ヒロアカの世界に異物を一つ 作:きょうぞうちゃん推し
「いやぁ、君の活躍は聞いているよ。この前のデビュー戦。あれには驚きを隠せなかったよ」
「そうか」
今は使われていないバーの跡地。辛うじて電気が通るためにほのかに明るい室内で二人の男が対峙していた。片方は時崎狂三から独立するべく仲間集めに奔走中の志村転孤であり、方や裏の世界では知らない者はいない程の大物ブローカーである義爛である。義爛はまさに転孤が探していた仲間集めを効率的に行うためには必須の人物であった。
「で? 俺に接触してきたからには何かあるんだろ?」
「話が早くて助かるよ。何か必要な物はあるかい? 今後活躍するであろう君を顧客にしたくてね」
「簡単だ。裏で燻る奴等を集めろ。出来れば大物だ」
「ふむ、なるほどね」
義爛はその言葉から今後の彼の動きを予想した。彼は組織的ヴィランとしてこの世界に恐怖を振りまくらしいと。そうなれば彼に付き従う強力な仲間は必須だ。
「直ぐに声をかけられるのは数名程度いる。うち、失ってもいい人材が3名程だね」
「おいおい。顧客を殺されてもいいのかよ」
「構わないさ。君が本当に気に入るような奴は大半こちらとしても失いたくない者だ」
「そんな奴等見ても意味ないと思うが、まぁいい。紹介しろ」
紹介するのは気に入る可能性は低い連中だがすぐに紹介出来ると暗に言ってくる義爛に転孤は仕方なしと義爛に紹介するように言った。彼とてどのような奴か来るのか分からない以上見ておく方が良いだろうと判断したのだ。
「それじゃ近いうちに連絡させてもらうよ」
「悪いが通信機器は持っていない。時間と場所を指定し、そこに集合させろ」
「了解したよ。じゃぁ、時間と場所だけど……」
大物ブローカー、義爛との接触により転孤は効率的な仲間集めが可能となった。これにより転孤は急速的に仲間を集め、その力を増していくことになるのだった。
「ふっ! ふっ!」
志村転孤が仲間集めに奔走する中、彼が起こした事件で数少ない生存者となった緑谷出久は家の近くにある海浜公園にて筋トレを行っていた。彼が過ごした町は更地になり、立ち入り禁止区域となってしまったが彼が住んでいる地域は奇跡的に無事であり、現在も住み続けていた。
そんな彼の近所にある海浜公園は海流の影響でごみが溜まりやすい立地となっており、それを隠れ蓑に不法投棄をする者が後を絶たない場所であった。彼は筋トレも兼ねてこの不法投棄されたごみの片づけを行っていた。
「次! ぐっ!」
しかし、それはあくまで
彼は無造作に積まれたゴミの天辺より次々と跳躍していくが途中でごみ山が崩れ、彼は地面にたたきつけられた。
「まだだ……!」
体中に激痛が走るも出久は即座に立ち上がりごみ山を登っていく。その過程で
そんな事を幾度となく続けてきた彼の肉体は鍛えられ、クソナードと馬鹿にされていた姿はそこにはなかった。そこにあるのは幼馴染の死によって
「必ず! 必ず見つけ出す!」
ごみ山を一つ一つ上り、天辺にたどり着いた少年はそこから差し込む朝日を見ながら決意を思い浮かべる。しかし、その姿を見れば、誰もがその少年に絶句するだろう。
「許さない……!」
そこには黒く濁り切った瞳で憎悪を募らせた復讐者の姿があったのだから。
「ふっ!」
少年はそこから跳躍する。まるでバッタか兎か、人とは思えない動きで飛び続ける彼は幼馴染が個性で行った動きを自らの肉体だけで模倣して見せた。
「(なんでだよ! なんでかっちゃんなんだよ! かっちゃんが凄いんだ! 必ず、凄いヒーローになったはずなんだ!)」
「(かっちゃんならここはあえて着地しないで通り過ぎる! それで次の為に力を込めるはずだ! かっちゃんなら上半身は反らして着地と共に前に倒す! かっちゃんなら……!)」
途中、何度もごみ山が崩れ、体が地面にたたきつけられる。最初の頃はそれで大怪我を負う事もあったが今では独学で学んだ受け身を取ってダメージを最小限に抑えていた。それでいて復帰は素早く行っていく。そこに無駄な動きはなく、どうするかを悩み、立ち止まる様子はなかった。幾度と繰り返し、何度も経験して最適解の動きを導き出していた。
「っ! 跳躍は、これで! 終わり! つぎぃ!」
跳躍の訓練を終えた出久はすぐに移動し、ごみ山の中にある開けたスペースに出る。そこは格闘訓練の為に作ったスペースであり、外からは見えないように工夫されていた。
そこで彼は脳内でイメージを固めていく。相手は最後に見た幼馴染であり、こちらを殺さんばかりの表情で見ていた。
『クソデク! お前が! 死ねばよかったんだ!』
「っ!」
そして、そんな幼馴染からの憎悪が込められた言葉に出久は一瞬硬直するも即座に戦闘に入る。相手は
「ッ! っ! っ!!!!!」
『お前は! 俺を! 見捨てた!』
そして、息もつかせぬ連打に出久は倒れる。今日も幼馴染の前に敗れた彼はそこからくる幼馴染の罵倒を聞き続ける。実際に何度も言われた、言われたことがないに限らず、ありとあらゆる出久を非難する罵倒を浴びせていく。
『なんでお前だけ助かったんだよ』
『お前のせいだ』
『クソナードのくせに生きてんな』
『クソデクが死ねばよかったんだ』
『死ねよ』
『死んじまえ』
『生きている価値なんてないんだよ』
『死ね』
「ごめんなさい……! ごめん……! かっちゃん……!」
気づけば涙を流し、呼吸が乱れ始める。全身からは脂汗が噴き出し、胃が逆流する。
彼があの事件以降
故に彼は聞こえてくる幻聴に抵抗しない。ただ蹲って許しを請う。聞こえてこなくなるまで。
「……」
そして、凡そ一時間後に幻聴は収まり、出久はのろのろと立ち上がる。先ほどまで浮かんでいた復讐者の様相は無くなり、傷つき、今にも倒れそうな弱弱しい少年だけがそこにいた。
しかし、それに気づく者は誰一人としていなかった。
少年の、終わりのない罪の意識は延々と心を壊し続けるのだった。
サバイバーズ・ギルトをがっつり発症した出久君の未来は絶望的。ファイト!(投げやり)