「彼からの依頼とはいえ、気になりますね。ルパン4世はハズレでしたが貴方はどうですかね?」
俺を誘拐した眼鏡の男はそう俺に向けて言った。
ここはとあるショッピングモールの倉庫だ。気味の悪い男が父さんと一緒に買い物をしていた俺を攫ってここに連れてきたのだ。
突然こいつに話しかけられ、目が覚めたらここにいたのだ。
「屋敷の迎えが遅いのでここで窮屈な思いをして待ちぼうけになりますが…しばらくしたら外に迎えがきますのでそれまでは静かにしててくださいね。まぁ…屋敷でも窮屈なのは変わりませんがね」
俺は叫びたい気持ちがあるが、口はガムテープで塞がれたため叫ぶことすらできない。
さっきから何を言っているのかがわからない。何故誘拐したのか心当たりがない。何もわからない中で拘束されてここにいるからだ。
「んんー!んー!」
叫んでみるもガムテープのせいで叫べない。意味もないのはわかっているがそれでも叫びたくて堪らないのだ。
「まぁここには誰も来ませんから叫ぶだけ無駄ですよ」
眼鏡男は余裕な顔で俺を一瞥し、背を向け携帯で誰かに話し出した。
何とかできないかという藁にもすがる気持ちで周りを見渡そうとすると
「平一、助けに来たぞ」
小声で後ろから父さんの声が聞こえた。助けに来てくれたのか!
「奴は今目を離している。今外すから待ってろよ」
父さんは俺を縛っている縄を外して、口に貼られたガムテープを剥がしてくれた。
「すまないな。さっき狼に襲われてな。そいつらを捕縛してからきた。平一、もう大丈夫だからな」
「父さん…あいつは…」
「説明は後だ。今は逃げるぞ」
父さんはあの眼鏡男にバレないように物陰に隠れた。そこから手招きをしてきたのを見て俺も動き出す。が、
ガコンッ!
急いでいたせいで物にぶつかり、それは倉庫を響かせるような音を立てた。
「っ!何!」
眼鏡男は俺に向けて銃を取り出し
パァン!
発砲した。俺は咄嗟に目を瞑ってたが、しばらくしても痛みはない。
目を開けると目の前には父さんがいた。父さんが庇ったのだ。
「父さん!」
「大丈夫だ!防弾ベストを内に着てるから平気だ!早く逃げろ!」
「で、でも!」
眼鏡男は父さんに銃を構え直した。
「っ……!この!」
「父さん危ない!」
パァン!
父さんを守るために押したその時、脇腹に焼けるような熱い痛みが走った。
「へ、平一ぃぃぃぃぃぃ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ…あ…あ…」
俺はあの時の、眼鏡男が、小夜鳴だと思い出した。だからなのか、小夜鳴に会った時から、嫌悪感を感じていた。それが、原因か
なのに、何故、そんな記憶を、忘れてたの、か
心臓の鼓動が段々と、早くなって、息苦しさが、ある
銃が、重い……………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
平一は銃を下ろして茫然としている。まるでバスジャックの時みたいに。
小夜鳴に言われたように何かを思い出してた……?
小夜鳴は平一に嫌でも思い出す…いや、嫌・だ・か・ら・こそ思い出させたのか?
理子といい、平一といい、人が嫌がるような事をするなこいつは…
「いい加減にしなさい!さっきから何のつもりよ!」
「彼を呼ぶためです。彼を呼ぶには絶望、恐怖、怒り、悲しみという負の感情が必要なんですよ。本物の十字架を盗ませて喜ばせてから深い悲しみを与えれば……ほら、もう来ますよ」
小夜鳴の視線は理子や平一から俺達に向けられた。いや、俺に向けている。
「遠山くん、よく見てくださいね……私は貴方のように掛かれますよ」
その言葉にハッとした。
まさか…こいつも…?
「ヒステリア・サヴァン・シンドローム……貴方と同じ能力です」
「ヒス…テリア?何よそれ?」
「我々イ・ウーは能力者同士で教え合い、高める。それを目的とした組織ですが……それはルパン4世達みたいな無能のままごとです。そんな中で私とブラドはある方法を編み出しました。それは能力をトレース、写すことです。ヒステリア・サヴァン・シンドロームのように能力を写す方法を編み出しました」
「……聞いたことあるわ…イ・ウーは能力をコピーできる技術を持ってるって」
「ブラドは…吸血によってそれをやって、進化してきましたが…私とブラドは協力してそれを人工的に出来る技術を作り出しました。血液にはありとあらゆる情報が入っていますからね。それを抽出して写し出すんです。ブラドはこの技術でイ・ウーのNo.2になれました。この無能であるルパン4世と銭形のおかげでね…少しは役立ったようだ…」
理子と平一を一瞥して小夜鳴は言った。
「吸血……ブラドの正体は吸血鬼ドラキュラね」
「ドラキュラ…?あれは架空の話じゃ…」
「15世紀ワラキア公国、今のルーマニアの君主よ。実在した人物で別名串刺し公と呼ばれてるわ。東欧の武偵の間では今も生きていると言われて有名よ」
「正解です。よくご存知ですね神崎さん……そのブラドに会えるんですよ」
そんな化け物がいる…?いや、出鱈目だ。何故なら小夜鳴、いやブラドがHSSヒステリア・サヴァン・シンドロームを持っているなら理子にあんな酷いことはしない。女を守るために性的興奮を身体能力向上に作用させるための能力だ。
そんな能力であるため女を痛めつけて興奮するというのには合わないはずだ。
「HSSヒステリア・サヴァン・シンドロームを持っているなら何故理子を痛めつける?」
「いい質問ですね。ブラドは吸血鬼として様々な人間の血を吸い続けました。600年間、人間の能力をコピーし続けた……その結果、私という人間の殻の中に存在するようになりました」
今までの小夜鳴の話し方に合点が一致した。俺達は小夜鳴をブラドだと思ってたが違う。小夜鳴の中にブラドはいるんだ。いわば二重人格みたいなものだ。
だからずっと小夜鳴はブラドを彼と呼んで別人物のように扱ってたのか。
「擬態か…小夜鳴という人間に擬態して、内にブラドという吸血鬼を秘めていた…」
「その通りです。ブラドは私の脳のアドレナリンが大量分泌された時に出現するんです。いわば、興奮状態です。ですが…600年生きると並大抵のことでは興奮できません……そこで貴方の兄である遠・山・金・一・が現れた興奮によって能力を向上させるヒステリア・サヴァン・シンドロームと私の体質は……合致したのですっ!」
小夜鳴は理子の顔面を蹴飛ばした。その衝撃で口から十字架が飛び出した。
「私から見れば人間は犬や猫のような動物とおなじですよ…べっしゅですからね…動物をいたぶるのは……タノシクテたのしくて…こウ奮がおさまらなナクナりマすよ……さァ…彼ガ来るゾ…」
小夜鳴の体が段々と大きく、いや、別のものに変わっていく。
その姿はさらに大きくなり、服ははだけていき、さっきの小夜鳴の姿とは違う……毛が身体中から出てきて、顔も狼のように変わっていった。
「……初めましてだな。この姿は…」
なんだよこれ…狼男?いや俺たちよりも一回りもデカい…これが…ブラドか…
ブラドは倒れている理子の頭を鷲掴みにして
「久しぶりだなぁ…ルパン4世…」
「ぶ、ブラドぉ…お前…人間に化けれるのか…騙したなぁ…!」
「ハハハッ……知らなかったみたいだな。無能な4世様にはわからなかったみたいだ…」
俺は理子が危ないと判断して銃を撃つ。が、弾丸はブラドの体にめり込んでそのまま落ちていった。
痛がる様子も、血を流すところもないと見るにこいつには銃が効かないようだな…
パァン!パァン!
銃声がした方向を向くと二匹の狼がアリアを襲ってきた。
まずい!アリアと理子、どちらも危険だ!ヒステリアモードの俺でもどちらか片方しか行けない!
どうするかと思索していると
「少し檻から出してみたら面白そうだと思ったが…見当違いなようだな…」
「お前は…オルメスと銭形を倒せば理子を解放すると…約束したはずだ…」
「ハッ!お前のような遺伝子で定められた無能が出来るわけないだろう?お前は用済みだ…さぁ見ろ…」
ブラドは理子に街の夜景を見せつけた。
「このまま頭を捻り潰してやるよ…安心しろ。お前からは十分なデータは得れた。後はあの方が上手く活用するはずだ……さぁ…人生最後の檻の外の景色だぞぉ?ゲッハハハハハハハッ!」
このままじゃ理子が危ない!そう感じ取り、すぐに動こうとしたその時
「ぐ、グァ!」
ブラドがよろめき出し、そして転けた。
理子はブラドの手から離れて宙を舞い、地面に落ちそうになる。
危ない!と動く前に理子は何者かにキャッチされた。
トレンチコートを上から羽織っているその姿は誰かすぐにわかった。
「へ、平一!?」
理子をお姫様抱っこする平一の姿がそこにはあった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ブラドに近づいて、首にロープ手錠を巻き上げ、背負い投げの要領でブラドをひっくり返してから何とか理子を助けた。
「キンジ!アリアを頼んだ!」
キンジはうなづいてアリアの方へ走った。すぐに俺は理子を安全な場所へ運んで下ろした。
「理子、怪我はないか?」
「い、いっくん…」
理子の口元からは血が出てきた。恐らく小夜鳴、いやブラドに蹴られた時に口を切ったみたいだ。
俺はハンカチで理子の口元の血を拭いた。
「しばらく休んでろ。安心しろ。ブラドは俺達が逮捕する」
立ちあがろうとした時、理子は俺のコートの胸元を掴んだ。
「ダメだよいっくん!逃げよう!ブラドに叶うわけがない!」
「何故そう思うんだ?」
「初代ルパンや私が戦っても勝てなかった!奴は化け物だよ!戦ったらキーくんやアリア…いっくんが死んじゃう!」
「……お前は俺と同じだな」
「へっ?」
「俺は3年前……ルパン3世に父さんが殺された。それだけを認識してあの事件から蓋をして逃げてたんだ。だから火は怖いし、あの事件を細かく思い出そうとすれば怖くなる。さっきの俺みたいにな」
コートを掴んでいる理子の手を俺は軽く握った。
「過去の出来事に囚われている…もう戻らないはずなのにな。だけど何とか生きようとするために何かに縋って前を向こうとする。理子は自由を、俺は復讐をするために今まで生きてきたんだ。だから一緒なんだよ」
さっき思い出したのはあの日のまだ一部だ。全体像はまだ思い出せない。いや、思い出したくないのかもしれない。
俺の記憶と捜査記録が違うのはなんとなく知っている。父さんは死んだと思っているが記録では行方不明になっているというのは知っている。だが、それ以外は知らない。
知りたくないからだ。怖いから。思い出すと怖くなって震えてくる。それから逃げるために復讐するという大義名分を出して今までやってきた。
「吹っ切れたよ。もう辞めだ。先祖だの、過去だのに拘るのはやめよう。俺達はルパン4世でも、銭形警部の息子でもない。親なんか関係ない。峰理子、銭形平一だ」
「いっくん…」
「それと…こいつを返す」
ポケットから俺は十字架を取り出し、理子の首にかけた。あの時理子が落としたものを俺は回収した。
「理子の十字架を…ありがとう…」
「理子、ここにいろ。アイツは俺が倒す。ジャンヌから弱点は3つ聞いてる。残りの一個は何とかしてくる」
立ち上がり、ブラドの元へ行こうとしたら
「待って!ブラドの弱点最後の一個の場所を知ってるの!」
「何?どこだ?」
理子は俺の耳元でそれを教えた。
「なるほどね…なら話は早い。じゃあ俺がそこを狙えば」
「いっくん……その役目は理子にやらせて」
「ダメだ。理子は負傷してるし」
「…理子もいっくんと一緒なんだよね?だったら理子は乗り越えるためにやらないとダメ。だからやらせて」
理子は黄金色の瞳を真っ直ぐに俺へ向けて言った。俺はダメとは言えなかった。それはさっき俺が言った事を無視するようになるからだ。
理子は戦おうとしている。自分の過去に蹴りをつけるために。
「ブラドの体に描かれてる紋章は3つ、4つ目は位置とタイミングが合えば狙えるよ……理子がそれを狙うからいっくんはキーくんとアリアと一緒に紋章の場所を撃ち抜いて」
「………それならいいアイデアがある。耳を貸せ」
俺は理子の耳元に近づき、今思いついた作戦を話す。理子は
「それだよいっくん!その作せ」
アォォォォォォォウウィィィィィ!!!!
その瞬間、甲高い雄叫びが響き、咄嗟に俺達は耳を塞いだ。まるで体の内側から揺すられ、震えてしまうその音に俺はバランスを崩して膝をついた。
しばらくすると体が震えが収まった。どうやら音は止んだようだな。
「い、今のは何だ!」
「ブラドのワラキアの魔笛だよ!あいつキーくんのヒステリアモードを破るために本気を出してきてる!」
「な、どういう事だ!」
その瞬間、後ろから何かがぶつかる音が聞こえた。俺達がその音が何なのかを見るために見に行くと
「き……キンジ!」
屋上の縁を掴んで、今にも落ちそうなキンジがそこにはいた。俺達が駆け寄って助けようとした瞬間
キンジの手は縁から離れていった。