全ての幸は箱の中   作:眠り狐のK

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「大人のカードを使う」ルート


16-B.『預言者』ビナー

「あれは一体……」

「少なくとも味方というわけではなさそうだね」

 

 アビドス対策委員会は目の前の存在に困惑していた。

 巨大な蛇型の機械、それから巻き起こされる砂嵐はカイザーの兵達を容易く飲み込んでいく。

 一見こちらに味方してくれているようにも見えるが、近くにいる人物を無差別に攻撃しているようにも見える。

 少なくとも、出現の際にカイザーもアビドスもまとめて吹き飛ばしたことからも後者側の可能性のほうが高いだろう。

 カイザーも少しの間は蛇型の機械と交戦していたが、カイザー理事ご自慢の改造されたゴリアテは既に唯のガラクタと化し、兵士も既に半数以上が砂に飲まれている。

 やがてカイザーは尻尾を巻いて逃げていく。

 しかし、蛇型の機械は撤退していくカイザーを追うことはしない。

 その顔は――アビドスへと向いた。

 

「……次は私達ってことだね」

「どうするのよ……私達だけで勝てるの?」

「勝てない相手だとしても、やるしかありません」

『そうですね……ホシノ先輩の居場所までもうあまり離れてない場所までは来ています。仮にここで撤退出来たとしても、恐らく身動きが取れないホシノ先輩が危険に晒されてしまう可能性もあります』

 

 アヤネの言う通りだった。

 目の前の敵は周りを無差別に攻撃する敵だ。

 ホシノの場所まではあと少し、ここでこいつを野放しにすればホシノの命が危ういかもしれない。

 ホシノを助けるまでは撤退は許されないのだ。

 そして、ホシノを先に助けに行くこともリスクとなる。

 何故なら、この敵を無視してホシノを助けに行くとなった場合に追いかけられてしまえば、ホシノの居場所にこの巨大な敵を連れて行くことになってしまう。

 その巨大な見た目から逃げるのは恐らく難しい。

 だからこそ、こいつをなんとかしなくてはいけない。

 

「……先生、シルを連れてホシノ先輩を助けに行って」

「シロコちゃん?」

 

 だからこそ、シロコは一つの決断をした。

 シルと先生をホシノ救出に向かわせ、残りで時間稼ぎをする、それが最善なのだと。

 

『……確かに、それが一番可能性が高いのかもしれません』

 

 アヤネもシロコの判断に頷いた。

 シロコは本能的に分かっていたのだ。

 /今のメンバーでこの相手を倒すことはできない/のだと。

 でも、ホシノが来れば少しでも可能性は上がる。

 どちらにせよ、ホシノさえ助けられれば倒さずに逃げたとしてもアビドスの勝利となる。

 だからこそ、敵わない相手を前に二手に分かれて片方は時間稼ぎ、片方は救出、それが目的達成の一番の可能性なのだ。

 そんなシロコの考えをアヤネも汲み取った。

 

「でも……」

「安心して、シル。先生の指揮がなくても時間稼ぎくらいやってみせる」

「シロコちゃんの言う通りです。私達はこんなところで倒れるわけにはいきませんから」

「だから、ちゃっちゃとホシノ先輩を連れ戻してきて!」

 

 既にシロコ、ノノミ、セリカ、アヤネは覚悟を決めた目をしていた。

 シロコ以外の皆も既に理解している。

 先生の指揮もホシノも無しでこいつ相手に戦うことが厳しいことなぞ。

 それでも皆が無事に帰れる可能性を選ぶ覚悟は既に整っていた。

 先生も、それが生徒の選んだことだからと引き受けるつもりでいる。

 

 あとはシルだけだ。

 

 シルは、今までアビドスに守られながら過ごしてきた。

 確かに、ホシノやシロコとの訓練を重ね、実戦も重ねて戦う力はつけてきている。

 それでも、シルにとって今までの環境は失敗しても仲間がカバーしてくれるという安心感の中での戦いばかり。

 今回は、自分が先生を守りながら進まないといけない。

 時間稼ぎする要因を減らせばそれだけ生存率が激減するのも理解している。

 失敗すれば大好きな人を失うことになる。

 

 

 

 

 

 ―――失敗することが、怖い

 

 

 

 

 

 瞬間、シルは頭を撫でられ、心に温もりが出来上がる。

 

「……先生?」

「大丈夫、僕に任せて」

 

 先生は懐から一枚のカードを取り出す。

 

 

 

 

 

 

―――大人のカード

 

 

 

 

 

 

 それは先生にとっての切り札であり、自らの命を削ることで奇跡を呼び寄せる代物。

 先生は、あの巨大な蛇型の機械を前に四人では厳しいと踏んでいた。

 アビドスの強さはよく知っている。

 それでも、相手は規格が違いすぎる。

 ホシノを助けるまでの時間稼ぎだけだとしても、相当な賭けになるだろう。

 だからこそ、少しでも全員が生き残れる可能性をあげるには、今ここでこの切り札を使うべきだと判断した。

 先生の手に持つ大人のカードが眩い光を放つ。

 

「っ……シルも!!」

 

 シルも皆を助けたい一心で大人のカードに触れる。

 何の意味もない行動かもしれない。

 それでも、みんなでまた笑いあえる未来の為に、覚悟を示した。

 瞬間、眩い光が紫色の光に変色する。

 空が不気味な雲に覆われ、荒れる砂漠に雷が鳴り響く。

 

「な、何!?」

 

 皆が困惑している中、雷は徐々に止んでいく。

 次の瞬間、アビドスと蛇型の機械を挟むように雷が砂漠に落ちる。

 

「きゃっ!!」

「っ……これは……?」

 

 巻き上がる砂塵に視界が埋め尽くされる。

 砂塵が収まり、砂で覆われた世界が鮮明になっていく。

 そこには、一人の人物が立っていた。

 風に揺れる長い銀髪に紅の瞳と紫の瞳のオッドアイ、背中には黒く大きな翼、そして紅く崩れかけたヘイロー、その容姿からは大人びた雰囲気、そしてなんともいえない不気味さが漂っていた。

 

「貴方は一体……」

「……第三の預言者、ビナーか」

「え……?」

 

 少女の呟きにアビドス対策委員会は警戒心と困惑の二つの感情に挟まれる。

 

「アビドスに……先生と……なるほど、大人のカードを使ったんだね。そして、今まで助けられたそれ(大人のカード)の力で今度は私が二人に恩返し出来る機会が出来たってことだね」

 

 アビドスの面々を見渡し、シルと先生を見た瞬間、安心したように表情を緩ませる。

 先生の切り札(大人のカード)に助けられた、そして恩返しという言葉から味方ではあるのだろう。

 しかし、誰も少女のことを知らない。

 少女が身に纏う制服を知らない。

 アビドスのものでも、ミレニアムのものでも、ゲヘナやトリニティのものでもない。

 シルと先生を除いたその場の全員の困惑の色が強くなる。

 

「一体、何者?」

「今は『復讐者・ネメシス』って呼ばれてる。大体ゲマトリアと白い服の人達のせいだけどね」

「ネメシス……」

「君も、僕の生徒なんだよね?」

「勿論、先生には色々助けてもらったんだ。……私が復讐者になっても、受け入れてくれた。あとは……えっと……シルだね、君も先生と一緒に受け入れてくれた一人なんだ」

「そうなの? ネメシスちゃん?」

「そうだよ、君は私が変わってもネリスちゃんって呼んでくれてたね」

「ネリスちゃん!」

 

 笑顔でその名を呼ぶシルにネメシスは笑みが溢れる。

 

「さて、色々話はしたいけど、余りのんびりしてる時間はないね」

「そうだね、任せてもいいかな、ネリス?」

「任せてよ、先生……それと我が親友」

「えへへ、しんゆー! 頑張ってね、ネリスちゃん!」

「うん、ありがとう」

 

 そして先生とシルはネメシスとアビドス対策委員会に後を託し、その場を後にした。

 

「あの子は変わらないな……ここでも」

 

 少し幼くなった気もするけど、と心の中で呟きながらネメシスは二人を見送る。

 

「味方……でいいのよね?」

「二人に頼まれたからね、仲間だよ。さて、じゃあやろっか」

 

 

 

 


 

「……どうして、こうなっちゃったんだろう」

 

 暗い部屋の中で、ホシノは一人後悔していた。

 両手足は縛られ、身動きは取れない。取ろうという気にもなれない。

 もう、ホシノはアビドスを退学してしまったのだから。

 

「……また、大人に裏切られた」

 

 思い浮かぶ黒服、カイザー理事の顔。

 ホシノはまた失敗を犯してしまった。

 借金の利子を引き上げられ、絶望的な状況。

 黒服の提案に乗れば、状況は好転…………まではしなくとも少しはマシになると思っていた。

 だからこそ、自分を犠牲にアビドスを守れる可能性を信じた。

 

 

 

 その結果がどうだ?

 

 

 

 ホシノがいなくなり、カイザー理事は強行手段としてアビドスを襲撃した。

 その理由はホシノがいなくなったことで正式な生徒会の人間が完全にいなくなったから。

 アビドスを守っていた生徒会が本当の意味でなくなってしまったからだ。

 ホシノの選択は事態を好転させるどころか、悪化させてしまったのだ。

 それらのことを、黒服から知らされた。

 残念なことに、襲撃の様子は途中までしか見てなく、この場所に幽閉されてからはなにも知らされていない。

 今頃、みんなどうしているだろうか?

 先生の指揮であの状況は乗り越えられたのだろうか?

 みんなまだ希望を持ってカイザーと戦ってくれているだろうか?

 

 

 

 ……それとも

 

 

 

 最悪の光景がホシノの頭に浮かび上がる。

 既に、その光景がホシノの頭から離れなくなっている。

 ふと、かつての先輩と過ごした日々を思い出す。

 かつて、自分とユメ先輩のたった二人でアビドスを守ろうと過ごしてきた日々を。

 ユメ先輩と喧嘩して、それからユメ先輩が疾走して―――独りでユメ先輩を探し続け、『ヘイローの壊れたユメ先輩』を見つけた日のことを。

 

 あれから、ホシノは独りでアビドスを守り続けた。

 そんな中で、ノノミにシロコにアヤネにセリカ、そしてシルと後輩が増えていった。

 いつだかホシノは心に、心の中で生きるユメ先輩に誓った。

 

 

 もう誰も失わないと。

 

 

 いつしかユメ先輩と話した、いつかホシノにも後輩が出来たら、皆を守れて頼りにされるような先輩に、皆と協力して共に進めるような先輩に、うへ〜って笑顔で皆と接することが出来るような先輩になって欲しいというユメ先輩の願い。

 そんな先輩になりますと誓い、今のホシノになった。

 

 

 

 

 でも、結局自分は誰も守れなかったんだ。

 

 

 

 

「……ごめん、みんな…………ごめんなさい、ユメ先輩」

 

 

 

 その瞬間、部屋の扉が爆発とともに吹き飛び、部屋に光が指す。

 

「シルは爆弾も使えたんだね」

「えへん! シロコ先輩に教えてもらったんだよ!」

 

 ホシノの目に映ったのは、もう目にすることのないと思っていた人物達だった。

 

「……先生……シルちゃん」

「迎えに来たよ、ホシノちゃん!」

 

 先生も優しくこくりと頷いて返す。

 シルはホシノを見て急いで拘束を解いていく。

 

「どうして……ここに……」

「僕が先生だから。そして、アビドスの皆がこれを選んだから、かな」

 

 先生の言葉にホシノは少しだけホッとした。

 まだ、アビドスは無事なんだと、その確認ができただけでも安心できる。

 

「黒服と話をつけてきた。ホシノの退学はまだ適応されていないよ」

「だから、一緒に帰ろ!」

 

 あぁ、やはり。先生は……先生だけは、信頼してもいい大人なんだと、ホシノはそう思った。

 拘束は解かれ、差し出されるシルの手をホシノは優しく取る。

 

「今、皆はホシノを助けるために戦ってくれてる」

「……そっか。うへ、それじゃ、帰る前に一仕事と行きますか〜」

「おー!」

 

 ホシノはシルから自らのショットガンと盾を受け取る。

 愛銃の整備は毎日欠かさずしている。

 動作には問題はない。

 すぐに準備を整え、立ち上がると通信が入って来た。

 

『先生、様子はどうですか?』

「こっちは無事ホシノを見つけたよ」

『それなら気をつけて戻ってきてください。こちらもネメシスさんのお陰でなんとかなりそうです』

「……ネメシス?」

「僕の切り札で呼び出した助っ人ってところかな」

「ふ〜ん? ま、どちらにせよ早めに戻ったほうがいいかもね~」

『私が近くで待機してますので、物資を補給していってください』

「あれ、アヤネちゃんも来てるの?」

『その、私もホシノ先輩が心配でしたから』

「うへへ、いい子の後輩を持てておじさんは嬉しいねぇ」

 

 そうして先生、ホシノ、シルの三人はアヤネと合流する為動き出した。

 

 

 

 


 

 元は静かだった砂漠に交戦の音が響く。

 ネメシスの協力もあり、時間稼ぎ……どころか、ビナー相手に優勢を取っていた。

 シロコやセリカ、ノノミの銃撃はビナーの装甲に多少の傷をつけるだけで対したダメージにはなっていない。

 しかし、ビナーの攻撃は的確にネメシスが防いでいた。

 ビナーから放たれるミサイルは全て撃ち落とし、その巨体から巻き起こされる砂嵐はその身を盾にアビドスを守っていた。

 そして何より――

 

「なんか……どんどん攻撃力上がってない?」

 

 セリカが抱いた違和感だった。

 最初はネメシスが使っている武器がハンドガンというのもあり、ダメージはほぼなかった。

 背中に背負っているライフルを使ったとしても恐らく多少ダメージは増えるだろうが、致命傷を与えるには難しいと思っていた。

 しかし、現状を見ればどうだろう?

 ネメシスのハンドガンから放たれる弾は確実にビナーの装甲を削り、ダメージを与えていた。

 

 これが、ネメシスが『復讐者』と呼ばれる理由であり、能力の一つだった。

 その能力の名前は『紅き右瞳の復讐者(ロッソ・ヴェンデッタ)』。

 ネメシス自身が傷を負えば負うほど、ネメシス自身の神秘が、攻撃が強くなる。

 ビナーの攻撃は確実にネメシスにダメージは与えている。

 だが、『復讐者』はその程度で止まらない。

 『復讐者』の能力はこれだけではない。

 

「な、あの動きはまた……!」

「私の後ろに」

 

 ビナーが再び砂嵐を巻き起こそうとその巨体を動かす。

 吹き荒れる砂嵐がネメシス、その後ろにいるアビドスを巻き込もうと襲いかかる。

 ネメシスはすかさず自らの翼を盾にするかのように前に出し言の葉を紡ぐ。

 

「『過ツ理 天ノ罪人(メガイラ)』」

 

 その言葉と共に翼の前に薄い膜が出来上がる。

 膜に触れた砂は一気にその勢いを落とし、その全てがネメシスの翼に触れる前にまるで羽のようにゆっくりと地面に落ちていく。

 これがネメシスのもう一つの能力『調律(アッコルダール)』。

 あらゆる力を調和し、無力化させる裁く者としての能力だ。

 

「それ、今は厄介だね」

 

 ネメシスの一番警戒しているのはビナーの巻き起こす砂嵐だった。

 ミサイルは撃ち落とせばいいが、こればかりは調律を使ってアビドスを守らなくてはいけない。

 キヴォトスの生徒だから耐えられるなんて考えは持ってはいけない。

 そもそも、今戦っているビナーは本来のビナーよりもかなり強化されている(・・・・・・・・・・)のだ。

 これは、元の世界で一度破壊しているネメシスだから言えることだった。

 今のビナーの攻撃はいくらキヴォトスの生徒が頑丈だとしても、運が悪ければ簡単に命の危機に瀕してしまう可能性が高い。

 特に、未だ見せていないビナー最高の一撃(アツィルトの光)はアビドスの生徒に向けさせるわけにはいかない。

 砂嵐により周りの視界が悪い中、ネメシスはマガジンに特殊弾を詰める。

 そして砂塵が薄くなっていく中、ビナーに銃を向け――

 

「『謳ウ正 過ツ罪人(アレクト)』」

 

 ――放つ。

 放たれた特殊弾は真っ直ぐとビナーに向かって飛び、そのままその装甲を傷つける。

 この特殊弾によって傷つけられたものは、記憶や思考能力に何かしらの影響を与える。

 今回与えた影響は認識の固定。

 今のビナーはネメシスを最大の敵だと認識している。

 つまり、アビドスには目もくれずネメシスを確実に倒す選択をするということだ。

 それ即ち、次にビナーが起こす行動は――

 

 ネメシスは咄嗟にアビドスから距離を取る。

 ビナーは大きく口を開け、ネメシスを追いかけるように口を向ける。

 そして、その口から放たれた眩い光がネメシスを飲み込んでいった。

 

「あっ!?」

「ネメシスさん!!」

 

 眩い光に目が眩み、ネメシスがどうなったのか、アビドスにはわからない。

 やがて光も砂塵も晴れ、視界が鮮明になっていく。

 

「くっ……」

「ちょ、大丈夫!?」

 

 視界が晴れた先に見えたのは、光をモロに受けボロボロとなったネメシスの姿だった。

 ボロボロなネメシスに三人が駆け寄る。

 ネメシスの強さは先程までの動きでアビドスもよくわかっていた。

 しかし、あの光を受けてここまで傷ついてしまえば、戦闘の継続は難しいのではないかと、そう思わざるを得られなかった。

 それもそのはず、ネメシスが前に戦ったビナーよりも強化されているということは、当然その技も強化されている。

 ビナーの放つアツィルトの光は本来とは比べ物にならない威力を誇っていた。

 

 だが、ネメシスが狙っていたのはこの状況だった。

 

「……これで終わらせる」

「え……?」

 

 その一言と共に、ネメシスは今まで一度も使わなかったライフルに手をかける。

 しゃがみ込んだまま、スコープに目を当て一直線にビナーの頭を目掛けて構えた。

 確かに、ビナーの攻撃によりネメシスはかなりのダメージを負ってしまった。

 しかし、そのダメージこそが復讐者にとって最高の一撃を繰り出す為の原料となる。

 

「『殺ノ者 誘ウ罪人(ティーシポネ)』」

 

 ネメシスの持つライフルから弾丸が放たれる。

 ネメシスの今までに受けた傷が、何倍にも膨れ上がった力としてその放たれた弾丸に込められている。

 

 

 

 

 これこそが、復讐者の最強の一撃。

 

 

 

 

 これこそが、復讐者を象徴する最高の一撃。

 

 

 

 

 放たれた弾丸は真っ直ぐにビナーの頭部を捉え、一筋の紫の光となって貫く。

 紫の光はビナーのその装甲を軽々と貫いただけでなく、厚い雲までもを貫いた。

 貫かれた雲からは青空が覗き込み、太陽の光がまるで天の光かのように砂漠を輝かせた。

 そして復讐者の一撃に貫かれたビナーも、太陽の光に照らされながらその姿を光の粒子としながら消していった。

 

「……すご……」

「あれが……ネメシスさんの力……」

「はぁ……はぁ……すぐに治るとはいえ、痛いのは好きじゃないね」

 

 ビナーをたった一発の銃弾で倒したその光景にアビドスも呆気にとられていた。

 

「あ……ネメシスさん、身体が……」

 

 気がついた頃には、ネメシスの身体も光の粒子となって消え始めていた。

 

「あらら、もう時間制限が来ちゃったみたいだね」

 

 ネメシスはこれが自分の役割を果たし、元の世界に帰る時間なのだと理解していた。

 これは、ネメシスが前の世界で大人のカードにより助けられたことがあることにより知っていることだった。

 

「大丈夫、私は元の世界に帰るだけだから」

「それが、先生の……大人のカードの力ってことだね」

 

 こくりと、ネメシスは頷いた。

 

「少しさみしくなっちゃいますね……ネメシスさんの世界のシルちゃんの話とかも聞いてみたかったのですが……」

「確かに……」

 

 シルに過去の記憶がないことはこの場の全員が理解していること。

 故に、目の前にその手掛かりがあるのにそれを手に出来ないことにもどかしさを感じてしまうことも無理はなかった。

 

「でも、ありがとうございました」

「ん、助かった」

「……ありがと」

 

 それでも、この言葉を伝えるべきだと皆が思った。

 たとえ大人のカードで呼び出されたからであっても、先生やシルのための行動であっても、ホシノを助けるために手を貸してくれたのだから。

 

「あはは……まさかあの世界で反転(テラー化)して復讐者として恐れられていた私がお礼を言われる日が来るなんて……。きっと、この壊れてない世界ではあの子に色んな試練が待ち受けているんだろうね」

 

 ネメシスは小さく微笑みながら天から指す光に目を向ける。

 きっと、元の世界ではもうこんな光景見ることは出来ないだろうから。

 

「もう時間がないね。出来ればあの二人にも挨拶をしたかったんだけど。……あの二人のこと、お願いね。先生と、『アトラ』のことを」

「アトラ……」

「それが、シルちゃんの……」

 

 

 

 

 

―――本当の名前

 

 

 

 

 

「最後に私も改めて自己紹介しておこっか。私の名前は改田ネリス。唯の、アトラの親友だよ」

 

 ネリスは満面の笑顔でアビドスに見送られ、光の粒子となって消えた。

 

「うへ、もう終わっちゃった感じ〜?」

「ホシノ先輩!?」

 

 ネリスが元の世界に帰り、暫くしてホシノと先生、アヤネとシルが合流した。

 皆が笑顔でホシノを迎え入れる。

 

「もう、どうしたの〜? もしかして、あの言葉を待ってる感じ?」

 

 少し間をおいて、ホシノは口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「おかえり、ホシノ先輩!!」」」

 




「復讐者ネメシス」改め「改田ネリス」について少しだけ

彼女の能力の一つである『調律』はテラー化した彼女の能力ではありません。
簡単に言えば、通常のテラー化での能力は『復讐者』のみとなります。
それでは、どうして『調律』の能力を持っているのでしょうか?
セイアの予知能力のようにテラー化する前から持ち合わせている能力というわけでもありません。
その理由は、ネリスのテラー化の要因が色彩とは別にあるからとなります。
原作では基本的に色彩に触れたことによりシロコやホシノが反転し、神秘の本質としての存在となり、力を得ていました。
ですが、ネリスの場合はネリスの願いを叶える為の方法がネリス自身の反転という結果として現れたのです。
つまり、『復讐者』がネリスの神秘の本質であり、『調律』はネリスの願いによって手に入れた能力というわけです。

ちなみに、ネリスが今後本編にがっつりと絡んでくることはないのですが、改田ネリスという存在はこの物語において重要人物だということは覚えておくといいかもしれません。

A「シルをアビドスに残す」
↓17話
https://syosetu.org/novel/360851/21.html

B「シルをシャーレに送る」
↓17話
https://syosetu.org/novel/360851/22.html

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