただ、事実を突くだけ。

 リヴェリアの言葉に対して、ロジャーは笑みを浮かべた。

 

「楽しい旅だったぜ。やっぱり冒険ってのは、血が沸き立って仕方がねぇ」

「それほどか?」

「分かってねぇなァ、リヴェリア。冒険ってのは、何も血沸き肉躍る戦いだけが全てじゃねぇんだ」

 

 ジョッキを呷る。

 

「目で見て、肌で感じて、ニオイを嗅いで、音を聞いて、味わって。五感総てで、体総てで感じ取る事こそが冒険なんだぜ?戦いなんざ、過程だ、過程」

 

 それは、一種の美学だ。

 ロジャーは旅が好きで、冒険が好きだ。戦う事も好きといえば好きだが、それはあくまでも手段の一つであって目的には該当しない。

 

「……チッ、相変わらず気に入らねぇ」

「んお?……ベートか!デカくなったな!そっちの金髪は……アイズか?」

「……お久しぶりです」

「わっはっはっは!そう、硬くならなくて良いぞ」

 

 顔を顰める狼人のベート・ローガと金髪の剣士、アイズ・ヴァレンシュタインの頭を機嫌よく撫でるロジャー。

 アイズはされるがままだが、ベートは直ぐにその手を振り払う。

 

「いつまでもガキ扱いしてくるんじゃねぇよ!!」

「そう言うな!」

 

 アイズから手を放して、ベートの首に腕を回して撫でまわすロジャー。

 当然抗うベートだが、如何せんピクリとも動かない。

 ベートのレベルは5。酒を飲んでいるとはいえ、その身体能力はオラリオでも上位一桁で数えて良いだろう。

 そんな彼が、文字通りの子ども扱い。その光景に、フィンは目を細めた。

 

「ロジャー」

「あん?どうした?」

「君、ランクアップしているだろう?」

「おう!よく分かったな!」

「……レベル7かい?」

「いいや?今は9だぜ」

 

 アッサリとそう言うロジャーの言葉で、酒場の空気がシンと静まり返る。腕に抱えられたベートも目を見開いている。

 都市最強を軽く上回るレベル。それはつまり、世界最強の証明。

 

 冒険王の帰還は、都市に波紋を巻き起こす。


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