気づけば前回の投稿から半年以上も経っていました……。
何故ここまで遅れたのかというと、仕事の納期が立て続けに前倒しになり長時間残業続きな上にGW返上で働かされたせいで前々から組んでいた友人との旅行もぽしゃんになり萎え散らかしてました。
それ以外にもかなりゴタゴタが続き、執筆どころじゃありませんでした。
今は少しは落ち着いて来ているのですが、それでも少しです。
まだまだ忙しくて満足に執筆に割ける時間が作れなくて今後も亀更新になりそうで、本当に申し訳ないです。
いつか完全に落ち着いたらこの溜まりに溜まったストレスを執筆活動にぶつけてやる!
と、理由はこんな感じです。
正直半年以上も離れていたせいでどう言う物語にしたかったのか、とかベルくんパパの設定とか忘れちゃったので(メモってたつもりがメモってなかった)また1から設定を練り直しながらになるので次も遅くなると思います。
その都合上、今回の話でもしかしたらおかしな点が出てくるかもしれませんが(一応確認しながら作ったので大丈夫……なはず、と思いたい)その時はそっと教えていただけると幸いです。
ただ個人的には10月に発売される続刊までには次話を投稿できればなと思っています……思っているだけですよ? 多分無理だと思いますが……頑張ってみます。
「ここがダンジョン……」
ベルの口から無意識に溢れた言葉は薄暗いダンジョンの闇に呑まれて消えていった。
そう。ベルが今立つこの地は地下迷宮ことダンジョン。
冒険者登録が完了し、屋台で空腹を満たした後にロキに見送られベルはやってきたのだ。
話には幾度と聞いていたダンジョン。
義母たちの教育を受けながらどんな場所かいつも想像を膨らませていた。
だが、想像以上に不気味で不快な空気が纏わりつくように肌を撫でてくる。
耳が痛いと感じるほど静寂に満ちており、まるで世界から孤立したかのような錯覚すら覚えた。
何より。
お前を絶対に殺す! と言わんばかりに殺気が四方から肌を刺してくる。
ここは既に敵地。
ダンジョンというモンスターの腹の中。
どんなに強い冒険者でも油断一つでダンジョンの殺意に沈む魔窟なのだ。
故に、無防備に立つベルをダンジョンは見逃さない。
ゴッ!
周囲から岩壁が砕ける音が連鎖した。
砕け落ちた壁の向こうには赤々とした瞳がこちらを射抜くように除いていた。
やがてモンスターは羽化した雛鳥のように岩壁を破り、そしてダンジョンに生まれ落ちた。
殺意に濡れた瞳をギラつかせ、侵略者を排除せんとダンジョンから遣わされた小鬼のモンスター。
名前を『ゴブリン』。
彼らはベルを囲むように生まれ落ちるとニタニタとこちらを見て嗤う。
きっと、駆け出しの冒険者がこの状況に陥っていたのならテンパってしまい袋叩きの末、悲惨な末路を辿っていただろう。
ゴブリンが動かないベルを見て嬲り殺そうと四方から飛びかかる。
その爪で、牙で、白く柔い肌を蹂躙しようと迫った次の瞬間には────全てが終わっていた。
宙に走る銀の軌跡。
ゴブリンたちには一閃しか見えなかっただろうが、振るわれた斬撃は都合20。
目にも止まらぬ速度でもって全てのゴブリンの四肢と首を切り飛ばしたのだ。
ゴブリンは自分の身に何が起きたのか理解する間もなく絶命した。
残ったのは魔石と、彼らの肉体だった灰のみ。
訪れる静寂の中、ベルは自分の体に視線を落としていた。
「ん〜、ランクアップのズレが相変わらず酷いや……」
器が昇華したことにより生じるズレはランクアップをしたことがある冒険者なら大なり小なり経験がある。
うっかりランクアップ前と同じ感覚で物を持てば壊してしまったり、全力で走ろうとしてコントロールが聞かず初動で躓いて転けてしまったり。
ベルの場合、ステイタスが全て限界を超えオールSSSという規格外での器の昇華となる。
だからランクアップ後に生まれるズレは他の冒険者と比べて酷い。
LV.2時の最速の動きを脳が覚えていてそれを再現しようと脳へ信号を送るも、昇華した新たな肉体はそれを受信できずイメージと実際の動きに大きな乖離を生み強烈な違和感に襲われる。
クラッチがうまく噛み合わず、空転を起こすのだ。
まるで自分の体ではないような感覚はベルにとって非常にストレスだった。
以前、LV.2に上がった時は義母とおじさんという絶対的強者によるチューニングが行われたため早期に解決することができた。
できるならベルもそうしたいところだが生憎今は階層制限が言い渡されておりこれ以上の敵は望めない。
(これは辛抱強く慣らして行くしかないね)
暫く付き合っていかなければならないストレスに億劫に思いながらも、ロキには感謝していた。
「モンスターは弱いけどダンジョンはすごく独特……。まずは慣れろってこういうことだったんですね、ロキ様」
ロキとの約束が無ければ間違いなく自分はもっと深くまで潜って────そしてダンジョンというモンスターの悪意に呑まれてしまっていた可能性があった。
ダンジョンでの油断は命取りだと義母から口酸っぱく言われたというのに僕というやつは──念願のダンジョンに知らぬ間に気が緩んでいたベルは強く反省し、襟元を正すように気持ちを切り替えた。
そしてベルはダンジョンの奥へと歩みを始めた。
ダンジョンを白き閃光が駆け抜ける。
目にも止まらぬ速さで駆けるベルは瞬く間にモンスターを蹂躙し、入って僅かの時間でロキと約束した5階層にたどり着いてしまった。
嗅覚が鋭い犬頭のコボルトは匂いを察知する前に抜ける閃光に首を落とされ、素早さとリーチの長い鋭い爪が特徴のウォーシャドウは自分が斬られたことにすら気づかず絶命する。
LV.3に至った冒険者が上層で無双するのは当然の話なのだが、しかしその様子は圧倒的の一言に尽きる。
きっと今のベルを見てLV.3であると見抜けるものは少ないだろう。
他所から見れば第一級冒険者が暴れているようにしか見えないほどだ。
だが、それ程の力を持って尚、一通り戦ったベルは不満気に一言こぼした。
「遅すぎる」
大量に落ちている魔石を拾いながら1階層から5階層に到達したベルは自身の状態をそう結論づける。
「LV.2の時の方が遥かに速かったや」
それこそ5階層到達時間を倍以上縮められるほどに。
とは言え、出来ないものは仕方がない。
故に少しでもズレを直すためにベルはひたすらにモンスターを狩り続けた。
生まれた瞬間に殺され、たまに壁から頭を出した刹那に首を斬り落とされたため魔石が回収できないモンスターの姿もあり、いっそモンスターに同情が湧くまであった。
だが、そのおかげで持ってきていた大きめの皮袋の中は魔石とドロップアイテムでパンパンである。
大した重さではないが高速で動き回るには邪魔なそれに視線を落としつつ、今日は切り上げようと決めた。
「僕がダンジョンに入ってどのくらいたっただろう」
途中から無心で狩り続けていたため時間の把握を怠ってしまっていた。
ここも反省しなくちゃと内心で思いながら地上に向けて踵を返したところでドシンッ! と重たい足音を鋭く尖った耳が捉えた。
足音は段々とこちらに近づいており、揺れも増していく。
ベルは振り返り、足音のする方へ視線を向ける。
すると闇からぬっと姿を見せたのは上層にいるはずのない凶悪なモンスターだった。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』
「……ミノタウロス? こんな上層で?」
ミノタウロスといえば中層、15階層あたりから出現する牛頭人身のモンスターだ。
全身の発展した筋肉を活かしたパワー系で、耐久力もありLV.1の冒険者が出逢えば生きて帰れないと言われる死の象徴の一体だ。
そのミノタウロスがどうして上層に?
ベルの疑問に答える者などいるはずもなく、代わりにミノタウロスが咆哮でもって応えた。
強制停止を起こす
しかしそれが通用するのはLV.1くらいのものだ。
ベルはすでに3。それにミノタウロスよりも遥に恐ろしい存在に立ち向かい続けてきたベルからすればこの程度の咆哮は微風にも等しい。
涼しい表情で佇むベルは、今日の仕上げに丁度いいモンスターだと静かに口角を持ち上げた。
「どうしてミノタウロスがこんなところにいるのか知らないけど、運がなかったね。よりにもよって上層で出会ったのが僕だなんて……ねっ!」
ミノタウロスの腕力に物を言わせた一撃を剣の腹で受け止めたベルは微動だにしない。
いかに体格さがあろうとLV.3のステイタスは筋骨隆々なミノタウロスの膂力を軽く凌駕している。
ぴくりとも動かない自身の拳にミノタウロスの眼光が揺らぐのを見た。
ここにきて彼我の差を感じとったのだろう。
ミノタウロスにとって弱者の巣窟と嗤っていたのも一瞬。
煌めく銀線が幾つもの軌道を描き、その巨体に奔る。
その頃にはベルは既にミノタウロスの背後にいて、全てを終わらせていた。
『────────────────────────────』
断末魔を上げる間もなく、ミノタウロスは灰となって絶命した。
灰となった場所には大きめの魔石がゴトっと落ちていた。
それを拾い上げたベルはダンジョンを後にしたのだった。
「……白い、エルフ? すごい。今の動き、見えなかった」
外に出るとすでに空はオレンジ色に燃えていた。
ベル以外にも多くの冒険者が探索を切り上げギルドに続く道を歩いている。
彼らも今日の収穫分をギルドにて換金しにいくのだろう。
ベルも彼らに続きギルドへ向かおうとしたが……ここで2つほど問題が起きた。
1つはパンパンに詰められた皮袋が破れそうになっていること。
2つ目は問題というよりベルがどうしても気になること。
ダンジョンに入る前にも感じた覗き込まれるような視線。初めは気のせいだと思ってダンジョンに入ったのだが、出た今も感じるということは気のせいではないようだ。
頭上から感じる視線が気になって上、バベルの摩天楼を見上げようとするが皮袋から嫌な音が鳴ってそれどころではないと手元に視線を落とした。
「あちゃ〜。詰め込みすぎちゃって今にも破れそう……。ギルドに持っていくにしても本拠に帰るにしてもそれまで袋がもつかな?」
そんなベルの疑問に袋自身が身をもって答えてくれる。
──ミシミシと嫌な音で。
これはもう無理だなと、ぶちまける覚悟をした時だった。
「こちらをお使いください、高貴な御方」
スッと横から皮袋が差し出された。
「えっと……ありがとうございます」
突然のことで戸惑ったが、もう数秒も持たないであろう自身の現状にありがたく皮袋を受け取るとすぐさま入れる。
ちょうどそのタイミングでブチっと袋の中で限界を迎えた音が聞こえた。
間一髪だ。
ベルは胸を撫で下ろし息を吐く。
「よかったぁ〜、と、袋、ありがとうござい……あれ?」
助けてくれた人に感謝を口にしようとしたが、隣には誰もいなかった。
周囲を見回してみてもそれらしき人物は見つからず、ただ他の冒険者たちがベルを見ながら素通りしていくだけ。
勘違い……なわけがない。手元にある袋がそれを証明している。
ベルは袋を見つめ、最後にもう一度周囲を確認した。
「やっぱりいない……。お礼も言えてないし、袋も返さないといけないのに」
だがここにいてもおそらく見つからないだろうと判断したベルはひとまず換金に向かうことにした。
「この袋は大切に持っておいて、いつでも返せるようにしておこう。声は覚えたから聞けばわかると思うし」
耳に残るのは清廉でありながら深みのある男性の声。
更にベルを『高貴な御方』と呼んだのであれば相手はエルフだろう。
ともなれば探すのにそう時間はかからないかもしれない。
とりあえず今は見も知らぬ親切なエルフに感謝しつつ、ギルドへ向かうのだった。
換金が終わった後、ベルはエイナの元へ足を運んでいた。
無事に戻ったという報告と上層で出会ったミノタウロスについて伝えるためだ。
忙しそうに他の冒険者の相手をしている彼女を少し離れた位置で眺めていると目が合った。
慌ててこちらに向かって来ようしたが、今相手をしている冒険者とベルを見て明らかに葛藤していた。
ベルを優先すべきか、目の前の冒険者を優先するべきか、と。
ベルが慌てて「待ってますから!」と身振り手振りで伝えると申し訳なさそうに一礼が返ってくる。
その後、手を奥にある待ち合いの椅子に向けて、座ってくださいとジェスチャーが送られ、ベルはちょこんと座りエイナを待った。
少しして、エイナが息を切らしてやってきた。
「お、お待たせいたしましたっ、はぁっ、く、クラネル様!」
「いえ、僕の方こそ忙しい時間にごめんなさい」
「とんでもないです! ダンジョンから戻ってきたら一度顔を見せて欲しいとお願いしたのは私の方ですからっ」
緊張気味に声を上擦らせながら全面的に自分が悪いと主張するエイナに、ベルは寂しさを感じた。
だがそれを表には出さないように気をつける。
でなければエイナが困ってしまうから。
(まだ今日会ったばかりだし……これからだよね? エイナさんと仲良くなれるように頑張ろう!)
決意を新たにしたベルが顔を上げるとエイナとバッチリ目が合う。
バッと、エイナが目を逸らそうとしてーー踏み止まった。
誤魔化すように笑う彼女に、ベルもつられて笑う。
なんとも言えない空気が漂い始める中、先に口を開いたのはベルだ。
「えと……戻りました!」
「は、はいっ、おかえりなさい! ご無事で何よりです!」
『………………』
再び沈黙。
お互い見つめ合ったまま固まる。
ロキがこの場のいたらお見合いかいな! と腹を抱えて笑い転げていたことだろう。
揶揄われるのは嫌だが、それでも今この時ばかりはいて欲しいと切に思った。
「えっと……あのっ、どうでしたか? 初めてのダンジョンは。怪我とかございませんか?」
「大丈夫です! この通り無傷でピンピンしてますっ。……あっ、でも1つ気になることがあったんですけど──ミノタウロスって5階層に上がってくることあるんですか?」
ベルがそう口にした瞬間。
彼女は驚きに目を見開いた後、直ぐに受付嬢としての顔になった。
それだけでベルが遭遇したミノタウロスがイレギュラーだったことを悟る。
エイナがスーツの胸ポケットから紙とペンを取り出すと、真剣な眼差しでベルを見た。
「詳しくお教え願えますか? すぐにでも冒険者たちに警告を────」
そこまで発せられたエイナの声は、突然の来訪者によって遮られることになる。
「その必要はないよ。上層へ上がったミノタウロスは1体を除いて僕たちのファミリアが全て討伐したからね」
『っ⁉︎』
ベルとエイナが肩を揺らす中。
2人の側にきた小人族の青年はベルを見てなるほど、と1人頷いていた。
「白い長髪に翡翠の瞳。そしてエルフ…………、アイズとロキから聞いた特徴と一致している。君が、ベル・クラネルだね」
「あ……え、と……っ」
急な乱入に加え初対面で名前まで言い当てられ戸惑いを隠せないベルはうまく言葉出てこなかった。
しかし彼の言葉の中に主神の名があったことに気づいたベルは彼を改めて認識した。
小人族特有の小さな体躯。
柔い黄金色の髪に湖面のような碧眼。親しみやすい柔和な表情でベルを見ていた。
「…………ぶ、【勇者】……!」
ポカンとするベルの隣でエイナが喉を震わせる。
「やあ」とエイナに挨拶する小人族の青年は一歩こちらに踏み込んでくるとベルの正面に立った。
「初めましてだね。僕はフィン。フィン・ディムナ。【ロキ・ファミリア】の団長を務めていると言えば君には分かりやすいかな。これからよろしく頼む、ベル」
次回はフィンが訪れるまでの【ロキ・ファミリア】の視点のお話になる予定です。
遠征組との顔合わせまでもう少し!
沢山の感想、評価ありがとうございます。
そのおかげでモチベも首の皮一枚つながり続けたまま、またこうして戻ってこれたと思います。
重ね重ねになりますが本当にありがとうございます