【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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4:A whole new world

 扉を開けた先には――俺が生きた世界が広がっていた。

 

 全力で生きて、全力で戦って。

 傷つき迷いながら、駆け抜けた世界。

 残酷でありながらも、見るもの全てが色鮮やかに感じた――俺が愛した世界だ。

 

 記憶が蘇る。

 仲間たちとの大切な記憶だ。

 そして、俺にとってかけがえの存在との時間を。

 

 もう二度と戻って来る事は無いのに。

 今も俺の目には、彼女と俺の姿がハッキリと見えていた。

 

 想い出の中の俺たちは幸せそうで……俺は小さく笑う。

 

 少しだけ変わっている気もした。

 小さな変化であり、良く見なければ気づかないもの。

 でも、この世界は間違いなく俺が生きたあの世界だった。

 懐かしさを覚えながら、俺は辺りを見た。

 

 石造りの街並みに、露店が賑わっていた。

 人々の顔には笑顔があって、子供たちは元気に走り回っていた。

 小さな幸福が至る所にある。誰も戦争に怯えていない。

 俺はその光景を目に焼き付けながら――ある一点で目が留まった。

 

 

 

 足が、止まる。

 

 ゆっくりと目を開いて行って。

 

 俺はそれを――彼女を見つけた。

 

 

 

 通りの向こうから歩いてくる女性。

 キッチンカーの店主からホットサンドを受け取って。

 それを美味しそうに食べる女性。

 

 俺は彼女を知っている。

 彼女の事をハッキリと憶えている。

 

 見間違える筈がない。

 彼女の髪型も、髪色も。

 その瞳の美しさも、彼女の仕草も――全部、全部、憶えている。

 

 会いたかった。

 ずっとずっと会いたかった。

 一度は望まない別れをしてしまった。

 本当はもっともっと一緒にいたかったのに。

 彼女は命を落として、俺は陽が沈み昇るまでずっと泣いていた。

 

 永遠のように感じる苦しみを。

 声が枯れるまで泣いた事を。

 彼女を失った絶望を、俺は記憶している。

 

 もう会えないのではないかと思っていた。

 もう二度と彼女の声を聞けないと思っていた。

 

 

 

 奇跡が起きて彼女たちの魂に救われて――俺は約束した。

 

 また会おう、と……彼女が近づいてくる。

 

 

 

 ゆっくりとした足取りで俺の前に来る。

 

 嬉しさと悲しさと。緊張が俺を襲って、心臓が高鳴った。

 

 俺は片手を上げて震える声で彼女に声を掛けた。

 

 精一杯の笑顔を。精一杯の言葉を振り絞って。

 

 両目から涙を流しながら、世界で一番愛しい人に――彼女は俺の体をすり抜けていった。

 

 

 

 ……っ……分かっていた……分かっていたさ。

 

 

 

 苦しい。息が出来ないほどに苦しくて。

 俺は何も感じないのに、何も無いのに。

 唇を噛みしめながら、ゆっくりと手を下ろした。

 

 現実は非情だ。

 愛しい人が生きていて。

 すぐ近くにいるのに、彼女は俺の事が見えていない。

 

 いや、姿が見えていないだけじゃない――俺の事を認識できていないのだ。

 

 彼女の心には俺なんて存在しない。

 彼女は俺を忘れていて、俺は何処にもいないのだ。

 この世界で戦った記憶も、彼女と一緒に繰り広げた冒険も。

 

 何一つとして存在しない……俺はただの、無だ……っ。

 

 ふらふらと体を揺らす。

 そうして、ゆっくりと建物の壁に体を預けて座り込む。

 やっぱり駄目だった。奇跡を信じて進んでも、俺の望む結末は訪れなかった。

 

 俺は存在しない涙を流す。

 俺には見えているのに、誰にも分からない。

 俺がどんなに辛くても、どんなに悲しんでも誰も気づかない。

 

 こんな俺を彼女が見れば、どんな顔をしたか。

 いや、知っている。彼女には何度も情けない姿を見せてしまっていた。

 その度に、彼女は俺に勇気をくれた。

 足を止めて進めなくなった俺を必ず見つけてくれて。

 彼女は綺麗な笑みを浮かべながら、俺の心を温めてくれる。

 

 

 好きだ……ずっとずっと、好きだ……世界で一番、誰よりも彼女を……愛している。

 

 

 世界中の人間から恨まれても。

 全員が俺を憎み人類の敵になったとしても――彼女がいてくれるのならそれで十分だった。

 

 

 でも、もうダメだ……彼女は俺の事が見えていないのだ。

 

 

 体に力が入らない。

 足が動かなかなくなって立ち上がる事すら出来ない。

 俺はただただ心を空っぽにして項垂れて――声が聞こえる。

 

 

 頭の中に直接響くような声で。

 ゆっくりと頭を上げて周りを見ても誰もいない。

 道を歩く人間たちは何も聞こえていないように動いている。

 

 

 これは何だ。これは一体――

 

 

 

《諦めないで。信じなさい》

 

 

 

 ――ツバキ?

 

 

 

《貴方が愛した女性は、どんなに遠くへ行っても貴方を探し続けていたんじゃないの?》

 

 

 

 ――そうだ。彼女は、ゴウリキマルさんは、俺を信じてくれた。

 

 

 

《行って。止まっている時間なんて無い。追いかけるの。見えなくても、聞こえなくても――想いを伝えなさい!》

 

 

 

 ツバキの叫び。母の言葉。

 それが心に響いて、再び立ち上がる勇気をくれる。

 彼女は俺が見えていない筈なのに。

 俺が止まって動けなくなることを理解していた。

 未来予知では無いだろう。それでも、俺という存在を理解していなければ出来ない事だ。

 

 俺は足に力を込める。

 そうして、体を揺らしながらも立ち上がった。

 存在しない涙を拭って、視線を彼女が歩いて行った先に向ける。

 そうして、姿を見失った彼女を探しに行こうとした。

 

 人々の体をすり抜けながら。

 俺は周りを頻りに見る。

 彼女の名前を叫びながら、彼女の姿を探し続けた。

 

 

 探して、探して、探して――探し続けた。

 

 

 何処にいるんだ。何処に行ってしまったんだ。

 また姿を見せて欲しい。もう二度と君から目を逸らしたりしない。

 例え俺の事が分からなくてもいい。

 例え俺の声が聞こえなくてもいい。

 

 

 俺は君の傍にいたい――君の事を想い続けたい。

 

 

 彼女の名前を呼び続ける。

 本当の名前はまだ知らない。

 でも、君の口から絶対に聞いて見せる。

 

 

 

 絶対に。絶対だッ!

 それが君との約束で――俺の最後の願いだッ!

 

 

 

 雑踏の中をさ迷う。

 そうして、彼女を探して――何かが勢いよく駆けて行った。

 

 その姿は知っている。

 アレは彼女だ。ゴウリキマルさんだ。

 何処かへ向かって行く彼女。

 とても必死で何も見えてない。

 時折、人にぶつかりながらも彼女は駆けて行く。

 気を抜けば見失いそうになるほどの速さで駆けていく彼女を俺も追いかける。

 

 彼女だけを見ながら、必死に追いかけて走って行く。

 何処までも、何処までも追いかける。

 絶対に諦めない。絶対に独りにはしない。

 

 

 

 今度は俺が――君を追いかける番だッ!

 

 

 

 §§§

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……待って、いろよ……絶対に、絶対に……お前に、会いに……っ!」

 

 彼女はずっと走り続けた。

 息を切らしながらも、途中でコケて土に塗れながらも。

 必死に、真剣な顔で。一生懸命に走り続けた。

 

 彼女の傷が増える度に。

 彼女が辛そうな顔をする度に。

 俺は心臓の部分をキュッとさせて、彼女に手を伸ばした。

 

 絶対に触れられない。絶対に聞こえないのに。

 俺は彼女に声を掛け続けながら、彼女の身を案じ続けた。

 もういい、もういいから。これ以上は、もう……彼女は笑う。

 

 不敵な笑みであり、その瞳の奥には強い光が灯っていた。

 その光を俺は知っている。

 前へと進む人間の宿す光で、絶対に諦めない人間の輝きだ。

 

「まだ、まだッ!!」

 

 彼女は土を掴みながら、勢いよく立ち上がる。

 そうして、険しい山道を登って行った。

 何処を目指している。誰に会いに行くんだ。

 この先には誰もいない。この山の頂上には何も無い。

 

 

 

 憶えている。知っているさ。

 この山は、俺の記憶が正しければ――彼女と最期に言葉を交わした場所だ。

 

 

 

 この山の頂上で、俺は彼女の最期の言葉を聞いた。

 あの世界では近くに村も街も無かったのに。

 この世界では、こんなにもすぐ近くに街がある。

 もしも、あの世界にも近くに街があれば……いや、結果は変わらなかっただろう。

 

 冷たくなっていく彼女の体温を感じながら。

 何も出来ないままに、己の無力さを痛感して。

 俺は苦しむ彼女を涙で滲んだ目で見つめて……そのまま死なせてしまった。

 

 

 

 俺が最も大きな罪を犯した場所で――絶望の頂きに繋がっている。

 

 

 

 何故、彼女はこの山を登るのか。

 何故、彼女は上へと向かうのか――何かが滑り落ちる。

 

 彼女の手から滑り落ちたそれがばさりと広がる。

 彼女は上しか見ておらず気づいていない。

 俺はゆっくりと落ちた本に近づいて――っ!

 

 

 

 それは絵本だった。

 

 タイトルも何も見えない。

 

 一枚のページだけが見えているだけで。

 

 そこのページには――俺と彼女が映っていた。

 

 

 

 山の頂で死んだ彼女。

 動かなくなった彼女を抱えながら、泣き続ける俺。

 俺は驚きながら目を瞬かせて……あれ?

 

 違う。そこには俺たちはいない。

 ドレスを着た少女と機械のイラストが描かれているだけだ。

 見間違ったのか。いや、違う。

 確かに俺の目には一瞬だけ、俺たちの姿が映っていた。

 

 

 ……そうか……彼女はこれを見て……それは、もしかして……っ!

 

 

 俺は彼女に視線を戻す。

 そうして、彼女を追いかけた。

 

 まさか、そんな。

 あり得ない。あり得ないけど――そうだと思いたい。

 

 彼女は俺の事を覚えている。

 彼女は俺との旅を記憶していた。

 だからこそ、あの絵本を見て此処まで走って来た。

 

 誰も目に映っていない。

 誰の声も聞こえていない。

 

 彼女の目には記憶の中の俺しか映っていない。

 彼女の心で生きている俺の言葉しか聞こえてない。

 

 そうなのか――そうなんだろう。

 

 まだ希望はある。

 まだ諦めるには早い。

 

 彼女の目的が分かった。

 彼女が何を目指しているのかも分かった。

 

 

 もう止めはしない――共に行こう。

 

 

 どんなに険しくても、どんなに辛くても。

 今までだって乗り越えて来た。

 どんなに遠く離れていても、お互いに想い合ってきた。

 

 俺は彼女の背に手を添える。

 そうして、彼女に声を掛け続けながら。

 共に長い道を歩いて行った。

 

 日は徐々に暗くなっていく中で。

 誰もいない山道を二人で昇って行く。

 彼女の荒い呼吸音が静かに響いて。

 俺の声は彼女の心にだけ響いてる。

 

 聞こえなくたって、想いを伝える事は出来るんだ!

 

 例え一方通行でも、俺の勘違いでもいい。

 俺はずっとずっと彼女の隣に立つ。

 そうして、互いに一歩ずつ山を登って行った――

 

 

 §§§

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……此処が……時間を、掛け、過ぎ、たな……はは」

 

 彼女と俺は二人で頂上まで辿り着いた。

 彼女は息を大きく乱している。

 服は汗で濡れていて、髪からも汗が垂れていた。

 彼女は水を飲むことも、休憩する事もせずに此処までやって来た。

 

 彼女は体をふらふらと揺らしながらも。

 頂上の先頭に立つ。

 辺りは暗闇に包まれていて、既に人々は眠りについている頃だろう。

 

 どれだけの時間を掛けたかは分からない。

 でも、彼女の強い想いが此処まで導いてくれたのだろう。

 俺は彼女と共に山の頂から景色を眺める。

 

 薄っすらと暗くなった空。

 星々が輝いていて、向こうの山が見えている。

 綺麗な紅葉が見えるが、暗いせいで色彩は分かりにくかった。

 此処よりも背の低い山で……あぁ、同じだ。

 

 彼女との辛い別れを思い出す。

 彼女は生きていて、隣に立っているのにだ。

 

 ゆっくりと俺は彼女に視線を向ける。

 白い吐息を零しながら、彼女は真っすぐに目の前の景色を見ていた。

 彼女は美しい夜空を静かに見ている……やっぱり見えていないよな。

 

 こんなにもすぐ近くにいるのに。

 手を伸ばせば触れられる距離にいるのに。

 彼女との距離は縮まっていない。

 お互いに別の世界で生きている様に――何も感じられなかった。

 

 俺は小さく笑う。

 大丈夫だ。今はこれでいい。

 

 彼女は俺の事を覚えていてくれた。

 今は、その事実だけで十分だ。

 

 

 ……また、会いに行くよ。

 

 

 俺は彼女に言葉を送る。

 そうして、夜空を見ている彼女を邪魔しないように。

 そっとその場から離れていった。

 

 足音が響く事も無い。

 俺の息遣いが聞こえる事も無い。

 俺は一歩ずつ足を動かして――――え?

 

 胸の辺りが熱い。

 何かが光を発していて。

 俺はゆっくりと胸に手を置いた。

 首に何かが掛っている。

 俺はそれを取り出して、目の前に掲げて……これは、ゴウリキマルさんの?

 

 彼女の形見が光を発している。

 決して強い光ではなく。

 蝋燭の火のような弱弱しい光だ。

 

 でも、とても温かい。

 まるで、彼女の掌の様で――――

 

 

 

「――マサ、ムネ?」

『――っ!!』

 

 

 

 彼女の声が、聞こえた。

 

 ハッキリと俺の名を呼んだ。

 

 そんな事は無い。絶対にあり得ない……でも、でも……っ。

 

 怖かった。振り返るのが死ぬほど怖かった。

 

 俺の気のせいで、彼女は何も変わっていないんじゃないかって……でも、俺は……。

 

 ゆっくりと振り返る。すると、そこには――俺を見つめる彼女が立っていた。

 

 

 

『ゴウリキ、マルさん?』

「……そこに、いるんだな……お前なんだろう。マサムネ」

『俺が見えているんですか? 俺の声が!』

 

 俺は必死に彼女に呼びかける。

 しかし、俺の声にはまるで反応しない。

 

 見えている。俺が此処に立っていると認識できている。

 でも、俺の声は未だに届いていない。

 何故、何故なんだ……もしかして、これが?

 

 首から下げた彼女の形見。

 それが光を発していて、彼女への道しるべになっている。

 俺はそう考えながら、ゆっくりと彼女に視線を戻した。

 

 声が聞こえなくたって構わない。

 俺はゆっくりと彼女の元に戻って行く。

 一歩、一歩進んで――彼女の横に立つ。

 

 彼女はそんな俺を目で追って。

 目に涙を溜めながら、俺を見ていた。

 

 言いたいことは沢山ある。

 もう一度会えたのなら、時間も忘れるほどに話したかった。

 でも、彼女には俺の声は聞こえていない。

 どんなに話しかけても、彼女には何も届かないのだ。

 

 俺は彼女の目を見ながら、彼女に話しかけた。

 

『……ごめん。本当は一緒に話したかったけど……俺の声は、もう、君には届かないんだ』

「……いるんだったら。何か言えよ……黙ってたら……気まずいじゃねぇか、バカ」

 

 彼女は鼻を啜る。

 必死に鼻水を出さないようにしているが。

 彼女は今にも涙で顔をぐちゃぐちゃにしそうだった。

 俺はそんな彼女をくすりと笑いながら、ゆっくり頭を下げる。

 

『ごめんなさい。俺の所為でゴウリキマルさんは、命を落してしまった……俺の責任で。一生消える事の無い俺の罪です』

 

 ずっとずっと謝りたかった。

 ずっとずっと後悔していた。

 世界を恐怖に陥れた時よりも。

 他の仲間たちが死んでいった時よりも……強く後悔していた。

 

 俺の所為で、彼女は殺された。

 俺がもっと彼女を見ていれば、彼女を守ろうとしていれば。

 彼女は死なずに済んだかもしれない。

 弱い癖にいきがっていた俺は、世界で一番大切な人を死なせてしまった。

 

 俺が彼女を殺した事と同義だ。

 謝ったって絶対に許されない。

 彼女が許しても俺は自分を許す事が出来ない。

 

 呪いが解けないのも、きっと神様からの俺への罰なんだ。

 決して許されない罪と共に生きて行けと言う事なんだろう。

 神様なんていないのに、多分、そうなんじゃないかと思ってしまった。

 

 彼女は俺のことをジッと見つめている。

 彼女はどんな顔をしているのか。

 怒っているのか、悲しんでいるのか……ちょっとだけ怖いな。

 

 大切な人に嫌われたくない。

 世界で一番愛している人に見放されたくない。

 でも、彼女のそんな意思も俺は受けなければいけない。

 

 

 俺はゆっくりと顔を上げた。そして――彼女の温かな笑みを見ていた。

 

 

「……何をしているのか分かんねぇけど……お前の事だから。どうせ、私を死なせて申し訳ないなんて思ってんだろう……はぁ、言葉にしてやらねぇと分かんねぇのか。仕方ねぇ奴だな。全く」

『……ゴウリキマルさん?』

 

 

 彼女は腕を組んで頷く。

 そうして、ゆっくりと姿勢を正しながら俺を見つめて来た。

 

 

「私はお前を恨んだことは一度も無い。お前の事を心から――愛しているからな!」

『――っ!』

「あぁ、何度だって言ってやる! 好きだよ。好きなんだ! 死んだっていいくらいに愛してるんだよバカ野郎!!」

 

 

 彼女は頬を赤らめながら叫ぶ。

 静かな空間に彼女の叫びが響いて――俺の中からピキリという音が聞こえた。

 

 

「自分を責める事はやめろ! 勝手に私が恨んでるとか思い込むな! そんな事くらいで、私がお前を嫌いになるって?

 ははは――んなわけねぇだろバーカ!!!!」

『――ぅぅ』

 

 

 彼女は気持ちのいいほどに笑う。

 とても綺麗でとても素敵で――俺の心から連続して音が響く。

 

 

「最後に一つ言いたいことがある……どんな事をしていたとしても。どんなに周りから恨まれていたとしても……私はお前に、感謝しているんだよ……他の奴なんて気にするな。そんなのどーでもいいんだよ! 私はな。お前に。マサムネに……お前のお陰で、母さんは生きている。お前のお陰で、私は最高の人生を歩めた……全部、全部、ぜーんぶ――お前のお陰なんだぜ?」

『――っ!!!』

 

 

 彼女は優しい目を俺へと向ける。

 彼女の言葉には、砂粒程の嘘も無い。

 全てが本心で、全てに気持ちが籠っていた。

 それを受け取った俺は、彼女を見つめて――ゆっくりと彼女が動く。

 

 俺へと体を寄せてきて。

 掴めない筈の俺の体を包み込んできた。

 彼女の鼓動が聞こえて来る気がした。

 彼女の熱が伝わってくる気がした。

 

 

 

 彼女は静かに、それでいて気持ちを込めて――祝福を授けてくれた。

 

 

 

「ありがとう――お前は私の最高のヒーローだ」

『――ゴウリキマル、さんッ!!』

 

 

 

 彼女の想いが、彼女の言葉が心に響く。

 沢山、沢山泣いたはずだ。それでも両目に涙が溢れてきて。

 俺はポロポロと涙を流す。

 

 悲しんじゃない。辛いんじゃない――嬉しいんだ。

 

 嬉しくて、嬉しくて。

 止めようと思っても、勝手に流れていくんだ。

 己の心に溜まった汚れを落としていくように。

 俺の罪を消していくように、俺の心は――

 

 彼女の体に手を伸ばす。

 俺も彼女のように、必死になって彼女の体を抱きしめた。

 掴めなくても、感じられなくても……それでも!

 

 瞬間、俺に重くのしかかっていた何かが砕け散る。

 心を縛り付けていた何かが消えていく感覚。

 それを感じながら、俺は自分の体の変化に気づいた。

 

 体から光が発せられている。

 ペンダントが消えて、代わりに体が白い光に包まれて。

 何も見えなかった筈の体が、ゆっくりと形作られて行った。

 

 手足が見えて、彼女の体に触れられた。

 胴体が見えて、彼女の小さな頭が胸に触れる。

 頭が現れて、見上げて来た彼女と視線が合う。

 

 俺と彼女は暫く抱き合って、互いに目を丸くしながら見つめ合っていた。

 

「……えっと……その……た、ただいま?」

「……おかえり」

 

 彼女はゆっくりと俺の胸に顔を埋めた。

 そうして、胸の辺りが湿り気を帯びていった。

 俺は彼女の体を優しく抱きしながら笑った。

 

 呪いが解けた理由は分からない。

 神様の気まぐれか、奇跡が起きたのか……でも、何でもいいさ。

 

 彼女の熱を体全体で感じられる。

 彼女の声をもう一度聞くことが出来た。

 この温もりは嘘なんかじゃない。

 彼女は今、此処にいる。二人で生きた世界で、俺たちは存在している――光が、静かに昇っていく。

 

 

 山の向こうから、太陽が昇って来た。

 暗闇の世界を温かく照らして、白い光に満たされて行った。

 綺麗な山々の紅葉が色鮮やかに写って。

 俺は感嘆の息を思わず零してしまった。

 彼女それに気が付いてゆっくりと顔を上げてから、朝陽を見つめた。

 

 

 互いに何も言わない。

 いや、言わなくてもお互いの心は分かる。

 

 

「……やらなきゃいけない事が出来たな」

「……それは、一体……うぉ!」

 

 

 彼女は俺から離れる。

 そうして、俺の手をしっかりと握ってにしりと笑う。

 

「行くんだよ――皆の所へ!」

「行くって今からですか!? いや、憶えているかも分からないのに」

「憶えてるさ!! 忘れようと思ってもお前を忘れられる訳ねぇだろ。だってマサムネなんだからな!」

「えぇ!? それってどういう意味ですか!? 良い意味ですよね、ね!」

「……はは」

「何ですかその笑い!?」

 

 彼女は目を赤くしながらも笑っていた。

 沢山泣いて、一杯涙を流した。

 だったら次は、沢山笑って強く声を響かせる番なのか。

 

 俺もつられて笑う。

 もう俺の心に重しは無い。

 羽のように軽くて、何処までも飛んでいけそうだった。

 

 彼女は優しく手を引いて駆けだす。

 俺はそんな彼女を追いかけて――約束を思い出した。

 

「ゴウリキマルさん!」

「あぁ? 何だよ!」

 

 彼女は俺に顔を向けて立ち止まる。

 首を傾げている彼女を見ながら、俺は約束の報酬を貰おうとした。

 姿勢を正しながら、真剣な顔で彼女を見つめる。

 

 待っていた。この日が来るのをずっと待っていた。

 出会いは決してドラマのような美しい物では無かった。

 病室で彼女と約束を交わしてたから、俺たちの物語は始まって。

 こんなに長くて苦しい道が待っているなんて想像も出来なかっただろう……でも、俺たちは此処に立っている。

 

 

 どんなに長くても、どんなに険しくても――俺は笑った。

 

 

「名前、教えてください!」

「……ふふ、そうだったな……そういう約束だったからな」

 

 

 彼女はくすりと笑う。

 今、何を想っているのだろうか。

 昔の想い出を思い出しているのだろうか。

 彼女の真っすぐで優しい目を見つめる。

 そうして、俺の手をしっかりと彼女は握りながら目を見て来る。

 

 

 

 ゆっくりとその唇を動かして――大切なものを送ってくれた。

 

 

 

「私の名前は――――だ!」

 

 

 

 彼女の言葉を聞く。

 彼女の口からようやく聞くことが出来た名前。

 噛みしめるように、心に浸透させる様に俺はその言葉を記憶する。

 それを胸にしっかりと刻みながら、俺は心を幸せで満たしていった。

 

 

 

 これが、俺が目指した場所だ。

 

 これが、俺が望んでいた結末だ。

 

 俺が目指した――夢の果てだ。

 

 

 

 運命の頂で、俺は彼女を見つめる。

 長い長い旅を思い出しながら。

 今この瞬間を、記憶の一ページ目に飾る。

 

 俺がこの世界でしてきた事は全部消えてしまった。

 全てはあったかしれない可能性で……でも、いいんだ。

 

 再び会えた愛する人を見つめる。

 彼女は生きていて俺を見ていた。

 俺は彼女の手をギュッと握って走り出した。

 

 全部消えてしまったのなら、また作って行けばいい。

 仲間たちが俺を憶えていないのなら、思い出してくれるまで声を掛け続ければいい。

 そして、俺と彼女と。そして、この世界で生きている――仲間たちと新しい”想い出”を作って行こう!

 

 

  

 互いに見つめ合う。

 そして、満面の笑みで想いを重ねた。

 

 

 

「行きましょう! 一緒に!」

「あぁ、行こう! 一緒にな!」

 

 

 

 光に満ちた世界を駆けて行く。

 俺たちが愛して、全力で生きた世界の上を。

 何処までも何処までも世界は続いているのだろう。

 まだ見ぬ出会いや新しい発見が俺たちを待っている。

 俺たちは手に入れた。

 全力で駆け抜けた結果、望む結末を掴んだのだ。

 

 でも、これで終わりじゃない。

 

 彼女と俺の物語は続いていく。

 これは新しい世界での始まりで。

 俺たちは永遠に思えるような長い未来への道を歩いていくのだ。

 でも、怖くはない――俺の隣には、彼女がいるから。

 

 土を踏みしめる音を聞いて。

 手から伝わる彼女の熱を感じて。

 互いの息遣いを聞いて。

 

 俺たちは足を動かして進み続ける。

 今までも、これからもずっと一緒だ。

 絶対に離さない。絶対にもう失ったりはしない。

 俺は強く彼女の手を握る。すると、彼女は俺の手を握り返してきた。

 

 広い世界が俺たちを待っている。

 何処までも続いていく道を進むんだ。

 道が無くたって構わない。

 道なき道を進めばいい。

 

 だってそうだろ――俺たちは自由なんだから。







『限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?』 -fin-
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星ウサギの異世界迷宮探索 ~元社畜が、ウサ耳巨乳美少女の姿でVRMMOだった世界へ~(作者:健全なMTYK)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

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総合評価:722/評価:7.52/連載:48話/更新日時:2026年05月19日(火) 08:23 小説情報


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