理由は単純に毎週投稿でこの物語の最終決戦をまとめられるわけないからです。
むしろよくここまで週一投稿キープしましたよ。
Side 士道
「感謝します、五河士道。おかげで楽に《シスター》に近づくことができた」
虚空からいきなり現れたエレン。奴は二亜の胸を貫いた。
あと少しで二亜に手が届く。そんなタイミングで。
「エレン!」
反射的に霊力を込めた拳を繰り出す。しかし、エレンはそれを
「天使を使わないとは。舐められたものですねっ!」
「くっ!」
エレンはそのまま俺に蹴りを放ってきた。何とか腕で防御したがそのまま吹っ飛ばされる。
「大丈夫か、シドー⁉」
「俺は大丈夫だ。でも二亜が……」
ぐったりとしてまるで眠っているようだ。
「…………」
二亜はもう声すら発することができない。代わりに胸から何かが飛び出した。
徐々に浮きあがり、俺の目線の高さで止まる。夜の闇を凝縮させたような結晶が。
「出るものが出ましたね」
エレンは結晶に向かって手を伸ばす。同時に貫いていた二亜をゴミのように投げ捨てた。
そのまま結晶を大事に抱え一気に飛ぶ。
「二亜!……二亜!」
地面に打ち捨てられた二亜を抱き上げる。生暖かい感触が触れた手のひらにべったりと広がる。
二亜は緩めた蛇口のように血を流している。押さえても塞いでも零れ続ける。
このままじゃ二亜が死んでしまう。
「誰か、二亜を助けてくれ!お願いだ!」
周囲にいるみんなに向かって叫ぶ。その声に応えて折紙と真那が前に出た。
「私が応急処置を行う。急いでフラクシナスに連れて行けば間に合うかもしれない」
「真那も手伝います。治療はあんまり得意じゃねーんですが」
瀕死の二亜を助けてくれようとしている二人。
「無駄なことはよした方がいい。彼女はもう助からない」
その行為を嘲笑う声がした。
「…………ッ⁉」
その男を見ないといけない。今の二亜から目を離してでも。
そんな本能に従って振り返る。男は街でも歩くかのように戦場を闊歩していた。
男の心を示すような漆黒のスーツ。
見てるだけで身体がぞわぞわとする濁り切った瞳。うっすらと嗤う口元。
「アイザック・ウェストコット……」
「直接顔を合わせるのは久しぶりだね、イツカシドウ。壮健そうで何よりだ」
ウェストコットはわざとらしくそう言った。どの口でそんなことを言っている。
「二亜は助からないって……」
「精霊から霊力の源が抜けたんだ。《シスター》はもう助からない。治療は無意味だ」
ウェストコットは淡々とそう告げた。まるで物覚えの悪い子供を諭すかのように。
「アイク、こちらを」
「ありがとう、エレン」
ウェストコットはエレンからさっきの結晶を受け取り光にかざす。光を呑み込む漆黒の闇を見て、狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「素晴らしい。これが——
ウェストコットは慈しむように結晶、反霊結晶を眺める。
「イツカシドウに《ラタトスク》の諸君。君たちにも礼を言っておこう。君たちのおかげで私はようやく悲願への一歩を踏み出すことができる」
高台に立ったかのようにウェストコットは高らかに宣言した。その様子に肌がぞわりとする。
「あんた……何を?」
「それを君が言うのかい?今まで七人もの精霊の力を得てきた君が」
ウェストコットは反霊結晶を掴み、おもむろに自分の胸へ押し当てる。
「く——おおおおおおおおお——ッ」
ばちばちと音を立てながら反霊結晶が漆黒の光を放つ。そこだけ夜になってしまったかのように。
そして数秒後、ウェストコットに吸い込まれるように収束していった。
「ふ——はははははははッ!」
スーツの胸元を焦げ付かせたウェストコットは高らかに笑った。
全身から霊力を溢れさせている。まるで精霊のように。
「
折紙が目を見開いて驚く。俺たちの気持ちを代弁するように。
「そういうことさ——
ウェストコットは虚空に手をかざし唱える。強大な魔王の名を。
「なるほど、不思議なものだな。初めて触れるのに使い方がわかる。
——ほぅ、本に記された存在の具象化か。魔王の名に違わず、世界の道理も条理も捻じ曲げる力だ。素晴らしいと思わないかね?」
「く……」
本を開いてウェストコットは邪悪に笑みを深める。思わず奥歯を噛みしめた。
「アイク、どうしますか?ここで取れるだけ取っていくのも手だと思いますが」
エレンの言葉に身構える。
二亜がこんな状態だ。ここで戦いになったら——
「いや、今日はここまでにしておこう」
「よろしいのですか?」
エレンは不思議そうな顔をウェストコットに向ける。
「構わないさ。どうせ結末は変わらない。
それより、帰ってレンと祝杯でも挙げようじゃないか」
勝ち誇るウェストコット。明らかに聞き逃せない言葉が混じっていた。
「お前ら、蓮と手を組んでいたのか⁉」
「おや、知らなかったのかい?レンは私の重要なビジネスパートナーだよ」
ウェストコットはわざとらしく答える。よりにもよって、そんな最悪の組み合わせができているだなんて。
「《アポクリファ》、いやトビイチアイにも伝えておいてくれ。準備ができたら君たちを貰いに行く、とね」
「ふざけるな、ウェストコット!」
俺の言葉など意にも介さない。エレンに抱えられ空へ浮き上がる。
「また会おう、イツカシドウ。そして、精霊諸君」
「クソッ!」
DEMに狙われるかもしれない。わかっていたはずなのに。
「落ち着くのだ、シドー。今は二亜を……」
「ああ、そうだな」
十香の言葉で頭を冷やす。そうだ、今は二亜のことが最優先だ。
「折紙、どうだ?」
「動脈を深く損傷している。出血が想定より早い。このままではフラクシナスまでもたない」
「そんな……」
折紙は険しい顔をしながらそう答える。折紙と真那の二人がかりでもダメなのか。
ただ、拳を握ってみてることしかできないのかよ。
「お困りのようですわね、士道さん」
突如、聞き覚えのある声が響いた。独特な雰囲気を持つ艶やかな声。
「狂三?」
「きひひひひ、助けに参りました——というのは格好つけすぎでしょうか?」
夕日の中に溶け込むように、緋色のドレスをまとった狂三が立っていた。
「
狂三は天使を顕現させる。空間に侵食する機械仕掛けの大時計。
驚く暇もないほど滑らかな手つきで銃に力を込め、そのまま放った。
弾丸は二亜に吸い込まれていく。当たった——そう思った瞬間二亜の身体に変化が起こる。
地面に流れていた血が二亜の胸に戻っていく。胸に開いていた穴がきれいに塞がった。
まるで今までのことがなかったかのように。
「士道さん、二亜さんにあなたの霊力を分けてあげてください。それで、二亜さんは助かるはずです」
狂三は顔をグイッと近づけて耳元で囁く。いつもなら赤面していただろう。
「狂三、なんで?」
でも、今回は疑問の方が勝った。
なんで助けてくれたのか。いや、他にもどこかおかしいような……。
「そうですわね……。罪滅ぼし、といったところでしょうか?」
「え?」
狂三はぽつりとつぶやいた。まるで独り言でも発するかのように。
「いえ、なんでもありませんわ。
また会いましょう、士道さん。デートのお誘いを心待ちにしておりますわ」
狂三は去り際に顔だけこちらに向けた。その顔は以前と違って見える。
狂三はどんどんと影の中に消えていく。最後の瞬間まで俺はなぜか目が離せないでいた。
「士道、士道!」
「はっ!」
折紙に肩を揺さぶられてようやく現実に引き戻される。
「そうだ、二亜!」
「傷は完全に修復された。でも、鼓動が弱くなっている。おそらく、霊力の問題」
ウェストコットも言っていた。霊力を失った精霊は死んでしまうって。
でも、俺ならもしかしたら。
「二亜……頼む、受け入れてくれ」
二亜が俺をどれだけ見てくれているかわからない。そもそも、二亜の気持ちが俺に向いていたところで助かるのかすらわからない。
それでも、これしかない。
二亜の肩を抱いて唇を合わせる。他の誰とも違う静かな感触。
こんな寂しいキスは最後にさせてくれ、二亜。
二亜と俺の間で何かが繋がった。それがはっきりと感じられる。
自分の中の温かいものが二亜の方へと流れ込んでいく。いつもとは逆の感覚。
これでいい。
「少年……」
「二亜」
二亜はゆっくりまぶたを開く。そして、静かに笑った。
「あはは、ヒロインなんて柄じゃないって思ってたけど、案外悪くないね」
その言葉はどこか二亜らしくて、とても似合わなかった。
「二亜、本当に良かった」
「少年、本当にありがとね」
二亜をぎゅっと抱きしめる。何もかもボロボロだけれど、二亜だけでも助けることができた。
♦♦♦
Side 愛
フラクシナスの仮眠室。七罪と二人でベッドに座っていた。
「それで、あんた本当に休むつもりなの?」
七罪は腕を組んで僕をいつもの半目で見る。何か言いたげだ。
「そんな訳ないじゃん。戦う体力はないけど、できることはまだあるから」
「ふん、だと思ったわ」
七罪は不満そうに鼻を鳴らす。
どうやらお見通しだったようだ。相変わらず、頼りになる。
「また暗躍するのね。まあ、一人で動かなかったことは褒めてあげていいわよ」
「飼い主が優秀なものですから」
だんだんと主従関係が明確になっている気がする。そのうち首輪とリードが見えてくるんじゃないだろうか。
「ねえ、愛。蓮って精霊、初めて聞いたんだけど。あんたまだ隠し事してたの?」
七罪が少し目を細める。正直に話さないと、また大喧嘩になるな。
「いや、普通に話すのを忘れてた。ごめん、七罪」
「……まあ、そんなところでしょうね。あんた以外と抜けてるから」
七罪は大きく溜息を吐く。答えを予想していたようだ。
「信じてくれる?」
「ふん。あんたは馬鹿だけど、私に嘘を吐くほど馬鹿じゃないわ。本当に馬鹿だけど」
不機嫌そうに、でもどこか楽しそうにする七罪。どうやら売られるほど株は落ちていないようだ。
「三回も言わなくていいじゃん」
「うるさいわよ、馬鹿!」
七罪はバシッと頭を叩く。その痛みを撫でつつ話を戻す。
「蓮はゲームのキャラなんだよ」
「ああ、あるわね。ゲームで完全に原作なぞっても売れないから、独自性を出すためにオリキャラ入れる手法」
「そんなゴリゴリのメタ視点やめてよ……」
完全にピンホール捉えてそうだけど。
「本編には関りがないキャラ。だから絡んでこないと思ってたけど……」
「出てきちゃったわけね。しかも、あんな面倒な形で」
七罪の言うその通り。本当に意表を突かれた。
「あいつも一応精霊なんでしょ。士道に封印させるの?」
「いや、殺すつもりで動く。あれは別枠だ」
自然と声が低くなる。久しぶりに本気の殺意が湧き上がってくる。
「言い切ったわね。なんだかんだ精霊には優しかったのに。前の狂三だって結構ヤバいことしてたけど、殺そうとしてなかったじゃない」
「狂三は交渉の余地があったからね。それにぶっちゃけ何とかなる強さだった。あいつはどっちもダメだ」
「ふ~ん、まああんたがそう決めたなら別にいいけど」
七罪は興味がなさそうな
「それで、何企んでるのよ?今度は誰をそそのかすの?」
「人聞きが悪いな。狂三と交渉するだけだよ」
「……土台から全部ひっくり返すのね。十分
「ご明察」
七罪の想像通り。蓮にされたことを全部なかったことにするつもりだ。
今回の事件、完全にしてやられてしまった。ここまで来たら過去をやり直した方がいい。
「過去を改変する
「私が使えたらよかったんだけど、流石に
まあ、そもそも七罪に寿命削る技を使わせる気はないけど。
「狂三はもう敵じゃない。前みたいにギスギスした交渉をする必要はないと思う。
——なあ、そうだろ狂三?」
背後に向かって声をかける。僕の声に反応してベッドの影が揺らめいた。
「きひひひ、わかっていらしたのですか愛さん?」
影が立ち上り、人の形を成す。いつもの美しく狂った顔で笑っている。
「狂三が僕たちの価値を知らないわけない。どうせ、常に分身体をつけてるんだろ?」
「ご明察。相変わらず恐ろしいお方ですわね」
家に入れないよう気をつけてるけど、外で取り除くのは無理だ。初めから覗かれている前提で動いていた。
「うわぁ、また出た」
七罪が狂三を見て嫌そうな顔をする。まるで虫でも見たかのようだ。
「七罪さん、そのような反応をされると悲しくて泣いてしまいますわ。これでもガラスのハートですのよ」
「鋼のハートの間違いでしょ」
泣きまねをする狂三と適当に流す七罪。わざとらしい応酬をしつつ交渉のテーブルを温める。
「それで、話は聞いてただろ。本体に呼びかけてくれると助かるんだが」
空気を切り替えて交渉を持ち掛ける。一応、真面目にやらないと。
「ええ、勿論聞いておりましたわ。——そして、お返事は今この場で返します」
「……どういうことだ?」
仮に交渉に乗り気だとして、本体を通さないと話にならないはずだ。
分身体は分身体。肝心な
「愛さんが交渉してくることは『わたくし』も予想済みですの。そして今回、『わたくし』は交渉に応じないと決めておりますわ」
「なんだって⁉」
狂三は僕の交渉を予想していた?そして、先回りして分身体に返事を預けた?
しかも拒否?一体何がどうなっている?
「取引の材料はいくらでもあるぞ。何が欲しい?情報ならいくらでも——」
「愛さん、そういう話ではございませんわ。愛さんがどのような品を提供しようと交渉のテーブルに就かない。そう申しておりますの」
僕の言葉を切って断言する。交渉を蹴ると。
「わかってるのか、狂三?蓮は今までの精霊とは違う。
お前も含めて精霊を滅ぼそうとしている。お前よりよっぽど危険なやつなんだぞ!」
「それもわかっております。その上で『わたくし』は交渉しないと決めたのですわ」
「そんな……」
狂三は僕の言葉に一切動じない。本当に全部わかっているようだ。
「狂三、あんた今何を考えてるの?」
七罪は狂三の分身体を睨みつけながら問う。狂三の心の奥底に手を伸ばすように。
「何を、ですか。鋭いですわね、七罪さん」
狂三は七罪の追求を躱し、煙に巻く。狂三の考えが全く読めない。
「『わたくし』は過去と未来を見て動いております」
「過去と未来?」
言っている意味がわからない。
崇宮澪と狂三の過去のこと?でも、それとこの交渉に何の関係がある?
「ええ、直にわかるでしょう。これが最善だったと」
「待て、狂三!」
狂三は影の中に消えていく。
どうする、強引に
「愛さん、あなたはそのままではいけません。自分の力をものにしてくださいまし」
悩んでいる間に狂三は消えてしまった。
♦♦♦
Side 令音
珍しい相手からお誘いの連絡を貰った。二人きりでと念押しをされて。
「私と二人で話がしたいだなんて、どういう風の吹き回しかな、狂三?」
取り壊される予定の廃ビル屋上。狂三は月を見ていた。
「あらあら、知らない仲ではないでしょう?旧い付き合いではありませんか」
「何のことだろうか?意味がわからないな」
狂三は私に背を向けたまま話を続ける。
以前とはまるで別人だ。心の内が全く透けない。
「誘いに応じた時点で薄々気づいているのではありませんか?ねえ、澪さん」
ようやく顔を見せる狂三。その目は狼のように獰猛だった。
「……誤魔化しは無意味なようだね」
「理解が早くて助かります。あなたと無駄なやり取りなどしたくありませんもの」
狂三の顔から嫌悪が滲む。今にも弾丸を放ちそうなほどに。
「いつ気づいたんだい?」
「気づいたというのは少し違いますわね。教えられたのです」
「誰にだい?」
「未来の『わたくし』に」
狂三の返事は意外なものだ。しかし同時に納得もある。
「……なるほど、あのときの言葉は君に向けたものだったのか」
「ええ、『わたくし』は全てを見通していたのです」
今思えば会話をしていなかったのだろう。あれは一方的なメッセージ。
「そして、これから君がそうなると?」
「ええ、それが一番だと今なら思えますもの」
一番、か。そう思ってくれるのなら、託してもいいのかもしれないな。
「それで、君は私を殺しに来たのかな?」
「いいえ、だとしたら既に引き金を引いておりますわ」
「意外だね。君が『崇宮澪』を前にして平静でいられるだなんて」
「平静?そう見えるのですか?あなたには、今の私が」
「……失言だったね」
言葉の端々から嫌悪が溢れている。狂三の恨みは相当なものだ。
今会話が成立していること。それ自体が奇跡だと思えるほどに。
「あなたの死は最高の舞台で使い潰しますわ。それまで、あなたには生きてもらわないと困りますの」
「……そうか、遂に来たか」
驚きはない。死を受け入れている自分がいる。
「ふん、死ぬのがわかっていたような口ぶりですわね」
「そんな気はしていた。何より狂三、君がそう言ったんじゃないか」
覚悟はしていた。もうずいぶんと前から。
悲しみはない。——というのは流石に嘘になるな。
未練はある。この身は
「……精々、残されたわずかな時間を楽しむことです」
「相変わらず、君は優しいね」
どれだけ時間を重ねて老獪さをまとっても、心根の部分は変わらない。あの頃の女の子のままだ。
「あなたのためじゃありません。家族が、おられるのでしょう?」
狂三は何とも言えない表情をしていた。そうか、あの子たちのためか。
「……そうだね。忠告感謝するよ、狂三」
家族を残して逝くことになる。それはとても残酷なことだ。
残される苦しみは私が一番よく知っている。あの胸が引き裂かれたような痛みを味わわせたくはない。
だからこそ、残念だ。
「ごめんね、愛、折紙」
眼鏡のレンズが少し曇る。今年の冬は珍しく湿っていた。
狂三さんが大活躍。彼女は瞳は何を見つめているのか。
次章は最終決戦。書ききったら連続投稿するのでしばしお待ちください。
今回の裏話は狂三について。
彼女は一番大事な真実を知っています。
彼女がいなければこの物語は始まりません。
どう足掻いても結末だけは決まっていたのです。